説明

樹脂組成物及び成形物

【課題】ポリ乳酸樹脂の結晶化が促進されてなると共に、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有する樹脂組成物及び成形物を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂を含有する樹脂組成物及び成形物に関するものであり、より詳しくは、ポリ乳酸樹脂を含有し、耐熱性と耐衝撃性に優れた樹脂組成物、及び成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられてきた多くの合成樹脂の原料は、石油や石炭や天然ガスなどの化石資源である。これらの合成樹脂には、近い将来において原料である化石資源が枯渇すること、廃棄された合成樹脂が自然界で分解されずに蓄積されること、焼却処理されるとその際に排出される二酸化炭素が地球温暖化の一因になることなど、様々なことが懸念されている。
【0003】
このため、化石資源を原料としない合成樹脂として、植物や微生物などから得られる原料を用いるバイオマスプラスチックが注目されている。バイオマス原料は、大気中の二酸化炭素が光合成によって固定されたものであるので、資源が枯渇するということがない。また、自然界で生分解されるので、廃棄された樹脂が自然界で分解されずに蓄積されるおそれが少ない。また、焼却処理が為されても、元々大気中に二酸化炭素として含まれていた炭素が、バイオマスプラスチックとして一時的に利用された後、再び二酸化炭素として大気中に戻されることから、炭素は循環するだけであって、二酸化炭素の量が増加することはない。従って、バイオマスプラスチックの焼却処理が大気中の二酸化炭素濃度の増加の原因になることはない。
【0004】
バイオマスプラスチックの中でもポリ乳酸樹脂は、加工性および機械物性などが優れており、商業的に生産されているため、他のバイオマスプラスチックに比べて容易かつ安価に入手することができる。その用途は、生分解性を生かした漁業用・農業用・土木用資材(網やフィルムやシートなど)、工業用資材、機械部品、および医療用部材など、様々であるが、用途によっては耐衝撃性が要求される場合がある。
【0005】
例えば、ポリ乳酸樹脂を電気製品の筐体や構造材として用いるには、使用中に加わる衝撃や落下したときに耐え得る耐衝撃性が必要である。耐衝撃性を持たせる為には、ポリ乳酸樹脂とエラストマー樹脂とをブレンド又はポリマーアロイにする方法によって、ポリ乳酸樹脂とエラストマー樹脂とを複合化し、ポリ乳酸樹脂に耐衝撃性を付与することが一般的に行われている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0006】
さらに、樹脂の用途によっては耐衝撃性に加えて耐熱性が要求されることがある。例えば、電気製品の筐体や構造材として用いるには、概ね80℃付近までは軟化しない耐熱性が要求される。しかし、ポリ乳酸樹脂は一般的にガラス転移温度が60℃前後であり、その成形物は、温度がガラス転移温度を越えると軟化してしまうことがあるなど、耐熱性が比較的低いと言う欠点がある。
【0007】
ガラス転移温度とは、合成樹脂や天然ゴムなどの高分子物質で、ガラス転移点を持つ物質のガラス転移が起こる温度である。ガラス転移点を持つ物質の非結晶部分は、温度が低く、分子の熱運動が低調である場合には、高分子鎖の分子内回転が、高分子鎖間の分子間力によって束縛されて凍結されている状態、即ちガラス状態と呼ばれる状態にある。一方、ガラス転移点を持つ物質の非結晶部分は、温度が高く、分子運動が活発である場合には、高分子鎖の分子内回転が、高分子鎖間の分子間力による束縛に抗して可能である状態、即ちゴム状態と呼ばれる状態をとる。ガラス転移温度は、ガラス状態からゴム状態へ転移する温度である。
【0008】
従ってポリ乳酸樹脂は、80℃付近ではガラス転移温度を超えているため、ガラス状態からゴム状態へ遷移した結果、軟化してしまう。このため、耐熱性が必要とされる用途にポリ乳酸樹脂を用いるには、樹脂複合体の耐熱性を向上させる必要がある。ところが、特許文献1及び2に記載の樹脂複合体の場合、加える樹脂に耐熱性がないため、得られる樹脂複合体は充分な耐熱性を有しない。
【0009】
そこで、樹脂の耐熱性を向上させる方法の1つとして、耐熱性の高い他の樹脂との複合体(ポリマーブレンド又はポリマーアロイ)にする方法がある。
また、ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上させるその他の方法としては、ポリ乳酸樹脂を結晶化させ、結晶部分の割合を増加させて固くし、耐熱性を改善する方法がある。例えば、成形中または成形後の熱処理によって、ポリ乳酸樹脂の一部を結晶化させ、耐熱性を改善することが提案されている。ポリ乳酸は結晶構造を取り得るが、結晶化しにくい高分子であるため、ポリ乳酸樹脂を通常の汎用樹脂と同じように成形すると非晶質となり、熱変形を生じやすい成形物となる。これに対し、成形中または成形後に熱処理を行うと、ポリ乳酸の一部を結晶化させることによって、成形物の耐熱性を向上させることができる。
【0010】
ただし、ポリ乳酸樹脂の結晶化には、結晶化に長時間を要すると言う問題がある。例えば、通常の射出成形の1サイクルは、1分程度である。この成形サイクル時間に比してポリ乳酸樹脂の結晶化に要する時間は、はるかに長いので、金型内でポリ乳酸樹脂の結晶化を完遂させようとすると、結晶化に時間がかかりすぎ、射出成形工程の生産性が著しく低下することになり、現実的ではない。
【0011】
この問題を解決するために、結晶核剤を添加して結晶化を促進することが検討され始めている(例えば、特許文献3乃至5参照。)。結晶核剤とは、結晶構造をとり得る高分子の一次結晶核となり、結晶性高分子の結晶成長を促進するものである。また、広義には結晶性高分子の結晶化を促進するものとされ、高分子の結晶化速度そのものを速くするものも結晶核剤と呼ぶことがある。前者の結晶核剤が樹脂に添加されると、高分子の結晶が微細となり、その樹脂の剛性が改善されたり、あるいは透明性が改善されたりする。また、前者、後者のいずれの結晶核剤でも、結晶化の速度を速めることができるので、結晶化に要する時間を短縮する効果があり、成形と同時に結晶化を行う場合には、成形サイクル時間を短縮できる効果がある。
【0012】
ポリ乳酸樹脂に有効な結晶核剤としては、例えば、特許文献3には芳香環を有するホスホン酸金属塩を用いることが、また、特許文献4にはメラミン化合物塩を用いることが提案されている。さらに、特許文献5には、ポリ乳酸樹脂の結晶核剤としてアゾ顔料などを用いることが提案されている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−173520号公報
【特許文献2】特開2001−31853号公報
【特許文献3】特開2006−89587号公報
【特許文献4】特開2005−272679号公報
【特許文献5】特開2005−264147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者が調べたところ、従来ポリ乳酸樹脂の結晶核剤として提案されている結晶核剤の多くは、ポリ乳酸樹脂とエラストマー樹脂との複合体に用いた場合には結晶化の促進の効果があることがわかった。しかしながら、ポリ乳酸樹脂とエラストマー樹脂に加えて、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂をさらに用いた樹脂複合体の場合には、結晶核剤によってはポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する効果が激減することが判明した。
【0015】
本発明は、このような状況を鑑みて為されたものであって、その目的は、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂とエラストマー樹脂を含むポリ乳酸樹脂であっても、その結晶化を促進して、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有する樹脂組成物を提供すること、及び該樹脂組成物を用いた成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である。
【0017】
また本発明の成形物は、ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である樹脂組成物が成形されてなり、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化率が40〜100%である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂の結晶化が促進されてなると共に、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有する樹脂組成物及び成形物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である。
本発明は、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂とエラストマー樹脂を含むポリ乳酸樹脂であっても、結晶核剤として特定の溶性アゾ系レーキ顔料を用いた場合には、充分なポリ乳酸樹脂の結晶化促進効果が得られることを見出し、これに基づき為されたものである。
