説明

樹脂成形品の製造方法及び射出成形用金型

【課題】樹脂成形品の製造方法において転写シートの裏側へ樹脂が回り込むことによるバリが樹脂成形品に残るのを防ぐことである。
【解決手段】転写シート配置工程では、第1型20に対して、第2キャビティ面23a,23bの上に転写シート10の端部10aの位置を合わせて転写シート10が第1キャビティ面22に部分的に配置される。型締め工程から取り出し工程に至る成形工程では、第1型20に第2型40を合わせて、転写シート10の加飾部が転写された樹脂成形品が成形される。タブとランナー樹脂部のカット工程では、第1キャビティ面22で形成される樹脂成形品から第2キャビティ面23で形成されるタブがカットされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形を用いた樹脂成形品の製造方法及び、樹脂成形品の製造に用いられる射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形法においては、インモールド成形法の一つとして、例えば特許文献1(特開2005−104007号公報)に記載されているような成形同時転写法が知られている。成形同時転写法においては、型締めの前に転写シートが金型のキャビティ面の所定箇所に配置される。そして、型締め後に樹脂が射出されて樹脂成形品が成形されると同時に樹脂成形品の表面に転写シートから転写層が転写される。
【0003】
このような成形同時転写法では、表面の美観が重要であるため、キャビティ面の全体幅よりも幅の広い転写シートを用いて転写層が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、樹脂成形品に爪やリブやボスなどを形成するために、転写シートが配置される金型のキャビティ面に凹凸を形成する必要が生じる場合があり、そのような場合には転写シートがその厚みのために凹凸の壁面に沿わないことから転写シートの使用が難しくなる。このような場合には、キャビティ面の全体幅よりも狭い転写シートを用いて凹凸が形成されている箇所を避け、凹凸のないところにのみ転写層を形成することが考えられる。ところが、このようにキャビティ面の一部にのみ転写シートが配置されると、キャビティ面に配置された転写シートの端部から樹脂が転写シートの裏側に回り込んで樹脂成形品の表面に大きなバリが発生する可能性が生じる。転写シートの裏側への樹脂の回り込みの可能性を許容して、成形される全ての樹脂成形品の中からバリの発生のない良品のみを選別する方法も考えられるが、このような方法では歩留まりが悪くなって製造コストが上がる原因となる。
【0005】
本発明の目的は、転写シートがキャビティ面に部分的に配置される樹脂成形品の製造方法において転写シートの裏側へ樹脂が回り込むことによるバリが樹脂成形品に残るのを防ぐことであり、また転写シートがキャビティ面に部分的に配置される樹脂成形品の製造方法に適した射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【0007】
本発明の一見地に係る樹脂成形品の製造方法は、樹脂成形品を成形するための第1キャビティ面、及び樹脂成形品に突出部を形成するため第1キャビティ面に繋がっている第2キャビティ面を有する第1型に対して、第2キャビティ面の上に転写シートの端部の位置を合わせて転写シートを第1キャビティ面に部分的に配置する転写シート配置工程と、第1型に第2型を合わせて、転写シートの転写層が転写された樹脂成形品を成形する成形工程と、樹脂成形品から突出部を除去する除去工程とを備えるものである。
【0008】
この樹脂成形品の製造方法では、第2キャビティ面の端部で転写シートの裏側に樹脂が回り込んでバリができても、突出部とともにバリを樹脂成形品から除去することができる。それにより、樹脂が転写シートの裏側に回り込んでもバリが樹脂成形品に残るのを防止することができる。
【0009】
第1型及び第2型のうちの少なくとも一方は、第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、第1型の第2キャビティ面は、樹脂流路と一体的に形成され、除去工程は、樹脂流路に形成される樹脂と一緒に突出部を樹脂成形品から除去する工程を含むものであってもよい。
【0010】
この樹脂成形品の製造方法では、樹脂流路に形成される樹脂と一緒に突出部が除去されるので、樹脂流路に形成される樹脂と突出部を別々に除去する場合に比べて作業工数を少なくすることができる。また、樹脂流路の樹脂が突出部とは別に形成される場合に比べて除去する樹脂の容積が減るため、樹脂成形品の成形毎に必要な樹脂の量を減らすことができる。
【0011】
また、転写シートは、開口部を有し、第2型は、樹脂流路を有し、第1型は、第2型の樹脂流路に樹脂を注入するための樹脂注入口を有するものであって、転写シート配置工程は、転写シートの開口部を樹脂注入口に配置する工程及び転写シートとは異なる他の転写シートを第2型に配置する工程を含み、成形工程は、開口部を通して第2型の樹脂流路に第1型の樹脂注入口から樹脂を注入する工程を含むものであってもよい。
【0012】
この樹脂成形品の製造方法では、他の転写シートの送りピッチを削減することができ、他の転写シートの材料を削減することができる。
【0013】
第1型は、第1キャビティ面の周囲の4箇所に第2キャビティ面が設けられており、転写シート配置工程は、4箇所の第2キャビティ面の上に転写シートの両端部の位置を合わせて転写シートを配置する工程を含むものであってもよい。
【0014】
この樹脂成形品の製造方法では、第1キャビティ面を横断する形に転写シートを配置しても転写シートの裏側に樹脂が回り込んで形成されるバリを樹脂成形品から除去することができる。それにより、転写シートの配置の自由度が増し、この製造方法を適用できる製品の種類を増やすことができる。
【0015】
突出部は、4箇所の第2キャビティ面のうち2箇所ずつをそれぞれ繋いで形成される第1突出部と第2突出部とを含み、除去工程は、第1突出部と第2突出部とを樹脂成形品から除去する工程を含むものであってもよい。
【0016】
この樹脂成形品の製造方法では、4箇所でのバリの残りの防止を、第1突出部と第2突出部の2つの切断で行なうことができ、突出部を除去するための工数を減らすことができる。
