説明

樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブル

【課題】高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、かつ押出外観が平滑な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によってグラフト共重合させたポリエチレンを、シラノール縮合触媒および水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物において、ポリエチレンの密度が0.87〜0.91g/cm3であり、シラン化合物の含有量がポリエチレン100質量部に対して2質量部以上であり、蛍光X線によって検出されるケイ素の含有比率が0.3%以上であり、ゲル分率が70%以上であり、さらにシラン化合物と遊離ラジカル発生剤の質量比が35〜150である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、押出外観が平滑な樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは電気絶縁性に優れることから電線・ケーブルの被覆材料として広く用いられている。特にポリエチレンに架橋構造を導入した架橋ポリエチレンは、耐熱性を付加させることができるため、電力ケーブル等の被覆材料用途として広く使用されている。
【0003】
ポリエチレンの主な架橋方法には、有機過酸化物架橋、電子線照射架橋、及びシラン架橋によるものがある。シラン架橋においては、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンを成形した後、水分が存在する高温高湿環境下に放置して架橋が進行する。
【0004】
シラン架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブルは一般的には次のように製造される。まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させるべく、ポリエチレン、シラン化合物、及び遊離ラジカル発生剤を混練して反応させる。次に、シラノール縮合触媒を添加した後、銅からなる導体、又はケーブルコアに押出被覆する。
【0005】
この際の工程としては、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンを一旦作製し、別工程においてシラノール縮合触媒と当該ポリエチレンとを混練して押出被覆する方法、一つの押出機で全混練工程を実施し、押出被覆する方法等がある。
【0006】
ところで、近年の市場のグローバル化に伴い、国内規格を国際規格に整合させる動きが活発化している。低圧電力ケーブルの分野でもIEC規格に整合したJIS規格が制定され、絶縁体として用いる樹脂組成物においては、空気温度200℃におけるホットセット試験に合格することが要求されている。
【0007】
ホットセット試験は、高温時の絶縁材料の変形のしやすさを測定するものであり、従来使用が可能であったポリエチレンでも、架橋度が低いものは大きく変形するため不合格となる。このため、より高い架橋度をもつシラン架橋ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物の開発が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−2919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、シラン架橋ポリエチレンの架橋度を上げることを目的として、シラン化合物や遊離ラジカル発生剤の添加量を増やすと、押出成形時の外観に発泡、表面荒れやツブなどが生じてしまうという問題があった。このため、電線・ケーブルの被覆材料に使用するシラン架橋ポリエチレンの架橋度を高めるのは難しい場合があった。
【0010】
一方、密度の低いポリエチレンを使用することで水分の吸収を早くすることができ、ゲル分率80%という高い架橋度を実現することができる技術が報告されている(特許文献1)。
【0011】
この技術は高架橋度を実現するとともに、絶縁電線を大気中に放置した状態でも比較的短時間に架橋することができる点で優れており、また、大気中に放置して架橋させる方法であるため、高温高湿環境下で架橋させる方法に比べて初期設備投資を比較的少なくできるメリットがあるが、電線・ケーブルの表面が平滑な押出外観が得られないという問題があった。
【0012】
従って、本発明では、高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、かつ押出外観が平滑な樹脂組成物およびこれを用いた電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく創案された本発明は、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によってグラフト共重合させたポリエチレンを、シラノール縮合触媒および水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物において、前記ポリエチレンの密度が0.87〜0.91g/cm3であり、前記シラン化合物の含有量が前記ポリエチレン100質量部に対して2質量部以上であり、蛍光X線によって検出されるケイ素の含有比率が0.3%以上であり、ゲル分率が70%以上であり、さらに前記シラン化合物と前記遊離ラジカル発生剤の質量比が35〜150である樹脂組成物である。
【0014】
前記樹脂組成物が、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm2、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下、かつ冷却後の永久伸びが15%以下であるとよい。
【0015】
