説明

樹脂組成物及び成形体

【課題】ポリ乳酸を含む樹脂組成物であって、成形体としたときに、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリ乳酸と、(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子と、を含有する樹脂組成物。更にクレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維から選択される充填剤、リン系、シリコーン系、窒素系、無機水酸化物系から選択される難燃剤を含む。組成物中の(A)と(B)の含有量は、それぞれ25質量%以上と1質量%以上15質量%以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気製品や電子・電気機器の部品には、ポリスチレン、ポリスチレン−ABS樹脂共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール等の高分子材料が、耐熱性、機械強度、特に、電子・電気機器の部品の場合には、環境変動に対する機械強度の維持性に優れることから用いられてきた。
【0003】
近年では、環境問題の観点から、上述の高分子材料に代えて、植物由来の材料であり、CO排出量が少なく、枯渇資源である石油の使用量が少なく、環境負荷が少ないポリ乳酸系樹脂材料を用いる検討がなされている。
ポリ乳酸を含む樹脂の耐衝撃性を向上することを目的として、ポリ乳酸と特定の熱可塑性樹脂とグラフト共重合体とからなる樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−320409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポリ乳酸を含む樹脂組成物であって、成形体としたときに、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
(A)ポリ乳酸と、(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子と、を含有する樹脂組成物。
【0007】
請求項2に係る発明は、
更に、(C)クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【0008】
請求項3に係る発明は、
更に、(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記(A)ポリ乳酸の含有量が25質量%以上であり、前記(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子の含有量が1質量%以上15質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0010】
請求項5に係る発明は、
前記(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種の含有量が2質量%以上20質量%以下である請求項3又は請求項4に記載の樹脂組成物。
【0011】
請求項6に係る発明は、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形して得られた成形体。
【0012】
請求項7に係る発明は、
前記ポリ乳酸の結晶化度が20%以上である請求項6に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しないポリ乳酸を含有する樹脂組成物と比較して、成形体としたときに、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項2に係る発明によれば、クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含まない場合と比較して、成形体としたときに、特に耐熱性に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項3に係る発明によれば、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含まない場合と比較して、成形体としたときに、特に難燃性に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項4に係る発明によれば、ポリ乳酸の含有量及びポリアリレートの含有量が本構成を有しない場合と比較して、成形体としたときに、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項5に係る発明によれば、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種の含有量が本構成を有しない場合と比較して、成形体としたときに、特に難燃性に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項6に係る発明によれば、本構成を有しない樹脂組成物を用いて成形された成形体と比較して、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れた成形体が提供される。
請求項7に係る発明によれば、ポリ乳酸の結晶化度が20%未満の場合と比較して、特に、より耐熱性に優れた成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の樹脂組成物、成形体の実施形態について説明する。
≪樹脂組成物≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸と、(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子と、を含有する。
ポリ乳酸は、植物由来の材料であり、環境負荷CO排出量が少なく、枯渇資源である石油の使用量が少なく、環境負荷が少ない材料として知られているが、耐熱性、難燃性、耐衝撃性が低いという問題がある。
一方ポリアリレートは耐熱性及び難燃性が高く、衝撃強度も高いが、溶融する温度が300℃以上と高く、250℃で熱分解してしまうポリ乳酸と混合することは難しい。
