説明

樹脂組成物、光学フィルムおよびその製造方法、位相差フィルム並びに偏光板

【課題】 簡便な方法で光学特性および帯電防止特性に優れる光学フィルム等の成形体を得ること。
【解決手段】 環状オレフィン系樹脂と、アルキル(エーテル)硫酸エステルの窒素化合物塩とを含有する樹脂組成物、それから得られた光学フィルムとその製造方法、当該光学フィルムを用いた位相差フィルムおよび偏光板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能を有する樹脂組成物、それから得られる光学フィルムとその製造方法、および当該光学フィルムから得られる位相差フィルムとそれを用いる偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子、あるいはプラズマ発光表示素子などの平面ディスプレイ等の各種表示素子では、輸送時の表示面保護のための保護フィルムを剥離する際に生じる静電気により回路が破壊されるという問題、静電気による表面の帯電で埃が付着しやすく、さらにその埃を布等で拭く際にも、さらなる静電気が生じて、回路の破壊や払拭による表示面の傷つきなどの問題があり、帯電の防止が求められる。特に、光学特性と耐熱性に優れることから各種表示素子や他の光学用途に好適に用いられる環状オレフィン系樹脂は、脂環構造を有するために帯電しやすいという問題がある。
【0003】
この問題点を解決するため、環状オレフィン系樹脂に帯電防止剤を含有させて帯電防止性能を付与する方法や、環状オレフィン樹脂フィルム上に帯電防止層を設ける方法等が検討されている(特許文献1〜3など)。しかしながら、従来検討されている帯電防止剤を環状オレフィン系樹脂に含有させたフィルムは、光学フィルムに求められている帯電防止性能に達しておらず、添加量を増量した場合には成形工程や加工工程での加熱処理によって、または混合不良によって、全光線透過率や色相、ヘイズといった光学特性に悪影響を及ぼす。
また、樹脂フィルム上に帯電防止性を持つ化合物の表面コーティングなどにより帯電防止層を設ける方法は帯電を防止するのに効果的ではあるが、基材フィルムを製造した後、帯電防止層を逐次製造する必要があり、工程が煩雑である。
このため、簡便な方法で効率よく製造でき、しかも優れた光学特性および帯電防止効果を有する帯電防止フィルムの出現が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−9351号公報
【特許文献2】特開2003−327800号公報
【特許文献3】特開2004−338379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便な方法で光学特性および帯電防止特性に優れる光学フィルム等の成形体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂と、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう)を含有することを特徴とする。
【0007】
【化1】

【0008】
(上記式中、Aは炭素数1〜22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、Aは炭素数2または3の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、Aが複数存在する場合はそれぞれ同一または異なっていてもよく、nは0〜6の数である。Mは窒素原子またはリン原子であり、Q1〜Q4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基またはヒドロキシアルキル基である。また、MとQ〜Q4の少なくとも2つとが結合して炭素数4〜12の窒素原子を含有する単環構造を形成していてもよい。)
【0009】
本発明の光学フィルムは、環状オレフィン系樹脂と化合物(1)とを含有することを特徴とする。
本発明の光学フィルムの製造方法は、本発明の樹脂組成物を溶液流延法により成形することを特徴とする。
本発明の位相差フィルムは、本発明の光学用フィルムを延伸してなる。
本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムまたは位相差フィルムを、少なくとも一面において使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な方法で光学特性および帯電防止特性に優れる光学フィルム等の成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
≪樹脂組成物≫
本発明の樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂と化合物(1)とを含有することを特徴とする。
【0012】
<環状オレフィン系樹脂>
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂は、熱可塑性を有し、他の熱可塑性透明樹脂、例えばポリカーボネートやポリスチレンなどと比較して、分子を配向させたときに、分子の配向による複屈折が生じにくい。また、透明性、耐熱性、耐薬品性などにも優れるため、光学分野における種々の用途に有用であり、本発明の光学フィルムを構成する樹脂として用いられる。
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂としては、下記一般式(2)で表される化合物(以下、「特定単量体」ともいう。)から得られる重合体または共重合体(以下、「(共)重合体」と表現する。)を用いることが好ましく、より好ましくは下記一般式(2’)で表される構造単位を有する(共)重合体、特に好ましくは、下記一般式(2”)で表される構造単位を有する(共)重合体である。
【0013】
【化2】

【0014】
(式(1)中、R1〜R4は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていても良い。また、R1〜R4 のうち任意の2つが互いに結合して、単環または多環構造を形成しても良い。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式(2’)中、R1〜R4 、p、mの定義は上記式(2)に同じ。)
【0017】
【化4】

【0018】
(式(2”)中、R1〜R4 の定義は上記式(2)に同じ。)
【0019】
具体的には、下記(a)〜(e)に示す重合体または共重合体を好適に用いることができる。
(a)特定単量体の開環重合体(以下、「特定の開環重合体」ともいう。)
(b)特定単量体とこれと共重合可能な環状単量体(特定単量体を除く。以下、「共重合性環状単量体」ともいう。)との開環共重合体(以下、「特定の開環共重合体」ともいう。)
(c)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体(以下、「特定の飽和共重合体」ともいう。)
(d)特定の開環重合体または特定の開環共重合体(以下、これらを「特定の開環(共)重合体」ともいう。)の水素添加(共)重合体
(e)特定の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、水素添加して得られる水素添加(共)重合体
