説明

樹脂フィルムの製造方法及びその製法で得られる樹脂フィルム、太陽電池保護シート並びに太陽電池モジュール

【課題】樹脂フィルム基材とポリマー層間の密着性を改善でき、かつ、ブロッキングを抑制できる樹脂フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面を火炎処理する工程と、前記樹脂フィルム基材の火炎処理された側の表面をドライアイスによりブラスト処理する工程と、樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面にポリマーを含むポリマー溶液を塗布する塗布工程を含み、前記ドライアイスブラスト処理開始時における前記樹脂フィルム基材の表面温度を、樹脂フィルム基材のガラス転移温度Tg以下に制御することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法及びその製法で得られる樹脂フィルム、太陽電池保護バックシート、並びに太陽電池モジュールに関する。
【0002】
太陽電池モジュールは、通常、太陽光が入射する側のフロント側基材(いわゆるオモテ面ガラスや透明性ポリマーなど)と、太陽光が入射する側とは反対側(裏面側)に配置される、いわゆるバックシートとの間に、太陽電池セルが挟まれた構造を有しており、フロント側基材と太陽電池セルとの間、及び太陽電池セルとバックシートとの間は、それぞれEVA(エチレン−ビニルアセテート)樹脂などの封止材で封止されている。
【0003】
フロント側基材やバックシートは、それぞれ太陽電池モジュールの表面または裏面からの水分の浸入を防止する太陽電池保護シートとしての働きを有するものである。これらの太陽電池保護シートとして、従来はガラスやフッ素樹脂等が用いられていたが、近年では、コストの観点からポリマーシート、例えばポリエステル樹脂シートなどが用いられるようになってきている。太陽電池保護シートは、直接水分や熱、光に曝されるため、太陽電池保護シートと封止材との間の密着性は、高温高湿下での長期耐久性が求められる。しかしながら、従来の太陽電池保護シートは、太陽電池保護シートと封止材との間の密着性について、高温高湿下での長期耐久性の観点からは不満が残るものであった。そのため、太陽電池の湿熱環境下での耐久性の改善が強く求められているのが現状である。
【0004】
一方、近年では、太陽電池保護シートの中でも特にバックシートは、単なるポリエステル樹脂シートなど単層のポリマーシートとして太陽電池モジュール裏面からの水分の侵入を防止するだけではなく、以下に示すような種々の機能を付与することが求められてきている。
前記機能として、例えば、バックシートに酸化チタン等の白色無機微粒子を添加し、光反射性能を持たせたものが要求される場合がある。これは、モジュールのオモテ面から入射した太陽光のうち、セルを素通りした光を乱反射して、セルに戻すことで発電効率を上げるためである。この点について、白色無機微粒子が添加された白色ポリエチレンテレフタレートフィルムの例が開示されており(例えば、特許文献1、3参照)、また白色顔料を含有する白色インキ層を有する裏面保護シートの例も開示されている(例えば、特許文献3参照)。更に、バックシートとEVA封止材との間の強固な接着を得るために、バックシートの最表層に易接着層などのポリマー層を設ける場合がある。この点について、白色のポリエチレンテレフタレートフィルムの上に熱接着層を設ける技術が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
以上のような機能を付与するためには、バックシートは、樹脂フィルム基材上に他の機能を有する各種機能層が積層された構造になる。そのため、近年では太陽電池保護シート内部においても、基材(支持体)と各種機能層の間の層間の接着力(密着性)について、改善が求められている。
ここで、積層の手段としては、色々な機能を持つシートを樹脂フィルム基材に貼合する方法があり、例えば、複数の樹脂フィルムの貼合により太陽電池用バックシートを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、複数の樹脂フィルムの貼合では、湿熱環境下で長期使用した場合の層間の密着性に劣り、耐久性の点で不充分であった。また、太陽電池用バックシートを形成する方法として、樹脂フィルム基材に各種機能層を塗布する方法も開示されている(例えば、特許文献3および4参照)。また、塗布層を形成する前に樹脂フィルム基材に表面処理を行う方法なども知られている(特許文献4および5参照)。特許文献4および5では、塗布液中にフッ素シリコーン樹脂や変性シリコーン化合物)などのポリシロキサン樹脂を添加することで、易洗浄性、易排水性、防曇性、結露防止性、帯電防止性、生態適合性などを改善できることも開示されている。
しかしながら、樹脂フィルム基材と、該樹脂フィルム基材と直接接するポリマー層との間の密着性については依然として不満が残るものであり、さらなる改善が求められていた。
【0006】
一方、特殊な用途に用いられるフィルム表面処理の一例として、ドライアイスを用いたブラスト処理が知られている。例えば、特許文献6では、塑性変形可能な状態の樹脂フィルム基材などに対して、常温常圧下でドライアイスからなるブラスト材を吹き付けることで、フィルム表面を凹ませて粗面化する方法が記載されている。また、同文献には、ドライアイスは常温常圧下で昇華して気体になるため、フィルム表面にブラスト材が残留することがないことに言及している。また、特許文献7では、結晶基板の凹凸を有する表面にレーザ光を照射して溝を形成した後、ドライアイス粒子をブラストすることで、形成された溝のバリを除去する方法が記載されている。このように、ドライアイスを用いたブラスト処理によって樹脂フィルムの密着性を制御することは検討すらされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−060218号公報
【特許文献2】特開2002−100788号公報
【特許文献3】特開2006−210557号公報
【特許文献4】特開2008−189828号公報
【特許文献5】特開2000−301054号公報
【特許文献6】特開2006−239884号公報
【特許文献7】特開2005−108965号公報
【特許文献8】特開2003−221463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況のもと、本発明者らが特許文献4および5に記載の表面処理方法を用いた樹脂フィルムと、ポリマー層との密着性を検討したところ、さらなる改善が求められることがわかった。また、特にこれらの文献に記載の火炎処理を行った場合、フィルムの密着性を改善させると、フィルムがブロッキングしてしまい、ハンドリングが困難になるという新たな問題があることがわかった。このようなフィルム表面の密着性の改善とブロッキングの抑制は、密着性を高めれば高めるほどブロッキングしやすくなるなどトレードオフの関係にあり、両立が困難であった。例えば、特許文献8には、ブロッキングの防止策として、ポリエチレン系の樹脂フィルムに対してスリップ性を付与するスリップ剤を添加する方法が記載されているが、スリップ剤を用いる方法では機能上、ブロッキングの防止と密着性の改善を両立することは困難であった。
【0009】
一方、本発明者らが特許文献6に記載のとおりガラス転移温度(以下、Tgとも言う)以上の温度にして塑性変形可能な状態とした樹脂フィルム基材に対して、ドライアイスを用いたブラスト処理を行ったところ、特に密着性を改善することができないことがわかった。それどころか、特許文献4および5に記載の火炎処理を行った後、塑性変形可能な状態にあるドライアイスブラスト処理を組み合わせると、火炎処理により従来付与できていた密着性の改善効果が逆に失われてしまうことがわかった。このように、公知の表面処理方法を用いても、互いに組み合わせても、樹脂フィルム基材とポリマー層間の密着性改善とブロッキングの抑制を両立することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、樹脂フィルム基材とポリマー層間の密着性を改善でき、かつ、ブロッキングを抑制できる樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、火炎処理を行った樹脂フィルム表面に対して、特許文献6に記載の方法とは逆に、ドライアイスブラスト処理直前の樹脂フィルム基材の温度をTg以下に制御し、フィルム表面の粗面化が起こりにくい条件でドライアイスブラスト処理を行ったところ、樹脂フィルム基材とポリマー層間の密着性を改善でき、かつ、ブロッキングを抑制できることを見出すに至った。すなわち、以下の構成により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1] 樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面を火炎処理する工程と、前記樹脂フィルム基材の火炎処理された側の表面をドライアイスによりブラスト処理する工程と、樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面にポリマーを含むポリマー溶液を塗布する塗布工程を含み、前記ドライアイスブラスト処理開始時における前記樹脂フィルム基材の表面温度を、樹脂フィルム基材のガラス転移温度Tg以下に制御することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
[2] 前記火炎処理工程と前記ドライアイスブラスト処理工程を、前記樹脂フィルム基材を搬送しながら行うことを特徴とする[1]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[3] 前記ドライアイスブラスト工程後、塗布工程の前に前記樹脂フィルム基材を巻き取る工程を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[4] 前記火炎処理工程後、3×10-2秒〜6秒で前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[5] 金属炭化物、金属酸化物またはサーメットによる溶射がされた冷却ロール、あるいは、フッ素化合物がコーティングされた冷却ロールを用いて、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に冷却することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[6] 前記樹脂フィルム基材が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[7] 前記ポリマー溶液が、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン骨格の構造単位と非ポリシロキサン骨格の構造単位を含む複合ポリマーを含有することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を表し、nは1以上の整数を表す。R1およびR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