以下において本発明の樹脂組成物について詳細に説明する。
【0020】
<ポリ乳酸(a)>
本発明で用いられるポリ乳酸(a)は、公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクチド法、多価アルコールと多塩基酸との重縮合、又は分子内に水酸基とカルボキシル基とを有するヒドロキシカルボン酸の分子間重縮合などの方法により製造することができる。
【0021】
ポリ乳酸は通常、環状ジエステルであるラクチド及び対応するラクトン類の開環重合による方法、いわゆるラクチド法により、また、ラクチド法以外では、乳酸の直接脱水縮合法により得ることができる。また、ポリ乳酸系脂肪族系ポリエステルを製造するための触媒としては、錫、アンチモン、亜鉛、チタン、鉄及びアルミニウム化合物等を例示することができる。これらの中でも錫系触媒、アルミニウム系触媒を用いることが好ましく、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトナートを用いることがより好ましい。
【0022】
ポリ乳酸の中でもラクチド開環重合により得られるポリL−乳酸が好ましい。ポリL−乳酸は加水分解されてL−乳酸になり、かつその安全性も確認されているためである。しかし、本発明で使用するポリ乳酸はこれに限定されることはなく、従って、その製造に使用するラクチドについてもL体に限定されない。
【0023】
また、本発明においては、ポリ乳酸として市販品を用いることもできる。例えばNature Works(Nature Works LLC株式会社製)、U’z(トヨタ自動車等)等の商品名のポリ乳酸が挙げられる。
【0024】
ポリ乳酸樹脂(a)は、樹脂成分全量に対する配合量が1〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80%、さらに好ましくは45〜80%である。
また、本発明で用いられるポリ乳酸樹脂(a)は、分子量(数平均分子量)は、30000〜200000であることが好適である。分子量が30000未満であると、最終的に得られる複合組成物(樹脂組成物)の強度が不充分となり、一方、200000を超えると、成形性や加工性が劣化してしまうためである。
【0025】
<ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)>
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)について説明する。
ここで本発明における耐熱性とは、80℃における曲げ弾性率に基づき判断することが好ましく、本発明で用いられるポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)は、80℃における曲げ弾性率が1000MPa以上の樹脂であることがより好ましい。曲げ弾性率(剛性)は、日本工業規格JIS K-7171(ISO178)のプラスチック−曲げ特性の試験方法に基づいて測定した値とする。
【0026】
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)としては、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びアモルファスポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂であることが好ましい。これらの中でもポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体が特に好ましい。
【0027】
樹脂(b)は、樹脂成分全量に対する配合量が10〜75重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜65%、さらに好ましくは20〜60%である。配合量が10重量%未満であると充分な耐熱性が得られいため好ましくない。また、配合量が75重量%を超えると、結果的にポリ乳酸樹脂が少なくなり、環境負荷が大きくなることから、本発明の本来の意図に反するものとなる。
【0028】
本発明で用いられる耐熱性に優る樹脂(b)は、分子量が3000〜20000であることが好ましい。
【0029】
<エラストマー状の樹脂(c)>
本発明で用いられるエラストマー状の樹脂(c)は、25℃における曲げ弾性率が1000MPa以下である樹脂が好ましい。曲げ弾性率(剛性)は、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と同様に、日本工業規格JIS K-7171(ISO178)のプラスチック−曲げ特性の試験方法に基づいて測定した値とする。
【0030】
本発明で用いられるエラストマー状の樹脂(c)としては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、アミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアモルファスポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂であることが好ましい。これらの中でも、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体が特に好ましい。
【0031】
エラストマー状の樹脂(c)は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以下であることが好ましく、より好ましくは25℃以下である。エラストマー状の樹脂(c)として、ガラス転移温度が80℃以下の樹脂を用いることで、ポリ乳酸樹脂に優れた耐衝撃性を付与することができる。
【0032】
エラストマー状の樹脂(c)は、樹脂成分全量に対する配合量が10〜65重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜50%、さらに好ましくは20〜50%である。配合量が10重量%未満であると充分な耐衝撃性が得られず、また、配合量が65重量%を超えると、本発明の樹脂組成物が目的とする物性(成形性、耐熱性等)が得られないため好ましくない。また、配合量が75重量%を超えると、結果的にポリ乳酸樹脂が少なくなり、環境負荷が大きくなることから、本発明の本来の意図に反するものとなる。
【0033】
本発明で用いられるエラストマー状の樹脂(c)は、分子量が1000〜20000であることが好ましい。
【0034】
<ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d):溶性アゾ系レーキ顔料(d)>
本発明に用いられるポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)は、溶性アゾ系レーキ顔料である。尚、以下においてポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)を、溶性アゾ系レーキ顔料(d)とも称する。
アゾ顔料とは、アゾ基(―N=N―)を発色団として持つ顔料である。また溶性アゾ系レーキ顔料とは、水に可溶なアゾ系色素を金属塩等の沈殿剤により水に不溶にすることによって得られるアゾ顔料を意味する。例えば、水溶性のアゾ染料のスルホン酸基またはカルボキシル基を、カルシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩、マンガン塩、ナトリウム塩などの、水に不溶性の金属塩としたものである。
【0035】
アゾ顔料は、分子構造上、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、および縮合アゾ顔料などに分類される。モノアゾ顔料はアゾ基を1つもつ顔料である。ジスアゾ顔料は、2つのアゾ基を中心対称に有し、着色力が強い顔料である。縮合アゾ顔料は、縮合反応によって形成され、2つのアゾ基を有し、顔料としては分子量が大きく、耐熱性や耐溶剤性が高い顔料であって、例えば、PR144、PR166、PR214、PR242、PBr23が挙げられる。尚、上記したPR144等の表記、及び後述するPY191,PR48の表記は、The Society of Dyers and Colourists社発行のカラーインデックスに示される化合物であることを意味し、PはPigment、RはRed、BrはBrown、YはYellowを意味する。
【0036】
本発明で用いられる溶性アゾ系レーキ顔料(d)としては、例えば下記一般式(1)に示すPY191系顔料が挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
[式中、R1およびR2は同一又は異なり、−SO3または−COOを示し、R3、R4、R5およびR6は同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、シアノ基またはアセチル基を示す。Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0039】
また、R1およびR2は−SO3、R3はメチル基、R4は水素原子、R5は塩素原子、R6は水素原子であること、即ち、下記一般式(2)で示されるPY191系顔料であることが好ましい。
【0040】
【化2】

