説明

樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法

【課題】ガラス製品の表面に被覆された樹脂コーティング皮膜を除去処理して、皮膜中に鮮明な模様の形成が可能な樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法を提供する。
【解決手段】表面に着色した樹脂コーティング皮膜2を有するガラス製品1に対し、COレーザーを照射して前記樹脂コーティング皮膜2を所定のパターンに基づいて除去処理し模様を形成する。また、異なった色に着色した樹脂コーティング皮膜2が複数層あり、この樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理して、複数の異なった色の樹脂コーティング皮膜が露呈している模様を形成することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製品の表面に被覆された樹脂コーティング皮膜を除去処理して、皮膜中に鮮明な模様を形成するようにした樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス壜やガラス食器等のガラス製品の表面に、傷付き防止、装飾用着色、紫外線カット等を目的として、着色したウレタン系樹脂からなる樹脂コーティング皮膜を形成することが知られている。このような樹脂コーティング皮膜は、ガラス製品をスプレー処理したり、コーティング液中に浸漬処理したりして形成するのが普通であり、通常、単一色で均一に塗布されたものである。
【0003】
一方、前記樹脂コーティング皮膜中に各種の文字や識別用マークのような図形を描画するニーズもあり、このような場合は、ガラス製品の表面に描画するデザインに対応したマスキングテープを貼り付けておき樹脂コーティング皮膜を形成する方法(例えば、特許文献1を参照)や、撥水剤等のマスキング剤を塗布後にコーティング皮膜を形成する方法等が知られている。その他に樹脂コーティング皮膜を形成した後、ブラスト材により研摩処理して図形を描画する方法も知られている。
【0004】
しかしながら、前記の従来技術である事前にマスキングテープの貼り付けやマスキング剤の塗布を行った場合は、ガラス表面に段差が発生して均一なコーティングを施すことが難しくなるという問題点や、コーティング後にマスキングテープやマスキング剤のみを剥離するのが難しく、また作業が煩雑になるという問題点があった。更に、撥水剤からなるマスキング剤ではコーティング樹脂が水溶性の場合に、その樹脂液が撥水剤の上に残ることがあり、描画した図形の品質が低下するという問題点や鮮明な図形を描画することが難しいという問題点があった。
また、ブラスト処理の場合は加工処理に長時間かかるとともに、鮮明な図形を描画することが難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−301916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決して、ガラス製品の表面に被覆されている樹脂コーティング皮膜を除去処理して、鮮明な模様を短時間に形成することができ、また複数層の樹脂コーティング皮膜の場合には除去する皮膜を任意に選択して異なった色の樹脂コーティング皮膜を露呈させ、カラフルな着色摸様を形成することできる樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法は、表面に着色した樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品に対し、COレーザーを照射して前記樹脂コーティング皮膜を所定のパターンに基づいて除去処理し模様を形成することを特徴とするものである。
【0008】
また、着色した樹脂コーティング皮膜が単層であり、この樹脂コーティング皮膜を除去処理してガラス表面が露呈している模様を形成するようにしたものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0009】
また、異なった色に着色した樹脂コーティング皮膜が複数層あり、この樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理して、複数の異なった色の樹脂コーティング皮膜が露呈している模様を形成するようにしたものが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0010】
更に、レーザーの照射時間をコントロールして、樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理するようにすることが好ましく、これを請求項4に係る発明とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、表面に着色した樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品に対し、COレーザーを照射して前記樹脂コーティング皮膜を所定のパターンに基づいて除去処理し模様を形成するので、従来のマスキングテープ等を用いる必要がなく、鮮明な模様をしかも短時間で形成できることとなる。