【0020】
〔特定単量体〕
好ましい特定単量体としては、上記式(2)中、R1およびR3が水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2およびR4が水素原子または一価の有機基であって、R2およびR4の少なくとも一つは水素原子および炭化水素基以外の極性基を示し、mが0〜3の整数、pが0〜3の整数であり、m+pの値が0〜4、更に好ましくは0〜2、特に好ましくは1であるものを挙げることができる。
また、特定単量体のうち、R2およびR4が下記式(3)で表される極性基を有する特定単量体は、ガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう)が高く、吸湿性が低い環状オレフィン系熱可塑性樹脂が得られる点で好ましい。
−(CH2)COOR5 (3)
(式中、R5は炭素数1〜12の炭化水素基を示し、nは0〜5の整数である。)
上記式(3)において、R5はアルキル基であることが好ましい。また、nの値が小さいものほど、得られる環状オレフィン系樹脂のTgが高くなるので好ましく、特にnが0である特定単量体は、その合成が容易である点で好ましい。
【0021】
また、上記式(2)において、R1またはR3はアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1〜2のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。更に、このアルキル基が、上記式(3)で表される極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが好ましい。
また、上記式(2)においてmが1である特定単量体は、Tgがより高い熱可塑性樹脂組成物が得られる点で好ましい。
【0022】
上記式(2)で表される特定単量体の具体例としては、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、
ペンタシクロ[7.4.0.12,5.199,12.08,13]−3−ペンタデセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ジメタノオクタヒドロナフタレン、
エチルテトラシクロドデセン、
6−エチリデン−2−テトラシクロドデセン、
トリメタノオクタヒドロナフタレン、
ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ヘキサデセン、
ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]−4−エイコセン、
ヘプタシクロ[8.8.0.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]−5−ヘンエイコセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンなどを挙げることができる。
【0023】
これらの特定単量体のうち、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ペンタデセンは、優れた耐熱性を有する環状オレフィン系樹脂が得られる点で好ましい。
【0024】
〔共重合性環状単量体〕
特定の開環共重合体を得るための共重合性環状単量体としては、炭素数が4〜20、特に5〜12のシクロオレフィンを用いることが好ましく、その具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、トリシクロ[5.2.1.02,6]−3−デセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0025】
〔不飽和二重結合含有化合物〕
特定の飽和共重合体を得るための不飽和二重結合含有化合物としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を含む不飽和炭化水素系ポリマーを用いることができる。
特定単量体と共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物との使用割合は、特定単量体:共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物が、重量比で100:0〜50:50であることが好ましく、更に好ましくは100:0〜60:40である。
共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物の使用割合が過大である場合には、得られる共重合体のTgが低下し、その結果、樹脂の耐熱性が低下するため、耐熱性の高いシートを得ることが困難となる。
【0026】
〔開環重合触媒〕
特定単量体の開環重合反応はメタセシス触媒の存在下に行われる。このメタセシス触媒は、タングステン化合物、モリブデン化合物およびレニウム化合物から選ばれた少なくとも1種の金属化合物(以下、「(a)成分」という。)と、周期表第1族元素(例えばLi、Na、Kなど)、第2族元素(例えばMg、Caなど)、第12族元素(例えばZn、Cd、Hgなど)、第13族元素(例えばB、Alなど)、第4族元素(例えばTi、Zrなど)あるいは第14族元素(例えばSi、Sn、Pbなど)の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種の化合物(以下、「(b)成分」という。)との組み合わせからなるものであり、触媒活性を高めるために添加剤(以下、「(c)成分」という。)が含有されていてもよい。
【0027】
上記(a)成分を構成する好適な金属化合物の具体例としては、WCl6、MoCl5、ReOCl3 などの特開平1−240517号公報に記載の金属化合物を挙げることができる。
上記(b)成分を構成する化合物の具体例としては、n−C49Li、(C25)3Al、(C25)2AlCl、(C25)1.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサン、LiHなどの特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。
上記(c)成分としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などを好適に用いることができるが、その他に特開平1−240517号公報に示される化合物を用いることができる。
【0028】
〔水素添加〕
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂としては、上記の特定の(共)開環重合体および特定の飽和共重合体の他に、特定の(共)開環重合体に水素添加して得られる水素添加(共)重合体、および特定の(共)開環重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、これに水素添加して得られる水素添加(共)重合体を用いることができる。
このような水素添加(共)重合体は、優れた熱安定性を有するものであるため、成形加工を行う際や製品として使用する際に、加熱によってその特性が劣化することを防止することができる。
