説明

樹脂組成物及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、非ハロゲン難燃化の要求に応えることができるとと共に、耐熱性、特に高温エージング後の引張破断時伸び保持率に優れる樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】ポリアミドと、ポリフェニレンエーテルと、特定のホスフィン酸塩とを含む樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも前記ポリフェニレンエーテルと前記ホスフィン酸塩とを、前記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、前記ホスフィン酸塩10〜120質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る工程と、前記混合物を溶融混練する工程とを有する樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド/ポリフェニレンエーテルアロイは、機械的強度、耐熱性、耐薬品性などに優れることから、自動車部品、機械部品、電気・電子部品など数多くの分野で使用されている。
【0003】
自動車のエンジンルーム内に設置されるリレーブロックの材料には、従来、ポリアミド6,6が使用されていたが、ポリアミド6,6では、吸水時の寸法変化が大きくなるという問題点がある。そこで、最近では次第に、その材料がポリアミド/ポリフェニレンエーテルアロイに置換されてきている。
【0004】
また、最近の傾向として、車両火災を未然に防止するという観点から、例えば車両部品に対し、難燃化、特に非ハロゲン材料による難燃化(以下、「非ハロゲン難燃化」という)という特性が新たに要求されてきている。
【0005】
ポリアミド/ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を難燃化する技術としては、1種以上のホスホルアミド化合物により難燃化する技術(特許文献1)、ホスファゼン化合物により難燃化する技術(特許文献2)、ハロゲン含有難燃剤により難燃化する技術(特許文献3)、ホスフィン酸塩類等により難燃化する技術(特許文献4、5)等、種々の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−523595号公報
【特許文献2】特開2002−053751号公報
【特許文献3】特開2000−212438号公報
【特許文献4】特開2007−169309号公報
【特許文献5】特開2006−37100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、自動車部品としても用いられるコルゲートチューブ製品に、従来の樹脂組成物を適用しようとした場合、高温エージング前の引張破断伸びに対する高温エージング後の引張り破断伸びの比である、高温エージング後の引張破断時伸び保持率(以下、この特性を「高温エージング性」という場合もある。)が十分ではなく、その点で耐熱性が十分とはいえなかった。コルゲートチューブは、エンジンフード内などの高温下で使用されることもあり、高温エージング後の引張り破断時伸び保持率が高温エージング前と同等以上であることが求められている。
【0008】
また、高温エージング性を改良するためには、樹脂の分子量及び難燃剤の分散性が重要であるとも考えられる。前述の特許文献5に記載のように、ナノオーダーのホスフィン酸塩類を用いた場合には、確かにナノオーダーに分散させることが可能である。ところが、二軸押出機等を用い、樹脂組成物を生産しようとした場合、ナノオーダーのホスフィン酸塩類のフィード性(供給性)が著しく低くなるため、樹脂の種類にもよっては、樹脂の劣化や高分子量化が生じ、ホスフィン酸塩類が微分散しても、高温エージング性に優れる樹脂組成物を得ることは困難である。一方、前述の特許文献4記載の製造方法により樹脂組成物を製造した場合、使用するホスフィン酸塩類の粒子径が比較的大きく生産性に問題はないが、ホスフィン酸塩類を微分散させることは困難であり、高温エージング性に優れる樹脂組成物を得ることは困難である。
【0009】
さらに、そのほかのコルゲートチューブへの要求特性である、非ハロゲン難燃化、耐衝撃性、チューブ押出性、チューブ腑形性を同時に達成できる技術はなかった。
【0010】
本発明は、上記事情にかんがみてなされたものであり、非ハロゲン難燃化の要求に応えることができると共に、耐熱性、特に高温エージング後の引張破断時伸び保持率に優れる、樹脂組成物及びその製造方法、並びにその樹脂組成物から得られるペレット、成形品及び押出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、特定のホスフィン酸塩を難燃剤とし、特定量の該難燃剤をポリフェニレンエーテルとドライブレンドして溶融混練することで、上記課題を解決できるポリアミド/ポリフェニレンエーテル樹脂組成物が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ポリアミドと、ポリフェニレンエーテルと、下記一般式(1)で表されるモノホスフィン酸塩及び下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩並びにこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩と、を含む樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも前記ポリフェニレンエーテルと前記ホスフィン酸塩とを、前記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、前記ホスフィン酸塩10〜120質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る工程と、前記混合物を溶融混練する工程と、を有する樹脂組成物の製造方法。
【化1】

[式中、R1及びR2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を示し、R3は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数6〜10のアルキルアリーレン基又は炭素数6〜10のアリールアルキレン基を示し、Mはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる1種以上の化学種を示し、mは2又は3であり、nは1〜3の整数であり、xは1又は2である。]
[2]前記混合物を得る工程において、前記ポリフェニレンエーテルと前記ホスフィン酸塩とを、前記ポリフェニレンエーテル100質量部に対し、前記ホスフィン酸塩20〜100質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る、[1]の樹脂組成物の製造方法。
[3]前記混合物を溶融混練する工程において、前記混合物を溶融混練してマスターバッチを得る、[1]又は[2]の樹脂組成物の製造方法。
[4]前記樹脂組成物は、前記ポリアミドと前記ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、前記ポリアミドを40〜70質量部、前記ポリフェニレンエーテルを60〜30質量部含む、[1]〜[3]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[5]前記ポリアミドの粘度数が、150mL/g以上300mL/g以下である、[1]〜[4]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[6]前記樹脂組成物は、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個のブロックと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個のブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は、前記ブロック共重合体の水素添加物を含む、[1]〜[5]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[7]前記ポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド9,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド4,6、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群より選ばれる1種以上のポリアミドである、[1]〜[6]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[8]前記樹脂組成物は、クエン酸、マレイン酸及びイタコン酸並びにそれらの無水物からなる群より選ばれる1種以上の相溶化剤を含む、[1]〜[7]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[9]前記樹脂組成物は、その全量に対して、遷移金属及び/又はその化合物を遷移金属原子換算で50ppm以上300ppm未満含む、請求項[1]〜[8]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[10]前記樹脂組成物は、有機安定剤を含む、[1]〜[9]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[11]前記溶融混練する工程を経て得られた混練物にポリアミドを供給して更に溶融混練する工程を有する、[1]〜[10]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法。
[12][1]〜[11]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法によって得られる樹脂組成物であって、当該樹脂組成物中に分散したホスフィン酸塩の数平均粒子径が、3.0μm以下である樹脂組成物。
[13]前記ホスフィン酸塩の前記粒子は、その数平均粒子径が2.0μm以下である、[12]の樹脂組成物。
[14][1]〜[11]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を成形して得られるペレット。
[15][1]〜[11]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を押出成形して得られる押出成形品。
[16][1]〜[11]のいずれか一つの樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、非ハロゲン難燃化の要求に応えることができると共に、耐熱性、特に高温エージング後の引張破断時伸び保持率に優れる、樹脂組成物及びその製造方法、並びにその樹脂組成物から得られるペレット、成形品及び押出成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、(a)ポリアミドと、(b)ポリフェニレンエーテルと、(c)上記一般式(1)で表されるモノホスフィン酸塩及び上記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩並びにこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩とを含む樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも(b)ポリフェニレンエーテルと(c)ホスフィン酸塩とを、(b)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、(c)ホスフィン酸塩10〜120質量部の割合でドライブレンド(乾式混合)して混合物を得る混合工程と、その混合物を溶融混練する混練工程とを有するものである。
