説明

樹脂組成物

【課題】 耐熱性・耐衝撃性を備えた成形加工容易な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、特に、乳酸系樹脂を主成分としつつ耐熱性・耐衝撃性を向上させた樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック廃棄物の焼却または埋め立てによる処理について、環境汚染等が危惧されることから、微生物で分解される生分解性プラスチックの研究が行われているところであるが、これらの問題に加えて、石油代替エネルギに代表される脱石油化の必要性がクローズアップされている。そのなかで、脱石油原料によるプラスチック材料に対する関心も増加し、バイオマス由来原料(非石化原料)を用いた性能および生産性の高い新材料の創出が研究されている。
【0003】
非石化原料としては、ポリ乳酸(以下、「PLA」と略称する場合がある)に代表される脂肪族ポリエステルを利用することが研究されている。PLAは、トウモロコシ等の植物等から合成される乳酸を原料として合成することができ、生分解性を有するうえ、剛性・透明性に優れた材料の一つであることが知られており、脱石油化に資する材料として注目されている。しかし、PLAは、耐熱性・耐衝撃性に劣るという問題があり、また、汎用材料に比して高価であることから、一般的な材料としての需要が十分に拡大していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−109413号公報
【特許文献2】特開平11−140292号公報
【特許文献3】特開2007−131795号公報
【特許文献4】特開2002−371172号公報
【特許文献5】特開2008−255269号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】富士ゼロックステクニカルレポート、No.17、2007年、第38頁
【非特許文献2】松下電工技報、Vol.54、No.1、2006年、第15頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、PLAの耐熱性・耐衝撃性(物性)を向上させるために、ポリカーボネート(以下、「PC」と略称する場合がある)をブレンドすることが研究されており(非特許文献1および2、ならびに特許文献1および2参照)、物性が向上したことが報告されている。また、乳酸系ポリマーを主成分とする組成物に、ポリカーボネート樹脂と衝撃改良材を含むことにより、耐熱性・耐衝撃性が向上されたことが報告されている(特許文献3参照)。
【0007】
ところが、前記の従来技術は、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂にポリカーボネート樹脂をブレンドすることを趣旨とし、脂肪族ポリエステル樹脂に不足する耐熱性および耐衝撃性をポリカーボネートによって補うことはできるものの、PLAとPCは親和性が悪く、成形加工に必要な伸性を得ることができないものであった。
【0008】
他方、リアクティブプロセッシング(反応押出、以下・「RP」と略称する場合がある)技術は、押出機内で化学反応を行うものであり、樹脂に機能性を付加することができるものとして利用され、また、高生産性かつ低コスト性を可能とするものである。このRP技術を利用して、PLA系ポリマーブレンドにおけるラジカル発生剤を添加する技術が研究されている。すなわち、押出機内で溶融混練時にラジカル発生剤から発生したラジカルにより、ポリマー間の架橋を生じさせるものであり、柔軟性、溶融張力または耐衝撃性の向上を意図するものである。
【0009】
この種の技術には、PLAとPC系樹脂のブレンドにラジカル発生剤を添加する技術が報告されている。PLAと脂肪族PC系樹脂にラジカル発生剤を添加しつつ押出反応させた技術(特許文献4参照)では、両樹脂の親和性および耐衝撃性の向上が見られるものの、耐熱性が比較的低い脂肪族PC系樹脂を用いているため、耐熱性を大きく向上させることが困難であった。その一方で、PLAを含む脂肪族ポリエステルと、耐熱性の高い芳香族PC系樹脂にラジカル発生剤を添加しつつ押出反応させた技術では、脂肪族ポリエステルがラジカル化し、脂肪族ポリエステル分子間の架橋により耐熱性、耐衝撃性、溶融混練時の操業性の向上が見られることが報告されている(特許文献5参照)。しかしながら、芳香族PCはラジカル形成が困難であることから、脂肪族ポリエステルとPCを直接化学結合させることが難しく、両者の親和性向上には、相溶化剤である変性オレフィン樹脂の添加が必須であった。
【0010】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、耐熱性・耐衝撃性を備えた成形加工容易な樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記の課題を解決すべく鋭意研究したところ、PLAおよびPC間にPCとの親和性が極めて高い第三の成分を添加し、さらに当該第三成分とPLAを化学結合させることにより、当該第三成分を介してPLAとPC両者の親和性を飛躍的に高め得ることを新たに見出した。そしてこの成果を発展させることにより以降の発明を完成させるに至った。
【0012】
(1)本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなることを特徴とする。
【0013】