【0017】
本発明の一見地に係る射出成形用金型は、樹脂成形品の成形と転写シートから樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、転写シートが部分的に配置されて樹脂成形品を形成するための第1キャビティ面、及び樹脂成形品に突出部を形成するため第1キャビティ面に繋がっている第2キャビティ面を有する第1型と、第1型に合わせられる第2型と、を備え、第1型は、第1キャビティ面を横切る転写シートの端部の配置位置に第2キャビティ面が設けられているものである。
【0018】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、転写シートの裏側に樹脂が回り込んでバリができても、突出部とともにバリを樹脂成形品から除去することができる。それにより、樹脂が転写シートの裏側に回り込んでもバリが樹脂成形品に残るのを防止することができる。
【0019】
第1型は、第2キャビティ面が第1キャビティ面の深さと同じ深さで第1キャビティ面に繋がっていてもよい。
【0020】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、第2キャビティ面と第1キャビティ面とが繋がる部分の深さが同じであるため、転写シートが配置される第1キャビティ面と第2キャビティ面との境界に段差ができない。そのため、転写シートが第1キャビティ面と第2キャビティ面との境界で浮き上がらず、転写シートの裏側に樹脂が廻り込み難くなる。
【0021】
第1型及び第2型のうちの少なくとも一方は、第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、第1型の第2キャビティ面は、第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路と一体に設けられていてもよい。
【0022】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、樹脂流路と第2キャビティ面を別々に形成する場合に比べて除去する樹脂の容積が減るため、樹脂成形品の成形毎に必要な樹脂の量を減らすことができる。
【0023】
本発明の他の見地に係る射出成形用金型は、樹脂成形品の成形と転写シートから樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、パーティング面と転写シートが部分的に配置されて樹脂成形品が形成される第1キャビティ面とを有する第1型と、第1型に合わせられる第2型と、を備え、第1型のパーティング面は、転写シートが配置される配置領域から配置されない非配置領域に向かって傾斜する傾斜部を持つものである。
【0024】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、第1型のパーティング面に近づくように転写シートの配置領域から非配置領域に向かって傾斜する傾斜部に転写シートの端部が配置されることで、転写シートの端部と第1型と第2型とによって囲まれた部分に形成される隙間が非常に小さくなる。それにより、転写シートが第1キャビティ面に部分的に配置されても、転写シートの端部から漏れた樹脂によって樹脂バリが形成されるのを防ぐことができる。
【0025】
本発明の他の見地に係る射出成形用金型は、樹脂成形品の成形と転写シートから樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、転写シートが部分的に配置されて樹脂成形品が形成される第1キャビティ面を有する第1型と、第1型に合わせられる第2型と、を備え、第1型又は第2型は、第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、第1型は、樹脂流路を跨いで転写シートを押えるための嵌合構造を転写シートの配置領域の境界に有し、第2型は、嵌合構造に嵌合される被嵌合構造を有し、樹脂流路は、嵌合構造と被嵌合構造の嵌合部分の間を通って転写シートの配置領域に入って配置領域内で転写シートの長手方向に向きを変え、配置領域の中央部で第1キャビティ面に繋がる形状を持つものである。
【0026】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、嵌合構造と被嵌合構造との嵌合によって、転写シートが樹脂流路の近傍で転写シートが引っ張られた状態で押えられる。それにより、樹脂流路を流れる樹脂によって転写シートが押されて動くのが防止され、転写シートが動いたことに起因して転写シートの裏側に樹脂が入り込むことが防がれる。また、転写シートの中央部近傍から樹脂が第1キャビティ面に流し込まれるので、転写シートの両端部に掛かる力が同じようになり、転写シートが皺になり難く、転写シートの裏側に樹脂が回り込み難くなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、転写シートがキャビティ面に部分的に配置される樹脂成形品の製造において、転写シートの裏側へ樹脂が回り込むことによるバリが樹脂成形品に残るのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る樹脂成形品の製造工程の概要を示すフローチャート。
【図2】転写シート配置工程における第1型および第2型の斜視図。
【図3】樹脂成形体の外観を示す平面図。
【図4】図3のI−I線で切断した樹脂成形品の端面図。
【図5】図2の第1型のパーティング面を拡大した拡大斜視図。
【図6】図2の第2型のパーティング面を拡大した拡大斜視図。
【図7】図2の第1型のパーティング面を拡大した拡大平面図。
【図8】図7のII−II線の箇所で切断した型締めされた第1型と第2型の端面図。
【図9】(a)射出工程における第1型側の樹脂の流れを説明するための模式図、(b)射出工程における第2型側の樹脂の流れを説明するための模式図。
【図10】(a)図9(a)のIII-III線における端面図、(b)図10(a)の端面図における樹脂の流れを説明するための端面図。
【図11】図3におけるIV−IV線断面図。