【0041】
[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0042】
さらに、MはCaであること、即ち、下記化学式(3)で示されるものであることが好ましい。
【0043】
【化3】

【0044】
またさらに、本発明で用いられる溶性アゾ系レーキ顔料(d)としては、一般式(1)においてR1及びR2がいずれも−SO3である下記一般式(1A)に示すものが挙げられる。
【0045】
【化4】

【0046】
[式中、R3、R4、R5およびR6は同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、シアノ基またはアセチル基を示す。Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0047】
また、本発明で用いられる溶性アゾ系レーキ顔料(d)としては、例えば下記一般式(4)に示すPR48系顔料が挙げられる。
【0048】
【化5】

【0049】
[式中、R7は−SO3または−COOを示し、R8およびR9は同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、シアノ基またはアセチル基を示す。Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0050】
ここで、R7は−SO3、R8はメチル基、R9は塩素原子であること、即ち、下記一般式(5)で示されるPR48系顔料であることが好ましい。
【0051】
【化6】

【0052】
[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0053】
また、一般式(5)においてMはBaであること、即ち、下記化学式(6)で示されるものであることが好ましい。
【0054】
【化7】

【0055】
さらに、一般式(5)においてMはMnであること、即ち、下記化学式(7)で示されるものであることが好ましい。
【0056】
【化8】

【0057】
また一般式(4)において、R7は−SO3、R8はメチル基、R9は水素原子であること、即ち、下記一般式(4A)で示されるものが挙げられる。
【0058】
【化9】

【0059】
[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0060】
さらに、本発明で用いられる溶性アゾ系レーキ顔料(d)としては、例えば下記一般式(8)に示すものが挙げられる。
【0061】
【化10】

