説明

樹脂成形体の塗装膜の剥離方法

【課題】塗装膜剥離剤のような溶剤を使用することなく、所定の大きさに切断した樹脂成形体から塗装膜を確実に剥離させることができる樹脂成形体の塗装膜の剥離方法の提供。
【解決手段】表面に塗装膜が形成されている樹脂成形体を所定の大きさの樹脂片10に切断する第1の工程と、所定の容量の容器20内に、所定量の前記樹脂片10、所定の個数、大きさの金属製の球体15、及び、所定量の水18を投入する第2の工程と、前記容器20内を所定の温度に加熱するとともに、前記容器20を所定の回転数で回転させ、前記容器20内の前記樹脂片10、前記球体15及び前記水18を混合攪拌させ、前記樹脂片10から前記塗装膜11を剥離させる処理を所定の時間行う第3の工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の表面に塗装された塗装膜を、樹脂成形体から剥離除去させる樹脂成形体の塗装膜の剥離方法に関する。更に詳しくは、使用済みの樹脂成形体のリサイクルを可能とするため、塗装膜を樹脂成形体から剥離除去させる樹脂成形体の塗装膜の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車リサイクル法が完全施行になるなど、資源のリサイクル化、再利用化は、現代の重要な課題の一つである。しかしながら、例えば自動車を例にしても、切断された後産業廃棄物として埋め立て処分されるか、圧縮されシュレッダーダストになるかで、ほとんどリサイクルされていないのが現状である。もっと具体的に述べると、自動車本体より取り外すのが容易で、あまりガソリン、油などで汚れていないのでリサイクル化が容易と考えられるバンパーでさえも、リサイクルされていない。その原因の一つとして、バンパーなど樹脂成形体(樹脂成形材)から塗装膜を除去するのが困難であり、塗装膜が除去されていない純度の低いものをリサイクル材として再利用すると、バージン材で成形されたものに比べ、品質、性能等が低下したものになってしまうという問題点が生じていた。例えば、強度等に問題を生じてしまう。
【0003】
従来から行われている樹脂成形体の塗装膜の剥離方法を特許文献から列挙すると、所定の温度に加熱した塗装膜剥離剤に浸債し超音波による振動を加える技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、沸点以下の温度まで加熱した低級アルコールによる技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、投射材をブラストする技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
また、火炎放射で加熱した後、プレスして平坦化し、スチールブラシで削りとる技術も知られている(例えば、特許文献4参照)。さらに、塗装膜層を脆化温度まで急冷した後、投射材を投射する技術や精米機と同様の回転駆動をさせて行う技術なども知られている(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。
【0005】
また、樹脂チップと熱硬化性樹脂成型物のメディアとの混合物をドラム内に投入、攪拌することで剥離する技術も知られている(例えば、特許文献7参照)。さらに、塗料剥離剤中に、塗装済みプラスチックのチップと剛球とを振動接触させて付着塗料を除去する技術も知られている(例えば、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開平06−299107号公報
【特許文献2】特許第3200934号公報
【特許文献3】特開2002−066924号公報
【特許文献4】特開平07−108800号公報
【特許文献5】特開2002−301424号公報
【特許文献6】特開平11−058379号公報
【特許文献7】特開2001−315127号公報
【特許文献8】特開平06−063950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂成形体から塗装膜を剥離して除去する従来の技術は、まだ完成された技術とは言えず改良の余地があるものであった。例えば、特許文献1,2,8に記載された技術は、剥離処理に塗装膜剥離剤のような溶剤、薬剤等を使用するので、溶剤の安全性、劣化の管理、剥離処理した後のリサイクル品の洗浄などに問題が生じる恐れがあった。
また、溶剤、薬剤等の使用は、人へのリスクの増加、地球の環境問題の発生等の問題を発生させるおそれがあった。さらに、特許文献3,4,5に記載された技術は、バンパーを破砕する前に剥離処理を行うため、バンパーの形状ごとに合わせて処理を行う必要があり、治具が多種類に及ぶこと、ヘッドが1つであるから剥離処理時間が長くかかり生産性がよくないという問題点があった。また、曲面部に塗装膜が残るおそれがあるものであった。
【0007】
さらに、特許文献6に記載された技術は、分離手段として使用されるブロワー、バックフィルター等を必要とし、設備の大型化し、設備費用の増大、設置場所の制約等を受けてしまうものであった。特許文献7に記載された技術は、樹脂チップとメディアとの混合物を分離するのが困難であり、粉塵処理装置やサイクロン等を必要とするものであった。すなわち、設備の大型化、設置費用の増大などに問題点を有するおそれがあるものであった。
【0008】
本発明は、このような従来の技術が有していた問題点を解決しようとするためになされたものであり、下記の目的を達成する。
【0009】
本発明の目的は、塗膜剥離剤、塗装剥離剤のような溶剤、薬剤等を使用することなく、簡素な塗装膜剥離装置で、樹脂成形体を所定の大きさに切断した樹脂片から塗装膜を剥離させることができる樹脂成形体の塗装膜の剥離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、表面に塗装膜(11)が形成されている樹脂成形体から前記塗装膜を剥離させる方法であって、前記樹脂成形体を所定の大きさの樹脂片(10)に切断する第1の工程と、所定の容量の容器(20)内に、所定量の前記樹脂片(10)、所定の個数及び大きさの金属製のメディア(15)、及び、所定量の水(18)を投入する第2の工程と、前記容器(20)内を所定の温度に加熱するとともに、前記容器(20)を所定の回転数で回転させ、前記容器(20)内の前記樹脂片(10)、前記メディア(15)及び前記水(18)を加熱した状態で混合攪拌させ、前記樹脂片(10)から前記塗装膜(11)を剥離させる処理を、所定の時間行う第3の工程とからなることを特徴とする。
【0011】
本発明2の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、本発明1において、前記メディアの外形は、球体であることを特徴とする。ただし、前記メディアの外形は、正方体、長方体、楕円体等の形状であっても良い。
【0012】
本発明4の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、本発明1または2において、前記第2の工程は、前記容器(20)の収容体積と、前記メディア(15)、前記樹脂片(10)及び前記水(18)を合計した体積との比が、ほぼ2対1の割合となるように投入する工程であることを特徴とする。
【0013】
本発明5の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、本発明1または2において、前記球体(15)は、直径12〜18mmのものであり、前記第2の工程は、前記容器(20)の容量と前記球体(15)の個数との比が、前記容量1リットルに対して、前記個数が50〜70個の割合となるように投入する工程であることを特徴とする。
【0014】
本発明6の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、本発明1から5において、前記所定の温度は、加熱部(28)の設定温度で90〜110℃であることを特徴とする。
【0015】
本発明7の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、本発明1から6において、前記所定の時間は、50〜70分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法は、容器内に貯留された所定の温度の温水内で、樹脂片と金属製の球体を混合攪拌することにより、樹脂成形体から塗装膜を容易に剥離させることができた。また、塗装膜の剥離を行う塗装膜剥離装置は簡素なものであり、塗装剥離剤のような溶剤、薬剤等を使用しないので、溶剤、薬剤等の劣化、溶剤、薬剤等の後処理、樹脂片の後処理などを行う必要がなくなり、生産性がよく、経済性もよい。そして、人へのリスク低減、地球の環境の問題発生防止を図ることができる。従って、樹脂成形体のリサイクル化を促進させることができ、産業廃棄物削減に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明を行う。
図1は、本発明の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法を実施するための塗装膜剥離装置を模式的に示す概要図、図2は、バンパー片を拡大して図示した斜視図である。図3は、ボールの個数と剥離効率の関係を示す図、図4は、加熱部の設定温度と剥離効率の関係を示す図、図5は、バンパー片の投入量と剥離効率の関係を示す図、図6は、剥離処理時間と剥離効率の関係を示す図である。
【0018】
この実施の形態では、樹脂成形体は、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)の材料で射出成形され、その表面に塗装がなされた自動車のバンパーを例にして説明を行う。すなわち、塗装膜が表面に付着形成された使用済みのバンパーであり、廃棄処理等がされた自動車の車体から取り外した後、リサイクルされるいわゆる廃バンパーである。なお、樹脂成形体は、バンパー以外の他の樹脂成形体であってもよいことはいうまでもない。
【0019】