【0029】
ここに、水素添加(共)重合体における水素添加率は、通常50%以上、好ましく70%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。
【0030】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂は、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)が0.2〜5.0dl/gであることが好ましい。
また、環状オレフィン系樹脂の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が8,000〜100,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜300,000の範囲のものが好適である。
更に、環状オレフィン系樹脂のビカット軟化点は、160℃以上であることが好ましい。
【0031】
<化合物(1)>
本発明で用いられる化合物(1)は、上記式(1)で表される化合物であり、帯電防止剤としての機能を有する添加剤である。化合物(1)を含有する本発明の樹脂組成物は、溶液流延法により成形すると、化合物(1)と環状オレフィン系樹脂との相溶性のバランスにより、成形されるフィルムの表面近傍に化合物(1)が偏在しやすいため、化合物(1)を少量添加しただけで十分な帯電防止性能を発現するという特徴を有する。また、光学特性に優れた光学フィルムが得られるという特徴を有する。
【0032】
上記式(1)中、Aは炭素数1〜22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜18、特に好ましくは炭素数1〜14の基である。Aは炭素数2または3の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、好ましくはエチレン基または1,2−プロピレン基である。Aが複数存在する場合は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nは0〜6の数であり、好ましくは0〜3の数である。Mは窒素原子またはリン原子であり、Q1〜Q4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基またはヒドロキシアルキル基であるが、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基およびヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基およびヒドロキシエチル基が特に好ましい。また、MとQ〜Q4の少なくとも2つとが結合して形成する炭素数4〜12の窒素原子を含有する単環構造としては、ピリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、イミダゾリン環が好ましい。
【0033】
化合物(1)としては、アルキル硫酸エステルまたはアルキルエーテル硫酸エステルのアンモニウム塩;ピリジン塩;ピペラジン塩;ピペリジン塩;イミダゾリン塩;ホスホニウム塩等が挙げられる。上記化合物は単体で用いても2種以上を組み合わせてもよい。具体例としては、メチル硫酸アンモニウム、メチル硫酸トリメチルアンモニウム、メチル硫酸テトラメチルアンモニウム、メチル硫酸トリエタノールアミン、メチル硫酸テトラメチルホスホニウム、メチル硫酸テトラエチルホスホニウム、エチル硫酸テトラメチルアンモニウム、エチル硫酸トリメチルアンモニウム、エチル硫酸エチルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチル2−エチルヘキシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチル2−エチルヘキシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルn−オクチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルn−オクチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルドデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルドデシルエチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルテトラデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルテトラデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルヘキサデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルヘキサデシルアンモニウム、エチル硫酸エチルトリオクチルアンモニウム、エチル硫酸トリエタノールアミン、エチル硫酸テトラメチルホスホニウム、エチル硫酸テトラエチルホスホニウム、エチル硫酸テトラプロピルホスホニウム、エチル硫酸テトラブチルホスホニウム、エチル硫酸テトラオクチルホスホニウム、エチル硫酸テトラドデシルホスホニウム、エチル硫酸テトラフェニルホスホニウム、エチル硫酸ピリジニウム、エチル硫酸ピペラジニウム、エチル硫酸ピペリジニウム、エチル硫酸イミダゾリニウム、オクチル硫酸アンモニウム、オクチル硫酸テトラメチルアンモニウム、オクチル硫酸テトラメチルホスホニウム、オクチル硫酸テトラエチルホスホニウム、ドデシル硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ジメチルドデシルエチルアンモニウム、ドデシル硫酸テトラメチルホスホニウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン;ポリオキシエチレンヘキシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸エチルトリメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ジメチルエチル2−エチルヘキシルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ジメチルエチルn−オクチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ジメチルドデシルエチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ジメチルエチルテトラデシルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ジメチルエチルヘキサデシルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸エチルトリオクチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラメチルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラエチルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラプロピルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラオクチルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸テトラドデシルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ピリジニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ピペラジニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸イミダゾリニウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸ピリジニウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸イミダゾリニウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸テトラメチルホスホニウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸テトラエチルホスホニウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル硫酸テトラオクチルホスホニウム等が挙げられる。これらのうち好ましいものとしては、メチル硫酸トリメチルアンモニウム、メチル硫酸テトラメチルアンモニウム、メチル硫酸トリエタノールアミン、メチル硫酸テトラメチルホスホニウム、エチル硫酸トリメチルアンモニウム、エチル硫酸テトラメチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチル2−エチルヘキシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチル2−エチルヘキシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルn−オクチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルn−オクチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルドデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルドデシルエチルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルテトラデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルテトラデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルヘキサデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルエチルヘキサデシルアンモニウム、エチル硫酸テトラブチルホスホニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸エチルトリオクチルアンモニウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられる。
また、これらの市販品としては、エマールTD、ラムテルAD−25(花王(株)製)、パーソフトSFT、EFT(日本油脂(株)製)、レジスタットPU−101、カチオーゲンES−L(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0034】
本発明の樹脂組成物における化合物(1)の含有割合は、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.2〜10重量部である。化合物(1)の割合が0.1重量部未満であると、十分な帯電防止性能が得られない場合がある。また、20重量部を超えると、得られる光学フィルムの透明性が悪化する場合がある。
【0035】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物には、樹脂に配合し得る各種添加剤を配合することができる。
添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤などの加工性向上剤などが挙げられる。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂と化合物(1)とを含む成分を、溶剤に溶解させたものであってもよい。用いられる溶剤としては、環状オレフィン系樹脂および化合物(1)を溶解するものであれば特に制限は無いが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン;クロロベンゼンなどのハロゲン化アリール化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
≪光学フィルム≫
本発明の光学フィルムは、本発明の樹脂組成物を必要に応じて溶剤で希釈し、適切な基材の上にキャスティングして溶剤を除去する方法により好適に成形することができる。例えば、スチールベルト、スチールドラムあるいはポリエステルフィルム等の基材の上に、本発明の樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後基材から塗膜を剥離することにより、光学フィルムを得ることができる。
【0038】
本発明の光学フィルムの表面抵抗値としては、通常、1012Ω/□以下、好ましくは 1011Ω/□以下、さらに好ましくは1010Ω/□以下であると、フィルム表面へのほこり、ゴミなどの付着が著しく低減されるため、フィルム加工時の欠陥の発生の防止に効果がある。なお、表面抵抗値が1013Ω/□を超える場合は、静電気の発生防止に効果が無いため好ましくない。
本発明の光学フィルム中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が3重量%を超える場合、経時的にフィルムが変形したり特性が変化したりして所望の機能が発揮できなくなることがある。
本発明の光学フィルムは、その厚さを特に限定するものではないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μm程度であるのが望ましい。フィルムの厚さが薄すぎると、強度が不足する場合があり、また、厚すぎると、複屈折性が高くなりすぎたり、透明性、外観性が低下したりする場合がある。
また、本発明の光学フィルムは、光透過性が通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であることが望ましい。
【0039】
≪位相差フィルム≫
