説明

樹脂管の加工装置

【課題】操作性の悪化等を招くことなく大きな推進力で治具を推進させ、樹脂管の端部を適切に加工することができる樹脂管の加工装置を提供する。
【解決手段】加工装置10は、樹脂管11を保持する管保持機構35と、管保持機構35によって保持された樹脂管11の端部に軸方向に挿入されることで当該端部を拡径する拡径治具38と、拡径治具38を樹脂管11の端部に向けて軸方向に推進させる推進機構37と、を備えており、推進機構37は、人手による操作力を増幅して拡径治具38を推進させるための推進力に変換する第1増幅部52と、第1増幅部52よりも高い増幅率で人手による操作力を増幅して推進力に変換する第2増幅部53と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管継手に樹脂管を接続するために、予め樹脂管の端部を拡径させる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体等の製造工程では、種々の化学薬品や純水等の液体が用いられており、この液体は、フッ素樹脂等の樹脂材料から形成された複数のチューブ(樹脂管)やこれらを接続する配管継手を用いて移送されている。配管継手は、インナ筒とアウタ筒とを備えており、このインナ筒にチューブの端部が外嵌されることによって配管継手にチューブが接続されている。また、配管継手とチューブとの間から流体が漏れたり、配管継手からチューブが脱落したりするのを防止するため、配管継手のアウタ筒にはチューブ端部の外面を覆うナット(ユニオンナット)が螺合される。すなわち、チューブの端部が配管継手のインナ筒に拡径された状態で外嵌されると共に、その拡径部分の付け根部(拡径変化部)がナットの内面とインナ筒の先端との間で挟持されることによって、チューブと配管継手との間の流体の漏れや配管継手からのチューブの脱落が防止される。
【0003】
以上のように配管継手のインナ筒にチューブの端部を嵌合させるため、予めチューブの端部を拡径させる技術が従来から種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、加熱された状態のチューブの端部に治具(拡径治具)を差し込むことによって、当該端部を予め拡径させる技術が開示されている。また、この特許文献1には、ナットの内面に形成された段部に係合する抜け止め用の凹みをチューブの拡径変化部の外面に設けることも開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クランプされたチューブに向けて拡径治具を軸方向に推進させ、この拡径治具をチューブの端部に挿入させることによって、当該端部を拡径する加工装置が開示されている。この加工装置は、使用者が片手で把持することができる取っ手と、取っ手を把持した手で操作することができるレバーとを備えたガンタイプであり、レバーを操作することによって拡径治具を推進させている。また、レバーを操作する操作力よりも、治具を推進させるための推進力を大きくするため、レバーにはテコの原理を用いた倍力機構が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−71749号公報
【特許文献2】特開平11−179453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術において、チューブの拡径変化部の外面に抜け止め用の凹みを設けるには、チューブの端部を拡径する前に予め工具を用いて凹みに相当する円周溝を形成する作業が必要となっている。そのため、チューブの端部の加工に時間がかかり、作業が煩雑になるという欠点がある。また、凹みに対してナットの段部を適切に係合させるためには、円周溝を正確な位置に形成する必要があり、このことも作業を煩雑にする一要因となっている。
【0007】
本願出願人は、チューブを拡径するための拡径治具とともに、チューブの外周面に凹みを形成するための治具(凹み成形治具)を用いて、チューブの拡径と凹みの形成とを同時に行う技術を従前に提案している(特願2010−238749号)。この技術を用いれば、予めチューブの外周面に円周溝を形成しなくても、1つの作業で2つの加工を同時に行うことが可能となる。また、このような加工を、引用文献2に記載されているような加工装置を用いて行うことも考えられる。
【0008】
しかしながら、チューブに対して2つの加工を同時に行うには非常に大きな力が必要となるので、特許文献2に記載のような加工装置を用いると、人手による操作力を非常に大きな推進力に変換する必要がある。特許文献2に記載の加工装置は、テコの原理を利用した倍力機構によって人手による操作力を増幅して推進力に変換しているので、より大きな推進力を得ようとすると、レバーを長く形成してテコの作用を増大しなければならず、これでは加工装置が大型化するとともに、長いレバーを大きく操作しなければならないため広い操作スペースが必要となる。この種の加工装置は、施工現場における取り回しや使い勝手が要求されるため、大型化や操作性の悪化は望ましくない。