[8] 前記複合ポリマー分子全体に対して、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位が15〜85質量%であることを特徴とする[7]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[9] 前記R1またはR2を表す前記1価の有機基が、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基およびアミド基から選択される少なくとも一種であることを特徴とする[7]または[8]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[10] 前記非ポリシロキサン系構造単位が、ビニル系構造単位、ポリエステル系構造単位およびポリウレタン系構造単位の少なくとも一種であることを特徴とする[7]〜[9]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[11] 前記ポリマー溶液が、架橋剤を含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[12] 前記ポリマー溶液を塗布厚みが0.8μm〜12μmとなるように塗布することを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項記載の樹脂フィルムの製造方法。
[13] 樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面に塗布されたポリマー層の表面に、白色顔料を含む塗布組成物を塗布する工程を含む[1]〜[12]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[14] 太陽電池保護シートの製造方法であることを特徴とする[1]〜[13]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[15] [1]〜[14]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする樹脂フィルム。
[16] [15]に記載の樹脂フィルムを含むことを特徴とする太陽電池保護シート。
[17] [16]に記載の太陽電池保護シートを少なくとも1枚含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂フィルム基材とポリマー層間の密着性を改善でき、かつ、ブロッキングを抑制できる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
また、本発明の樹脂フィルムの製造方法で得られた樹脂フィルムを用いれば、太陽電池保護シート、太陽電池用バックシート、太陽電池モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法及びその製法で得られる樹脂フィルム、太陽電池保護シート並びに太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面を火炎処理する工程と、前記樹脂フィルム基材の火炎処理された側の表面をドライアイスによりブラスト処理する工程と、樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面にポリマーを含むポリマー溶液を塗布する塗布工程を含み、前記ドライアイスブラスト処理開始時における前記樹脂フィルム基材の表面温度を、樹脂フィルム基材のガラス転移温度Tg以下に制御することを特徴とする。
【0016】
従来、火炎処理によって樹脂フィルム基材の表面上にポリマー層との密着性を改善できる官能基を生成することができることが知られている。一方、火炎処理後に冷却することでブロッキングは抑制されるが、樹脂フィルム基材の表面上の官能基が失活して密着性は逆に低下してしまい、両者はトレードオフの関係にあると考えられる。ここで、ドライアイスブラスト処理によって樹脂フィルムを冷却できるが、火炎処理後にTg以上の高温のフィルムに対してドライアイスブラスト処理を行っても、ブロッキングが抑制されるのみであり、樹脂フィルム基材上に積層するポリマー層との密着性は改善されない傾向にあった。
これに対し、本発明の樹脂フィルムの製造方法では、火炎処理後にあえて別工程を設けて樹脂フィルムの表面温度をTg以下に制御してからドライアイスブラスト処理することにより、樹脂フィルム基材上に積層するポリマー層との密着性をさらに向上させることができる。いかなる理由に拘泥するものでもないが、火炎処理後に、樹脂フィルムの表面温度をTg以下に制御してからドライアイスブラスト処理することで、火炎処理によって生成した樹脂フィルム基材表面の官能基の生成量を失活させずに増大させることができ、さらにポリマー層との密着性が向上できたものと考えられる。また、火炎処理後にTg以下に冷却してから、さらにドライアイスブラスト処理でも冷却することによりフィルムのブロッキングがより抑制される。これらの理由により、密着性改善とブロッキング抑制を両立できたと考えられる。
以下において、本発明の樹脂フィルムの製造方法の詳細と好ましい態様について説明する。なお、本発明の樹脂フィルムの製造方法は太陽電池保護シートの製造方法であることが好ましい。但し、本発明の樹脂フィルムの製造方法は、上記用途に限定されるものではない。
【0017】
<樹脂フィルム基材>
(ポリマー種)
樹脂フィルム基材に用いられるポリマー種としては、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、又はポリフッ化ビニルなどのフッ素系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、コストや機械強度などの点から、ポリエステルが好ましい。
【0018】
前記樹脂フィルム基材(支持体)として用いられるポリエステルとしては、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを挙げることができる。このうち、力学的物性やコストのバランスの点で、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
【0019】
前記ポリエステルは、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。更に、前記ポリエステルに他の種類の樹脂、例えばポリイミド等を少量ブレンドしたものであってもよい。
【0020】
本発明におけるポリエステルを重合する際には、カルボキシル基含量を所定の範囲以下に抑える観点から、Sb系、Ge系、Ti系の化合物を触媒として用いることが好ましく、中でも特にTi系化合物が好ましい。Ti系化合物を用いる場合、Ti系化合物を1ppm以上30ppm以下、より好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で触媒として用いることにより重合する態様が好ましい。Ti系化合物の割合が前記範囲内であると、末端カルボキシル基を下記範囲に調整することが可能であり、樹脂フィルム基材の耐加水分解性を低く保つことができる。
【0021】
Ti系化合物を用いたポリエステルの合成には、例えば、特公平8−301198号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第3996871号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号各公報等に記載の方法を適用できる。
【0022】
本発明では、前記樹脂フィルム基材がポリエステル系樹脂を含み、前記ポリエステル中のカルボキシル基含量は55当量/t以下が好ましく、より好ましくは35当量/t以下である。カルボキシル基含量が55当量/t以下であると、耐加水分解性を保持し、湿熱経時したときの強度低下を小さく抑制することができる。カルボキシル基含量の下限は、ポリエステルに形成される層(例えば着色層)との間の密着性を保持する点で、2当量/tが望ましい。すなわち、本発明では、前記ポリエステル樹脂のカルボキシル基の含量が2〜35当量/tであることが特に好ましい。
ポリエステル中のカルボキシル基含量は、重合触媒種、製膜条件(製膜温度や時間)により調整することが可能である。
【0023】
本発明におけるポリエステルは、重合後に固相重合されていてもよい。これにより、好ましいカルボキシル基含量を達成することができる。固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、送り出す方法)でもよいし、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。具体的には、固相重合には、特許第2621563号、特許第3121876号、特許第3136774号、特許第3603585号、特許第3616522号、特許第3617340号、特許第3680523号、特許第3717392号、特許第4167159号各公報等に記載の方法を適用することができる。
【0024】
固相重合の温度は、170℃以上240℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以上230℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上220℃以下である。また、固相重合時間は、5時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以上75時間以下であり、さらに好ましくは15時間以上50時間以下である。固相重合は、真空中あるいは窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0025】
前記ポリエステル基材は、例えば、上記のポリエステルをフィルム状に溶融押出を行なった後、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で長手方向に1回もしくは2回以上合計の倍率が3倍〜6倍になるよう延伸し、その後Tg〜(Tg+60)℃で幅方向に倍率が3〜5倍になるように延伸した2軸延伸フィルムであることが好ましい。
さらに、必要に応じて180〜230℃で1〜60秒間の熱処理を行ったものでもよい。
【0026】
前記樹脂フィルム基材(特にポリエステル基材)の厚みは、25〜300μm程度が好ましい。厚みは、25μm以上であると力学強度が良好であり、300μm以下であるとコスト的に有利である。
【0027】
<樹脂フィルム基材への表面処理>
(火炎処理)
本発明の製造方法では、前記樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面を火炎処理する。
このように火炎処理を施すことにより、支持体である樹脂フィルム基材表面を活性化させ、後述するドライアイスによるブラスト処理を用いた官能基付与工程を行うことで、支持体とポリマー層(好ましくは、後述する複合ポリマーを有するポリマー層)の間の密着性、を従来に比べて飛躍的に向上させることができ、さらにブロッキングも抑制することができる。
【0028】
火炎処理は、火炎の外炎部を支持体と接触させる処理方法である。通常はバーナーで炎を形成してこの火炎を支持体表面に当てることで処理を行う。
本発明に使用される火炎処理用のバーナーは、樹脂フィルム基材表面に火炎を均一に当てることができるものであれば制限はない。丸型のバーナーを複数配置し、幅手方向に均一性を保つものでもよいし、樹脂フィルム基材の幅と同等あるいはそれ以上の幅の横長スリット箱型バーナーでもよい。またウエブ状の樹脂フィルム基材を処理する場合には、この丸型または横長スリット箱型バーナーをウエブの搬送方向に複数個配置してもよい。