【0062】
[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【0063】
ここで、上記した式中のMは、二価の塩を取りうる金属元素であり、例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba、及びRaの第2族元素;Mn、Co、Ni、Fe、Cu、Zn等が挙げられる。勿論、本発明の範囲は上記列挙した金属に限定されるものではない。
【0064】
本発明の樹脂組成物では、ポリ乳酸樹脂(a)の結晶化を促進するアゾ顔料(d)を、ポリ乳酸樹脂(a)100重量部に対して、0.001〜10重量部含有することが好ましく、0.01〜3重量部含有することがより好ましい。アゾ顔料(d)の配合量が0.001部未満であるとポリ乳酸樹脂(a)の結晶化促進効果が充分に発揮されず、耐熱性に優れない。また、アゾ顔料(d)の配合量が10重量部を超えると、ポリ乳酸樹脂(a)の配合量の減少や、耐熱性に優る樹脂(b)の配合量の減少、又はエラストマー状の樹脂(c)の配合量の減少を招くため、夫々で担保する機械的特性、耐熱性又は耐衝撃性が充分に確保できない。
【0065】
また本発明で用いられるアゾ顔料(d)は、なるべく粒子サイズが小さいものが好ましい。より具体的には、粒子の粒径が10μm以下であることが好ましく、粒径が1μm以下であることがより好ましく、粒径が0.1μm以下であることが最も好ましい。また、粒子径が大きい物を微粉砕して微粒子化したものを使用することができる。粒径が10μmを超えると、充分な結晶化促進効果を得るためには過剰な量のアゾ顔料(d)を配合させる必要が生じ、その結果、樹脂組成物の機械物性、耐熱性又は耐衝撃性が充分に確保できなくなる。
【0066】
アゾ顔料(d)の微粉砕には従来公知の方法が適用できる。例えば、機械的な粉砕方法、化学的方法のいずれでもよい。機械的な粉砕方法には、ボールミルによる方法、ソルトミリングによる方法、凍結粉砕等が挙げられる。その他、ジェットミル、エアーハンマーと呼ばれる、粒子を気流と共に2方向から衝突させて粉砕する粉砕方法も適用できる。化学的な方法としては、再結晶や噴霧乾燥等が挙げられる。例えば、結晶核剤であるアゾ顔料(d)を所定の溶媒に溶解させ、再結晶によって微粒子を得ることもできる。即ち、温度による溶解度の相違を利用して高温のアゾ顔料(d)の飽和溶液を冷却したり、溶媒を蒸発させて濃縮したり、溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させたりする等の方法により微粒子が得られる。その他、結晶核剤を溶解させた溶液を噴霧させて溶媒を気化させて微粒子を得る噴霧乾燥等の、従来公知の微粒子作製方法をいずれも適用できる。
【0067】
<添加剤>
本発明の樹脂組成物には、上記(a)〜(d)に記載のもの以外にも、難燃剤、着色剤、潤滑剤、ワックス類、熱安定剤、補強材、無機・有機フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を加えても良い。
【0068】
添加剤の含有量は特に制限されないが、0.1重量%以上50重量%以下とすることが好適である。0.1重量%未満であると、添加剤夫々の機能が発現され難く、50重量%を超えると、本発明の樹脂組成物が目的とする物性(耐熱性、成形性、耐衝撃性等)を阻害するおそれがあるためである。
【0069】
(難燃剤)
難燃剤としては、例えば、金属酸化物、リン系難燃化合物、各種のホウ酸系難燃化合物、無機系難燃化合物、チッソ系難燃化合物、ハロゲン系難燃化合物、有機系難燃化合物、コロイド系難燃化合物等が挙げられる。また、難燃剤は、例えば焼却処分の際に有毒ガスが発生しない等、廃棄の際に環境に負荷を与えないものが好ましい。
【0070】
このような環境配慮の観点から、難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、若しくは水酸化カルシウム等の水酸化物系化合物や、リン系難燃化合物、特にリン酸アンモニウム、若しくはポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム系化合物や、二酸化ケイ素、低融点ガラス、若しくはオルガノシロキサン等のシリカ系化合物等が好ましい。これらは単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0071】
(着色剤)
着色剤としては、無機顔料、有機顔料、染料等が挙げられる。これらの顔料は必要に応じて着色目的で添加しても良い。
【0072】
(加水分解抑制剤)
ポリ乳酸は加水分解性を持つ樹脂である。ポリ乳酸は空気中などの水分により、加水分解を起こし時間と共に分子量が低下する。ポリ乳酸は分子量低下に伴い、耐衝撃性、耐熱性など機械物性が低下するため、加水分解の抑制が必要な場合がある。このため、加水分解を抑制するために加水分解抑制剤を添加することができる。
【0073】
加水分解抑制剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン系化合物などが適用可能である。特にカルボジイミド化合物がポリ乳酸と溶融混練でき、少量の添加でポリ乳酸の加水分解をより抑制できるために好ましい。
【0074】
カルボジイミド化合物は分子中に一個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、ポリカルボジイミド化合物をも含む。このカルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド及びナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中でも、特に工業的に入手が容易であるジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
【0075】
上述のような加水分解抑制剤は、公知の方法に従って容易に製造することができ、また市販品を適宜使用することができる。
【0076】
本発明で用いる加水分解抑制剤の種類又は添加量により、樹脂組成物の加水分解速度を調整することができるので、目的とする製品に応じ、配合する加水分解抑制剤の種類及び配合量を決定すれば良い。具体的には、加水分解抑制剤の添加量が、樹脂組成物の全質量に対して、通常約5重量%以下、好ましくは0を超え約1重量%以下である。また、加水分解抑制剤は、上記化合物を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
<種々の処理>
本発明の樹脂組成物には、従来公知の種々の処理を施しても良い。
例えば、ポリ乳酸の加水分解を抑制するために、活性エネルギー線を照射させても良い。この場合、活性エネルギー線源としては、例えば電磁波、電子線、粒子線、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0078】
<樹脂組成物の用途>
本発明の樹脂組成物は、種々の成形品用途に応用可能である。例えば、DVD(デジタルヴァーサタイルディスク)プレーヤー、CD(コンパクトディスク)プレーヤー、アンプ等の据置型のAV機器、スピーカー、車載用AV/IT機器、携帯電話端末、電子書籍等のPDA、ビデオデッキ、テレビ、プロジェクター、テレビ受信機器、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、プリンター、ラジオ、ラジカセ、システムステレオ、マイク、ヘッドフォン、TV、キーボード、ヘッドフォンステレオ等の携帯型音楽機、パソコン、及びパソコン周辺機器等の電気製品の筐体等の各種成形品のいずれにも適用可能である。
【0079】
尚、電気製品の筐体だけでなく、電気製品を構成する部品や梱包材等の用途にも適用可能であり、その他、自動車内装材等にも適用可能である。
【0080】
〔成形物〕
本発明の成形物は、ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である樹脂組成物が成形されてなり、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化率が40〜100%である。
【0081】
結晶化率とは、本発明においてはポリ乳酸が結晶化した割合を示すものである。
先ず、いわゆる結晶化度は、例えば、示差走査熱量(DSC)測定や広角エックス線回折測定、比重の測定、などから求められる。上記の方法の中からDSCは比較的簡便に結晶化度が求められるので、結晶化度を測定するために多く用いられる。
具体的には後述するが、得られたDSC曲線から相転移に伴う発熱量ΔHcと吸熱量ΔHmとを求め、そして試料の融解熱ΔH0mを用いて結晶化度χcを下記数式(I)により算出する方法がある。
【0082】
χc(%)= (ΔHm -ΔHc ) /ΔH0m ×100 ・・・(I)
ΔHm:試料の吸熱量
ΔHc:結晶化の発熱量
ΔH0m:完全結晶の融解熱
【0083】
この方法の場合、完全結晶の融解熱ΔH0mは文献などから引用してもよいが、樹脂の分子量、分岐、また、乳酸の光学異性体の割合などに依存するため、その文献値が適切でないことが多い。そこで本発明では、完全結晶の融解熱ΔH0mの代わりに試料ΔHmを用いることで、結晶化度の代わりに結晶化率として相対的な評価をする。
【0084】
結晶化率は、DSC曲線によって得られる100℃付近の結晶化による発熱量ΔHcと160℃付近の融解による吸熱量とから、下記数式(II)のように定義する。
【0085】
結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ )ΔHm ×100 ・・・(II)
【0086】
上記数式(II)で示される結晶化率は、その試料の結晶化が飽和するときの結晶化度に対して、どれくらいの割合だけその試料が結晶化したかを示す。
【0087】
<成形物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を用いて成形品を製造する方法としては、例えば、圧空成形、フィルム成形、押出成形、及び射出成形等が挙げられ、特に射出成形が好ましい。
【0088】
具体的には、押出成形は、常法に従い、例えば単軸押出機、多軸押出機、タンデム押出機等の公知の押出成形機を用いて行うことができる。
また、射出成形は、常法に従い、例えばインラインスクリュ式射出成形機、多層射出成形機、二頭式射出成形機等の公知の射出成形機を用いて行うことができる。
【0089】
<成形物の用途>
本発明の成形物の用途としては、例えば発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、多極ロッド、電機部品キャビネット、ライトソケット、各種端子板、プラグ又はパワーモジュール等の電気機器部品、センサー、発光ダイオード(LED)ランプ、コネクター、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、変成器、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、フロッピーディスク(登録商標、FD)又は光磁気ディスク(登録商標)等の記憶装置、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDドライブキャリッジ、FDドライブシャーシ、インクジェットプリンタ又は熱転写プリンター等のプリンター、プリンター用インクのケース、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ又はコンピューター関連部品等に代表される電子部品、VTR部品、テレビ部品、テレビ又はパソコン等の電気又は電子機器の筐体、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響製品、オーディオまたはレーザーディスク(登録商標、LD)若しくはコンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷凍庫部品、エアコン部品、タイプライター部品又はワードプロセッサー部品等に代表される家庭用若しくは事務用電機製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター又はタイプライター等に代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ又は時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、集積回路(IC)レギュレーター、ライトデイヤー用ポテンシオメーターベース又は排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボデイー、キャブレタースペサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウエアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房用風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウオーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基盤、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター又は点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、及び包装材料等が挙げられる。
