説明

樹脂被覆金属板用積層シ−ト、該積層シートの製造方法、および、意匠性積層シート被覆金属板、ユニットバス部材、建築内装材、および、鋼製家具部材

【課題】押出しキャストエンボス法によるエンボス転写性が良好で、エンボス耐熱性の高い表面のエンボス意匠を有し、かつ、印刷による柄の意匠を併せ持つ、加工性、意匠性に優れた樹脂被覆金属板を得ることができる樹脂被覆金属板用積層シートを提供する。
【解決手段】A層(10)、B層(20)、印刷柄E(50)、C層(30)およびD層(40)からなる樹脂被覆金属板用積層シート。A層:所定のPBT系樹脂および所定のポリエステル系樹脂からなる樹脂層、B層:所定のポリエステル系樹脂を主体としてなる樹脂層、C層:所定のポリエステル系樹脂を主体としてなる樹脂層、D層:所定のPBT系樹脂を含有してなる樹脂層、A層とB層とを共押出し製膜法により積層すると同時に、キャスティングロールとしてエンボスロールを用いることにより形成された柄意匠をA層側表面に備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユニットバス壁材、同天井材、建築内装材等の用途に用いることができる樹脂被覆金属板用積層シート、該積層シートの製造方法、および、意匠性積層シート被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築内装材用途に用いられる意匠性樹脂被覆金属板としては、いわゆる鏡面意匠と呼ばれるタイプのものと、エンボス意匠と呼ばれるタイプのものとが用いられてきた。エンボス意匠と呼ばれるタイプのものとしては、顔料の添加により着色された軟質ポリビニルクロライド(以下、「軟質PVC」と省略する場合がある。)のカレンダー製膜法により得られた単層シート、あるいは、該着色軟質PVCシートの表面に印刷を施し、さらに、同様にカレンダー製膜法により得られた実質的に透明な軟質PVCシートを積層したものなどの表面に、エンボス加工を施したものが用いられてきた。
【0003】
軟質PVCシート被覆金属板は、長期の使用実績を有し、建材用途の中でも過酷な使用環境で用いられるユニットバス用途等にも安心して使用できる性能を有するものであったが、近年、塩化ビニル系樹脂に添加される一部の安定剤に起因する重金属化合物の問題や、燃焼時に塩化水素ガスその他の塩素含有ガスを発生する問題に加えて、内装建材用途においては特に、一部の可塑剤や安定剤に起因する揮発性有機化合物(VOC)問題や内分泌撹乱物質を有する懸念等から軟質PVCの使用は制限を受けるようになってきた。
【0004】
そこで、性能面や意匠面で軟質PVCを使用したシートに代替し得る材料として、ポリエステル系樹脂シートなどを用いることが検討されてきており、特許文献1では、カレンダー製膜法によりシートを得ることが可能な実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂から成る組成物が提示されている。また、特許文献2では、透明な非晶性ポリエステル系樹脂から成るシートと、着色不透明な非晶性ポリエステル系樹脂から成るシートの間に印刷柄を介在させた化粧シートが提示されている。
【0005】
しかし、これらのようなガラス転移温度が80℃程度で、且つ結晶性を有しないポリエステル系樹脂から成るシートを樹脂被覆金属板の用途に供した場合は、金属板へのラミネートなどの後工程での加熱に際して著しいエンボス戻りを生じてしまう問題があった。また、同様に樹脂組成物のガラス転移温度が80℃程度である事と結晶性を有しないことから、ユニットバス用途に使用される樹脂被覆金属板の評価試験項目として含まれる事の多い沸騰水浸漬試験に供した場合、樹脂層が弾性を保持し得ず流動変形を生じ、著しい外観不良をもたらす問題点もあった。
【0006】
ポリエステル系樹脂からなるシートで、金属板へラミネートする際に受ける加熱などに対するエンボス耐熱性を確保するためには、以下の方法等が考えられる。
(1)エンボスが付与される層の樹脂組成として、結晶性を有するポリエステル系樹脂を用い、エンボス付与と同時に結晶化させることで、結晶融点に至る温度までシートの弾性率が保持されることを利用する。
(2)エンボスが付与される層の樹脂組成として、ガラス転移温度が高いポリエステル系樹脂を用いることで、金属板へのラミネートの際にエンボスが付与されているシート表面近傍の温度が上昇しても、樹脂組成のガラス転移温度がそれを越えないようにする。
(3)熱硬化性の塗膜層等をシート表面のエンボスが付与された面に設けることで、エンボスを物理的に固定してしまう。
(4)シートの厚みを厚くすることで、ラミネート時に加熱された金属板からの熱伝達によるシート表面の温度上昇を低く抑える。
【0007】
しかし、(3)の方法では、溶剤系のコート剤を塗工、乾燥、硬化させる一連の設備が必要であり、製造効率の点で好ましくない。また、折角付与したエンボス意匠の上にある程度の厚みの塗膜層を設けることは、意匠性の低下をもたらす虞があり、更に表面に塗膜層を設けたシートをラミネートした樹脂被覆金属板においては、折り曲げ加工等の二次加工性に問題を生じる虞がある。また、エンボスを付与した樹脂層自体が沸騰水浸漬に耐えないような組成である場合は、表面塗膜層を施した場合も、この性質が大幅に改善されるものではない。
【0008】
(2)の方法としては、ポリエステル系樹脂の共重合成分として、ジカルボン酸成分もしくは、ジオール成分に剛直な分子構造を有するものを導入することでガラス転移温度を高めることが可能であり、100℃を越えるガラス転移温度を有するポリエステル系樹脂であれば、結晶性を有しない場合においても、良好なエンボス耐熱性を得られると同時に沸騰水浸漬試験で樹脂層の流動変形を生じないものとすることが出来る。しかし、このようなポリエステル系樹脂は、汎用用途の市販品としては存在せず、原料価格が高価なものとなってしまう。
【0009】
さらに、(4)の方法では、原料価格の安い軟質PVC樹脂等を用いる場合は実施可能であるが、ポリエステル系樹脂等を用いる場合においては好ましい方法とは言えない。従って、(1)の方法が性能面やコスト面から最も好ましいと考えられる。
【0010】
特許文献3は、建材用シートに関するものでは無いが、ポリエステル系樹脂の中でも、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を主たる繰り返し単位とする結晶性ポリエステルは、エンボス加工による所望の凹凸形状付与が精度高く行える点、該エンボス加工で形成された凹凸の後工程での加熱の際に、形状保持性(エンボス戻りの少なさ)が優れる点が言及されている。そして、エンボス戻りが少ない理由として、PBT系樹脂の融点が高いこと、および、結晶化速度が速いことが指摘されている。これより、このようなポリエステル系樹脂を用いれば、後工程での加熱においてエンボス戻りを生じ難いため、良好なエンボス意匠を備えた樹脂被覆金属板を得られることが予測でき、また、沸騰水浸漬試験に供した場合もエンボス戻りを生じにくい樹脂被覆金属板とできることが予測される。
【0011】
なお、特許文献3の実施例におけるPBT系樹脂へのエンボス付与の方法としては、熔融押出しした融点205℃の共重合PBT系樹脂を二軸配向ポリエステルフィルムのコロナ処理面に積層すると共に、冷却されたエンボスロールで押圧すると言う、押出し製膜設備のキャスティングロール(引き取りロール)をエンボスロールとする方法の一種によっている。このような、押出し製膜設備のキャスティングロールとして、通常の鏡面ロールに替えてエンボスが彫刻されたロールを用い、押出しシートにエンボスを付与する方法は、押出しキャストエンボス法等と呼ばれており、それ自体は公知の方法であり、基本的に口金から流下した熔融軟化状態の低粘度の熱可塑性樹脂にエンボスを付与するものなので、熱可塑性樹脂の種類にほとんど依存せず良好なエンボスの転写を得られるものである。無論、付与したエンボスの耐熱性に関しては、上記特許文献3の如く、樹脂の結晶化速度、結晶融点等の物性に依存して大きく変わってくるものである。
【0012】
一方、PBT系樹脂より成るシートを被覆した金属板に関しては、特許文献4が開示されている。
【0013】
特許文献5では、TMAで求められる軟化終了温度と軟化開始温度との差が30℃以下である熱可塑性樹脂からなるシートが押出しキャストエンボス法でのエンボスの転写性に優れるとされ、一例としてPBT系樹脂からなるシートが好ましいとされている。
【0014】
特許文献6には、基材シート上に積層される二層からなる透明シートの表層側がPBT系樹脂からなる化粧シートが開示されており、高いエンボス耐熱性を有しているとされている。段落[0022]に「エンボス加工適性の面からは、PBT樹脂から成る層の厚さ比率が低い程有利であり」との記載があり、押出しキャストエンボス法により熔融したPBT層にエンボスを付与するのではなく、オフラインの所謂アフターエンボス法によりエンボスを付与するものと解釈できる。
【0015】
すなわち、オフラインでの加熱で、PBT系樹脂の熔融温度未満であり、かつ、下層として存在する非晶性ポリエステル系樹脂が熔融軟化するには十分な温度まで加熱し、表面からエンボスロールで押圧することにより、非晶性ポリエステル系樹脂層が変形するものであり、表層であるPBT系樹脂層はあくまでも該非晶性ポリエステル系樹脂層の変形に追随して変形するものであるため、上記の如く熔融しない層であるPBT系樹脂層の厚みが厚過ぎることがエンボス加工適性に対して不利益となると考えられる。
なお、特許文献6の実施例においては、押出し製膜設備とは別ラインであるエンボス加工装置によりシート表面温度を160℃としてエンボス付与を実施しているが、該温度はホモPBT樹脂の融点225℃に比べて相当に低く、PBT層自体は熔融していないことになる。
【特許文献1】特開2001−200146号公報
【特許文献2】特開2002−103544号公報
【特許文献3】特開平7−159903号公報
【特許文献4】特開平1−180336号公報
【特許文献5】WO00/026282号公報
【特許文献6】特開2007−210273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献3においては、該押出しキャストエンボス法でPBT系樹脂組成物にエンボスを付与すると同時に結晶化させることによりエンボスを固定しようとした場合、エンボスロールとしてのキャスティングロールの表面温度は、例えば60℃程度以上とPBT系樹脂のガラス転移温度(ホモPBT樹脂で完全に非晶状態でのガラス転移温度は22℃程度とされる。「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊・1989年)に比較して高く設定しておくことで、結晶化させた状態のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなるシートをキャスティングロールから剥離させることができるのであるが、樹脂組成物の結晶化が十分に進行していない内に、キャスティングロールの剥離箇所まで達した場合は、非晶状態でガラス転移温度の低い樹脂組成物を該ガラス転移温度より高い表面温度を有するロールから剥がすこととなるため、キャスティングロールへの粘着が発生し、安定した引取りが困難となる。
【0017】
従って、該粘着トラブルを回避するには製膜速度をあまり高くすることができず、生産性が低下する。そこで、キャスティングロールの表面温度を更に高く設定することで、より短時間にロール剥離性が問題とならない程度の結晶性を得る事が可能となるが、PBT系樹脂より成る単層の押出しではなく、共押出しで背面に非晶性のポリエステル系樹脂より成る層がある場合等は、シート幅方向両端部での合流界面の乱れなどから、端部の背面側樹脂がキャスティングロール側へ露出している場合があり、そのような場合、押出し樹脂の端部がキャスティングロールへ粘着する虞があり、やはり安定した引き取りには問題が生じ易い。
【0018】
また、特許文献4の金属板は缶材の用途であり、特許文献4にはエンボス意匠の付与に関する記載は無い。缶用途での耐久性を向上させる必要から、金属板との熱融着積層に際してはシート全部が熔融状態となることが必要と記載されており、その場合は、押出しキャストエンボス法を含む各種エンボス付与方法により付与したエンボスが、シートの表面にあったとしても熔融消失することとなる。
【0019】
また、特許文献5では、エンボスロールであるキャスティングロール(原文では冷却ロールと記載)の温度を押出し樹脂組成物の軟化開始温度±10℃に設定すると言う、極めて高温のエンボスロールを使用することが技術上の特徴となっており、ホモPBT樹脂のみからなるシートの場合ではキャスティングロールの温度を215℃程度に設定することとなっている。しかし、このような高温のロールで温度管理を厳密に実施するには、相応の設備費用が必要になると思われる。また、特許文献5では、エンボス耐熱性に関する記載はされていない。