【0016】
本実施形態において使用される(a)成分のポリアミドは、ポリマー主鎖の繰り返し単位中にアミド結合(−NH−C(=O)−)を有するものであれば、特に限定されない。
一般に、ポリアミドは、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、アミノカルボン酸の重縮合などによって得られるが、本実施形態に係るポリアミドはこれらに限定されるものではない。
【0017】
上記ジアミンとしては、大別して脂肪族、脂環式及び芳香族ジアミンが挙げられる。その具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンが挙げられる。
【0018】
ジカルボン酸としては、大別して脂肪族、脂環式及び芳香族ジカルボン酸が挙げられる。その具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸が挙げられる。
【0019】
ラクタム類としては、例えば、εカプロラクタム、エナントラクタム、ωラウロラクタムが挙げられる。
【0020】
また、アミノカルボン酸としては、例えば、εアミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノナノン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸の1種を単独で重合して得られるポリアミド、又は2種以上を混合して重縮合して得られる共重合ポリアミドのいずれをも用いることができる。また、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸を重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合した後、押出機等で更に高分子量化したポリアミドも好適に用いられる。
【0022】
本実施形態において、特に有効に用いることのできるポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン),6、ポリアミド6,T、ポリアミド9,T、ポリアミド12,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,Iが挙げられる。また、複数種のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミドも用いられてよい。ポリフェニレンエーテルとのアロイ化の観点から、好ましいポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド9,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド4,6、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群より選ばれる1種以上のポリアミドである。その中でも特に好ましいポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド9T、及びポリアミド12からなる群より選ばれる1種以上のポリアミドである。
【0023】
本実施形態に係るポリアミドの粘度数[VN]に特に制限はないが、ISO307:1994に準拠して96%硫酸中で測定した粘度数が、100mL/g〜300mL/gであると好ましい。より好ましい粘度数は、150mL/g〜300mL/gであり、更に好ましくは180mL/g〜300mL/gである。チューブ等の成形性を確保する観点から、ポリアミドの粘度数は100mL/g以上であることが好ましい、耐熱エージング性を低下させない観点から、粘度数が300mL/g以下であることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る樹脂組成物に使用可能なポリアミドは、粘度数の異なる複数のポリアミドの混合物であってもよい。複数のポリアミドの混合物を使用した場合、その混合物の粘度数は上述の範囲内にあることが好ましい。ポリアミドの混合物が上述の範囲の粘度数を有することを確認するためには、ポリアミドの混合物の粘度数を実測することで容易に確かめることができる。
【0025】
ポリアミドの末端基は、ポリフェニレンエーテルとの反応に関与する。ポリアミドは末端基として一般にアミノ基及び/又はカルボキシル基を有しているが、一般的にカルボキシル基濃度が高くなると、耐衝撃性が低下し、流動性が向上し、逆にアミノ基濃度が高くなると耐衝撃性が向上し、流動性が低下する。
【0026】
本実施形態に係るポリアミドにおける、これらの末端基の好ましい比は、カルボキシル基の濃度に対するアミノ基の濃度の比(アミノ基/カルボキシル基濃度比;モル比)で、9/1〜1/9であり、より好ましくは6/4〜1/9、更に好ましくは5/5〜1/9である。
【0027】
また、本実施形態に係るポリアミドにおいて、末端アミノ基の濃度は10〜80μモル/gであることが好ましい。その濃度は、より好ましくは15〜65μモル/gであり、更に好ましくは20〜40μモル/gである。末端アミノ基の濃度をかかる範囲内にすることにより、樹脂組成物の金型内流動性の大幅な低下を未然に防止できる。
【0028】
これらポリアミドの末端基の調整方法としては、当業者にとって明らかである公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるようにジアミン、モノアミン、ジカルボン酸、モノカルボン酸などを添加する方法が挙げられる。
【0029】
本実施形態で使用できる(b)成分のポリフェニレンエーテルは、下記一般式(3)で表される構造単位からなる、ホモ重合体及び/又は共重合体である。
【化2】

ここで、式中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、第一級若しくは第二級の炭素数1〜7のアルキル基、フェニル基、炭素数1〜7のハロアルキル基、炭素数1〜7のアミノアルキル基、炭素数1〜6の炭化水素オキシ基(ヒドロカルビロキシ基)、又は炭素数1〜7のハロ炭化水素オキシ基(ただし、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てている)を示す。
【0030】
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルの具体的な例としては、例えば、ホモ重合体として、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニルフェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロフェニレンエーテル)が挙げられる。また、共重合体として、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール化合物との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されている2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)が挙げられる。
【0031】
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルは、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、又はこれらの混合物である。
ポリフェニレンエーテルとして2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合、その共重合体における好ましい2,3,6−トリメチルフェノールの割合は、15〜40モル%である。
【0032】
本実施形態で用いるポリフェニレンエーテルの製造方法は特に限定されず、公知の方法で得られるものであってもよい。そのポリフェニレンエーテルは、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法によって得られる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物を構成するポリフェニレンエーテルの還元粘度(0.5g/dLクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定)の好ましい範囲は、0.35dL/g〜0.65dL/gの範囲内である。その還元粘度は、より好ましくは、0.40dL/g〜0.60dL/gの範囲である。
【0034】
本実施形態において、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであっても、好ましく使用することができる。
【0035】
また、本実施形態で使用できるポリフェニレンエーテルは、その全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであってもよい。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合と、少なくとも1個のカルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基とを有する少なくとも1種の変性化合物、で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。
【0036】
該変性されたポリフェニレンエーテルの製法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で変性化合物とポリフェニレンエーテルとを溶融混練し反応させる方法、(3)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物とを溶液中で反応させる方法が挙げられる。これらのうち、(1)及び(2)の方法が好ましい。
【0037】
分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合と、少なくとも1個のカルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基とを有する少なくとも1種の変性化合物について具体的に説明する。
【0038】
分子内に炭素−炭素二重結合と、カルボン酸基又は酸無水物基とを同時に有する変性化合物としては、例えば、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらのうち、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマル酸が好ましく、クエン酸、イタコン酸、無水マレイン酸がより好ましい。また、不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基のうちの1個又は2個がエステルに置換されているものも使用可能である。
