説明

樹脂組成物

【課題】剛性、耐熱性に優れ、軽量であるとともに、制振性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、樹脂成分(C)とセラミックバルーン(D)とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分(C)はポリアリレート樹脂(A)30〜70質量%と強化ポリアミド樹脂(B)70〜30質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分(C)50〜85質量%に対してセラミックバルーン(D)50〜15質量%を含むものであり、前記強化ポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩を平均20Å以上の層間距離で、かつ膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層の50%以上が塊を形成することなく含有されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性に優れる樹脂組成物に関する。さらに、該樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電製品、精密機器などの分野において、自動車などから発生する振動や、自動車などに伝播する振動を、吸収・減衰させて、振動および振動による騒音を防止し、快適な環境を作り出そうという要求が高まってきている。すなわち、自動車、家電製品、精密機器などを構成する部材に対して、高い制振性が要求されている。さらに、このような分野においては、省エネの観点から、上記の部材を軽量化することも同時に求められている。
【0003】
また、自動車、家電製品、精密機器などを構成する部材においては、優れた機械的性質と耐薬品性を有することから、ポリアミド樹脂からなる成形品が幅広く利用されている。そのため、ポリアミド樹脂からなる成形品の制振性を向上させることが多数検討されている。
【0004】
たとえば、特許文献1においては、ポリアミド樹脂に無機質充填材を配合することで、制振性に優れた成形品を得ることが提案されている。また、特許文献2においては、ポリアミド樹脂に雲母およびガラスなどの無機質充填材を配合することで、制振性に優れた成形用ポリアミド樹脂組成物を得ることが提案されている。また、特許文献3においては、ガラス繊維により強化されたポリアミド樹脂に、オレフィンエラストマーなどのエラストマーをブレンドすることで、制振性に優れた成形用ポリアミド樹脂組成物を得ることが提案されている。しかしながら、特許文献1〜3の場合においては、得られたポリアミド樹脂組成物の密度が大きくなりすぎ、該ポリアミド樹脂組成物からなる成形品の用途が制限される場合があった。
【0005】
さらに、特許文献4においては、ポリアミド樹脂にセラミックバルーンを配合することで、制振性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることが提案されている。しかしながら、特許文献4の場合は、耐熱性が低い場合があった。さらに、特許文献5においては、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで均一にポリアミド樹脂に分散された強化ポリアミド樹脂に、ポリアリレート樹脂を配合することで、制振性に優れた樹脂組成物を得ることが提案されている。しかしながら、特許文献5の場合は、剛性に劣る場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2618721号公報
【特許文献2】特許第3024152号公報
【特許文献3】特開昭64−74264号公報
【特許文献4】特許第4263929号公報
【特許文献5】特開2008−75008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの問題点に鑑み、本発明の目的は、良好な制振性を有し、加えて、剛性、耐熱性に優れ、かつ密度が低く軽量である樹脂組成物および成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアリレート樹脂と、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層により強化されたポリアミド樹脂と、セラミックバルーンとを特定の割合で含有する樹脂組成物は、前記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)樹脂成分(C)とセラミックバルーン(D)とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分(C)はポリアリレート樹脂(A)30〜70質量%と強化ポリアミド樹脂(B)70〜30質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分(C)50〜85質量%に対してセラミックバルーン(D)50〜15質量%を含むものであり、前記強化ポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩を平均20Å以上の層間距離で、かつ膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層の50%以上が塊を形成することなく含有されてなることを特徴とする樹脂組成物。
(2)前記強化ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド樹脂100質量部に対して膨潤性層状珪酸塩0.01〜10質量部が含有されてなることを特徴とする(1)の樹脂組成物。
(3)(1)または(2)の樹脂組成物からなる成形品であって、下記(i)〜(iv)の物性を有することを特徴とする成形品。
(i)内部損失tanδが0.08以上である。
(ii)JIS K7112により測定した密度が1.20g/cm以下である。
(iii)ASTMD790により測定した曲げ弾性率が5.0GPa以上である。