【図12】(a)段差部に配置されている転写シートの部分拡大断面図、(b)段差部にずれて配置されている転写シートの部分拡大断面図、(c)段差部にずれて配置されている転写シートの部分拡大断面図、(d)傾斜部に配置されている転写シートの部分拡大断面図。
【図13】射出工程における第2型側の樹脂の流れによって樹脂が転写シートの裏に回る現象を説明するための模式図。
【図14】第2実施形態に係る第1型のパーティング面の部分拡大平面図。
【図15】第2実施形態に係る第2型のパーティング面の部分拡大平面図。
【図16】図14及び図15のV−V線における断面を示す図。
【図17】第1実施形態における転写シートの送りピッチを示す部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
(1)樹脂成形品の製造工程の概要
以下、本発明の第1実施形態に係る成形同時転写法による樹脂成形品の製造工程を図1について説明する。
【0030】
まず、図1の転写シート配置工程(ステップS1)では、図2に示されているように、型開きされた金型(第1型20と第2型40)の間に転写シート10,15が配置される。図2に示されている転写シート10,15の送り方向は、転写シート10が水平方向であり、転写シート15が鉛直方向である。配置された転写シート10,15は、後述するクランプなどによって動かないように固定される。なお、図2においては、図が見難くなるのを避けるため、後述する吸引穴や横張り溝などの記載が省略されている。
【0031】
これら転写シート10,15を構成する基体フィルムは、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アセテート系樹脂、及びポリアミド系樹脂などから選択された材料で形成されている。基体フィルムの厚みは、5μm〜5mmの範囲から選択されることが好ましい。基体フィルムの厚みが5μmより薄いと、転写シートの剛性が低くなって皺が入り易くなる。一方、5mmよりも厚いと剛性が高くなりすぎて取り扱い難くなり、特に第1キャビティ面22などの曲面に沿い難くなり、転写シート10の裏側に樹脂が回り込み易くなる。
【0032】
次に、型締めが行なわれ、第1型20のパーティング面21に、第2型40のパーティング面41が合わせられる(ステップS2)。そして、型締めされた第1型20と第2型40に対して溶融樹脂が射出され、樹脂流路24,44を通じて、第1型20の第1キャビティ面22及び第2キャビティ面23a,23bと第2型40のキャビティ面42によって囲まれたキャビティ内に樹脂が流し込まれる(ステップS3)。
【0033】
次の保圧工程では、キャビティ内に射出された樹脂が適正密度を保つように所定の圧力が加え続けられる(ステップS4)。保圧工程に続く冷却工程では、キャビティ内の全ての溶融樹脂を硬化させるために予め設定された冷却時間だけ、金型の冷却機能により冷却が行なわれる(ステップS5)。
【0034】
次に、型開き工程において、金型が開かれて第1型20から第2型40が離れる(ステップS6)。金型が開くときに冷却固化された樹脂成形体が突き出しシリンダー(図示省略)で突き出されるなどして、第1型20及び第2型40から樹脂成形体が離型されて取り出される(ステップS7)。
【0035】
樹脂成形体が金型から取り出されると、金型による射出成形についてはステップS1に戻ってステップS1以下の工程が繰り返される。その一方で、樹脂成形体は、樹脂成形品にランナー樹脂部などが付いている状態のため、次のタブとランナー樹脂部のカット工程(ステップS8)において、ランナー樹脂部などの不要な樹脂部がカットされて樹脂成形品が得られる。
【0036】
(2)転写シート配置工程
上述の転写シート配置工程(ステップS1)について説明するが、転写シートの配置の説明のために、まず転写層の転写対象である樹脂成形品について図3を用いて説明する。
【0037】
図3は、図2に示されている第1型20と第2型40とを用いて成形された樹脂成形体を示す平面図である。図3に示されている樹脂成形体60は、2つの樹脂成形品61,62とタブ63a,63bとランナー樹脂部64とを含んでいる。タブ63a,63bとランナー樹脂部64は、樹脂成形品61,62にとっては不要な部分であって、後述するタブとランナー樹脂部のカット工程(ステップS8)で除去される。樹脂成形品61,62は、例えば携帯電話機の電池収納部を覆う裏蓋である。
【0038】
樹脂成形品61には、説明書きなどの加飾部65が設けられている。この加飾部65は、上述の転写シート10から転写された転写層で形成されている。加飾部65を形成するための転写層は、転写シート10の送り方向に沿って基体フィルム上に連続して形成されている。樹脂成形品61,62の射出成形の1ショット毎に、転写シート10が矢印の方向に送られて転写層の位置決めが行なわれる。転写シート10,15の転写層には、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、硝化綿系樹脂、ウレタン系樹脂、及び塩化ゴム系樹脂などから選択された材料が用いられ、あるいは転写層が金属膜層の場合には、アルミニウム、クロム、銅、ニッケル、インジウム、錫、酸化ケイ素などから選択された材料が用いられる。転写層の膜厚は、意匠性と印刷後の乾燥を考慮すると0.5〜50μmの範囲から選択されることが好ましい。また、転写層が金属膜層の場合には、転写層の膜厚は、意匠性とクラックの生じ易さを考慮すると150〜1200オングストロームの範囲から選択されることが好ましい。
【0039】
図4には、図3のI−I線で切断した端面が示されている。図4からも分かるように、図3の樹脂成形品61,62には、携帯電話機の本体に取り付けられるための取付構造として爪65,66,67が設けられている。一般に、樹脂成形品が有する取付構造は、爪以外にもリブやボスなどがある。このような爪65,66,67を形成するための凹凸があるところには、転写シート10は配置できない。そのため、転写シート10の幅を樹脂成形体60、特に樹脂成形品61,62の平面形状よりも狭くしなければならない。第1キャビティ面22よりも転写シート10の幅を狭くして、爪65,66,67などを形成するための第1キャビティ面22の凹凸がある箇所を避けて転写シート10が配置される。
