説明

標的RNAを加水分解する方法および加水分解剤

【課題】標的とするRNAのハンマーヘッドリボザイムによる加水分解を増強する方法を提供する。
【解決手段】水溶液中のハンマーヘッドリボザイムに、―OR基を有する化合物(ここでRはアルキル基または水素原子をあらわす)、たとえば、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3ープロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも1つである化合物を共存させ、水溶液中の2価イオン濃度が100mM以下で、標的とするRNAを、たとえば37℃超の温度で加水分解する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンマーヘッドリボザイムによる標的RNAの加水分解方法に関し、特に加水分解活性の増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リボザイムの中ではハンマーヘッドリボザイムが、最も簡単な構造をもち、よく研究されている。
リボザイムはサイト特異的ホスホジエステル開裂を触媒し、その立体構造と活性は相互に関連している。リボザイムの活性は金属イオンによって促進される。金属イオンはリボザイムの活性状態を維持し、触媒化学において直接、役割を果たすこともできる。ハンマーヘッドリボザイムは最も小さいリボザイムの1つであり、簡単な構造をもち、研究されている。ハンマーヘッドリボザイムは保存されたヌクレオチドの活性中心を囲む3つの塩基対のステムを持つコア構造を形成する。ハンマーヘッドリボザイムは、中濃度の又は高濃度の2価の金属イオンの存在下で基質RNAの特定のサイトを効率的に開裂する。近年、天然のハンマーヘッドリボザイムのステムIとIIとのループ‐ループ相互作用が、反応を低いMg濃度でも可能にすることが報告された。そして低い2価のイオンの要求は生理学的イオン強度での活性に関連しているだろうと報告された。
ハンマーヘッドリボザイムは遺伝子発現の制御の例が挙げられるように細胞中で研究されてきた。
【0003】
【非特許文献1】Gesteland, R.F.; Cech, T.R.; Atkins, J.F. Eds., The RNA World 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999
【非特許文献2】Okumoto, Y.,; Tanabe, Y.; Sugimoto., N. Biochemistry 2003, 42, 2158-2165
【非特許文献3】Bevilacqua, P.C.; Brown, T.S.; Nakano, S.; Yajima, R. 2004, Biopolymers, 73, 90-109
【非特許文献4】Koculi, E., Lee, N. K., Thirumalai, D., and Woodson, S. A., J. Mol. Biol., 2004, 341, 27-36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、標的とするRNAの加水分解酵素反応を増強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下のいずれかを提供する。
(1)水溶液中のハンマーヘッドリボザイムに、―OR基を有する化合物(ここでRはアルキル基または水素原子をあらわす)を共存させて、標的とするRNAを加水分解する方法。
(2)水溶液中の2価イオン濃度が100mM以下である(1)に記載の方法。
(3)前記化合物が、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つである(1)または(2)の方法。
(4)前記加水分解が、37℃超の温度で行われる(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つの、ハンマーヘッドリボザイムによるインビトロでの標的RNAの加水分解増強剤。
(6)前記ポリエチレングリコールの分子量が、100〜20000である(5)に記載の加水分解増強剤。
(7)ハンマーヘッドリボザイムと、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つとを含有する、標的RNAの加水分解剤。