【0012】
また、請求項2に係る発明では、着色した樹脂コーティング皮膜が単層であり、この樹脂コーティング皮膜を除去処理してガラス表面が露呈している模様を形成するようにしたので、皮膜中にガラス表面が露呈した鮮明な模様を短時間で形成できることとなる。
【0013】
また、請求項3に係る発明では、異なった色に着色した樹脂コーティング皮膜が複数層あり、この樹脂コーティング皮膜を任意に選択した層まで除去処理して、複数の異なった色の樹脂コーティング皮膜を露呈させて模様を形成するようにしたので、多色のカラフルな模様を形成できることとなる。
【0014】
また、請求項4に係る発明では、レーザーの照射時間をコントロールして、樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理するようにしたので、多色でカラフルな模様を簡単な制御で、かつ短時間で形成できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態を示す加工摸式図である。
【図2】レーザーマーカによる加工の形態を示す説明図である。
【図3】加工前のガラス製品の要部を示す断面図である。
【図4】加工後のガラス製品の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、本発明の加工方法を示す摸式図であり、図中、1は被加工部材であるガラス製品で、図示のものではガラス壜である。10はガラス製品1を載置するコンベア等の製品受け部、11はレーザーマーカ、12はこのレーザーマーカ11の作動をコントロールするための制御装置である。
【0017】
前記ガラス製品1は、基本的には無色透明のものであるが、その他、着色したものやフロスト処理等により擦りガラス状となっているものでもよい。また、ガラス製品1の表面には着色した樹脂コーティング皮膜2が形成されている。この樹脂コーティング皮膜2は、ガラス製品1の着色および耐摩耗性の向上などを目的として施されるものであって、例えば水溶性ウレタン系樹脂や、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂からなり、1〜50μmの厚みを有している。
【0018】
前記樹脂コーティング皮膜2は、図3に示すように、ガラス表面側から各々異なる色のコーティング皮膜として第1皮膜層2a、第2皮膜層2b、第3皮膜層2cが順次積層されたものとなっている。この樹脂コーティング皮膜2は、その他、単層であっても、また2層あるいは4層以上の複数層でよいことは勿論である。
【0019】
前記レーザーマーカ11としては、樹脂の除去処理に最も有効である波長が5〜15μm、より好ましくは9〜11μmで、焦点距離が100〜500mmのCOレーザーを用いることができる。本発明では、製品1個当りの加工処理時間を、加工ライン上で連続処理する点から約3秒以下と考えており、種々のレーザーを試験した結果、上記のCOレーザーを用いることが最適であることを確認した。
このレーザーマーカ11は、模様となる文字や模様に対応して作動するようにプログラミングしてある制御装置12にコントロールされて樹脂コーティング皮膜上をなぞるように照射して樹脂を除去処理する。具体的には、図2に示すように、レーザー発信器(図示せず)に組み込まれたミラー13の角度を変化させることにより、照射位置をコントロールして文字等の模様を形成することができる。また、照射時間をコントロールして除去する皮膜層の深さを任意に設定することができるが、この点については後述する。
【0020】
次に、本発明の加工方法について説明する。
本発明では、表面に着色した樹脂コーティング皮膜2を有するガラス製品1に対し、レーザーを照射して前記樹脂コーティング皮膜2を所定のパターンに基づいて除去処理し模様を形成するものである。
即ち、従来のようにマスキングテープやマスキング剤を用いて樹脂コーティング皮膜に模様を形成するのと異なり、約3秒以下の短時間のレーザー照射によって樹脂コーティング皮膜の除去処理を行い所定パターンの模様を形成するのである。
【0021】
例えば、着色した樹脂コーティング皮膜2が単層であり、この樹脂コーティング皮膜2を所定パターンで除去処理してガラス製品1の表面が露呈している模様を形成するようにすることができる。この場合は、着色した樹脂コーティング皮膜中に透明、あるいは着色したガラス素地の文字や図形等の模様が鮮明に形成される。
文字や簡単な図形であれば、レーザーの照射時間は0.5秒以下であり、従来のマスキングテープ等を使用した加工処理に比べて、格段に短時間で処理が可能となる。
【0022】