【0020】
また、特許文献6におけるエンボス付与方法の場合も、非晶性のポリエステル系樹脂層に直接エンボスを付与するよりは高いエンボス耐熱性を確保できるものと思われる。しかし、表層であるPBT系樹脂層を熔融させずにエンボスを付与するものであるため、精密な意匠を有するエンボスの転写性が制限されると考えられる。
【0021】
上記の問題に鑑みて、本発明は、押出しキャストエンボス法によるエンボス転写性が良好で、エンボス耐熱性の高い表面のエンボス意匠を有し、かつ、印刷による柄の意匠を併せ持つ、加工性、意匠性に優れた樹脂被覆金属板を得ることができる樹脂被覆金属板用積層シート、および、この積層シートで被覆した意匠性積層シート被覆金属板を提供することを課題とする。さらに、安定した製造条件で、過度の製造工数の増大を伴わずに該樹脂被覆金属板用積層シートを提供することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
第1の本発明は、表面側から順に、以下のA層(10)、B層(20)、C層(30)、D層(40)の少なくとも4層と、印刷柄E(50)からなる積層シートであって、
A層(10)が、A層における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、70質量%以上95質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂、および、5質量%以上30質量%以下のガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂からなり、厚み5μm以上100μm以下の無配向で実質的に透明な樹脂層であり、
B層(20)が、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなる無配向で実質的に透明な樹脂層であり、
C層(30)が、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなり、着色剤が添加された厚み200μm以下の無配向の樹脂層であり、
D層(40)が、D層における樹脂成分全体の質量を基準として、融点(Tm)が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂を70質量%以上100質量%以下含有してなる厚み5μm以上の無配向の樹脂層であり、
印刷柄E(50)がB層(20)とC層(30)との間に介在し、
A層(10)側表面に、エンボス転写による柄意匠を備えてなり、該柄意匠が、A層(10)とB層(20)とを共押出し製膜法により積層すると同時に、キャスティングロールとして柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることにより形成されたものであり、
総厚みが80μm以上300μm以下である樹脂被覆金属板用積層シート(100)である。
【0023】
この積層シート(100)において、A層(10)は、押出し製膜時のキャスティングロールにエンボス版として柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いる、所謂押出しキャストエンボス法によりエンボスが転写される層であり、押出し製膜ラインで転写率が高く、耐熱性の高いエンボス意匠を付与することができるものである。A層(10)のPBT系樹脂以外の樹脂成分として、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上であるポリエステル系樹脂を用いるのは、ブレンド組成物のガラス転移温度をPBT系樹脂単一組成の場合に比べて幾分高くできることにより、キャスティングロールの冷却負荷を軽減できると共に、キャスティングロール表面の結露等の製膜トラブルが発生しにくい程度の温度にキャスティングロールを調整することができ、かつ、比較的速い製膜速度において、非晶状態のA層の樹脂組成物がロールに粘着するのを防止するためである。
【0024】
即ち、本発明においては、キャスティングロールの表面温度をA層(10)の樹脂組成物のガラス転移温度以下に設定することでキャスティングロールからの確実な剥離性を確保するものである。従って、該ロールから剥離された時点では、肝心のエンボス耐熱性を確保するために必要な、PBT系樹脂の結晶化は未完了と言うことになる。
【0025】
しかし、本発明のA層(10)の範囲のPBT系樹脂を含む樹脂組成物の場合は、非晶の状態でエンボスを付与し、非晶の状態でキャスティングロールから剥離させ、その後工程で加熱による結晶化処理を行った場合でも、そのブレンド組成物の結晶化速度が速いことから、エンボス戻りを生じずに結晶化によるエンボスの固定をなし得る。更には、A層(10)のブレンド組成物のガラス転移温度は室温より若干高い程度のものであるため、押出し製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に簡易な熱処理工程等を組み込むことで、容易に結晶化によるエンボス耐熱の確保ができる。
【0026】
B層(20)は、別途製膜されるC層(30)、あるいは、印刷柄E(50)を付与したC層(30)との熱融着性を良好なものとする層である。加えて、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体として用いることにより、A層(10)の樹脂組成物より相対的にガラス転移温度の高い樹脂層とすることができる。これにより、製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に熱処理ロールを設置してA層(10)の結晶化を促進する場合等において、B層(20)側を熱処理ロールとの接触面とすることで、より高温の熱処理ロールを用いることができ、より確実に結晶化によるエンボスの固定を成し得ることができる。
【0027】
C層(30)は、着色剤を添加することにより着色の意匠と、下地となる金属板等の視覚的隠蔽機能を受け持つ層である。また、B層(20)とC層(30)との間に付与される印刷柄E(50)の発色を良好なものとする役割も有する。更に、B層(20)との熱融着性を良好なものとするための層である。
【0028】
D層(40)は、エンボス加工装置等を用いて、A層(10)およびB層(20)の一体シートと、C層(30)およびD層(40)の一体シートとを印刷柄E(50)を介して熱融着積層一体化するために加熱した際に、加熱金属ロール等への粘着を防止すると共に、積層シートの張力低下を防ぎシートの熔融破断を防止するための層である。
【0029】
A層(10)とB層(20)とは、生産効率の点から共押出し製膜法により積層一体化された状態で得られる。印刷柄E(50)は、A層(10)表面に付与されたエンボスによる凹凸意匠に加えて、印刷による意匠を付与するものである。
【0030】
第1の本発明において、C層(30)とD層(40)とが、共押し出し製膜法により積層一体化された状態で製膜されたものであることが好ましい。これにより生産効率を一層向上させることができる。また、A層(10)とB層(20)との共押し出し一体シートと、C層(30)とD層(40)との共押し出し一体シートのC層(30)側表面に印刷柄E(50)を付与したものとを、B層(20)側表面と印刷柄E(50)を付与したC層(30)側表面とを積層面として、熱融着積層により一体化したものであることがさらに好ましい。これにより、接着剤塗工などの特別な材料、工程や設備を必要とせず生産効率およびコストの点から有利である。
【0031】
第1の本発明において、A層(10)のガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂、B層(20)のガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂、C層(30)の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%以上80モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)と、20モル%以上80モル%以下のエチレングリコールとをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが好ましい。A層(10)、B層(20)、および、C層(30)に用いるポリエステル系樹脂として、商業的に入手しやすい材料を用いることで、原料供給の安定性とコスト面のメリットを得ることができる。
【0032】
第1の本発明において、B層(20)における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、B層(20)に15質量%以上の融点(Tm)が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂が配合されており、かつ、B層(20)の樹脂組成物のガラス転移温度が60℃以上であるものを用いてもよい。
【0033】
本発明の積層シートで被覆した金属板をユニットバスの用途に用いる場合は、その評価項目として沸騰水浸漬試験に合格することが求められる。実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからなるB層(20)の厚みが比較的厚い場合には、沸騰水浸漬時にB層(20)の弾性率が低下し、変形を生ずることにより外観不良を発生する虞がある。これに対し、B層(20)に、結晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、結晶化速度の速いPBT系樹脂を15質量%以上添加することにより、B層(20)とC層(30)間の熱融着適性を損なわずに、沸騰水浸漬時に変形を生ずる虞がない層とすることができる。
【0034】
また、B層(20)をPBT系樹脂とのブレンド組成物とした場合も、そのガラス転移温度を60℃以上としておくことで、A層(10)とB層(20)との共押出シートにおいて、B層(20)の樹脂組成物のガラス転移温度を、A層(10)の樹脂組成物のガラス転移温度より相対的に高いものとすることができる。これによって、製膜ラインの引き取りロール以降の工程に熱処理ロールを設置してA層(10)の結晶化を促進する場合等、B層(20)側を熱処理ロールとの接触面とすることで、ロールへの粘着の虞を生じずに、より高温の熱処理ロールを用いることができ、したがって、より確実に結晶化によるエンボスの固定を成し得る。
【0035】
第1の本発明において、C層(30)における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、C層(30)に15質量%以上45質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂が配合されていることが好ましい。
【0036】
上記B層(20)の場合と同様に、比較的厚い厚みのC層(30)を用いた場合には、沸騰水浸漬時にC層(30)の樹脂組成物の弾性率が低下し、変形を生ずることにより外観不良を発生する虞がある。これに対し、結晶性ポリエステル樹脂であり、且つ結晶化速度の速いPBT系樹脂を上記範囲添加することにより、B層(20)とC層(30)間の熱融着適性を損なわずに、沸騰水浸漬時に変形を生ずる虞がない層とすることができる。
【0037】
第2の本発明は、第1の本発明の樹脂被覆金属板用積層シート(100)および金属板(60)を備え、樹脂被覆金属板用積層シートのD層(40)側の表面が金属板(60)に積層されている、意匠性積層シート被覆金属板(200)である。第2の本発明の意匠性積層シート被覆金属板(200)は、良好なエンボスの転写性による優れたエンボス意匠感を有するとともに、印刷柄E(50)による意匠も併せ持っている。
【0038】
第2の本発明の意匠性積層シート被覆金属板(200)は、ユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材として、好適に用いることができる。ユニットバス部材としては、例えば、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材が挙げられ、また、建築内装材としては、例えば、クロゼットドア材、パーティション材、一般壁材等が挙げられる。
【0039】
第3の本発明は、第1の本発明の樹脂被覆金属板用積層シート(100)の製造方法であって、
A層(10)とB層(20)とを共押出し製膜法により積層すると同時に、キャスティングロールとして柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることにより、A層(10)側表面に柄意匠のエンボスを付与する第1工程、及び、