本発明はビトロ、またはビボで、ハンマーヘッドリボザイムに、特定の化合物を共存させて、標的とするRNAを加水分解する方法である。このような方法は天然の生体内で起こっている可能性があるが、本発明は、天然の状態を含むものではなく、ビトロ、またはビボで、ハンマーヘッドリボザイムに、人為的に非天然の状態で特定の化合物である溶質を共存させて、標的とするRNAを加水分解する方法である。本発明の「人為的に」とは、天然の状態に人為的に溶質を追加して存在させる場合も含む。
【発明の効果】
【0006】
標的とするRNAの加水分解を増強できる本発明の方法は、例えばRNAウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の増殖をビトロ、またはビボで抑制する際に有用な方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
ハンマーヘッドリボザイムは、低分子量のリボザイムであり、数個のステム(またはヘリックス)とループの組合せで構成される。ハンマーヘッドリボザイムは、本来、シス(分子内)で働き自己切断を触媒するが、触媒部位と基質とに分けたトランス(分子間で作用する)型の制限リボヌクレアーゼとしてデザインし用いることができる。ハンマーヘッドリボザイムはRNAを切断する酵素であるので、RNAウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などの増殖抑制剤としての利用が可能である。
【0009】
ハンマーヘッドリボザイムは、図1に示されるように、ステムI、ステムII、ステムIII、の3つのステムと、それらによって形成される保存されたコア配列からなる。トランス型では、約30塩基のハンマーヘッドリボザイムはアンチセンス鎖としてステムIとステムIIIを形成し、基質を認識する。ステムIIは、GAミスマッチ塩基対を形成する保存されたコア領域へと続き、G10.1、C11.1塩基対とともに、このGAミスマッチ領域には二価金属イオン結合部位があり活性発現に重要である。さらにウリジンターン(CUGA配列)によりステムIIとステムIとは近づき、ハンマーヘッドリボザイム基質複合体の三次元構造はγ字型をとる。
【0010】
本発明に用いるハンマーヘッドリボザイムは、化学合成が可能であり、所望の配列をデザインすることができる。
基質は、必須配列としてNUX(Nはすべての塩基、XはG以外の塩基)をもつRNAで20〜60塩基のアミノ酸配列であり、ハンマーヘッドリボザイムのステムIとステムIIIに対してアンチセンス鎖を形成できるものであればいずれでもよい。
【0011】
リボザイムと基質は、ステムの配列や長さには特に制限がない。具体例として、図1に示すステムIとIIとの間にループ‐ループ相互作用がない短縮リボザイム(truncated ribozyme)と、図2に示すループ‐ループ相互作用のためのヌクレオチドを持つ伸張リボザイム(extended ribozyme)が例示されるが、これらには限定されない。
【0012】
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などを基質としてハンマーヘッドリボザイムをデザインすれば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の増殖を効果的に抑制できる可能性があり、増強抑制剤として利用できる。
ハンマーヘッドリボザイムと基質とは、互いにセンスとアンチセンスの結合部位を持つRNAであり、それぞれ合成が可能であり、所望の配列をそれぞれデザインすることができる。tRNA連結リボザイムや、リン酸のチオ化RNAなどの、複合RNAや修飾RNAであってもよい。
【0013】
本発明の方法でハンマーヘッドリボザイムが標的RNAを加水分解する際に共存させる―OR基を有する化合物(ここでRはアルキル基,または水素原子をあらわす)は、限定されないが、中性の分子である。―アルコキシ基および・またはOH基を有し水溶性であり、炭化水素化合物であることが好ましい。なおRがアルキル基の場合は炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
具体的には、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール(ショ糖とエピクロルヒドリンの共重合物)、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンが例示される。
本発明の方法では、基質を共存させて、ハンマーヘッドリボザイムの標的RNAを加水分解する活性を増強させることができる。そのような溶質は、標的RNAの加水分解増強剤として有用である。
【0014】