また、本発明は、前記樹脂組成物を被覆材料に用いた電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、かつ押出外観が平滑な樹脂組成物を提供できる。この樹脂組成物は、低圧電力ケーブルなどの電線・ケーブルの被覆材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用される電線の詳細断面図である。
【図2】本発明が適用されるケーブルの詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
まず、本発明の樹脂組成物が被覆された電線・ケーブルについて、図1,2により説明する。
【0020】
図1は、銅導体1に樹脂組成物からなる絶縁体2を被覆した電線10を示したものであり、図2は、電線10にシース3を被覆したケーブル20を示したものである。樹脂組成物からなる絶縁体2、シース3は押出成形により被覆される。
【0021】
さて、本発明に係る樹脂組成物は、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によってグラフト共重合させたポリエチレンを、シラノール縮合触媒および水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンを主成分としたものである。
【0022】
本発明において、上記の目的を達成するため、ポリエチレンの種類、シラン化合物及び遊離ラジカル発生剤の添加量について鋭意検討した。
【0023】
ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる反応では、まず遊離ラジカル発生剤が熱により分解し遊離ラジカルを発生させる。この遊離ラジカルがポリエチレンから水素を引き抜き、ポリマーラジカルが生成する。ポリマーラジカルにシラン化合物が付加することで、シラン化合物がグラフト共重合したポリエチレンを得ることができる。
【0024】
しかし、実際には、投入したシラン化合物の全てがグラフト共重合されることはなく、シラン化合物同士で重合したり、未反応のまま残留したりする。このため、架橋度を高めることを目的にシラン化合物を増量しすぎると、シラン化合物同士の重合体が成長しツブとして外観を荒らす、未反応成分が押出機の吐出口で揮発して発泡が生じるなどの問題が起きる。
【0025】
また、反応成分を増やすために遊離ラジカル発生剤を増量すると、ポリマーラジカル同士の結合が多く起きる。ポリエチレンの分子量が高くなり、さらには三次元的な橋架け構造を形成して架橋してしまう。結果として、押出成形時の外観に表面の肌荒れやツブなどが生じる。
【0026】
従って、高い架橋度を持ち、優れた押出外観を持つ樹脂組成物を得るためには、多くのシラン化合物を効率的にグラフト共重合させ、かつ、ポリマーラジカル同士の結合を抑えることが重要であった。
【0027】
これに対し、本発明者等は、シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の質量比を35〜150にすることで、高い架橋度を得るためにシラン化合物や遊離ラジカル発生剤の添加量を増やしても、押出成形時の発泡、表面荒れやツブなどの外観不良が生じないという知見を得た。これは遊離ラジカル発生剤によって生成したポリマーラジカルが、過剰に添加されたシラン化合物と優先的に反応することによって、ポリエチレンの高分子量化、架橋を抑制できるため、押出性の低下がなくなったためと考えられる。
【0028】
さらには、密度が0.87〜0.91g/cm3であるポリエチレンを用いることで、シラン化合物のグラフト共重合が効率良く進むことを見出し、蛍光X線によって検出されるケイ素の含有比率を0.3%以上、ゲル分率を70%以上にすることで、高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、かつ押出外観が平滑な樹脂組成物が得られることから本発明に至った。
【0029】
上記理由として、密度の低いポリエチレンほど多くの分岐構造を持ち、第三級水素の数が多くなるためと考えられる。すなわち、第三級水素は引き抜かれやすい性質を持つため、第三級水素が多いほどポリマーラジカルが効率的に生成し、過剰に添加されたシラン化合物と優先的に反応しグラフト共重合が効率良く進む。より多くのシラン化合物がグラフト共重合するため、必然的に架橋度が高くなり、反応点同士の出会う確率が高くなることから架橋スピードが速くなる。
【0030】
本実施の形態で規定するポリエチレンには、密度が0.87〜0.91g/cm3のものが使用できる。一般的にこのようなポリエチレンはエチレンとα−オレフィンを共重合させて製造される。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが使用され、単独もしくは2つ以上を組み合わせたものが製造されている。本発明においては、これらのポリエチレンを単独もしくは2種以上ブレンドして用いることができる。メルトインデックス(MI)は特に限定されるものではない。
【0031】
前記ポリエチレンの密度が0.91g/cm3を超えると、シラン化合物が効率よくグラフト共重合されず、架橋度が低くなる。シラン化合物や遊離ラジカル発生剤を増量して架橋度を上げようとすると、押出成形時の外観が悪くなる。密度が0.87g/cm3未満だと、機械的な強度が低くなる。
【0032】
本実施の形態に係る樹脂組成物においては、蛍光X線によって検出されるケイ素の含有比率が0.3質量%以上である。ケイ素の含有比率は、ポリエチレンにグラフト共重合されたシラン化合物の量をあらわす。ケイ素の含有比率が多いほど、高い架橋度、架橋スピードが得られるため特に上限値を設けていない。一方、0.3質量%未満では架橋スピードが遅く、十分な架橋度が得られないため、IEC規格で要求される物性を満足しない。
【0033】
また、本実施の形態に係る樹脂組成物は70%以上のゲル分率を有する。ゲル分率は高いほどホットセット試験の結果が良好になるため上限値を設けていない。70%未満のものは、架橋度が低く、IEC規格で要求される物性を満足しない。
【0034】