(2)上記の樹脂組成物は、乳酸系樹脂とポリブチレンテレフタレート系樹脂とがラジカル架橋されて両者が架橋体を形成し、また、芳香族ポリエステル系の樹脂であるポリブチレンテレフタレート系樹脂は芳香族ポリカーボネートとの親和性が高く相溶する。これにより、ポリブチレンテレフタレート系樹脂が第三成分として機能することとなり、乳酸系樹脂の成形加工容易性を損なうことなく、ポリカーボネート系樹脂に由来する耐熱性・耐衝撃性を得られることとなる。
【0014】
(3)また、本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂およびラジカル発生剤を配合してなるブレンド体に、さらにポリカーボネート系樹脂を配合してなり、前記乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、前記ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、前記ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第三の成分を添加することにより、当該第三成分を介してPLAとPCが間接的に化学的結合し、耐熱性・耐衝撃性を備えた成形加工容易な樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例2、比較例1−2および比較例3−2のサンプル断面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2、比較例1−2、比較例3−2およびPLA単体について、熱機械特性を測定した結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ラジカル発生剤およびポリカーボネート系樹脂を配合してなるものであって、乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなる。
【0018】
ここで、乳酸系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ラジカル発生剤およびポリカーボネート系樹脂を順次配合することができるが、好ましくは、乳酸系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂およびラジカル発生剤を配合してなるブレンド体を生成し、このブレンド体にポリカーボネート系樹脂を配合するものである。ブレンド体を生成する場合、乳酸系樹脂85重量部〜50重量部、ポリブチレンテレフタレート系樹脂15重量部〜50重量部およびラジカル発生剤0.15phr〜1.1phrを配合し、このブレンド体95重量%〜35重量%に対し、ポリカーボネート系樹脂5重量%〜65重量%を配合することにより、乳酸系樹脂を18重量%以上80重量%以下、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合にすることができる。
【0019】
乳酸系樹脂の配合量は、組成物中にバイオマス由来原料の占める割合を高める観点から、30重量%以上が好ましく、35重量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の耐衝撃性を高める観点から、同配合量は70重量%以下が好ましく、60重量%以下がさらに好ましい。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂の配合量は、乳酸系樹脂とポリカーボネート系樹脂の親和性を高める観点から、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の耐熱性向上の観点から、同配合量は35重量%以下が好ましく、25重量%以下がさらに好ましい。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂の配合量は、樹脂組成物の耐熱性・耐衝撃性を高める観点から、30重量%以上が好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物に占める植物由来原料または生分解原料の割合を高める観点から、同配合量は60重量%以下が好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0022】
ラジカル発生剤の配合量は、化学反応を促進する観点から、0.1phr以上が好ましく、0.2phr以上がさらに好ましい。また、過度な反応による副反応抑制の観点から、同配合量は0.5phr以下が好ましく、0.35以下がさらに好ましい。
【0023】
なお、ラジカル発生剤0.05phr〜1.0phrは、樹脂成分100重量部に占める割合が0.05〜1.0重量部を意味し、現実には0.05〜1.0重量部を配合するものであるが、他の材料との比較において微量であるため、全体の配合比率に含めていないこととし、このことを明確にするために、重量部または重量%を使用せずphrを用いた。
【0024】
