説明

樹脂組成物

【課題】引張強度や剛性などの機械的強度に優れた、繊維を含有したポリオレフィン樹脂を提供する。
【解決手段】繊維成分並びに樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、前記繊維成分は、(A)ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる繊維(Af成分)100重量部の表面に、ガラス転移点が−80℃以上70℃未満の収束剤(Ac成分)0.1〜10重量部を付着させた表面処理繊維(A成分)であり、前記樹脂成分は、(B)グリシジル基を含有するエチレン系共重合体(B成分)、(C)不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(C成分)および(D)C成分およびB成分以外のポリオレフィン樹脂であってメルトフローレートが40〜200g/10分であるポリオレフィン樹脂(D成分)、を含有した樹脂組成物並びにその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン樹脂の引張強度や剛性などの機械的強度を改善する手段として、フィラーや繊維を混合した成形材料が数多く提案されている。
近年、部品の軽量化が強く求められるようになった。その対応策の一つとして、様々な繊維を配合して、ポリオレフィン樹脂の引張強度や剛性や表面硬さなどの機械的強度を向上させることが提案されている。繊維強化樹脂の性能発現には、繊維と樹脂との密着性が重要な役割を果たしていることは広く知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンおよび強化繊維を含有する樹脂組成物が記載され、樹脂組成物の機械的強度向上のため、繊維と樹脂の密着性改良が重要であることが記載されている。
また特許文献2には、マトリックスポリマー、変性ポリマーおよび有機高分子繊維を含有する樹脂組成物が記載されている。特許文献2には、繊維と樹脂との密着性改良の手段として、樹脂への改質剤添加と繊維表面への反応性官能基を導入する手法が記載されている。
また特許文献3には、ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレート繊維の表面に収束剤が付着した繊維および不飽和カルボン酸等で変性されたポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−121146号公報
【特許文献2】特開2009−292861号公報
【特許文献3】国際公開第2009/093748号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維およびポリオレフィン樹脂を含有し、軽量で耐衝撃性に優れる成形体が得られる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、繊維成分並びに樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、前記繊維成分は、
(A)ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる繊維(Af成分)100重量部の表面に、ガラス転移点が−80℃以上70℃未満の収束剤(Ac成分)0.1〜10重量部を付着させた表面処理繊維(A成分)であり、
前記樹脂成分は、
(B)グリシジル基を含有するエチレン系共重合体(B成分)、
(C)不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(C成分)および
(D)C成分およびB成分以外のポリオレフィン樹脂であってメルトフローレートが40〜200g/10分であるポリオレフィン樹脂(D成分)、
を含有し、
D成分の含有量は、A成分100重量部に対して30〜850重量部であり、B成分とC成分の合計含有量は、A成分100重量部に対して5〜630重量部である樹脂組成物およびその成形体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物によれば、比重が小さく軽量で、耐衝撃性に優れる成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<繊維成分>
本発明において繊維成分は、繊維(Af成分)の表面に収束剤(Ac成分)を付着させた表面処理繊維(A成分)である。
【0009】
(繊維:Af成分)
繊維(Af成分)は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる。繊維(Af成分)はポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなることが好ましい。
(ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレート)
ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートとはアルキレンジオールとナフタレンジカルボン酸との縮重合生成物であり、下記式(1)または式(2)で表されるアルキレンナフタレンジカルボキシレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。アルキレンナフタレンジカルボキシレート単位の含有量は、好ましくは全繰り返し単位量の90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは96〜100モル%である。式(1)または式(2)中のnは2〜4の整数である。
【0010】
【化1】

【0011】
アルキレンナフタレンジカルボキシレートの主鎖を形成するアルキレン基(−C2n−)としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられる。ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートは、好ましくはポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、より好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである。
(ポリアルキレンテレフタレート)
ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンジオールとテレフタル酸との縮重合体であり、下記式(3)で表されるアルキレンテレフタレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。アルキレンテレフタレート単位の含有量は、好ましくは全繰り返し単位量の90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは96〜100モル%である。式(3)中のnは2〜4の整数である。
【0012】
【化2】

【0013】
アルキレンテレフタレートの主鎖を形成するアルキレン基(−C2n−)としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられる。ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0014】
繊維(Af成分)を構成する繰り返し単位中に、他の単位(第三成分)を含んでいてもよい。かかる第三成分として、(a)2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸、グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p’−ジヒドロキシフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコールなどのオキシ化合物が挙げられる。またこれらの誘導体が挙げられる。また前記オキシカルボン酸および/または前記オキシカルボン酸の誘導体からなる高分子化合物、および前記カルボン酸および前記カルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記オキシカルボン酸および前記オキシカルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記オキシ化合物および前記オキシ化合物の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物のうち2種類以上の化合物からなる高分子化合物も前記第三成分の源の例として挙げられる。
【0015】
かかる第三成分として、(b)1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えば安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0016】