前記火炎処理はバックロールの上で行ってもよいし、二本のロール間でロールなしの状態で行ってもよいが、本発明ではバックロール上で行うことが好ましい。
バックロール上で処理を行う場合、バックロールが冷却バックロールであることが好ましい。冷却バックロールの温度は10℃〜100℃、より好ましくは25℃〜60℃の間にコントロールするのが好ましい。冷却ロールの温度が10℃未満であると結露する場合があり、100℃を超えると支持体が変形を起こす場合がある。
前記火炎処理に用いられるバックロールの材質は耐熱性材料であれば、いずれも使用出来るが、本発明では金属やセラミックスが都合がよい。金属としては、鉄、鉄のクロームメッキ物、SUS304、316、420等が使用でき、これらの他にアルミナ、ジルコニア、シリカ等のセラミックスを挙げることができる。
前記火炎処理に用いる燃焼ガスとしてはパラフィン系ガス(例えば、都市ガス、天然ガス、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス)、オレフィン系ガス(エチレンガス、プロピレンガス)、またはアセチレンガスが有用であり、1種類だけ、あるいは2種類以上混合して用いてもよい。
本発明において、火炎処理に用いる燃焼ガスと混合する酸化性ガスとしては、酸素、空気が好ましく用いられるが、助燃剤や酸化剤を用いてもよい。
用いる火炎については特に制限はないが、通常の火炎の他、特許第3893394号、特開2007−39508号に記載されているようなシラン化合物を燃料に添加してケイ酸炎を用いる方法も好ましい。
火炎処理の燃焼ガスと酸化性ガスとの混合比率は、ガスの種類によって異なるが例えばプロパンガスと空気の場合には、プロパンガス/空気の好ましい混合比は、容量比で1/15〜1/30、好ましくは1/18〜1/27の範囲とすることがよく、天然ガスと空気の場合には、1/6〜1/15、より好ましくは1/8〜1/12とするのが好ましい。
本発明における樹脂フィルム基材は片面だけ火炎処理を行ってもよいし、両面行ってもよい。
本発明において、樹脂フィルム基材に火炎を当てる時間、つまり有効な火炎部をウエブが通過する時間は0.001秒以上2秒以内が好ましく、0.01秒以上1秒以内がより好ましい。2秒以下ではウエブの表面が犯され難く、密着能力を逸しにくい。また0.001秒以上であれば酸化反応が起こり易く、密着性改善に寄与できる。
火炎エネルギーは、燃焼ガス量、ライン速度で調節することができる。
【0029】
(温度制御工程)
本発明の製造方法では、後述するドライアイスブラスト処理開始時における前記樹脂フィルム基材の表面温度を、樹脂フィルム基材のガラス転移温度Tg以下に制御する。
このような温度制御の方法としては特に制限はなく、自然に放熱させたり、冷風により放熱させたり、冷却体と接触させたりしてもよい。
【0030】
一方、本発明の製造方法では、前記火炎処理工程後、3×10-2秒〜6秒で前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御することが、火炎処理によって前記樹脂フィルム基材表面に生じた官能基が失活することを防止する観点から、好ましい。
前記火炎処理工程後、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御するまでの時間は、5×10-2秒〜5秒であることがより好ましく、1〜3秒であることが特に好ましい。
このような冷却までの時間は、温度制御の方法により、短くすることができる。
【0031】
前記火炎処理工程後、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御するまでの時間を短くする観点から、本発明の製造方法では、前記温度制御の方法が、冷却体との接触であることが好ましい。
また、前記火炎処理工程後、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御するまでの時間を短くする観点から、本発明の製造方法では、火炎処理工程を、前記樹脂フィルム基材を搬送しながら行うことが好ましい。
本発明では以上の観点から、前記冷却体として冷却ロールを用い、前記樹脂フィルムを搬送しながら搬送速度(ライン速度)を調節して、前記火炎処理工程後、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御するまでの時間を好ましい範囲とすることが好ましい。
【0032】
前記冷却ロールは、用いる基材(芯ロール)は特に制限はないが、SUS316製のロールなどが好ましい。
前記冷却ロールの芯ロールの直径は特に制限はないが、例えば、200〜1000mmであり、必要に応じて変更することができる。本発明の製造方法では、例えば、φ276mm、φ552mm、φ828mmの3種類の芯ロールを冷却時間や冷却温度にあわせて、適宜使用することが好ましい。
冷却ロールの冷却方法は、特に制限はないが、冷却水の注入などで行うことが好ましい。例えば上記3種類の芯ロールでは、芯及び空洞部がそれぞれφ214mm、φ490mm、φ766mm分あり、その外側28.5mm分に冷却水を注入する構造となっていることが好ましい。
前記冷却ロールは、表面処理をしてあるロールを用いてもよい。
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、金属炭化物、金属酸化物またはサーメットによる溶射がされた冷却ロール、あるいは、フッ素化合物がコーティングされた冷却ロールを用いて、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に冷却することが好ましい。
代表的な前記金属炭化物として、タングステンカーバイド、クロムカーバイド、チタニウムカーバイドなどが挙げられる。また、前記金属酸化物として、酸化アルミ、チタニア、ジルコニア、酸化クロムとこれらを含む合金が挙げられる。また、前記サーメッ卜として、タングステンカーバイド−コバルト−クロムを組み合わせた炭化物系サーメット、アルミナとニッケルアルミを組み合わせた酸化物系サーメッ卜、アプレイダブルなどが挙げられる。
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、これらの中でも、前記冷却ロールをタングステンカーバイド、クロムカーバイドの金属炭化物、また酸化アルミ、酸化クロムおよびこれらを含む合金である金属酸化物で処理してあることが好ましく、タングステンカーバイド、酸化クロムで処理してあることがより好ましい。
また、本発明の製造方法では、前記冷却ロールの表面処理方法としては、特に制限はなく、溶射、コーティング、メッキなどを挙げることができる。その中でも、溶射またはコーティングが好ましい。
【0033】
また、後述のドライアイスブラスト処理工程において、樹脂フィルム基材の表面が結露することを防止するために、樹脂フィルム基材の温度をあらかじめ室温以上にすることが好ましい。例えば、雰囲気の露点を10℃以下とし、樹脂フィルム基材の表面温度を20℃〜120℃にする。なお、溶融流延製膜法で作製された樹脂フィルム基材については、溶融しない温度に維持する必要がある。このように、樹脂フィルム基材ムの表面温度を20℃〜120℃にすることにより、ドライアイスブラスト材が吹き付けられた際に、樹脂フィルム基材の温度低下を防止することができ、結露を防止することが可能となる。
【0034】
具体的には、ドライアイスブラスト材を樹脂フィルム基材に吹き付ける前に、ドライヤー等により樹脂フィルム基材に風を吹き付け、樹脂フィルム基材の表面温度を20℃〜120℃に維持してもよい。
但し、本発明の樹脂フィルムの製造方法では、前記火炎処理工程後に、前記樹脂フィルム基材の温度をTg以下に制御するため、一般的な種類の樹脂フィルムを用いる場合は火炎処理後、ドライアイスブラスト材を樹脂フィルム基材に吹き付ける前に、冷却することが好ましい。そのため、ドライヤーなどによる加熱よりも、前記冷却ロールによる冷却を行うことが好ましい。
本発明の製造方法では、前記火炎処理工程後に、前記樹脂フィルム基材の温度をTg−40℃〜Tg−5℃に制御することが好ましく、Tg−35℃〜Tg−10℃に制御することがより好ましく、Tg−30℃〜Tg−15℃に制御することが特に好ましい。
【0035】
また、別の手段として、ドライアイスブラスト材を樹脂フィルム基材に吹き付ける前に、光学フィルムを搬送するロール部材やベルト部材などの支持部材を加熱することにより、その支持部材に接している樹脂フィルム基材を加熱しても良い。例えば、樹脂フィルム基材の表面温度よりも高い温度の支持部材により樹脂フィルム基材を加熱し、樹脂フィルム基材の表面温度が20℃〜120℃になるように支持部材の温度を調整してもよい。これにより、樹脂フィルム基材が冷却され過ぎることを防止することができ、ドライアイスブラスト処理する工程及びその後の工程において、樹脂フィルム基材への結露を防止することが可能となる。支持部材を加熱する方法として、ロール部材内に温水などを流しても良く、電気製のジャケットロールをロール部材として用いても良い。
但し、本発明の樹脂フィルムの製造方法では、ドライアイスブラスト材を樹脂フィルム基材に吹き付ける前に、樹脂フィルム基材を搬送するロール部材やベルト部材などの支持部材を冷却することが好ましい。なお、これら支持部材の冷却方法としては、上記の加熱方法と同様の態様を挙げることができる。
【0036】
(ドライアイスブラスト処理)
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、前記樹脂フィルム基材の火炎処理された側の表面をドライアイスによりブラスト処理する工程を含む。
ドライアイスブラスト(以下、ブラスト材とも言う)は、常温常圧下で気体又は液体となる物質を冷却固体化することにより作製される。例えば、二酸化炭素を冷却固体化することによりドライアイスを作製し、そのドライアイスをクラッシャーにより砕いたり、一旦、ペレタイザーでペレット状にしたものを砕いたりしてドライアイス粒を作製し、そのドライアイス粒をブラスト材とする。そして、そのブラスト材をコンプレッサーエアーにより、ガン又はノズルから樹脂フィルムの表面に吹き付ける。このドライアイスからなるブラスト材は、公知のドライアイスブラスト装置により作製することができる。また、コンプレッサーエアーは、露点−50℃程度にしておくと良い。ドライアイスの温度は−78℃程度であるため、樹脂フィルム基材表面の結露を防止するためである。
【0037】
ドライアイス粒子を用いる場合は、粒子の平均粒径をφ1μm〜φ15mmとすることが好ましい。ペレット状のものを用いる場合は、径をφ3mm程度のものとし、長さを1mm〜10mmとする。また、ドライアイスブラストの吹き付ける速度(吐出速度)を、例えば100m/秒程度にして樹脂フィルム基材表面に吹き付けることが好ましい。前記ドライアイスブラストの吐出速度は、60〜120m/秒であることが好ましく、70〜115m/秒であることがより好ましく、80〜110m/秒であることが特に好ましい。
樹脂フィルム基材に吹き付けた後に、ドライアイスブラスト材が昇華するような温度及び圧力下でブラスト材を吹き付けることが好ましい。例えば、常温常圧下でブラスト材を樹脂フィルム基材に吹き付けることにより、樹脂フィルム基材に吹き付けられた後のブラスト材は昇華して気体となる。なお、この発明において、樹脂フィルム基材の膜厚や、ブラスト材の寸法及び形状は上記の値及び形状に限定されるものではない。
【0038】
