説明

樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形してなる成形体

【課題】流動性を維持させつつ、機械的強度や耐衝撃性が向上され、さらに環境に配慮された樹脂組成物、該樹脂組成物を成形してなる成形体を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の質量比が(A)/(B)=10/90〜90/10であり、さらにポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を0.1〜20質量部含有する樹脂組成物であって、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)はアクリル系重合体60質量%以上含有するグラフト共重合体であり、かつエポキシ価が0.1〜2meq/gであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性を維持させつつ、従来のポリ乳酸樹脂と比較して機械的強度や耐衝撃性が向上され、さらに環境に配慮された樹脂組成物に関する。さらに、該樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性を有する合成高分子(生分解性高分子)の研究開発が盛んに進められている。該生分解性高分子は、昨今の環境保全および廃プラスチック処理問題と関連して、農林業用分野や一般包装用分野等の幅広い分野で応用されつつある。生分解性高分子としては脂肪族ポリエステルが一般に知られており、中でもガラス転移点が高く、結晶性を有し、さらに、曲げ強度などの機械的強度や耐衝撃性に優れたポリ乳酸樹脂が注目されている。ポリ乳酸樹脂は生分解性を有することに加え、サツマイモやトウモロコシなどの植物由来原料から合成可能な樹脂であり、焼却する際に二酸化炭素の総量を増加させないため、その注目度はさらに高くなっている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、他のエンジニアリングプラスチックと比較するとガラス転移温度が低いため耐熱性に劣るという問題がある。耐熱性を付与するための方法としては、結晶性を制御することにより結晶化度を向上させる方法が挙げられるが、そのためには、射出成形の際に金型温度や成形サイクル時間などの操業時間を限定しなければならない場合がある。さらに、ポリ乳酸樹脂は硬くて脆いうえ、曲げ強度などの機械的強度や耐衝撃性についても、ポリオレフィン系樹脂などの他の樹脂と比較して劣るなど改善すべき点が多く見受けられる。
【0004】
上記のように、ポリ乳酸樹脂は、成形用材料として使用する場合には機械的強度や生産面の制約を受けるため、該ポリ乳酸樹脂を単独で使用することは一般的に困難であるという問題点がある。
【0005】
上記のようなポリ乳酸樹脂の問題点を解決するため、ポリ乳酸樹脂と、耐熱性を有し、機械的強度や耐衝撃性に優れた各種エンジニアリングプラスチックとのアロイが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、ポリ乳酸樹脂などの脂肪族ポリエステルにポリアミド樹脂を配合した樹脂組成物が記載されている。特許文献2では、ポリ乳酸樹脂とその他のヒドロキシカルボン酸と、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有した樹脂組成物が記載されている。
【0007】
このような樹脂組成物においては、ポリ乳酸樹脂を単独で用いた場合と比較して機械的強度や耐衝撃性が向上している。しかしながら、各種プラスチックを金属の代替材料として用いることにより、軽量化を図ることも検討されており、その期待も大きくなってきている。すなわち、密度の大きい金属材料からプラスチック材料への代替によって、自動車などにおける燃費の向上、省エネルギー化が可能となり、さらに二酸化炭素削減に貢献できるという利点がある。かかる場合に、金属の代替となり得るプラスチック材料は、耐熱性のみではなく機械的強度や耐衝撃性を有することが非常に重要となるが、上記いずれの特許文献に記載の発明においても、機械的強度や耐衝撃性の向上は不十分であった。
【0008】
また、特許文献3および特許文献4では、ポリ乳酸樹脂などの脂肪族ポリエステル樹脂に、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)や相溶化剤としての反応性官能基を有した添加剤を用いることが記載されている。かかる場合においては、機械的強度は向上しているが、ポリマーが架橋されることにより流動性が低下し、成形性や生産性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−238775号公報
【特許文献2】特許第3279768号公報
【特許文献3】特開2006−348246号公報
【特許文献4】特開2007−99964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するものであり、流動性を維持させつつ機械的強度や耐衝撃性を改善した樹脂組成物および該樹脂組成物から得られる成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を含有する樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の質量比が(A)/(B)=10/90〜90/10であり、さらにポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を0.1〜20質量部含有する樹脂組成物であって、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)はアクリル系重合体60質量%以上含有するグラフト共重合体であり、かつエポキシ価が0.1〜2meq/gであることを特徴とする樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)が反応性官能基を有することを特徴とする(1)の樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)がポリアミド樹脂および/またはポリエステル樹脂であることを特徴とする(1)の樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)がアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とのアロイから選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする(1)の樹脂組成物。