また、所望のハンマーヘッドリボザイムと、上記の単独又は複数の溶質とを組み合わせれば、所望のハンマーヘッドリボザイムが加水分解する標的RNAのための加水分解剤として有用である。ハンマーヘッドリボザイムと、溶質との組み合わせは、それぞれ凍結乾燥して混合し組成物としてもよいが、別々の物質として使用時に組み合わせてもよい。
【0015】
以下に、本発明の方法を具体的に説明する。
<―OR基を有する化合物の共存による影響>
本発明の方法によれば、基質RNAの開裂の速度定数(k)は、―OR基を有する化合物である溶質を共存させると、希薄溶液で得られたものと比較して、PEG8000とPEG200が反応速度でそれぞれ6.6倍、3.6倍である。EG(エチレングリコール)、デキストラン、フィコールは、2.0〜2.8倍増加した。ポリエチレングリコールは、分子量が100〜20000のものが好ましく、200〜15000のものがより好ましい。
共存させる溶質の濃度は限定されないが、10質量%〜40質量%が好ましい。より好ましくは15質量%〜30質量%である。この理由は、濃度が低すぎると効果がなく、一方多くの溶質は高濃度になるとハンマーヘッドリボザイムと基質RNAの会合を妨げ、また、高分子量のPEG(ポリエチレングリコール)、デキストラン、フィコールが30質量%を超える溶液の調製が困難なためである。
【0016】
<2価のイオンの影響>
本発明者等の研究によれば、共存させる溶質はハンマーヘッドリボザイム活性を増強でき、有効な反応に対する2価のイオン濃度を減少し、高温でのハンマーヘッドリボザイム複合体の熱変性を防止する。これらの観測は共存させる溶質による活性構造の安定化と一致している。ヌクレオチドのホールデイングに対して溶質を存在させることによる熱安定性は、ヌクレオチドの立体構造、ヌクレオチドの長さ,塩の条件、水の活性、ヌクレオチドの溶媒和に影響される。
共存させる溶質の存在下で、2価のイオンの要求がより小さくなることは、生理的イオン強度でのハンマーヘッドリボザイム活性に関連していると考えられる。2価イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、マンガンなどが挙げられる。2価イオンの好ましい濃度としては、100mM以下、さらに好ましくは10mM以下である。
【0017】
<温度の影響>
加水分解温度は、限定されないが、10℃〜80℃、好ましくは室温〜60℃、より好ましくは37℃超の温度で行われる。ハンマーヘッドリボザイムは、37℃超で急激にその活性を低下させるが、反応溶液に溶質を共存させる本発明の方法を用いれば、温度が高くても高い酵素活性が維持される。したがって、本発明のハンマーヘッドリボザイムと溶質よりなる加水分解剤は、ハンマーヘッドリボザイム単独の加水分解剤に比べて、温度が高くても酵素活性を維持できる。
【0018】
<溶質の分子量の影響>
共存させる溶質の分子量が増加すると、ハンマーヘッドリボザイムの酵素活性が増加する。溶質がPEGの場合は、PEG8000とPEG20000の反応定数はほぼ同じで、分子量による酵素活性の増加は飽和値があるようである。
【0019】
<溶質のOH基の影響>
EG、およびEGと同様の化学構造のマクロ分子ポリオールである(8)グリセロール、(9)1,3-プロパンジオール、(10)2-メトキシエタノール、(11)1,2-ジメトキシエタンをさらに共存させる溶質として調べた結果、これらの溶質もハンマーヘッドリボザイムの加水分解反応速度を増強した。実施例で示すように、1,2-ジメトキシエタンは、PEG200及びマクロ分子ポリオールよりも大きい速度定数を示した。
これらの結果から、EGのOH基の変性、又は共存させる溶質のOH基の減少は活性の増強をもたらすことが示唆された。ハンマーヘッドリボザイム活性の有効な共存させる溶質は、大きなサイズのPEGと全溶質の質量に比べてOH基の質量がかなり小さい1,2-ジメトキシエタンであった。このことはハンマーヘッドリボザイム活性の減少に対して直接又は間接のOH基の役割を示唆している。
本発明者等は、これまでに、DNAの二重鎖の安定性に対しての共存させる溶質のOH基の影響を発表している。細胞中の媒体では、多数の小さな分子が共存する状態で、生体分子が全体積の20〜40%を占める。したがって希薄溶液では観測されない特性が、細胞環境の結果として遭遇でき、分子クラウディングと呼ばれる。本発明の方法におけるハンマーヘッドリボザイム酵素活性の増強は、共存させる溶質の化学構造に依存していて細胞中のハンマーヘッドリボザイム活性と同様にRNAホールデイングの安定性に見通しを与えるものであると考えられる。