乳酸系樹脂としては、乳酸を100重量%とするものと乳酸を主成分とする重合体があり、さらにポリ乳酸には、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、または構造単位がL−乳酸およびD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)がある。乳酸系樹脂の重合法としては、縮合重合または開環重合法等があるが、いずれの重合法を用いたものであってもよい。なお、本発明に使用されるポリ乳酸(乳酸系樹脂)としては、三井化学(株)製の商品名「レイシア」、NATURE WORKS社製の商品名「NatureWorks」、または、トヨタ自動車(株)製の商品名「TOYOTA Eco Plastic U‘z」などがある。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、芳香族ポリエステル系の汎用エンプラであり、混和条件によってはポリカーボネートとの親和性を高めることができることが知られている。ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分とする(例えば、55〜100重量%を含む)ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)またはコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体またはポリブチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。コポリエステルにおける共重合可能なモノマーとしては、テレフタル酸成分を除くジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分などがあり、共重合性モノマーは一種でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
共重合性モノマーとして好ましくは、ジオール類、ジカルボン酸類などが挙げられ、ジカルボン酸類を使用することが好ましく、さらに、ジカルボン酸類には、脂肪族ジカルボン酸であるアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸またはアゼライン酸などが挙げられる。本発明の樹脂組成物に使用するポリブチレンテレフタレート系樹脂として、さらに好ましくは、アジピン酸を使用したポリブチレンアジペートテレフタレートである。なお、本発明で使用するポリブチレンテレフタレート系樹脂として、ポリブチレンアジペートテレフタレートには、BASFジャパン(株)製の商品名「ECOFLEX」などがある。なお、ポリブチレンアジペートテレフタレートは、生分解性を有することが知られており、環境負荷低減の観点からも好ましく用いることができる。
【0027】
ラジカル発生剤は、乳酸系樹脂およびポリブチレンテレフタレート系樹脂との加熱混練によるラジカルの発生、両樹脂からの水素引き抜き反応(樹脂の活性化)、および活性化した樹脂同士の架橋反応の促進に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機ラジカル開始剤または無機ラジカル発生剤が挙げられ、一般的には有機ラジカル発生剤が使用される。有機ラジカル発生剤には、アゾ化合物または有機過酸化物が挙げられるが、有機過酸化物が好ましい。さらに、有機過酸化物としては、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類および過酸化カーボネート類が挙げられる。これらの類の中から少なくとも1種を使用することが好ましく、さらに好ましくは過酸化アルキル類である。この過酸化アルキル類には、ジクミルパーオキシド、ジ−t―ブチルパーオキシド、ジ−t―ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、t−ブチルクミルパーオキシド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナンなどが挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸系樹脂との架橋速度が大きいジクミルパーオキシドが好ましい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネートを主成分(例えば、50重量%〜100重量%)とするものであり、芳香族ポリカーボネートには、フェノールおよびアセトンの合成による2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)いわゆるビスフェノールAを原料とするものが知られており、界面重合法、エステル交換法またはピリジン法などにより製造され得る。本発明におけるポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとカーボネート前駆体を溶融法等により反応させるものが使用される。2価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパンなどが挙げられる。カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメートなどが挙げられる。いずれの方法によるカーボネート系樹脂について、単独または混合して使用してもよい。
【0029】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂とポリブチレンテレフタレート系樹脂を溶融混合し、さらにポリカーボネート系樹脂を溶融混合することにより、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を介して、ポリ乳酸系樹脂とポリカーボネート系樹脂両者の親和性が飛躍的に高まるものである。
【0030】
溶融混合の方法は特に限定されるものではなく、リボンブレンダ、ヘンシェルミキサ、バンバリーミキサ、ドラムタンブラ、コニーダ、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機などを使用することができる。RP技術を使用するため、好ましくは一軸または複数軸の押出機を使用し、さらに好ましくは二軸スクリュー押出機を用いる。配合の順序についても特に限定するものではないが、ポリ乳酸系樹脂とポリブチレンテレフタレート系樹脂がラジカル架橋反応させるために、好ましくは、ポリ乳酸系樹脂およびポリブチレンテレフタレート系樹脂に、ラジカル発生剤を添加しつつ混合し(第一混合)、その後ポリカーボネート系樹脂を混合(第二混合)する。