(5)ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、充填材(D)を1〜150質量部含有する(1)〜(4)いずれかの樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)いずれかの樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境への負荷が低く、流動性を維持しながらも非常に高い機械的強度(曲げ特性)や耐衝撃性を有した樹脂組成物を提供することができる。さらに、該樹脂組成物を各種成形体として用いることで、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、容器や雑貨、筐体などの種々の用途に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を含有するものである。
【0015】
上記ポリ乳酸樹脂(A)は、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)との混合物、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)との共重合体、ステレオコンプレックスなどが挙げられる。上記の中でも、耐熱性、成形性の観点から、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸が好適に用いられる。ポリ乳酸樹脂(A)としては、トウモロコシなどの植物由来のポリ乳酸であれば、より環境負荷の低い材料となるため好ましい。
【0016】
上記ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸は、光学純度によってその融点が異なるが、本発明においては、樹脂組成物を成形して得られる成形体の機械的強度、耐衝撃性や耐熱性を考慮すると、160℃以上であることが好ましい。上記融点を160℃以上とするためには、ポリ(D−乳酸)の割合を約3モル%未満とすればよい。なお、通常(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸の融点の上限は、170℃程度である。
【0017】
ポリ乳酸樹脂は公知の溶融重合法により、あるいは、これにさらに固相重合法を追加して製造される。
本発明に使用されるポリ乳酸樹脂には、架橋ないし分岐構造が導入されていてもよい。架橋ないし分岐構造を導入することで、耐熱性が向上するという利点がある。架橋の導入方法としては、過酸化物を添加する方法、過酸化物とラジカル重合性化合物を併用する方法、放射線を照射する方法、多官能性化合物を架橋剤として使用する方法等が挙げられる。分岐構造を導入する方法としては、3官能以上のモノマーをL−乳酸やD−乳酸と共重合する方法、マクロモノマーをポリ乳酸にグラフト重合する方法などが挙げられる。
【0018】
過酸化物としては、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ラジカル重合性化合物としては、グリシジルジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
多官能性化合物としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール部分鹸化物、セルロースジアセテート等が挙げられる。
3官能以上のモノマーとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、リンゴ酸、グリセリン酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
マクロモノマーとしては、ポリ乳酸樹脂中に存在する不整炭素へ結合し得る化合物であれば特に限定されず、1−ヘキセンなどのα−オレフィン等が挙げられる。
【0020】
ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)は、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスルフォン樹脂、アクリロニトリル樹脂・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂(以下、単に「ABS樹脂」と称する場合がある)、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0021】
ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)は、後述するエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)中のエポキシ基との反応性の観点から、反応性官能基を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。反応性官能基を有する熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸樹脂(A)とアロイ化した場合に機械的強度や耐衝撃性を改善できるものであれば特に限定されないが、例えば、分子内に反応性官能基を有する重付加系熱可塑性樹脂や、分子鎖末端に反応性官能基を有する重縮合系熱可塑性樹脂が挙げられる。汎用性や機械的強度、耐衝撃性向上効果の観点から、重縮合系熱可塑性樹脂が好ましい。
【0022】
分子内に反応性官能基を有する重付加系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等の重付加系熱可塑性樹脂に、種々の反応性官能基を導入させたものが挙げられる。導入される反応性官能基としては、水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基等が挙げられる。上記のなかでも、後述するエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)中のエポキシ基との反応性の観点から、アミノ基を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0023】
分子内に反応性官能基を有する重縮合系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタムあるいは、ジアミンとジカルボン酸から構成されるアミド結合を有する重合体である。ポリアミド樹脂は通常公知の溶融重合法で製造される。
【0025】
ポリアミド樹脂の構成成分であるアミノ酸の例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられる。ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。ジアミンの例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロへキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
【0026】