別途共押出し製膜法により積層したC層(30)およびD層(40)からなる共押出シートのC層(30)側表面に印刷柄E(50)を付与したものと、形成したA層(10)とB層(20)からなる共押出シートとを、B層(20)側表面と印刷柄E(50)を付与したC層(30)側表面を積層面として熱融着する第2工程、
を備えてなる、樹脂被覆金属板用積層シート(100)の製造方法である。
第3の本発明の製造方法は、簡略な工程で意匠感の良好な樹脂被覆金属板用積層シートが得られることから、生産効率の向上、コスト削減が図られる。
【0040】
第3の本発明の第1工程において、キャスティングロールの表面温度をA層(10)の樹脂組成物のガラス転移温度より低い温度に調整しておき、押出し製膜設備のキャスティングロール以降に、B層(20)の樹脂組成物のガラス転移温度より低く、且つA層(10)の樹脂組成物のガラス転移温度より高い表面温度に調整された熱処理ロールを設け、A層(10)とB層(20)からなる共押出シートのB層(20)側の表面を該熱処理ロール表面に当接することにより、A層(10)の結晶化を促進させることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の積層シート(100)は、押出しキャストエンボス法で安定性良く、良好なエンボスを転写することができ、また、エンボス耐熱性を付与することができる。よって、金属板(60)にラミネートした後も良好なエンボス意匠を有する。また、積層シート(100)は、印刷柄E(50)による印刷意匠も有する。この積層シート(100)により、良好なエンボス意匠と印刷意匠を有し、沸騰水浸漬試験でも問題を生じない意匠性積層シート被覆金属板(200)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
なお、本発明の積層「シート」は、厚みが80μm〜300μmの範囲をとることから、「フィルムおよびシート」と記すのがより正しいが、本明細書では一般的には「フィルム」と呼称する範囲に関しても便宜上「シート」という単一呼称を用いた。
【0043】
また、「無配向」という表現は、積層シートに何らかの性能を付与するために意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないこと(キャスティングの後工程でテンターや縦延伸装置等を用いることにより意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないこと)であり、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取りで発生する配向等まで存在していないという意味ではない。また、「実質的に透明である」という表現は、該実質的に透明である樹脂層を通して、その下側に付与された印刷柄や、下側に存在する着色意匠を有する層の視認が可能で、且つ、著しい意匠感の低下を与えない層であるという意味である。具体的には、付与するエンボス形状にもよるが、A層およびB層が積層され、表面にエンボスが付与された状態で、JIS K 7105に準拠して測定した全光線透過率が45%以上、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。且つ、ヘイズが85%以下、好ましくは55%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0044】
[樹脂被覆金属板用積層シート]
本発明の樹脂被覆金属板用積層シート100は、図1(c)に示すように、表面側から順に、A層10、B層20、C層30、D層40の少なくとも4層を備え、かつ、B層20とC層30との間に印刷柄E50を備えて構成される。以下に、各層について説明する。
【0045】
<A層10>
A層10は、押出し機により溶融軟化状態としたA層10の組成物をTダイから流下させ、キャスティングロール(引き取りロール)と接触させて冷却固化させ、その後、巻取り工程等に導く一般的な押出し製膜法により製膜される層である。本発明においては、キャスティングロールとして、各種柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることで、A層10の、B層20と積層される側とは反対側の表面に各種のエンボス意匠が付与される。A層10は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂およびポリエステル系樹脂を含有してなる。
【0046】
(PBT系樹脂)
A層10表面に付与されるエンボスは、後工程での加熱の際にエンボス戻りを生じてはならず、そのために本発明においては、A層10の樹脂組成として、A層10における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、融点が210℃以上230℃以下であるPBT系樹脂を70質量%以上95質量%以下含有してなる。A層10は、PBT系樹脂の結晶化によって、その表面に付与されたエンボスの意匠感を確保・維持する層であると言える。
【0047】
PBT系樹脂の融点が低過ぎる場合は、結晶化速度が遅くなること、結晶性自体が低下することにより、後工程で、後述するB層20とC層30とを印刷柄E50を介して熱融着積層する際や、金属板60とのラミネートを実施した際に、更には、ユニットバス用途に供する為に沸騰水浸漬試験を実施した際にエンボス耐熱の不足により、A層10の表面に付与しておいたエンボスに戻りが発生し意匠感が低下する虞がある。また、そのような融点の低いPBT系樹脂は原料価格が高価なものとなる。
【0048】
上記の融点範囲にあるPBT系樹脂の中でも、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、または、ジメチルテレフタル酸、ジオール成分として、1,4−ブタンジオールの各単一成分を用いた、所謂ホモPBT樹脂(酸成分、ジオール成分の各全量を100モル%として、意図せざる共重合成分が数モル%程度含まれていても良い)を用いることが、コストや安定供給性の点から特に好ましい。該ホモPBT樹脂の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点は約225℃程度であり、市販原料として得られるPBT系樹脂の中で最も高い融点を有するものである。このため、測定値の振れ等を含める意味で、本発明のPBT系樹脂の融点の上限を230℃としている。
【0049】
該ホモPBT樹脂としては、三菱エンジニアリングプラスチック社製の「ノバデュラン5020H」や、東レ社製の「トレコン1200S」、ウィンテックポリマー社製の「ジュラネックス600FP」等、各種の市販原料を用いることができる。
【0050】
A層10における、PBT系樹脂の比率が低すぎる場合は、A層10を構成するブレンド樹脂組成物の結晶化速度が遅くなり、また、結晶性が低下するため、PBT系樹脂の融点が低い場合と同様に後工程での加熱を受けた際にエンボス戻りの問題を生じる虞がある。なお、A層10を本発明の所定の樹脂組成物で形成した場合は、キャスティングロールの表面温度をA層10の樹脂組成物のガラス転移温度より低く設定することにより、キャスティングロールからの剥離性を確保することができる。そして、A層10の樹脂組成物がキャスティングロールを離れる時点においては、結晶化がほとんど進行していない場合でも、そのブレンド樹脂組成物の結晶化速度が速いことから、製膜ラインの後工程等で結晶化処理を行えば、エンボス戻りを生じずに、結晶化によるエンボス耐熱の確保が可能である。また、A層10の樹脂組成物のガラス転移温度は室温より若干高い程度のものであるため、押出し製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に熱処理ロールなどの簡易な熱処理工程を組み込むことで、容易に結晶化によるエンボス耐熱性の確保が可能である。
【0051】
一方、A層10の樹脂成分として、上記融点範囲を有するPBT系樹脂を100質量%とした場合は、エンボスの耐熱性自体は良好なものとすることができるが、PBT系樹脂のガラス転移温度が非晶状態ではホモPBT樹脂で22℃程度と比較的低いことから、キャスティングロールの冷却に相当の配慮を行わないと、該ロールへ粘着してしまう懸念がある。また、非晶状態のPBT系樹脂がロールに粘着しない程度にロール表面温度を、例えば、15℃程度にまで下げた場合は、周囲の環境にもよるが、キャスティングロール表面での結露水の発生等の虞があり、また供給水の冷却に要するコストも上昇する。そこで、本発明においては、ガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂をA層10に少量ブレンドすることにより、ブレンド組成物のガラス転移温度を若干上昇させ、これらの問題が生じ難くしたものである。
【0052】
また、生産効率の点から、A層10と後述するB層20とは、共押出し製膜法により積層一体化された状態で製膜されたものであることが好ましいが、A層10の結晶性が高すぎると、A層10とB層20との共押出しシートに結晶化処理を施した際の反りが著しいものとなり、後工程での取り扱いに支障を来たす虞がある。
エンボス耐熱性確保の点からは、A層10におけるPBT系樹脂の配合量は、A層の樹脂成分の全量を基準(100質量%)として、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。一方、キャスティングロールからの剥離の安定性確保や過度な反りの防止の点からは、PBT系樹脂は90質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
また、PBT系樹脂は、無配向で結晶化した状態でも、同様に結晶化した状態のポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂よりも良好な加工性を得られる。これは、無配向のPET系樹脂のように巨大な球晶を形成することが無いことや、結晶弾性率がPET系樹脂のそれに比べて低く、結晶領域が柔軟であることによると考えられる。これより、PBT系樹脂を70質量%以上95質量%以下含む本発明のA層10の樹脂組成は、積層シートで被覆した金属板の態様で、折り曲げ加工等の二次加工に供された場合に、樹脂層の曲げ部分の白化、微細クラックの発生、割れ等の問題を生じ難い。
【0054】
(PBT系樹脂以外の樹脂成分)
A層10のPBT系樹脂以外の樹脂成分である、ガラス転移温度が70℃以上のポリエステル系樹脂成分としては、後述のB層20の主体として用いるガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂と同一のものを用いることができる。A層10のPBT系樹脂以外の樹脂成分は、その添加量が限定的であるため、B層20の場合と異なり、結晶性を有するポリエステル系樹脂でも問題なく使用できる場合があるが、ホモPET等の結晶性の高い樹脂を用いた場合は、経時的にPET系樹脂の結晶化が進行し、その結晶相の加工性がPBT系樹脂の結晶相の加工性より劣ることから、A層10の加工性が劣化し、結果的に積層シートを被覆した金属板の加工性が経時的に低下する虞がある。無論、上記のような加工性低下が問題とならないような軽度な二次加工のみが施される用途では、ガラス転移温度が70℃以上である結晶性を有するポリエステル系樹脂を用いても良い。
【0055】
A層10の押出し製膜時のキャスティングロールからの剥離安定性を、該ロールを過度に冷却しないでも確保すると言う点からは、A層10のPBT系樹脂以外の樹脂成分として、上記好ましいポリエステル系樹脂より更に高いガラス転移温度を有するものを用いることが考えられるが、実際の製膜において、上記ガラス転移温度が70℃〜90℃程度のポリエステル系樹脂のブレンドで、ほぼ問題の無い剥離安定性が得られている。また、A層10の樹脂組成物のガラス転移温度が必要以上に高くなることは、後工程での結晶化処理に際し、加熱温度をより高くすることを必要とする。また、芳香族ポリカーボネート系樹脂等は、ガラス転移温度は高いが、PBT系樹脂との相容性に劣るため好ましくない。
【0056】
(添加剤等)
A層10には、その結晶化速度を速めるために、結晶核剤を添加しても良く、ソルビトール系や燐酸エステル系などの有機核剤や、微細シリカ粒子等の無機核剤等各種の市販核剤を適宜な量添加しても良い。一般的な添加量としては、A層の樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、0.1質量部以上2質量部以下程度の範囲である。
【0057】
