説明

模様付容器の製法およびそれによって得られる模様付容器

【課題】エッチング法等によらず、簡単かつ鮮明に、微細な線状模様を、容器表面に付与することのできる、優れた模様付容器の製法およびそれによって得られる模様付容器を提供する。
【解決手段】蓋体4の表面に、パッド印刷によってインクを、幅0.05〜3.0mm、高低差0.01〜0.03mmの線状模様Pとなるよう印刷し、ついで、その印刷面を、厚み0.004〜0.1mmのアルミニウム薄膜層6で被覆して、上記アルミニウム薄膜層6表面に、その下の線状模様Pの凹凸が浮かび上がるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その部材表面に、微細な線状模様が形成されている模様付容器の製法およびそれによって得られる模様付容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック容器等に、凹凸模様や着色模様を付与して付加価値を高めたり、ブランド名を入れて宣伝効果を高めたりすることが広く行われている。例えば、図5に示すような化粧料容器において、プラスチック製キャップ10の表面に、微細な線状の凹凸模様11を浮き上がらせた例をあげることができる。
【0003】
このような、プラスチック成形品への微細な凹凸模様の付与は、通常、その成形用金型に、エッチング法等によって凹凸模様を形成しておき、全体形状の成形と同時に凹凸模様を付与する方法が一般的である(特許文献1等を参照)。
【特許文献1】特開2003−39440公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記エッチング法は、金属を部分的に化学反応で溶解させるものであるため、そのコントロールが非常にむずかしく、凹凸模様が微細になればなる程、コスト的にも労力的にも負担が大きい、という問題がある。また、エッチング法によって形成された微細な凹凸模様は、充分に研磨処理を施さなければ脱型時に凹凸模様が崩れて不鮮明になりやすいという問題もある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、エッチング法等によらず、簡単かつ鮮明に、微細な線状模様を、容器表面に付与することのできる、優れた模様付容器の製法およびそれによって得られる模様付容器の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、容器を構成する少なくとも一部の部材表面に、微細な線状模様が凸状もしくは凹状に形成されている容器を製造する方法であって、上記部材表面に、インクを、幅0.05〜3.0mm、高低差0.01〜0.03mmの線状模様となるよう印刷し、ついで、その印刷面を、厚み0.004〜0.1mmの薄膜層で被覆して、上記薄膜層表面に、その下の線状模様の凹凸が浮かび上がるようにした模様付容器の製法を第1の要旨とする。
【0007】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記インクとして、ポリエステル系インク、アクリル系インク、ビニル系インク、塩化ビニル・酢酸ビニル系インク、エポキシ系インクおよびウレタン系インクからなる群から選択される少なくとも一つのインクを用いるようにした模様付容器の製法を第2の要旨とし、上記薄膜層が金属薄膜層であり、その形成を、真空蒸着、静電塗装、電着塗装、スパッタリング、めっき、ホットスタンプ、転写のいずれかによって行うようにした模様付容器の製法を第3の要旨とする。
【0008】
そして、本発明は、上記第1〜第3のいずれかの要旨である模様付容器の製法によって得られる模様付容器を第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
すなわち、本発明の模様付容器の製法によれば、エッチング等で成形用金型に微細な線状模様を形成する必要がなく、低コストで簡単に、美麗な線状模様を容器部材の表面に付与することができる。そして、上記美麗な線状模様は、薄膜層で保護されているため、経時的に摩耗・損傷したり汚れたりすることがなく、長期にわたって良好な状態を維持することができる。しかも、上記線状模様のデザイン変更は、印刷によってインクで形成する模様を変更するだけで足りるため、顧客のニーズに応じた線状模様付容器を、短期間で納品することができる点においても、優れている。
【0010】
そして、本発明のなかでも、特に、上記インクとして、ポリエステル系インク、アクリル系インク、ビニル系インク、塩化ビニル・酢酸ビニル系インク、エポキシ系インクおよびウレタン系インクからなる群から選択される少なくとも一つのインクを用いたものは、印刷されたインク層を薄膜層で被う作業を行っても、インク層による凹凸が崩れて線状模様が不明瞭になる等の不具合が生じることがなく、常に鮮明な線状模様を得ることができる。
【0011】