【0039】
分子内に炭素−炭素二重結合とグリシジル基とを同時に有する変性化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂が挙げられる。これらの中でグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが好ましい。
【0040】
分子内に炭素−炭素二重結合と水酸基とを同時に有する変性化合物としては、例えば、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オールなどの下記一般式(6)、(7)及び(8)で表される不飽和アルコールが挙げられる。
n2n-3OH (6)
n2n-5OH (7)
n2n-7OH (8)
ここで、式(6)中のnは2以上の整数、式(7)中のnは3以上の整数、式(8)中のnは4以上の整数をそれぞれ示す。
【0041】
上述した変性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の上記変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部である。
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜1質量部である。
また、変性されたポリフェニレンエーテルへの変性化合物の付加率は、0.01〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%である。
該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物、及び/又は、変性化合物の重合体が1質量%未満の量で残存していてもよい。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、(a)ポリアミドと(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、(a)ポリアミドを40〜70質量部、(b)ポリフェニレンエーテルを60〜30質量部含むと好ましい。より好ましくは、(a)ポリアミドを50〜70質量部、(b)ポリフェニレンエーテルを50〜30質量部含み、更に好ましくは(a)ポリアミドを50〜60質量部、(b)ポリフェニレンエーテルを50〜40質量部含む。本実施形態の樹脂組成物は、それぞれの樹脂を上記数値範囲内で含有することにより、耐熱性、耐薬品性、加工性を向上させ得る。
【0044】
本実施形態の(c)成分のホスフィン酸塩は、下記一般式(1)で表されるモノホスフィン酸塩及び下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩並びにこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩である。以下、このホスフィン酸塩について説明する。
【0045】
【化3】

ここで、式中、R1及びR2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を示し、R3は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数6〜10のアルキルアリーレン基又は炭素数6〜10のアリールアルキレン基を示し、Mはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる1種以上の化学種を示し、mは2又は3であり、nは1〜3の整数であり、xは1又は2である。
【0046】
本実施形態におけるホスフィン酸塩として、例えば、欧州特許出願公開第699708号公報や特開平08−73720号公報に記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物とを用いて水溶液中で製造されたものを有効に利用可能である。
【0047】
これらのホスフィン酸塩は、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3の縮合物であるポリマー性ホスフィン酸塩も包含される。
【0048】
本実施形態のホスフィン酸塩を形成するための、好ましいホスフィン酸の例としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸及びジフェニルホスフィン酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0049】
また本実施形態のホスフィン酸塩を形成するための、好ましい陽イオンとしてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0050】
形成されたホスフィン酸塩の好ましい例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム及びジフェニルホスフィン酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0051】
特に難燃性、モールドデポジットの抑制の観点から、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム及びジエチルホスフィン酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0052】
また、本実施形態の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわなければ、上記ホスフィン酸塩を形成する際の未反応物又は副生成物が残存又は混在していてもよい。
【0053】
本実施形態の上記混合工程において、好ましいホスフィン酸塩の使用量は、本発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、(b)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10〜120質量部であり、より好ましくは、20〜100質量部であり、更に好ましくは25〜90質量部である。最終的に得られる樹脂組成物中のホスフィン酸塩の好ましい含有量は、(a)ポリアミドと(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対し、1〜60質量部である。その含有量は、より好ましくは2〜35質量部、更に好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは6〜25質量部である。樹脂組成物の成形品に十分な難燃性を発現させるために、ホスフィン酸塩の上記含有量は1質量部以上が好ましく、押出加工性を良好にして特に生産性を向上させる観点から、ホスフィン酸塩の上記含有量は60質量部以下が好ましい。
【0054】
本実施形態において、ホスフィン酸塩は、ポリアミド及び/又はポリフェニレンエーテル(のマトリックス相)中に分散した粒子相となる分散状態を呈する。本実施形態の樹脂組成物は、数平均粒子径が3.0μm以下のホスフィン酸塩の粒子を含むと好ましく、その数平均粒子径は2.0μm以下であるとより好ましい。ここで、ホスフィン酸塩の粒子の数平均粒子径は、光学顕微鏡により、樹脂組成物から成形されたペレット断面の連続した0.05mm2の面を観察し、その面での数平均粒子径を示す。より具体的には、まず、上記樹脂組成物のペレットをガラスナイフ装着のミクロトームにて鏡面状に切削して現れた断面を光学顕微鏡をにより1000倍以上の倍率で反射光によって観察し、少なくとも0.05mm2の面積部分について写真撮影を行う。そして、その0.05mm2の面積部分の中に存在するホスフィン酸塩の分散粒子を手作業又は適当な画像解析装置を用いて実測する。これにより数平均粒子径を求めることができる。
【0055】
ホスフィン酸塩の数平均粒子径の下限値は特に限定されず、小さいほど好ましい。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物におけるホスフィン酸塩の粒子の数平均粒子径を3.0μm以下に制御するためには、種々の方法があるが、例えば、原料として用いるホスフィン酸塩の粒子を、機械的に破壊し、その粒子径を小さくする方法が挙げられる。また、ホスフィン酸塩と、(b)成分であるポリフェニレンエーテルとを溶融混練してマスターバッチを作製した後に、そのマスターバッチを機械的なせん断で粉砕する方法が挙げられる。
【0057】
原料としてのホスフィン酸塩の粒子の好ましい数平均粒子径は、一定流量で原料を連続的に供給し混練したり、押出機等により連続的に加工したりする場合、10μm以上であり、バッチ式で原料を供給し混練したり、バンバリーミキサー等によりバッチ式で加工したりする場合、下限値はなく、上限値は5mmである。
【0058】
なお、本実施形態では、混練工程において、押出機等により連続的に混練する方法が好ましく、数平均粒子径が10μm以上のホスフィン酸塩の粒子を混練により、数平均粒子径が3.0μm以下の粒子にして分散させることが、高温エージング性の観点から好ましい。
【0059】
(b)成分と(c)成分とを含む上記マスターバッチ中における(c)成分であるホスフィン酸塩の好ましい含有量は、(b)成分のポリフェニレンエーテル100質量部に対して、10〜120質量部であり、より好ましくは15〜100質量部であり、更に好ましくは20〜80質量部である。
【0060】
また、本実施形態の樹脂組成物は、耐衝撃性を向上させる目的で、衝撃改良材を含有してもよい。この衝撃改良材として好ましいものは、(d)成分の芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを含むブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物である。
【0061】
本実施形態で使用することのできる、上記ブロック共重合体において、該ブロック共重合体の一部を構成する芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、αメチルスチレン、ビニルトルエンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの芳香族ビニル化合物は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でもスチレンは特に好ましい。
【0062】
また、該ブロック共重合体の一部を構成する共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの共役ジエン化合物は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でもブタジエン、イソプレン又はこれらの組合せが好ましい。
【0063】
なお、上記「主体とする」とは、当該重合体ブロックにおいて、少なくとも50質量%が芳香族ビニル化合物又は共役ジエン化合物であることを意味する。より好ましくは、当該重合体ブロックにおいて、70質量%以上が芳香族ビニル化合物又は共役ジエン化合物である。
【0064】