また、A層10には、その性質を損なわない範囲において、あるいは本発明の目的以外の物性をさらに向上させるために、各種添加剤を適宜な量添加しても良い。添加剤としては、燐系・フェノール系他の各種酸化防止剤、熱安定剤、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材等の広汎な樹脂材料に一般的に用いられているものや、カルボジイミド系、エポキシ系や、オキサゾリン系他の末端カルボン酸封止剤、あるいは加水分解防止剤等のポリエステル樹脂用として市販されているものを挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すれば良い。
【0058】
A層10への着色顔料や染料類の添加は任意である。しかし、本発明においては、実質的に透明な表層を介して、着色された内層の色味の意匠を視認できる、深み感を有する色味意匠を付与し、且つ、表層を介して、内部に付与された印刷柄E50が視認できるような意匠の付与に特に好ましく用いることができる構成であるため、内層や印刷柄E50の視認性が低下するほどにはA層10に着色顔料を添加しないで、A層10の視覚的隠蔽効果を高くしないことが好ましい。
【0059】
A層10の好ましい厚みは、下限が好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、上限が好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下である。A層10の厚みが過度に薄いとB層20との共押出し製膜法で作製するとは言え、安定した製膜性を確保できない虞がある。逆に厚みが厚過ぎる場合は、キャスティングロールによるエンボス意匠の付与には問題が無いものの、共押出し製膜でB20層と一体で製膜した際のシートの反りが顕著となる虞がある。
【0060】
<B層20>
B層20に求められる機能は、別途製膜されるC層30、あるいは、印刷柄E50を付与したC層30表面との熱融着性を良好なものとすることである。加えて、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体として用いて、A層10の樹脂組成物より相対的にガラス転移温度の高い樹脂層とすることにより、製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に熱処理ロールを設置してA層10の結晶化を促進する場合等、B層20側を熱処理ロールとの接触面とすることで、より高温の熱処理ロールを用いることができる。これにより、より確実にA層10の結晶化によるエンボスの固定を達成することができる。
そのため、B層20を構成する樹脂成分は、60℃程度に加熱された結晶化促進のための熱処理ロールに粘着するものであってはならず、かつ、A層10の樹脂組成物の融点より低い、190℃程度までの加熱で熔融軟化し、熱融着性を発現するものである必要がある。
【0061】
上記理由から、B層20に用いる樹脂成分としては、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなることが好ましい。ここで、「主体」とするとは、B層20の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を55質量%以上、好ましくは70質量%以上含むことを言う。
【0062】
B層20を形成する実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)のポリエステル系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル樹脂、および、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く[示差走査熱量計(DSC)を用いて「パーキンエルマー法」により120℃に保持して測定した1/2結晶化時間が200秒以上であること]、押出し製膜法によるシート作製時や、後工程での熱融着積層のための加熱を受けた際に結晶性が高い状態とならないポリエステル樹脂、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるもの、を使用することができる。
【0063】
B層20の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%以上80モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)と、20モル%以上80モル%以下のエチレングリコールとをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが、原料入手の容易さから好ましい。ここで、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体量を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルフタル酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4−CHDMおよびエチレングリコールの合計量として、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むことを言う。
【0064】
ジオール成分における、1,4−CHDMの量がこれより少ないと、結晶性樹脂としての特徴が顕著になり、製膜時には非晶性であるB層20を得ることができても、熱融着積層のための加熱時に結晶化が進行して密着強度が得られなくなるおそれがあり好ましくない。逆に、1,4−CHDMの量が多すぎる場合も、やはり結晶性が顕著になり、さらに非常に高い融点を示すようになることから好ましくない。
【0065】
該組成範囲にある共重合ポリエステル樹脂の中でも、1,4−CHDMがジオール成分の約30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量計)測定においても結晶化挙動が認められない、完全に非晶性を示すことが知られており、該完全に非晶性のポリエステル系樹脂としては、PETG樹脂を挙げることができる。PETG樹脂としては、例えば、イーストマンケミカル社製の「イースターPETG・6763」等を挙げることができる。これは、多くの用途に用いられていることから原料の安定供給体制が確立されており、また、低コスト化が図られている点から本発明のB層20の主体となる樹脂成分として特に好ましく用いることができる。該PETG樹脂は、PBT系樹脂と相容系のブレンド組成物を形成するポリエステル系樹脂であり、ガラス転移温度は78℃程度である。
【0066】
ただし、これに限定されるものではなく、特定の条件では結晶性を示すが通常の押出し製膜条件やエンボス付与条件では非晶性樹脂として取り扱うことが可能な、イーストマンケミカル社の「PCTG・5445」(ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分の約60モル%が1,4−CHDMで、約40モル%がエチレングリコールである共重合ポリエステル樹脂)等を用いることもできる。該「PCTG・5445」は、PBT系樹脂と相容系のブレンド組成物を形成するポリエステル系樹脂であり、ガラス転移温度は、86℃程度である。
【0067】
上記組成のポリエステル系樹脂以外でも、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂でも結晶性の低いものや、実質的に非晶性の共重合ポリエステル樹脂を得ることができるが、これらではイソフタル酸の共重合比率が高いほど、従って結晶性が低くなるほど、ガラス転移温度も低くなるため、本発明のB層20の樹脂組成物の主体として用いるには好ましくない。
【0068】
(PBT系樹脂)
B層20における樹脂成分全体の質量(100質量%)を基準として、B層20には、15質量%以上の融点(Tm)が210℃以上230℃以下のPBT系樹脂が配合されていることが好ましい。B層20におけるPBT系樹脂の配合割合は、下限がより好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、上限がより好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。PBT系樹脂を配合することにより、沸騰水浸漬試験時等の高温の水と接触した場合の意匠性積層シート被覆金属板200の樹脂層の形状保持性をより良好にすることができる。よって、特に、ユニットバス用途等に本発明の積層シートを被覆した金属板が供される場合等に、このような配合が好適に採用される。
【0069】
ただし、PBT系樹脂の配合量の合計は、B層20に用いる樹脂組成物のガラス転移温度が60℃以上となる量とすることが好ましい。これは前述の如く、A層10の結晶化の促進を容易にするための層としての機能をB層20に持たせることが好ましいからである。なお、PBT系樹脂の配合量が増える程、B層20の樹脂組成物のガラス転移温度は低下することとなる。しかし、ブレンド樹脂組成物のガラス転移温度は、PBT系樹脂の配合量のみで決まるものではなく、使用する実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂、PBT系樹脂の夫々のガラス転移温度にも依存するものであるため、ここでは、ブレンド組成物のガラス転移温度として60℃以上である、と規定したものである。
【0070】
PBT系樹脂としては、前述したA層10に用いることが出来るPBT系樹脂と同様のものを用いることができる。また、中でも、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸またはジメチルテレフタル酸、ジオール成分として1,4−ブタンジオールの各単一成分を用いた、いわゆるホモPBT樹脂(意図せざる共重合成分が入っていてもよい)を用いることが、コストや入手の容易さの点から好ましい。該B層20に配合されるPBT系樹脂と、A層10に配合するPBT系樹脂とは、組成、融点等が異なるものであっても構わないが、それによって何らかの特徴が得られるものではなく、原料購入の面や製膜設備の原料投入設備の簡易化の点からは、いずれの層にも、ホモPBT樹脂を用いることが特に好ましい。
【0071】
B層20に配合するPBT系樹脂の量が多すぎると、B層20の結晶性が顕著になり、熱融着積層のために加熱した際、結晶化が進行し、十分な密着強度が得られなくなる虞がある。また、PBT系樹脂の配合量が増えるほど、B層20の樹脂組成物のガラス転移温度は低下することとなり、前述の押出し製膜ラインでの結晶化処理の際、B層20が存在する事のメリットが希薄となる。逆に、配合するPBT系樹脂の量が少なすぎると、実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからB層20を構成した場合と沸騰水浸漬試験後の形状保持効果に大差がなくなり、あえてブレンドする理由がなくなる。
【0072】
(添加剤)
B層20にも、A層10に用いることができる各種添加剤を適宜な量添加しても良い。また、B層20に関しても着色顔料や染料類の添加は任意であるが、A層10の場合と同様に内層や印刷柄E50の視認性が低下するほど視覚的隠蔽効果を高くしないことが好ましい。
【0073】
B層20の厚みは、下限が好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限が好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。B層20の厚みが過度に薄い場合は、A層10と共押出し製膜法で作製するとは言え、安定した製膜性を確保できない虞がある。逆に、B層20の厚みが厚すぎる場合は、積層シート100としての総厚みに加工性の面からの制約があることから、他の層を薄くする必要が生じ、他の層が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。
【0074】
<A層10およびB層20からなる共押出シート>
共押出し法で製膜されるA層10とB層20が積層されたシートの厚みとしては、下限が好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上であり、上限が好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みがこれより薄い場合は、シートとしての取り扱い性に問題を生じる虞があり、また、厚みをこれより厚くしても、必要な機能は飽和すると同時に、後述するC層30とD層40との合計厚みに対する制約からこれらの層の機能発現不全をもたらす虞がある。
【0075】