【0090】
加えて、それら電気製品を保護する保護ケースも例示できる。例えば、防水仕様ではないデジタルカメラを収容し、水が付着し得る環境においても使用できるようにするマリンケースと呼ばれることのある防水ケースである。また、それら電気製品を収納保管するための収納ケース、及び収納運搬するための運搬ケースも挙げられる。
また、種々の光ディスク(LD、CD、DVD、HD−DVD(登録商標)、ブルーレイディスク(登録商標)、ミニディスク(登録商標)、光磁気ディスクなど)などの情報記録媒体もあげられる。加えて、これらを収納保管するケース、所謂ジュエルケースも挙げられる。
さらに、歯車、歯車の回転軸、軸受け、ラック、ピニオン、カム、クランク、クランクアーム等の機械機構部品、そしてホイール、車輪等にも適用できる。
【0091】
車載機器用の上記に挙げられたような電機・電子機器類、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトデイヤー用ポテンシオメーターベース又は排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボデイー、キャブレタースペサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウエアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房用風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウオーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基盤、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター又は点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、及び包装材料等が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を適用した樹脂組成物及び成形物である実施例、並びに、比較例及び参考例について説明する。尚、以下において特に示す場合を除き、部は重量部を示す。
【0093】
〔実施例1〕
実施例1では、前記(a)〜(d)として下記処方に示すものを用いた。
<処方>
(a):ポリ乳酸樹脂 50部
三井化学株式会社製
商品名:H100
(b):ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂 30
ポリカーボネート樹脂
帝人化成株式会社製
商品名:パンライトL−1225LL
80℃における曲げ弾性率 2.4 GPa
(c):エラストマー状の樹脂 20
ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体
大日本インキ化学工業株式会社製
商品名:プラメート PD−150
25℃における曲げ弾性率 0.22 GPa
(d):溶性アゾ系レーキ顔料 1
PY191
クラリアントジャパン株式会社製
商品名:PV Fast Yellow HGR
(前記化学式(3)で示される化合物)
【0094】
なお、本発明において曲げ弾性率は、圧縮成形または射出成形によって厚さ1mmの板を作り、機械加工により試験片を切り出して、下記のような測定条件で粘弾性率測定を行い、25℃または80℃における貯蔵弾性率を曲げ弾性率とした。
【0095】
《測定条件》
試験片:長さ50mm×幅7mm×厚さ1mm
測定装置:粘弾性アナライザーRSA−II(レオメトリック社製)
測定ジオメトリー:Dual Cantilever Bending
周波数:6.28(rad/s)
測定開始温度:20(℃)
測定最終温度:100(℃)
昇温速度:5(℃/min)
歪:0.05(%)
【0096】
<製法>
ポリ乳酸樹脂(a)と、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)とからなる樹脂に対し、溶性アゾ系レーキ顔料(d)を混合し、溶融押出混錬機によりブレンドを行い、樹脂組成物を作製した。
得られた樹脂組成物を射出成形機により成形を行い、幅10mm、長さ80mm、高さ4mmの形状の試験片を作製した。このときの金型は100℃とし、溶融した樹脂組成物を成型機にて金型内に充填した後、1分間保持をして結晶化を進行させて試験片を作製した。
【0097】
<HDT測定>
このようにして得られた試験片をISO75のフラットワイズ法に準拠して熱変形温度(HDT)を測定した。
【0098】
<DSC測定>
また、樹脂組成物の結晶化ピーク温度を、示差走査熱量(DSC)により測定し、樹脂組成物の結晶性を評価した。具体的には、樹脂組成物3〜4mgをアルミパンに入れ、測定器内にてこの試料を一旦230℃まで加熱した後、20℃/分の速度で60℃まで温度を低下させながらDSC測定を行う。このとき、100〜140℃近傍で観察される結晶化による発熱ピークのピークトップ温度を結晶化ピーク温度とする。
結晶化ピーク温度が高いほど、よりポリ乳酸分子鎖の運動性が高い高温のうちから結晶核を発生させることを示唆し、かつ結晶化が速やかに進行することを示唆するので、結晶核剤としての効果が高いと言える。その為、結晶化ピーク温度が高いほど、核剤の効果が高いと評価した。
【0099】
〔実施例2〕
実施例2ではエラストマー状の樹脂(c)としてポリブチレンアジペート・コ・テレフタレート(BASFジャパン社製、商品名:エコフレックス、25℃における曲げ弾性率 0.25 GPa)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0100】
〔実施例3〕
実施例2では、溶性アゾ系レーキ顔料(d)として、PR48:4(チバジャパン株式会社製、商品名: IRGALITE Red FBLO、前記化学式(7)で示される化合物)を3部用いた。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0101】
〔実施例4〕
実施例4ではエラストマー状の樹脂(c)としてポリブチレンアジペート・コ・テレフタレート(BASFジャパン社製、商品名:エコフレックス、25℃における曲げ弾性率0.25 GPa)を用いた。それ以外は実施例3と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0102】
〔実施例5〕
実施例5では、実施例1のポリ乳酸樹脂(a)を60重量部、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)を30重量部、エラストマー状の樹脂(c)を10重量部、溶性アゾ系レーキ顔料(d)を3重量部用いた。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0103】
〔実施例6〕
実施例6では、実施例1のポリ乳酸樹脂(a)を70重量部、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)を20重量部、エラストマー状の樹脂(c)を10重量部、溶性アゾ系レーキ顔料(d)を1重量部用いた。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0104】
〔比較例1〕
比較例1では、結晶核剤として、溶性アゾ系レーキ顔料ではない顔料でかつ、ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する作用を有する物質として知られているPY109(チバジャパン株式会社製、商品名:IRGAZIN Yellow 2GLTE)を3部用いた。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0105】
〔比較例2〕
比較例2ではエラストマー状の樹脂(c)としてポリブチレンアジペート・コ・テレフタレート(PBAT)(BASFジャパン社製、商品名:エコフレックス、25℃における曲げ弾性率 0.25 GPaを29部用いた。それ以外は比較例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0106】
〔比較例3〕
比較例3では、前記(a)〜(d)として下記処方に示すものを用いた。
<処方>
(a):ポリ乳酸樹脂 71.4部
三井化学株式会社製
商品名:H100
(b):ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂 なし
(c):エラストマー状の樹脂 20
ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体
大日本インキ化学工業株式会社製
商品名:プラメートPD 150
25℃における曲げ弾性率 0.22 GPa
(d):溶性アゾ系レーキ顔料 1
PY191
クラリアントジャパン株式会社製
商品名:PV Fast Yellow HGR
(前記化学式(3)で示される化合物)
【0107】
処方以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0108】
〔比較例4〕
比較例4ではポリ乳酸樹脂にエラストマー状の樹脂(c)としてポリブチレンアジペート・コ・テレフタレート(PBAT)(BASFジャパン社製、商品名:エコフレックス、25℃における曲げ弾性率 0.25 GPa)を29部用いた。それ以外は比較例3と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0109】
〔比較例5〕
比較例5では、実施例1における溶性アゾ系レーキ顔料(d)の0部とする(処方しない)以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCによる結晶化ピーク温度の測定を行った。また、実施例1と同様にして試験片を作製してHDTを測定した。
【0110】
〔参考例1〕
参考例1では、ポリ乳酸樹脂のみからなる樹脂に対し、3重量部のPY191を混合した。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCにより結晶化ピーク温度を測定した。
【0111】
〔参考例2〕
参考例2では、ポリ乳酸樹脂のみからなる樹脂に対し、3重量部のPR48:4を混合した。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCにより結晶化ピーク温度を測定した。
【0112】
〔参考例3〕
参考例3では、ポリ乳酸樹脂のみからなる樹脂に対し、3重量部のPY109を混合した。それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製し、DSCにより結晶化ピーク温度を測定した。
【0113】
表1に実施例1〜6、比較例1〜5及び参考例1〜3で作製した樹脂組成物の組成を示す。
【0114】
【表1】