(iv)ASTM D648により1.82MPa荷重下で測定した荷重たわみ温度が160℃以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、剛性、耐熱性に優れ、かつ軽量であるとともに、制振性に優れるものである。従って、該樹脂組成物から得られた成形品は、電子・電機・情報機器分野、自動車分野、機械部品分野等の制振性が求められる各種分野において有用であり、その奏する産業上の利用価値は極めて大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂(A)と、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層により強化されたポリアミド樹脂(強化ポリアミド樹脂)(B)とを含む樹脂成分(C)、およびセラミックバルーン(D)とを含有するものである。
【0011】
本発明においては、ポリアリレート樹脂(A)、および、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層により強化されたポリアミド樹脂(B)を用いることで制振性に優れるという効果を奏する。さらに、ポリアリレート樹脂は高い融点を有するため、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることができる。さらに、セラミックバルーン(D)を用いることで、得られる樹脂組成物の密度を低くすることにより軽量化が達成しつつ制振性を高めることができ、加えて剛性を高めることができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物を構成するポリアリレート樹脂とは、芳香族ジカルボン酸単位と、ビスフェノール類残基単位とからなる芳香族ポリエステル重合体である。ポリアリレート樹脂は、溶融重合、界面重合などの公知慣用の方法により製造することができる。
【0013】
ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸残基単位の原料の好ましい例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。
【0014】
上記のなかでも、芳香族ジカルボン酸残基単位の原料としては、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、両者を併用すると、溶融加工性および機械的特性に優れたポリアリート樹脂を得ることができるため好ましい。
【0015】
テレフタル酸とイソフタル酸を併用する場合には、その混合比率は任意に選択することができるが、溶融加工性や性能のバランスの点を考慮すれば、モル分率で、(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=70/30〜30/70であり、特に好ましくは(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=50/50である。テレフタル酸とイソフタル酸の混合比率が、上記の範囲を外れると、ポリアリレート樹脂の重合度が不十分となる場合があり、また、得られるポリアリレート樹脂の耐食変色性が発現する場合がある。
【0016】
ポリアリレート樹脂の原料であるビスフェノール類として、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´−ジヒドロジフェニルエーテル、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4´−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4´−ジヒドロキシジフェニル、ハイドロキノンなどがあげられ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、(ビスフェノールA)が好ましい。これらは単独で使用されてもよいし、あるいは2種類以上混合して使用されてもよい。さらに、これらのビスフェノール類に少量のエチレングリコール、プロピレングリコールなどを併用してもよい。なかでも、コストパフォーマンスおよび重合性に優れる観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)を使用することが好ましく、これを単独で使用することが好ましい。
【0017】
ポリアリレート樹脂の極限粘度は特に限定されないが、良好な機械的特性及び流動性の観点から、1,1,2,2―テトラクロロエタンを溶媒として温度25℃で測定した極限粘度が、0.4〜0.8が好ましく、0.4〜0.7がさらに好ましい。ポリアリレート樹脂の極限粘度が0.8を超えると、溶融粘度が高くなり流動性が低下するため、混練押出し及び射出成形が困難となる場合がある。また、溶融加工時に変色が起こる場合がある。一方、0.4未満であると、得られる樹脂組成物の分子量が低くなるため、成形品とした場合に衝撃強度、耐熱性などの機械的特性が低下する傾向にある。
【0018】
本発明において、強化ポリアミド樹脂は、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が、分子レベルで均一にポリアミド樹脂に分散されてなるものである。ここで珪酸塩層とは、膨潤性層状珪酸塩を構成する基本単位であり、膨潤性層状珪酸塩が劈開されることにより得られるものである。本発明において、強化ポリアミド樹脂ではなく通常の(強化されていない)ポリアミド樹脂を用いた場合には、「制振性に優れる」という本発明の効果を奏することができない。
【0019】
本発明において、「分子レベルで均一に分散される」とは、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層がポリアミド樹脂中に分散する際に、その層間距離が平均20Å以上に保たれている状態をいう。また、層間距離とは、前記珪酸塩層の珪酸塩層の平板の重心間の距離をいう。さらに、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで均一に分散される場合には、珪酸塩層の一枚一枚、もしくは平均的な重なりが5層以下の珪酸塩層の多層物が、平行またはランダムな状態で、もしくは平行とランダムが混在した状態で、その50%以上が塊を形成することなく分散されている状態であることが必要である。より好ましくは70%以上が塊を形成することなく分散されている状態である。具体的には、強化ポリアミド樹脂から得られたペレットについて広角X線回折測定をおこなった場合に、珪酸塩層の厚み方向に起因するピークが消失されていることで、分子レベルで均一に分散されている(すなわち、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層の層間距離が平均20Å以上で、かつその50%以上が塊を形成することなく分散されている)ことが確認できる。