(c)3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える、例えばグリセリン、ペンタエリストール、トリメチロールプロパンなども、重合体が実質的に線状である範囲内で第三成分源として使用可能である。
繊維(Af成分)の全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステル中には、二酸化チタンなどの艶消し剤、リン酸、亜リン酸、それらのエステルなどの安定剤が含まれても良い。
このような繊維(Af成分)は、機械的な衝撃に対する耐性が高く、また樹脂とのなじみ性に優れる。一方実際に使用する低温領域においては繊維補強の効果が効率的に発揮される。
【0017】
繊維(Af成分)の単糸繊度は、好ましくは1〜30dtex、より好ましくは1.5〜25dtexである。単糸繊度の上限値は、好ましくは20dtex、より好ましくは16dtexである。単糸繊度の下限値は、好ましくは2dtexである。繊維(Af成分)の単糸繊度がこのような範囲にあることにより本発明の目的を達成しやすくなる。単糸繊度が1dtex末満では製糸性に問題が生じる傾向にあり、繊度が大きすぎると繊維/樹脂間の界面強度が低下する傾向にある。また繊維の分散の面からすれば、繊度が1dtex以上であることが好ましく、補強効果の面では繊度が30dtex以下であることが好ましい。
繊維(Af成分)を構成するポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は、好ましくは0.7dl/g以上、より好ましくは0.7〜1.0dl/gである。固有粘度は、繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。固有粘度が0.7dl/g未満では、繊維の強度、タフネスが低い傾向があり、また、耐熱性が低い傾向にある。一方、固有粘度が1.0dl/gを超えるような材料は、繊維の製造が難しい傾向にある。
【0018】
繊維(Af成分)の引張強度は、好ましくは6〜11cN/dtex、より好ましくは7〜10cN/dtexである。6cN/dtex末満では樹脂組成物の引張強度が低くなる傾向にある。また繊維(Af成分)の引張弾性率は、好ましくは18〜30GPa、より好ましくは20〜28GPaである。この値が小さいと樹脂組成物の曲げ強度が低くなる傾向にある。
繊維(Af成分)の180℃における乾熱収縮率は、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。乾熱収縮率が8%を超えると成形加工時の熱による繊維の寸法変化が大きくなり、樹脂組成物の成形形状に不良が発生する傾向があり、また、樹脂と繊維間に隙間が生じ、補強効果が低くなる傾向にある。
【0019】
このような強度を有する繊維(Af成分)は、従来公知の方法で製造することができる。即ち、繊維(Af成分)は、重合して得られたポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートのチップをさらに固相重合するなどして固有粘度を十分に高め、そのチップを溶融紡糸し、延伸することによって得ることが出来る。紡糸は、マルチフィラメントとして行うことが好ましく、マルチフィラメントの総繊度としては500〜50,000dtex、フィラメント数としては25〜25,000本の範囲であることが好ましい。
【0020】
延伸は、未延伸糸を、紡糸後に一旦巻き取り、その未延伸糸を延伸することにより行うことができる。また、未延伸糸を巻き取らずに連続的に延伸することもできる。延伸して得られる繊維はモジュラスが高く寸法安定性にも優れたものである。
また、繊維(Af成分)は、繊維の収束性が低いことが好ましく、例えば、インターレースのような単糸の交絡、製糸油剤、撚りなどが少ないことが好ましい。繊維には、特殊な用途に使用される比較的繊度が高い1本の単糸だけで構成されるモノフィラメントと、繊度が1〜30dtexの単糸(フィラメント)が10〜1000本程度合わされたマルチフィラメントがある。この中で、本発明で用いられる繊維は、衣料や産業資材用途に一般に使用され、比較的安価なマルチフィラメントが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる繊維は、樹脂中で単糸までほぐれ、この単糸が樹脂中に均一に微分散する必要がある。そのためには、人為的に加えられる糸の収束性は低いことが好ましく、単糸の交絡数は、1mあたり10個未満、好ましくは1mあたり6個未満、より好ましくは4個未満である。
マルチフィラメント繊維に交絡が施されているかどうかは、糸を水の上に浮かべることにより確認することができる。この場合、未交絡部は単糸同士が反発して水の上に広がるが、交絡部は糸の絡みで広がらず、節のようになる。また、細く薄いフックや棒をマルチフィラメントに差し込んで糸の長さ方向に動かすことによっても交絡の有無を確認できる。この場合、交絡がなければフックや棒は糸の中を動かすことができるが、交絡があるとそれ以上動かせない。フックや棒を無理に動かそうとすると、その部分で単糸切れや場合によっては断糸が発生する。
【0022】
また、製糸油剤の量は、繊維(Af成分)に対して0.5〜0.1重量%が好ましく、より好ましくは0.4〜0.1重量%、更に好ましくは0.3〜0.15重量%である。製糸油剤量が0.5重量%を超えると、繊維の収束性が高まるばかりでなく、成形体中に油剤成分が不純物として混入し、物性低下などの悪影響を及ぼす可能性がある。こういう意味から、製糸油剤量は少ないに越したことはないが、0.1重量%より少なくすると製糸の工程通過性に影響が生じ、高品質な繊維が安定して生産できない可能性がある。製糸油剤とは、紡糸や延伸などの製糸工程で使用される乳化剤および/または平滑剤を意味する。
【0023】
乳化剤成分の具体例としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールエステル化合物、および多価アルコールエステルアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。より具体的には、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド5〜25モル付加物、ヒマシ油エチレンオキサイド5〜25モル付加物トリオレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド15〜25モル付加物ジステアレート、ソルビトールエチレンオキサイド15〜40モル付加物ペンタオレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリステアレートなどが挙げられる。
【0024】
平滑剤の具体例としては、鉱物油、ヤシ油、なたね油、マッコウ油等の天然油、ブチルステアレート、オレイルラウレート、イソステアリルパルミテート等の高級アルコールと高級脂肪酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の高級アルコールと脂肪族2塩基酸のエステル、ネオペンチルグリコールジラウレート、ジエチレングリコールジオレート等の2価アルコールと高級脂肪酸のエステル、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパンデカネート等の3価アルコールと高級脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールテトラオレート等の4価以上のアルコールと高級脂肪酸エステル、ジオレイルフタレート、トリオクチルトリメリテート等の高級アルコールと芳香族カルボン酸のエステルなどが挙げられる。
このように、繊維の収束性を低くすることは樹脂組成物の補強に特に有効であり、プルトルージョン法などを用いて長繊維中に樹脂を含浸させる工程で、繊維がより開繊しやすくなり、樹脂が繊維の単糸レベルにまで浸透しやすくなる。繊維の各単糸まで樹脂が浸透し、各単糸表面を樹脂でコーティングすることができれば、次の成形工程で単糸が樹脂中に微分散しやすくなり、成形体の耐衝撃性をより高めることができる。
【0025】
(収束剤:Ac成分)
本発明の樹脂組成物において、繊維成分は、前述の繊維(Af成分)の表面に収束剤(Ac成分)を付着させた表面処理繊維(A成分)である。
収束剤(Ac成分)の付着量は、繊維(Af成分)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部である。