【0040】
図5には、第1型20のパーティング面21が拡大して示されている。シート送り装置(図示省略)によって第1ピッチだけ送られた転写シート10は、真空ポンプ(図示省略)を使って吸引穴31で吸引されて保持される。吸引穴31は、第1キャビティ面22及び第2キャビティ面23a,23bを囲む横張り溝32の中に形成されている。吸引されて保持された転写シート10は、クランプ30によって保持される。クランプ30は、転写シート10を保持するときには、転写シート10をパーティング面21に押し付けて接触させる。一方、転写シート10を送るときには、クランプ30がパーティング面21から離れることによって転写シート10が解放される。
【0041】
図5から分かるように、転写シート10は、第2キャビティ面23a,23bを通り、パーティング面21と第2キャビティ面23a,23bの境界を端部10aが横切るように配置される。言い換えると、パーティング面21と第2キャビティ面23a,23bの境界は、転写シート10の長手方向に対して垂直に転写シート10を横切る。また、転写シート10の端部10aの一方は、凹部26の上を横切る。
【0042】
また、図6には、第2型40のパーティング面41が拡大して示されている。転写シート15は、図6に示されているように、キャビティ面42の全体を覆う広い幅を有している。このようにキャビティ面42より転写シート15の幅が広いのは、樹脂成形品61,62の表側(加飾部65が形成されている裏側とは反対の側)の全体に例えば金属光沢が生じるように加飾部(図示省略)を形成するためである。
【0043】
転写シート15についても、樹脂成形品61,62の射出成形について1ショット毎に、転写シート15が矢印の方向に送られて転写層の位置決めが行なわれる。シート送り装置(図示省略)によって第2ピッチだけ送られた転写シート15は、真空ポンプ(図示省略)を使って吸引穴51で吸引されて保持される。吸引穴51は、第1キャビティ面42を囲む横張り溝52の中に形成されている。吸引されて保持された転写シート15は、クランプ50によって保持される。クランプ50は、転写シート15を保持するときには、転写シート15をパーティング面41に押し付けて接触させる。一方、転写シート15を送るときには、クランプ50がパーティング面41から離れることによって転写シート15が解放される。
【0044】
(3)型締め工程
型締め工程(ステップS2)においては、第1型20と第2型40のパーティング面21,41を合わせる。型締めの際に、図5及び図6に示されているパーティング面21の凹部26とパーティング面41の凸部46が嵌合される。これら凹部26及び凸部46を横切るように転写シート10の端部10aが配置されているため、凹部26と凸部46が嵌合すると端部10aの近傍が引っ張られた状態で固定される。この固定される転写シート10の端部10aは、樹脂注入口45の下流で樹脂流路44を横切っている。転写シート10の端部10aが引っ張られた状態で固定されないと、転写シート10の端部10aから転写シート10の裏に樹脂が流れ込んで転写シート10が移動するので、後述する樹脂の裏回りの原因の一つになる。
【0045】
図7には、第1型20のキャビティ面22,23の周辺の平面形状が示されている。また、図8には、第1型20と第2型40とを合わした状態で、図7におけるII−II線の箇所にて切断した端面が模式的に示されている。図8や後述する図12においては、各部の比率は正しく縮尺通りには示されておらず、傾斜部を見やすくするため、変形された端面形状が示されている。図7において斜線を付して示されている領域Ar1は、図8に示されている傾斜部27が形成されている領域である。転写シート10の端部10aが断面視の幅方向のほぼ中央に位置するように、傾斜部27が形成されている。
【0046】
図8の断面において、領域Ar2は、転写シート15のみが配置される領域である。パーティング面21,41が接触している状態で、領域Ar2において傾斜部27を除く第1型20のシート配置面28aと第2型40のシート配置面48との間に高さD1の隙間が形成される。この高さD1は、ほぼ転写シート15の厚みに相当する。
【0047】
また、領域Ar3は、転写シート10,15の両方が配置される領域である。つまり、図8に示す領域Ar3の幅が転写シート10の幅に対応する。この領域Ar3においては、パーティング面21,41が接触している状態で、傾斜部27を除く第1型20のシート配置面28bと第2型40のシート配置面48との間に高さD2の隙間が形成される。この高さD2は、ほぼ転写シート10の厚みと転写シート15の厚みとの和に相当する。
【0048】
(4)射出工程
図9には、射出された樹脂とその流れが模式的に示されている。図9(a)には、第1型20と第2型40とが合わされて樹脂が注入されているときの第1型20の側の状態が示されており、図9(b)には、第2型40の側の状態が示されている。樹脂注入口45から延びる矢印80は、注入された樹脂の流れを示している。図9に示されている状態では、注入された樹脂81の先頭部分がキャビティ面22,42に達している。
【0049】
図9に示されている状態になるまでに、樹脂流路24,44のランナー24a,44aを進んだ樹脂は、ファンゲート24b,44bに入るために直交する方向に向きを変える。そして、ファンゲート24b,44b及び第2キャビティ面23aを経て第1キャビティ面22,42に達する。つまり、ファンゲート24b,44b、第2キャビティ面23aから第1キャビティ面22,42に入るとき、樹脂は、必ず転写シート10が配置される配置領域Ar3、転写シート10,15に挟まれた中を流れる。図9においては、樹脂の進行軌跡82が二点鎖線で示されている。
【0050】