【0009】
また、2つの加工を同時に行う場合に限らず、チューブの端部を拡径するための治具の推進力が弱いと、チューブの端部がスプリングバックにより縮径してしまう可能性が高まる。
【0010】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、操作性の悪化等を招くことなく大きな推進力で治具を推進させ、樹脂管の端部を適切に加工することができる樹脂管の加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る樹脂管の加工装置は、
樹脂管を保持する管保持機構と、
前記管保持機構によって保持された前記樹脂管の端部に軸方向に挿入されることで当該端部を拡径する拡径治具と、
前記拡径治具を前記樹脂管の端部に挿入させるため、前記拡径治具を前記樹脂管の端部に向けて軸方向に推進させる推進機構と、を備えており、
前記推進機構は、人手による操作力を増幅して前記拡径治具を推進させるための推進力に変換する第1増幅部と、前記第1増幅部よりも高い増幅率で人手による操作力を増幅して前記推進力に変換する第2増幅部と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
樹脂管の端部を拡径させるために拡径治具を推進させる工程は、樹脂管の端部に拡径治具を挿入して当該端部を押し拡げる段階(第1段階:初期段階)と、樹脂管の端部を拡径した状態に保持し、形状を固める段階(型を付ける段階)(第2段階:終期段階)との2つの段階に大別することができる。通常、第1段階は樹脂管の端部を押し拡げるだけであるので、比較的小さい力であっても拡径治具を推進させることができるが、第2段階では、樹脂管の端部に拡径治具を強く押し付けることが要求されるので、比較的大きい力で拡径治具を推進させる必要がある。特に、樹脂管の端部に上述のような凹みを形成する場合には、第2段階で拡径治具をより強く押し付けることが要求される。
【0013】
本発明の加工装置は、拡径治具を推進させる推進機構が第1増幅部と第2増幅部との2つの増幅部を備えているので、推進工程の第1段階と第2段階とで第1増幅部と第2増幅部とを使い分けることができる。すなわち、推進工程の第1段階は、拡径治具の推進量は大きいが推進力は小さくてもよいので第1増幅部が適しており、推進工程の第2段階は、拡径治具の推進量は小さいがより大きな推進力が要求されるので第2増幅部が適している。そして、推進工程の第1段階で第1増幅部を用いた場合、拡径治具の推進量が大きくても推進力の増幅率が小さいので人手による操作量がそれほど大きくなることはなく、推進工程の第2段階で第2増幅部を用いた場合、推進力の増幅率が大きいが拡径治具の推進量が小さいので人手による操作量がそれほど大きくなることはない。すなわち、第1,第2増幅部のいずれにおいても人手による操作量を小さくすることができるので、広い操作スペースが必要になることもなく、操作性の悪化を招くことがない。
【0014】
前記第2増幅部は、前記拡径治具の推進工程における少なくとも終期段階で作用可能とされていてもよい。
これにより、拡径治具の大きな推進力が要求される推進工程の終期段階で適切に加工を行うことができる。
【0015】
前記推進機構は、前記拡径治具の推進工程が終期段階に到るまでの前記第2増幅部の作用を制限する制限手段を備えていてもよい。
これにより、拡径治具の大きな推進力が要求される推進工程の終期段階でのみ第2増幅部を作用させることができ、その他の段階では、第1増幅部を用いて樹脂管の加工を行うことができる。
【0016】
前記拡径治具の推進工程の終期段階で前記樹脂管の拡径部分の外周面に凹みを形成するための凹み成形治具を更に備えていてもよい。
これにより、樹脂管の端部を拡径する加工に加え、凹みを形成する加工も同時に行うことができる。
【0017】
前記凹み成形治具を着脱可能に保持するための治具保持機構を更に備えていてもよい。
これにより、直径等の異なる複数種類の樹脂管に対応した凹み成型治具を交換して使用することができる。
【0018】
加工装置は、水平な台上に載置可能な被載置部を更に備えていてもよい。この場合、前記第2増幅部は、上方から下方に向けて付与された操作力により前記拡径治具を推進させる構成であることが好ましい。
これにより、被載置部を台上に載せた状態で第2増幅部を安定して操作することができ、第2増幅部の操作性を高めることができる。
【0019】
加工装置は、前記拡径治具を推進終端位置で固定する固定手段を備えていてもよい。
これにより、使用者が推進機構を操作し続けなくても拡径治具を樹脂管の端部に押し付けた状態に保つことができ、操作性をより高めることができる。