本発明の位相差フィルムは、上記方法により得られたフィルムを延伸処理することにより得られる。延伸処理の方法としては、樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸する方法が用いられる。一軸延伸処理の場合、延伸速度は、通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1,000%/分である。二軸延伸処理法の場合、同時に二方向に延伸処理を行う方法、一軸延伸処理した後に当該延伸処理における延伸方向と異なる方向に延伸処理する方法を利用することができる。このとき、2つの延伸軸の交わり角度は、目的とする位相差フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常、120〜60度の範囲である。また、延伸速度は、各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0040】
延伸処理温度は、特に限定されるものではないが、用いる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg±30℃、好ましくはTg±15℃、さらに好ましくはTg−5〜Tg+15℃の範囲である。延伸処理温度を上記範囲内に設定することにより、得られる延伸フィルムに位相差ムラが発生することを抑制することができ、また、屈折率楕円体の制御が容易となることから好ましい。
【0041】
延伸倍率は、目的とする位相差フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が上記範囲を超えると、得られる延伸フィルムの位相差の制御が困難になることがある。延伸処理されたフィルムは、そのまま冷却してもよいが、環状オレフィン系樹脂のTg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、さらに好ましくは1〜60分間保持した後に冷却することが好ましい。これにより、透過光の位相差の経時変化が少なくて安定した位相差フィルムが得られる。
【0042】
上記のようにして延伸処理が施されたフィルムは、延伸処理により分子が配向する結果、透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率、延伸温度あるいはフィルムの厚さなどにより制御することができる。
位相差フィルムの厚さは、特に限定するものではないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μm程度であるのが望ましい。
【0043】
≪偏光板≫
本発明の偏光板は、PVA系フィルムなどからなる偏光子の一面および/または他面に、本発明の位相差フィルムを、PVA樹脂を主体とした水溶液からなる水系接着剤や、極性基含有粘接着剤を使用して貼り合わせ、これを加熱し圧着して、偏光子と位相差フィルムとを接着(複合化)させることにより製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらによって制限されるものではない。なお、以下において「部」は「重量部」を示し、分子量とは、特に記載のない限り、ポリスチレン換算重量平均分子量のことである。また、以下に本実施例での各種測定方法を示す。
測定法
<ガラス転移温度:Tg>
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を用いて、昇温速度を毎分20℃、窒素気流下で測定を行った。
<重量平均分子量および分子量分布>
東ソー(株)製HLC-8020ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、テトラヒドロフラン(THF)溶媒を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、Mnはポリスチレン換算の数平均分子量を表す。
<固有粘度(〔η〕inh)>
溶媒にクロロホルム溶媒を使用し、0.5g/dlの重合体濃度で30℃の条件下、ウベローデ粘度計にて測定した。
<表面抵抗値>
フィルムの表面抵抗値は温度23℃、相対湿度50%の環境下に一昼夜放置し、その後、表面抵抗計(アジレントテクノロジー社製、ハイレジスタンスメーター「4339B」)を用いて測定した。
<全光線透過率・ヘイズ>
村上色彩技術研究所(株)製 ヘーズメーターHM−150型を用いて測定した。
【0045】
樹脂組成物の調製:
製造例1
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン250部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)750部とを窒素置換した反応容器内に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(1.5モル/l)0.62部と、t−ブタノール/メタノールで変性した六塩化タングステン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
このようにして得られた開環共重合体溶液4,000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C 0.48部を添加し、水素ガス圧力100kg/cm、反応温度160℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。
得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加された環状オレフィン系樹脂Aを得た。樹脂AのTgは168℃であった。また、GPC法により測定したポリスチレン換算のMn、Mw、Mw/Mnは、それぞれ、39,000、137,000、3.5であり、固有粘度(ηinh)は0.75dl/gであった。
【0046】
製造例2
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]−3−ドデセン215部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン35部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン750部を用いて、以下調整例C−1と同様に重合反応を行った。この重合反応における重合転化率は97%であった。得られた開環共重合体について、製造例1同様に水素添加反応を実施し、水添された環状オレフィン系樹脂Bを得た。樹脂BのTgは130℃であった。また、ポリスチレン換算のMn、Mw、Mw/Mnはそれぞれ18,000、65,000、3.6であり、固有粘度(ηinh)は0.55dl/gであった。
【0047】
製造例3
8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン162.5重量部、ジシクロペンタジエン(DCP)62.5重量部、および、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン25重量部を用い、1−ヘキセン(分子量調整剤)を15重量部で100℃に加熱した以外は製造例1同様にして行い、開環共重合体を得た。反応率は96%であった。さらに水添反応を同様にして行い、水添された樹脂C−3を得た。樹脂Cのガラス転移温度(Tg)=120.0℃であった。