【0031】
また、その他の混練方法として、ポリ乳酸系樹脂およびポリブチレンテレフタレート系樹脂に、ラジカル発生剤を添加しつつ混合したもの(第一混合)、ポリカーボネート系樹脂とポリブチレンテレフタレート系樹脂を混合したもの(第二混合)を予め作製し、その後両者を混合(第三混合)することも可能である。なお、この混練方法における第二混合は完全相溶系のブレンドであるため、当該第二混合を行う際は、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度が過度に低下するのを抑制する観点から、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の添加量は、ポリカーボネート系樹脂量の10重量%以下であることが好ましい。
【0032】
混練時の温度は、押出機のシリンダ設定温度としては60°C〜250°Cが好ましい。シリンダの設定温度が過小の場合には、シリンダ内の乳酸系樹脂がガラス転移温度(約60°C)を超えるまでに加熱されず、メルトフローレート(MFR)が小さく溶融できないからであり、シリンダの設定温度が過大の場合には、MFRが大きくなりすぎて成形が不安定になるばかりか、一部熱分解する恐れがあるからである。その上限値または下限値は、その数値範囲内で任意に選択し設定し得る。特に下限値は70°C、85°Cさらには90°Cのいずれかであると好ましい。また上限値は230°C、220°Cさらには210°Cのいずれかであると好ましい。
【0033】
上記設定温度により加熱される材料の状態をMFRの値で示すと、0.1〜25.0(g/10分・at2.16kgf)の範囲内となることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜23.0(g/10分・at2.16kgf)である。このMFR値は、材料によって異なることから、配合の割合に応じて、配合された全体の値を上記範囲内に設定することが好ましい。
【0034】
なお、一般的なスクリュー押出機は、複数のシリンダが連続して配置され、最後にダイスが設けられている。これらの個々のシリンダおよびダイスは個別に温度設定が可能であるから、各シリンダおよびダイスの設定温度を前記範囲内の温度に統一して設定してもよく、徐々に上昇させてもよいが、第1のシリンダを100°Cとし、第2のシリンダ以降を180°Cから230°Cまでの範囲内で任意に設定するのが好ましい。
【0035】
上記樹脂組成物中には、目的や用途に応じて各種の粒子を添加することができる。添加する粒子は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子の中から1種のみを選択して添加してもよく、2種以上添加してもよい。なお、かかる粒子の添加量は、成形物の機械的特性の観点から、0.01〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1重量%である。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物中には、本発明の目的・効果を損なわない範囲で必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤などを適量配合することができる。
【0037】
その他、本発明は、趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた形態で実施できるものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
先ず後述する実施例により製造された樹脂組成物の物性の測定方法について説明する。
【0039】
《測定方法》
〔シート成形〕
得られた樹脂組成物を80°Cの熱風乾燥機で5時間以上乾燥し、210°Cに設定した卓上プレス機により溶融プレス後水冷した。卓上プレス機は、テクノサプライ(株)製の小型プレスG−12型を使用し、成形したシートの肉厚を0.3mmとした(以下、サンプルシートを称する)。
【0040】
〔動的粘弾性測定〕
動的粘弾性測定装置は、TAイインスツルメンツ社製DMA2980を使用し、周波数1Hz、昇温速度2°C/分として、サンプルシートについて引張モードにて行った。
【0041】
〔電子顕微鏡観察〕
サンプルシートを液体窒素中で破断させた後、その破断面を(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡S−3000Nを使用して撮影した。なお、撮影の前処理として、(株)日立サイエンスシステムズ製のイオンスパッタ装置E1010形を使用して金蒸着処理を行った。
【0042】
〔引張試験〕
サンプルシートを短冊状に切断し、インストロンジャパン(株)製の万能抗張力試験器5569型を使用し、25°Cの環境下において、引張速度10mm/分、初期長20mmとして行った。
【0043】
〔熱機械特性〕
(株)リガク製のダイナミック熱分析システムTMA8310を使用し、TMAペネトレーション法によるサンプルシートの熱機械特性測定を行った。なお、ロードピン直径を1mmとし、荷重490mN、昇温速度5°C/分とし、各温度におけるサンプルシート厚み方向の変位をプロットした。