図10には、図9のIII−III線断面が示されており、図10(a)は樹脂が流れ込む前の断面状態を示す部分断面図であり、図10(b)は樹脂が流れ込んだ後の断面状態を示す部分断面図である。樹脂が流れ込むことによって、図10(b)に示されているように、第2キャビティ面23bの端部23c近傍で転写シート10が第2キャビティ面23bから離れる現象がときどき生じる。このような場合には、離れた転写シート10と第2キャビティ面23bとの間に樹脂が入ってしまう。そして、転写シート10と第2キャビティ面23bとの間に入り込んだ樹脂が大きなバリになる。しかし、もしこのように樹脂が転写シート10の裏側に回り込む現象が生じても、樹脂の裏回りによるバリが第1キャビティ面22と第2キャビティ面23bの境界86にまで達することはない。そのため、後述するように。第2キャビティ面23bで形成されるタブ63bを切り落とせば、裏回り現象で生じたバリを除去することができる。第2キャビティ面23aにより形成されるタブ63aについても、第2キャビティ面23bにより形成されるタブ63bと同様に、樹脂成形品61,62から切り離されることによって、バリが樹脂成形品61,62に残るのを防止する効果を奏する。
【0051】
図9(a)に示されているように、第1キャビティ面22上の転写シート10の端部10aでは、射出された樹脂81が常に、転写シート10の配置領域Ar3から非配置領域Ar2に向かって流れる。
【0052】
(5)カット工程
カット工程(ステップS8)では、図3に示されているタブ63a,63bとランナー樹脂部64のカットが行なわれる。タブ63a,63bもランナー樹脂部64も同時に切り落とされる。上述したように、第1キャビティ面22と第2キャビティ面23が同じ深さであるため、第1キャビティ面22と第2キャビティ面23の境界には段差などがなく、見分け難い場合がある。ここでは、樹脂成形品61,62の外周68を基準にタブ63a,63bをカットする。図11は、図3のIV−IV線断面を示す断面図である。図11を見ても、外周68の位置を判別できる段差が形成されていることが分かる。この外周68を基準としてカット面69でカットする。
【0053】
第2キャビティ面23を樹脂流路24の一部として使用しているのでタブ63aがランナー樹脂部64と共通になる。そこで、タブ63aをカットすれば、同時にランナー樹脂部64も除去される。
【0054】
<変形例1>
上記実施形態では、転写シート10,15によって樹脂成形品61,62の表面と裏面の両側に転写層を転写する場合について説明したが、転写シート10のような幅の狭い転写シートを用いた成形同時転写法は、樹脂成形品の表面か裏面のいずれか一方に転写する場合にも適用できる。
【0055】
また、上記実施形態では、一方の転写シート15が樹脂成形品61,62の全体の幅よりも広い場合について説明したが、両方の転写シートが上述の転写シート10のように幅が狭く、第1型及び第2型の両方の第1キャビティ面のそれぞれの一部に加飾部を設ける場合にも適用できる。
【0056】
<変形例2>
上記実施形態では、一組の金型(第1型20と第2型40)において同時に2個の樹脂成形品61,62を形成する場合について説明した。しかし、一組の金型で同時に成形する樹脂製品は、1個でもよく又3個以上であってもよい。
【0057】
また、一組の第1型20と第2型40で同じ樹脂成形品61,62を形成する場合について説明したが、一組の金型で形状が異なる複数種類の樹脂成形品を形成する場合についても適用できる。
【0058】
<変形例3>
上記実施形態では、転写シート10,15の送り方向は、それぞれ水平方向と鉛直方向であったが、転写シートの送り方向は、図2に示されている例に限られず、水平方向と垂直方向とを入れ換えるなど適宜変更が可能である。
【0059】
<特徴>
(1)第1型20は、パーティング面21に、樹脂成形品61,62を成形するための第1キャビティ面22、及び樹脂成形品にタブ63a,63b(突出部)を形成するため第1キャビティ面22に繋がっている第2キャビティ面23を有する。
【0060】
転写シート配置工程(ステップS1)では、この第1型20に対して、第2キャビティ面23の上に転写シート10の端部10aの位置を合わせて転写シート10が第1キャビティ面22に部分的に配置される。換言すれば、第2キャビティ面23の上に転写シート10の端部10aの位置を合わせることは、図9に示されている箇所P1,P2,P3,P4で転写シート10の端部10aが第2キャビティ面23とパーティング面21との境界と交わることである。
【0061】
型締め工程(ステップS2)から取り出し工程(ステップS7)に至る成形工程では、第1型20に第2型40を合わせて、転写シート10の加飾部65(転写層)が転写された樹脂成形品61,62が成形される。そして、タブとランナー樹脂部のカット工程(除去工程:ステップS8)では、樹脂成形品61,62からタブ63a,63b(突出部)がカット(除去)される。
【0062】
このような製造工程に用いられる射出成形用金型としては、第1型20に、樹脂成形品61,62にタブ63a,63b(突出部)を形成するための第2キャビティ面23を有し、第1キャビティ面22を横切る転写シート10の端部10aの配置位置に第2キャビティ面23が配置されていることが好ましい。転写シート10が部分的に配置される場所は、爪65,66,67やリブやボスなどを形成するための凹凸を避けた加飾部65の位置を含む場所である。
【0063】
上述の樹脂成形品の製造方法では、転写シート10が第1キャビティ面22の中央部に配置され、第1キャビティ面22には転写シート10の両側に転写シート10が配置されていない転写シート10の非配置領域Ar2がある。しかし、部分的に配置する形態は、この形態に限られるものではない。転写シート配置工程において転写シート10を第1キャビティ面22に部分的に配置する態様は、第2キャビティ面23の上に転写シート10の片方の端部10aの位置のみを合わせて、この片方の端部10aを境に第1キャビティ面の片側にだけに転写シート10の非配置領域を設け、もう片方の全てを転写シート10で覆うようなものであってもよい。
【0064】
上述の樹脂成形品の製造方法では、除去工程として、カットすることによって樹脂成形品61,62からタブ63a,63bを除去しているが、樹脂成形品61,62からタブ63a,63b(突出部)を機械的に除去する工程であることが好ましい。機械的に除去する方法としては、カット以外に折って切り離す方法がある。
【0065】