シラン架橋ポリエチレンには、目的とする性能を損なわない程度に、シラン化合物がグラフト共重合していない未架橋のポリマーを添加することも可能である。そのようなポリマーとしては、前述したポリエチレンの他に、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などが使用でき、特に限定はしない。
【0035】
本実施の形態で規定するシラン化合物には、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基をともに有していることが要求され、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、などのポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン化合物等を挙げることができる。
【0036】
上記シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の質量比は35〜150である。質量比は、シラン化合物の添加量を(a)、遊離ラジカル発生剤の添加量を(b)としたときに、(a)/(b)で計算される。この値が35より小さいと、ポリエチレンの高分子量化が進み、押出成形時の外観荒れにつながる。150より大きいと、シラン化合物同士の重合や未反応のシラン化合物の揮発による発泡などにより、成形物の外観や特性を低下させてしまう。
【0037】
シラン化合物は、ベースポリマとしてのポリエチレン100質量部に対して2質量部以上の添加量とする。このことは従来のシラン架橋ポリエチレンにおけるシラン化合物の添加量が概ねベースポリマとしてのポリエチレン100質量部に対して0.5質量部以上、2質量部未満であることから、従来の添加量に比して増量していることを意味している。また、シラン化合物は、ベースポリマとしてのポリエチレン100質量部に対して、10質量部以下の添加量とすることが望ましい。
【0038】
遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンハイドロパーオキサイドなどの熱によって分解し遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物が主として使用できる。
【0039】
遊離ラジカル発生剤は、ベースポリマとしてのポリエチレン100質量部に対して0.015質量部以上、0.2質量部以下の添加量とすることが望ましい。
【0040】
本実施の形態において用いることのできるシラノール縮合触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、ジオクチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト等がある。また、縮合効率を上げるために、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物などの酸類やアミン系化合物などのアルカリ類を用いても良く、上述の錫、亜鉛化合物等と併用しても良い。これらの添加量は触媒の種類によるがポリエチレン100質量部当たり0.001〜1.0質量部とすることが望ましい。
【0041】
添加方法としては、そのまま添加する方法以外に、ポリエチレンなどの結晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混ぜたマスターバッチを使用する方法などがある。
【0042】
上記以外にも必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、プロセス油、加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0043】
樹脂組成物は、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm2、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下、かつ冷却後の永久伸びが15%以下であることが好ましい。
【0044】
以上要するに、本発明によれば、高い架橋度を有し、常温での架橋スピードに優れ、かつ押出外観が平滑な樹脂組成物を得ることができる。
【0045】
本発明の樹脂組成物およびを用いた電線10を製造するには、(1)ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程、(2)シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレン及びシラノール縮合触媒を混練し、電線10の絶縁体2として押出被覆する工程、(3)電線10を水分の存在下に置きポリエチレンの架橋を促進させる工程の三つがある。工程(1),(2)を単軸押出機などで一度の押出で行う方法や、別々に分けて、工程(1)を単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどで行い、工程(2)を単軸押出機で行う手法などがあり特に限定はしない。酸化防止剤や着色剤などの配合剤はどのタイミングで加えても良い。工程(3)では常温もしくはポリエチレンの融点以下の温度をかけ、高湿環境下に放置する方法などがある。
【0046】
なお、本実施の形態では、電線10に樹脂組成物を用いる場合を説明したが、ケーブル20のシース3として樹脂組成物を用いてもよい。この場合も、上述したのと同様の工程で樹脂組成物を被覆することができる。
【0047】
本実施の形態に係る樹脂組成物を用いた電線・ケーブルは、被覆材料が高い架橋度を有しているため、高温時においても絶縁体やシースなどの被覆層の変形が抑制される。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例1〜6及び比較例1〜7について説明する。
【0049】