収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜のガラス転移温度は−80〜70℃である。ガラス転移温度の下限は好ましくは−60℃、より好ましくは−40℃である。ガラス転移温度の上限は好ましくは65℃、より好ましくは60℃、さらに好ましくは30℃である。収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜のガラス転移温度が−80℃未満であると、皮膜に粘りが生じ、混練工程で単糸が解離しにくくなり、繊維の分散斑が発生しやすくなる。収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜のガラス転移温度が70℃を超えると皮膜が硬く、脆くになりすぎて成形品に衝撃が加わったときに容易に収束剤が破壊し、繊維で樹脂成分を補強する効果が低くなる。ガラス転移温度はDSC法で測定する。
収束剤(Ac成分)は、繊維(Af成分)の単糸表面まで到達することが好ましいため、ディップ処理で繊維(Af成分)に付与することが適当である。そのため、収束剤(Ac成分)を含有する表面処理液は、水系のエマルジョンまたはサスペンジョンの形態であることが好ましい。繊維(Af成分)の単糸表面まで到達するためには、エマルジョンまたはサスペンジョンにおける収束剤(Ac成分)の分散粒子径がより小さいことが良い。分散粒子径は、具体的には0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下である。
【0026】
本発明で使用される収束剤(Ac成分)は、マルチフィラメントである繊維(Af成分)の各単糸表面に均一に付着して、単糸を収束させていることが好ましいが、樹脂成分との混練工程では低いせん断で単糸を解離し、樹脂成分中に分散させる働きをなす必要がある。そのためには、収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の抗張力やモジュラスが低いことが好ましい。
従って、収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の抗張力は、好ましくは10〜60MPa、より好ましくは20〜50MPaである。収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の抗張力が10〜60MPaの範囲にあると、皮膜が破壊難く表面処理繊維(A成分)に収束性を付与することができ、また混練工程で単糸が解離し易くなり、また表面処理繊維(A成分)の分散斑が発生し難い。
また、収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスは、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは1〜20MPaである。収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の伸度100%時モジュラスが0.1〜30MPaの範囲にあると、皮膜が破壊し難く、また混練工程で単糸が解離し易くなり、表面処理繊維(A成分)の分散斑が発生し難い。
【0027】
抗張力や伸度100%時モジュラスの測定に用いられる収束剤(Ac成分)の乾燥被膜の製造方法は下記の通りである。ガラスシャーレーやテフロンシャーレーなどを用いて、キャスト法によって揮発分を除去し良好な乾燥皮膜を得ることができる。処理温度は室温〜120℃程度で試料に合わせて適宜、処理時間を設定することができる。膜厚は、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。この皮膜を測定に合わせて加工する。例えば、抗張力や伸度を測定する際にはダンベル状に試験片を打ち抜き、引張試験の試験片とする。
収束剤(Ac成分)の乾燥皮膜の伸度は、好ましくは20〜2,500%、より好ましくは200〜2,000%、さらに好ましくは500〜1,500%である。乾燥皮膜の伸度が20〜2,500%の範囲にあると、樹脂皮膜が柔軟性を有し成形品に衝撃が加わったときに容易にポリウレタン樹脂が破壊し難く、繊維で樹脂成分を補強する効果が高く、また混練工程で単糸が解離し易く、繊維(Af成分)の分散斑が発生し難い。
【0028】
収束剤(Ac成分)として、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、澱粉、植物抽、およびこれらの混合物が挙げられる。収束剤は、ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
収束剤(Ac成分)としては、ガラス転移温度が0℃以上であり、乾燥皮膜の抗張力やモジュラスが低く、また伸度は2,500%以下であることが好ましい。このような収束剤(Ac成分)は、表面処理繊維(A成分)を樹脂成分に混合するまでの工程中では表面処理繊維(A成分)に収束性を付与し、表面処理繊維束へ樹脂成分を含浸させる工程では工程中でのせん断により、マルチフィラメントを容易に単糸に解離することができ、より高性能の樹脂組成物となる。
【0029】
また、収束剤(Ac成分)としては、ガラス転移温度が30℃未満であり、乾燥皮膜の伸度が20%以上であり、柔軟であることが好ましい。このような場合には、繊維で樹脂成分を補強する効果が高くなり、高性能の樹脂組成物となる。
収束剤(Ac成分)の軟化温度は、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃である。軟化温度が80℃未満であると、表面処理繊維(A成分)の製造時のディップ工程における乾燥段階で樹脂が脱落しやすくなり、また脱落した樹脂がディップ設備のローラーやガイド等に付着して工程通過性が悪化する。軟化温度が160℃を超えるとディップ工程における熱処理段階で樹脂が軟化しにくく、繊維の単糸と単糸との間にまで樹脂が行き渡りにくくなる。ポリウレタン樹脂は、適度な軟化温度を持っていることで、ディップ工程における熱処理段階で該樹脂が軟化して繊維の単糸と単糸との間にまで樹脂が行き渡り、ポリウレタン樹脂が冷却されたときには繊維を収束させる機能を発揮することができる。軟化温度は高化式フローテスター(constant−load orifice−type flow tester)を用いて測定された流動開始温度である。
【0030】
収束剤として、ポリウレタン樹脂が好ましい。本発明で用いるポリウレタン樹脂は、分子内に2個水酸基を有する化合物(以下、これをジオール成分と記す)と、分子内に2個イソシアネート基を有する化合物(以下、これをジイソシアネート成分と記す)とを、水を含まず、活性水素を有さない有機溶媒中で付加重合させることにより得ることができる。また、溶媒がない状態で原料を直接反応させることによっても目的物のポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0031】
ジオール成分として、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカ−ボネートジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリアセタ−ル、ポリシロキサン等のポリオール化合物、並びにエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール等の低分子量のグリコール類が挙げられる。本発明に使用されるポリウレタン樹脂は、低分子量グリコール成分を多く含むことが好ましい。
収束剤には、樹脂成分との濡れ性や接着性等を改良するため、カップリング剤を配合しても良い。このカップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等が挙げられ、好ましくはシラン系カップリング剤またはチタネート系カップリング剤であり、より好ましくはシラン系カップリング剤である。
【0032】
シラン系カップリング剤としては、例えば、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類である。
収束剤中のカップリング剤の含有量は、好ましくは0.01重量%〜10重量%、より好ましくは0.02重量%〜5重量%である。
【0033】
(表面処理)
本発明において表面処理繊維(A成分)は、繊維(Af成分)の表面に収束剤(Ac成分)を付着させたものである。表面処理は収束剤(Ac成分)を含んだ表面処理液を繊維束に含浸させ、熱により乾燥させることが好ましい。乾燥温度としては80〜200℃、時間としては30〜300秒程度であることが、繊維の強度保持と処理剤の接着の面から最適である。また、このとき乾燥機は繊維の表面状態を維持する目的から、非接触型であることが好ましい。
【0034】
<樹脂成分>
(エチレン系共重合体:B成分)
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分としてグリシジル基を含有するエチレン系共重合体(B成分)を含有する。