本発明で用いられるポリアミド樹脂は、例えば、ポリカプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリカプラミド/ポリウンデカミドコポリマー(ポリアミド6/11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリカプラミド/ポリドデカミドコポリマー(ポリアミド6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、デカメチレンセバカミド(ポリアミド10101)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6/6T)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMTD)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)およびこれらの混合物、またはこれらの共重合体等が挙げられる。中でも、ポリ乳酸樹脂の加工温度を考慮すると、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11およびポリアミド1010が特に好ましい。さらに、ポリアミド11とポリアミド1010は、天然ひまし油を原料として製造でき、ポリ乳酸樹脂と同様、植物由来原料からなるため、環境負荷の観点からは特に好ましい。ポリアミド11、ポリアミド1010樹脂の製造方法は特に制限されず、公知の方法に従って行うことができる。また、ポリアミド樹脂を製造する際には、各種の触媒、熱安定剤等の添加剤を使用してもよい。
【0027】
ポリアミド樹脂の相対粘度は、加工性や機械物性の観点から、2.0以上3.5以下であることが好ましく、2.3以上3.2以下であることがより好ましい。なお、本発明において、相対粘度は、溶媒として96%硫酸を用い、温度25℃、濃度1g/dlの条件で求めることができる。
【0028】
ポリアミド樹脂の分子鎖末端は、アミノ末端基濃度が100mmol/kg以下であることが好ましく、70mmol/kg以下であることがさらに好ましい。また、カルボキシル末端基濃度が400mmol/kg以下であることが好ましく、300mmol/kg以下であることがさらに好ましい。アミノ末端基濃度およびカルボキシル末端基濃度が
上記範囲内であれば、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)中のエポキシ基との反応が進行し、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が向上する。一方、ポリアミド樹脂のアミノ末端基濃度が100mmol/kgを超えるか、またはカルボキシル末端基濃度が400mmol/kgを超えると、得られる樹脂組成物が熱分解を起こしたり、ゲル化が発生したりするため好ましくない。なお、本発明において、ポリアミド樹脂のアミノ末端基濃度は、溶媒としてm−クレゾールを用い、温度65℃、濃度2.5g/dlで加熱溶解させた後、パラトルオールスルホン酸で中和滴定をして求めることができる。さらに、本発明において、ポリアミド樹脂のカルボキシル末端基濃度は、溶媒としてベンジルアルコールを用い、温度180℃、濃度2.5g/dlで加熱溶解させた後、33.3mol/lのアルカリ性ベンジルアルコールで中和滴定をして求めることができる。
【0029】
ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分および/またはそのエステル形成誘導体とジオール成分から得られる重合体、2官能オキシカルボン酸化合物から得られる重合体、またはカプロラクトン化合物から得られる重合体等が挙げられる。ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、α−ドデカンジカルボン酸、ω−ドデカジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、オクタデセニルジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロへキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレン時カルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、および上記ジカルボン酸のメチルエステル等の形成誘導体などがある。これらは単独でも、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0030】
上記の中でも、ポリエステル樹脂の耐熱性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸およびこれらのエステル形成誘導体が好ましい。
【0031】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。特に、ポリエステル樹脂の加工性の観点から、エチレングリコール又は1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0032】
また、カプロラクトン等のラクトン化合物の他、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸などの2官能脂肪族オキシカルボン酸化合物などを適宜組み合わせて使用することができる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール類残基単位とカーボネート残基単位とからなるものである。ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´−ジチオフェノール、4,4´−ジヒドロキシ−3,3´−ジクロロジフェニルエーテル、4,4´−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。その他にも、米国特許第2,999,835号明細書、第3,028,365号明細書、第3,334,154号明細書および第4,131,575号明細書に記載されているジフェノールなどが使用できる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種以上組み合わせて使用してもよい。カーボネート残基単位を導入するための前駆物質としては、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0034】
ABS樹脂は、脂肪族共役ジエン系単量体を少なくとも含む単量体を重合して得られるゴム状重合体5〜70質量%の存在下に、シアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体を含むグラフト重合用単量体混合物30〜95質量%をグラフト重合してなるグラフト共重合体である。
