説明

樹脂潤滑用グリース組成物、ギア装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】樹脂部材と金属部材、樹脂部材同士の接触による騒音を低減できる樹脂潤滑用グリース組成物、並びにギア歯の噛み合いによる騒音を低減したギア装置及び電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】樹脂と金属、または樹脂と樹脂とが接触する部位に適用され、ポリα−オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上の割合で含む基油と、金属石鹸、金属複合石鹸及びウレア化合物の少なくとも一種を増ちょう剤全量の50質量%以上の割合で含む増ちょう剤と、平均粒子径が300nm以下の加硫ゴム微粒子とを含有する樹脂潤滑用グリース組成物、前記樹脂潤滑用グリース組成物によりギア歯間が潤滑されたギア装置または電動パワーステアリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と金属、または樹脂と樹脂とが接触する部位に適用される樹脂潤滑用グリース組成物に関する。また、本発明は、金属製または樹脂製のギア歯を有する第1の歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる第2の歯車とからなり、グリース潤滑されるギア装置に関する。更に、本発明は、電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量化や静粛性を目的として、金属製の部材を樹脂製に代替することが行われている。例えば、自動車に組み込まれる電動パワーステアリング装置には、電動モータに比較的高速回転、低トルクのものが使用されるため、電動モータとステアリングシャフトとの間に減速機構が組み込まれている。減速機構としては、一組で大きな減速比が得られる等の理由から、図1に示されるような、ウォーム12と、ウォーム12に噛み合うウォームホイール11とから構成される減速ギア20が使用されるのが一般的である。ここで、ウォーム12は電動モータの回転軸に連結しており、駆動歯車に相当し、一方ウォームホイール11は従動歯車に相当する。
【0003】
このような減速ギア20では、ウォームホイール11とウォーム12の両方を金属製にすると、ハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の不快音が発生するという不具合を生じていた。そこで、ウォームホイール11に、金属製の芯管の外周に、樹脂製で外周面にギア歯を形成してなる樹脂部とを一体化させたものを使用して騒音対策を行っている。また、このような樹脂部3を備えるウォームホイール11を用いることで、電動パワーステアリング装置の軽量化を図ることもできる。
【0004】
また、減速ギア20では、ウォーム12とウォームホイール11との両ギア歯間の潤滑のためにグリースが用いられている。このグリースとして、従来では水酸基を含む脂肪酸または多価アルコールの脂肪酸エステルを含む樹脂潤滑用グリース組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この樹脂潤滑用グリース組成物は、長時間使用後にもトルクの変動が抑制され、長時間運転してもハンドリング操作に違和感がない点で優れているものの、大型車の電動パワーステアリング装置では潤滑箇所が高荷重で使用条件が厳しくなり、静摩擦力が増大することから、特にハンドルをゆっくりと切ったときに所謂引っ掛かりが発生し易く、耐久寿命が短くなる等の不具合が生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開平8−209167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、樹脂部材と金属部材、樹脂部材同士の接触による騒音を低減でき、しかも潤滑性能を長期にわたり維持できる樹脂潤滑用グリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、樹脂部を有するギア装置におけるギア歯の噛み合いによる騒音を低減し、耐久性を改善することを目的とする。更に、本発明は、樹脂部を有する減速ギアを備える電動パワーステリング装置におけるハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の騒音を低減し、耐久性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は下記の樹脂潤滑用グリース組成物、ギア装置及び電動パワーステアリング装置を提供する。
(1)樹脂と金属、または樹脂と樹脂とが接触する部位に適用されるグリース組成物であって、ポリα−オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上の割合で含む基油と、金属石鹸、金属複合石鹸及びウレア化合物の少なくとも一種を増ちょう剤全量の50質量%以上の割合で含む増ちょう剤と、平均粒子径が300nm以下の加硫ゴム微粒子とを含有することを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。
(2)加硫ゴム微粒子の含有量がグリース全量の0.5〜10質量%であることを特徴とする上記(1)記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