この樹脂成形品の製造方法では、転写シート10の裏側に樹脂が回り込んでバリができても、タブ63a,63b(突出部)とともにバリを樹脂成形品61,62から除去することができる。それにより、樹脂が転写シート10の裏側に回り込んでもバリが樹脂成形品61,62に残るのを防止することができる。第2キャビティ面で形成する突出部は、タブに限られるものではなく、成形後に樹脂成形品から除去できるように樹脂成形品から突出している部材であればよい。
【0066】
(2)第1型20は、樹脂流路24と第1キャビティ面22との間にある第2キャビティ面23が第1キャビティ面22に樹脂を流し込むための樹脂流路24と一体的に形成されている。そして、カット工程(ステップS8:除去工程)では、ランナー樹脂部64(樹脂流路に形成される樹脂)と一緒にタブ63a(突出部)が樹脂成形品61,62からカット(除去)される。
【0067】
そのため、ランナー樹脂部64とタブ63aを別々に除去する場合に比べて作業工数を減らすことができる。また、ランナー樹脂部64とタブ63aを別々に形成する場合に比べて除去する樹脂の容積が減るため、樹脂成形品61,62の成形に必要な樹脂の量を減らすことができる。
【0068】
上記実施形態では第2キャビティ面23と第1型20及び第2型40の樹脂流路24,44の両方が一体化されている。しかし、第2キャビティ面23と一体化される樹脂流路は、第2型40の樹脂流路44が無くて第2キャビティ面23と第1型20の樹脂流路24のみが一体化される場合であってもよく、第1型20の樹脂流路24が無くて第2キャビティ面23と第2型40の樹脂流路44のみが一体化される場合であってもよい。
【0069】
(3)第1型20には、第1キャビティ面22の周囲の4箇所P1,P2,P3,P4に第2キャビティ面23が設けられている。転写シート配置工程(ステップS1)では、4箇所P1,P2,P3,P4の第2キャビティ面23の上に転写シート10の両端部10aの位置を合わせる。
【0070】
この樹脂成形品の製造方法では、第1キャビティ面22を横断する形に転写シート10を配置しても転写シート10の裏側に樹脂が回り込んで形成されるバリを樹脂成形品61,62から除去することができる。それにより、転写シート10の配置の自由度が増し、この製造方法を適用できる製品の種類を増やすことができる。
【0071】
上記実施形態では、1つの第2キャビティ面23aが2箇所P1,P2に対応し、もう一つの第2キャビティ面23bが他の2箇所P3,P4に対応する。しかし、1つの第2キャビティ面で2つの箇所に対応する必要はなく、1つの箇所に1つの第2キャビティ面を設け、4つの箇所P1,P2,P3,P4にそれぞれ対応する4つの第2キャビティ面を設けてもよい。
【0072】
(4)タブ63a,63b(突出部)は、4箇所の第2キャビティ面のうち2箇所ずつをそれぞれ繋いだ部分で形成されるタブ63a(第1突出部)とタブ63b(第2突出部)とを含み、カット工程(ステップS8)では、2つのタブ63a、63bが樹脂成形品61,62からカットされる。
【0073】
この樹脂成形品の製造方法では、4箇所P1,P2,P3,P4でのバリの残りの防止を、タブ63a,63b(第1突出部と第2突出部)の2つの切断で行なうことができ、タブ(突出部)を除去するための工数を減らすことができる。
【0074】
(5)第1型20は、第2キャビティ面23a,23bが第1キャビティ面22の深さと同じ深さで第1キャビティ面22に繋がっている。
【0075】
第2キャビティ面23a,23bと第1キャビティ面22が繋がる部分の深さが同じであるため、転写シート10が配置される第1キャビティ面22と第2キャビティ面23a,23bとの境界に段差ができない。転写シート10が第1キャビティ面22と第2キャビティ面23a,23bとの境界で浮き上がらないため、転写シート10の裏側に樹脂が廻り込み難くなる。
【0076】
第1キャビティ面と第2キャビティ面とが同じ深さで繋がるためには、第1キャビティ面と第2キャビティ面23a,23bが平行である必要はなく、滑らかに傾斜していてもよく、また滑らかに湾曲していてもよい。しかし、第1キャビティ面と第2キャビティ面との境界が上記実施形態のように一つの平面に形成されていることが好ましい。
【0077】
(6)第1型20のパーティング面21は、第1キャビティ面22を横切る転写シート10の端部10aの配置位置に、転写シート10が配置される配置領域Ar3から配置されない非配置領域Ar2に向かって傾斜する傾斜部27を持つ。
【0078】
上述のように転写シート10が第1キャビティ面22に部分的に配置されると、樹脂の転写シート10への裏回りだけでなく、転写シート10の厚みに起因して転写シート10の端部10aに樹脂バリが発生し易くなる。傾斜部27を持つ第1型20と第2型40とを用いると、このような転写シート10の端部10aに形成され易い樹脂バリも防止することができる。転写シート10の裏側へ回り込むことによる樹脂バリだけでなく、転写シート10の端部10aに起因して形成される樹脂バリの発生を防止することで、より外観の美しい樹脂成形品を提供することができる。
【0079】
この傾斜部27による効果について図12を用いて説明する。図12(a)には、第1型20の段差によってシート配置面28bを形成した場合について、転写シート10の端部10aでバリの発生が防止される状態が示されている。従来からの方法によれば、図12(a)に示されているように、段差を形成して端部10aに起因する樹脂バリを防止することが考えられる。しかし、パーティング面21に段差を形成すると、図12(b)に示されているように、端部10aが段差に接触しながら沿わないと、段差と端部10aとの間に隙間90が形成され、この隙間90から樹脂が漏れて樹脂バリの原因となる。また、図12(c)に示されているように、転写シート10が段差の上部のシート配置面28aと第2型40のシート配置面48との間に転写シート10が挟まれて、隙間91,92が発生する。これらの隙間91,92から樹脂が漏れると樹脂バリの原因となる。
【0080】
傾斜部27が設けられていると、図12(d)に示されているように、転写シート10の配置位置が多少ばらついても、形成される隙間93は、非常に小さいものとなり、樹脂が流れ出すのに必要な隙間よりも小さくすることができる。そのため、転写シート10の厚みに起因する樹脂バリの発生を防止することができる。なお、傾斜部は、直線状に変化するだけでなく、曲線状や折れ線状に変化していてもよく、シート配置面28bの高さからシート配置面28aの高さへと徐々に変化していればよい。