【0115】
また、参考例1〜3は、単独のポリ乳酸樹脂に結晶核剤を添加した例であり、これらについてDSC測定を行い、結晶化ピーク温度(Tc)と、ポリ乳酸成分の単位質量当たりの発熱エンタルピーを表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
表2によれば、参考例1〜3のいずれにおいても、ポリ乳酸に対する結晶核剤の効果を示す指標である結晶化ピーク温度が120℃以上であり、かつ100〜150℃の領域に、発熱エンタルピー量が23J/g以上の発熱ピークが見られる。これらのことから、参考例1〜3で用いたPY191、PR48:4及びPY109のいずれにおいてもポリ乳酸に対して結晶核剤としての効果があると判断した。
【0118】
次に、表3に、実施例1〜6及び比較例1〜5で作製した樹脂組成物の結晶化ピーク温度(Tc)と、成形物のHDT測定の結果、及びこれらの判定結果を示す。
ここで、表3の判定のうち、結晶性の判定は、DSC測定において結晶化ピーク温度(Tc)が115℃以上であるものを結晶性が良いものとして○と表記し、それ以外を×で表記した。また、表3の判定のうち、耐熱性の判定は、HDT測定において成形物のHDTが80℃以上のものを耐熱性があるとして○と表記し、それ以外を×で表記した。さらに、結晶性及び耐熱性のいずれも○が付いている例を総合評価として○と表記し、少なくともいずれか一方に×が付いている例を総合評価として×と表記した。
【0119】
【表3】