実施例1〜6及び比較例1〜7では、シラン架橋ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物を作製した。ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程、及びシラノール縮合触媒を混練し、銅導体に押出被覆する工程を別々に分けて実施した。
【0050】
まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程では、40mm単軸押出機(L/D=24)を用い、ホッパーからポリエチレンを投入し、液添ポンプからビニルトリメトキシシランにジクミルパーオキサイドを溶解させた溶液を注入し、シラン化合物がグラフト共重合したポリエチレンを作製した。シリンダ温度は200℃に設定し、押出機内の滞留時間は2〜3分となるように押出した。
【0051】
続いてシラノール縮合触媒を混練し、銅導体に押出被覆する工程では、40mm単軸押出機(L/D=24)を用い、予め表1記載の比率でブレンドしておいたシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンと、シラノール縮合触媒を含むマスターバッチをホッパーから投入し、直径7.3mmの銅導体に厚さ1.2mmで押出被覆して電線を作製した。シリンダ温度は180℃に設定し、押出機内の滞留時間は2〜3分となるように押出した。
【0052】
作製した電線は常温環境下(23℃、50%RH)に4日間放置し、架橋させた。
【0053】
上記手順で作製した電線を次に示す方法で評価した。
【0054】
蛍光X線分析
銅導体を取り除き、未反応のシラン化合物を除去するため60℃で24時間真空乾燥させた試料を用い、蛍光X線分析装置(株式会社リガク社製)により元素分析を実施した。グラフト共重合されたシラン化合物の量をあらわすケイ素の含有比率が0.3%以上であるものを合格とした。
【0055】
ゲル分率
銅導体を取り除き、130℃の熱キシレン中で24時間抽出を行った。(抽出後の残存ゲル質量)/(抽出前の樹脂組成物質量)×100(%)をゲル分率とした。70%以上のものを合格とした。
【0056】
ホットセット試験
銅導体を取り除き、被覆材料の内側を平滑に研削してJIS C 3660−2−1の9に準拠したホットセット試験を実施した。空気温度200℃の恒温槽中にダンベル状の試料を吊るし、20N/cm2の荷重を15分間加え、荷重時の伸びを測定した。その後、荷重を取り外し、5分経過後、試料を取り出して試料が十分に冷却された後、永久伸びを測定した。荷重時の伸びが175%以下、かつ冷却後の永久伸びが15%以下であるものを合格とした。
【0057】
引張試験
銅導体を取り除き、被覆材料の内側を平滑に研削してJIS C 3660−1−1の9に準拠した引張試験を実施した。引張強さが12.5MPa以上のものを合格とした。
【0058】
押出外観
表面の平滑さ、ツブや発泡の有無を目視及び手触りにより評価した。十分に平滑でツブや発泡等がないものを良、表面荒れやツブ、発泡がみられたものを不可とした。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、本発明における実施例1〜6においては、いずれの特性も目標値を満足し、かつ押出外観が良好である。
【0061】
比較例1はポリエチレンの密度が規定より高いため、シラン化合物が十分にグラフト共重合されずケイ素の含有比率が少ない。したがって、架橋スピードが遅く、架橋度が低いためホットセット試験に合格しない。また、架橋度を高めるために、密度が規定より高いポリエチレンを用いたままシラン化合物、または遊離ラジカル発生剤を増やした比較例2,3では、押出外観が悪化する。
【0062】
比較例4はポリエチレンの密度が規定より低く、引張強さが小さい。
【0063】
比較例5では、添加したシラン化合物の量が少なく、ケイ素の含有比率が規定に達しないため架橋スピードが遅く、ホットセット試験に合格しない。
【0064】
比較例6と7では、シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の質量比が規定から外れるため、押出外観が悪化する。
【0065】
以上見てきたように、シラン架橋ポリエチレンを主成分とした本発明の樹脂組成物を用いた電線・ケーブルは、被覆材料が高い架橋度を有し、かつ押出外観にも優れ、その工業的な有用性は極めて高いと考えられる。
【0066】
以上、本発明の実施例を説明したが、上記に記載した実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0067】
1 銅導体
2 絶縁体
3 シース
10 電線
20 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によってグラフト共重合させたポリエチレンを、シラノール縮合触媒および水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物において、
前記ポリエチレンの密度が0.87〜0.91g/cm3であり、
前記シラン化合物の含有量が前記ポリエチレン100質量部に対して2質量部以上であり、
蛍光X線によって検出されるケイ素の含有比率が0.3%以上であり、
ゲル分率が70%以上であり、
さらに前記シラン化合物と前記遊離ラジカル発生剤の質量比が35〜150であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm2、荷重を加える時間15分の試験条件で荷重時の伸びが175%以下、かつ冷却後の永久伸びが15%以下である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を被覆材料に用いたことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241129(P2012−241129A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113549(P2011−113549)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】