【0035】
エチレン系共重合体(B成分)は下記式で表される単位(4)を含有する。
【0036】
【化3】

【0037】
式中Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基である。Zは−CO−または−CH−である。
単位(4)は、グリシジル基を有する単量体由来の単位である。グリシジル基を有する単量体として、例えばグリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート等のα,β−不飽和グリシジルエステル、またはアリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテルなどのα,β−不飽和グリシジルエーテルを挙げることが出来る。好ましくはグリシジルメタクアクリレートである。
またエチレン系共重合体(B成分)は下記式で表される単位(5)を含有する。
【0038】
【化4】

【0039】
式中Rは、水素原子、またはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基である。Rは、水素原子、−COORまたは−O−CO−Rである(R、Rは各々独立に、水素原子、またはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基である。)
単位(5)は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等の不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピレン酸ビニル等の不飽和ビニルエステル等に由来する単位である。
【0040】
エチレン系共重合体(B成分)中の単位(4)の含有量は、好ましくは0.1〜10モル%、より好ましくは1.0〜5.0モル%である。またエチレン系共重合体(B成分)中の単位(5)の含有量は、好ましくは0.1〜20モル%、より好ましくは1.0〜15モル%である。エチレン系共重合体(B成分)中の単位(4)の含有量は、国際公開2008/081791号パンフレットに記載の方法に準じて測定できる。また単位(5)の含有量は、赤外線吸収スペクトルによって測定できる。
エチレン系共重合体(B成分)は、変性ポリオレフィン樹脂(C成分)との相溶分散性の観点から、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を有していないことが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、クロロスチレン、2,4−ジメチルスチレンなどが挙げられる。
【0041】
エチレン系共重合体(B成分)のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分〜500g/10分であり、より好ましくは10g/10分〜400g/10分である。ここでいうメルトフローレートとは、JIS K 7210(1995)に規定された方法によって、荷重21.18N、試験温度190℃の条件で測定される。
エチレン系共重合体(B成分)は、例えば、高圧ラジカル重合法、溶液重合法、乳化重合法等により、グリシジル基を有する単量体とエチレンと、必要に応じて他の単量体とを共重合する方法、エチレン系樹脂にグリシジル基を有する単量体をグラフト重合させる方法等により製造することができる。
【0042】
(変性ポリオレフィン樹脂:C成分)
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として変性ポリオレフィン樹脂(C成分)を含有する。変性ポリオレフィン樹脂(C成分)は、ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性して得られた樹脂である。
この変性ポリオレフィン樹脂(C成分)の原料となるポリオレフィン樹脂は、後述するポリオレフィン樹脂(D成分)と同じであり、1種類のオレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体からなる樹脂である。従って、変性ポリオレフィン樹脂(C成分)は、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性されている以外は、後述するポリオレフィン樹脂(D成分)と同じと言うことも出来る。
変性ポリオレフィン樹脂(C成分)は、換言すれば、1種類のオレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体に不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体を反応させて生成した樹脂であって、分子中に不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸誘導体に由来する部分構造を有している樹脂である。具体的には、次の(C−a)〜(C−c)の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。これらは単独または2種以上を併用してもよい。
(C−a) :オレフィンの単独重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(C−b) :2種以上のオレフィンを共重合して得られる共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(C−c) :オレフィンを単独重合した後に2種以上のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
上記不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0043】
また、不飽和カルボン酸誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、不飽和カルボン酸としてはマレイン酸、アクリル酸を用いることが好ましく、不飽和カルボン酸誘導体としては、無水マレイン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを用いることが好ましい。
上記変性ポリオレフィン樹脂(C成分)として、好ましくは、(C−c)である。(C−c)のうち、次の(C−d)を用いることがより好ましい。
【0044】
(C−d) :エチレンおよび/またはプロピレンのオレフィンに由来する単位を主な単量体単位として含有するポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルをグラフト重合することによって得られる変性ポリオレフィン樹脂。
変性ポリオレフィン樹脂(C成分)に含有される不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有量は、得られる成形体の衝撃強度、疲労特性、剛性等の機械的強度を良好なものとするという観点から、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%である。なお、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有量は、赤外吸収スペクトルまたはNMRスペクトルによって、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に基づく吸収を定量して算出した値を用いる。
変性ポリオレフィン樹脂(C成分)の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体のグラフト効率は、成形体の機械物性などの観点から0.51以上であることが好ましい。グラフト効率は、以下の(手順1)および(手順2)によって求めることができる。
【0045】
(手順1)
変性ポリオレフィン1.0gをキシレン100mlに溶解した後、サンプルのキシレン溶液をメタノール1000mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿により回収する。(以下、溶解から回収までの上記作業を精製と称する。)回収した精製サンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作成する。この作成したフィルムを赤外吸収スペクトルによって、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に基づく吸収を定量することで、変性ポリオレフィン中のポリオレフィン樹脂と反応した不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体の含有量(X1)を算出する。