(3)金属製または樹脂製のギア歯を有する第1の歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる第2の歯車とからなり、かつ、上記(1)または(2)に記載の樹脂潤滑用グリース組成物により前記ギア歯間が潤滑されることを特徴とするギア装置。
(4)電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構の従動歯車が、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなり、かつ、駆動歯車が金属製または樹脂製のギア歯を有し、上記(1)または(2)記載の樹脂潤滑用グリース組成物により前記ギア歯間が潤滑されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、特定の基油及び増ちょう剤、更に加硫ゴム微粒子を含有するため、これらの相乗効果により樹脂部材と金属部材との接触、樹脂部材同士の接触による衝撃を抑え、騒音の発生を抑えることができ、耐久性を高めることもできる。従って、この樹脂潤滑用グリース組成物で潤滑する本発明のギア装置及び電動パワーステアリング装置は、騒音が少なく、耐久性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
(樹脂潤滑用グリース組成物)
樹脂潤滑用グリース組成物(以下、単に「グリース組成物」ともいう)の基油は、樹脂部材を膨潤させないように、極性の低いポリα−オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上、好ましくは90質量%以上の割合で含む。ここで、高度精製鉱油とは、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水酸化精製等を適宜組み合わせて精製した鉱油であり、鉱油の中でも精製度が高く、粘度指数が120を越え、硫黄含有率が0.06%以下のものを示す。一般的な鉱油は含窒素有機化合物や含硫黄有機化合物等の種々の不純物を含有する。電動パワーステアリング装置では各摺動部位で潤滑に使用されるグリース組成物と、センサや電子回路等の機器が比較的接近しているため、グリース組成物から揮発する含硫黄有機化合物または硫黄と機器のコネクタの金属メッキとが反応して金属硫化物を生成し、導通不良を起こすようになり、誤作動を誘発するおそれがある。そのため、鉱油を用いる場合は、硫黄含有量の少ない高度精製鉱油を用いることが好ましい。また、樹脂の中でもポリアミド樹脂は耐油性に優れるが、ABS樹脂やPC樹脂等は耐油性に劣る傾向にあり、本発明では汎用性を考慮してこれらの極性の低い潤滑油を主成分とする基油を用いる。更に、電動パワーステアリング装置では、減速ギア20のウォームホイール11の樹脂部3をABS樹脂やPC樹脂で作製することもあり、極性の低い潤滑油を用いることで樹脂部3の応力割れ等を防ぐことができる(図1参照)。これらの潤滑油の中でも、低温流動性が低いことから、ポリα−オレフィン油及び高度精製鉱油が好ましい。
【0011】
基油には、30質量%未満、好ましくは10質量%未満であれば、極性を有する潤滑油を配合してもよい。ポリアミド樹脂は極性の低い潤滑油との濡れ性が低いため、極性の高い潤滑油を少量配合することにより油膜の成膜性を向上させることもできる。また、電動パワーステアリング装置の減速ギア20では、ウォームホイール11の樹脂部3を耐熱性や機械的強度に優れることからポリアミド樹脂製とすることが多く、極性を有する潤滑油を少量配合することは有効である。極性を有する潤滑油としては、合成油あるいは動植物油等が挙げられ、特に制限がないが、ジエステル油やポリオールエステル油あるいは芳香族エステル油等の各種エステル油、ポリフェニルエーテルやアルキルジフェニルエーテル等の各種芳香族エーテル油が好適であり、中でも耐熱性に特に優れるジアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0012】
また、電動パワーステアリング装置は使用環境が多様であり、使用温度範囲も広いことから、基油の動粘度を20〜150mm2/s(40℃)とすることが好ましい。基油の動粘度が20mm2/s(40℃)未満では、摺動面において十分な油膜厚さが確保できず、樹脂製のギア歯10の耐久寿命に悪影響を及ぼす可能性があり、150mm2/s(40℃)を超えると、低温流動点が上昇し、特に寒冷地で使用したときに潤滑状態が悪化して動力伝達効率が減少するおそれがある。また、低温流動点と耐熱性との兼ね合いの観点から、粘度指数が120以上の基油を用いることが好ましい。最も好ましくは、基油粘度が25〜150mm2/s(40℃)で、かつ、粘度指数が120以上の基油を用いる。
【0013】
増ちょう剤としては、金属石鹸、金属複合石鹸、ウレア化合物の少なくとも1種を増ちょう剤全量の50質量%以上含むものが好ましい。また、金属石鹸とウレア化合物、金属複合石鹸とウレア化合物、金属石鹸と金属複合石鹸、あるいは、これら3種を増ちょう剤として併存させることも好ましい。特に好ましくは、金属石鹸とウレア化合物とを、金属石鹸:ウレア化合物(重量比)=1:99〜90:10とすることが好ましい。この範囲であれば、ウレア化合物の耐熱性に優れる点と金属石鹸の潤滑性に優れる点とを併せ持たせることができる。
【0014】
また、金属石鹸としては、リチウム、カルシウム、バリウム等の脂肪酸塩が好適に使用できる。金属複合石鹸としては、リチウム、カルシウム、バリウム等の複合石鹸が好適に使用できる。中でも、リチウム石鹸、リチウム複合石鹸、バリウム複合石鹸が好適に使用できる。更に、リチウム石鹸としては、炭素数10以上の高級脂肪酸と水酸化リチウムとからなるリチウム石鹸が好適であり、より好ましく詳細には、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムあるいはステアリン酸リチウムを用いる。