また、ガン又はノズルから噴出させて樹脂フィルム基材に吹き付けるまでの間の空気中で、ドライアイスブラスト材の大きさを制御しても良い。常温常圧下ではドライアイスブラスト材は昇華するため、固体化されたブラスト材は小さくなる。従って、ガン又はノズルから樹脂フィルム基材まので距離を長くするほど、樹脂フィルム基材に到達するブラスト材の大きさは小さくなる。
【0039】
樹脂フィルム基材を一方の面から支持部材により支持し、支持されている反対側の面に対してブラスト材を吹き付けてもよい。一方、樹脂フィルム基材を何ら支持部材により支持せず、例えば複数のロール間にわたした樹脂フィルム基材に対してブラスト材を吹き付けてもよい。本発明の樹脂フィルムの製造方法では、前記樹脂フィルム基材の表面の粗面化を抑制する観点から、樹脂フィルム基材を何ら支持部材により支持せずにドライアイスブラストを吹き付けることが好ましい。
【0040】
また、ドライアイスにより冷却されて結露が生じるおそれがあるため、ドライアイスブラスト処理前、ドライアイスブラスト処理中、ドライアイスブラスト処理後などにおいて、雰囲気の露点を下げておくことが好ましい。例えば、10℃以下に露点を下げることが望ましい。具体的には、ドライアイスブラスト処理をチャンバー内などで行い、そのチャンバー内に昇華した二酸化炭素ガスや窒素ガス等を充満させて、露点を下げる。また、例えば露点が−60℃のドライエアーをチャンバー内に充満させても良い。
【0041】
<塗布工程>
(塗布方法)
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面にポリマーを含むポリマー溶液を塗布する塗布工程を含む。
前記塗布工程は、簡便であると共に、均一性で薄膜での形成が可能である点で好ましい。前記塗布方法としては、例えば、グラビアコーター、バーコーターなどの公知の塗布方法を利用することができる。
【0042】
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、前記ポリマー溶液を塗布厚みが0.8μm〜12μmとなるように塗布することが好ましく、より好ましくは1.0μm〜8μmであり、特に好ましくは2〜4μmである。
膜厚が0.8μm以上であれば、湿熱環境下に暴露したとき前記ポリマー層表面から内部に水分が浸透し難くなり、該ポリマー層と樹脂フィルム基材との界面に水分が到達し難くなることで、密着性が顕著に改善される。特に前記ポリマー溶液が後述する複合ポリマーを含む場合、密着性が顕著に改善される。従来、例えば特開2008−189828号公報[0047]にはこのようなシリコーン化合物を含む塗布層は、乾燥後の塗布厚みが0.005〜0.5μmであることが好ましいとの記載があり、このようにポリシロキサン構造単位を含む複合ポリマーを含有する塗布層を顕著に厚くすることは検討されていなかった。
また、12μm以下であれば、前記ポリマー層自身が脆弱になり難く、湿熱環境下に暴露したときに前記ポリマー層の破壊が生じにくくなることで密着性が改善される。
【0043】
(溶媒)
前記ポリマー溶液(好ましくは、後述する複合ポリマーを含むポリマー層用塗布液)は、塗布溶媒として水を用いた水系でもよいし、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒を用いた溶剤系でもよい。中でも、環境負荷の観点から、水を溶媒とすることが好ましい。塗布溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
前記ポリマー溶液としては、これに含まれる溶媒中の50質量%以上、好ましくは60質量%以上が水である水系塗布液であることが好ましい。水系塗布液は、環境負荷の点で好ましく、また水の割合が50質量%以上であることにより、環境負荷が特に小さくなる点で有利である。ポリマー層用塗布液中の水の割合は、環境負荷の観点からは、さらに多い方が望ましく、水が全溶媒の90質量%以上含まれる場合がより好ましい。
【0045】
(添加剤)
前記ポリマー溶液には、後述するバック層への利用、着色層への利用を問わず、必要に応じて、架橋剤、界面活性剤、フィラー、複合ポリマー等を添加してもよい。
【0046】
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、前記ポリマー溶液が、架橋剤を含むことが、得られる樹脂フィルムのポリマー層を架橋構造にして、より湿熱耐久性を改善する観点から好ましい。好ましい架橋剤としては、後述の着色層への利用にて挙げた各種架橋剤を用いることが好ましい。
本発明では、ポリマー溶液に架橋剤を添加して、後述する得られるポリマー層が架橋構造を有するようにすることが好ましい。
前記架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。その中でも、湿熱経時後の密着性を確保する観点から、本発明ではオキサゾリン系の架橋剤を用いることが好ましい。
【0047】
前記オキサゾリン系架橋剤の具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。さらに、これらの化合物の(共)重合体も好ましく用いられる。
また、オキサゾリン基を有する化合物として、エポクロスK2010E、同K2020E、同K2030E、同WS−500、同WS−700(いずれも日本触媒化学工業(株)製)等も利用できる。
【0048】
架橋剤の添加量は、前記複合ポリマーを含むポリマー層中のバインダー当たり5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。架橋剤の添加量が5質量%以上であると、着色層の強度及び密着性を保持しながら充分な架橋効果が得られ、50質量%以下であると、塗布液のポットライフを長く保つことができる。
【0049】
前記界面活性剤としては、アニオン系やノニオン系等の公知の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤を添加する場合、その添加量は0.1〜15mg/m2が好ましく、より好ましくは0.5〜5mg/m2である。界面活性剤の添加量は、0.1mg/m2以上であると、ハジキの発生を抑えて良好な層形成が得られ、15mg/m2以下であると、接着を良好に行うことができる。
【0050】
前記ポリマー溶液には、更に、フィラーを添加してもよい。フィラーの添加量は、ポリマー層のバインダー当たり20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。フィラーの添加量が20質量%以下であると、ポリマー層の面状がより良好に保つことができる。
【0051】
(複合ポリマー)
前記ポリマー溶液は、分子中に下記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位と非ポリシロキサン系構造単位とを含む前記複合ポリマーを少なくとも一種を含有する。
一般式(1)
【化2】

一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を表し、nは1以上の整数を表す。R1およびR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
この複合ポリマーを含有することにより、支持体である表面処理された樹脂フィルム基材との間の湿熱環境下における長期の密着耐久性、すなわち熱や水分が与えられて劣化しやすい剥離耐性、形状安定性を従来に比べて飛躍的に向上させることができる。
【0053】
前記複合ポリマーは、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位と非ポリシロキサン系構造単位とが共重合した共重合体であり、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。前記複合ポリマーはブロック共重合体であることが好ましい。前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位、及び共重合される非ポリシロキサン系構造単位は、それぞれ一種単独でもよく、二種以上であってもよい。
【0054】
前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位は、線状、分岐状あるいは環状の構造を有する、各種のポリシロキサンに由来するポリシロキサンセグメントである好ましい。
【0055】
前記複合ポリマー中の前記一般式(1)で表されるポリシロキサンセグメント構造単位について、好ましい態様を説明する。
前記R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を表す。
【0056】
前記R1及びR2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0057】
前記1価の有機基は、Si原子と共有結合可能な1価の有機基を表すことが好ましい。
1およびR2で表される前記「Si原子と共有結合可能な1価の有機基」は、無置換でも置換基を有してもよく、例えば、アルキル基(例:メチル基、エチル基など)、アリール基(例:フェニル基など)、アラルキル基(例:ベンジル基、フェニルエチルなど)、アルコキシ基(例:メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)、アリールオキシ基(例;フェノキシ基など)、メルカプト基、アミノ基(例:アミノ基、ジエチルアミノ基など)、アミド基等が挙げられる。
その中でも、樹脂フィルム基材との密着性及び湿熱環境下での耐久性の点で、前記R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、塩素原子、臭素原子、無置換の又は置換された炭素数1〜4のアルキル基(特にメチル基、エチル基)、無置換の又は置換されたフェニル基、メルカプト基、無置換のアミノ基およびアミド基が好ましい。前記R1およびR2はそれぞれ独立により好ましくは、湿熱環境下での耐久性の点で、無置換の又は置換されたアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の無置換アルコキシ基である。
【0058】
前記nは1〜5000であることが好ましく、1〜1000であることが特に好ましい。
【0059】
本発明では、前記複合ポリマー分子全体に対して、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位は15〜85質量%であり、その中でも樹脂フィルム基材との密着性及び湿熱環境下での耐久性の点で、20〜80質量%の範囲が好ましい。
ポリシロキサン構造単位の比率は、15質量%以上であれば樹脂フィルム基材との密着性及び湿熱環境下に曝された際の密着耐久性が改善し、85質量%以下であれば塗布液が安定になる。
【0060】
また、前記複合ポリマー中、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位部分と共重合する、非ポリシロキサン系構造単位部分としては、非ポリシロキサン系構造単位が繰り返し単位として共重合している以外は特に制限されるものではなく、任意のポリマーに由来のポリマーセグメントのいずれであってもよい。ポリマーセグメントの前駆体である重合体(前駆ポリマー)としては、例えば、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体等の各種の重合体等が好ましく挙げられ、すなわち、本発明では前記非ポリシロキサン系構造単位が、ビニル系構造単位、ポリエステル系構造単位およびポリウレタン系構造単位の少なくとも一種であることが好ましい。すなわち、本発明では複合ポリマーの非ポリシロキサン系構造単位が、ビニル系構造単位、ポリエステル系構造単位およびポリウレタン系構造単位の少なくとも一種であることが好ましい。調製が容易なこと及び耐加水分解性に優れる点から、ビニル系重合体及びポリウレタン系重合体がより好ましい。