【0035】
ここで用いられる脂肪族共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。中でも、機械的強度、耐衝撃性向上の観点から、1,3−ブタジエンを好ましく用いることができる。脂肪族共役ジエン系単量体の配合量は、ゴム状重合体を得るために用いられる単量体の合計を100質量部として、30〜100質量部であることが好ましい。この割合を30質量部以上とすることで、良好な耐衝撃性を有するグラフト共重合体を得ることができる。この割合が30質量部未満であると耐衝撃性向上の効果が低下してしまう場合がある。
【0036】
ゴム状重合体を得るために用いられる単量体において脂肪族共役ジエン系単量体と他の単量体とを併用する場合に、他の単量体として、脂肪族ジエン共役ジエン系単量体と共重合可能な各種単量体を用いることができる。その具体例としては、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体等が挙げられる。
【0037】
シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、剛性や耐衝撃性の観点から、アクリロニトリルが好ましい。芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のビニルトルエン類、p−クロルスチレン等のハロゲン化スチレン類、p−t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルナフタレン類等が挙げられる。なかでも、成形性の観点から、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0038】
グラフト重合用単量体として、シアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体以外に、さらに必要に応じて、他の単量体を併用することもできる。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等の不飽和ジカルボン酸のイミド化合物等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
グラフト重合用単量体混合物に含まれる単量体の使用割合は、クリープ特性や流動性の観点から、グラフト重合体用単量体混合物全体の質量を100として、シアン化ビニル系単量体/芳香族ビニル系単量体/その他の単量体(質量比)=10〜50/50〜90/0〜40であることが好ましく、15〜45/55〜85/0〜20であることがより好ましい。
【0040】
ABS樹脂の製造において、ゴム状重合体とグラフト重合用単量体混合物との比率は、上述のように、ゴム状重合体/グラフト重合用単量体混合物(質量比)=5/95〜70/30であることが好ましく、10/90〜65/35であることがより好ましい。ゴム状重合体が5質量%未満の場合は、樹脂中のゴム状重合体の比率が低くなり過ぎるため、耐衝撃性が低下する。一方、70質量%を超えると、ゴム状重合体へのグラフト率が低くなり過ぎるため、樹脂中のゴム状重合体の分散が不十分となり、耐衝撃性向上を発現し得ない場合がある。
【0041】
ABS樹脂の重合時には金属触媒を用いることもできる。金属触媒は、生分解性ポリ乳酸樹脂の加水分解を促進し、耐質熱性能を低下させる場合があるため、重合後には該金属触媒を適宜な方法で除去することが好ましい。
【0042】
上記のポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)は単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)との質量比は、(A)/(B)=10/90〜90/10であることが必要であり、15/85〜80/20であることが好ましく、25/75〜70/30であることがより好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)が10質量%未満の場合、環境負荷低減の観点から好ましくない。また、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)が10質量%未満の場合は、ポリ乳酸樹脂(A)の耐熱性、機械的強度や耐衝撃性に劣るため好ましくない。
【0044】
エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)は、分子内に1個以上のエポキシ基を含んでなる熱可塑性樹脂である。エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を用いることにより、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の相溶性を向上させることができる。そして、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)としてポリアミド樹脂やポリエステル樹脂を用いた場合には、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とからなる樹脂組成物の機械的強度(曲げ強度)と耐衝撃性を向上することができる。ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)としてポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイを用いた場合には、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とからなる樹脂組成物の耐衝撃性をより向上させることができる。エポキシ基の導入方法は特に限定されないが、エポキシ化合物を共重合する方法が好ましい。
【0045】
さらに、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)はその分子構造内にアクリル系重合体を有しているものである。ポリ乳酸樹脂との相溶性に優れたアクリル系化合物を含むアクリル系重合体を有することで、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)がより良好に相溶し、機械的強度や耐衝撃性向上の効果が顕著に大きくなるため、必要である。
【0046】
さらには、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)は、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性の観点から、グラフト共重合体であることが必要である。グラフト共重合体を構成する主鎖および側鎖の構造は、両者にエポキシ基および/またはアクリル系重合体を有していればよく、主鎖にアクリル系重合体およびエポキシ基を含み、側鎖にアクリル系重合体を含んでいると特に好ましい。