【0046】
(手順2)
前記(手順1)の方法で不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体の含有量を求めた際の精製前の変性ポリオレフィン樹脂を熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作成する。この作成したフィルムを赤外吸収スペクトルによって、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に基づく吸収を定量することで、変性ポリオレフィン中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体の含有量(X2)を算出する。前記(手順1)で求めた含有量(X1)を手順2で求めた含有量(X2)で割ることで、グラフト効率を算出する。
これらの変性ポリオレフィン樹脂(C成分)は、溶液法、バルク法、溶融混練法等によって製造することができる。また、2種以上の方法を併用しても良い。溶液法、バルク法、溶融混練法等の具体的な例としては、例えば、“実用ポリマーアロイ設計”(井手文雄著、工業調査会(1996年発行))、Prog.Polym.Sci.,24,81−142(1999)、特開2002−308947号公報、特開2004−292581号公報、特開2004−217753号公報、特開2004−217754号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0047】
(ポリオレフィン樹脂:D成分)
本発明の樹脂組成物は、メルトフローレートが40〜200g/10分であるポリオレフィン樹脂(D成分)をさらに含有する。ポリオレフィン樹脂(D成分)は、オレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体からなる樹脂であり、不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂(C成分)や、グリシジル基を含有するエチレン系共重合体(B成分)はこれに該当しない。
【0048】
ポリオレフィン樹脂(D成分)としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂(D成分)は、好ましくはポリプロピレン樹脂である。ポリオレフィン樹脂(D成分)は、単一のポリオレフィン樹脂でも良く、2種以上のポリオレフィン樹脂の混合物でも良い。
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を生成させた後に、該プロピレン単独重合体の存在下にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。α−オレフィンは炭素数4〜8のものが好ましい。耐熱性の観点から、ポリプロピレン樹脂として、プロピレン単独重合体、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体が好ましい。
【0049】
プロピレン−エチレンランダム共重合体の、エチレンに由来する単量体単位の含有量(ただし、プロピレンとエチレンの合計量を100モル%とする)、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の、α−オレフィンに由来する単量体単位の含有量(ただし、プロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体の、エチレンとα−オレフィンに由来する単量体単位の合計含有量(ただし、プロピレンとエチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)は、いずれも50モル%未満である。前記エチレンの含有量、α−オレフィンの含有量およびエチレンとα−オレフィンの合計含有量は、“新版 高分子分析ハンドブック”(日本化学会、高分子分析研究懇談会編 紀伊国屋書店(1995))に記載されているIR法またはNMR法を用いて測定される。
【0050】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体等が挙げられる。ここでα−オレフィンは炭素数4〜8のものが好ましい。なお、エチレン−プロピレンランダム共重合体の、プロピレンに由来する単量体単位の含有量(ただし、エチレンとプロピレンの合計量を100モル%とする)、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるα−オレフィンの含有量(ただし、エチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)、エチレン−プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるプロピレンとα−オレフィンの合計含有量(ただし、エチレンとプロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)は、いずれも50モル%未満である。
【0051】
ポリオレフィン樹脂(D成分)の構成成分であるα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜8のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン)である。
【0052】
ポリオレフィン樹脂(D成分)は、溶液重合法、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等によって製造することができる。また、これらの重合法を単独で用いても良く、2種以上の重合法を組み合わせても良い。ポリオレフィン樹脂(D成分)のより具体的な製造方法の例としては、例えば、“新ポリマー製造プロセス”(佐伯康治編集、工業調査会(1994年発行))、特開平4−323207号公報、特開昭61−287917号公報等に記載されている重合法が挙げられる。
【0053】
ポリオレフィン樹脂(D成分)の製造に用いられる触媒としては、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒が挙げられる。好ましいマルチサイト触媒として、チタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられる。また、好ましいシングルサイト触媒として、メタロセン触媒が挙げられる。ポリオレフィン樹脂(D成分)としてのポリプロピレン樹脂の製造に用いられる好ましい触媒として、上記のチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられる。
【0054】
ポリオレフィン樹脂(D成分)のメルトフローレート(MFR)は、成形体中における表面処理繊維(A成分)の分散性、成形体の外観不良や衝撃強度という観点から、40〜200g/10分であり、好ましくは40〜150g/10分である。なお、MFRは、ASTM D1238に従い、230℃、21.2N荷重で測定した値である。
【0055】
ポリオレフィン樹脂(D成分)としてのプロピレン単独重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.00、より好ましくは0.96〜1.00、さらに好ましくは0.97〜1.00である。アイソタクチックペンタッド分率とは、A.ZambelliらによってMacromolecules,第6巻,第925頁(1973年)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピ−クの帰属は、Macromolecules,第8巻,第687頁(1975年)に基づいて行う。
【0056】
ポリオレフィン樹脂(D成分)がプロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体の場合、前記プロピレン単独重合体部のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.00、より好ましくは0.96〜1.00、さらに好ましくは0.97〜1.00である。
プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体中のエチレン−プロピレン共重合体の含有量は、好ましくは10〜20重量%である。
プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体中のエチレン−プロピレン共重合体に含まれるエチレンに由来する単量体単位の含有量は、好ましくは25〜45重量%である。
【0057】
(組成比)