また、本発明のなかでも、特に、上記薄膜層が金属薄膜層であり、その形成を、真空蒸着等、所定の方法で行ったものは、インク層と薄膜層との接合が強固となるだけでなく、凹凸の浮き上がりが鮮明で、その線状模様の状態を、より長期にわたって良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明を実施するための最良の形態であるコンパクト容器の斜視図であり、図2は、そのX−X′断面図である。これらの図において、1は本体部で、その内側の向かって左側に設けられた凹部2には、ファンデーション等の化粧料が収容保持されるようになっている。また、向かって右側に設けられた凹部3には、化粧料を肌に塗布するためのパフが収容保持されるようになっている。そして、上記本体部1の上部開口を蓋する蓋体4は、本体部1とヒンジ連結され、図1において鎖線で示すように、上方に開くようになっている。なお、5は、蓋体4の内側面に貼着された鏡である。
【0014】
上記蓋体4の上面全面は、アルミニウム薄膜層6で被覆されており、その表面に、オリーブの枝をデザインした微細な線状模様Pが、その線状部分が凸状に浮き出た状態で形成されている。ただし、図2の断面図では、上記線状模様Pの断面の大きさを誇張して示している。
【0015】
上記線状模様Pは、つぎのようにして形成したものである。すなわち、まず、図3(a)に示すように、全体形状を賦形した蓋体4の上面に、パッド印刷により、線状模様Pを形作るインク層7を印刷する。そして、上記インク層7が充分に固化した状態で、この印刷がなされた蓋体4の上面にアルミニウムの真空蒸着を行い、アルミニウム薄膜層6を形成する。
【0016】
このようにして得られたアルミニウム薄膜層6の表面は、図3(b)に示すように、その下にインク層7が形成された部分が、他の部分のより高く盛り上がるため、上記インク層7による線状模様Pが、その形通り、浮き上がって見える。そして、この線状模様Pは、あたかもあとからアルミニウム薄膜層6の表面に賦形したかのように見え、美麗で興趣に富むものである。
【0017】
上記製法によれば、蓋体4を賦形するための金型に、線状模様Pを賦形するための微細な凹凸を、エッチング等によって形成して型成形する必要がなく、低コストで簡単に、美麗な線状模様Pを蓋体4の表面に付与することができる。そして、上記美麗な線状模様は、アルミニウム薄膜層6で保護されているため、経時的に摩耗・損傷したり汚れたりすることがなく、長期にわたって良好な状態を維持することができる。しかも、上記線状模様Pのデザイン変更は、パッド印刷による印刷模様を変更するだけで足りるため、低コストかつ短期間で行うことができるという利点を有する。
【0018】
なお、上記の例において、インク層7を形成するための印刷は、パッド印刷に限らず、微細な線状模様を印刷できるものであれば、どのようなものであっても差し支えない。例えば、シルク(スクリーン)印刷、グラビア印刷等を用いてもよい。
【0019】
また、上記パッド印刷に用いられるインクも、特に限定するものではなく、例えば、ポリエステル系インク、アクリル系インク、ビニル系インク、塩化ビニル・酢酸ビニル系インク、エポキシ系インクおよびウレタン系インク等があげられる。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ただし、上記の例のように、アルミニウムの真空蒸着によってアルミニウム薄膜層6を形成する等、高温下で薄膜層を形成する場合には、線状模様Pを形作るインク層7が軟化して型崩れすることのないよう耐熱性に優れたインクを選択することが望ましい。
【0020】
なお、上記インク層7によって形作る線状模様Pの「線」は、幅0.05〜3.0mm、高さ0.01〜0.03mmでなければならない。すなわち、線の幅が0.05mm未満では、薄膜層6の表面に線状模様Pを浮かび上がらせることが困難で、逆に、線の幅が3.0mmを超えると、成形金型を用いて賦形するに比べて優位性が少ない。また、線の高さが0.01mm未満の場合も、薄膜層6の表面に線状模様Pを浮かび上がらせることが困難で、逆に、線の高さが0.03mmを超えると、薄膜層6の形成時に線状模様Pが崩れやすく仕上がりが悪くなるという問題がある。
【0021】
なかでも、線の幅を0.1〜1.0mm、線の高さを0.015〜0.02mmに設定することが、鮮明な線状模様Pを浮き上がらせる点で、特に好適である。
【0022】
なお、上記の例では、線状模様Pの線部分が凸状に浮き上がるようにしたが、線状模様Pの線部分が凹状に凹むようにしてもよい。その場合は、例えば図4(a)に示すように、蓋体4の上面において、線状模様Pの線となる部分以外に、パッド印刷によりインク層7を形成する。そして、このインク層7が充分に固化した状態で、上記の例と同様、その上からアルミニウムの真空蒸着を行い、アルミニウム薄膜層6を形成する。
【0023】
このようにして得られたアルミニウム薄膜層6の表面は、図4(b)に示すように、その下にインク層7が形成されていない部分が他の部分より凹むため、線状模様Pが浮かび上がって見える。このようにして得られた線状模様Pを有するコンパクト容器も、図1に示す例と同様の効果を得ることができる。
【0024】
なお、上記のように、線状模様Pを凹状に形成する場合も、凸状に形成する場合と同様、その「線」は、幅0.05〜3.0mm、深さ0.01〜0.03mmでなければならず、なかでも、線の幅を0.1〜1.0mm、線の深さを0.015〜0.02mmに設定することが、鮮明な線状模様Pを得る上で、特に好適である。
【0025】