【0020】
前記推進機構は、前記樹脂管の軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに前記拡径治具が取り付けられる取付部材を備えており、
前記第1増幅部は、人手による操作力を受けて第1揺動支点回りに揺動し、かつこの揺動によって前記取付部材を前記樹脂管の軸方向に沿って推進させる第1レバー部材を備え、
前記第2増幅部は、人手による操作力を受けて第2揺動支点回りに揺動し、かつこの揺動によって前記取付部材を前記樹脂管の軸方向に沿って推進させる第2レバー部材を備え、
前記第1増幅部と前記第2増幅部とは、それぞれの前記レバー部材における、前記操作力を受ける力点から前記揺動支点までの距離と、前記取付部材に推進力を与える作用点から前記揺動支点までの距離との比率が、互いに異なっていることが好ましい。
この構成によれば、互いに推進力の増幅率の異なる第1増幅部及び第2増幅部をそれぞれ簡単に構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、操作性の悪化等を招くことなく大きな推進力で治具を推進させ、樹脂管の端部を適切に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る樹脂管の加工装置を示す側面図である。
【図2】同加工装置の側面断面図である。
【図3】図1におけるIII−III矢視断面図である。
【図4】図1におけるIV矢視図である。
【図5】拡径治具の推進工程(第2段階)における推進機構の作用を説明する側面断面図である。
【図6】図5におけるVI−VI矢視断面図に相当する、固定ピンの作用図である。
【図7】拡径治具の側面図(一部断面図)である。
【図8】拡径治具の推進工程(第2段階)における拡径治具の作用を説明する側面断面図である。
【図9】樹脂管を配管継手に装着した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図9は、本発明の加工装置によって加工される樹脂管を配管継手に装着した状態を示す断面図である。樹脂管11は、例えば、PFA,PTFE等のフッ素樹脂やその他の合成樹脂から形成されている。樹脂管11の端部には、直径が大きく拡大するように変化する拡径変化部12と、拡大した直径が維持された状態で軸方向に延びる拡径ストレート部13とが形成されている。本発明の加工装置10(図1参照)は、樹脂管11の端部に拡径変化部12と拡径ストレート部13とを形成するために使用されるものである。
【0024】
配管継手15は、インナ筒部16と、カバー筒部17とを有している。インナ筒部16は、樹脂管11の内径よりも大きな外径を有し、樹脂管11の端部が外嵌される。インナ筒部16の外周面は、樹脂管11の拡径ストレート部13を内周面側から押さえる内周押さえ部18を構成している。また、インナ筒部16の先端外周面19は先細り状に傾斜しており、この先端外周面19が樹脂管11の拡径変化部12の内周面に当接している。
【0025】
カバー筒部17は、インナ筒部16の径方向外側に隙間をあけて配置されている。このカバー筒部17とインナ筒部16との間の隙間には、インナ筒部16に外嵌した樹脂管11の端部が挿入される。カバー筒部17の外周面には、ユニオンナット23を螺合するための雄ネジ21が形成されている。
【0026】
ユニオンナット23は、雄ネジ21に螺合可能な雌ネジ24と、樹脂管11の拡径変化部12の小径側外周面に作用可能な第1押圧部25と、拡径変化部12の大径側外周面に作用可能な第2押圧部26と、樹脂管11の拡径ストレート部13の外周面側から押さえる外周押さえ部27とを備えている。第1押圧部25は、軸方向に直交する第1押圧面28を有し、第2押圧部26も、軸方向に直交する第2押圧面29を有している。
【0027】
一方、樹脂管11の拡径変化部12には、第1押圧部25に係合し、第1押圧面28によって軸方向に押圧される第1凹み31と、第2押圧部26に係合し、第2押圧面29によって軸方向に押圧される第2凹み32とが形成されている。これら第1凹み31及び第2凹み32は、拡径変化部12の外面を略L字形状の凹ませたものであり、樹脂管11が配管継手15に接続される前に、予め本実施の形態の加工装置10によって成形される。なお、第1押圧部25は、第1凹み31に係合することによって専ら樹脂管11と配管継手15との間のシール性を高める機能を有し、第2押圧部26は、第2凹み32に係合することによって専ら配管継手15からの樹脂管11の抜けを防止する機能を有している。
【0028】
次に、加工装置10について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る樹脂管11の加工装置10を示す側面図、図2は、同加工装置10の側面断面図である。図3は、図1のIII−III矢視断面図である。