また、A層10とB層20が積層されたシートの厚みは、エンボス意匠の良好な転写という点からは、エンボスロールの版深さ(最大深さ・Ry値)の1.2倍〜2倍程度であることが好ましい。これより厚みが薄いと、版の種類にもよるが「裏シボ」と呼ばれる、エンボスロールを押圧したシート表面とは反対側の表面(本願の場合はB層20の表面)へのエンボス柄の反映による凹凸が発生する虞があり、該「裏シボ」による凹凸が顕著なシートは、後工程での熱融着積層等の際に不具合を生ずる虞がある。すなわち、熱融着積層界面への気泡の入り込みによる意匠感低下等である。また、エンボスロールの版深さに対するシート厚みの比が2倍を超えても、それ以上の転写の改善は得られない場合が多く、シートのコストや樹脂被覆金属板とした際の二次加工性の問題が顕在化する。
【0076】
A層10とB層20とが共押出し製膜法で積層されたシートを作製するには、ベント装置等ポリエステル系樹脂の押出し成形に必要な設備を備えた二台の熔融混練押出機と、ギアーポンプ、フィードブロック、それに所要の接続導管類、単層Tダイを用いて、フィードブロック方式による共押出し製膜を実施しても良いし、フィードブロック法に代えて、マルチマニフォールド型のTダイを用いて共押出し製膜しても良い。
【0077】
本発明においては、上記の製膜の際にキャスティングロールとして、通常の表面が鏡面仕上げされた金属ロールを用いる代わりに、各種柄意匠のエンボス凹凸が表面に彫刻されたエンボスロールが用いられる。Tダイから熔融流下した2層の樹脂のA層10側が該キャスティングロールとの接触面となるようにして引き取りが行われると同時に、A層10表面に柄意匠のエンボスを転写し、シート状押出し製膜品の製造ラインに通常設置されている巻取り装置等の後工程へ導かれる。
【0078】
<A層10の結晶化処理>
本発明のA層10の樹脂組成物は、そのガラス転移温度より低い温度に調整されたキャスティングロールにより熔融状態から冷却固化されたものであるため、該ロールを離れた時点では高い結晶性は有していない。しかし、融点が210℃以上であるPBT系樹脂を主成分として構成された層であるため、結晶化速度が速く、結晶化温度も低い層であるので、押出し製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に簡易な結晶化処理工程を組み込むことで、オンラインで容易にエンボス戻りを生じずに結晶化によるエンボス耐熱の確保ができる。
【0079】
該結晶化処理の方法としては、加熱ロール(熱処理ロール)への密着による方法が結晶化収縮に起因する皺の発生等の虞が少ない点から特に好ましい。本発明においては、B層20を構成する樹脂組成物が、A層10の樹脂組成物より相対的にガラス転移温度が高く、かつ、B層20側の表面は比較的平滑な面であるため、B層20側を熱処理ロールへの密着面とすることで、より効率的な結晶化処理を行うことができる。ただし、B層20は、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなる層であるか、あるいは、該樹脂とPBT系樹脂とのブレンド組成物よりなるガラス転移温度が60℃以上の層であるため、熱処理ロールの表面温度は60℃程度が上限となる。しかしながら、本発明のA層10の樹脂組成物は、この程度の温度でも十分に結晶化が促進され、エンボス戻りを生じずに、エンボスの耐熱性を確保することができる。
【0080】
A層10の結晶化処理は、特に上記方法によらずとも、押出し製膜ラインのキャスティングロール以降の工程に、熱風吹き出し装置等を付与することにより実施しても良いが、結晶化による幅収縮に起因した皺の発生に注意する必要がある。また、シートをロール状に巻き取った紙管を40℃程度に温調された恒温室に数時間放置することによっても可能であるが、このような状態で結晶化が進行すると、紙管抜けが発生したり、シートに収縮皺が発生したりするなど、以降のシートの取り扱い性が悪化する虞がある。また、A層10の結晶化処理を施さずに、熱融着積層のためにエンボス加工装置に通した場合は、比較的高温であるエンボス加工装置の加熱ロール上で急速な結晶化が進行し、収縮皺が発生する虞がある。従って、上記の如く、製膜ラインにおいて結晶化処理を施しておくことが好ましい。
【0081】
<C層30>
C層30は、着色剤を添加することにより着色の意匠付与と、印刷柄E50の発色の改善、下地となる金属板60等の視覚的隠蔽機能を受け持つ層であり、かつ、B層20との熱融着性を良好なものとする機能を有する層でもある。従って、C層30を構成する樹脂成分は、190℃程度迄の加熱で柔軟性を発現するものである必要がある。従って、熱融着積層のための加熱時に急速に結晶化が進行し、190℃を越える融点を示すことがあってはならない。また、C層30の表面に印刷柄E50を付与する場合は、印刷工程での溶剤乾燥のための加熱によって急速に結晶化が進行し、190℃を越える融点を示すことがあってもならない。
【0082】
即ち、C層30に関しても、B層20と同様に実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体とすることが好ましい。ここで、「主体」とするとは、C層30の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が少なくとも55質量%以上、好ましくは70質量%以上含まれることを言う。C層30に用いることができる実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂は、B層20に用いることができるものと同様であり、積層シート全体での耐熱性を確保する点からも、C層30の主体となる実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂についても、そのガラス転移温度が70℃以上であることが好ましい。また、耐沸騰水浸漬性をより良好なものとするためにPBT樹脂を一定量添加することが好ましいのもB層20の場合と同様である。
【0083】
また、該C層30の樹脂組成は、前述したB層20として用いる事のできる樹脂の組成範囲内で、B層20の樹脂組成と異なるものであっても構わないが、やはり原料購入の面や原料関係設備の簡易化の点から、B層20とC層30の樹脂組成は同一である事が好ましい。
【0084】
C層30の表面に印刷柄E50を付与する場合には、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂のみからなるC層30の場合、印刷インクに使用する溶剤に対する耐溶剤性などの点から印刷適性に問題を生じることも予想される。また、積層シート全体の耐沸騰水性を確保する点から、C層30にPBT樹脂を15質量%以上45質量%以下の範囲で添加しておくことが好ましく、下限がより好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、上限がより好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。これは、B層20の裏面に印刷柄E50を形成する場合の、B層20の樹脂組成に関しても同様である。
【0085】
(着色剤)
C層30は着色剤を添加することが必須の層である。使用される顔料としては、上記目的のために樹脂着色用として一般的に用いられているもので良く、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量で良い。一例としては、白系の着色では隠蔽効果の高い酸化チタン顔料をベースとして、色味の調整を無機系および/または有機系の各種有彩色顔料で行うことができる。黒系の着色では、カーボンブラック等の黒色顔料をベースとして、上記酸化チタンなどの白色顔料により明度を適宜調整すると同時に、色味の調整を無機系および/または有機系の各種有彩色顔料で行うことができる。
【0086】
前述のPETG樹脂をベースとしたカラーマスターバッチ等の、予備混練を施すことで分散性を向上させた顔料練り込みペレット類が豊富に市販されており、これらを利用することが色味の安定性の点などから好ましい。
【0087】
着色剤を添加する目的としては、色味の意匠を付与することの他に、下地の視覚的隠蔽効果を付与することがある。視覚的隠蔽効果は、用途によって重要度が異なってくるが、内装建材用途のエンボス意匠シート被覆金属板等においては、JIS K5600 4−1「塗料一般試験方法・隠蔽率」に準拠して測定した隠蔽率が積層シートの構成で0.95以上であることが好ましい。
【0088】
隠蔽率がこれより低いと金属板60等、下地となる基材の色味が、積層シート100の色味に反映されて、金属板表面の処理の違い等により下地の色味が変化した際、積層シート100の表面から観察される意匠性樹脂シート被覆金属板200の色味も変化して見えるため好ましくない。ただし、この理由による色味の変化が特に問題とならない用途においては、隠蔽率は0.95以上にこだわらなくてもよい。
【0089】
C30層にも、A層10やB層20に用いることができるものと同様の各種添加剤を適宜の量を添加しても良い。
【0090】
C層30の厚みは、好ましくは40μm以上であり、より好ましくは60μm以上であり、上限が好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。厚みがこれより薄いと、十分な着色意匠や下地の隠蔽機能を付与するために、多量の着色剤を添加する必要が生じ、押出し製膜性が悪化したり、加工性の低下を来たし、意匠性積層シート被覆金属板200を折り曲げ加工等の二次加工に供した場合に、樹脂層に割れや、クラック、白化等の不具合を生じやすくなる。また、厚みをこれより厚くしても、必要な機能は飽和すると同時に、後述するように、積層シート100全体としての厚みに制約があることから、相対的に他の層を薄くする必要を生じ、これらの層の機能発現不全をもたらす虞がある。
【0091】
<D層40>
D層40は、積層シートを加熱し、熱融着積層を行う際に、特に従来から軟質PVCにエンボスを付与するために用いられて来たエンボス加工装置を転用して熱融着積層を行う際に、加熱された金属ロールへの粘着防止層として機能し、更に、従来の軟質PVCと同様の温度まで加熱された積層シート100の張力低下を防ぎ、幅縮み、皺入り、熔融破断等を防ぐために設けられる。また、C層30の表面に印刷柄E50を付与する際は、印刷工程での溶剤乾燥のための加熱に際して、幅収縮の防止等、同様に機能する層である。
従って、D層40を構成する樹脂組成は、エンボス加工装置での190℃程度までの加熱で、これらの機能を喪失するものであってはならない。
【0092】
D層40は、D層40における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、融点が210℃以上230℃以下のPBT系樹脂を70質量%以上100質量%以下含有している。融点が210℃以上必要なのは、熱融着積層に、従来の軟質PVCシートにエンボスを付与するために用いられて来たエンボス加工装置を転用することが好ましいのであるが、該エンボス加工装置を用いる場合に、シートが支持体無しでヒーターによって加熱される温度が160℃〜190℃程度であることから、この温度で十分な張力を得るためである。また融点の上限を230℃としたのは、市販原料として得られるPBT系樹脂の中ではもっとも融点の高いホモPBTで225℃前後であることによる。
【0093】
結晶化により融点に至るまで高い弾性率が維持され、それによって張力が保持される観点のみに着目すれば、D層40に用いる事の出来るポリエステル系樹脂は、高い結晶性を有するものであれば良く、例えば、ホモPET樹脂等でも良いことになる。しかし、上記融点範囲にあるPBT系樹脂は、比較的結晶化速度が速いため、70質量%以上のPBT系樹脂を含むブレンド組成物では、特別な工程増を伴わずに、上記目的に十分な程度に結晶化した状態のシートを押出し製膜法により得ることが可能であり、D層40にエンボス加工装置を用いた熱融着積層の際に求められる機能を付与することが容易であることから、本発明においては上記の融点を有するPBT系樹脂を用いる。
また、従来の軟質PVCシートを金属板にラミネートする際の、金属板の加熱温度が235℃程度であったことから、上記融点範囲のPBT樹脂をD層40の樹脂組成として用いた場合は、エンボス加工装置で問題を生じないような結晶化した状態のD層40であっても、従来のラミネート温度を変更することなく金属板60へのラミネートが可能である。
【0094】
PBT系樹脂を用いる他の理由としては、A層10の場合と同様に、結晶化した状態でもPET系樹脂に比べて良好な加工性を得られること、および、近年、押出し製膜グレードなどの用途展開が活発になり、各種グレードのPBT樹脂原料を入手しやすくなったことが挙げられる。
【0095】