廃バンパーは、射出成形されたバンパー本体の表面に塗装がされ、表面に塗装膜が付着形成されているものである。廃バンパーを例えば1cm程度のチップ状に切断し、チップ化された廃バンパーであるバンパー片(樹脂片)10を作成した。この廃バンパーをバンパー片10に、破砕機、切断機などで切断する技術は周知なものであり、ここでは詳細な説明は行わない。バンパー片10は、バンパー片本体(樹脂片本体)12と、バンパー片本体12に付着形成された塗装膜11とからなっている。所定の容量の金属(例えば、ステンレス)製密閉容器(以下、容器という。)20を用意した。容器20は、容器20の開口部21から、バンパー片10、所定の大きさ(直径15.8mm)の金属(例えば、ステンレス)製の球体(以下、ボールという)15、及び、所定量の水18を、容器20内に投入し、開口部21を蓋22で密閉する。
【0020】
バンパー片10から塗装膜11を剥離させる塗装膜剥離装置30は、容器20を所定の回転数で中心線Cの周り方向に回転させる回転駆動部27、容器20内のバンパー片10などを容器20の外周側から加熱する加熱部28、回転駆動部27、加熱部28を制御する制御部29などから構成されている。加熱部28としては、例えば、容器20の外周部と対向する面に、ニクロム線等を有するヒータなどが設けられたもの等であることが好ましい。回転駆動部27は、モータ等の駆動力を直接または減速機などを介して容器20に伝達し、回転させるものであることが好ましい。
【0021】
本実施の形態の作用を説明する。本実施の形態では次の工程を順番に行って塗装膜剥離処理を行う。
第1の工程では、廃バンパーを所定の大きさのバンパー片10に切断する。
第2の工程では、所定の容量の容器20内に、所定量のバンパー片10、所定の個数、大きさのボール15、及び、所定量の水18を投入する。
第3の工程では、塗装膜剥離装置30に容器20を設置する。その後、容器20及び容器20内を加熱部28によって所定の温度に加熱するとともに、容器20を所定の回転数で回転させ、容器20内のバンパー片10、球体15及び水18を加熱した状態で混合攪拌させ、バンパー片10から塗装膜11を剥離させる処理を、所定の時間行う。
【0022】
容器20を加熱することで、水18、ボール15およびバンパー片10が加熱され、塗装膜11、バンパー片本体12からなるバンパー片10が軟化する。また、100℃付近まで温度が上昇すると、水蒸気が発生し、表面の塗装膜11を浮かせ剥離しやすくなる。加熱されたバンパー片10にボール15を衝突させ、塗装膜11を粉砕させることで、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる。
【0023】
本実施の形態の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法に関する効果を確認するために、下記の項目を変更しながら実験し、本実施の形態の有効性を確認をした。なお、この実験は、温度を上昇させながらステンレス製ボールによる塗装膜の粉砕を行うことができる装置(水熱ミル振とう式粉砕装置(バブコック日立、オーエムラボテック製))を用いて行った。
1.容器20に投入するボールの個数
2.設定温度に達してから容器20を回転させている時間(振とうさせている時間)
3.加熱部28の設定温度(容器内温度)
4.容器20内に投入するバンパー片10の量
【0024】
以下、本実施の形態を実施例に変えて、詳細に説明する。
〔実施例1 ボールの個数と剥離効率の関係〕
バンパー片10の投入量を0.098N(10gf)、加熱部28の設定温度90℃、水18の量を100mL、容器20等を回転駆動部27が回転させる回転数を300rpmとし、容器20に投入するボール15の個数と剥離効率との関係を求めた。容器20は、容量1L(リットル)、内径寸法12cmのステンレス製のものとした。なお、水18の量は、容器20内でバンパー片10が十分ぬれる量であることが好ましく、この実施例1、後述する実施例2〜5では、バンパー片10と等量またはほぼ等量の水18を投入している。すなわち、水18の量を100mLとしたが、90〜110mL程度であってもよい。また、この実施例1、後述する実施例2〜5では、ボールの大きさは、直径15.8mmのものを使用したが、12〜18mm程度のものであってもよい。
【0025】
容器20内のバンパー片10等を、加熱部28の設定温度90℃まで加熱するとともに、容器20を300rpmの回転数で回転させ、加熱されたバンパー片10、ボール15、水18を混合攪拌させる。
容器20を加熱することで、水18、ボール15およびバンパー片10が加熱される。塗装膜11が表面に付着形成されているバンパー片本体12が所定の温度に加熱され軟化する。また、容器20を回転させることで、加熱されたバンパー片10にボール15を衝突させて塗装膜11を粉砕させ、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる。また、バンパー片10とボール15、バンパー片10とバンパー片10とを、擦り合わせるような動作を行うことでも、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる。
【0026】