本実施の形態の加工装置10は、前述のような配管継手15に接続される樹脂管11の端部を加工するものであり、装置本体34と、この装置本体34に取り付けられた管保持機構35、治具保持機構36、及び推進機構37とから主に構成されている。管保持機構35には、加工の対象となる樹脂管11が保持され、推進機構37には、管保持機構35によって保持された樹脂管11の端部を拡径するための拡径治具38が着脱可能に取り付けられている。また、治具保持機構36には、樹脂管11の端部の外周面に第1,第2凹み31,32(図9参照)を形成するための凹み成形治具39(図2参照)が保持される。
【0029】
装置本体34は、ベース部41と、このベース部41上に設けられたガイド部42と、ベース部41及びガイド部42に取り付けられた取っ手部43とを備えている。
ベース部41は、前後方向(図1及び図2における左右方向)に長い金属製のブロックにより構成されている。このベース部41の前部側(図1における左側)には、管保持機構35及び治具保持機構36を取り付けるための保持機構取付部44が設けられている。保持機構取付部44は、樹脂管11における拡径する位置及び第1,第2凹み31,32を形成する位置に応じて、ベース部41の前後方向の適当な位置に設けられる。また、このベース部41の後部側にガイド部42が取り付けられている。
【0030】
管保持機構35は、図2に示されるように、開閉可能に構成された上下一対のクランプ部材46a,46bを有しており、この上下一対のクランプ部材46a,46bの内周面にはラバーゴム等のすべり止め部材が貼付されている。この上下一対のクランプ部材46a,46bの間に樹脂管11を挟み込むことによって当該樹脂管11を保持可能である。また、治具保持機構36は、開閉可能に構成された上下一対のクランプ部材47a,47bを有しており、この上下一対のクランプ部材47a,47bの間に凹み成形治具39を挟み込むことによって当該凹み成形治具39を保持可能である。クランプ部材46a,46bとクランプ部材47a,47bとは、一体的に開閉できるように互いに連結されていてもよい。
【0031】
ガイド部42は、金属製のブロックにより形成されている。ガイド部42は、後述する取付ロッド50が前後方向に移動可能に挿通されており、この取付ロッド50の前後方向の移動を案内する機能を有している。
取っ手部43は、金属製の板材をコの字状に屈曲させて形成されており、その両端部が、ガイド部42及びベース部41の側面にネジやピン等によって固定されている。また、取っ手部43は、ベース部41から後下方へ向けて斜めに延び、人の片手によって把持することができる形状及び大きさに形成されている。
【0032】
推進機構37は、ガイド部42に前後方向に移動可能に支持されるとともに、先端部に拡径治具38が取り付けられる取付ロッド(取付部材)50を備えている。この取付ロッド50は、圧縮コイルバネからなる付勢部材51によって後方へ付勢されている。また、推進機構37は、この取付ロッド50を前方へ移動(推進)させる第1推進部52と、同じく取付ロッド50を前方へ移動(推進)させる第2推進部53とを備えている。
【0033】
第1推進部52は、第1レバー部材55を備えており、この第1レバー部材55は、棒状に形成されると共に、取っ手部43の前側近傍においてベース部41に形成された貫通孔56及びガイド部42に形成された貫通孔58を上下方向に挿通している。また、第1レバー部材55は、貫通孔56への挿通部分で左右方向(図2の紙面貫通方向)の第1枢軸57によって揺動可能に支持されている。
【0034】
第1レバー部材55の上端部は、取付ロッド50に形成されたスリット59に挿通され、同スリット59内に設けられた係合ローラ60に後側から当接している。また、第1レバー部材55の下部側は、取っ手部43の前側であって、取っ手部43と共に片手で把持することができる位置に配置されている。
そして、取っ手部43とともに第1レバー部材55を把持し、第1レバー部材55の第1枢軸57よりも下部側を後方へ揺動させると、第1枢軸57よりも上部側が前方へ揺動し、係合ローラ60が前方に押されることによって取付ロッド50が付勢部材51に抗して前方へ移動(推進)する。
【0035】
第1レバー部材55において、人手の操作力が加わる位置(第1力点)a1から第1枢軸57の中心(第1支点)a2までの距離は、係合ローラ60を押動する位置(第1作用点)a3から第1支点a2までの距離よりも長くなっている。そのため、第1レバー部材55に付与された操作力は、テコの原理によって増幅されて大きな推進力に変換され、取付ロッド50に作用する。したがって、第1推進部52は、第1レバー部材55に付与された操作力を増幅して取付ロッド(拡径治具)を推進させるための推進力に変換する第1増幅部として機能している。