【0044】
〔シャルピー衝撃試験〕
(株)安田精機製作所製の低温槽付衝撃試験機No.258−L−PCを使用し、25°Cの環境下において、シャルピー衝撃試験を行った。
【0045】
本実施例で用いた材料は次のとおりである。
〔ポリ乳酸(PLA)〕
ポリ乳酸樹脂ペレット(Mw=15.5×104、MFR=9.5(g/10分at190°C2.16kg)、Tm=177°C)を、80°Cの熱風乾燥機で5時間以上乾燥後、密閉容器内で室温まで冷却して使用した。
【0046】
〔ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)〕
BASFジャパン(株)製ECOFLEXを、80°Cの熱風乾燥機で5時間以上乾燥後、密閉容器内で室温まで冷却して使用した。
【0047】
〔ポリカーボネート(PC)〕
住友ダウ(株)製ガリバー301−30(MVR=30(cm3/10分at300°C1.2kg)を、80°Cの熱風乾燥機で5時間以上乾燥後、密閉容器内で室温まで冷却して使用した。
【0048】
〔過酸化物:ジクミルパーオキシド(DCP)〕
日油(株)製パークミルD(1分間半減期温度175.2°C、1時間半減期温度135.7°C、10時間半減期温度116.4°C)を使用した。
【0049】
ポリマーブレンドに使用した押出機およびスクリュー回転数等の条件設定は次のとおりである。
〔押出機および条件設定〕
(株)テクノベル製KZW15−45HG(Φ=15、L/D=45)二軸押出機を使用した。スクリュー回転数を250rpmとし、6個のシリンダおよびダイスの設定温度は、第一シリンダ(C1)を100°Cに一定保持し、第二シリンダ(C2)、第三シリンダ(C3)、第四シリンダ(C4)、第五シリンダ(C5)、第六シリンダ(C6)およびダイス(D)を180°Cから230°Cの範囲内のいずれかに設定した。なお、第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの設定温度を変更するときは、これらが同じ温度となるように設定した。
【0050】
作製した樹脂組成物の成形に使用した射出成形機、および成形設定は次のとおりである。
〔射出成形機および条件設定〕
日精樹脂工業(株)製ES1000射出成形機を用い、JIS K7111準拠の多目的試験片(ノッチありおよびノッチなしの二種類)をそれぞれ作製した。なお、シリンダ温度は210°Cで一定に設定し、射出速度を10mm/s、保圧を60MPaで30s、金型温度を30°C、冷却時間を25sとした。
【0051】
《樹脂組成物》
次のような種々の樹脂組成物を製造した。
(実施例1)
ポリ乳酸(PLA)70重量部、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)30重量部およびジミクルパーオキシド(DCP)0.5phrを配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定してブレンド体(Run1)を得た。
引き続き、上記ブレンド体(Run1)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(実施例1)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
上記ブレンド体(Run1)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を200°Cに設定して樹脂組成物(実施例2)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
上記ブレンド体(Run1)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(実施例3)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
上記ブレンド体(Run1)55重量部およびポリカーボネート(PC)45重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(実施例4)を得た。この実施例の動的粘弾性測定の結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
上記ブレンド体(Run1)50重量部およびポリカーボネート(PC)50重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(実施例5)を得た。この実施例の動的粘弾性測定の結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1−1)
ポリ乳酸(PLA)70重量部およびポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)30重量部を配合し(ジミクルパーオキシド(DCP)無添加)し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して第二ブレンド体(Run2)を得た。
引き続き、上記第二ブレンド体(Run2)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(比較例1−1)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表2に示す。
【0057】
(比較例1−2)