【0047】
上記エポキシ化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のグリシジルエーテル化合物、安息香酸グリシジルエステル、p−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸グリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物等が挙げられる。なかでも、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性の観点から、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましく用いられる。これらエポキシ化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
本発明において、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の構成成分として、アクリル系重合体の割合は、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)100質量%に対して、60質量%以上であることが必要であり、75質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。アクリル系重合体の割合が60質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)との相溶性が悪化し、良好な機械的強度改善や耐衝撃性向上効果が発現しない。
【0049】
エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)のエポキシ価は、0.1〜2meq/gであることが必要であり、0.5〜1meq/gであることが好ましい。エポキシ価が0.1〜2meq/g未満では、機械的強度や耐衝撃性の向上が不十分である、また、2meq/gを超えると、エポキシ基が過度に反応することにより、得られる樹脂組成物の流動性が低下する。
【0050】
本発明において、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが必要であり、0.5〜15質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましい。含有量が0.1質量部未満であると機械的強度や耐衝撃性の向上が不十分であり、一方、20質量部を超えると機械的強度や耐衝撃性が低下したり、また得られる樹脂組成物の流動性が低下することにより生産性に劣ったりするため、好ましくない。
【0051】
本発明の樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)として、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂を用いた場合には、該樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、6kJ/m以上であることが好ましく、10kJ/m以上であることがより好ましい。また、本発明の樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)として、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイを用いた場合には、該樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、15kJ/m以上であることが好ましく、30kJ/m以上であることがより好ましい。なお、本発明において、シャルピー衝撃強度は、ISO 179に従って測定されるものである。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、充填材(D)を含有してもよい。充填材(D)を含有することにより、樹脂組成物の機械的強度向上の効果がさらに高まる。
充填材(D)としては、板状や粒子状の有機および無機フィラーを用いることができる。なかでも、補強効果向上の観点からは、無機および有機化合物からなる繊維状充填材が好ましい。充填材(D)の具体例としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト等の無機繊維状充填材や、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維などの有機繊維状充填材が挙げられる。
【0053】
本発明において、充填材(D)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、1〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましい。含有量が1質量部未満では十分な機械的強度向上効果が得られない場合があり、150質量部を超えて含有させた場合は、反対に機械的強度が低下したり、混練操業性が大幅に低下したりする場合があるので好ましくない。
【0054】
本発明の樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、結晶核剤などの添加剤を添加することができる。
【0055】
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤(例えば、リン系難燃剤、無機系難燃剤)等が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)、窒素含有化合物(例えば、メラミン系化合物、グアニジン系化合物など)、無機系化合物(例えば、硼酸塩、モリブデン含有化合物など)が挙げられる。
【0056】
結晶核剤としては、無機結晶核剤、有機結晶核剤が挙げられる。無機結晶核剤としては、タルク、カオリン等が挙げられる。有機結晶核剤しては、ソルビトール化合物、安息香酸および該安息香酸の化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。
【0057】
なお、本発明の樹脂組成物に上記の添加剤を混合する方法は特に制限されない。
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されるものではないが、各成分を通常の加熱溶融後、例えば、従来公知の一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いる混練法によって混練することができる。また、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも効果的である。なかでも、混練状態を良好にする観点から、特に二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は、(主成分とされる樹脂の融点)〜(主成分とされる樹脂の融点+100)℃の範囲が好ましい。混練温度が上記下限未満であると、押出機が過負荷となり、ベントアップなどの不具合が生じる場合がある。一方、混練温度が上記上限を超えると、樹脂の分解や黄変が起こったり、低分子量のエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)が揮発したりする場合がある。溶融混練された樹脂組成物を採取する方法は特に限定されるものではないが、その後、成形に付することを考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