【0061】
前記ビニル系重合体の代表的な例としては、アクリル系重合体、カルボン酸ビニルエステル系重合体、芳香族ビニル系重合体、フルオロオレフィン系重合体等の各種の重合体が挙げられる。中でも、設計の自由度の観点から、アクリル系重合体が特に好ましい。
なお、非ポリシロキサン系構造単位を構成する重合体は、1種単独でもよいし、2種以上の併用であってもよい。
【0062】
また、非ポリシロキサン系構造単位をなす前駆ポリマーは、酸基及び中和された酸基の少なくとも1つ並びに/又は加水分解性シリル基を含有するものが好ましい。このような前駆ポリマーのうち、ビニル系重合体は、例えば、(a)酸基を含むビニル系単量体と加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を含むビニル系単量体とを、これらと共重合可能な単量体と共重合させる方法、(2)予め調製した水酸基並びに加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を含むビニル系重合体にポリカルボン酸無水物を反応させる方法、(3)予め調製した酸無水基並びに加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を含むビニル系重合体を、活性水素を有する化合物(水、アルコール、アミン等)と反応させる方法などの各種方法を利用して調製することができる。
このような前駆ポリマーは、例えば、特開2009−52011号公報の段落番号0021〜0078に記載の方法を利用して製造、入手することができる。
【0063】
前記複合ポリマーを含むポリマー層は、バインダーとして、前記複合ポリマーを単独で用いてもよいし、他のポリマーと併用してもよい。他のポリマーを併用する場合、本発明における複合ポリマーの比率は、全バインダーの30質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。複合ポリマーの比率が30質量%以上であることにより、樹脂フィルム基材との密着性及び湿熱環境下での耐久性により優れる。
【0064】
前記複合ポリマーの分子量は5000〜100,000であることが好ましく、10000〜50,000であることがより好ましい。
【0065】
前記複合ポリマーの調製には、(i)前記非ポリシロキサン系構造単位の前駆ポリマーと、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位を有する特定のポリシロキサンとを反応させる方法、(ii)前記非ポリシロキサン系構造単位の前駆ポリマーの存在下に、R1及び/又はR2が加水分解性基である前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位の構造を有するシラン化合物を加水分解縮合させる方法、等の方法を利用することができる。
前記(ii)の方法で用いられるシラン化合物としては、各種シラン化合物が挙げられるが、アルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0066】
前記(i)の方法により複合ポリマーを調製する場合、例えば、前駆ポリマーとポリシロキサンの混合物に、必要に応じて水と触媒を加え、20〜150℃程度の温度で30分〜30時間程度(好ましくは50〜130℃で1〜20時間)反応させることにより調製することができる。触媒としては、酸性化合物、塩基性化合物、金属含有化合物等の各種のシラノール縮合触媒を添加することができる。
また、前記(ii)の方法により複合ポリマーを調製する場合、例えば、前駆ポリマーとアルコキシシラン化合物の混合物に、水とシラノール縮合触媒を添加して、20〜150℃程度の温度で30分〜30時間程度(好ましくは50〜130℃で1〜20時間)加水分解縮合を行うことにより調製することができる。
【0067】
(ポリマー溶液により形成されるポリマー層)
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、前記ポリマー溶液により形成されるポリマー層は、特に機能に制限はなく、任意の機能層として用いることができる。
また、前記複合ポリマーを含むポリマー層は、前記樹脂フィルム基材の表面に接触させてあるいは他の層を介して配置される層であり、少なくとも、特定の複合ポリマーを用いて構成されている。本発明における複合ポリマー層は、表面処理された樹脂フィルム基材との密着が改善されるので、樹脂フィルム基材に直に形成されることが好ましい。すなわち、前記複合ポリマーを含むポリマー層の少なくとも一層が、前記樹脂フィルム基材の表面処理を施された表面に接触させて設けられていることが好ましい。
【0068】
前記複合ポリマーを含むポリマー層は、太陽電池保護シートを構成する任意の層に適用することができる。ポリマー層は、例えば、太陽電池バックシートの後述する下塗り層や反射層やバック層として適用することができる。下塗り層として用いることが特に好ましい。
【0069】
この前記複合ポリマーを含むポリマー層は、場合に応じて更に他の成分を用いて構成することができ、適用する用途によりその構成成分が異なる。前記複合ポリマーを含むポリマー層は、太陽光の反射機能や外観意匠性の付与などを担う着色層や、太陽光が入射する側と反対側に配されるバック層などを構成することができる。
前記複合ポリマーを含むポリマー層を、例えば、太陽光をその入射側に反射させる反射層として構成する場合、白色顔料等の着色剤を更に用いて構成することができる。
【0070】
本発明の太陽電池保護シートにおいては、複合ポリマーを含むポリマー層は、該複合ポリマーを含むポリマー層が上記のように複合ポリマーを含み、複合ポリマー自身が湿熱環境下での劣化耐性(密着耐久性)に優れることが好ましい。
そのため、本発明では前記複合ポリマーを含むポリマー層の少なくとも一層が、樹脂フィルム基材から最も離れた位置に配された最外層として設けられていることも好ましく、前記樹脂フィルム基材の表面に接触しない位置に配置された最外層であることがより好ましい。具体的には、例えば、太陽電池素子を備えた電池側基板と対向する側(オモテ側)とは反対側(裏側)に配置されるバック層、電池側基板の太陽電池素子を封止する封止剤と接触させて配される光反射性の反射層などである。
【0071】
(1)下塗り層への利用
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、前記ポリマー溶液により、いわゆる下塗り層を形成することが好ましい。
前記下塗り層はバインダーを含有し、0.05〜10μmの厚みでポリマー支持体の少なくとも片面に設けられ、ポリマー支持体と前記ポリマー層、例えば含フッ素ポリマー層との密着性を高める層であることが好ましい。
下塗り層の厚みは、厚み2μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.05μm〜2μmであり、更に好ましくは0.1μm〜1.5μmである。厚みが2μm以下であると、面状を良好に保つことができる。また、厚みが0.05μm以上であることにより、必要な密着性を確保しやすい。
【0072】
下塗り層は、バインダーを含有することができる。バインダーとしては、例えば、下塗り層を主に構成するバインダー(結着樹脂)としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。これらの中でも、ポリマー支持体(基材)及び含フッ素ポリマー層との高い密着性を確保する観点から、ポリオレフィン、アクリル樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂がより好ましい。また。複合樹脂を用いてもよく、例えばアクリル/シリコーン複合樹脂も好ましいバインダーである。
また、下塗り層には、バインダー以外に、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤、アニオン系やノニオン系等の界面活性剤、シリカ等のフィラーなどを添加してもよい。
【0073】
下塗り層を塗布するための方法や用いる塗布液の溶媒には、特に制限はない。
塗布方法としては、例えばグラビアコーターやバーコーターを利用することができる。
塗布液に用いる溶媒は、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒でもよい。溶媒は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、塗布は、2軸延伸した後の樹脂フィルム基材に塗布してもよいし、1軸延伸後の樹脂フィルム基材に塗布した後に初めの延伸と異なる方向に延伸する方法でもよい。さらに、延伸前の基材に塗布した後に2方向に延伸してもよい。
【0074】
(2)バック層への利用
前記ポリマー層を太陽電池保護シートのバック層として構成する場合、前記複合ポリマーに加え、必要に応じて、さらに各種添加剤などの他の成分を含んで構成されてもよい。電池側基板(=太陽光が入射する側の透明基板(ガラス基板等)/太陽電池素子)/太陽電池用バックシートの積層構造を有する太陽電池において、バック層は支持体である樹脂フィルム基材の前記電池側基板と対向する側と反対側に配される裏面保護層であり、1層構造でもよいし、2層以上を積層した構造であってもよい。
【0075】
バック層を2層以上設ける場合は、両方のバック層が前記複合ポリマーを含むポリマー層であってもよく、一方のみのバック層が前記複合ポリマーを含むポリマー層であってもよい。その中でも、少なくとも、樹脂フィルム基材と接する第一のバック層が前記複合ポリマーを含むポリマー層であることが、湿熱環境下における密着耐久性を改善する観点から好ましい。
なお、この場合、第二のバック層は、一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位と非ポリシロキサン構造単位を含有する複合ポリマーを含んでいなくてもよいが、その場合は、ポリシロキサンの単独重合体を含んでいないことが、樹脂単独の空隙のない均一膜を形成してポリマー樹脂と白色顔料の間の空隙から水分を侵入させにくくし、湿熱環境下における密着耐久性を改善する観点から好ましい。
【0076】
バック層中に含むことができる他の成分については、着色層において後述する架橋剤、界面活性剤、フィラー等が挙げられる。また、必要に応じて、着色層に用いられる顔料を含んでもよい。これらの他の成分及び顔料の詳細、好ましい態様については、後述する。
【0077】
(3)着色層・反射層への利用
前記ポリマー層を着色層(好ましくは白色顔料を有する反射層)として構成する場合、前記複合ポリマーに加え、さらに顔料を含有する。着色層は、必要に応じて、さらに各種添加剤などの他の成分を含んで構成されてもよい。
本発明の太陽電池保護シートは、前記複合ポリマーを含むポリマー層の少なくとも一層が、白色顔料を含む光反射性の反射層であることが好ましい。
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面に塗布されたポリマー層の表面に、白色顔料を含む塗布組成物を塗布する工程を含むことが好ましい。