上記第二ブレンド体(Run2)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を200°Cに設定して樹脂組成物(比較例1−2)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表2に示す。
【0058】
(比較例1−3)
上記第二ブレンド体(Run2)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(比較例1−3)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表2に示す。
上記比較例1−1から1−3は、ポリ乳酸(PLA)とポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)をブレンドするに際し、ラジカル発生剤無添加による影響を確認するためのものである。シリンダおよびダイスの設定温度を変化させて確認した。表2に示すように、動的粘弾性の数値は比較的高く硬質な樹脂であることを示しているが、引張試験による伸び率が小さく実施例よりも加工性に欠けるものと判断される。
【0059】
(実施例6)
ポリカーボネート(PC)90重量部およびポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)10重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して第三ブレンド体(Run3)を得た。
引き続き、上記ブレンド体(Run1)60重量部および第三ブレンド体(Run3)44重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(実施例6)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
【0060】
(実施例7)
上記ブレンド体(Run1)60重量部および第三ブレンド体(Run3)44重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(実施例7)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
【0061】
(実施例8)
上記ブレンド体(Run1)50重量部および第三ブレンド体(Run3)56重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(実施例3)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表1に示す。
上記実施例6〜8は、ポリカーボネート(PC)とポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を混練した第三ブレンド体(Run3)により、予めPCとPBATとの良好な親和状態を形成させた後、ブレンド体(Run1)に配合されるPLAとの親和性を確認するためのものであったが、動的粘弾性の数値はやや低く軟質なものではあるが、引張試験の伸び率は大きく加工性に優れるものである。
【0062】
(比較例2−1)
ポリ乳酸(PLA)60重量部、上記第三ブレンド体(Run3)40重量部および上記ブレンド体(Run1)10重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(比較例2−1)を得た。この実施例の動的粘弾性測定および引張試験の結果を表2に示す。なお、この比較例は、先行して化学的結合したPLAとPBATの混練物と、先行して良好な親和状態を形成させたPCとPBATの混練物を配合したとき、PLAとの親和性を確認するためのものである。ブレンド体(Run1)と第三ブレンド体(Run3)を混練してなる実施例6〜8に比較すると、明らかに引張試験における伸び率が低いことがわかる。
【0063】
(比較例2−2)
ポリ乳酸(PLA)60重量部、上記第三ブレンド体(Run3)44重量部およびジミクルパーオキシド(DCP)0.5重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(比較例2−2)を得た。なお、この比較例は、配合の順序を確認するためのものであるが、動的粘弾性試験の結果から、比較例2−1と同様の結果となった。
【0064】
(比較例3−1)
ポリ乳酸(PLA)60重量部およびポリカーボネート(PC)40重量部を配合し、押出機の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を180°Cに設定して樹脂組成物(比較例3−1)を得た。
【0065】
(比較例3−2)
上記比較例3−1の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を200°Cに設定して樹脂組成物(比較例3−2)を得た。
【0066】
(比較例3−3)
上記比較例3−1の第二シリンダ(C2)からダイス(D)までの温度を230°Cに設定して樹脂組成物(比較例3−3)を得た。
【0067】
上記比較例3−1ないし3−3は、PBATおよびDCPを配合しない場合の比較実験のための樹脂組成物であり、いずれの樹脂組成物についてもPCが配合されていることから、動的粘弾性の数値は高く硬質であることが予想されるが、引張試験における伸び率は非常に悪く、PLAとPCの親和性が良くないことがあらわれた結果となった。
【0068】
《評価》
〔動的粘弾性測定・引張試験〕