【0120】
表3によれば、実施例1〜6の成形物は、比較例3〜4と比較してHDTが高いことから、高い耐熱性を有することがわかる。また、実施例1〜4の成形物は、比較例1〜2と比較してTcが高いことから、ポリ乳酸の結晶性に優れることがわかる。すなわち、成形時の結晶化時間短くて済む、つまり成形サイクルが短くできることを示唆している。また、実施例1〜6の樹脂組成物は、いずれも耐衝撃性を有していた。
【0121】
本発明の樹脂組成物及び成形物によれば、ポリ乳酸樹脂の結晶化が促進されてなると共に、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有する。従って、本発明の樹脂組成物及び成形物は、ポリ乳酸樹脂を各種電気製品の筐体や梱包材等の成形物に利用することができる。例えば電子機器筐体等のような、内部の電源や駆動源により発熱するようなものを具備しているものに用いた場合においても、実用上充分な材料物性が実現できる。さらに、結晶化にかかるコストや時間を縮小することができ、生産性向上につながる。
【0122】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によると、ポリ乳酸樹脂と、エラストマー状の樹脂と、ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂との複合体中のポリ乳酸樹脂に対しても結晶化を促進することができ、その成形物の耐熱性を向上させ、ポリ乳酸樹脂を適用できる用途を格段に拡大し、その普及に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(a)と、
前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、
エラストマー状の樹脂(c)と、
前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)と
を含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)が、80℃における曲げ弾性率が1000MPa以上の樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記80℃における曲げ弾性率が1000MPa以上の樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、及びアモルファスポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エラストマー状の樹脂(c)が、25℃における曲げ弾性率が1000MPa以下の樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記25℃における曲げ弾性率が1000MPa以下の樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸/ジオール・ジカルボン酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、アミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアモルファスポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が下記の一般式(1)で示される請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】