【0036】
第2推進部53は、第2レバー部材63と、押圧ローラ(押圧部材)64とを備えている。第2レバー部材63は、金属製の板材をコの字状に折り曲げ、両端部をガイド部42の両側面に沿わせた状態で配置されている。また、第2レバー部材63は、ガイド部42の後部側に設けられた左右方向の第2枢軸(第2支点)65によって揺動可能に支持され、ガイド部42の後端上部から前上方へ向けて斜めに延びている。第2レバー部材63の後端部には、左右方向の軸心を有する押圧ローラ64が回転自在に設けられている。
【0037】
第2レバー部材63は、図2に実線で示す位置から2点鎖線で示す位置までの間で第2枢軸65を始点として上下方向に揺動可能となっている。また、第2レバー部材63は、引張コイルバネからなる戻しバネ67によって上方へ揺動するように付勢されている。押圧ローラ64は、第2レバー部材63の揺動によって、図2に実線で示す位置から2点鎖線で示す位置に揺動可能となっている。
【0038】
図4は、図1におけるIV矢視図である。また、図5は、拡径治具の推進工程(第2段階)における推進機構の作用を説明する側面断面図である。押圧ローラ64は、取付ロッド50が図2に示される後退位置にあるとき、当該取付ロッド50の下方に配置されている。そのため、押圧ローラ64は、取付ロッド50によって上方への揺動が制限され、第2レバー部材63は、下方への揺動が制限される。そして、第1レバー部材55を用いて取付ロッド50を前進させ、図5の実線位置に取付ロッド50の後端を配置させると、取付ロッド50による押圧ローラ64の揺動の制限が解かれ、第2レバー部材63の下方への揺動が許容される。この状態で第2レバー部材63を下方に揺動させると、押圧ローラ64が上方へ揺動するとともに取付ロッド50の後端部を前方へ押し、取付ロッド50をさらに前進させるようになっている。
【0039】
図2及び図5に示されるように、第2レバー部材63の下縁には、略L字形状の切欠70が形成されている。また、切欠70の入口付近には、後述する固定ピン73を切欠70の内部へ誘導する誘導ガイド71が形成されている。一方、ガイド部42には、前後方向に長い長孔72が左右方向に貫通して形成され、この長孔72には、左右方向に延びる固定ピン73が前後移動可能に挿通されている。
【0040】
図6は、図5のVI−VI矢視断面図に相当する、固定ピン73の作用図である。図6に示されるように、固定ピン73の両端部はガイド部42の左右側面から突出し、第2レバー部材63は左右両端部がガイド部42の左右側面に沿って配置されている。また、固定ピン73は、図5に示されるように、圧縮コイルバネからなる付勢部材75によって長孔72内で後方へ付勢されている。そして、第2レバー部材63を下方に揺動させると、誘導ガイド71に当接した固定ピン73が付勢部材75に抗して前方へ移動し、その後、第2レバー部材63が下方の揺動限界に達すると、固定ピン73が付勢部材75の付勢により切欠70の底部に達する(図5の2点鎖線参照)。これにより第2レバー部材63の上方への揺動が規制される。そのため、押圧ローラ64は、取付ロッド50の後端を押さえた位置(図5の2点鎖線の位置)に止まり、取付ロッド50が前方への推進終端位置で固定されることになる。ここで、固定ピン73や切欠70は、取付ロッド50を推進終端位置で固定する固定手段を構成している。
【0041】
図5に示されるように、第2レバー部材63において、人手による操作力が付与される位置(第2力点)b1から第2枢軸65の中心(第2支点)b2までの距離は、押圧ローラ64が取付ロッド50を押す位置(第2作用点)b3から第2支点b2までの距離よりも長くなっている。そのため、第2レバー部材63に付与された操作力は、テコの原理により増幅されて大きな推進力に変換され、押圧ローラ64から取付ロッド50に作用する。したがって、第2推進部53は、第2レバー部材63に付与された操作力を増幅して取付ロッド50を推進させるための推進力に変換する第2増幅部として機能する。
【0042】
また、図2に示される第1レバー部材55の第1力点a1から第1支点a2までの距離をA1とし、第1作用点a3から第1支点a2までの距離をA2とし、図5に示される第2レバー部材63の第2力点b1から第2支点b2までの距離をB1とし、第2作用点b3から第2支点b2までの距離をB2とすると、A1とA2との比率A(=A1/A2)と、B1とB2との比率B(=B1/B2)とは、A<Bの関係に設定されている。したがって、第2増幅部53による推進力の増幅率は、第1増幅部52による推進力の増幅率よりも大きくなり、第1,第2レバー部材63に加える操作力が同じである場合、第2増幅部53は、第1増幅部52よりも大きい推進力で取付ロッド50を前方へ推進させることが可能となっている。