本発明の樹脂組成物中のエチレン系共重合体(B成分)の含有量は、表面処理繊維(A成分)100重量部に対して、好ましくは0.1〜600重量部、より好ましくは0.2〜420重量部、さらに好ましくは0.3〜300重量部である。
また変性ポリオレフィン樹脂(C成分)の含有量は、表面処理繊維(A成分)100重量部に対して、好ましくは0.3〜500重量部、より好ましくは0.5〜360重量部、さらに好ましくは1〜250重量部である。
またポリオレフィン樹脂(D成分)の含有量は、A成分100重量部に対して、30〜850重量部、好ましくは75〜850重量部、より好ましくは150〜850重量部である。
【0058】
エチレン系共重合体(B成分)と変性ポリオレフィン(C)との合計含有量は、A成分100重量部に対して、5〜630重量部、好ましくは8〜450重量部、より好ましくは11〜315重量部である。
エチレン系共重合体(B成分)の含有量と変性ポリオレフィン(C成分)の含有量は、表面処理繊維と樹脂成分の密着性を効率的に強化するという観点から、下記式を満足することが好ましい。
0.02≦Cx・Cy/Bx・By≦3.0
下記式を満足することがさらに好ましい。
0.02≦Cx・Cy/Bx・By≦0.8
Bx:エチレン系共重合体(B成分)の含有量(重量%)
By:エチレン系共重合体(B成分)中のグリシジル基を有する単量体単位の含有量(重量%)
Cx:変性ポリオレフィン樹脂(C成分)の含有量(重量%)
Cy:変性ポリオレフィン樹脂(C成分)中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有量(重量%)
なお、Bx・By、Cx・Cyの値は赤外吸収スペクトルから以下の方法により算出することができる。
【0059】
Bx・Byの算出方法
下記の方法により得られたプレスシートを、赤外吸収スペクトルの特性吸収の吸光度を厚さで補正して、検量線法により樹脂部中のグリシジル基を有する単量体単位の含有率を求めた。なお、グリシジル基を有する単量体単位の特性吸収としては、910cm−1のピークを用いた。樹脂組成物の重量に、算出した含有率を乗じることでBx・Byを算出した。
【0060】
Cx・Cyの算出方法
下記の方法により得られたプレスシートを、赤外吸収スペクトルの特性吸収の吸光度を厚さで補正して、検量線法により樹脂部中の不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有率を求めた。なお、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の特性吸収としては、1780cm−1のピークを用いた。樹脂組成物の重量に、算出した含有率を乗じることでCx・Cyを算出した。
【0061】
赤外吸収スペクトル測定用には、本発明に係る樹脂組成物1.0gをキシレン100mlに溶解した後、サンプルのキシレン溶液をメタノール1,000mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿により回収し、回収したサンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより得られた厚さ100μmのフィルム(プレスシート)を測定用試料として用いた。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、1種以上のエラストマーを含有していてもよい。エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、PVC系エラストマー等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤等の安定剤、気泡防止剤、難燃剤、難燃助剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、シリカ等のアンチブロッキング剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、造核剤や結晶化促進剤等を含有していても良い。
本発明の樹脂組成物は、ガラスフレーク、マイカ、ガラス粉、ガラスビ−ズ、タルク、クレー、アルミナ、カーボンブラック、ウォールスナイト等の板状、粉粒状、ウィスカー状の無機化合物等を含有していても良い。
【0063】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、次の(1)〜(3)の方法等が挙げられる。
(1) 各成分の全てを混合して混合物とした後、その混合物を溶融混練する方法。
(2) 全成分を逐次添加することにより混合物を得た後、その混合物を溶融混練する方法。
(3) プルトルージョン法。
上記の(1)または(2)の方法において、溶融混練する混合物を得る方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等によって混合する方法が挙げられる。そして、溶融混練する法としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸押出機等によって溶融混練する方法が挙げられる。
【0064】
本発明の樹脂組成物はプルトルージョン法で製造することができる。プルトルージョン法は、樹脂組成物の製造の容易さ、得られる成形体の衝撃強度等の機械的強度の観点から好ましい。プルトルージョン法とは、基本的には連続した繊維束を引きながら、繊維束に樹脂を含浸させる方法であり、例えば、次の(1)〜(3)の方法等が挙げられる。
(1) 樹脂成分と溶媒からなるエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸槽の中に繊維束を通し、繊維束に該エマルジョン、サスペンジョンまたは溶液を含浸させた後、溶媒を除去する方法、
(2) 樹脂成分の粉末を繊維束に吹き付けたのち、または、樹脂成分の粉末を入れた槽の中に繊維束を通し繊維に樹脂成分粉末を付着させたのち、該粉末を溶融して繊維束に樹脂成分を含浸させる方法、
(3) クロスヘッドの中に繊維束を通しながら、押出機等からクロスヘッドに溶融樹脂成分を供給し、繊維束に該樹脂成分を含浸させる方法。
【0065】
本発明の成形体を構成する樹脂組成物は、上記(3)のクロスヘッドを用いるプルトルージョン法、より好ましくは、特開平3−272830号公報等に記載されているクロスヘッドを用いるプルトルージョン法で製造することが好ましい。
上記のプルトルージョン法において、樹脂成分の含浸操作は1段で行っても良く、2段以上に分けて行っても良い。また、プルトルージョン法によって製造された樹脂組成物ペレットと、溶融混練法によって製造された樹脂組成物ペレットをブレンドしても良い。
樹脂組成物ペレットを射出成形に適用した場合、射出成形における金型キャビティへの充填しやすさ、強度が高い成形品が得られるという観点から、プルトルージョン法で製造された樹脂組成物ペレットの長さは、2〜50mmであることが好ましい。より好ましい長さは、3〜20mmであり、特に好ましくは5〜15mmである。樹脂組成物ペレットの全長が2mm未満の場合、表面処理繊維(A成分)を含有していない樹脂組成物と比較して、剛性、耐熱性、衝撃強度および制振特性の改良効果が低いことがある。樹脂組成物ペレットの全長が50mmを超えた場合、成形が困難となることがある。
【0066】
プルトルージョン法で製造された樹脂組成物ペレットの長さとその樹脂組成物ペレットに含有される表面処理繊維(A成分)の重量平均繊維長は等しい。樹脂組成物ペレットの長さとその樹脂組成物ペレット中に含有される表面処理繊維(A成分)の長さとが等しいということは、樹脂組成物ペレットに含有される表面処理繊維(A成分)の重量平均繊維長が、ペレットの全長の90〜110%の範囲内にあることをいう。
重量平均繊維長は、特開2002−5924号公報に記載されている方法(ただし、灰化工程は行わない)によって測定する。即ち、繊維の長さは、以下の(ii)〜(iv)の手順で測定する。
(ii) 繊維を、その重量の1000倍以上の重量の液体中に均一分散させ、
(iii)均一分散液から、0.1〜2mgの範囲の量の繊維を含有する量だけを取り出し、
(iv) ろ過または乾燥により、取り出した該均一分散液から繊維を回収し、回収した全繊維の各々について繊維長を測定する。
樹脂組成物ペレット中の表面処理繊維(A成分)の重量平均繊維長は、好ましくは2〜50mm、より好ましくは3〜20mm、さらに好ましくは5〜15mmである。また、本発明射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物ペレットにおいて、表面処理繊維(A成分)は、通常、互いに平行に配列している。
【0067】
<成形体>
本発明は、本発明の樹脂組成物から得られる成形体を包含する。成形方法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法等が挙げられる。