【0015】
ウレア化合物としては、下記一般式(I)で示されるジウレア化合物が好適に使用できる。
R1−NHCONH−R3−NHCONH−R2 ・・・(I)
ここで、R3は炭素数6〜15の芳香族基である。また、R1、R2は、炭素数6〜20の炭化水素基である。R1、R2においては、炭素数6〜18の脂環式炭化水素基あるいは炭素数8〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基が好適に使用できるが、中でも、炭素数6の脂環式炭化水素基あるいは炭素数8もしくは18の脂肪族炭化水素基、炭素数が6〜7の芳香族基がより好適である。また、高温使用条件に対しては、脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基と芳香族基とを併用するのが好ましく、特に脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基と芳香族基とのモル比が6:4〜2:8のものが好ましい。尚、これらウレア化合物は、R3を骨格に持つジイソシアネートと、R1、R2を骨格に持つモノアミンとを反応させることにより得られる。
【0016】
増ちょう剤のグリース組成物に占める割合は、5〜25質量%である。これより増ちょう剤が多すぎると、グリース組成物が硬くなり潤滑が必要な部位へグリース組成物が行き渡らなくなることがある。また、5質量%より増ちょう剤が少ないと、グリース組成物が柔らかくなりすぎ、外部への流出等のおそれがある。好ましい増ちょう剤量は、前記範囲内であり、かつ、混和ちょう度として200〜350が得られる範囲である。更に、グリース組成物の混和ちょう度としては、220〜330が好ましい。特に好ましくは250〜300である。
【0017】
グリース組成物は更に、平均粒子径が300nm以下の加硫ゴム微粒子を含有する。加硫ゴム微粒子としては、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコンゴム、クロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)の中から選ばれ、平均粒子径で30〜300nmのものが好ましい。これらは混合して用いてもよい。平均粒子径30nm未満の加硫ゴム微粒子は、製造コストがかかるとともに、微細すぎて劣化しやすく好ましくない。また、平均粒子径300nm超の加硫ゴム微粒子は、分散性が低下するとともに、耐衝撃性の改善を均一に行うことが難しく好ましくない。中でも、ペレット製造を考慮すると、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムからなる微粒子が好ましく、特にカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴムが好ましい。また、これら加硫ゴム微粒子は、熱や酸素での劣化を防止して、4,4´−(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤、2−メチカプトベンズイミダゾール等の二次老化防止剤等を含有させたものとしてもよい。その他にも、フェニル−1−ナフチルアミン等の酸化防止剤、防錆剤としてバリウムスルホネート等の防錆剤を含有させてもよい。
【0018】
加硫ゴム微粒子の含有量は、グリース組成物全量の0.5〜10質量%が好ましい。加硫ゴム微粒子の含有量が0.5質量%未満では、耐衝撃性の改善効果が見られなず、10質量%を超えると潤滑性等に悪影響が出てくる。
【0019】
グリース組成物を調製するには、通常の方法に従い、加硫ゴム微粒子を除くベースグリースを調製し、そこに加硫ゴム微粒子を所定量添加し、更に混練すればよい。
【0020】
上記の如く構成される本発明のグリース組成物は、樹脂部材と金属部材とが接触する部位、あるいは樹脂部材同士が接触する部位の潤滑に使用されるが、樹脂の種類や金属の種類、更には樹脂と金属との組み合わせには制限がない。例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等からなる部材と、鋼材からなる部材とが接触する部位の潤滑に好適に使用することができる。具体的には、図1に示したような樹脂部3を備える減速ギア20、更にはこのような減速ギアを備える電動パワーステアリング装置に好適であり、本発明は上記のグリース組成物で潤滑されるギア装置や電動パワーステアリング装置も提供する。以下に、本発明のギア装置及び電動パワーステアリング装置を説明する。
【0021】
(ギア装置)
上記のグリース組成物で潤滑されるかぎり、ギア装置には制限がない。ここでは、再び図1に示す減速ギアを例示して説明する。
【0022】
図示される減速ギア20は、金属製の芯管1の外周に、樹脂組成物からなり、その外周端面にギア歯10を形成した樹脂部3を一体化したウォームホイール11と、金属製のウォーム12とから構成される。尚、ウォームホイール11において、金属製芯管1と樹脂部3とを接着剤8により接着してもよく、接着剤8として例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤またはトリアジンチオール化合物を用いることができる。そして、ウォームホイール11のギア歯10とウォーム12との潤滑のために、上記した本発明のグリース組成物が使用される。
【0023】