そこで、ポリアリレートを繊維状にしてポリ乳酸中と混合する試みをしたが、両者の界面での接着性が悪いため、前記混合により得られた混合物は、耐熱性も難燃性も耐衝撃性もポリ乳酸単独の場合と変わらないものになってしまった。
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記ポリアリレートを粉砕し、数平均粒子径10nm以上300μm以下にしてポリ乳酸中に分散したものであり、その結果上述した繊維状のポリアリレートを用いた場合からは予測できない程の、高い耐熱性、難燃性、耐衝撃性を実現することができたものである。
【0016】
本実施形態に係る樹脂組成物を上記構成としたことにより、予測できなかったレベルまで耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が向上した理由は定かではないが、以下の理由が推測される。但し、本実施形態は以下の理由に限定されることはない。
即ち、理由の一つとして、ポリアリレート自身が非常に耐熱性も難燃性も耐衝撃強度も高いという点が挙げられる。しかし、繊維状のポリアリレートはポリ乳酸との界面接着性が弱いため、ポリ乳酸中に分散させることは困難である。
繊維状のポリアリレートを用いた場合に対し、粉砕した平均粒径10nm以上300μm以下のアリレート粒子を用いることで高い効果が現れた理由は、繊維化ではなく粉砕することで表面積が大きくなり、ポリ乳酸との接着性が向上したためと考えられる。また、繊維状のポリアリレートは分子鎖が密に存在するため低温で溶融しないが、粉砕したポリアリレートでは分子鎖間の平均距離が大きくなり、比較的溶融し易くなり、通常では困難だったポリ乳酸中へのポリアリレートの分散が促進されたのではないかと考えられる。
更に、本実施形態に係る樹脂組成物によれば、ポリアリレート粒子が有するアリレート結合に関わるC=Oの極性基が、ポリ乳酸(及び必要に応じて用いられる難燃剤や添加粒子)の末端OHと相互作用することで、マトリックスとなるポリ乳酸との結合を強くし、結果として、ポリ乳酸中へポリアリレート粒子が均一性良く分散されると考えられる。
以上の理由により、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性の全てにおいて優れた効果が得られるものと推測される。
【0017】
以下、本実施形態の樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
<(A)ポリ乳酸>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸を含有する。
本実施形態におけるポリ乳酸は、植物由来であり、環境負荷の低減、具体的にはCOの排出量削減、石油使用量の削減効果がある。
本実施形態におけるポリ乳酸としては、乳酸の縮合体であれば、特に限定されるものではなく、L乳酸であっても、D乳酸であっても、それらが共重合やブレンドにより交じり合ったものでもよい。
【0018】
本実施形態におけるポリ乳酸の分子量も特に限定されるものではないが、重量平均分子量で8000以上200000以下が好ましく、15000以上120000以下がより好ましい。重量平均分子量が8000未満であると低温機械強度が低下する傾向にあり、200000を越えると柔軟性が低下する傾向にある。
【0019】
本実施形態におけるポリ乳酸は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ユニチカ(株)製のテラマックTE4000、三井化学(株)製のレイシアH100等が挙げられる。
【0020】
本実施形態においてポリ乳酸は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
本実施形態におけるポリ乳酸の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、環境負荷を低減する観点からは、樹脂組成物の全量に対し、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上90質量%以下であることが特に好ましい。
【0021】
<(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子>
本実施形態の樹脂組成物は、(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子(以下、「(B)成分」ともいう)を含有する。
前記(B)成分としては特に限定はないが、数平均粒子径10nm以上300μm以下の粉砕ポリアリレート粒子が好ましい。
【0022】
前記数平均粒子径は、10nm以上300μm以下であることが必要であり、50nm以上100μm以下が好ましい。10nm未満だと充填剤としてはサイズが小さすぎて耐衝撃強度や耐熱性向上効果が小さくなる傾向にある。一方300μmを越えると分散不良を起こし、やはり耐衝撃強度や耐熱性が不十分になる傾向がある。
ここで、数平均粒子径は、日機装(株)マイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIを用いて測定された値を指す。
【0023】
前記(B)成分としてのポリアリレートの構造についても特に限定されるものではないが、ビスフェノールと芳香族ジカルボン酸の組合せが好ましい。
具体例を挙げると、ビスフェノールA/テレフタル酸タイプ、ビスフェノールA/ナフタレンジカルボン酸タイプ、ビスフェノールA/ビフェニルジカルボン酸タイプ、ビスフェノールS/テレフタル酸タイプ、ビスフェノールC/テレフタル酸タイプなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記(B)成分としてのポリアリレートの分子量は特に限定されるものではないが、ポリスチレン換算の重量平均分子量で5000以上100000以下が好ましく、10000以上70000以下が特に好ましい。5000未満になると強度が不十分になり、耐衝撃強度、耐熱性の向上効果が小さくなる傾向にあり、逆に100000を越えると、粉砕加工が難しくなる傾向がある。
