説明

樹脂組成物及び樹脂成形品

【課題】機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂を含有する樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた成形品としては、分解性樹脂からなるバインダー繊維と、天然繊維とを混合してなる繊維複合材において、天然繊維表面上に加水分解防止剤、望ましくはカルボジイミドを被覆し、耐加水分解性を効果的に高めた生分解性樹脂繊維と天然繊維の複合材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、生分解性を有する有機高分子化合物と、植物繊維と、生分解性を有する有機高分子化合物の加水分解抑制剤とを含有する複合組成物、及びこれを用いた成形品が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
更に、優れた機械的強度と耐熱性とを有し、成形性と成形品の色相とが優れたポリ乳酸樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−232153号公報
【特許文献2】特開2006−63187号公報
【特許文献3】特開2008−150599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決された。
即ち、請求項1に係る発明は、
(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする樹脂組成物である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記(A)生分解性樹脂が、少なくとも、ポリ乳酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸との共重合体、ポリブチレンサクシネートから選択される1種であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記(C)加水分解抑制剤が、カルボジイミド化合物、及びイソシアネート系化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物である。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記(D)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤、から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の樹脂組成物である。
【0010】
請求項5に係る発明は、
(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、2、3、及び4に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた樹脂組成物が提供される。
請求項5に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた樹脂成形品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする。
樹脂材料の難燃化のためには、従来、ハロゲン系、リン系、無機金属系の難燃材などを混合する必要があったが、この場合機械物性が低下する。特に生分解性樹脂は、分解温度が低く、難燃化の要求が高かった。前記特許文献1乃至3の提案は、機械物性の向上を目的としたものであるが、難燃性については改善の余地がある(特に事務機器部品などに使用する場合には)。
【0013】
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することにより、生分解性、及び機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた樹脂組成物が提供される。これは(D)酸化防止剤を含有させることで、本実施形態に係る樹脂組成物が燃焼しても、熱分解により発生したラジカルを捕捉することで分解速度が抑制され、(C)加水分解抑制剤を含有させることで、分解した樹脂が再結合し、分解による可燃ガスの発生を抑え、(B)天然繊維を含有させることで、高いチャー形成及び熱吸収を行うことで、機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させた。(B)天然繊維は、燃焼した場合、効率よくすす(チャー)を生成し、発生する可燃性ガスの拡散を防ぎ、さらに断熱するという機能があり、難燃性の向上に寄与する。
【0014】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の構成等について説明する。
(A)生分解性樹脂
(A)生分解性樹脂は、生分解性を有している樹脂であればよく、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン変性樹脂、セルロース変性樹脂等が用いられ、少なくとも、ポリ乳酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸との共重合体、ポリブチレンサクシネートから選択される1種であることが好ましく、この中でも入手が容易で成形性に優れるポリ乳酸がより好ましい。
【0015】
(A)生分解性樹脂は、本実施形態に係る樹脂組成物のマトリックス樹脂であり、樹脂組成物における含有量は、60質量%以上90質量%以下であることが好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。前記(A)生分解性樹脂の含有量が60質量%未満であると、混練や成形時の加工性が悪化するとともに、燃焼時のすすの発生が速くなり難燃性を低下させる場合があり、90質量%を超えると、機械的物性が低下し、難燃性も悪化する場合がある。
【0016】
(B)天然繊維は、天然由来(植物由来等)の繊維であれば限定されず、麻(亜麻、ラミー、マニラ麻、サイザル麻、ケナフ、ジュート)、竹、綿、パルプ等が挙げられ、この中でも、引張強度などの機械的物性が高い点で、ラミー、ケナフ、竹が好ましい。
【0017】
前記(B)天然繊維の樹脂組成物における含有量は、10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。前記(B)天然繊維の含有量が10質量%未満であると、荷重たわみ温度や曲げ特性等の機械的物性が低下し、難燃性も悪化する場合があり、40質量%を超えると、混練や成形時の加工性が悪化するとともに、燃焼時のすすの発生が速すぎて難燃性を低下させる場合がある。
【0018】
(C)加水分解抑制剤は、カルボキシル末端、または水酸基をもつ末端と反応する材料であれば限定されず、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物が好ましく挙げられる。カルボジイミド化合物としては、例えば2,2,6,6−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド等が挙げられる。
【0019】
また、イソシアネート化合物としては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物等が挙げられる。
【0020】
前記(C)加水分解抑制剤の樹脂組成物における含有量は、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。前記(C)加水分解抑制剤の含有量が0.5質量%未満であると、耐久性が悪化し、さらに燃焼時の難燃性を低下させる場合があり、5質量%を超えると、機械的物性と難燃性が低下する場合がある。
【0021】