【0020】
(実施例1)
用いられたハンマーヘッドリボザイムRNAと基質RNAの配列は図1に示した。
ステムIとIIとの間にループ‐ループ相互作用はなく、活性のために、中濃度の又は高濃度のMgイオンが要求される。ハンマーヘッドリボザイムRNAは基質RNAと会合し、続いて、基質RNAのC9,C10についてのホスホジエステル結合を開裂する活性構造をとる。
【0021】
<基質RNA開裂ハンマーヘッドリボザイム活性の測定>
1.ハンマーヘッドリボザイムの開裂産物の確認
図3は、10mM、MgCl2,での図1に示す短縮リボザイムによる加水分解反応の結果を示す図である。図3(A)は、20wt%溶質濃度を含むバッファー溶液を37℃で,35秒間行ったハンマーヘッドリボザイムの加水分解反応のゲル電気泳動の図である。OH-とT1のレーンはアルカリ加水分解ラダーと、G残基の3'-側で特異的に開裂されたRNaseT1消化バンドを示す。加水分解によって基質がC9の3'側で開裂していることを示している。
溶質の番号は以下の種類を示す。
(1)なし
(2)エチレングリコール20wt%、
(3)分子量200のPEG
(4)分子量8000のPEG
(5)デキストラン10(分子量MW=7万)
(6)デキストラン70(分子量MW=7万)
(7)フィコール70(分子量MW=7万)
C9の3'側の開裂産物を矢印で示している。
【0022】
2.溶質の存在によるハンマーヘッドリボザイム加水分解速度の増強
図3(B)は、 10mM、MgCl2,と、上記の(1)〜(7)20wt%溶質を含むバッファー溶液を、図1に示すハンマーヘッドリボザイムのステムIとステムIIIに基質RNAを添加して、37℃で測定されたハンマーヘッドリボザイム加水分解速度定数を示す。
開裂RNA生産物の量は溶液中の溶質の存在で増加する。基質RNAの開裂の速度定数(k)は、希薄溶液で得られたものと比較して、PEG8000とPEG200が反応速度でそれぞれ6.6倍、3.6倍であった。EG,デキストラン、フィコールは、2.0〜2.8倍増加した。
【0023】
3.温度の影響
図3(C)は、10mM、MgCl2での溶質の存在非存在での速度定数の温度依存性を示した。10mM、MgCl2、でのハンマーヘッドリボザイム活性は高温ではハンマーヘッドリボザイム基質複合体の変性(天然形からの変化)により減少することも観測されているが、溶質の共存はリボザイムを熱変性から保護するようである。EG以外の共溶質は、50℃で7倍超反応を加速した。PEG8000を加えた場合は50℃でもリボザイム活性は有効なままであり、希薄溶液より270倍より大きな活性を示した(図3C)
共溶質は短い塩基対の二本鎖を不安定にすることが知られているが、リボザイムの三次元ホールデイングは共溶質の存在で安定化されるようである。
【0024】
4.PEGの分子量の影響
図3(D)は、異なる分子量の種々のサイズのPEGs、EGの存在下で図1のリボザイムの加水分解の反応速度を比較した結果を示す。PEGの分子量が増加すると、リボザイムの活性が増加したが、PEG8000とPEG20000の反応定数は同じであった。
【0025】
(比較例)
酵素なしのRNA開裂と比較するために、配列の真ん中に単鎖のリボヌクレオチドを持つ単鎖のRNA―DNAのキメラヌクレオチドを試験した。配列中には唯一のリボヌクレオチド残基があるのでそのリボヌクレオチドの3'末端で、加水分解が専ら起こった。RNA加水分解は10mM、MgCl2、60℃で、共溶質による加水分解速度の増加は見られなかった。この観察から溶質を共存させることは反応の化学ステップを直接加速するのではないことが示唆された。
【0026】
(実施例2)
図4は、MgCl2なしで、37℃で測定された図2に示す伸張リボザイムによるRNA加水分解の結果を示している。(A)は、20wt%共溶質の存在非存在での速度定数の比較である。(B)はPEGの各種の分子量の存在下での反応定数を示す。種々のサイズのPEGs、EGの存在下で反応速度を比較した。PEGの分子量が増加すると、リボザイムの活性が増加したが、PEG8000とPEG20000の反応定数は同じであった。
伸張リボザイムは低いMg2+濃度でもリボザイム活性を示すことができたので、Mg2+なしでの伸張リボザイムへの共溶質の影響をさらに調べた。共溶質なしではRNA加水分解は非常に遅かった。62時間後も検出できる生成物はなかった。
PG8000と他の共溶質はリボザイム活性を非常に増強した(PG8000の存在下24時間反応後の反応生成物26%)。PEGのサイズへの依存性は短縮リボザイムでも示されているので、図3と4の反応定数への共溶質の同様の影響は両方のリボザイム反応の増強が同様の機構であると考えられる。