また、異なった色に着色した樹脂コーティング皮膜2が複数層あり、この樹脂コーティング皮膜2を任意の層まで除去処理して、複数の異なった色の樹脂コーティング皮膜が露呈している模様を形成するようにすることができる。この場合は、異なった色の複数の樹脂コーティング皮膜、およびガラス素地との複数の色からなる文字や図形等のカラフルな模様が鮮明に形成されることとなる。
【0023】
図4は、一例として、ガラス表面側から各々異なる色の第1皮膜層2a、第2皮膜層2b、第3皮膜層2cが順次積層されている樹脂コーティング皮膜2を有するガラス壜を加工する場合の状態を示す説明図である。
上から順に、レーザーを照射し第3皮膜層2cのみを除去して第2皮膜層2bを露呈させた場合、第3皮膜層2cと第2皮膜層2bを除去して第1皮膜層2aを露呈させた場合、樹脂コーティング皮膜2全部を除去してガラス素地を露呈させた場合を示しており、これらの組み合わせによりカラフルな模様を鮮明に形成することができる。また、このような複数個の着色模様は従来のマスキング技術ではできないものであった。
この際、表面から第1皮膜層2a、第2皮膜層2b、第3皮膜層2cのどこまでを除去するかについては、レーザーの照射時間をコントロールすることにより任意の層まで除去処理するよう簡単に設定することができる。
【0024】
このように本発明によれば、従来のマスキングテープやマスキング剤を用いる必要がなく、また剥離工程も不要であるので、工程数を削減して短時間に効率よく加工を行うことができ、コーティング樹脂が残って膜ムラを生じることによる品質低下も防止することができ、更には複数層からなる樹脂コーティング皮膜に適用すれば従来にないカラフルな模様を鮮明に形成することができることとなる。
【実施例】
【0025】
ガラス壜の表面に、水溶性ウレタン系樹脂からなる厚み10μmの白色フロストコーティング調の内側の第1皮膜層と、水溶性ウレタン系樹脂からなる厚み10μmの青色の第2皮膜層の2層からなる樹脂コーティング皮膜を形成した。
波長が10.6μmで、焦点距離が189mmのCOレーザーを用いて前記樹脂コーティング皮膜を照射し、第2皮膜層のみを除去処理して「Ishizuka Glass Co.Ltd」の白色文字を露呈させた。照射時間は0.1秒に設定した。
得られた文字は、青色の樹脂コーティング皮膜の中に白色の鮮明な文字が現れており、商品価値の高いものであった。また、照射時間が短いため、コンベア上で連続的に加工処理を行えるものである。
【比較例】
【0026】
実施例と同様のガラス壜に、波長が532μmで、焦点距離が189mmのYAGレーザーと、波長が1064μmで、焦点距離が189mmのYVOレーザーを用い、いずれも照射時間0.1秒で樹脂コーティング皮膜を照射した。結果は、いずれも樹脂コーティング皮膜の除去はできなかった。また、実施例と同様の文字が現れるように加工するにはいずれも1分以上の照射が必要であり、連続処理には適用できないものであった。
【符号の説明】
【0027】
1 ガラス製品
2 樹脂コーティング皮膜
2a 第1皮膜層
2b 第2皮膜層
2c 第3皮膜層
10 製品受け部
11 レーザーマーカ
12 制御装置
13 ミラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に着色した樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品に対し、COレーザーを照射して前記樹脂コーティング皮膜を所定のパターンに基づいて除去処理し模様を形成することを特徴とする樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法。
【請求項2】
着色した樹脂コーティング皮膜が単層であり、この樹脂コーティング皮膜を除去処理してガラス表面が露呈している模様を形成するようにした請求項1に記載の樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法。
【請求項3】
異なった色に着色した樹脂コーティング皮膜が複数層あり、この樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理して、複数の異なった色の樹脂コーティング皮膜が露呈している模様を形成するようにした請求項1に記載の樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法。
【請求項4】
レーザーの照射時間をコントロールして、樹脂コーティング皮膜を任意の層まで除去処理するようにした請求項3に記載の樹脂コーティング皮膜を有するガラス製品の加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−280086(P2010−280086A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133572(P2009−133572)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000198477)石塚硝子株式会社 (77)
【Fターム(参考)】