ボール15の個数を30〜50個に変えながら、ボール15の個数と剥離効率との関係を求める実験を実施し、その結果を図3に示す。なお、ボール15の1個の重量は0.163N(16.6gf)であり、60個では9.6N(980gf)となる。図3に示すように、容器20内に入れるボール15の個数は、30個で60%、45個で70%、60個で80%と個数が多いほど剥離効率が上昇した。ボール15の直径が15±3mmの場合、ボール15の個数は60個が好適であり、50から70個であってもよい。一方、ボール15の個数が容器20の収容体積に対してあまり多すぎると、ボール15とバンパー片10とがうまく混合されないおそれがあった。
【0027】
なお、この実施例1、後述する実施例2〜5でいう剥離効率は、目測によりおおまかに求めた数値である。剥離効率は、リサイクル化のためには高いほうが好ましいが、それを達成するためのエネルギーコストを考慮し、この実施例1、後述する実施例2から5では80〜90%程度を目標として実験している。
【0028】
〔実施例2 加熱部の設定温度と剥離効率の関係〕
バンパー片10の投入量を0.098N(10gf)、水18の量を100mL、容器20を回転させる回転数を300rpm、ボール15の個数を60個、剥離処理時間を1時間とし、加熱部28の設定温度と剥離効率との関係を求めた。容器20は、容量1Lのステンレス製のものとした。
加熱部28の設定温度を変えながら、容器20を300rpmの回転数で回転させ、バンパー片10、ボール15、水18を混合攪拌させる。
【0029】
容器20を加熱することで、水18、ボール15およびバンパー片10を加熱する。塗装膜11、バンパー片本体12からなるバンパー片10を軟化させる。また、加熱されたバンパー片10にボール15を衝突させ、塗装膜11を粉砕させることで、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる。
加熱部28の設定温度を30〜110℃として実験を実施し、その結果を図4に示す。図4に示すように、加熱部28の設定温度は、常温(30℃)では5%、設定温度90℃で剥離効率約90%、設定温度110℃で剥離効率約95%と高いほど剥離効率が上昇し、設定温度110℃が好適であった。すなわち、100℃付近まで温度が上昇すると、水蒸気が発生し、表面の塗装膜11を浮かせ剥離しやすくなる。
【0030】
この状態で、容器20を回転させ、加熱されたバンパー片10にボール15を衝突させ塗装膜11を粉砕させる。また、バンパー片10とボール15とに擦るような動作をもさせ、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる。このことで、バンパー片本体12から塗装膜11を剥離させる剥離効率が上昇する。しかし、110℃を超える温度にすることはさらに多くのエネルギーを必要とし、このエネルギー増加分ほど剥離効率は上昇しない。
【0031】
〔実施例3 バンパー片の投入量と剥離効率の関係〕
水18の量を100mL、加熱部28の設定温度を110℃、容器20を回転させる回転数を300rpm、ボール15の個数を60個、剥離処理時間を1時間とし、容器20へのバンパー片10の投入量と剥離効率の関係を求めた。バンパー片10の投入量は、0.098N(10gf)から0.98N(100gf)として実験を実施し、その結果を図5に示す。
【0032】
図5に示すように、バンパー片10の投入量が0.098N(10gf)と少ないときに剥離効率が少し高いが、0.196N(20gf)から0.98N(100gf)ではあまり変化がなかった。すなわち、バンパー片10の投入量を0.98N(100gf)まで増加させても80〜90%の剥離効率が得られた。バンパー片10の投入量は、容器20内でバンパー片10が水18に十分ぬれる量であることが好適であり、バンパー片10と水18は等量またはほぼ等量であることが好ましい。
【0033】
〔実施例4 剥離処理時間と剥離効率の関係〕
水18の量を100mL、加熱部28の設定温度を90℃、バンパー片10の投入量を0.098N(10gf)、ボール個数を60個、容器20を回転させる回転数を300rpmとし、剥離処理時間を変更して、剥離処理時間と剥離効率の関係を求めた。剥離処理時間を15分から60分として実験を実施し、その結果を図6に示す。
図6に示すように、剥離処理時間は30分でもある程度の剥離効率は得られたが、剥離処理時間を60分にしたほうが剥離効率が上昇した。すなわち、剥離処理時間は、60±10分位が好適であった。また、60分を超えるような長い時間、剥離処理しても剥離効率はあまり変化がしない。
【0034】
〔実施例5 塗装膜の色と剥離効率の関係〕
以上の結果から、1Lの容器20で塗装膜剥離処理を行う場合、直径15.8mmのボール15の個数は60個、水の量100mL、設定温度110℃、剥離処理時間60分で、バンパー片10の投入量は0.98N(100gf)以下にすることが好適であると判断された。この剥離処理条件にて、塗装色が赤色、白色、黄色の塗装膜を有するバンパー片で実験を実施し、その結果を図5に示す。図5に示すように、塗装色の種類により塗装膜のはがれ方やはがれ具合は異なったが、どの塗装色でも80〜90%の剥離効率を得ることができた。
【0035】
また、前述した実施例1〜5の結果から、次のようなことが確認できた。