【0027】
(実施例3)
<分子量による変化>
EGと同様の化学構造の(8)グリセロール、(9)1,3-プロパンジオール、(10)2-メトキシエタノール、(11)1,2-ジメトキシエタンの存在下で実施例1と同様のハンマーヘッドリボザイムの加水分解反応速度定数を比較した。結果としてこれらの共溶質も反応速度を増強した。1,2-ジメトキシエタンは、PEG200及びマクロ分子ポリオール共溶質よりも大きい速度定数を示した。一方共溶質があっても単鎖のRNA―DNAキメラ鎖に対して速度の増強は観察されなかった。
ハンマーヘッドリボザイム活性の増強は、マクロ分子のみでなく小さなサイズの分子でも観測されたので、共溶質の添加によって変化した溶質特性が、ハンマーヘッドリボザイムの活性に影響することがわかる。
<OH基の影響>
EGのOH基の変性、又は共溶質のOH基の減少は活性の増強をもたらすことが示唆された。ハンマーヘッドリボザイム活性の有効な共溶質は、大きなサイズのPEGと全溶質の質量に比べてOH基の質量がかなり小さい1,2-ジメトキシエタンであった。このことはハンマーヘッドリボザイム活性の減少に対して直接又は間接のOH基の役割を示唆している。
【0028】
(実施例4)
<Mg2+による変化>
図5は、Mgイオン濃度、温度、溶質の種類の変化による、本発明の溶質の存在下で実施例1で用いたと同様のハンマーヘッドリボザイムの加水分解反応での速度定数を測定したグラフである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、ハンマーヘッド短縮リボザイムRNAと基質RNAの配列を示す模式図である。
【図2】図2は、ハンマーヘッド伸張リボザイムRNAと基質RNAの配列を示す模式図である。
【図3】図3は、図1に示すハンマーヘッド短縮リボザイムのRNA加水分解を示す図である。図3(A)は、ハンマーヘッド短縮リボザイム加水分解反応のゲル電気泳動の図である。図3(B)は、種々の溶質を含む溶液のハンマーヘッドリボザイム加水分解速度定数を示すグラフである。図3(C)は、ハンマーヘッドリボザイム加水分解速度定数の温度依存性を示すグラフである。図3(D)は、異なる分子量のPEGの存在下でのハンマーヘッドリボザイム加水分解速度定数を示すグラフである。
【図4】図4は、図2に示すハンマーヘッド伸張リボザイムのRNA加水分解を示す図である。図4(A)は、共存する溶質の非存在・存在下での速度定数の比較である。図4(B)は、異なる分子量のPEG溶質の存在下でのハンマーヘッドリボザイム加水分解速度定数を示すグラフである。
【図5】図5は、Mgイオン濃度、温度、溶媒の種類の変化による、本発明の化合物の存在下でハンマーヘッドリボザイムの加水分解反応速度定数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中のハンマーヘッドリボザイムに、―OR基を有する化合物(ここでRはアルキル基または水素原子をあらわす)を共存させて、標的とするRNAを加水分解する方法。
【請求項2】
水溶液中の2価イオン濃度が100mM以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記加水分解が、37℃超の温度で行われる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つの、ハンマーヘッドリボザイムによるインビトロでの標的RNAの加水分解増強剤。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコールの分子量が、100〜20000である請求項5に記載の加水分解増強剤。
【請求項7】
ハンマーヘッドリボザイムと、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、デキストラン、フィコール、グリセロール、1,3−プロパンジオール、2−メトキシエタノールおよび1,2−ジメトキシエタンからなる群から選択される少なくとも一つとを含有する、標的RNAの加水分解剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−215502(P2007−215502A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41055(P2006−41055)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】