【0078】
着色層の機能としては、第1に、入射光のうち太陽電池セルを通過して発電に使用されずにバックシートに到達した光を反射させて太陽電池セルに戻すことにより、太陽電池モジュールの発電効率を上げること、第2に、太陽電池モジュールを太陽光が入射する側(オモテ面側)から見た場合の外観の装飾性を向上すること、等が挙げられる。一般に太陽電池モジュールをオモテ面側から見ると、太陽電池セルの周囲にバックシートが見えており、バックシートに着色層を設けることにより装飾性を向上させて見栄えを改善することができる。
【0079】
前記着色層は、顔料の少なくとも一種を含有することができる。
顔料としては、例えば、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、群青、紺青、カーボンブラック等の無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料を、適宜選択して含有することができる。
【0080】
顔料のうち、ポリマー層を、太陽電池に入射して太陽電池セルを通過した光を反射して太陽電池セルに戻す反射層として構成する場合、白色顔料が好ましい。前記白色顔料としては、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク等が好ましい。
【0081】
顔料の着色層中における含有量は、2.5〜8.5g/m2の範囲が好ましい。顔料の含有量が2.5g/m2以上であると、必要な着色が得られ、反射率や装飾性を効果的に与えることができる。また、顔料の着色層中における含量が8.5g/m2以下であると、着色層の面状を良好に維持しやすく、膜強度により優れる。中でも、顔料の含有量は、4.5〜8.0g/m2の範囲がより好ましい。
【0082】
顔料の平均粒径としては、体積平均粒径で0.03〜0.8μmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5μm程度である。平均粒径が前記範囲内であると、光の反射効率が高い。平均粒径は、レーザー解析/散乱式粒子径分布測定装置LA950〔(株)堀場製作所製〕により測定される値である。
【0083】
前記複合ポリマーを含むポリマー層を着色層として構成する場合、バインダー成分(前記複合ポリマーを含む)の含有量は、顔料に対して、15〜200質量%の範囲が好ましく、17〜100質量%の範囲がより好ましい。バインダーの含有量は、15質量%以上であると、着色層の強度が充分に得られ、また200質量%以下であると、反射率や装飾性を良好に保つことができる。
【0084】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、本発明の樹脂フィルムの製造方法により製造されることを特徴とする。本発明の樹脂フィルムは、太陽電池保護シートに好ましく用いることができるが、本発明はその態様に限定されるものではない。
【0085】
<太陽電池保護シート>
本発明の太陽電池保護シートは、本発明の樹脂フィルムを含むことを特徴とする。
本発明の太陽電池保護シートは、着色層に顔料として白色顔料を添加して反射層とする場合、着色層及び易接着性層が設けられている側の表面における550nmの光反射率は、75%以上であることが好ましい。なお、光反射率とは、易接着性層の表面から入射した光が反射層で反射して再び易接着性層から出射した光量の入射光量に対する比率である。ここでは、代表波長光として、波長550nmの光が用いられる。
光反射率が75%以上であると、セルを素通りして内部に入射した光を効果的にセルに戻すことができ、発電効率の向上効果が大きい。着色剤の含有量を2.5〜8.5g/m2の範囲で制御することにより、光反射率を75%以上に調整することができる。
【0086】
本発明の太陽電池保護シートは、120℃、相対湿度100%の雰囲気下に48時間保存した後、かつ130℃、相対湿度100%の雰囲気下に240時間保存した後の封止材との接着力が、保存前の封止材との接着力に対し、75%以上であることが好ましい。本発明の太陽電池保護シートを太陽電池用バックシートとして用いる場合は、既述の通り、バインダーと該バインダーに対して好ましい量の無機微粒子とを含み、EVA系封止材に対して10N/cm以上の接着力を持つ易接着層を有することが、前記保存後にも保存前の75%以上の接着力が得られる観点から好ましい。これにより、作製された太陽電池モジュールは、バックシートの剥がれやそれに伴う発電性能の低下が抑制され、長期耐久性がより向上する。
【0087】
<他の機能層>
本発明の太陽電池保護シートは、前記樹脂フィルム基材と、前記ポリマー層以外に他の機能層を有していてもよい。前記他の機能層としては、易接着層を挙げることができる。
【0088】
(易接着性層)
本発明の太陽電池保護シートには、特に太陽電池用のバックシートとして用いる場合、前記複合ポリマーを含有するポリマー層(特に反射層)の上に、さらに易接着性層が設けられていてもよい。易接着性層は、バックシートを電池側基板(電池本体)の太陽電池素子(以下、発電素子ともいう)を封止する封止材と強固に接着するための層である。
【0089】
易接着性層は、バインダー、無機微粒子を用いて構成することができ、必要に応じて、さらに添加剤などの他の成分を含んで構成されてもよい。易接着性層は、電池側基板の発電素子を封止するエチレン−ビニルアセテート(EVA;エチレン−酢酸ビニル共重合体)系封止材に対して、10N/cm以上(好ましくは20N/cm以上)の接着力を有するように構成されていることが好ましい。接着力が10N/cm以上であると、密着性を維持し得る湿熱耐性が得られやすい。
【0090】
なお、接着力は、易接着性層中のバインダー及び無機微粒子の量を調節する方法、バックシートの封止材と接着する面にコロナ処理を施す方法などにより調整が可能である。
【0091】
易接着性層は、バインダーの少なくとも一種を含有することができる。
易接着性層に好適なバインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられ、中でも耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂として、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。
【0092】
好ましいバインダーの例としては、ポリオレフィンの具体例としてケミパールS−120、S−75N(ともに三井化学(株)製)、アクリル樹脂の具体例としてジュリマーET−410、SEK−301(ともに日本純薬(株)製)、アクリルとシリコーンとの複合樹脂の具体例としてセラネートWSA1060、WSA1070(ともにDIC(株)製)とH7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)などを挙げることができる。
【0093】
バインダーの易接着性層中における含有量は、0.05〜5g/m2の範囲とする。中でも、0.08〜3g/m2の範囲が好ましい。バインダーの含有量は、0.05g/m2未満であると所望とする接着力が得られず、5g/m2を超えると良好な面状が得られない。
【0094】
易接着性層は、無機微粒子の少なくとも一種を含有することができる。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。中でも、湿熱雰囲気に曝されたときの密着性の低下が小さい点で、酸化錫、シリカの微粒子が好ましい。
【0095】
無機微粒子の粒径は、体積平均粒径で10〜700nm程度が好ましく、より好ましくは20〜300nm程度である。粒径がこの範囲内であると、より良好な易接着性を得ることができる。粒径は、レーザー解析/散乱式粒子径分布測定装置LA950〔(株)堀場製作所製〕により測定される値である。
【0096】
無機微粒子の形状には、特に制限はなく、球形、不定形、針状形等のいずれのものを用いることができる。
【0097】
無機微粒子の含有量は、易接着性層中のバインダーに対して、5〜400質量%の範囲とする。無機微粒子の含有量は、5質量%未満であると、湿熱雰囲気に曝されたときに良好な接着性が保持できず、400質量%を超えると、易接着性層の面状が悪化する。
中でも、無機微粒子の含有量は、50〜300質量%の範囲が好ましい。
【0098】
易接着性層には、架橋剤の少なくとも一種を含有することができる。
易接着性層に好適な架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。中でも、湿熱経時後の密着性を確保する観点から、オキサゾリン系架橋剤が特に好ましい。
【0099】
架橋剤の易接着性層中における含有量としては、易接着性層中のバインダーに対して、5〜50質量%が好ましく、中でもより好ましくは20〜40質量%である。架橋剤の含有量は、5質量%以上であると、良好な架橋効果が得られ、着色層の強度や密着性を保持することができ、50質量%以下であると、塗布液のポットライフを長く保つことができる。
【0100】
本発明における易接着性層には、必要に応じて、更に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカ等の公知のマット剤、アニオン系やノニオン系などの公知の界面活性剤などを添加してもよい。
【0101】
易接着性層の形成は、易接着性を有するポリマーシートを基材に貼合する方法や、塗布による方法が挙げられる。中でも、塗布による方法は、簡便であると共に、均一性で薄膜での形成が可能である点で好ましい。塗布方法としては、例えば、グラビアコーターやバーコーターなどの公知の塗布法を利用することができる。塗布液の調製に用いる塗布溶媒は、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒でもよい。塗布溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0102】
易接着性層の厚みには、特に制限はないが、通常は0.05〜8μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。易接着性層の厚みは、0.05μm以上であると必要な易接着性を好適に得ることができ、8μm以下であると面状がより良好になる。
また、本発明の易接着性層は、着色層の効果を低減させないために、透明であることが好ましい。
【0103】
<太陽電池用バックシート>
本発明の樹脂フィルムは、特に、太陽電池用バックシートとして用いることが好ましい。また、そのとき、前記ポリマー層の少なくとも一層が、白色顔料を含む光反射性の反射層である本発明の樹脂フィルムを用いることがより好ましく、前記複合ポリマーを含むポリマー層の少なくとも一層が白色顔料を含む光反射性の反射層である本発明の太陽電池保護シートを用いることが特に好ましい。
【0104】
(バックシートの製造)
本発明の太陽電池用バックシートは、上記のように、樹脂フィルム基材の上に前記複合ポリマーを含有するポリマー層と、必要に応じて易接着性層とを形成することができる方法であればいずれの方法により作製されてもよい。本発明においては、樹脂フィルム基材上に前記複合ポリマーを含有するポリマー層用塗布液(及び必要に応じて易接着性層用塗布液等)を塗布する工程を設けて作製する方法により好適に作製することができる。