ボール15の個数は60±10個、水の量100±10mL、設定温度90〜110℃、剥離処理時間60±10分で、バンパー片10の投入量は0.98N(100gf)以下にすることが好適であった。そして、容器20の収容体積に対して、ボール15、バンパー片10及び水18の合計の体積は40〜60%位であることが好適であった。言い換えると、容器の体積と、ボール、バンパー片及び水の合計体積との比は、2対1程度であることが好ましい。また、ボールが多すぎても、ボールとバンパー片とがうまく混合されないことが生じる。
【0036】
さらに、容器の大きさを大きくして、もっと多量のバンパー片の剥離処理を行う場合、容器の大きさ、バンパー片の量、水の量及びボールの個数等を前述した割合に比例させて決定することが好ましい。
バンパー片10の塗装膜11は、水蒸気が塗装膜11をぬらし、バンパー片本体12から塗装膜11を浮かせ、剥離しやすい状態で、ボール15と混合攪拌されるので、容易に剥離する。すなわち、溶剤、薬剤等使用することがないので、溶剤コストの削減、化学物質による人へのリスク低減、環境問題の発生防止等が図れる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されることはない。本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能であることはいうまでもない。例えば、容器を水平方向を向いている中心線の周り方向に回転させて混合攪拌を行っているが、垂直方向を向いている中心線の周り方向に回転させてもよく、所定の角度に傾斜した方向を向いている中心線の周り方向に回転させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の樹脂成形体の塗装膜の剥離方法を実施するための塗装膜剥離装置を模式的に示す概要図である。
【図2】図2は、バンパー片を拡大して図示した斜視図である。
【図3】図3は、ボールの個数と剥離効率の関係を示す図である。
【図4】図4は、加熱部の設定温度と剥離効率の関係を示す図である。
【図5】図5は、バンパー片の投入量と剥離効率の関係を示す図である。
【図6】図6は、剥離処理時間と剥離効率の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10…樹脂片(バンパー片)
11…塗装膜
12…樹脂片本体(バンパー片本体)
15…球体(ボール)
20…金属製容器
22…蓋
27…回転駆動手段
28…加熱部
30…塗装膜剥離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塗装膜(11)が形成されている樹脂成形体から前記塗装膜を剥離させる方法であって、
前記樹脂成形体を所定の大きさの樹脂片(10)に切断する第1の工程と、
所定の容量の容器(20)内に、所定量の前記樹脂片(10)、所定の個数及び大きさの金属製のメディア(15)、及び、所定量の水(18)を投入する第2の工程と、
前記容器(20)内を所定の温度に加熱するとともに、前記容器(20)を所定の回転数で回転させ、前記容器(20)内の前記樹脂片(10)、前記メディア(15)及び前記水(18)を加熱した状態で混合攪拌させ、前記樹脂片(10)から前記塗装膜(11)を剥離させる処理を、所定の時間行う第3の工程と
からなることを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項2】
請求項1に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記メディアの外形は、球体である
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記樹脂成形体は、自動車のバンパーである
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記第2の工程は、前記容器(20)の収容体積と、前記メディア(15)、前記樹脂片(10)及び前記水(18)を合計した体積との比が、ほぼ2対1の割合となるように投入する工程である
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記球体(15)は、直径12〜18mmのものであり、
前記第2の工程は、前記容器(20)の容量と前記球体(15)の個数との比が、前記容量1リットルに対して、前記個数が50〜70個の割合となるように投入する工程である
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記所定の温度は、加熱部(28)の設定温度で90〜110℃である
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された樹脂成形体の塗装膜の剥離方法において、
前記所定の時間は、50〜70分である
ことを特徴とする樹脂成形体の塗装膜の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−237590(P2007−237590A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64046(P2006−64046)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】