D層40は、D層40における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、上記のPBT系樹脂を70質量%以上100質量%以下の割合で含有している。この割合が小さすぎる場合は、結晶化した状態でシートを得ても、積層シートが加熱された際の熔融張力を十分なものとすることが難しく、エンボス加工装置を用いた熱融着積層に際して、積層シートへの皺入り、幅縮み、熔融破断等を生ずる虞がある。その点からはPBT系樹脂が75質量%以上であることが更に好ましい。一方、D層40の厚みを比較的厚くした場合で、かつ、D層40を前述したC層30との共押出し製膜で作製する場合、D層40の結晶性により、C層30とD層40との共押出しシートの反りが顕著になり取り扱い性が悪化する虞がある。その点からはD層40のPBT系樹脂は95質量%以下であることがより好ましい。
【0096】
D層40において用いる、融点が210℃以上230℃以下の範囲のPBT系樹脂としては、上記A層10に用いることのできるPBT系樹脂と同様のものを用いることができる。中でも、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、または、ジメチルテレフタル酸、ジオール成分として1,4−ブタンジオールの各単一成分を用いた、いわゆるホモPBT樹脂(意図せざる共重合成分が入っていてもよい。)を用いることが特に好ましい。
【0097】
D層40のPBT系樹脂以外の樹脂成分としても、A層10のPBT系樹脂以外の樹脂成分の場合と同様に、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を用いることが好ましく、その理由はA層10の場合と同様である。従って、D層40に用いることのできる実質的に非晶性のポリエステル系樹脂に関しても、A層10と同様のもの、従って、B層20やC層30に用いる事が出来るものと同様のものを用いることができる。
【0098】
本発明においては、A層10がPBT系樹脂を70質量%以上95質量%以下で含む層となっていることから、熱融着積層時にシートが加熱された際の張力保持層はD層40のみでなく、A層10もまたその機能を分担することとなるが、D層40を省いた構成(C層30が最下層となる構成)では、積層シートがエンボス加工装置の加熱された金属ロールに粘着し、熱融着積層が困難となる。
一方、積層シートのA層10側の表面を加熱金属ロール側とすることで、上記粘着は回避出来るのであるが、A層10の表面には、押出しキャストエンボス法で付与されたエンボスによる凹凸があり、加熱金属ロールからの熱伝達効率が悪い。また、凹凸のあるシートを金属ロール側として熱融着積層を行うことは、積層界面への気泡の抱きこみや、温度分布の不均一による界面密着強度の不安定等の問題を生ずる虞があり、品質上からも好ましくない。
【0099】
D層40の厚みは、下限が好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、上限が好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。D層40の厚みが薄過ぎるとC層30との共押出し製膜法で作製する場合も、安定した製膜性を確保できない虞があり、D層40を単層で製膜する場合は、シートの取り扱いが困難となる。また、厚みがこれ以上厚くなっても、D層40に必要な機能は飽和し、後述する如く積層シートの総厚みに制約があることから、他の層の機能発現不全をもたらす虞がある。
【0100】
(添加剤)
D層40にも、他の層と同様の各種添加剤を適宜な量添加しても良く、A層10と同様に結晶化速度の向上を目的に結晶核剤を添加しても良い。また、D層40が付与される目的の一つである加熱金属との非粘着性をより強固にするため、適宜な量の滑剤を添加しても良い。滑剤としては、ポリエステル樹脂への添加用として一般的に用いられるものを用いることができ、一例としては、モンタン酸系の滑剤である「リコワックスOP」(クラリアント・ジャパン社製)を挙げることができる。滑剤の添加量は、D層40の全樹脂量を基準(100質量部)として、0.2質量部〜3質量部の一般的な量で良い。
【0101】
或いは、エンボス加工装置での積層シートの張力をより強力なものとするため、線状超高分子量アクリル樹脂系加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレンP−531」等がある)や、フィブリル状に展開する易分散処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレンA−3000」等がある)を添加しても良く、この場合も0.2質量部〜3質量部程度の一般的な添加量で良い。
【0102】
C層30とD層40の製膜に関しても、A層10とB層20の場合と同様に、共押出し製膜法により、2層が積層された状態で製膜することが生産効率の点から好ましい。
【0103】
<印刷柄E50>
本発明の積層シート100においては、A層10およびB層20が実質的に透明な樹脂層であり、着色層であるC層30の色味の意匠を透明層を通して視認できる意匠を有すると同時に、B層20とC層30との間に印刷柄E50を有することで、印刷意匠を併せ持つものである。印刷柄E50は、グラビア印刷、オフセット印刷、平版スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェットプリンターによる印刷等の公知の方法で施される。絵柄は任意であり、例えば、石目調、木目調等の天然材を模した柄、或いは、幾何学模様、抽象模様等を挙げることができる。印刷は部分印刷でも全面印刷でも良く、部分印刷と全面印刷の両方が施されていても良い。該印刷インクのバインダー樹脂として、熱融着性を有するものを適宜選択したり、あるいは、印刷ラインで熱融着性のコーティング層を同時に塗工したりすることにより、印刷柄E50が全面印刷である場合でも、B層20と、印刷柄E50を付与したC層30との熱融着適性を確保できる。
【0104】
印刷柄E50は、C層30と積層することとなるB層20の表面に印刷を施すことにより形成してもよいが、該B層20と共押出し積層で製膜されるA層10の表面には、製膜時点で既に意匠感を有する程度の、つまり、最大高さ(Ry)が数十μmを超える規模のエンボスによる凹凸が形成されており、このような凹凸を有するシートを印刷基材とするよりは、B層20と積層することとなるC層30の表面に印刷を施すことが好ましい。
【0105】
<樹脂被覆金属板用積層シート100の製造方法>
積層シート100全体(A層10+B層20+印刷柄E50+C層30+D層40)での好ましい厚みは、80μm以上300μm以下の範囲である。積層シートの総厚みが薄すぎる場合は、下地の視覚的隠蔽確保のために、主にC層30に多量の顔料を添加する必要があり、その結果加工性の低下を来す虞がある。また、総厚みが薄過ぎる場合には、A層10の表面に付与可能なエンボス意匠も凹凸の浅いものに限定され、十分な意匠感を得ることが難しくなる。一方、積層シートの厚みが厚すぎる場合は、軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に従来から用いて来た成形金型の使用が困難になるなど、2次加工性に問題を生じる虞がある。
【0106】
本発明の積層シートの製造方法について以下説明する。まず、A層10とB層20とを共押出し製膜法で一体化された状態で製膜し、かつ、該押出し製膜時にキャスティングロール(引き取りロール)として、柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることにより、A層10側表面にエンボス意匠を付与する。そして、製膜ラインのキャスティングロール以降に、60℃程度に温調された結晶化ロールを設けておき、B層20側の表面を接触面としてロールと当接させることによりA層10の結晶化を促進させ、A層10の表面に付与されたエンボスの耐熱性を確保しておく。
【0107】
別途共押出し製膜法により積層一体化された状態で製膜されたC層30とD層40からなる共押出しシートを製膜する。次いで、C層30側表面、および/または、B層20側表面に印刷柄E50を付与しておき、B層20側表面とC層30側表面とを印刷柄E50を介した積層面として、熱融着積層により積層一体化する。熱融着積層に際しては、図2に示す軟質PVCのシートにエンボスを付与するために用いられているエンボス加工装置300を用いることが生産効率の点や既存設備を利用できる点から好ましい。
【0108】
該エンボス加工装置300の加熱ロールへのシートの導入部に夫々のシートを導入し、適宜タッチロールで押圧する等して熱融着積層し、引き続き赤外ヒーターによる加熱を実施し、通常はエンボスロールとバックロールが装着されている一対のロール間で加熱圧着し、更に冷却ロールへと導く事で、本発明の積層シートの熱融着積層による一体化が完結する。
ただし、A層10とB層20からなるシートと、C層30とD層40からなるシートとの積層一体化は必ずしもエンボス加工装置での熱融着積層によらないで、他の設備や他工程で熱融着積層を行っても良く、また、ドライラミ接着剤による積層や、紫外線硬化型接着剤を塗工・硬化させる等、接着剤を別途付与することによる積層としても良い。
【0109】
図2に、従来より軟質PVCシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられて来たエンボス加工装置300の一例を示す。図示した一実施形態のエンボス加工装置300は、加熱ロール310、テイクオフロール320、赤外線ヒーター330、ニップロール340、エンボスロール350および冷却ロール360により構成される。図2に示す形態では、あらかじめ艶消し意匠のエンボスが付与されたA層10+B層20の一体化シート、印刷柄E50を施したC層30+D層40の一体化シートを供給し、上記のようにエンボス加工装置の加熱ロール310で熱融着積層を行っている。本発明においては、積層シートのA層10側表面のエンボス意匠は、押出し製膜の時点で既に付与されているので、上記エンボス加工装置のエンボスロール350は、凹凸彫刻が施されていない鏡面ロール等に替えて用いることが好ましい。
【0110】
また、押出し製膜時に付与されたA層10表面のエンボス意匠に、エンボス加工装置で更に新たな模様柄のエンボスを重ねて付与しても良い。ただし、この場合は、エンボス加工装置でのシート加熱の最高温度が190℃程度であり、融点が210℃以上であるPBT系樹脂を主成分としてなるA層10を熔融させることは困難である。よって、エンボスロールに押されて変形するのは、加熱により熔融軟化したB層20およびC層30であり、A層10は、これら層に変形に追随して変形することとなる。よって、精密な意匠を有するエンボスの転写性には問題があり、また、あまり精密なエンボスを該方法で付与した場合は、エンボス耐熱性にも懸念が残る。このため、比較的精密なエンボス意匠は、押出し製膜時にキャストエンボス法で付与しておき、比較的粗い柄のエンボスで、多少のエンボス戻りが発生した場合も意匠感を損なうことが少ない柄をエンボス加工装置で追加するのが好ましい。
【0111】
本発明のC層30は、着色剤の添加による視覚的隠蔽性確保の必要性からある程度以上の厚みを有しており、また、190℃までの加熱で柔軟性を発現する層として設計されているので、このように、エンボス加工装置で新たなエンボス模様柄を重ねることも可能であるが、上記のように、あくまで、エンボス意匠を主に付与するのは、押出し製膜時であり、エンボス加工装置でのエンボス模様柄の付与は従であると考えるのが良い。
【0112】
また、エンボス付与されたA層10表面の凹部分には、いわゆるワイピング印刷による着色意匠を付与したり、光沢のあるワイピングインキを用いることで、凹部のみ光沢のある意匠感を付与したり、逆に光沢の無いワイピングインキを用いて、凹部の陰影を強調するような意匠感を付与しても良い。ワイピング印刷によりエンボス凹部に形成される着色インキ、および/または光沢の調製に用いる透明インキ層は、2液硬化型のウレタン系樹脂等をビヒクルとして使用したインキにより形成することが耐久性の点から好ましいが、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂等から成る1液インキを使用して形成しても良い。
【0113】
ここでの、着色インキに使用する顔料としては、通常の印刷インキ用に用いられる顔料を用いることができる。該樹脂被覆金属板用積層シートのエンボス凹部へワイピング印刷を付与すること自体は、軟質PVCシートを用いたエンボス意匠シートの時代から実施されてきたものである。ドクターブレード法、ロールコート法等の各種公知の方法によって、ワイピングインキ層を付与することができる。
【0114】
<意匠性積層シート被覆金属板200>