【0043】
図7は、拡径治具38の側面図(一部断面図)である。取付ロッド50の先端部に着脱可能に取り付けられる拡径治具38は、治具本体77と、外側カバー78と、取付軸79と、取付筒80とを組み立てることによって構成されている。治具本体77は、先端の小径部81と、この小径部81から後方へ向けて傾斜状に外径が拡大する円錐形状の拡径部82と、この拡径部82から後方へ向けて軸線xと平行に延びる円筒形状に形成された大径部83と、この大径部83の後側に形成された被嵌合部84と、さらに被嵌合部84の後側に形成された嵌合筒部85とを有している。
【0044】
小径部81は、樹脂管11の内径と略同じか若干小さい外径を有する円筒形状に形成されている。拡径部82は、軸線xに対して所定の傾斜角度で外径が拡大しており、最大の外径が樹脂管11の外径よりも大きく形成されている。この拡径部82は、取付ロッド50の推進によって樹脂管11の先端部を一気に拡げる作用をなす。
【0045】
大径部83は、小径部81よりも大きな外径に形成されており、拡径部82によって押し拡げられた樹脂管11の内径が縮まないように保持し、拡径ストレート部13(図9参照)を形成する作用をなす。
なお、大径部83は、本実施の形態とは異なり、拡径部82よりも緩やかな傾斜角度で外径が僅かに拡大する円錐形状に形成されていてもよい。そのように構成することで、樹脂管11から拡径治具38を抜き取ったときに樹脂管11の端部の内径が若干縮んだとしても、所定の内径寸法(拡径ストレート部13の内径寸法)を確保することが可能となる。
【0046】
被嵌合部84は、大径部83の最大外径よりもやや大きな外径を有する円柱形状に形成されている。また、嵌合筒部85は、被嵌合部84よりも小さい外径を有する円筒形状に形成されている。この嵌合筒部85の後端は開放しており、この開放端に取付軸79が挿入され、取付ピン88によって固定されている。取付軸79は、嵌合筒部85に挿入される前側部分の外径が大きく、後側部分の外径が小さく形成されている。また、取付軸79の後端は、先細り形状に形成されている。
【0047】
外側カバー78は、その後部側が、被嵌合部84及び嵌合筒部85に嵌合し、その前部側が、大径部83の後部側の径方向外方に隙間90をあけて配置されている。この隙間90に樹脂管11の端部が挿入される。
取付筒80は、その前部側が嵌合筒部85の外周面に嵌合し、取付ピン88によって取付軸79とともに嵌合筒部85に固定されている。また、取付筒80の後端部は、取付ロッド50の先端に形成された大径頭部91の外周面に嵌合する。また、取付軸79の後部側は、取付ロッド50の先端に形成された取付孔92に挿入され、取付ロッド50に進退可能に取り付けられた抜け止めピン93(図3参照)によって取付ロッド50の先端部に固定される。
【0048】
図2に示されるように、治具保持機構36には、凹み成形治具39が保持されている。この凹み成形治具39は、図8に示されるように、樹脂管11の端部の外周面に第1凹み31及び第2凹み32を形成するものである。具体的に、凹み成形治具39は、中心部に形成された成形孔97の内面に、第1凹み31を成形するための第1環状段部98と、第2凹み32を成形するための第2環状段部99とを備えている。第1環状段部98の前側における成形孔97の最小内径は、樹脂管11の外径と略同じかやや大きく形成されている。
【0049】
第1環状段部98と第2環状段部99とは、互いに軸方向に隣接して形成され、略L字状に屈曲したエッジを有している。また、第2環状段部99は、第1環状段部98よりも大径に形成されている。第2環状段部99の後側に連なる成形孔97の最大内径は、拡径した樹脂管11の端部の外径よりもやや小さく形成されている。
【0050】
図2に示されるように、凹み成形治具39は、上下2分割構造とされており、その上下の分割体が、それぞれ治具保持機構36の上側のクランプ部材47aと下側のクランプ部材47bとに固定的に取り付けられ、治具保持機構36のクランプ部材47a,47bを開放することで、凹み成形治具39の成形孔97に樹脂管11を挿入することが可能となっている。
【0051】
次に、本実施の形態の加工装置10による樹脂管11の加工手順について説明する。
まず、図1〜図3に示されるように、加工装置10の管保持機構35に樹脂管11を保持させる工程(セッティング工程)を行う。樹脂管11は、加工を容易にするために、予めヒータ等によって加熱しておく。本実施の形態では、管保持機構35に樹脂管11を保持させたとき、樹脂管11の端部に拡径治具38の小径部81が挿入された状態となる。これにより、樹脂管11と拡径治具38との芯合わせや、管保持機構35に対する樹脂管11の軸方向の位置合わせが適切に行われる。
【0052】