樹脂部3の樹脂成分は、ABS樹脂やPC樹脂とすることもできるが、耐熱性や機械的強度に優れることからポリアミド樹脂とすることが好ましい。ポリアミド樹脂の中でも更に吸水性や耐疲労性等を考慮すると、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミドMXD6、ポリアミド616T、変性ポリアミド6T等が好適に挙げられるが、中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が耐疲労性に優れるため特に好ましい。また、これらポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と相溶性を有する他の樹脂と混合してもよい。例えば、無水マレイン酸等の酸で変性したポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー等)が挙げられる。
【0024】
これら樹脂は単独でも一定以上の耐久性を示し、ウォームホイール11の相手材である金属製のウォーム12の摩耗に対して有利に働き、減速ギアとして十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されるとギア歯10が破損や摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
【0025】
補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げた樹脂との接着性を考慮してシランカップリング剤で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの補強材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更にウォーム12の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度やウォーム12の損傷等を考慮して適宜選択される。これらの補強材は、全体の5〜40質量%、特に10〜30質量%の割合で配合することが好ましい。補強材の配合量が5質量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。補強材の配合量が40質量%を超える場合には、ウォーム12を損傷し易くなり、ウォーム12の摩耗が促進されて減速ギアとしての耐久性が不足する可能性があり好ましくない。
【0026】
更に、樹脂には、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定化剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加されていてもよい。
【0027】
(電動パワーステアリング装置)
上記ように本発明のグリース組成物で潤滑されるギア装置を備えるかぎり、電動パワーステアリング装置には制限がなく、ここでは図2に示す電動パワーステアリング装置を例示して説明する。図示される電動パワーステアリング装置において、ステアリングコラム50の出力軸60側には、図1に示したような減速ギア20をハウジング120に収容して構成されるギアボックスが配設されている。この減速ギア20は、上記の本発明のグリース組成物で潤滑される。
【0028】
また、ステアリングコラム50は中空になっており、ステアリングシャフト70が挿通され、ハウジング120に収納された転がり軸受90、91により回転自在に支承されている。また、ステアリングシャフト70は中空軸であり、トーションバー80を収容している。そして、ステアリングシャフト70の外周面には、ウォームホイール11が設けてあり、このウォームホイール11にウォーム12が噛合してある。また、これらウォームホイール11とウォーム12とからなる減速ギア20には、図3に示したように、電動モータ100が連結されている。
【0029】
また、電動パワーステアリング装置には、転がり軸受110に予圧をかけるとともに、タイヤ側からの微小なキックバック入力が入ってきたときに、ウォーム12を軸方向に動かして電動モータ100が回転しないようにし、ハンドル側にキックバックのみの情報を伝えるために、図示されるように転がり軸受110のウォーム側にゴム製のダンパー130を取り付けてもよい。このダンパー130に使用されるゴムとしては圧縮永久歪が小さいエチレンアクリルゴムに代表されるアクリルゴムが一般的であるが、本発明のグリース組成物は、上記のように基油が極性の低い潤滑油を主成分とするため、このアクリルゴムを劣化させることもない。
【0030】
一般に、自動車の電動パワーステアリング装置では、アシストトルクを発生させるために電動モータ100が駆動されて減速ギア20が作動すると、減速ギア20のウォームホール11とウォーム12との噛合による自己発熱が起こり、樹脂部3がポリアミド製であれば外気温度25℃で歯面温度は60℃にも達し、樹脂部3が熱膨張して減速ギア20の芯管が詰まりギアの作動トルクの上昇を招く。そして、この作動トルクの上昇がハンドル操蛇時のフリクションとなり、アシスト制御を続けると僅かなステアでは車輌が応答しなくなるおそれがある。しかし、本発明のグリース組成物を用いることにより、室温以上で摩擦係数を従来よりも一段と下げることができるため、減速ギア20が自己発熱を起こしても作動トルクの上昇が抑えられ、アシスト状態に左右されず一定の車輌応答性を得ることができる。
【0031】
尚、本発明の電動パワーステアリング装置では、減速ギア20として、上記したウォームホイール11及びウォーム12以外にも、図示は省略するが、平歯車、はすば歯車、かさ歯車、ハイポイドギア等が可能であり、何れもウォームホイール11を、金属製芯管1の外周に、ポリアミド樹脂組成物からなり、その外周面にギヤ歯10が形成された樹脂部3を接着剤8を用いる等して一体化して構成する。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。尚、含有量はグリース全量に対する値である。