前記(D)酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を単独、或いはヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤もしくはイオウ系酸化防止剤が挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤が好ましく、これらのうちの複数を混合して用いることがより好ましい。また、前記(D)酸化防止剤としては、高分子量タイプのものが好ましく、分子量が500以上2000以下のものが好ましい。
【0022】
前記(D)酸化防止剤の樹脂組成物における含有量は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることが更に好ましい。前記(D)酸化防止剤の含有量が0.01質量%未満であると、加工中の材料の劣化による機械的物性の低下、燃焼時の難燃性の低下を引き起こす場合があり、5質量%を超えると、燃焼時の難燃性の低下を引き起こす場合がある。
【0023】
本実施形態に係る樹脂組成物には、通常配合される安定剤などを配合させてもよい。これらは特に限定されるものではないが、例えば、橋掛け剤、橋掛け促進剤、橋掛け促進助剤、活性剤、橋掛け抑制剤、老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、補強剤、強化剤、発砲剤、発泡助剤、安定剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、変性剤、着色剤、カップリング剤、防腐剤、防カビ剤、改質剤、接着剤、付香剤、重合触媒、重合開始剤、重合禁止剤、重合抑制剤、重合調整剤、結晶核剤、相溶化剤、分散剤、消泡剤などが挙げられる。
これらは、単独もしくは2つ以上で複合して使用してもよい。
【0024】
本実施形態に係る樹脂組成物は、以上述べた(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤、及び必要に応じて安定剤などを混合し、これを混練機で混練することにより得られる。
上記混練機としては、特に制限されないが、3本ロールや2本ロールを用い、せん断応力と位置交換の繰り返しによって、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を分散させる方法、及びニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸押出機、2軸押出機を用い、分散機壁面の衝突力やせん断力によって分散させる方法が、高い分散性を得る観点から好ましく用いられる。
【0025】
<樹脂成形品>
本実施形態に係る樹脂成形品は、(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする。
本実施形態に係る樹脂成形品は、既述した本実施形態に係る樹脂組成物を成形機により成形することで得られる。
【0026】
本実施形態に係る樹脂成形品を成形する成形機としては、プレス成形機、射出成形機、モールド成形機、ブロー成形機、押出成形機、及び紡糸成形機のうちから選択される1以上の成形機が用いられる。したがって、これらの1つにより成形を行ってもよいし、1つの成形機により成形を行った後、他の成形機により続けて成形を行ってもよい。本実施形態においては、射出成形機を用いることが、生分解性及び機械的強度を維持しつつ、難燃性を向上させたという効果が発揮される成形品が得られる点で好ましい。
【0027】
射出成形機を用いて本実施形態に係る樹脂成形品を成形する場合の成形条件(シリンダー温度、金型温度等)は、マトリックス樹脂である(A)生分解性樹脂の一般的な条件で構わない。
【0028】
成形された本実施形態に係る樹脂成形品の形状は、シート状、棒状、糸状など特に限定されるものではなく、また、その大きさも制限されるものではない。
【0029】
本実施形態に係る樹脂成形品は、例えばシート状成形物として包装材及び建材などに、また構造物状の成形物として複写機及びプリンターなどの筐体、内部部品等のOA機器部品などに用いてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本実施形態について実施例により具体的に説明する。但し、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1乃至7、比較例1乃至7>
表1に示す組成(単位は質量部)の化合物を2軸混練装置(東洋精機、ラボプラストミル)にて、表1に示すシリンダ温度で混練して、それをペレタイザー(東洋精機、PETE−C型)によりカットすることにより、樹脂組成物ペレットを得た。
得られたペレットを射出成形機(日精樹脂工業製、NEX50)にて、表1に示すシリンダ温度、金型温度で、ISO多目的ダンベル試験片、UL試験片(厚み2mm)を成形した。得られた試験片を用いて以下の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0031】
尚、表1に示す組成に記載の化合物の詳細は以下の通りである。
(A)生分解性樹脂
・PLA−A
ポリ乳酸、テラマックTE2000(ユニチカ社製)
・PLA−B
ポリ乳酸、テラマックTE7000(ユニチカ社製)
・PHBV
3−ヒドロキシ酪酸(HB)と3−ヒドロキシ吉草酸(HV)との共重合体、バイオポール(日本モンサント社製)
・PBS
ポリブチレンサクシネート、GSPla(三菱化学社製)
【0032】
(B)天然繊維
・ケナフ(自社作製)
・ラミー(自社作製)
・竹(自社作製)
【0033】
(C)加水分解抑制剤
・カルボジライト
カルボジライトLA−1(日清紡社製)
・カルボジイミド変性ジイソシアネート
ミリオネートMTL(日本ポリウレタン社製)
【0034】
(D)酸化防止剤
・フェノール系A
irganox245(チバジャパン社製)
・フェノール系B
irganox1010(チバジャパン社製)
・リン系
irganox168(チバジャパン社製)
【0035】
【表1】

【0036】
(評価)
[難燃性評価]
UL試験片を用いて、UL94規定に従いV試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0037】
[耐熱性評価]
ISO多目的ダンベル試験片を用いて、ISO75に従い、DTUL測定装置(東洋精機製、HDT−3)にて1.80MPa荷重時の荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。その結果を表2に示す。
【0038】
[曲げ弾性率評価]
ISO多目的ダンベル試験片を用いて、ISO178に従い、曲げ特性評価装置(島津製作所製、精密万能試験機オートグラフAG−IS 5kN)にて、ISO多目的ダンベル試験片が破壊又は10%以上のたわみに達するまで2mm/min.の速度でたわませ、その間の試験片に負荷される荷重を測定した。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)生分解性樹脂が、少なくとも、ポリ乳酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸との共重合体、ポリブチレンサクシネートから選択される1種であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)加水分解抑制剤が、カルボジイミド化合物、及びイソシアネート系化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤、から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(A)生分解性樹脂、(B)天然繊維、(C)加水分解抑制剤、及び(D)酸化防止剤を含有することを特徴とする樹脂成形品。

【公開番号】特開2010−229343(P2010−229343A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79958(P2009−79958)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】