【0025】
前記(B)成分としてのポリアリレートは、例えば、ペレット状のポリアリレートや、再沈殿により得られた塊状のポリアリレート、又は繊維状のポリアリレートを、粉砕ミルやボールミルなど公知の粉砕方法を用いて粉砕し、メッシュなどで篩い分けして粒径を揃える。
前記ペレット状のポリアリレート、前記塊状のポリアリレート、前記繊維状のポリアリレートとしては、合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
前記市販品としては、例えば、ユニチカ(株)製のUポリマーU100、P−1101、U−8000、AX−1500等が挙げられる。
【0026】
本実施形態において前記(B)成分は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
本実施形態における前記(B)成分の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、耐衝撃強度、難燃性の観点からは、樹脂組成物の全量に対し、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
また、本実施形態における前記(A)成分の含有量と前記(B)成分の含有量との組み合わせとしては、耐衝撃強度、耐熱性、難燃性の観点から、前記(A)成分の含有量が、樹脂組成物の全量に対し、25質量%以上(より好ましくは30質量%以上95質量%以下)であって、
前記(B)成分の含有量が、樹脂組成物の全量に対し、1質量%以上15質量%以下(より好ましくは3質量%以上12質量%以下)である組み合わせが好ましい。
【0027】
<(C)クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種>
本実施形態の樹脂組成物は、(C)クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「(C)成分」ともいう)を含有してもよい。
前記(C)成分は、更に、メラミン含有粒子、フォスフェート粒子、酸化チタンを含有してもよい。
【0028】
前記「クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群」は、粒子又は繊維の形態の群である。
前記粒子の粒子径は数平均粒子径で0.01μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上2μm以下がより好ましい。0.01μm未満であると充填効果が不十分になる場合があり、逆に5μmを超えると分散が悪くなる場合があり、いずれも耐熱性向上効果が低下する傾向にある。
前記繊維の平均繊維径は0.5μm以上25μm以下が好ましい。また、前記繊維の平均繊維長は2mm以上8mm以下が好ましい。
【0029】
前記(C)成分としては合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
クレイの市販品としては、ナノコア社製のナノクレイMX等が挙げられる。
タルクの市販品としては、日本タルク社製のマイクロエースP8等が挙げられる。
マイカの市販品としては、日本マイカ製作所製のマイカパウダー、山口雲母工業SJ−005、SYA21−RS、等が挙げられる。
また、天然繊維としては、例えば、天然ジュート(黄麻)を用いる。
天然繊維の市販品としては、ケナフ繊維、竹繊維、セルロースウイスカー等が挙げられる。
【0030】
本実施形態における前記(C)成分の含有量には特に限定はないが、耐熱性、難燃性の観点からは、樹脂組成物の全量に対し、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
<(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種>
本実施形態の樹脂組成物は、(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「(D)成分」ともいう)を含有してもよい。
前記(D)成分としては合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
リン系難燃剤の市販品としては、大八化学製のPX−200、PX−202、ブーテンハイム製のTERRAJU C80、クラリアント製のEXOLIT AP422、EXOLIT OP930、等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製のDC4−7081等が挙げられる。
窒素系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製のアピノン901、下関三井化学製のピロリンサンメラミン、ADEKA製のFP2100、等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、堺化学工業製MGZ300、日本軽金属製B103ST、等が挙げられる。
【0032】
本実施形態における前記(D)成分の含有量には特に限定はないが、難燃性と耐衝撃強度の観点からは、樹脂組成物の全量に対し、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
また、本実施形態における前記(A)成分の含有量と前記(B)成分の含有量と前記(D)成分の含有量の組み合わせとしては、耐衝撃強度、耐熱性、及び難燃性のバランスの観点から、
前記(A)成分の含有量が、樹脂組成物の全量に対し、25質量%以上(より好ましくは30質量%以上90質量%以下)であって、前記(B)成分の含有量が、樹脂組成物の全量に対し、1質量%以上15質量%以下(より好ましくは3質量%以上10質量%以下)であって、前記(D)成分の含有量が、樹脂組成物の全量に対し、2質量%以上20質量%以下(より好ましくは5質量%以上15質量%以下)である組み合わせが特に好ましい。
【0033】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、及び前記(D)成分以外にも、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、離型剤、耐候剤、耐光剤、着色剤、等が挙げられる。