【0033】
(実施例1〜3、比較例1)
表1に示す配合にて試験グリースを調製した。尚、ウレア化合物は4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネートと、ステアリルアミン及びラウリルアミン(アミンのモル比は1:1)との反応物、リチウム石鹸は12−ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとの反応物、リチウム複合石鹸は水酸化リチウムと12−ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸との反応物である。また、加硫ゴム微粒子Aはカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム微粒子(平均粒子径50〜100nm、輸入元:三洋貿易)、加硫ゴム微粒子Bはアクリルゴム微粒子(平均粒子径100〜150nm、輸入元:三洋貿易)である。尚、何れの試験グリースにも、酸化防止剤としてフェニル−1−ナフチルアミンを1質量%、防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加した。
【0034】
クロスローレット加工を施し、脱脂した外径45mm、幅13mmのS45C製の芯管を、スプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66(宇部興産(株)製「UBEナイロン2020GU6」、銅系添加剤含有)を射出成形して外径60mm、幅13mmのウォームホイールブランク材とし、次いで樹脂部の外周を切削加工してギア歯を形成して図1に示すようなウォームホイールを作製した。また、金属製のウォームを用意した。
【0035】
そして、ウォームホイール及びウォームの両ギア歯表面に各試験グリースを満遍なく塗布して減速ギアとし、これを図2に示すような電動パワーステアリング装置に組み込み、雰囲気温度80℃に維持して操蛇を繰り返し、操舵1万回後の音を測定した。音が55dB以下を合格とした。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、本発明に従い加硫ゴム微粒子を含有するグリース組成物は、長期にわたり騒音を低減できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の減速ギアの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の電動パワーステアリング装置の一例を示す一部断面構成図である。
【図3】図2のAA断面図であり、電動モータと減速歯車機構との連結部周辺を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1 芯管
3 樹脂部
8 接着剤
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
13 歯部
14 凹部
15 潤滑剤含有ポリマー
50 ステリングコラム
70 ステアリングシャフト
80 トーションバー
90 軸受
91 軸受
100 電動モータ
110 転がり軸受
120 ハウジング
130 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と金属、または樹脂と樹脂とが接触する部位に適用されるグリース組成物であって、ポリα−オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を基油全量の70質量%以上の割合で含む基油と、金属石鹸、金属複合石鹸及びウレア化合物の少なくとも一種を増ちょう剤全量の50質量%以上の割合で含む増ちょう剤と、平均粒子径が300nm以下の加硫ゴム微粒子とを含有することを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。
【請求項2】
加硫ゴム微粒子の含有量がグリース全量の0.5〜10質量%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
【請求項3】
金属製または樹脂製のギア歯を有する第1の歯車と、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなる第2の歯車とからなり、かつ、請求項1または2に記載の樹脂潤滑用グリース組成物により前記ギア歯間が潤滑されることを特徴とするギア装置。
【請求項4】
電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構の従動歯車が、金属製芯管の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に設けてなり、かつ、駆動歯車が金属製または樹脂製のギア歯を有し、請求項1または2記載の樹脂潤滑用グリース組成物により前記ギア歯間が潤滑されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−297449(P2007−297449A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124924(P2006−124924)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】