本発明の積層シートのD層40側を接着剤を用いて金属板60にラミネートすることにより、意匠性積層シート被覆金属板200が得られる。
本発明に用いる金属板60としては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板、アルミニウム合金系クラッド板、チタン系合金板、ハステロイ等ニッケル系合金板、マグネシウム系合金板等が使用でき、これらは通常の化成処理を施した後に使用しても良い。金属板60の厚さは、意匠性積層シート被覆金属板200の用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶことができ、内装建材用途等では通常0.25mm〜1.6mm程度の厚みのものが用いられる。
【0115】
積層シート100を金属板60にラミネートする方法に特に制限はないが、接着剤70によるラミネートが一般的である。接着剤70としては、従来より軟質PVCシートを金属板60にラミネートするために用いられてきた、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の加熱硬化型接着剤を用いることが好ましく、これらの中でも、シートがポリエステル系樹脂からなることから、ポリエステル系の接着剤を特に好ましく用いることができる。ラミネート方法についても、従来法によることが、既存設備を利用できる点から好ましい。即ち、金属板60にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、積層シート100を貼り合せる側の金属板60の表面に、乾燥後の接着剤膜厚が1μm〜10μm程度になるように上記の加熱硬化型接着剤を塗布する。
【0116】
ついで、赤外線ヒーターおよび/または熱風加熱炉により塗布面の乾燥および加熱を行い、金属板の表面温度を225℃〜240℃程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いて積層シートのD層40側が接着面となるように被覆、水噴射等の急冷冷却が実施できる方法により、積層シート中の含有水分が加熱されて発泡を生じない内に冷却することにより、意匠性積層シート被覆金属板200を得ることができる。
【0117】
また、本発明の意匠性積層シート被覆金属板200は、良好な加工性を有し、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クロゼットドア材やパーティション材およびパネル材等の建築内装材、ドア材、鋼製家具部材、AV機器、エアコンカバー等の家電製品筐体部材として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0118】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、次に実施例を示すが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0119】
<実施例1〜25、比較例1〜14>
(A層+B層の共押出シートの作製)
実施例1〜25、および比較例1〜14に用いるA層とB層の共押出シートは、シリンダー直径φ65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)を使用して、フィードブロック方式の共押出しによって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る一般的方法により得た。押出し機のシリンダー設定温度は、フィード側200℃、口金側250℃で、両押出し機について同様である。Tダイの設定温度は250℃を基準とし、厚み分布等製膜の状況に応じて適宜幅方向の温度設定の微調整を行った。各種接続導管やフィードブロック部の設定温度も250℃である。なお、A層として、表1中のa−19、及びa−20を用いたシートのみ、原料の融点が高いため、Tダイや、フィードブロック部の温度設定を265℃を基準とし、A層側押出し機の口金側温度設定や、接続導管類も265℃とした。
【0120】
なお、キャスティングロールは、20℃の水を循環させることにより温度調整されており、表面に中心線平均粗さ(Ra)が9μm、最大高さ(Ry)が54μmの石目の柄を基調とした抽象柄の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻された直径400mmの表面メッキ処理された金属ロールである。Tダイから流下した積層構成の熔融樹脂は、A層を形成する側をキャスティングロール側となるように押し出され、B層を形成する側には、水を循環させることにより40℃程度の表面温度に調整されたシリコーンゴム製のタッチロールが当接されるようにした。キャスティングロールを離れた時点でのシートの流れ速度(製膜速度)は、30m/分であった。
【0121】
このようにして共押出し製膜されたA層およびB層よりなるシートに、製膜ラインのキャスティングロール設備の後工程に設置された熱処理ロールを用いて、A層の結晶化処理をオンラインで実施した。熱処理ロールは、60℃の水を循環させることにより温度調整された、直径500mmの表面メッキされた金属鏡面ロールである。熱処理ロールには、A層とB層よりなるシートのB層側表面が接触面となるように通され、ロール面長のほぼ65%でシートが接触する状態となっている。
【0122】
A層の樹脂組成とA層の厚みを表1に、B層の樹脂組成とB層の厚みを表2に示した。また、A層の樹脂組成物のガラス転移温度を表1中に記載したが、PBT樹脂を主成分とする樹脂組成物では手で触れただけで結晶化が進行するなど、非晶の状態での測定試料の採取が非常に困難であり、一方で本発明の実施に際しては結晶化した状態でのガラス転移温度を測定しても無意味であり、多くの場合をホモPBTの非晶状態でのガラス転移温度の文献値(22℃)と、A層にブレンドされるPBT以外のポリエステル系樹脂(ガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂)のガラス転移温度の測定値からの推定値(内挿値)とせざるを得なかった。該推定値に関しては、表1中に「(22)」のように括弧書きで示している。実際に測定したガラス転移温度に関しては、A層とB層の共押出シートが引き取りロールを離れてから、熱処理ロールに到達する以前にハサミでシートの一部を切り取り、A層側からミクロトームを用いて樹脂を削りだしたものを用いて測定している。測定自体は後述する原料樹脂のガラス転移温度の測定と同様に示差走査熱量計により行っている。
B層の樹脂組成物のガラス転移温度の測定値、及び推定値を同様に表2に示した。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
実施例1〜25および比較例1〜14のA層とB層の組み合わせは表3に示した。またキャスティングロールのエンボス版深さに対する、A層とB層から成る共押出シートの厚みの比「(A層の厚み(μm)+B層の厚み(μm))/エンボスロールの最大高さRy値(μm)」も表3中に示した。なお、比較例13は、A層の無いB層単層からなるシートを用いており、比較例14はB層の無いA層単独からなるシートを用いている。
【0126】
【表3】

【0127】
(C層+D層の共押出シートの作製)
C層とD層の共押出シートに関しても、A層とB層の共押出シートの場合と同様に共押出し製膜を行った。使用した押出し機や温度設定はA層とB層の場合と同一であるが、キャスティングロールには、表面に中心線平均粗さ(Ra)が1μm、最大高さ(Ry)が6μmの梨地の凹凸を付与する為のエンボスが彫刻されたロールを用いており、本エンボスはエンボス意匠を付与する目的のものではなく、印刷柄Eを付与する際の印刷インクの定着性を良好にするため、および、シートに滑り性を与え、巻き重ね性を良好にするためのものである。なお、C層を形成する側がキャスティングロール側となるように押し出されており、該ロールは、20℃の水を循環させることにより温度調整されており、該温度はC層の樹脂組成の変化に応じて微調整を行っている。D層を形成する側には、シリコーンゴム製のタッチロールが当接されるようにしている。
【0128】
C層の樹脂組成は、C層の全樹脂成分を基準(100質量%)として、イースターPETG・6763が75質量%、ノバテュラン5020Hが25質量%からなっており、酸化チタン系白色顔料28質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部とした値)の添加により白色に着色されている。C層の厚みは60μmである。
また、D層はイースターPETG・6763が10質量%、ノバデュラン5020Hが90質量%から成っており、顔料成分を有しない厚み10μmの層である。
【0129】
C層とD層の共押出シートを製膜した後、C層側表面にはグラビア印刷によりアクリル・ウレタン系の印刷インクを用いて抽象柄の印刷柄Eを付与した。グラビア印刷機での印刷適性や溶剤乾燥の為の熱風加熱炉での80℃程度までの加熱で、特に問題は発生しなかった。
【0130】
上記の実施例および比較例で使用した原料は以下の通りである。
(イースターPETG・6763(イースター6763))
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の非結晶性ポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約30mol.%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約70mol.%がエチレングリコールである。融点は観察されず、ガラス転移温度は78℃である。
【0131】
(PCTG・5445)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の実質的に非結晶性ポリエステル樹脂として扱うことが可能なポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約65mol.%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約35mol.%がエチレングリコールである。融点は観察されず、ガラス転移温度は86℃である。
【0132】
(FLX−92)
ベルポリエステルプロダクツ社製の実質的に非晶性のポリエステルエラストマーである。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約26モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約68モル%がエチレングリコール、約6モル%が数平均分子量約1000のポリテトラメチレングリコールである。測定されたガラス転移温度は19℃で、融点は観察されなかった。
【0133】
(ノバデュラン5020H)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の(ホモ)ポリブチレンテレフタレート樹脂である。融点は225℃である。結晶化した状態の原料ペレットでは明確なガラス転移温度が確認出来なかった。結晶性が高く、非晶領域の体積が少ない為と思われる。
【0134】
(ジュラネックス500JP)
ウィンテックポリマー社製のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂である。融点は204℃である。
【0135】
(BK−2180)
三菱化学社製のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である。融点は247℃であり、ガラス転移温度は76℃である。
【0136】
(RT−553)
日本ユニペット社製の(ホモ)ポリエチレンテレフタレート樹脂である。融点は253℃である。各原料のガラス転移温度、または融点は以下の方法により測定している。
【0137】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC−7」を用いて、試料10mgをJIS K−7121「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて、加熱速度を10℃/分で−40℃から250℃まで昇温し、250℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温、同温度で1分間保持した後、再度10℃/分で昇温した際のサーモグラムからガラス転移温度(Tg)を求めた。尚、BK−2180のみ、同様の昇温速度で−40℃から270℃迄昇温し、270℃で1分間保持した後、同様に測定している。各原料のペレットをそのまま試料として用いている。
【0138】