なお、前記複合ポリマーを含有するポリマー層用塗布液は、既述のように少なくとも複合ポリマーを含有する塗布液である。樹脂フィルム基材、及び各塗布液を構成する複合ポリマー及び他の成分などの詳細については、既述の通りである。
【0105】
好適な塗布法も既述の通りであり、例えばグラビアコーターやバーコーターを利用することができる。また、本発明における塗布工程では、樹脂フィルム基材の表面に直にあるいは厚み2μm以下の下塗り層を介して、ポリマー層用塗布液を塗布し、樹脂フィルム基材上にポリマー層(例えば着色層(好ましくは反射層)やバック層)を形成することができる。
【0106】
[太陽電池モジュール]
本発明の太陽電池モジュールは、本発明の太陽電池保護シートを少なくとも1枚含むことを特徴とする。
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光が入射する側の透明性のフロント基板と、太陽電池素子が封止材で封止された電池側基板と、前記電池側基板の前記フロント基板とは反対側に、前記封止材と接するように配置された太陽電池バックシートを含み、前記太陽電池バックシートとして本発明の太陽電池保護シートまたは本発明の太陽電池バックシートを備えることが好ましい。
具体的な構成としては、例えば、本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明の太陽電池用バックシートとの間に配置し、該基板とバックシートとの間で太陽電池素子をエチレン−ビニルアセテート系等の封止材で封止、接着して構成されていることが好ましい。
【0107】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0108】
前記透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。また、必要に応じて、本発明の太陽電池保護シートを前記透明性の基板として用いてもよい。
【0109】
前記太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0110】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0111】
[実施例1]
<PET−1の作製>
(工程1) −エステル化−
高純度テレフタル酸(三井化学(株)製)100kgとエチレングリコール(日本触媒化学工業(株)製)45kgのスラリーを、あらかじめビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に、4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行った。その後、得られたエステル化反応生成物123kgを重縮合反応槽に移送した。
【0112】
(工程2) −ポリマーペレットの作製−
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合反応槽に、エチレングリコールを、得られるポリマーに対して0.3質量%添加した。5分間撹拌した後、酢酸コバルト及び酢酸マンガンのエチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してそれぞれ30ppm、15ppmとなるように加えた。更に5分間撹拌した後、チタンアルコキシド化合物の2質量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対して5ppmとなるように添加した。その5分後、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10質量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対して5ppmとなるように添加した。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし、常圧に戻し、重縮合反応を停止した。そして、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリマーのペレット(直径約3mm、長さ約7mm)を作製した。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
但し、前記チタンアルコキシド化合物には、特開2005−340616号公報の段落番号[0083]の実施例1で合成しているチタンアルコキシド化合物(Ti含有量=4.44質量%)を用いた。
【0113】
(工程3) −フィルム状樹脂フィルム基材の作製−
工程2で作成したペレットを、280℃で溶融して金属ドラムの上にキャストし、厚さ約3mmの未延伸フィルムを作成した。その後、90℃で縦方向に3倍に延伸し、更に120℃で横方向に3.3倍に延伸した。こうして、厚み300μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートのフィルム状樹脂フィルム基材(以下、「PET」と称する)を得た。
PETのカルボキシル基含量は、30等量/tであった。
【0114】
<表面処理>
樹脂フィルム基材PETの両面に施す表面処理条件を下記の条件の火炎処理とした。
(1)第1の表面処理工程
(火炎処理)
PETを搬送させながら、横長型バーナーを用い、プロパンガスと空気を1/20(体積比)に混合したガスを燃焼させた火炎をPETの表面に0.5秒間照射した。
【0115】
(2)搬送工程
(搬送ロールでの冷却処理)
前記火炎処理工程終了から1秒後に、表面処理を行った側のPETの一方の表面を酸化クロムロールに接触させ、ドライアイスブラストによる官能基付与工程直前の温度が40℃となるように冷却した。
なお、冷却試験ロールは、基材がSUS316のφ276mmの芯ロールに酸化クロム(III)を規定厚さ0.03mmに達するまで溶射を行ったものを用いた。冷却ロールは、芯及び空洞部がそれぞれφ214mm分あり、その外側28.5mm分に冷却水を注入する構造となっていた。冷却時間は、使用冷却ロールの芯ロールの直径の変更または、ライン速度で調節した。
【0116】
(3)官能基付与工程
(ドライアイスブラスト処理)
前記冷却ロールを介して搬送したフィルムについて、ドライアイスブラスト処理直前の表面温度を放射温度計により測定した。その結果を下記表1に記載した。
その後、搬送速度60m/分で搬送しながら、前記冷却ロールを介して搬送したフィルムの表面処理工程を行った側の表面に、吐出速度100m/秒でドライアイスブラスト処理を施した。
その他の、ドライアイスブラスト処理の条件は、平均粒径3×1mmのペレット状のドライアイスのブラスト材を使用し、供給圧力は1MPaとした。
【0117】
<ブロッキング評価>
ドライアイスブラスト処理後の樹脂フィルムを、ドライアイスブラスト処理をした側の面が内側となるように、3インチ紙巻芯に30kgf/mの巻取りテンションで50Om分巻きつけた。23℃、相対湿度50%雰囲気下で24時間保管した後、巻きつけたフィルムの接着状態を以下の基準で評価した。
◎:接着部分なし。
○:巻き芯側に部分的に接着部位があるものの、面上に問題なく剥がれる。
△:接着部位が多くあり、剥がすと面状に痕跡が残る。
×:ほとんどの部位で接着部位あり。
【0118】
<複合ポリマー水分散物P−1の合成>
(工程1)
撹拌装置、滴下ロートを備え、窒素ガス置換した反応容器に、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル(PNP)81部、イソプロピルアルコール(IPA)360部、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)110部、及びジメチルジメトキシシラン(DMDMS)71部を仕込み、窒素ガス雰囲気下に撹拌しながら80℃に昇温した。
(工程2)
次いで、この反応容器内に同温度で、メチルメタクリレート(MMA)260部、n−ブチルメタクリレート(BMA)200部、n−ブチルアクリレート(BA)110部、アクリル酸(AA)30部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)19部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート31.5部(TBPO)、及びPNP31.5部からなる混合物を4時間かけて滴下した。その後、同温度で2.5時間加熱撹拌を行い、重量平均分子量が29,300の、カルボキシル基と加水分解性シリル基を含むアクリル系ポリマーの溶液を得た。
(工程3)
次いで、これに脱イオン水54.8部を加え、16時間加熱撹拌を継続してアルコキシシランを加水分解し、さらにアクリル系ポリマーと縮合させることにより、不揮発分(NV)=56.3質量%、溶液酸価=22.3mgKOH/gの、カルボキシル基含有アクリル系ポリマーに由来する構造単位とポリシロキサン構造単位とを有する複合ポリマーの溶液を得た。
(工程4)
次に、この溶液に同温度で、撹拌しながらトリエチルアミン42部を添加して10分間撹拌を行った。これにより、含有されるカルボキシル基の100%が中和された。
(工程5)
その後、同温度で脱イオン水1250部を1.5時間かけて滴下して転相乳化させた後、50℃に昇温して30分間撹拌を行った。次いで、内温40℃で3.5時間をかけて、有機溶剤とともに水の一部分を減圧下除去した。
【0119】
こうして固形分濃度が42質量%、平均粒子径が110nmの、ポリシロキサン構造単位とカルボキシル基含有アクリル系ポリマーに由来する構造単位とを含む複合ポリマーの水分散物P−1を得た。水分散物P−1は、ポリシロキサン構造単位が約25%であり、アクリル系ポリマー構造単位が約75%である。
【0120】
<塗布層塗布液1の調製>
下記の(i)〜(iv)の成分を混合し、ポリシロキサン構造単位を含む複合ポリマーを含有する塗布層用塗布液を調製した。
(塗布層用塗布液1の組成)
(i)複合ポリマー水分散物P−1 ・・・45.9部
(バインダ一、固形分濃度42質量%)
(ii)オキサゾリン化合物(架橋剤) ・・・7.7部
(エポクロスWS−700、日本触媒化学工業(株)製、固形分:25質量%)
(iii)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・2.0部
(ナ口アクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
(iv)蒸留水 ・・・44.4部
【0121】
<塗布層の形成>
得られた塗布層塗布液1を、前記PETのドライアイスブラスト処理を施した側の面に、バインダー量が3.0g/m2になるように塗布し、180℃で1分間乾燥させて、乾燥厚み3μmの、ポリシロキサン構造単位を含む複合ポリマーを含有する塗布層を形成した。
得られた樹脂フィルムを、実施例1の樹脂フィルムとした。
【0122】
<密着性評価>
得られた試料について、以下の方法で密着性評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0123】
作成した各実施例および比較例の樹脂フィルムと下塗り層を積層したサンプルシートの下塗り層表面に、片刃のカミソリで縦横それぞれ6本ずつの傷をつけ、25マスのマス目を形成した。この上にマイラーテープ(ポリエステルテープ)を貼り付け、手動で試料表面に沿って180°方向に引っ張って剥離した。このとき、剥離されたマス目の数によって、樹脂フィルムと下塗り層の密着性を下記の評価基準にしたがってランク分けした。評価ランク◎、○が、実用上許容可能な範囲である。