次いで、推進機構37の第1レバー部材55及び第2レバー部材63を用いて拡径治具(取付ロッド)の推進工程を行う。この推進工程は、第1段階(初期段階)と第2段階(終期段階)とに分けることができる。具体的に、第1段階では、取っ手部43を把持した状態で第1レバー部材55を操作することによって、拡径治具38を前方へ大きく推進させる。これにより、拡径治具38の拡径部82及び大径部83を樹脂管11の内部に押し込み、樹脂管11の端部を拡径させる。
この第1段階では、図5に示されるように、取付ロッド50の後端がガイド部42から寸法d1だけ突出した状態となるまで、拡径治具38を寸法d2だけ推進させる。
【0053】
図8(a)には、第1レバー部材55の操作で拡径治具38を推進させたときの拡径治具38、凹み成形治具39、及び樹脂管11の相互関係が示されている。この状態では、拡径治具38の拡径部82が凹み成形治具39の成形孔97内に入り込んでいるが、樹脂管11には第1環状段部98や第2環状段部99が未だ押し付けられていない。
【0054】
次いで、推進工程の第2段階を行う。具体的には、図5に示されるように、第2レバー部材63を下方に寸法d3だけ揺動させることによって、押圧ローラ64で取付ロッド50の後端を押し、拡径治具38をさらに寸法d1だけ推進させる。これにより、図8(b)に示されるように、拡径治具38の拡径部82が第1環状段部98と第2環状段部99とに接近し、これらの間に樹脂管11が挟み込まれることによって、樹脂管11の外面に第1凹み31と第2凹み32とが成形される。
【0055】
第2レバー部材63が下方の限界位置まで揺動すると、第2レバー部材63に形成された切欠70に固定ピン73が係合し、第2レバー部材63が固定される。これによって、拡径治具38が推進終端位置で固定される。そして、加熱された樹脂管11が冷却されるまでこの状態を維持することで、樹脂管11の端部の拡径形状を固めることができる。したがって、使用者は、樹脂管11が冷却されるまで第2レバー部材63を操作した状態を継続しなくてもよく、使用者の作業負担を軽減することができる。
【0056】
樹脂管11が冷却された後は、固定ピン73を切欠70から離脱させ、第2レバー部材63を上方に揺動させることによって、付勢部材51の作用で拡径治具38が後退し、樹脂管11から拡径治具38が抜き取られる。樹脂管11に対して拡径治具38が強く密着し、付勢部材51による付勢力だけでは樹脂管11から拡径治具38が抜き取られない場合は、人手によって第1レバー部材55の下部側を前方へ揺動させて強制的に樹脂管11から拡径治具38を抜き取ってもよい。また、管保持機構35及び治具保持機構36を開放した状態で、人手によって樹脂管11から拡径治具38を抜き取ってもよい。
【0057】
以上に説明した拡径治具38の推進工程において、第1段階は、専ら樹脂管11の端部に拡径治具38を挿入して押し拡げる段階であるため、それほど大きな推進力が要求されない。その反面、寸法d1を除く広い範囲d2(図5参照)で拡径治具38を推進させるため、大きな推進量が必要となる。したがって、レバー部材の操作力に対する推進力の増幅率が小さい第1推進部(第1増幅部)を利用して、拡径治具38を推進させることが好適となっている。すなわち、第1推進部52は、推進力の増幅率は小さいものの、第1レバー部材55の操作量(揺動量)をそれほど大きくしなくても拡径治具38の推進量を確保することができ、操作性が良好となる。
【0058】
推進工程の第2段階は、樹脂管11の端部に拡径変化部12、第1凹み31、及び第2凹み32を成形し、形状を固めなければならないため、大きな推進力で拡径治具38を樹脂管11に強く押し付けることが要求される。特に、大口径(例えば、外径25mm等)の樹脂管11に第1凹み31及び第2凹み32を形成する場合にはより大きな推進力が要求される。したがって、レバー部材の操作力に対する推進力の増幅率が大きい第2推進部(第2増幅部)を利用して、拡径治具38を推進させることがより好適となっている。そして、第2推進部53は、第2レバー部材63の操作量の割に拡径治具38の推進量は小さいが、第2段階で必要な拡径治具38の推進量は僅かであるため、第2レバー部材63の操作量もそれほど大きくならない。よって、操作性が損なわれることもない。
【0059】
装置本体34のベース部41は、下面が平坦に形成されている。そのため、図1に示されるように、ベース部41の下面をテーブル等の水平な台100の上に載せることができる。そして、水平な台100にベース部41の下面を載せることによって、第2レバー部材63の操作を安定して行うことができる。特に、第2レバー部材63は上方から下方へ揺動操作されるので、ベース部41の下面を台100上に載せることによって第2レバー部材63に強い操作力を安定して付与することが可能となる。ここに、ベース部41の下面は、水平な台100上に加工装置10を載置するための被載置部を構成している。なお、第1レバー部材55を操作する際にも、ベース部41の下面を台100上に載置してもよい。