【0081】
(7)第1型20及び第2型40は、第1キャビティ面22,42に樹脂を流し込むための樹脂流路44を有する。上記実施形態では、第2型40が樹脂流路44を有しているが、第1型20が樹脂流路を有してもよい。
【0082】
第1型20は、樹脂流路44を跨いで転写シート10を押えるための凹部26(嵌合構造)を転写シート10の配置領域A1の境界(端部10aの配置位置)に有し、第2型40は、凸部46(被嵌合構造)を有している。
【0083】
第1型の樹脂流路は、2つの凹部26と2つの凸部46とが嵌合している2つの嵌合箇所の間(嵌合構造と被嵌合構造の嵌合部分の間)を通って転写シート10の配置領域Ar3に入って配置領域Ar3内で転写シート10の長手方向に向きを変え、配置領域の中央部C1近傍で第1キャビティ面22に繋がる形状を持つ。
【0084】
この射出成形用金型を用いて樹脂成形品の製造を行なうと、2つの凹部26と2つの凸部46との嵌合によって、転写シート10が樹脂流路44の近傍で引っ張って固定される。それにより、樹脂流路44を流れる樹脂により転写シート10が押されて動く現象が防止され、転写シート10が動くことに起因して転写シート10の裏側に樹脂が入り込むことが防がれる。また、樹脂が転写シート10の中央部C1近傍から第1キャビティ面22に向かって流し込まれるので、転写シート10の端部10aでは転写シート10を第1キャビティ面22に押し付ける力が生じ、しかも両端部10aで同じような力が働くことになる。そのため、転写シート10が皺になり難く、転写シート10の裏側に樹脂が回り込み難くなる。
【0085】
例えば、図13に示されているのは従来のゲート位置をそのまま適用した場合であり、転写シート10の配置領域Ar3の外側の非配置領域Ar2から樹脂が第1キャビティ面44に流し込まれている。このようなゲートの配置を用いると、転写シート10の端部10aから中央部に向かって押すような力を、樹脂81の先頭部分が転写シート10の端部10aに対して働かせることになる。そうすると、転写シート10の端部10aが引っ張られて、転写シート10が第1キャビティ面44を横切る場所P5に隙間ができて、転写シート10の裏側に樹脂が回り易くなる。このような図13の構成と比較すると、例えば図9に示されているような樹脂流路24,44が形成されている第1型20や第2型40の構成が優れていることが分かる。
【0086】
上述の(6)や(7)で説明した構成を持つ射出成形用金型は、第2キャビティ面23a,23bが設けられた場合には裏側に回り込んだ樹脂によるバリの除去など樹脂バリの除去を十分に行なえる。しかし、第2キャビティ面23a,23bが設けられない場合にも上述の(6)や(7)の構成を適用でき、その場合であっても、転写シート10を第1キャビティ22に部分的に配置することに起因するバリの発生を防ぐ効果がある。
【0087】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る樹脂成形品の製造方法も、図1に示されている第1実施形態に係る樹脂成形品の製造方法のステップS1乃至S8と同じステップを備えている。この第2実施形態に掛かる樹脂成形品の製造方法が第1実施形態の樹脂成形品の製造方法と異なる点は、主に、使用される転写シートの形態と金型の形状である。
【0088】
図14に示されているように、転写シート10Aには、その両端部10Aaから等しい位置すなわち転写シート10Aの中央部に開口部11が形成されている。転写シート配置工程(ステップS8)で転写シート10Aがクランプ30で固定された状態において、この開口部11には、第1型20Aのホットランナー24Aaの樹脂注入口25が位置する(図14参照)。
【0089】
図16には、型締めされた金型(第1型20Aと第2型40A)について図14及び図15のV−V線で切断した断面が示されている。型締め工程(ステップS2)で型締めされた状態では、ホットランナー24Aaの樹脂注入口25は、図15に示されている第2型40Aのランナー44Aaに対向して配置される。
【0090】
従って、射出工程(ステップS3)においては、転写シート10Aの開口部11を通して第1型20Aのホットランナー24Aaから第2型40Aのランナー44Aaに溶融樹脂が射出される。
【0091】
図16に示されているように、ホットランナー24Aaの樹脂注入口25の周囲は平坦になっており、転写シート10Aに皺などが寄り難くなっている。そのため、ホットランナー24Aaから注入された樹脂は、最初はもっぱら、第2型40Aの樹脂流路44Aを流れる。第2型40Aのランナー44Aaからファンゲート44Abに流れ込むときに、第1型20Aのファンゲート24Abにも流れ始める。この第1型20Aのファンゲート24Abと一体に第2キャビティ面23aが形成されている。
【0092】
<特徴>
このように、転写シート10Aに開口部11を設けて、この開口部11から第2型40Aの樹脂流路44Aに樹脂を射出するように構成されることで、転写シート15(他の転写シート)の送りピッチが削減される。転写シート15の送りピッチの削減について、図15と図17を比較しながら説明する。図17のように樹脂注入口45が第1キャビティ面42よりも転写シート15の送り方向にずれて配置されていると、この樹脂注入口45の溶融樹脂の熱の影響を受けていないところまで転写シート15を送るための送りピッチPt2が必要になる。それに対して、図15のように、転写シート15の送り方向において、第1キャビティ42の範囲内に入っていれば、第1キャビティ42に射出された樹脂の影響を受けない送りピッチPt1だけ転写シート15を送ればよい。その結果、第1型20と第2型40を用いたときの送りピッチPt2>第1型20Aと第2型40Aを用いたときの送りピッチPt1となり、転写シート15の削減を行なうことができる。
【0093】