ブロック共重合体の共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合は、ポリブタジエンブロック部分のミクロ構造として、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計量が5〜80%であることが好ましく、10〜50%がより好ましく、15〜40%が特に好ましい。通常、共役ジエン化合物の結合形態として、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合、1,4−ビニル結合があるが、ここでいうビニル結合量とは、重合時の共役ジエン化合物の結合形態の割合を示すものである。例えば、1,2−ビニル結合量とは、上記3種の結合形態中の1,2−ビニル結合の割合を意味するものであり、赤外分光光度計、核磁気共鳴装置等によって容易に知ることができる。
【0065】
本実施形態における上記ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)が、S−B型、S−B−S型、S−B−S−B型の中から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体であることが好ましい。これらの中でもS−B−S型、S−B−S−B型がより好ましく、S−B−S型が更に好ましい。これらは、もちろん混合物であってもよい。
【0066】
本実施形態においては、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との水素添加されたブロック共重合体を使用することもできる。すなわち、この水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の脂肪族二重結合を水素添加処理することにより、0を越えて100%までの範囲内で、二重結合のうちの水素添加処理されたものの割合(水素添加率)を制御したものをいう。該水素添加されたブロック共重合体の好ましい水素添加率は50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは95%以上である。なお、水素添加率は核磁気共鳴装置によって測定できる。
【0067】
本実施形態において、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の(場合により水素添加された)ブロック共重合体は、その数平均分子量が100000以上であることが好ましく、より好ましくは150000以上である。
本実施形態でいう数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いて、紫外分光検出器で測定し、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量のことを指す。この時、重合時の触媒失活に起因した低分子量成分が検出されることがあるが、その場合は分子量計算に低分子量成分は含めない。通常、計算された正しい分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.0〜1.1の範囲内である。
【0068】
本実施形態において、芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、15000以上であることが好ましく、より好ましくは30000以上である。芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量を15000以上とすることにより、樹脂組成物の耐衝撃性(面衝撃強度)のばらつきを抑えることができる。
【0069】
なお、芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下記式(11)により求めることができる。
Mn(a)={Mn×a/(a+b)}/N (11)
ここで、式中、Mn(a)は芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnは上記ブロック共重合体の数平均分子量、aはブロック共重合体中のすべての芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの含有割合(質量%)、bはブロック共重合体中のすべての共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの含有割合(重量%)、Nはブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの数を示す。
【0070】
本実施形態で用いることのできる、これらのブロック共重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−ビニル結合量、又は1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等の各々について2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
また、本実施形態で使用するこれらのブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であってもよい。
ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
【0072】
該変性されたブロック共重合体の製造方法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)ブロック共重合体の軟化点温度以上250℃以下の範囲の温度で、ブロック共重合体と変性化合物とを溶融混練し反応させる方法、(2)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物とを溶液中で反応させる方法、(3)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物とを溶融させることなく反応させる方法が挙げられる。これらのいずれの方法でもよいが、(1)の方法が好ましく、更には(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法が特に好ましい。
【0073】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物として、上記変性されたポリフェニレンエーテルの説明部分で述べた変性化合物と同じものが使用できる。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物における衝撃改良材の好ましい含有量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、5〜25質量部であり、より好ましくは7〜15質量部である。
【0075】
本実施形態において、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの相溶性を向上させるため、(e)成分として相溶化剤を添加することが好ましい。相溶化剤を使用する主な目的は、ポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物の物理的性質を改良することである。
【0076】
本実施形態で使用できる(e)成分の相溶化剤とは、ポリフェニレンエーテル若しくはポリアミド又はこれら両者と相互作用する多官能性の化合物を指す。この相互作用は化学的(例えばグラフト化)であっても、又は物理的(例えば分散相の表面特性の変化)であってもよい。いずれにしても得られるポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物は改良された相溶性を示す。
【0077】
本実施形態で使用することのできる(e)相溶化剤の具体例は、特開平8−8869号公報及び特開平9−124926号公報等に詳細に記載されており、これら公知の相溶化剤は全て使用可能であり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
これら、種々の(e)相溶化剤の中でも、特に好適な相溶化剤は、クエン酸、マレイン酸及びイタコン酸並びにそれらの無水物からなる群より選ばれる1種以上である。なかでも、無水マレイン酸及びクエン酸が特に好ましい。
【0078】
本実施形態の樹脂組成物における(e)相溶化剤の好ましい含有量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して0.01〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.1〜2質量部である。
【0079】
本実施形態の樹脂組成物は、(g)成分の安定剤を含有してもよい。(g)成分としては、公知の有機・無機安定剤を好ましく使用することができる。有機安定剤の例としては、イルガノックス1098(チバスペシャリティーケミカルズ製、商品名)等に代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤、イルガフォス168(チバスペシャリティーケミカルズ製、商品名)等に代表されるリン系加工熱安定剤、HP−136(チバスペシャリティーケミカルズ製、商品名)に代表されるラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。これら有機安定剤の中ではヒンダードフェノール系酸化防止剤若しくはリン系加工熱安定剤、又はそれらの組合せが好ましく、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がより好ましい。
無機安定剤としては、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物において、これら安定剤の好ましい含有量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、より好ましくは0.01〜3質量部である。
【0080】
また、本実施形態において、ポリアミドによって樹脂組成物に付与される耐熱安定性を更に向上させる目的で、樹脂組成物中に(f)成分として遷移金属及び/又はその化合物を含有してもよく、ハロゲン化合物を含有させてもよい。遷移金属の種類は特に制限はないが、銅、セリウム、ニッケル及びコバルトが好ましく、特に銅が好ましい。また、ハロゲン化合物の中でも、臭素化合物及びヨウ素化合物を好ましく使用できる。
【0081】
これらの中で、好ましい銅化合物としては、例えば、ヨウ化銅、塩化銅、臭化銅などのハロゲン化銅及び酢酸銅が挙げられ、その中でも、ヨウ化銅及び酢酸銅並びにそれらの組合せが好ましい。
【0082】
本実施形態の樹脂組成物において、遷移金属及び/又はその化合物の好ましい含有量は、樹脂組成物の全量に対して、遷移金属原子換算で10ppm以上300ppm未満である。その含有量は、より好ましくは50ppm以上300ppm未満であり、さらに好ましくは50ppm以上250ppm未満である。また、ハロゲン化合物の好ましい含有量は、樹脂組成物の全量に対してハロゲン原子換算で500ppm以上1500ppm未満であり、より好ましくは700ppm以上1200ppm未満である。
【0083】
これら遷移金属及び/又はその化合物並びにハロゲン化合物の樹脂組成物への添加方法としては、例えば、ポリアミド/ポリフェニレンエーテルの組成物を溶融混練する時に粉体として添加する方法、ポリアミドの重合時に添加する方法、ポリアミドに高濃度で添加したマスターペレットを作製した後、このマスターペレットを樹脂組成物へ添加する方法等が挙げられるが、いずれの方法をとってもよい。これらの方法の中で好ましい方法は、ポリアミドの重合時に添加する方法、又はポリアミドに高濃度で添加したマスターペレットを作製したのち添加する方法である。