【0020】
上記ポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)とから形成されるアミド結合を有する重合体である。このようなポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド〔ナイロン11T(H)〕またはこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド等が挙げられ、その中でもナイロン6またはこの共重合ポリアミド、ナイロン66またはこの共重合ポリアミドが好ましく、ナイロン6およびナイロン66が特に好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸、それらの一対の塩を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。ポリアミド樹脂の原料の具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等のジアミン;アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等のジカルボン酸などが挙げられる。
【0022】
かかるポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド〔ナイロン11T(H)〕またはこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド等が挙げられる。
【0023】
上記の中でも、ポリアリレート樹脂との相溶性及び成形性の観点から、ナイロン6またはナイロン6とそれ以外のポリアミドが共重合した共重合ポリアミド、ナイロン66またはナイロン66とそれ以外のポリアミドが共重合した共重合ポリアミドが好ましく、ナイロン6およびナイロン66が特に好ましい。
【0024】
上記のポリアミド樹脂に含有され、強化ポリアミド樹脂を構成する膨潤性層状珪酸塩としては、スメクタイト族(例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト)、バーミキュライト族(例えば、バーミキュライト)、雲母族(例えば、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト金雲母、黒雲母、レピドナイト)、脆雲母族(例えば、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト)、緑泥石族(例えば、ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト)、セピオライト等の含水イノケイ酸塩系鉱物等が挙げられる。これらの中でも、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライトおよびフッ素雲母が、ポリアミド樹脂中における珪酸塩層の分散性の点で好ましく、さらに色調の点でフッ素雲母がより好ましい。
【0025】
なお、フッ素雲母は、一般的に、次式で示される。
α(MF)・β(aMgF2・bMgO)・γSiO
(式中、Mはナトリウム又はリチウムを表す。α、β、γ、a及びbは各々係数を表し、0.1≦α≦2、2≦β≦3.5、3≦γ≦4、0≦a≦1、0≦b≦1、a+b=1を満足する数値である。)
【0026】
本発明において、強化ポリアミド樹脂における膨潤性層状珪酸塩の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、1.5〜6質量%であることがより好ましい。この含有量が10質量%を超えると、得られた樹脂組成物を成形してなる成形品の靱性が低下し、もろくなる場合がある。含有量が0.01質量%未満であると、得られた樹脂組成物を成形してなる成形品の機械特性が低下する場合がある。
【0027】
強化ポリアミド樹脂の相対粘度は、特に限定されないが、溶媒として96質量%濃硫酸を用い、温度25℃、濃度1g/dlの条件で求めた値が、1.5〜5.0の範囲にあることが好ましく、2.0〜3.5の範囲にあることが特に好ましい。相対粘度が1.5未満のものでは、成形品としたときの機械的特性が低下する場合がある。一方、相対粘度が5.0を超えるものでは、成形性が著しく低下する場合がある。
【0028】
膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層をポリアミド樹脂に分散させて、強化ポリアミド樹脂を得る方法は特に制限されないが、所定量の膨潤性層状珪酸塩の存在下、ポリアミド樹脂を形成するアミノカプロン酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸等のモノマーを、公知慣用の重合法で重合すればよい。また、予めオニウム塩で前処理しておいた膨潤性層状珪酸塩とポリアミド樹脂とを、公知慣用の方法で溶融混練することにより得ることもできる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、上述のように、ポリアリレート樹脂と強化ポリアミド樹脂とを含有する樹脂成分を含むものである。該樹脂成分中、ポリアリレート樹脂の含有割合は、30〜70質量%であることが必要であり、40〜60質量%であることが好ましい。すなわち、上記の樹脂成分中、強化ポリアミド樹脂の含有割合は、70〜30質量%であることが必要であり、60〜40質量%であることが好ましい。樹脂成分中の、ポリアリレート樹脂の割合が30質量%未満では、耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることができない。また、均一に混練できない状態となり、成形品を得ることができない場合がある。一方、ポリアリレート樹脂の割合が70質量%を超えると、流動性と耐薬品性が損なわれるという問題がある。
【0030】