そして、第1型20Aのファンゲート20bが第2キャビティ23aと一体に形成されているので、樹脂の裏周りを防止することができる点は、第1実施形態と同様である。また、第2実施形態の第1型20Aも第1実施形態の第1型20と同様に、第1型20の傾斜部27と同様の傾斜部が設けられており、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0094】
10,10A,15 転写シート
20,20A 第1型
22,42 第1キャビティ面
23a,23b 第2キャビティ面
40,40A 第2型
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特開2005−104007号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品を成形するための第1キャビティ面、及び前記樹脂成形品に突出部を形成するため前記第1キャビティ面に繋がっている第2キャビティ面を有する第1型に対して、前記第2キャビティ面の上に転写シートの端部の位置を合わせて前記転写シートを前記第1キャビティ面に部分的に配置する転写シート配置工程と、
前記第1型に第2型を合わせて、前記転写シートの転写層が転写された樹脂成形品を成形する成形工程と、
前記樹脂成形品から前記突出部を除去する除去工程と、
を備える、樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1型及び前記第2型のうちの少なくとも一方は、前記第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、
前記第1型の前記第2キャビティ面は、前記樹脂流路と一体的に形成され、
前記除去工程は、前記樹脂流路に形成される樹脂と一緒に前記突出部を前記樹脂成形品から除去する工程を含む、
請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記転写シートは、開口部を有し、
前記第2型は、前記樹脂流路を有し、
前記第1型は、第2型の前記樹脂流路に樹脂を注入するための樹脂注入口を有し、
前記転写シート配置工程は、前記転写シートの前記開口部を前記樹脂注入口に配置する工程及び前記転写シートとは異なる他の転写シートを前記第2型に配置する工程を含み、
前記成形工程は、前記開口部を通して前記第2型の前記樹脂流路に前記第1型の前記樹脂注入口から樹脂を注入する工程を含む、
請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1型は、前記第1キャビティ面の周囲の4箇所に前記第2キャビティ面が設けられており、
前記転写シート配置工程は、前記4箇所の前記第2キャビティ面の上に前記転写シートの両端部の位置を合わせて転写シートを配置する工程を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記突出部は、前記4箇所の前記第2キャビティ面のうち2箇所ずつをそれぞれ繋いで形成される第1突出部と第2突出部とを含み、
前記除去工程は、前記第1突出部と前記第2突出部とを前記樹脂成形品から除去する工程を含む、
請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
樹脂成形品の成形と転写シートから前記樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、
前記転写シートが部分的に配置されて前記樹脂成形品を形成するための第1キャビティ面、及び前記樹脂成形品に突出部を形成するため前記第1キャビティ面に繋がっている第2キャビティ面を有する第1型と、
前記第1型に合わせられる第2型と、
を備え、
前記第1型は、前記第1キャビティ面を横切る前記転写シートの端部の配置位置に前記第2キャビティ面が設けられていることを特徴とする、射出成形用金型。
【請求項7】
前記第1型は、前記第2キャビティ面が前記第1キャビティ面の深さと同じ深さで前記第1キャビティ面に繋がっている、
請求項6に記載の射出成形用金型。
【請求項8】
前記第1型及び前記第2型のうちの少なくとも一方は、前記第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、
前記第1型の前記第2キャビティ面は、前記第1キャビティ面に樹脂を流し込むための前記樹脂流路と一体に設けられている、
請求項6又は請求項7に記載の射出成形用金型。
【請求項9】
樹脂成形品の成形と転写シートから前記樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、
パーティング面と前記転写シートが部分的に配置されて前記樹脂成形品が形成される第1キャビティ面とを有する第1型と、
前記第1型に合わせられる第2型と、
を備え、
前記第1型の前記パーティング面は、前記転写シートが配置される配置領域から配置されない非配置領域に向かって傾斜する傾斜部を持つことを特徴とする、射出成形用金型。
【請求項10】
樹脂成形品の成形と転写シートから前記樹脂成形品への転写層の転写とを射出成形時に行なうための射出成形用金型であって、
前記転写シートが部分的に配置されて前記樹脂成形品が形成される第1キャビティ面を有する第1型と、
前記第1型に合わせられる第2型と、
を備え、
前記第1型又は前記第2型は、前記第1キャビティ面に樹脂を流し込むための樹脂流路を有し、
前記第1型は、前記樹脂流路を跨いで前記転写シートを押えるための嵌合構造を前記転写シートの配置領域の境界に有し、
前記第2型は、前記嵌合構造に嵌合される被嵌合構造を有し、
前記樹脂流路は、前記嵌合構造と前記被嵌合構造の嵌合部分の間を通って前記転写シートの前記配置領域に入って前記配置領域内で前記転写シートの長手方向に向きを変え、前記配置領域の中央部近傍で前記第1キャビティ面に繋がる形状を持つことを特徴とする、射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−213941(P2012−213941A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81394(P2011−81394)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】