【0084】
また、本実施形態の樹脂組成物には、上記(a)成分及び(b)成分以外の樹脂成分として、スチレン系熱可塑性樹脂をポリアミドとポリフェニレンエーテルとの合計100質量部に対し、50質量部未満の量で配合してもよい。
ここでいうスチレン系熱可塑性樹脂の例としては、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)が挙げられる。
【0085】
また、本実施形態においては、滴下防止剤として知られるポリテトラフルオロエチレン等に代表されるフッ素系ポリマーも、樹脂組成物中に2質量%未満の量であれば使用可能である。
【0086】
本実施形態の樹脂組成物は、(c)成分のホスフィン酸塩以外の難燃剤としてメラミンとリン酸とから形成される付加物を含有してもよい。
【0087】
メラミンとリン酸とから形成される付加物の具体例としては、メラミンとポリリン酸との反応生成物、メラミンの縮合物とポリリン酸との反応生成物、及び下記一般式(4)又は(5)で表される窒素含有リン酸塩、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム及びポリリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
(NH4y3-yPO4 (4)
(NH4PO3z (5)
ここで、式中、yは1〜3の整数を示し、zは1〜10000の整数を示す。
【0088】
特に、下記一般式(9)で表されるもので、メラミンとリン酸、ピロリン酸又はポリリン酸との実質的に等モルの反応生成物が好ましく使用可能である。より具体的には、ピロリン酸ジメラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、ポリリン酸メラム及びポリリン酸メロン並びにそれらの混合ポリ塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、ポリリン酸メラミンである。
(C366・HPO3n (9)
ここでnは縮合度を示し、正の整数である。
【0089】
これらの製法には特に制限はなく、従来公知の方法で製造することができる。その一例として、リン酸メラミンを窒素雰囲気下で加熱縮合する方法が挙げられる。
【0090】
ここで、リン酸メラミンを構成するリン酸として、具体的には、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸及び四リン酸が挙げられる。これらの中では、オルトリン酸及びピロリン酸が好ましく、かかるリン酸とメラミンとの付加物を縮合したポリリン酸メラミンは、難燃剤としての効果が高くなる。
【0091】
また、ポリリン酸メラミンの縮合度nを5以上にすることにより、耐熱性が高くなるので好ましい。
【0092】
本実施形態において、ポリリン酸メラミンはポリリン酸とメラミンとの等モルの付加塩であってもよい。メラミンとの付加塩を形成するポリリン酸としては、いわゆる縮合リン酸と呼ばれる鎖状ポリリン酸、環状ポリメタリン酸が挙げられる。これらポリリン酸の縮合度nには特に制限はなく、通常3〜50であるが、得られるポリリン酸とメラミンとの付加塩の耐熱性の観点から、ポリリン酸の縮合度nは5以上が好ましい。
【0093】
かかるポリリン酸とメラミンとの付加塩の製造方法は、例えば、水中にメラミンとポリリン酸とを混合したものを分散してスラリーを得、それをよく混合して両者の反応生成物を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、洗浄、乾燥し、さらに必要に応じて焼成し、得られた固形物を粉砕して粉末として得る方法が挙げられる。
【0094】
本実施形態においてメラミンとリン酸とから形成される付加物は、本発明の効果を損なわなければ、その未反応物又は副生成物が樹脂組成物中に残存したり混在したりしてもよい。
【0095】
本実施形態の樹脂組成物において、メラミンとリン酸とから形成される付加物の好ましい含有量は、(a)ポリアミドと(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して0.3〜30質量部である。その含有量は、より好ましくは、0.5〜15質量部、更に好ましくは1〜10質量部、特に好ましくは1〜8質量部である。
メラミンとリン酸とから形成される付加物の含有量は、難燃性を向上させる観点から、0.3質量部以上とすることが好ましく、耐熱性を向上させる観点から、30質量部以下とすることが好ましい。
【0096】
メラミンとリン酸とから形成される付加物は、上述したように(c)成分のホスフィン酸塩と併用することにより、より高い効果を発現する。本実施形態の樹脂組成物において、それらの好ましい配合比は、ホスフィン酸塩/メラミンとリン酸とから形成される付加物で、20/80〜80/20である。それらの配合比は、より好ましくは40/60〜70/30であり、更に好ましくは60/40〜70/30である。(c)成分及びメラミンとリン酸とから形成される付加物は、樹脂組成物中に配合する際に上述の好ましい配合比でプリブレンドしておくことが好ましい。その方法としては、例えば、高速ミキサー等を用いてプリブレンドすることが挙げられる。
【0097】
本実施形態の樹脂組成物は、含亜鉛化合物を含有してもよい。含亜鉛化合物としてはステアリン酸亜鉛等の有機含亜鉛化合物及び酸化亜鉛等の無機含亜鉛化合物のすべてを包含する。これらの中で好ましい含亜鉛化合物は無機含亜鉛化合物である。特にその中でも、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛及びスズ酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の化合物がより好ましく、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛及びスズ酸亜鉛なる群より選ばれる1種以上の化合物がさらに好ましく、下記一般式(10)で表されるホウ酸亜鉛が特に好ましい。
xZnO・yB23・zH2O (10)
ここで、x>0、y>0、z≧0である。
その具体例としては、2ZnO・3B23・3.5H2O、4ZnO・B23・H2O、及び2ZnO・3B23で表されるホウ酸亜鉛が挙げられる。
【0098】
本実施形態における含亜鉛化合物は、難燃助剤として燃焼時に熱源である炎から樹脂への熱を遮断すること(断熱能力)によって、樹脂の分解で燃料となるガスの発生を抑制し、難燃性を高めるのに必要な不燃層(又は炭化層)を形成する役割を果たすものである。
これらの含亜鉛化合物はシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0099】
本実施形態の樹脂組成物における含亜鉛化合物の好ましい含有量は、(a)ポリアミドと(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対し、0.01〜15質量部である。その含有量は、より好ましくは、0.1〜10質量部であり、0.2〜5質量部が更に好ましく、0.2〜3質量部が特に好ましい。難燃剤の安定性を高めるためには含亜鉛化合物の含有量が、上述した範囲内にあることが好ましい。
【0100】
さらに、本実施形態の樹脂組成物には、(c)成分以外の難燃剤を更に含んでもよい。この場合の難燃剤は、実質的にハロゲンを含まない無機又は有機の難燃剤がより好ましい。
本実施形態における「実質的にハロゲンを含まない」とは、難燃剤を含む樹脂組成物中のハロゲン原子濃度が1質量%未満の量であることをいう。この場合、樹脂組成物中のハロゲン原子の濃度は、より好ましくは5000ppm未満であり、更に好ましくは1000ppm未満である。その濃度の下限はゼロであると最も好ましい。
【0101】
使用可能な難燃剤の具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等に代表される公知の無機難燃剤、トリフェニルフォスフェートや水酸化トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等に代表される有機リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウムやポリリン酸メラミン等に代表されるリン酸系含窒素化合物、特開平11−181429号公報に記載されているようなホスファゼン系化合物、シリコーンオイル、赤燐やその他公知の難燃剤が挙げられる。
【0102】
本実施形態の樹脂組成物は、無機フィラーを更に含んでもよい。本実施形態において使用可能な無機フィラーとしては、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、ボロンウィスカ繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ウォラストナイト、ゾノトライト、アパタイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、酸化チタン、着色用カーボンブラック等の繊維状、粒状、板状、あるいは針状の無機質強化材が挙げられる。これら無機フィラーは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でもより好ましい無機フィラーとしては、タルク、ウォラストナイト、ガラス繊維が挙げられる。また、無機フィラーとして、シランカップリング剤等の表面処理剤を用いて公知の方法で表面処理したものを用いてもよい。
【0103】
本実施形態の樹脂組成物における無機フィラーの好ましい含有量は、樹脂組成物の全体量を100質量%としたとき、5〜60質量%である。より好ましい含有量は10〜50質量%であり、更に好ましくは15〜40質量%である。
【0104】
本実施形態の樹脂組成物は、種々の導電性フィラーを含有することができる。
導電性フィラーとしては、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)、グラファイト、炭素繊維が挙げられる。これらは、2種以上の混合物として用いてもよい。これらの中でも特に、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)が好適に用いられる。
本実施形態の樹脂組成物において、導電性フィラーの含有量は、樹脂組成物の全体量を100質量%としたとき、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜3質量%である。
【0105】
本実施形態において、導電性フィラーの樹脂組成物への添加方法に特に制限はないが、好ましい方法として、導電性フィラーをポリアミド中に予め溶融混練した導電性マスターバッチの形態で添加する方法が挙げられる。この際のマスターバッチ中の導電性フィラーの好ましい含有量は、マスターバッチの全量に対して、概ね5〜30質量%である。導電性フィラーとして導電性カーボンブラックを用いる場合、その含有量は5〜15質量%であるとより好ましく、8〜12質量%であると更に好ましい。導電性フィラーとして、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)、グラファイト、炭素繊維を含む導電性カーボンブラック以外の導電性フィラーを用いる場合、その含有量は10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