本発明の樹脂組成物に含有されるセラミックバルーンとは、シリカ、アルミナを主成分とする微細中空ガラス球状体である。セラミックバルーンとしては、例えば、石炭の焼却灰(フライアッシュ)から水中沈降しないもの、あるいは、シラスやマイカなどを焼成して生成されるものが挙げられる。焼成して生成する方法は特に限定されず、工業的に用いられる方法が適用できる。セラミックバルーンとしては市販も好適に用いることができ、巴工業社製、商品名「セノライト」、東海工業社製、商品名「メタスフィアー」などが挙げられる。
【0031】
セラミックバルーンの好ましい平均粒径は250μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。平均粒径が250μmを超える場合には、ポリアミド樹脂との混練過程において、セラミックバルーン粒子が破壊され易くなり、結果として樹脂組成物の見かけ密度が増大しやすくなる。さらには、得られた樹脂組成物から成形された成形品の表面が微細な凹凸となり筋が見られるなど外観を損なうことになる。平均粒径の下限は特に限定されないが、一般に市販され、入手可能なものは5μm以上である。
【0032】
また、セラミックバルーンの見掛け密度(中空体の密度)は0.2〜1.2の範囲であることが好ましく、0.4〜1.0の範囲であることがより好ましい。見掛け密度が0.2よりも下回る場合には、中空体を形成する殻が薄くなりすぎるためにポリアミド樹脂との混練過程において破壊され易くなる。また、見掛け密度が1.2を超える場合においては樹脂組成物の密度が増大することになり好ましくない。
【0033】
本発明においては、制振性や密度、剛性の観点から、樹脂組成物中にセラミックバルーンが損壊せずに含有されていることが好ましい。樹脂組成物又は成形品作製などの溶融成形時にセラミックバルーンが損壊しないようにするために、該溶融成形の温度を成形可能な範囲でできる限り高くし、樹脂の溶融粘度が低い条件を選択することが好ましい。具体的には、本発明においては、溶融成形時のシリンダー温度を260〜280℃とすることが好ましい。
【0034】
本発明の樹脂組成物中、セラミックバルーンの含有割合は、樹脂組成物全量に対して15〜50質量%であることが必要であり、20〜40質量%であることが好ましい。15質量%未満であると、制振性や剛性が低下するという問題がある。50質量%を超えると流動性が低下するという問題がある。
【0035】
すなわち、樹脂組成物を100質量部とした場合のポリアリレート樹脂の含有量は、15〜59.5質量部であることが必要であり、20〜30質量部であることが好ましい。また、樹脂組成物を100質量部とした場合の強化ポリアミド樹脂の含有量は、59.5〜15質量部であることが必要であり、30〜20質量部であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明の樹脂組成物中には、その特性を大きく損なわない範囲で、必要に応じて、顔料、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤等を添加することができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂、強化ポリアミド樹脂、セラミックバルーンおよび必要に応じて他の各成分を、タンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混練機により混合して製造することができる。なかでも、押出機により溶融混練して樹脂組成物を製造することが好ましく、特に2軸押出機を用いることが好ましい。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物は、セラミックバルーンの損壊を低減させる観点から、サイドフィーダーを備えた押出機を用いて溶融混練することが好ましい。すなわち、ポリアリレート樹脂と強化ポリアミド樹脂とを主供給口から投入し、セラミックバルーンをサイドフィーダーから投入すると、セラミックバルーンの損壊を低減することができる。
【0039】
上記のようにして得られた樹脂組成物を、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形に付することにより、本発明の成形品を得ることができる。なかでも、射出成形による製造が好ましく、かかる場合、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ランナーレスを可能とするホットランナーによって製造することも可能である。また、射出成形においても、通常の成形方法だけでなく、ガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、超高速射出成形、二色成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、サンドイッチ成形等の各種成形法を使用することができる。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物を、各種複合成形法により積層構造を有する成形品の内層また外層として使用することにより、制振性をより効果的に発揮することも可能である。
【0041】
本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、以下の各種特性を満足する。
すなわち、成形品の内部損失(tanδ)が0.08以上であることが必要であり、0.08〜0.25であることが好ましく、0.10〜0.18がより好ましい。内部損失(tanδ)が0.08未満では制振性が不十分となる。また、内部損失が0.25を超えると、剛性と併存できない場合がある。なお、内部損失の求め方については、実施例において詳述する。
【0042】
また、成形品のJIS K7112に従って測定した密度は、1.20g/cm以下であることが必要であり、0.90〜1.20g/cmであることが好ましく、0.95〜1.15であることがより好ましい。密度が1.20g/cmを超える場合には要求される軽量性を満足せず、一方、密度が0.90g/cm未満であると、剛性と併存できない場合がある。
【0043】
さらに、成形品のASTMD790に従って測定した曲げ弾性率は、5.0GPa以上であることが必要であり、5.0〜9.0GPaであることが好ましく、5.5〜8.0GPaであることがより好ましい。5.0GPa未満の場合には剛性が十分でなく、12GPaを超えると成形性が著しく低下する場合がある。
【0044】