[式中、R1およびR2は同一又は異なり、−SO3または−COOを示し、R3、R4、R5およびR6は同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、シアノ基またはアセチル基を示す。Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【請求項7】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が下記の一般式(2)で示される請求項6に記載の樹脂組成物。
【化2】


[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【請求項8】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が、下記の化学式(3)で示される請求項7に記載の樹脂組成物。
【化3】

【請求項9】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が下記の一般式(4)で示される請求項1に記載の樹脂組成物。
【化4】


[式中、R7は−SO3または−COOを示し、R8およびR9は同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、シアノ基またはアセチル基を示す。Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【請求項10】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が下記の一般式(5)で示される請求項9に記載の樹脂組成物。
【化5】


[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【請求項11】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が、下記の化学式(6)で示される請求項10に記載の樹脂組成物。
【化6】

【請求項12】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が、下記の化学式(7)で示される請求項10に記載の樹脂組成物。
【化7】

【請求項13】
前記溶性アゾ系レーキ顔料が、下記の一般式(8)で示される請求項1に記載の樹脂組成物。
【化8】


[式中、Mは、二価の塩を取りうる金属元素である。]
【請求項14】
ポリ乳酸樹脂(a)と、前記ポリ乳酸樹脂に比して耐熱性に優る樹脂(b)と、エラストマー状の樹脂(c)と、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する結晶核剤(d)とを含有し、前記結晶核剤が溶性アゾ系レーキ顔料である樹脂組成物が成形されてなり、
前記ポリ乳酸樹脂の結晶化率が40〜100%である、成形物。

【公開番号】特開2010−132816(P2010−132816A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311407(P2008−311407)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】