【0106】
導電性マスターバッチの製造方法としては、二軸押出機を用いて製造する方法が好ましい。特に、導電性フィラーを、溶融したポリアミド中に添加して更に溶融混練する方法が好ましい。
【0107】
本実施形態では、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分を任意の段階で添加してもよい。
【0108】
付加的成分としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン等の他の熱可塑性樹脂、可塑剤(低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル等)及び、帯電防止剤、核剤、流動性改良剤、充填剤、補強剤、各種過酸化物、展着剤、上記以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤が挙げられる。
【0109】
これらの成分の好ましい添加量は、本実施形態の樹脂組成物中にそれぞれ10質量%以下である。より好ましい添加量は5質量%未満であり、更に好ましくは3質量%以下である。
【0110】
さらに、上記の他に、ポリアミドに添加することが可能なその他の公知の添加剤を、ポリアミド100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもよい。また、上記の他に、ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤を、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもよい。
【0111】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、上述のとおり、少なくとも(b)ポリフェニレンエーテルと(c)ホスフィン酸塩とを、(b)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、(c)ホスフィン酸塩10〜120質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る工程と、その混合物を溶融混練する工程とを有する。
【0112】
また、好ましくは、上記溶融混練する工程を経て得られた混練物にポリアミドを供給して更に溶融混練する工程を有する。これにより、ポリフェニレンエーテル中により確実にホスフィン酸塩の粒子を分散させることができるので、本発明による上記目的効果を更に有効かつ確実に奏することができる。
【0113】
本実施形態の樹脂組成物を得るための具体的な加工装置としては、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサーが挙げられる。これらの中でも二軸押出機が好ましく、上流側(上流部)供給口と1ヶ所以上の下流側(下流部。2ヶ所の場合、中流部及び下流部。)供給口とを備えた二軸押出機がより好ましい。
【0114】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法として、例えば、下記(1)〜(10)の製造方法が挙げられる。
(1)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合で供給してドライブレンドすると共に、必要に応じ衝撃改良材、相溶化剤等をその上流側供給口より供給する工程と、それらを溶融混練して混練物を得る工程と、下流側供給口よりポリアミドを供給して上記混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(2)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合でドライブレンドすると共に、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ、必要に応じ衝撃改良材、相溶化剤等をその上流側供給口より供給する工程と、それらを溶融混練して混練物を得る工程と、下流側供給口よりポリアミドを供給して上記混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(3)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合でドライブレンドすると共に、必要に応じ衝撃改良材、相溶化剤等をその上流側供給口より供給する工程と、それらを溶融混練して混練物を得る工程と、下流側供給口よりポリアミド及びポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチを供給して上記混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
【0115】
(4)上流側に1ヶ所、下流側に2ヶ所(より上流側から順に、「第1供給口」、「第2供給口」という。以下同様。)の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合で供給してドライブレンドする工程と、それらを溶融混練して第1の混練物を得る工程と、下流側の第1供給口より衝撃改良材、相溶化剤等を供給し上記第1の混練物と混合する工程と、それらを溶融混練して第2の混練物を得る工程と、下流側の第2供給口よりポリアミドを供給して上記第2の混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(5)上流側に1ヶ所、下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合で供給してドライブレンドすると共に、さらにポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチをその上流側供給口より供給する工程と、それらを溶融混練して第1の混練物を得る工程と、下流側の第1供給口より衝撃改良材、相溶化剤等を供給して上記第1の混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練して第2の混練物を得る工程と、下流側の第2供給口よりポリアミドを供給して上記第2の混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(6)上流側に1ヶ所、下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合で供給してドライブレンドする工程と、それらを溶融混練して第1の混練物を得る工程と、下流側の第1供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ、衝撃改良材、相溶化剤等を供給して上記第1の混練物と混合する工程と、それらを溶融混練して第2の混練物を得る工程と、下流側の第2供給口よりポリアミドを供給して上記第2の混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
【0116】
(7)上流側に1ヶ所、下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合で供給してドライブレンドする工程と、それらを溶融混練して第1の混練物を得る工程と、下流側の第1供給口より衝撃改良材、相溶化剤等を供給して上記第1の混練物と混合する工程と、それらを溶融混練して第2の混練物を得る工程と、下流側の第2供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチとポリアミドとを供給して上記第2の混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(8)上流側、下流側にそれぞれ1ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ、衝撃改良材、相溶化剤等を供給する工程と、それらを溶融混練して混練物を得る工程と、下流側供給口よりポリアミドを供給して上記混練物と混合する工程と、更にそれらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(9)1ヶ所の供給口を有する押出機を用い、その供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ、衝撃改良材、相溶化剤等、ポリアミドを供給する工程と、それらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
(10)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ、衝撃改良材、相溶化剤等を供給する工程と、それらを溶融混練して混練物を得る工程と、下流側供給口よりポリアミドを供給して上記混練物と混合する工程と、それらを溶融混練する工程とを有する製造方法。
【0117】
上記各製造方法において、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチを用いる場合、そのマスターバッチは、例えば1ヶ所の供給口を有する押出機を用い、その供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを上記所定の割合でドライブレンドし、それらを溶融混練することで得られると好ましい。
また、必要に応じ、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチを得る際に、衝撃改良材、相溶化剤等を同時に添加し溶融混練してもよい。
ホスフィン酸塩の分散性を高める観点から、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチを用いる製造方法が好ましく、最終的に得られる樹脂組成物の生産性を高める観点から、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを含むマスターバッチを用いない製造方法が好ましい。
【0118】
ここで、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とをドライブレンドする方法は、上述の方法に限らず、予めタンブラー混合機やヘンシェルミキサー等の混合機を用いてドライブレンドする方法、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを、それぞれ異なる供給機から押出機等の供給口へ同時に供給することによりブレンドする方法が挙げられる。これらの方法はいずれの方法でもよい。すなわち、「ドライブレンド」とは、ポリフェニレンエーテルが溶融される前に粒子状のポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩とを混合した状態にすることをいう。
【0119】
上記溶融混練の温度(押出機を用いる場合はそのシリンダー設定温度)は特に限定されるものではないが、混練状態等を考慮して、通常240〜360℃であると好ましく、より好ましくは280℃〜320℃である。