さらに、成形品のASTMD648に従って、1.82MPa荷重下で測定した荷重たわみ温度は、160℃以上であることが必要であり、160〜200℃であることが好ましく、165〜190℃がより好ましい。荷重たわみ温度が160℃未満の場合には耐熱性が十分でなく、一方、200℃を超えると成形性に劣る場合がある。
【0045】
このようにして得られた本発明の成形品は、剛性、耐熱性に優れ、かつ軽量であるとともに、制振性に優れている。従って、自動車、OA機器等の用途に用いられる部材として好適である。
【実施例】
【0046】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、実施例ならびに比較例で用いた原料、および物性試験の測定法は次の通りである。
【0047】
1.原料
(1)ポリアリレート樹脂(A)
ユニチカ社製、商品名「UポリマーU−100」(以下、「U−100」と称する場合がある)(ビスフェノールA/フタル酸共重合体=50/50(モル比)、(極限粘度:0.64)
【0048】
(2)強化ポリアミド樹脂(B)
・B−1
ε−カプロラクタム10kgに対して、1kgの水と400gの膨潤性フッ素雲母(コープケミカル社製、商品名「ME−100」)を添加し、これを内容積30リットルのオートクレーブに入れ、260℃に加熱し、内圧が1.5MPaになるまで上昇させた。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ、圧力1.5MPa、温度260℃に保持したまま2時間重合した後、1時間かけて常圧まで放圧し、さらに40分間重合した。重合が終了した時点で、前記の反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断して強化ポリアミド樹脂のペレットを得た。ついでこのペレットを95℃の熱水で8時間精練をおこなった後、真空乾燥し、(B−1)を得た。得られた強化ポリアミド樹脂(B−1)は、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層を4.4質量%含有し、相対粘度は2.5であった。また、この強化ポリアミド樹脂のペレットについて広角X線回折測定をおこなったところ、フッ素雲母の厚み方向のピークは完全に消失しており、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が均一に分散されていることがわかった。
【0049】
・B−2
膨潤性フッ素雲母(コープケミカル社製、商品名「ME−100」)を182g用いた以外は、(B−1)と同様にして、(B−2)を得た。得られた強化ポリアミド樹脂は、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層を2.0質量%含有し、相対粘度は2.5であった。また、この強化ポリアミド樹脂のペレットについて広角X線回折測定をおこなったところ、フッ素雲母の厚み方向のピークは完全に消失しており、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が均一に分散されていることがわかった。
【0050】
・B−3
膨潤性フッ素雲母(コープケミカル社製、商品名「ME−100」)を455g用いた以外は、(B−1)と同様にして、(B−3)を得た。得られた強化ポリアミド樹脂は、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層を5.0質量%含有し、相対粘度は2.5であった。また、この強化ポリアミド樹脂のペレットについて広角X線回折測定をおこなったところ、フッ素雲母の厚み方向のピークは完全に消失しており、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が均一に分散されていることがわかった。
【0051】
(3)ポリアミド樹脂(非強化ポリアミド樹脂)
ユニチカ社製、商品名「A1030BRL」(成分:ナイロン6、粘度:2.50(96質量%硫酸を用い、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定)(以下、「A1030BRL」と称する場合がある。)
【0052】
(4)マイカ
クラレ社製、商品名「スゾライトマイカ325S」(平均粒径40μm)(以下、「325S」と称する場合がある)
(5)ガラス繊維
日本電気硝子社製、商品名「T−289」(サイズ:3mm×13μmφ)(以下、「T−289」と称する場合がある)
【0053】
(6)セラミックバルーン(D)
(D−1)巴工業社製、商品名「セノライト」(平均粒径:35μm、見かけ密度0.6)
【0054】
2.物性の測定法
(1)曲げ弾性率(剛性)
ASTM D790に従って測定した。
【0055】
(2)荷重たわみ温度(耐熱性)
ASTM D648に従って荷重1.82MPaにて測定した。
【0056】
(3)密度(見かけ密度)(軽量性)
ASTM D792に従って測定した。
【0057】
(4)内部損失(tanδ)(制振性)
JIS G0602に従い、(1)の曲げ弾性率評価用の成形品を試験片とし、サーボアナライザ(ADVANTEST社製、商品名「R92CFTT」)を用いた加振法によって内部損失(tanδ)を測定した。tanδが大きい程、制振性能が優れていることを示す。
【0058】
実施例1
40質量部の(U−100)と、40質量部の(B−1)および20質量部の(D−1)とを、二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37−BS」)にて樹脂温度270℃で溶融混練押出し、ペレット化した。ついで、このペレットを乾燥後、射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS100E−3A」)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度100℃の条件で射出成形することにより、各種試験片を作製した。これらの試験片を評価に付し、評価結果を表1に示した。
【0059】
実施例2〜5
表1に示すように、(U−100)、(B−1)および(D−1)の組成を変更し、実施例1と同様にして試験片を作製し、それぞれ物性試験に供した。得られた結果を表1に示した。
【0060】
実施例6