上記各実施例および比較例についての動的粘弾性測定および引張試験の結果については、表1および表2に示したとおりである。これらの結果から、PLAはDCPとともにPBATを配合することにより、PCとの親和性が良好になることがわかる。上記PLAとPBATとの化学的結合はラジカル架橋が形成されているものと判断することができ、さらに、PBATとの親和性を示すPCは、ラジカル架橋が形成された後においてもその親和性を保つものと判断される。
【0069】
〔電子顕微鏡観察〕
上記の測定結果により、引張試験による特性が特に良好であった実施例2の樹脂組成物と、比較観察のために比較例1−2および比較例3−2について、モルフォロジー観察のためにSEM写真を撮影した。その各写真を図1の(a)〜(c)に示す。
【0070】
比較例3−2(図1(b))は、PLAおよびPCを混練したものであり、PCに由来するものと考えられる直径10μmの粗大な粒子が分散している。これは、両者の界面が脆弱であることを示しており、引張試験の結果を裏付けている。
【0071】
比較例1−2(図1(c))は、ラジカル発生剤(DCP)を使用していないものであり、これを除く材料の配合割合は実施例2と同様であるが、PCに由来すると考えられる粗大な粒子が分散している。粒径は5μm程度に低下しているが、両者の界面が脆弱であること、すなわち引張試験における伸び率の悪さが裏付けられる。
【0072】
これらに対し、 実施例2(図1(a))は、5μm程度の比較的均一な粒径に揃ったドメインが観察される。また、粒子の形状も上記比較例1−2および3−2とは異なり、引張試験における測定結果の良好なことが裏付けられる。
【0073】
〔熱機械特性〕
また、熱機械特性について、上記3つのサンプルに加えPLA単体を測定した。その結果を図2に示す。この図において明らかなとおり、いずれの樹脂組成物についても、PLAのガラス転移温度(60°C)を超えると、大きく変形するのであるが、PLA単体は、その変形の度合いが顕著であるのに対し、比較例3−2は、PCの特性により変形が小さいものとなっている。しかし、実施例2の樹脂組成物は、前述のとおり柔軟性を有しながら、比較例3−2に近い熱機械特性を示している。なお、比較例1−2は、よりPLA単体に近似し、大きく変形しているものであった。
【0074】
〔シャルピー衝撃試験〕
上記3つのサンプルについてシャルピー衝撃試験を行った。その結果を表3(ノッチあり)および表4(ノッチなし)に示す。表3より、比較例1−2および比較例3−2の樹脂組成物はほぼ同程度の衝撃値を示したのに対し、実施例2の樹脂組成物のそれは比較例1−2および比較例3−2との対比において約70%向上した。また、表4より、比較例1−2および比較例3−2の樹脂組成物は衝撃試験により破壊したのに対し、実施例2の樹脂組成物は破壊されず(NB)、衝撃特性に極めて優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によって得られた樹脂組成物は、耐衝撃性・耐熱性に優れ、引張伸度が大きいものであるから、その加工性に優れるものであるから、OA機器および家電製品等の外装材ならびにこれらの部品に利用することができる。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
乳酸系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂およびラジカル発生剤を配合してなるブレンド体に、さらにポリカーボネート系樹脂を配合してなり、前記乳酸系樹脂を18重量%以上85重量%以下、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂を5重量%以上47重量%以下、前記ラジカル発生剤を0.05phr以上1.0phr以下、ポリカーボネート系樹脂を5重量%以上65重量%以下の割合で配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂と、該ポリカーボネート系樹脂の配合量に対する割合を10重量%以下とした前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂とを混合したブレンド体と、
前記乳酸系樹脂と、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の残部と、前記ラジカル発生剤とを混合したブレンド体と
を配合してなる請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ブレンド体または樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)値が0.1〜25.0(g/10分・at2.16kgf)の範囲内となる温度条件下で押出機により溶融混練して得られたブレンド体または樹脂組成物である請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、ポリブチレンアジペートテレフタレートである請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ラジカル発生剤が、ジクミルパーオキシドである請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂組成物。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−285565(P2010−285565A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141598(P2009−141598)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】