また、押出機を用いる場合の押出機の回転数は、150〜800rpmが好ましく、250〜700rpmがより好ましい。ホスフィン酸塩の分散性を効率よく高めるためには回転数は150rpm以上が好ましく、樹脂の分解を抑制するためには800rpm以下とすることが好ましい。
【0120】
押出機を用いる場合、押出機のスクリュー長さに対して、混練ゾーンの長さが20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。樹脂の劣化を抑制する観点から、その混練ゾーンの長さは60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
ここで、「混練ゾーン」とは、ディスク形状や切り欠き形状を有するスクリューエレメントで構成される部分を示す。
【0121】
こうして得られる本実施形態の樹脂組成物は、ISO4589に従い測定される酸素指数が24%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、26%以上であることが更に好ましい。酸素指数は、ISO294−1に準拠した4mm厚みの多目的試験片を成形し、その試験片を用いて、ISO4589に従い酸素指数を測定し、4秒以内に消炎する酸素の最小濃度として規定される。
【0122】
このようにして得られる本実施形態の樹脂組成物から、従来公知の種々の方法、例えば、射出成形や押出成形により各種部品の成形品(成形体)、例えばペレット、押出成形品が得られる。
【0123】
また、本実施形態の樹脂組成物は、耐熱性、特に高温エージング後の引張破断時伸び保持率に優れていることから、比較的高温環境で用いられる部材の材料として非常に適している。
【0124】
比較的高温環境で用いられる部材(耐熱性を要求される部材)の材料としての用途に適しているか否かを判断する際に、高温エージング試験は非常に重要である。その指標としては以下のようにして測定される高温エージング後の引張破断伸び保持率が用いられる。すなわち同じ材料から作製した1.0mm厚みのシート状試験片を複数準備する、そのうちの一部の試験片に対してISO527に従い引張り試験を行い引張破断伸びを測定する。次いで、別の一部の試験片に対して、150℃に設定された熱風オーブン中で120時間の高温エージングを行う。その高温エージング後の試験片に対して、ISO527に従い引張り試験を行い引張破断伸びを測定する。そして、上記高温エージング前の試験片の引張破断伸びを100%として、高温エージング後の引張破断伸びの比を百分率で算出し、それを「高温エージング後の引張り破断時伸び保持率」とする。本実施形態においては、その高温エージング後の引張り破断時伸び保持率が75%以上であれば、優れた耐熱性を有しているといえ、好ましくは80%以上、より好ましくは100%以上である。
【0125】
本実施形態の樹脂組成物は、多くの優れた特性を有するため、公知の成形プロセスを経て、自動車部品、工業材料、産業資材、電気電子部品、機械部品、事務機器用部品、家庭用品、シート、フイルム、繊維、その他の任意の形状及び用途の各種成形品に成形され、有効に使用され得る。
【0126】
成形品の具体例としては、例えば、ワイヤーハーネスを集束するコルゲートチューブ、リレーブロック材料等に代表されるオートバイ・自動車の電装部品、ICトレー材料、各種ディスクプレーヤー等のシャーシー、キャビネット、液晶プロジェクター等のランプ廻り部品、SMTコネクター等の電気・電子部品、各種コンピューター及びその周辺機器等のOA部品や機械部品、さらにはオートバイのカウルや、自動車のバンパー、フェンダー、ドアーパネル、ランプ廻り部品、各種モール、エンブレム、アウタードアハンドル、ドアミラーハウジング、ホイール、キャップ、ルーフレール及びそのステイ材、スポイラー等に代表される外装品や、インストゥルメントパネル、コンソールボックス、トリム等に代表される内装部品、自動車アンダーフード部品、自動車エンジン周り部品等が挙げられる。その成形品は、特にワイヤーハーネスを集束するコルゲートチューブに好ましく適用可能である。
コルゲートチューブとは、電線やワイヤーハーネスを保護するために、それらを結束して包み込む蛇腹様の管であり、例えば、屈曲性、耐熱性、難燃性、金属蒸着性、電気特性などが要求される。
【0127】
さらに、本実施形態の樹脂組成物から得られる成形体は、金属蒸着後においても、高い柔軟性を示すため、金属蒸着に非常に適した材料である。ここでいう金属蒸着の金属種としては、入手の容易性とコストが低いことから、アルミニウムが好ましい。
【実施例】
【0128】
以下、本実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0129】
[使用した原材料]
(a)ポリアミド
VN=215mL/g、末端アミノ基濃度(以下、「[NH2]」と表記する)=18μモル/gのポリアミド6(以下、「PA6−1」と表記する)
VN=232mL/g、[NH2]=20μモル/gのポリアミド66(以下、「PA66−1」と表記する)
VN=137mL/g、[NH2]=44μモル/gのポリアミド6(以下、「PA6−2」と表記する)
VN=115mL/g、[NH2]=52μモル/gのポリアミド6(以下、「PA6−3」と表記する)
VN=138mL/g、[NH2]=32μモル/gのポリアミド66(以下、「PA66−2」と表記する)
【0130】
(b)ポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」と表記する)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル):還元粘度ηsp/c:0.51dL/g
【0131】
(c)ホスフィン酸塩
クラリアント社より入手した商品名「エクソリットOP930」(以下、「Exolit−1」と表記する)、数平均粒子径:5.0μm
クラリアント社より入手した商品名「エクソリットOP1230」(以下、「Exolit−2」と表記する)、数平均粒子径:40μm
【0132】
(b)PPEと(c)ホスフィン酸塩とを含むマスターバッチ
上記PPEを70質量部、ホスフィン酸塩を30質量部の割合で、20L容量のヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)に投入し、500rpmで5分間、それらを混合してドライブレンド物を得た。
次に、押出機上流部に1ヶ所、中流部及び下流部にそれぞれ1ヶ所の計3ヶ所の供給口を有する二軸押出機(商品名「ZSK−40MC」、コペリオン社製(ドイツ))を準備した。その押出機の上流部供給口から中流部供給口の手前までのシリンダー温度を320℃、中流部供給口からダイまでのシリンダー温度を280℃に設定し、スクリュー回転数250rpmの条件で、上記ドライブレンド物をフィーダーから70kg/時間の速度で上流部供給口から供給して溶融混練を行った。得られたストランドを水槽中で冷却後、ペレタイザーで切断し、ペレットとしてマスターバッチを得た。
なお、上記押出機の混練ゾーンは、上流、中流、下流にそれぞれ、スクリュー全長の10%の長さずつ3ヶ所に設け、合計30%の長さであった。
ホスフィン酸塩として上記Exolit−1を用いて得られたマスターバッチを「Exolit−1/PPE」、上記Exolit−2を用いて得られたマスターバッチを「Exolit−2/PPE」と表記する。
【0133】
(d)衝撃改良材
スチレン−水素添加されたポリブタジエン−スチレン共重合体(以下、「SEBS」と表記する)、旭化成ケミカルズより入手した商品名「タフテック H1387」
【0134】
(e)相溶化剤
無水マレイン酸(以下、「MAH」と表記する)、日本油脂より入手した商品名「クリスタルMAN−AB」
【0135】
(f)銅化合物
ヨウ化銅(以下、「CuI」と表記する)、和光純薬製の試薬
【0136】
(g)安定剤(酸化防止剤)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(以下、「Irg1098」と表記する)、チバスペシャリティーケミカルズ社製の商品名「イルガノックス1098」
【0137】
(その他の成分)
・分散剤(エチレンビスステアリルアミド:以下、「EBS」と表記する)、花王より入手した商品名「カオーワックスEB−FF」
・ヨウ化カリウム(以下、「KI」と表記する)、和光純薬製の試薬
【0138】
[評価項目]
(MVR)
得られたペレットについて、ISO1133に準拠し、280℃、5kg荷重条件下で、メルトボリュームレートを測定した。
【0139】
(シャルピー衝撃強度)
多目的試験片(厚さ4.0mm)について、ISO179に準拠して、温度:23℃、湿度50%条件下での、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
【0140】
(引張破断伸び)
多目的試験片(厚さ4.0mm)について、ISO527に準拠し、引張破壊時呼びひずみ、又は引張り破壊ひずみを測定した。
【0141】
(荷重たわみ温度(HDT))
多目的試験片(厚さ4.0mm)について、ISO75−2に準拠し、0.45MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
【0142】
(難燃性)
多目的試験片(厚さ4.0mm)を更に所定の形状に成形し、得られた試験片について、ISO4589に従い酸素指数を測定した。なお、4秒以内に消炎する酸素の最小濃度を酸素指数とした。
【0143】
(高温エージング性)
多目的試験片(厚さ1.0mm)を更に所定の形状に複数成形し、150℃に設定した熱風オーブン中に同条件で作製した試験片を入れ、各々の試験片に対して24、48、72又は120時間、熱処理を施した。熱風オーブンから取り出した試験片について、ISO527に準拠して引張試験を実施した。各々の熱処理時間について、引張破壊ひずみ又は引張破壊時呼びひずみをプロットし、ひずみ保持率、すなわち高温エージング後の引張り破断時伸び保持率(%)を計算した。
【0144】
(チューブ押出性)
単層コルゲートダイを設置したGM−40単軸押出機(ジー・エム・エンジニアリング社製)を用いて、樹脂組成物の押出成形を実施した。この際に、押出機のコルゲートダイから吐出された直後の成形品の状態を目視により観察し、チューブ押出性を以下の評価基準で判定した。
良好:コルゲートダイから、所望のチューブの形状どおりに押し出されてくる。
不良:チューブに部分的に溝状のスジが入る。
割れ:チューブが分割してしまい、形状保持しない。
【0145】
(チューブ賦形性)
単層コルゲートダイを設置したGM−40単軸押出機(上述と同じもの)のダイの下流に、横型コルゲーター、引き取り機及び切断スタッカをそれぞれ設置して、樹脂組成物を押出成形して得られた成形品を更にコルゲートチューブの形状に成形した。この際のチューブ賦形性を以下の評価基準で判定した。
良好:良好なコルゲートチューブ形状に賦形できる。
不良:バリが発生するか、チューブの厚みに偏りがある
穴開き:チューブに穴が開き、十分に膨らまない。
【0146】
(押出生産性)
樹脂組成物の押出加工時の押出生産性を、押出可能最高レートにより評価した。以下の2種類のいずれかが発生したときの原料の供給量を押出可能最高レートとした。
(1)原料の供給量の増大に伴い、押出機のモーターがトルク上限に達したとき。
(2)原料の供給量の増大に伴い、上流部供給口でのPPEおよびホスフィン酸塩の噛み込み不良が発生したとき。
なお、押出可能レートが大きいほど、押出生産性に優れるといえる。