【0034】
以上で説明した本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも前記(A)成分及び前記(B)成分(及び、必要に応じ、前記(C)成分や前記(D)成分等のその他の成分)を、公知の方法にて混練して作製される。
前記混練は、例えば、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)、簡易ニーダー(東洋精機製、ラボプラストミル)等の公知の混練装置を用いて行う。
前記混練は、シリンダ温度としては、ポリ乳酸の分解抑制などの観点から、160℃以上240℃以下が好ましく、170℃以上210℃以下がより好ましい。
【0035】
≪成形体≫
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態の樹脂組成物を成形することにより得ることができる。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形などの成形方法により成形して、本実施形態に係る樹脂成形体を得ることができる。本実施形態においては、成形体におけるポリアリレートの分散性の理由から、前述の本実施形態の樹脂組成物を射出成形して得られたものであることが好ましい。
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行う。
この際、シリンダ温度としては、ポリ乳酸の分解抑制などの観点から、160℃以上240℃以下とすることが好ましく、170℃以上210℃以下とすることがより好ましい。
また、金型温度としては、生産性の観点から、30℃以上120℃以下とすることが好ましく、30℃以上60℃以下とすることがより好ましい。
【0036】
また、本実施形態の成形体中における、(A)ポリ乳酸の結晶化度は20%以上が好ましい。前記結晶化度が20%未満だと耐熱性が低下する傾向にある。
ここで、結晶化度は、密度勾配管法により測定した値を指す。具体的には、結晶化度100%と0%の標準試験片を、2種類のアルコールの混合系で作った密度勾配管中に浮遊させる。これら2種類の標準試験片の浮遊位置から密度を決めることができ、密度と結晶化度の検量線を作成する。次に、この密度勾配管中に、結晶化度を測定したいサンプルの試験片(標準試験片と同体積のもの)を浮遊させ、浮遊位置から密度を求め、検量線から結晶化度を求めた値を指す。
【0037】
≪電子・電気機器の部品≫
前述の本実施形態の成形体は、機械的強度(耐衝撃性及び柔軟性)、耐熱性及び難燃性に優れたものになり得るため、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いることができる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。電子・電気機器の部品は、複雑な形状を有しているものが多く、また重量物であるので極めて高い耐衝撃強度及び面衝撃強度が要求されるが、本実施形態の樹脂成形体によれば、このような要求特性を十分満足させることができる。
【0038】
図1は、本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0039】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0040】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0041】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0042】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0043】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152などの事務機器用部材は、耐熱性、耐衝撃性、及び難燃性の諸性能を備えることが要求される。
このため、本実施形態の樹脂組成物を用いて作製された成形体は、これらの電子・電気機器の部品として好適に用いられるものである。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0045】
<ポリアリレート粒子の作製>
ポリアリレートペレット(ユニチカ社、Uポリマー・U100)を粉砕機(ターボ工業社、ターボデイスクミル)にて乾式粉砕し、セミテック社製特注品、見開き10nm、30nm、50μm、300μm、400μmの各メッシュを用いて数平均粒子径の異なるグループ(a:8nm、b:15nm、c:30μm、d:280μm、d:350μm)に分けた。
数平均粒子径の測定は、日機装(株)マイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIを用いて行った。
【0046】
〔実施例1乃至実施例17〕
<樹脂組成物の作製>
表1に示す材料を、表1に示す組成比で、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、シリンダ温度230℃の条件にて混練し、表1に記載の組成の樹脂組成物を得た。
【0047】
<成形体の作製、測定及び評価>
以上で得られた樹脂組成物を用い、以下のようにして成形体の作製、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を下記表2に示す。
【0048】
(ポリ乳酸の結晶化度の測定)
上記で得られた樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、表2に示すシリンダ温度、金型温度の条件にて、後述する標準試験片と同体積の結晶化度測定用試験片(10mm×10mm×2mm)を射出成形した。
次に、結晶化度100%と0%の標準試験片を、2種類のアルコールの混合系(メタノール/ブタノール=1/9、2/8、3/7、4/6、5/5、6/4、7/3、8/2、9/1の各組成の混合系)で作った密度勾配管中に浮遊させた。これら結晶化度100%と0%の標準試験片の浮遊位置から密度を決め、密度と結晶化度の検量線を作成した。