表1に示すように、(B−1)を(B−2)に変更した以外は、実施例2と同様にして試験片を作製し、それぞれ物性試験に供した。得られた結果を表1に示した。
【0061】
実施例7
表1に示すように、(B−1)を(B−3)に変更した以外は、実施例2と同様にして試験片を作製し、それぞれ物性試験に供した。得られた結果を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例1
(U−100)100質量部を射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS100E−3A」)を用いて、シリンダー温度360℃、金型温度120℃の条件で射出成形することにより、各種試験片を作製した。これらの試験片を評価に付し、評価結果を表2に示した。
【0064】
比較例2
(B−1)100質量部を射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS100E−3A」)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の条件で射出成形することにより、各種試験片を作製した。これらの試験片を評価に付し、評価結果を表2に示した。
【0065】
比較例3〜8
表2に示すように、(U−100)、(B−1)および(D−1)の組成を変更し、実施例1と同様にして試験片を作製し、それぞれ物性試験に供した。得られた結果を表2に示した。
【0066】
比較例9
強化ポリアミド樹脂に代えてA1030BRLを用いた以外は、実施例2と同様にして試験片を作製し、物性試験に供した。得られた結果を表2に示した。
【0067】
比較例10
(D−1)に代えて325Sを用いた以外は、実施例2と同様にして試験片を作製し、物性試験に供した。得られた結果を表2に示した。
【0068】
比較例11
(D−1)に代えてT−289を用いた以外は、実施例2と同様にして試験片を作製し、物性試験に供した。得られた結果を表2に示した。
【0069】
【表2】

【0070】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜7では、剛性、耐熱性に優れ、かつ、軽量であるとともに、制振性に優れた成形品が得られた。
【0071】
比較例1は、ポリアリレート樹脂のみを用いたため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、密度が高く、剛性においても劣っていた。
比較例2は、強化ポリアミド樹脂のみを用いたため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、剛性及び耐熱性において劣っていた。
【0072】
比較例3は、セラミックバルーンを含有していないため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、剛性において劣っていた。
比較例4及び5は、セラミックバルーンが過少であったためtanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、剛性において劣っていた。
【0073】
比較例6は、セラミックバルーンが過多であったため、流動性が低下し、成形品を得ることができなかった。
比較例7は、ポリアリレート樹脂が過少であったため、均一に混練できない状態となり、成形品を得ることができなかった。
【0074】
比較例8は、強化ポリアミド樹脂が過少であったため、流動性が低下し、成形品を得ることができなかった。
比較例9は、強化ポリアミド樹脂の代わりに通常の(強化されていない)ポリアミド樹脂を用いたため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。
【0075】
比較例10は、セラミックバルーンの代わりにガラス繊維を用いため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、密度が大きく、実用性に欠けるものであった。
比較例11は、セラミックバルーンの代わりにマイカを用いたため、tanδが小さく、制振性において劣っていた。かつ、密度が大きく、実用性に欠けるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(C)とセラミックバルーン(D)とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分(C)はポリアリレート樹脂(A)30〜70質量%と強化ポリアミド樹脂(B)70〜30質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分(C)50〜85質量%に対してセラミックバルーン(D)50〜15質量%を含むものであり、前記強化ポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩を平均20Å以上の層間距離で、かつ膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層の50%以上が塊を形成することなく含有されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記強化ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド樹脂100質量部に対して膨潤性層状珪酸塩0.01〜10質量部が含有されてなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物からなる成形品であって、下記(i)〜(iv)の物性を有することを特徴とする成形品。
(i)内部損失tanδが0.08以上である。
(ii)JIS K7112により測定した密度が1.20g/cm以下である。
(iii)ASTMD790により測定した曲げ弾性率が5.0GPa以上である。
(iv)ASTM D648により1.82MPa荷重下で測定した荷重たわみ温度が160℃以上である。

【公開番号】特開2012−67234(P2012−67234A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214631(P2010−214631)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】