【0147】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
押出機上流部に1ヶ所、中流部及び下流部にそれぞれ1ヶ所の計3ヶ所の供給口を有する二軸押出機(商品名「ZSK−40MC」、コペリオン社製(ドイツ))を準備した。その押出機の上流部供給口から中流部供給口の手前までのシリンダー温度を320℃、中流部供給口からダイまでのシリンダー温度を280℃に設定し、スクリュー回転数300rpmの条件で樹脂組成物を溶融混練し押し出してペレットを得た。この押出時の生産レートは、押出可能最高レートの90%で実施した。
各供給口からそれぞれ供給した原材料の配合比(質量部)、全体での組成(質量%)、ポリフェニレンエーテル100質量部に対するホスフィン酸塩のドライブレンド比率((c)/(b)、質量基準)を表1に示す。なお、当該押出機の混練ゾーンは、上流、中流、下流にそれぞれ、スクリュー全長の10%の長さずつ3箇所に設け、合計30%の長さであった。
【0148】
得られたペレットから、IS80EPN射出成形機(東芝機械社製)を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃の条件で、ISO294−1に準拠した4.0mm厚さの多目的試験片又は1.0mm厚さの多目的試験片を成形した。
【0149】
得られた試験片を用いて、シャルピー衝撃強度、HDT、難燃性及び高温エージング性を測定した。また、得られたペレットを用いて、MVR、チューブ押出性とチューブ賦形性を評価した。結果を表1に示す。
【0150】
【表1】

【0151】
実施例1〜6、比較例1及び2は、ポリフェニレンエーテルに対するホスフィン酸塩の比率を変化させた結果である。比較例3及び4は、それぞれ実施例3及び4と同じ組成だが、ホスフィン酸塩の供給口を下流側供給口としたものである。比較例1においては、ホスフィン酸塩の量が少なく、酸素指数が十分ではない。比較例2ではホスフィン酸塩の比率が多く、押出において押出レートが低すぎるためか、樹脂組成物の酸化劣化が大きく、ストランドの引き取りが行えなかった。実施例1〜4と比較例3及び4とを比較すると、実施例1〜6はシャルピー衝撃強度及び高温エージング性が極めて高くなっていることがわかる。実施例7及び8は、PPEとホスフィン酸塩とからなるマスターバッチを用いた結果である。実施例4と比較して、マスターバッチを用いることにより、さらに耐熱エージング性が向上するばかりでなく、生産性も向上していることがわかる。実施例3及び4並びに比較例3及び4で得られたペレットを用いて、ホスフィン酸塩の数平均粒子径を測定したところ、実施例3及び4、比較例3及び4の順でそれぞれ、1.7μm、2.1μm、13.0μm、14.0μmであった。
【0152】
(実施例9〜12、比較例5及び6)
樹脂組成物を作製する際の原材料の配合比及び全体の組成を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、ペレットを得た。実施例1と同様に各評価を実施した。結果を表2に示す。なお、実施例12に関して、樹脂組成物の作製に先立って、CuI/KI/EBSの配合比が20/70/10(質量比)のものをコンパクター(ホソカワミクロン社製)を用いてペレット状に成形しマスターバッチを得た(以下、「Cu−MB」と表記する)。そのマスターバッチも原材料として用いた。
【0153】
【表2】

【0154】
実施例9は、平均粒子径の細かいホスフィン酸塩を用いたため、押出レートが低めであり、樹脂が劣化の傾向にあり、シャルピー衝撃強度、高温エージング性が低下傾向であった。また、チューブ押出時のトルクが不安定になることがあった。しかしながら、比較例5との比較では、十分な高温エージング性を保持しており、比較例5がチューブ腑形時に穴空きが生じたのに対し、チューブ腑形性には問題なく製品が得られるものであった。
また、実施例11及び13並びに比較例5及び6で得られたペレットを用い、ホスフィン酸塩の分散粒子径を測定したところ、それぞれ順に2.2μm、2.9μm、15.0μm、4.3μmであった。
実施例13では、Exolit−2をPPEとドライブレンドして上流部供給口より供給し、Exolit−1を下流部供給口より、PAと共に供給した。上述のホスフィン酸塩の分散粒子径と耐熱性(高温エージング性)とは臨界的に相関が認められ、3.0μm以下に分散させることにより、いずれの評価結果にも優れる樹脂組成物を得ることができた。
実施例10〜12は比較例5及び6と比較し、耐熱エージング性、引張破断伸度が飛躍的に向上するものであった。
【0155】
(実施例14〜17)
樹脂組成物を作製する際の原材料の配合比及び全体の組成を表3に記載のように変更した以外は、実施例9と同様にして樹脂組成物を作製し、ペレットを得た。実施例1と同様に各評価を実施した。結果を表3に示す。また、実施例14〜17で得られたコルゲートチューブに対して、アルミニウム真空蒸着装置を用いて、アルミニウム蒸着を実施した。いずれのサンプルにおいても、良好なアルミニウム蒸着性を示した。
【0156】
【表3】

【0157】
実施例14と実施例15との比較において、銅化合物の含有量にも高温エージング性が依存することがわかる。また実施例14と実施例16との比較では、意図的にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加することにより、高温エージング性が更に向上することがわかる。
また、実施例17では、ポリアミドの粘度数[VN]が比較的低いポリアミドを用いたが、チューブ押出性、チューブ腑形性に劣り、チューブ用途には向かないものの、高温エージング性、難燃性等には優れるため、他の耐熱用途の部材には好適に用いることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、耐熱性(特に高温エージング後の引張破断時伸び保持率)に優れ、自動車部品用途やコルゲートチューブ材料用途などに好適に利用可能な、非ハロゲン難燃性の樹脂組成物の製造方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと、ポリフェニレンエーテルと、下記一般式(1)で表されるモノホスフィン酸塩及び下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩並びにこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩と、を含む樹脂組成物の製造方法であって、
少なくとも前記ポリフェニレンエーテルと前記ホスフィン酸塩とを、前記ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、前記ホスフィン酸塩10〜120質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る工程と、
前記混合物を溶融混練する工程と、
を有する樹脂組成物の製造方法。
【化1】

[式中、R1及びR2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を示し、R3は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数6〜10のアルキルアリーレン基又は炭素数6〜10のアリールアルキレン基を示し、Mはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる1種以上の化学種を示し、mは2又は3であり、nは1〜3の整数であり、xは1又は2である。]
【請求項2】
前記混合物を得る工程において、前記ポリフェニレンエーテルと前記ホスフィン酸塩とを、前記ポリフェニレンエーテル100質量部に対し、前記ホスフィン酸塩20〜100質量部の割合でドライブレンドして混合物を得る、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合物を溶融混練する工程において、前記混合物を溶融混練してマスターバッチを得る、請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、前記ポリアミドと前記ポリフェニレンエーテルとの合計量100質量部に対して、前記ポリアミドを40〜70質量部、前記ポリフェニレンエーテルを60〜30質量部含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアミドの粘度数が、150mL/g以上300mL/g以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個のブロックと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個のブロックとを有するブロック共重合体、及び/又は、前記ブロック共重合体の水素添加物を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド9,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド4,6、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群より選ばれる1種以上のポリアミドである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、クエン酸、マレイン酸及びイタコン酸並びにそれらの無水物からなる群より選ばれる1種以上の相溶化剤を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、その全量に対して、遷移金属及び/又はその化合物を遷移金属原子換算で50ppm以上300ppm未満含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物は、有機安定剤を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記溶融混練する工程を経て得られた混練物にポリアミドを供給して更に溶融混練する工程を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法によって得られる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物中に分散したホスフィン酸塩の数平均粒子径が、3.0μm以下である樹脂組成物。
【請求項13】
前記ホスフィン酸塩の前記粒子は、その数平均粒子径が2.0μm以下である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を成形して得られるペレット。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を押出成形して得られる押出成形品。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法によって得られた樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2010−260995(P2010−260995A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114683(P2009−114683)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】