本発明の成形体に含有される表面処理繊維(A成分)の重量平均繊維長が1mm以上であることが好ましい。成形体に含有される表面処理繊維(A成分)の重量平均繊維長は、より好ましくは、成形体の機械的強度、耐久性および制振特性の観点から、1〜10mmである。
耐熱剛性の要求される自動車内装材部品やエンジンルーム内部品、並びに機械的強度、耐久性、振動減衰特性および良好な外観が必要とされる自動車外装材部品等が挙げられる。
【0068】
外装部品としては、例えばフェンダー、オーバーフェンダー、グリルガード、カウルルーバー、ホイールキャップ、サイドプロテクター、サイドモール、サイドロアスカート、フロントグリル、サイドステップ、ルーフレール、リアスポイラー、バンパー等が挙げられ、内装部品としては、例えばインパネロア、トリム等が挙げられ、エンジン内の部品としては、例えばバンパービーム、クーリングファン、ファンシュラウド、ランプハウジング、カーヒーターケース、ヒューズボックス、エアクリーナーケース等が挙げられる。
【0069】
また、本発明の成形体の用途としては、各種電気製品の部品、各種機械の部品、構造物等の部品等が挙げられ、各種電気製品の部品としては、例えば電動工具、カメラ、ビデオカメラ、電子レンジ、電気釜、ポット、掃除機、パーソナルコンピューター、複写機、プリンター、FDD、CRTの機械ハウジング等が挙げられ、各種機械の部品としては、例えばポンプケーシング等が挙げられ、構造物等の部品としては、例えばタンク、パイプ、建築用型枠等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例によって、本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
【0071】
(1)繊維の固有粘度
オルソクロロフェノール100mlに対して、繊維1.2gを加え、100℃で溶解させた。これをオストワルド粘度計を用いて35℃の恒温槽内で測定した。
(2)繊維の引張強度、引張弾性率
JIS−L1013に従って、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分の条件で測定した。
(3)繊維の180℃における乾熱収縮率
JIS−L1013 B法(フィラメント収縮率)に従って180℃で30分間の収縮率とした。
(4)皮膜のガラス転移温度
膜厚50μm、幅4mmの試験片を作成しDSC法で測定した。
サンプル重量:10.0mg
雰囲気下
温度:−100〜200℃
昇温速度:20℃/min
【0072】
(5)皮膜の引張強度、伸度、100%モジュラス
大きさ4cm×0.5cm、膜厚150μmの試験片を作成し、試験速度300mm/秒にて引張強度と伸度を測定した。破断時の応力(引張強度)を抗張力、試験片が100%伸びた点の応力を100%モジュラスとした。
(6)変性比(単位:−)
変性比=Cx・Cy/Bx・Byで表される値である。
Bx:エチレン系共重合体(B成分)の含有量
By:B成分中のグリシジル基を有する単量体単位の含有量
Cx:変性ポリオレフィン樹脂(C成分)の含有量
Cy:C成分中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有量
(7)成形体の面衝撃強度、比重、重量平均繊維長
面衝撃強度、比重、重量平均繊維長は、得られた繊維含有ペレットを下記の成形機を用いて、下記の条件で射出成形したサンプル(80mm×80mm×3mm厚)で行った。
【0073】
〔成形機〕
成形機:日本製鋼所製成形機J150E
型締力:150t
スクリュー:深溝スクリュー
スクリュー径:46mm
スクリューL/D:20.3
【0074】
〔成形条件〕
シリンダー温度:200℃
金型温度:50℃
背圧:0MPa
【0075】
(i)面衝撃強度(単位:J)
サンプルの面衝撃強度は、HIGH RATE IMPACT TESTER (Reometrics.inc製)により、測定条件としては1/2インチのダート径で、速度を5m/secとして、2インチの孔径を有するリングにより固定した80mm×80mm×3mm厚のサンプルを打ち抜き、変位と荷重の波形を測定した。その後、打ち抜きに要するエネルギー値を算出した。
(ii)比重
A.S.T.M D792に従って、測定した。
(iii)重量平均繊維長(単位:mm)
ソックスレー抽出法(溶媒:キシレン)でサンプルより樹脂を除去して、繊維を回収し、以下の方法により、重量平均繊維長を測定した。即ち、繊維の長さは、以下の手順(i)〜(iii)で測定した。
(i)繊維の重量の1000倍以上の重量の液体中に均一分散させ、
(ii)均一分散液から繊維の重量が0.1〜2mgの範囲になるように均一分散液の一部を取り出し、
(iii)ろ過または乾燥により該均一分散液の一部から繊維を取り出し、繊維の全数について繊維長を測定し平均値を求めた。
【0076】
調製例1:表面処理繊維A−1の調製
(繊維の調製)
固有粘度0.62のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと略すことがある)のチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、固有粘度0.84のPENチップを得た。
このチップを、孔数144ホール、孔径0.8mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金からポリマー温度310℃で吐出した。吐出量は、紡糸延伸後の繊度が1670dtexとなるように調整した。吐出した糸状は加熱紡糸筒を通じ、さらに25℃の冷却風を吹き付けて冷却した。その後、なたね油、硬化ひまし油エチレンオキサイド17モル付加物、ジオクチルスルホサクシネートを混合した紡糸油剤を、油分の乾燥後付着量が繊維重量に対して0.3重量%となるように油剤付与装置にて一定量計量供給して付与した後、引取りローラーに導き、未延伸糸として巻取機で巻取った。
【0077】
次いで、この未延伸糸を130m/分の周速で回転する150℃の加熱供給ローラーと180℃の第一段延伸ローラーとの間で5.0倍の第一段延伸を行い、次いで第一段延伸ローラーと180℃に加熱した第二段延伸ローラーとの間で230℃に加熱した非接触式セットバス(長さ70cm)を通し、定長熱セットを行った後、巻取機に巻き取った。圧縮空気の吹き付けによる、巻き取り前の交絡処理は行わなかった。得られた延伸糸は繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は33μmであった(以下、PEN繊維という)。この繊維の固有粘度は0.90であった。また引張強度は7.9cN/dtex、引張弾性率は165cN/dtex、180℃における乾熱収縮率は5.9%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたものであった。
【0078】
(表面処理液(a)の調製)
分子内に親水成分としてカルボキシレートを有し、水中にて安定して自己乳化するポリエステル系ポリウレタン樹脂(固形成分濃度23重量%、軟化温度110℃)を、処理液のポリウレタン樹脂濃度が10重量%になるように水で希釈し、表面処理液(a)とした。この表面処理液(a)中のポリウレタン樹脂エマルジョンの水分散粒子径は35nmであった。
【0079】
(皮膜物性)
表面処理液(a)より揮発分である水を蒸発させて得た皮膜の物性は、引張強度が44MPa、伸度が500%、100%モジュラスが7MPa、ガラス転移温度が7℃であった。
【0080】
(表面処理)
PEN繊維を、表面処理液(a)を用いてディップ処理した。その後、非接触ヒータにて180℃で60秒の熱処理を施し、ポリウレタン表面処理PEN繊維を得た(以下、A−1という)。PEN繊維100重量部に対する収束剤固形分の付着量は3.1重量部であった。
【0081】
調製例2:表面処理繊維A−2の調製
(表面処理液(b)の調製)
水中にて安定して自己乳化するポリエステル系ポリウレタン樹脂(固形成分濃度20重量%、軟化温度113℃)を、処理液のポリウレタン樹脂濃度が8重量%になるように水で希釈し、表面処理液(b)とした。この表面処理液(b)中のポリウレタン樹脂エマルジョンの水分散粒子径は61nmであった。
【0082】
(皮膜物性)
表面処理液(b)より揮発分である水を蒸発させて得た皮膜の物性は、引張強度が35MPa、伸度が30%、ガラス転移温度が61℃であった。
【0083】
(表面処理)
調製例1で使用したPEN繊維を、表面処理液(b)を用いてディップ処理した。その後、非接触ヒータにて180℃で60秒の熱処理を施し、ポリウレタン表面処理PEN繊維(A−2)を得た。PEN繊維100重量部に対する収束剤固形分の付着量は2.3重量部であった。
【0084】
比較調製例1:表面処理繊維A−3の調製
(表面処理液(c)の調製)