【0058】
溶融混練する際には、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)およびエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)をすべて一括でドライブレンドしてもよいし、またはそれぞれを個別のフィーダーを用いて溶融混練してもよい。また、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)との反応効率を高めるために、予めポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を溶融混練することにより反応させ、これとポリ乳酸樹脂(A)とを溶融混練する2段混練を行ってもよい。
【0059】
充填材(D)を配合する場合の供給方法としては、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)およびエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)と同時にドライブレンドにする方法が挙げられる。繊維状の充填材を用いる場合は、繊維に過度の負荷がかかり繊維の断裂が起こる可能性があるため、押出機の途中からサイドフィードすることが好ましい。
【0060】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。なかでも、成形加工性の観点から、射出成形法が好ましく、一般的な射出成形法の他、ガス射出成形、射出プレス成形等も用いられる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例としては、シリンダ温度をポリ乳酸樹脂(A)の融点以上、またはポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の流動開始温度以上、好ましくは180〜280℃、より好ましくは190〜250℃の範囲とするのが適当である。シリンダ温度が低すぎると流動性が低くなるため完成品にショートが発生するなど操業性が不安定になる場合や、過負荷に陥りやすいという問題がある。逆にシリンダ温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度低下や、着色する等の問題が発生しやすい。
【0061】
本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、まず押出成形法によりシート、発泡シートまたはパイプとして加工し、下敷き、ファイル、農業用・園芸用・工業用の硬質または軟質のパイプやパイプカバー等に応用できる。さらにこれらのシート類に真空成形、圧空成形、および真空圧空成形等の深絞り成形、打ち抜き成形などを行うことで、食品用容器、農業用・園芸用・工業用容器、各種雑貨、ブリスターパック容器、プレススルーパック容器、折りたたみ式緩衝材、各種建材、各種パッキン、仕切り板や標識、掲示板、自動車内装材、マネキン、靴底、防止のつば、各種心材などを製造することができる。
【0062】
射出成形法により製造される成形品の形態は特に限定されず、具体例としては、皿、椀、鉢、箸、スプーン、フォーク、ナイフ、お盆等の食器関連;流動体用容器(乳製品や清涼飲料水及び酒類等の飲料用コップ及び飲料用ボトル;醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器、シャンプー・リンス等の容器、化粧品用容器、農薬用容器等)、容器用キャップ、定規、筆記具、ケース、いす等の事務用品、コンテナーなどの各種収納容器;台所用三角コーナー、ゴミ箱、洗面器、歯ブラシ、櫛、ハンガー等の日用品;ファスナー・ボタンなどの服飾関連品;植木鉢、育苗ポット等の農業・園芸用資材;プラモデル等の各種玩具類;エアコンパネル、冷蔵庫トレイ、パソコン、パソコン周辺機器、携帯電話、AV機器などの各種筐体等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、ドアトリム等の自動車用樹脂部品;さお・ルアーなどのつり用品、各種ラケット、プロテクターなどのスポーツ用品;各種建材が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例ならびに比較例での使用材料および評価方法は次の通りである。
【0064】
(1)材料
・ポリ乳酸樹脂(A)
A−1:ユニチカ社製 商品名「テラマック TE−2000」
・ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)
ポリアミド11樹脂(B−1):アルケマ社製 商品名「リルサンBMN O」
ポリアミド1010樹脂(B−2):セバシン酸(豊国製油製)100質量部を60℃に加熱したメタノール1000部に攪拌しながら溶解させた。次いで、デカメチレンジアミン(小倉合成工業社製)85質量部をメタノール500質量部に攪拌しながら溶解させ、先のセバシン酸メタノール溶液にゆっくり加えた。すべて加えた後、15分程度攪拌し、析出物をろ過した後、メタノール洗浄することにより、デカメチレンジアンモニウムセバケートを得た。次に、デカメチレンジアンモニウムセバケート100質量部と水33質量部をオートクレーブに仕込み、窒素置換後、設定温度240℃、25rpmで攪拌しながら加熱を開始した。2MPaの圧力で2時間保持した後、水蒸気を排気して圧力を常圧まで下げた。常圧〜0.02MPaで2〜3時間攪拌した後、攪拌を止めて1時間静置し払出した。その後、100Paまで減圧して乾燥させ、ポリアミド1010樹脂を得た。
ポリカーボネート樹脂(B−3):住友ダウ社製 商品名「カリバー 200−13」
ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−4):ユニチカ社製 商品名「MA−2103」
ABS樹脂(B−5):テクノポリマー社製 商品名「テクノABS 170」
ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイ(B−6):テクノポリマー社製 商品名「エクセロイ CK10」
【0065】
・エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)