【0060】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、適宜変形できるものである。
例えば、推進機構37を構成する第1推進部52や第2推進部53は、テコの原理を用いた機構だけでなく、リンク機構、クランク機構、トグル機構等による倍力機構を適用することができる。
【0061】
また、上記実施の形態の加工装置10は、樹脂管11の端部に第1凹み31及び第2凹み32を成形する凹み成形治具39やこれを保持する治具保持機構36を備えていたが、樹脂管11の端部の拡径だけを行う場合は、これらを省略することができる。
【符号の説明】
【0062】
10: 加工装置
11: 樹脂管
15: 配管継手
31: 第1凹み
32: 第2凹み
34: 装置本体
35: 管保持機構
36: 治具保持機構
37: 推進機構
38: 拡径治具
39: 凹み成形治具
50: 取付ロッド(取付部材)
52: 第1推進部(第1増幅部)
53: 第2推進部(第2増幅部)
55: 第1レバー部材
57: 第1枢軸
63: 第2レバー部材
64: 押圧ローラ
65: 第2枢軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂管を保持する管保持機構と、
前記管保持機構によって保持された前記樹脂管の端部に軸方向に挿入されることで当該端部を拡径する拡径治具と、
この拡径治具を前記樹脂管の端部に挿入させるため、前記拡径治具を前記樹脂管の端部に向けて軸方向に推進させる推進機構と、を備えており、
前記推進機構は、人手による操作力を増幅して前記拡径治具を推進させるための推進力に変換する第1増幅部と、前記第1増幅部よりも高い増幅率で人手による操作力を増幅して前記推進力に変換する第2増幅部と、を備えている樹脂管の加工装置。
【請求項2】
前記第2増幅部は、前記拡径治具の推進工程における少なくとも終期段階で作用可能とされている請求項1に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項3】
前記推進機構は、前記拡径治具の推進工程が終期段階に到るまでの前記第2増幅部の作用を制限する制限手段を備えている請求項2に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項4】
前記拡径治具の推進工程の終期段階で前記樹脂管の拡径部分の外周面に凹みを形成するための凹み成形治具を更に備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項5】
前記凹み成形治具を着脱可能に保持するための治具保持機構を更に備えている請求項4に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項6】
水平な台上に載置可能な被載置部を更に備えており、
前記第2増幅部は、上方から下方に向けて付与された操作力により前記拡径治具を推進させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項7】
前記拡径治具を推進終端位置で固定する固定手段を更に備えている請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂管の加工装置。
【請求項8】
前記推進機構は、前記樹脂管の軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに前記拡径治具が取り付けられる取付部材を備えており、
前記第1増幅部は、人手による操作力を受けて第1揺動支点回りに揺動し、かつこの揺動によって前記取付部材を前記樹脂管の軸方向に沿って推進させる第1レバー部材を備え、
前記第2増幅部は、人手による操作力を受けて第2揺動支点回りに揺動し、かつこの揺動によって前記取付部材を前記樹脂管の軸方向に沿って推進させる第2レバー部材を備え、
前記第1増幅部と前記第2増幅部とは、それぞれの前記レバー部材における、前記操作力を受ける力点から前記揺動支点までの距離と、前記取付部材に推進力を与える作用点から前記揺動支点までの距離との比率が、互いに異なっている請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂管の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−232514(P2012−232514A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103087(P2011−103087)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】