ポリエポキシド化合物(固形分濃度100重量%)を0.5重量%、ブロックドポリイソシアネート(固形分濃度40重量%)を11.3重量%、水を88.2重量%とし、総固形分濃度5重量%の表面処理液(c)を調製した(但し、ポリエポキシド化合物、ブロックドポリイソシアネートおよび水の合計を100重量%とする)。
【0085】
(表面処理)
この表面処理液(c)を用いて、調製例1で使用したPEN繊維にディップ処理した。その後、非接触ヒータにて240℃で60秒の熱処理を施し、表面処理PEN繊維(A−3)を得た。PEN繊維100重量部に対するこの収束剤固形分の付着量は4.0重量部であった。
この収束剤は作成した皮膜がもろいため、物性を測定できなかった。ガラス転移温度の測定は、DSC法にて行なったが、分解温度は100℃以上で、ガラス転移温度は検出できなかった。
【0086】
<エチレン系共重合体(B−1)>
エチレン系共重合体(B−1)として、エチレン−グリシジルメタアクリレート共重合体(住友化学(株)製ボンドファースト、グレード:CG5001、MFR(荷重21.18N、試験温度190℃)=380g/10分、グリシジルメタアクリレート含量=19重量%)を用いた。
【0087】
<変性ポリプロピレン(C−1)の調製>
プロピレンブロック共重合体(極限粘度[η]=2.8(dl/g)、EP含量=21重量%)100重量部に、無水マレイン酸1.0重量部、ジセチル パーオキシジカルボネート0.50重量部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン0.15重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部、酸化防止剤テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.3重量部を添加して十分に予備混合後、予備混合された混合物を単軸押出機の供給口より供給して混練を行い、変性ポリオレフィン樹脂(C−1)を得た。
用いた単軸押出機は、いすず加工機製単軸押出機 EXT−90(L/D=36、シリンダー径90mm)であった。シリンダー温度は前半を180℃に、後半を250℃に設定し、スクリュー回転数は133rpmで行った。
得られた変性ポリプロピレン(C−1)のMFR(230℃、21.2N荷重で測定)は70g/10分、無水マレイン酸グラフト量は0.6重量%、グラフト効率は0.8であった。
【0088】
<ポリプロピレン樹脂(D−1)>
ポリプロピレン樹脂(D−1)として、プロピレン単独重合体(住友化学(株)製ノーブレン、グレード:U501E1、MFR(230℃、21.2N荷重で測定)=120g/10分、アイソタクチックペンタッド分率=0.98)を用いた。
【0089】
<ポリプロピレン樹脂(D−2)>
ポリプロピレン樹脂(D−2)として、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合することで得られるプロピレン単独重合体とエチレン−プロピレン共重合体の混合物(住友化学(株)製ノーブレン、グレード:WPX5343、MFR(230℃、21.2N荷重で測定)=50g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量=13重量%、共重合体中のエチレン含量=36重量%、アイソタクチックペンタッド分率=0.98)を用いた。
【0090】
<ポリプロピレン樹脂(D−3)>
ポリプロピレン樹脂(D−3)として、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合することで得られるプロピレン単独重合体とエチレン−プロピレン共重合体の混合物(住友化学(株)製ノーブレン、グレード:AU161C、MFR(230℃、21.2N荷重で測定)=90g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量=11重量%、アイソタクチックペンタッド分率=0.97)を用いた。
【0091】
<ポリプロピレン樹脂(D−4)>
ポリプロピレン樹脂(D−4)として、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合することで得られるプロピレン単独重合体とエチレン−プロピレン共重合体の混合物(住友化学(株)製ノーブレン、グレード:AZ864、MFR(230℃、21.2N荷重で測定)=33g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量=21重量%、共重合体中のエチレン含量=34重量%、アイソタクチックペンタッド分率=0.98)を用いた。
【0092】
実施例1〜9
表1に示した組成で、ペレット長が11mmの繊維含有ペレットを製造した。即ち、表面処理繊維(A成分)をそれぞれ、通路を波状に加工したクロスヘッドダイを通して引きながら、クロスヘッドダイに接続された押出機から供給される樹脂成分に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り細断し、繊維含有ペレットを得た。含浸温度は200℃、引取り速度は13m/分で行った。
繊維含有ペレットを用いて評価用サンプルを射出成形し面衝撃強度、比重、残留重量平均繊維長を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
比較例1
表面処理繊維(A−1)の代わりに表面処理繊維(A−3)を用いる以外は、実施例3と同じ組成の樹脂組成物を製造した。結果を表2に示す。
【0094】
比較例2
表面処理繊維(A−1)の代わりに表面処理繊維(A−3)を用いる以外は、実施例2と同じ組成の樹脂組成物を製造した。結果を表2に示す。
【0095】
比較例3
エチレン系共重合体(B−1)を用いず、表2に示す組成の樹脂組成物を製造した。その結果を表2に示す。
【0096】
<比較例4および5>
ポリプロピレン樹脂(D−4)を用いて表2に示す組成の樹脂組成物を製造した。その結果を表2に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の樹脂組成物および成形品は、自動車用部品等に利用することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成分並びに樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
前記繊維成分は、
(A)ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる繊維(Af成分)100重量部の表面に、ガラス転移点が−80℃以上70℃未満の収束剤(Ac成分)0.1〜10重量部を付着させた表面処理繊維(A成分)であり、
前記樹脂成分は、
(B)グリシジル基を含有するエチレン系共重合体(B成分)、
(C)不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(C成分)および
(D)C成分およびB成分以外のポリオレフィン樹脂であってメルトフローレートが40〜200g/10分であるポリオレフィン樹脂(D成分)、
を含有し、
D成分の含有量は、A成分100重量部に対して30〜850重量部であり、B成分とC成分の合計含有量は、A成分100重量部に対して5〜630重量部である樹脂組成物。
【請求項2】
Ac成分は、ポリウレタン樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
B成分およびC成分は、下記の式を満足する請求項1または2に記載の樹脂組成物。
0.02≦Cx・Cy/Bx・By≦3.0
Bx:B成分の含有量(重量%)
By:B成分中のグリシジル基を有する単量体単位の含有量(重量%)
Cx:C成分の含有量(重量%)
Cy:C成分中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する単量体単位の含有量(重量%)
【請求項4】
Af成分は、重量平均繊維長が2〜50mmである請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
外形がペレット状である請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項7】
自動車内装材部品、自動車外装材部品またはエンジンルーム内部品である請求項6に記載の成形体。


【公開番号】特開2012−7152(P2012−7152A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112564(P2011−112564)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】