エポキシ化合物(C−1):東亞合成社製、商品名「レゼダ」
エポキシ化合物(C−2):エポキシ化合物(C−1)20質量部をメタノール100質量部に添加し、室温で48時間攪拌させた。その後、沈殿物をろ過し、エポキシ化合物(C−2)を得た。
エポキシ化合物(C−3):Johnson POLYMER社製 商品名「Joncryl−ADR4368」
エポキシ化合物(C−4):日油社製 商品名「モディパーA4200」
エポキシ化合物(C−5):グリシジルメタクリレート(以下、GMAと称する)10
質量部、メチルメタクリレート(以下、MMAと称する)70質量部、スチレン(以下、
Stと称する)20質量部、キシレン15質量部及び重合開始剤としてのジ−t−ブチル
パーオキサイド(以下、DTBPと称する)0.3質量部を混合し単量体混合液を得、該
単量体混合液を原料タンクに注入した。缶内温度を200℃に保った容量2Lのオートク
レーブに、一定の供給速度(100g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから単量体
混合液を連続供給して反応させた。この際、オートクレーブ内の単量体混合液質量を約1
200gに維持するように、オートクレーブの出口から反応後の溶液を連続的に抜き出し
た。抜き出した反応後の溶液を、100℃で24時間真空乾燥し、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C−5)を回収した。ASTM D−1652−73に従って、(C−5)のエポキシ価を測定した。
【0066】
エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C−6)
GMA17質量部、MMA83質量部およびDTBP0.3質量部からなる単量体混合物を原料タンクに注入し、(C−5)と同様に缶内温度を200℃に保った容量2Lのオートクレーブに、一定の供給速度(100g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから単量体混合液を連続供給して反応させ、エポキシ化合物を得た。得られたエポキシ化合物60質量部、MMA40質量部およびDTBP0.1質量部からなる混合物を原料タンクに注入し、(C−5)と同様の製造方法にてエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C−6)を回収した。
【0067】
エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C−7、C−8、C−9)
原料単量体の組成を表1に示すように変更し、(C−5)の製造と同様の製造方法にて、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C−7)、(C−8)、(C−9)を製造した。
実施例および比較例で用いたエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の物性を表1に示す。
【0068】
【表1】

なお、表1中、略記は以下のものを示す。
E:エチレン
GMA:グリシジルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
・充填材(D):ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製 商品名「03MA FT592」)(引張強度:3.43GPa)
【0069】
(2)評価方法
(I)シャルピー衝撃強度:ISO 179に従って測定を行った。
(II)曲げ強度(機械的強度):ASTM D790に従って測定を行った。本発明においては、曲げ強度が85MPa以上であるものを実用に耐えうるものであるとする。
(III)流動性:バーフローによる測定法に準じた。すなわち、幅20mm、厚さ2mmのスパイラル状の金型を用い、樹脂温度220℃、金型温度100℃、射出圧力100MPaで射出成形し、流動長を測定した。以下の基準で評価した。
◎:流動長が400mm以上である。
○:流動長が300mm以上400mm未満である。
△:流動長が200mm以上300mm以下である。
×:流動長が200mm未満である。
本発明においては、○以上であるものを実用に耐えうるものとする。
(IV)バイオマス度:樹脂組成物中のバイオマス由来原料比率を表し、以下の式から求めた。
バイオマス度=100×{(A−1)+(B−1)+(B−2)の配合量(質量部)}/{全成分の配合量(質量部)}
【0070】
(実施例1〜16、比較例1〜10)
二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37BS型」)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)および充填材(D)の種類と組成を表2および表3に示すように変更し、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)に関しては押出機の根元供給口からトップフィードして、また充填材(D)に関しては途中の供給口からサイドフィードし、バレル温度200〜250℃、スクリュー回転数100〜250rpm、吐出速度15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出を実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0071】
得られたペレットを90℃で24時間真空乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS−80G型射出成形機」)を用いて、金型表面温度を100℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、評価に付した。
【0072】
実施例1〜16、比較例1〜10の評価結果を表2および表3に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
(実施例17〜24、比較例11〜20)
二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37BS型」)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の種類と組成を表4および表5に示すように変更し、押出機の根元供給口からトップフィードし、バレル温度200〜250℃、スクリュー回転数100〜250rpm、吐出速度15kg/hの条件で、ベントを効かせながら、押出しを実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水を満たしたバットを通過させて冷却した後、ペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