数平均分子量(Mn)=20,000、重量平均分子量(Mw)=63,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.2で、固有粘度(ηinh)=0.52であった。
【0048】
実施例1
樹脂A100部とアルキルジメチルアミンエトサルフェート(エチル硫酸アルキルジメチルアンモニウム、第一工業製薬(株)製レジスタットPU−101、以下、「化合物(1)−1」ともいう)1部、酸化防止剤0.5部(ペンタエリスリチルテトラキス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)を約30%になるように塩化メチレンに混合溶解した後、2.5μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用い、約0.2MPaの加圧下でろ過を行った。この濾過液をクリアランスが0.3mmのアプリケーターバーを用いて膜を作成した。さらに、この膜を100℃に保持した真空乾燥機中で24時間乾燥し、厚さ100μmのフィルム1を得た。フィルム1の評価結果を下記表1に示した。
【0049】
実施例2
樹脂Aのかわりに樹脂B100部を使用した以外は実施例1と同様に行いフィルム2を得た。フィルム2の評価結果を下記表1に示した。
実施例3
樹脂Aのかわりに樹脂C100部を使用した以外は実施例1と同様に行いフィルム3を得た。フィルム3の評価結果を下記表1に示した。
実施例4
化合物(1)−1の代わりにポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのトリエタノールアミン塩(日本油脂(株)製パーソフトEFTを脱水処理したもの、以下「化合物(1)−2」ともいう)1部を使用した以外は実施例1と同様に行い、フィルム4を得た。フィルム4の評価結果を下記表1に示した。
【0050】
比較例1
樹脂A100部と酸化防止剤0.5部(ペンタエリスリチルテトラキス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)を約30%溶液になるように塩化メチレンに混合溶解した後、2.5ミクロンのテフロン(登録商標)製フィルターを用い、約0.2MPaの加圧下でろ過を行った。この濾過液をクリアランスが0.3mmのアプリケーターバーを用いて膜を作成した。さらに、この膜を100℃に保持した真空乾燥機中で24時間乾燥し、厚さ100μmのフィルム5を得た。フィルム5の評価結果を下記表1に示した。
比較例2
化合物(1)−1の代わりにポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのNa塩(日本油脂(株)製パーソフトEFを脱水処理したもの、以下「化合物(i)−1」ともいう)1部を使用した以外は実施例1同様に行い、フィルム6を得た。フィルム6の評価結果を下記表1に示した。
比較例3
化合物(1)−1の代わりにアルキルベンゼンスルホン酸リチウム塩(竹本油脂(株)製エレカットS−417、以下「化合物(i)−2」ともいう)1部用いた以外は実施例1と同様に行い、フィルム7を得た。フィルム7の評価結果を下記表1に示した。
比較例4
化合物(1)−1の代わりにステアリン酸モノグリセライド(以下「化合物(i)−3」ともいう)1部を用いた以外は実施例1同様に行い、フィルム8を得た。フィルム8の評価結果を下記表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す結果から、実施例1〜4にかかる樹脂組成物を成形して得られるフィルムは全光線透過率が高く、ヘイズが低い。さらに表面抵抗値が小さいので、フィルム表面へ埃が付着しにくく、光学フィルムとして優れていることが理解される。一方、比較例1〜4より得られるフィルムにおいては、全光線透過率は高いが表面抵抗が大きいので、表面へ埃等が付着しやすい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂と、下記一般式(1)で表される化合物とを含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【化1】

(上記式中、Aは炭素数1〜22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、Aは炭素数2または3の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、Aが複数存在する場合はそれぞれ同一または異なっていてもよく、nは0〜6の数である。Mは窒素原子またはリン原子であり、Q1〜Q4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基またはヒドロキシアルキル基である。また、MとQ〜Q4の少なくとも2つとが結合して炭素数4〜12の窒素原子を含有する単環構造を形成していてもよい。)
【請求項2】
環状オレフィン系樹脂が下記一般式(2)で表される化合物の(共)重合体である請求項1または請求項2記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、R1〜R4は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていても良い。また、R1〜R4 のうち任意の2つが互いに結合して、単環または多環構造を形成しても良い。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
【請求項3】
環状オレフィン系樹脂と、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする、光学フィルム。
【化3】

(上記式中、Aは炭素数1〜22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、Aは炭素数2または3の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、Aが複数存在する場合はそれぞれ同一または異なっていてもよく、nは0〜6の数である。Mは窒素原子またはリン原子であり、Q1〜Q4は、相互に独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基またはヒドロキシアルキル基である。また、MとQ〜Q4の少なくとも2つとが結合して炭素数4〜12の窒素原子を含有する単環構造を形成していてもよい。)
【請求項4】
請求項1記載の樹脂組成物を溶液流延法により成形することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の光学用フィルムを延伸してなる位相差フィルム。
【請求項6】
請求項3または5記載のフィルムを、少なくとも一面において使用したことを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2007−277317(P2007−277317A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102506(P2006−102506)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】