次に、この密度勾配管中に、前述の結晶化度測定用試験片を浮遊させ、浮遊位置から密度を求め、前記検量線から結晶化度を求めた。
【0049】
(シャルピー耐衝撃強度の測定)
上記で得られた樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、表2に示すシリンダ温度、金型温度の条件にて、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527引張試験、ISO178曲げ試験に対応、試験部厚さ4mm、幅10mm)を射出成形した。
得られたISO多目的ダンベル試験片を加工して、ISO179に従い耐衝撃試験装置(東洋精機製、DG−5)にてシャルピー耐衝撃強度を測定した。
シャルピー耐衝撃強度は、数値が大きい程、耐衝撃性に優れていることを示す。
【0050】
(熱変形温度の測定)
上記で得られたISO多目的ダンベル試験片を用い、ISO75に準拠して0.45MPaおよび1.80MPa荷重時の熱変形温度を測定した。
熱変形温度は、温度が高い程、耐熱性に優れていることを示す。
【0051】
(UL−Vテスト)
上記で得られた樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、表2に示すシリンダ温度、金型温度の条件にて、UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ0.8mm)、及び、UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ1.6mm)を、それぞれ射出成形した。
得られたVテスト用UL試験片を用い、UL−94の方法でUL−Vテストを実施した。
UL−Vテストの結果は、V−1が最も難燃性が高く、V−2がV−1に次いで難燃性が高いことを示す。V−notは、V−2よりも難燃性に劣ることを示す。
【0052】
(剛球落下試験)
上記で得られた樹脂組成物を、80℃で8時間乾燥させ、乾燥後の樹脂組成物を用いて、射出成形機(日精樹脂工業、NEX70000)を用いて、表2に示すシリンダ温度、金型温度の条件で、厚さ2mm、10×10cmの平板を射出成形した。この平板に対して1300mの高さから直径50mm、重さ500gの鋼球を落下衝突させ、割れが発生するかどうかを調べた。
【0053】
〔比較例1乃至比較例4〕
<樹脂組成物の作製>
表1に示す材料を、表1に示す組成比で、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、シリンダ温度230℃の条件にて混練し、表1に記載の組成の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を用い、実施例と同様にして成形体を作製し、実施例と同様の測定及び評価を行った。ただし、比較例2についてはポリアリレート樹脂が溶融しないため混練できなかった。測定及び評価の結果を下記表2に示す。

【0054】
【表1】



【0055】
≪表1の説明≫
表1中の各成分の詳細を以下に示す。
・ポリ乳酸:ユニチカ(株)製のテラマックTE4000
・クレイ:ナノコア社製のナノクレイMX
・タルク:日本タルク社製のマイクロエースP8
・マイカ:日本マイカ製作所製のマイカパウダー
・ジュート:天然ジュート(20μmΦ/6mm)
・リン系難燃剤:大八化学製のPX−200
・シリコーン系難燃剤:東レダウシリコーン製のDC4−7081
・窒素系難燃剤:三和ケミカル製のアピノン901
・無機水酸化物系難燃剤:堺化学工業製MGZ300
・ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチック製ノバデユラン5010R3
・ポリアリレート樹脂:ユニチカ製UポリマーU100(比較例2では、粉砕を行わず、長さ4mm、直径3mmの円柱状のペレットの形態のまま用いた)

【0056】
【表2】



【0057】
表2に示すように、ポリ乳酸と、数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子と、を含有する樹脂組成物を用いた実施例1乃至実施例17では、耐熱性、耐衝撃性、及び難燃性に優れていた。
【符号の説明】
【0058】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸と、(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子と、を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
更に、(C)クレイ、タルク、マイカ、及び天然繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
更に、(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリ乳酸の含有量が25質量%以上であり、前記(B)数平均粒子径10nm以上300μm以下のポリアリレート粒子の含有量が1質量%以上15質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機水酸化物系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種の含有量が2質量%以上20質量%以下である請求項3又は請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形して得られた成形体。
【請求項7】
前記ポリ乳酸の結晶化度が20%以上である請求項6に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−174088(P2010−174088A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16491(P2009−16491)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】