【0076】
得られたペレットを90℃で24時間真空乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS−80G射出成形機」)を用いて、金型表面温度を40℃に調整しながら、シャルピー衝撃強度測定用試験片(ISO型)を作製し、評価に付した。
【0077】
実施例17〜24および比較例11〜20の結果を表4および表5に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
実施例1〜実施例15においては、従来のポリ乳酸樹脂と比較して機械的強度(曲げ強度)が向上した樹脂組成が得られた。また、流動性も高いものであった。なかでも、充填材(D)を用いた実施例13〜15は、機械的強度がさらに向上していた。また、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例4と比較例3の対比からも明らかなように、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を用いた場合には、機械的強度が大幅に向上していた。
【0081】
実施例16〜実施例23においては、耐衝撃性が向上された樹脂組成物が得られた。また、流動性も高いものであった。また、実施例16と比較例11、実施例20と比較例12の対比からも明らかなように、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を用いた場合には、耐衝撃性が大幅に向上していた。
【0082】
比較例1〜4、11〜13においては、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を用いなかったために、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とが良好に相溶せず、従来のポリ乳酸樹脂と比較して機械的強度や耐衝撃性向上効果が発揮されなかったことがわかった。
【0083】
比較例5では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の含有量が過少であったため、機械的強度および耐衝撃性に劣るものであった。
比較例6では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の含有量が過多であるため、流動性に劣るものであった。
【0084】
比較例7では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)のエポキシ基価が低すぎたために、機械的強度や耐衝撃性に劣るものとなった
比較例8では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)のエポキシ基価が高すぎたために、耐衝撃性や流動性に劣るものとなった。
【0085】
比較例9では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)に含有されるアクリル系重合体が60質量%未満であるため、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)との相溶性が不十分となり、機械的強度、耐衝撃性に劣るものとなった。
【0086】
比較例10では、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の含有量が過少であるため、耐衝撃性に劣るものとなった。
比較例14では、耐衝撃性には優れていたが、ポリ乳酸樹脂(A)の組成比が少ないために、環境に配慮した樹脂組成物とは言い難いものであった。
【0087】
比較例15では、ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の含有量が過少であったために、耐衝撃性に劣るものであった。
比較例16では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の含有量が過少であるため、耐衝撃性に劣るものであった。
【0088】
比較例17では、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の含有量が過多であるため、耐衝撃性に劣るものであり、また流動性が低下していた。
比較例18ではエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)のエポキシ価が低すぎるため、耐衝撃性に劣るものであった。
【0089】
比較例19ではエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)のエポキシ価が高すぎるため、ポリ乳酸樹脂(A)との反応が過剰に起こって樹脂組成物が増粘し、押出不能となり評価に付すことができなかった。
【0090】
比較例20ではエポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)の構成成分であるアクリル系重合体が60質量%未満であるため、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)との相溶性が低く、耐衝撃性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の質量比が(A)/(B)=10/90〜90/10であり、さらにポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)を0.1〜20質量部含有する樹脂組成物であって、エポキシ基含有熱可塑性樹脂(C)はアクリル系重合体60質量%以上含有するグラフト共重合体であり、かつエポキシ価が0.1〜2meq/gであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)が反応性官能基を有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)がポリアミド樹脂および/またはポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)がアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とのアロイから選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、充填材(D)を1〜150質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−157513(P2011−157513A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21697(P2010−21697)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】