さらに、これらの例では、インク層7が形成された印刷面を、アルミニウム蒸着によって形成されたアルミニウム薄膜層6で被覆したが、アルミニウム薄膜層6の形成は、真空蒸着に限らず、静電塗装、電着塗装、スパッタリング、めっき、ホットスタンプ、転写等、いずれの方法によっても差し支えない。
【0026】
また、上記薄膜層6の材質は、アルミニウムに限らず、上記印刷面に積層一体化して薄膜層を形成しうるものであればどのようなものであっても差し支えない。例えば、一般塗料による塗装や転写用の着色樹脂シート等によって薄膜層6を形成することができる。ただし、強度や表面の平滑性、美観の点から、アルミニウム、ステンレス等の金属薄膜層を用いることが好適である。
【0027】
そして、上記薄膜層6の厚みは、薄膜層6の材質にもよるが、本発明では、0.004〜0.1mmに設定することが、鮮明な線状模様Pをみせる上で必要である。すなわち、薄膜層6の厚みが0.004mm未満では均一で平滑性ある薄膜を得ることが困難であり、逆に、0.1mmを超える厚みでは、線状模様Pを鮮明に浮かび上がらせることができない。
【0028】
なお、上記の例は、本発明をコンパクト容器に適用したものであるが、容器の種類や形状、線状模様Pを形成する部材の配置等は、特に限定するのではない。
【実施例】
【0029】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【0030】
〔実施例1〜3、比較例1、2〕
下記の表1に示す条件で、図1に示す、線状模様Pが形成されたコンパクト容器の蓋体4を得た。ただし、パッド印刷によるインクはPLX(十条ケミカル社製、1液型)、薄膜層6はアルミニウム蒸着による厚み0.005mmの薄膜である。そして、得られた各蓋体4の表面に形成された線状模様Pを、専門のモニター10名によって観察し、その鮮明さを、非常に鮮明…5、鮮明…4、普通…3、やや不鮮明…2、不鮮明…1、の5段階で評価して、平均点を求めた。その結果を、下記の表1に併せて示した。
【0031】
【表1】

【0032】
〔実施例4、5、比較例3、4〕
下記の表2に示すようにアルミニウム薄膜層6の厚みを変えた。それ以外は、上記実施例2と同様にして、図1に示す、線状模様Pが形成されたコンパクト容器の蓋体4を得た。そして、得られた各蓋体4の表面に形成された線状模様Pを、上記と同様にして評価し、その結果を、下記の表2に併せて示した。
【0033】
【表2】

【0034】
上記の結果から、鮮明な線状模様Pを得ようとすれば、その線状模様Pを形作るインク層7における線は、幅0.05〜3.0mm、高さ0.01〜0.03mmでなければならないことがわかる。また、アルミニウム薄膜層6の厚みは、0.004〜0.1mmでなければならないことがわかる。なお、比較例2における線状模様Pは、比較的鮮明との評価を受けているが、繊細な印象が薄く、興趣に乏しい。そして、5mm幅の線状模様であれば、金型成形によって容易に賦形することができるため、本発明の対象外である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例の斜視図である。
【図2】図1のX−X′断面図である。
【図3】(a)、(b)はともに、上記実施例における線状模様の形成方法の説明図である。
【図4】(a)、(b)はともに、本発明の他の実施例における線状模様の形成方法の説明図である。
【図5】従来の線状模様付容器の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
4 蓋体
6 アルミニウム薄膜層
P 線状模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を構成する少なくとも一部の部材表面に、微細な線状模様が凸状もしくは凹状に形成されている容器を製造する方法であって、上記部材表面に、インクを、幅0.05〜3.0mm、高低差0.01〜0.03mmの線状模様となるよう印刷し、ついで、その印刷面を、厚み0.004〜0.1mmの薄膜層で被覆して、上記薄膜層表面に、その下の線状模様の凹凸が浮かび上がるようにしたことを特徴とする模様付容器の製法。
【請求項2】
上記インクとして、ポリエステル系インク、アクリル系インク、ビニル系インク、塩化ビニル・酢酸ビニル系インク、エポキシ系インクおよびウレタン系インクからなる群から選択される少なくとも一つのインクを用いるようにした請求項1記載の模様付容器の製法。
【請求項3】
上記薄膜層が金属薄膜層であり、その形成を、真空蒸着、静電塗装、電着塗装、スパッタリング、めっき、ホットスタンプ、転写のいずれかによって行うようにした請求項1または2記載の模様付容器の製法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された模様付容器の製法によって得られることを特徴とする模様付容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−62772(P2007−62772A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249609(P2005−249609)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】