◎:剥離したマス目はなかった(0マス)。
○:剥離したマス目が0マスから2マス未満であった。
△:剥離したマス目が2マス以上10マス未満であった。
×:剥離したマス目が10マス以上であった。
【0124】
[実施例2〜14、比較例1〜3]
下記表1に記載のとおりに、用いた搬送ロール、表面活性化工程から搬送ロールに接触できる時間、官能基付与工程前の温度、官能基付与工程におけるドライアイスの吐出速度、フィルム搬送速度を変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例の樹脂フィルムを作製した。
なお、実施例10では、酸化クロムにより溶射したロールの代わりにタングステンカーバイドにより溶射したタングステンカーバイド(WCと略す)ロールを用いた。実施例11では、酸化クロムにより溶射したロールの代わりにテフロンコーティングしたテフロンロールを用いた。
【0125】
[比較例4〜6および14]
それぞれ実施例1において、ドライアイスブラスト処理を下記の条件のCO2ガスによる吹き付けに変更し、下記表1に記載の搬送速度に変更した以外は、実施例1〜3と同様にして、樹脂フィルムを作製した。
【0126】
[比較例7〜9]
それぞれ実施例1〜3において、樹脂フィルム基材PETの両面に施す表面処理を下記の条件のコロナ処理に変更し、搬送速度を20m/分に変更した以外は、実施例1〜3と同様にして、樹脂フィルムを作製した。
<コロナ処理条件>
PETを搬送させながら、幅30cmの電極に0.15kW印加して生成したコロナ放電をPET表面に照射した。
【0127】
[比較例10〜12]
実施例1において、表面処理を行わず、下記表1に記載の搬送速度に変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを作製した。
【0128】
[実施例15]
樹脂フィルム基材PET−1を以下の方法で製造したPENに変更し、下記表1に記載の条件で、樹脂フィルムを作製した。
<PENの製造方法>
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100kg、エチレングリコ−ル58kg、酢酸マンガン4水和物0.029kg、三酸化アンチモン0.028kg、平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子を0.1%を加え、撹拌しながら200℃に加熱した。副生するメタノ−ルを除去しつつ235℃まで昇温した。メタノ−ルの副生が終了後トリメチルリン酸0.03部を添加し、285℃に昇温しながら0.3Torrに減圧して重合した。
上記方法で調整した反応性生物をペレットに成形した。その後、ペレットを310℃で溶融して金属ドラムの上にキャストし、未延伸フィルムを作成した。その後、125℃で縦方向に1.2倍に延伸し、さらに135℃で横方向に3.0倍に延伸した。こうして、厚み120μmの2軸延伸ポリエチレンナフタレートのフィルム状樹脂フィルム基材(以下「PEN」と称する)を得た。
【0129】
[比較例13]
実施例1で、ドライアイスブラスト処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルムを作製した。
【0130】
各実施例および比較例においても、実施例1と同様にして、ブロッキング評価と密着性評価を行った。その結果を下記表1に記載した。
【0131】
【表1】

【0132】
前記表1に示すように、実施例の樹脂フィルムは、ロール状としたときのブロッキングが生じず、さらに下塗り層との密着性も良好であることがわかった。
一方、比較例1〜3は、ロール冷却を行わず、火炎処理PETに対して、Tg以上の温度の状態でドライアイスブラスト処理を行ったものであり、樹脂フィルムと下塗り層の密着性が劣っていることがわかった。比較例4〜6は、ドライアイスブラスト処理の代わりにCO2ガスを用いたものであり、ロール状としたときにブロッキングが生じ、樹脂フィルムと下塗り層の密着性も劣っていることがわかった。比較例7〜9は火炎処理の代わりにコロナ処理を行ったPETに対して、ドライアイスブラスト処理をPETのTg以下で行ったものであり、ロール状としたときにブロッキングが生じ、樹脂フィルムと下塗り層の密着性も劣っていることがわかった。比較例10〜12は表面活性化工程を行っていないPETに対して、ドライアイスブラスト処理をPETのTg以下で行ったものであり、樹脂フィルムと下塗り層の密着性が劣っていることがわかった。
【0133】
[実施例101]
<太陽電池用バックシートの作製>
−反射層用塗布液1の調製−
下記の(i)〜(v)の成分を混合し、ポリシロキサン構造単位を含む複合ポリマーを含有する反射層用塗布液1を調製した。
(i)上記白色顔料分散液・・・80.0部
(ii)上記複合ポリマー水分散物P−1(固形分濃度42質量%)・・・13.7部
(iii)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・・・3.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
(iv)オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・2.0部
(エポクロスWS−700、日本触媒化学工業(株)製、固形分:25質量%)
(v)蒸留水・・・13.3部
【0134】
−反射層の形成−
各実施例の樹脂フィルムの反射層用塗布液1を下塗り層表面に塗布し、180℃で1分間乾燥させて、乾燥厚み10μmの、ポリシロキサン構造単位を含む複合ポリマーを含有する白色顔料層として、二酸化チタン量が6.5g/m2の反射層(白色層)を形成した。
【0135】
[実施例201]
<太陽電池モジュールの作製と評価>
厚さ3mmの強化ガラスと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、結晶系太陽電池セルと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、各実施例で作製したバックシートとをこの順に重ね合わせ、真空ラミネータ(日清紡(株)製、真空ラミネート機)を用いてホットプレスすることにより、EVAと接着させた。このとき、各実施例のバックシートはその白色層上に易接着層を設け、易接着性層がEVAシートと接触するように配置した。また、接着方法は、下記の通りである。
【0136】
<接着方法>
真空ラミネータを用いて、128℃で3分間の真空引き後、2分間加圧して仮接着した。その後、ドライオーブンにて150℃で30分間、本接着処理を施した。
【0137】
得られた太陽電池モジュールを用いて発電運転したところ、いずれも太陽電池として良好な発電性能を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面を火炎処理する工程と、
前記樹脂フィルム基材の火炎処理された側の表面をドライアイスによりブラスト処理する工程と、
樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面にポリマーを含むポリマー溶液を塗布する塗布工程を含み、
前記ドライアイスブラスト処理開始時における前記樹脂フィルム基材の表面温度を、樹脂フィルム基材のガラス転移温度Tg以下に制御することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記火炎処理工程と前記ドライアイスブラスト処理工程を、前記樹脂フィルム基材を搬送しながら行うことを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ドライアイスブラスト工程後、塗布工程の前に前記樹脂フィルム基材を巻き取る工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記火炎処理工程後、3×10-2秒〜6秒で前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
金属炭化物、金属酸化物またはサーメットによる溶射がされた冷却ロール、あるいは、フッ素化合物がコーティングされた冷却ロールを用いて、前記樹脂フィルム基材の表面温度をTg以下に冷却することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルム基材が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー溶液が、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン骨格の構造単位と非ポリシロキサン骨格の構造単位を含む複合ポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を表し、nは1以上の整数を表す。R1およびR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項8】
前記複合ポリマー分子全体に対して、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン構造単位が15〜85質量%であることを特徴とする請求項7に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記R1またはR2を表す前記1価の有機基が、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基およびアミド基から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項7または8に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記非ポリシロキサン系構造単位が、ビニル系構造単位、ポリエステル系構造単位およびポリウレタン系構造単位の少なくとも一種であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー溶液が、架橋剤を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー溶液を塗布厚みが0.8μm〜12μmとなるように塗布することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
樹脂フィルム基材の前記ドライアイスブラスト処理された側の表面に塗布されたポリマー層の表面に、白色顔料を含む塗布組成物を塗布する工程を含む請求項1〜12のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
太陽電池保護シートの製造方法であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項16】
請求項15に記載の樹脂フィルムを含むことを特徴とする太陽電池保護シート。
【請求項17】
請求項16に記載の太陽電池保護シートを少なくとも1枚含むことを特徴とする太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2012−192347(P2012−192347A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58441(P2011−58441)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】