(融点(Tm)の測定)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC−7」を用いて、試料10mgをJIS K−7121「プラスチックの転移温度測定方法・融解温度の求め方」に準じて、加熱速度を10℃/分で−40℃から250℃まで昇温し、250℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温、同温度で1分間保持した後、再度10℃/分で昇温した際のサーモグラムから融点(Tm)を求めた。尚、BK−2180のみ、同様の昇温速度で−40℃から270℃迄昇温し、270℃で1分間保持した後、同様に測定している。各原料のペレットをそのまま試料として用いている。
【0139】
(A層+B層共押出シートと、C層+D層共押出シートとの熱融着積層)
図2に示すような軟質PVCシートへのエンボス付与に一般的に使用されているエンボス加工装置を用いて、A層とB層からなる共押出しシートと、C層側表面に印刷柄Eを付与したC層とD層から成る共押出しシートとの熱融着による積層を行った。ただし、図2中のエンボスロール350に替えて、金属製鏡面ロールを装着している。
加熱ロール310は120℃に設定されており、該加熱ロールへのシートの導入部でシリコーンゴム製のタッチロールで押圧することにより上記2種のシートを重ね合わせ、加熱ロールの熱により仮密着状態としている。引き続き、積層一体化された状態のシートは、赤外線ヒーター330で、エンボスロール350と接する直前の表面温度が170℃になるように加熱され、直径200mmのエンボスロール350と硬質シリコーン製のバックロールの間で押圧することにより十分な密着強度を確保する。引き続き一体化されたシートは冷却ロールへと導かれ、シートが冷却されることにより熱融着積層の一連の作業が完結する。
エンボスロール350は、温水循環機により90℃に温度調整されており、冷却ロールは同様に40℃に温度調整されている。
【0140】
(意匠性積層シート被覆金属板の作製)
市販されている軟質PVC被覆金属板用の加熱硬化型ポリエステル系接着剤を、積層シートを貼り合わせる金属面に乾燥後の接着剤膜厚が1μm〜3μmの範囲になるよう塗布した。次いで赤外線ヒーターおよび熱風加熱炉に、該金属板を導入し塗布面の溶剤乾燥、および加熱を行い、金属板の表面温度が235℃となるように保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いて積層シートのD層側表面を接着積層面として被覆した。その後、直ちに水噴射による冷却を行い、意匠性積層シート被覆金属板を得た。金属板としては、厚み0.45mmの電気亜鉛メッキ鋼板を用いた。
【0141】
(樹脂被覆金属板用積層シートおよび意匠性積層シート被覆金属板の評価)
上記の実施例および比較例で得た、樹脂被覆金属板用積層シートおよび意匠性積層シート被覆金属板について、以下の各項目を評価した。結果を表4に示す。
【0142】
(1)キャスティングロール(エンボスロール)への粘着性
Tダイよりキャスティングロールに流下させ、冷却固定されたA層10とB層20の積層樹脂がキャスティングロールより剥離され後工程へと導かれる状態を目視で観察した。シートが全くロールへの粘着なく良好な剥離状態を示す場合を「○」、やや粘着気味であるが問題なく生産が可能である場合を「△」、粘着が著しく安定した生産が困難と判断された場合を「×」とした。評価結果は表4中に記載した。尚、A層とB層の共押出しシートのキャスティングロールへの粘着が著しかったものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0143】
(2)熱処理ロールへの粘着性
押出製膜ラインのキャスティングロールの後工程に設置した熱処理ロールに、A層10とB層20の積層樹脂を巻き付かせた後、熱処理ロールより剥離され後工程へと導かれる状態を目視で観察した。シートが全くロールへの粘着なく良好な剥離状態を示す場合を「○」、やや粘着気味であるが問題なく生産が可能である場合を「△」、粘着が著しく安定した生産が困難と判断された場合を「×」とした。評価結果は表4中に記載した。尚、A層とB層の共押出しシートの熱処理ロールへの粘着が著しかったものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0144】
(3)A層+B層共押出シートの取り扱い性(反りの強弱)
A層+B層共押出シートを15cm(TD方向)×30cm(MD方向)に切り出して、定盤の上に置き、反りの程度を観察した。反りが強く完全に円筒状になってしまう場合や、定盤面から10cm以上の高さのアーチ状になる場合を取り扱い性が悪いとして「×」、10cm未満であるが5cm以上の反りが出る場合を「△」、それ未満の反りの場合、取り扱い性は良いとして「○」とした。なお、「TD方向」とは、シートの幅方向(Transverse direction)をいい、MD方向に直交する方向をいう。評価結果は表4中に記載した。尚、A層+B層一体シートの反りが著しく、後工程での取り扱いに支障を生じたものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0145】
(4)押出しキャストエンボス法によるエンボス転写率
A層とB層の共押出シートのA層側表面に付与されたエンボス凹凸を表面粗さ計(小坂研究所製、「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、最大高さRy1(μm)を求めた。一方、エンボス版ロール(キャスティングロール)の最大高さをRy0(μm)とし、(エンボス転写率:Ry1/Ry0×100(%))を算出した。転写率が80%以上である場合を「○」、転写率が80%未満であるが、視覚的には良好なエンボス意匠が付与されている場合を「△」、転写率が80%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が劣っている場合を「×」で示した。評価結果は表4中に記載した。
【0146】
(5)熱融着積層適性:耐粘着性
図2に示すエンボス加工装置を利用してA層とB層から成る共押出シートと、印刷柄を付与したC層とD層から成る共押出シートとの熱融着積層を行う際に、加熱ロール310に積層シートが粘着して剥離困難になったもの、及び剥離は可能であったがシートの伸び・変形が顕著であったものは「×」、軽度の粘着を示したが作業の継続が可能であり、シートの伸び・変形も実用上支障の無い範囲であったものを「△」、粘着しなかったものは「○」で示した。また、加熱ロールに積層シートが粘着し剥離困難となったものに関しては、以降の評価を実施していない。評価結果は表4中に記載した。
【0147】
(6)熱融着積層適性:耐溶断性
図2に示すエンボス加工装置での熱融着積層を行う際に、ヒーター330によるシート加熱中にシートが溶断したもの、及びシートの顕著な伸びや皺入り等を発生したものは「×」、軽度なシートの伸び・幅縮み等を生じたが実用上支障のない範囲であったものを「△」、これらの問題を生じなかったものは「○」で示した。この評価で「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。評価結果は表4中に記載した。
【0148】
(7)熱融着積層適性:気泡の抱きこみの有無
上記により熱融着積層を完了した樹脂被覆金属板用積層シートの表面から目視による観察を行い、A層とB層の共押出シートと、印刷柄Eを有するC層とD層の共押出シートの積層界面に熱融着積層時に多数の気泡を抱き込んでおり、それに起因して著しい意匠感の低下を来たしている場合を「×」、やや気泡を抱き込んでいるが意匠感に特に支障が無い場合を「△」、気泡の抱きこみが見られない場合を「○」として評価した。評価結果は表4中に記載した。
【0149】
(8)熱融着積層界面の密着強度
20mm×100mmの意匠性積層シート被覆金属板を試験片として、「JIS Z−0237・粘着テープ、粘着シート試験方法−試験片に対する180度引き剥がし粘着力」に準拠した剥離強度測定を測定幅20mmで行い、印刷柄Eを介在したB層20とC層30との間の熱融着界面密着強度を評価した。接着力が10N/20mm以上で、十分な接着力があると判断されたものを「○」、接着力が5N/20mmより大きく10N/20mm未満で、相対的に接着力が低いが実用上は支障ないと判断されたものを「△」、接着力が5N/20mm以下で接着力が不十分と判断されたものを「×」として評価した。
【0150】
(9)ラミネート後のエンボス残存率(エンボス耐熱性)
エンボス加工装置を用いて熱融着積層による一体化が完了した積層シート(A+B+E+C+D)のA層側表面に付与されたエンボス凹凸を表面粗さ計(小坂研究所製、「サーフコーダ」SE−40D)で測定しておき、該積層シートを金属板にラミネートした後に再度粗さ測定を実施し、ラミネートする前の最大高さをRy1(μm)、ラミネート後のそれをRy2(μm)としてエンボスの残存率を求めた(残存率:Ry2/Ry1×100(%))。残存率が80%以上である場合を「○」、残存率が80%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合を「△」、残存率が80%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合を「×」で示した。評価結果は表4中に記載した。
【0151】
(10)沸騰水浸漬後のエンボス残存率(エンボス耐熱性)と外観評価
積層シート(A+B+E+C+D)を金属板にラミネートした意匠性積層シート被覆金属板を100mm×100mmの大きさに切断し、沸騰水中に3時間浸漬した。取り出し乾燥後、A層側表面に付与されたエンボス凹凸を、表面粗さ計(小坂研究所製、「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、前記評価項目(9)で測定したラミネート後の最大高さをRy2(μm)を基にして、沸騰水浸漬後のエンボスの残存率を求めた。(沸騰水浸漬後の最大高さの測定値をRy3(μm)として、残存率:Ry3/Ry2×100(%))。
残存率が80%以上であり、且つ、エンボス戻り以外の沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形なども認められない場合を「○」、残存率が80%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合、及び、残存率が80%以上であるが、沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形が僅かに認められる場合を「△」、残存率が80%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合、及び、残存率に関わらず、樹脂層の軟化・流動に起因する変形により著しく意匠性が低下している場合を「×」で示した。
【0152】
(11)樹脂被覆金属板の折り曲げ加工性
作製した意匠性積層シート被覆金属板に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部の積層シートの面状態を目視で判定し、ほとんど変化がないものを「○」、若干クラックが発生したものを「△」、割れが発生したものを「×」として評価した。なお、衝撃密着曲げ試験は次のようにして行った。意匠性積層シート被覆金属板の長さ方向および幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、折り曲げ試験機を用いて180°(内曲げ半径2mm)に折り曲げ、その試料に直径75mm、質量5Kgの円柱形の錘を50cmの高さから落下させた。評価結果は表4中に記載した。
【0153】
(12)表面硬度(樹脂被覆金属板の鉛筆硬度試験)
作製した意匠性積層シート被覆金属板について、JIS K5600−5−4:1999 引っかき硬度(鉛筆法)に従い実施した。23℃の恒温室内で、80mm×60mmに切り出した樹脂被覆金属板の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ9.8Nの荷重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、該部分の樹脂シートの面状態を目視で判定し、Bの鉛筆で全く傷が付かなかったものを「○」、Bでは傷が入るが、2Bの鉛筆では全く傷が付かなかったものを「△」、2Bの鉛筆でも傷が付いたものを「×」として表示した。評価結果は表4中に記載した。
【0154】
【表4】

【0155】
<実施例26〜43、比較例15〜20>
実施例26〜43および比較例15〜20では、A層とB層の樹脂組成と厚みの組み合わせは固定として、C層およびD層の樹脂組成、および、厚みを変化させた。A層およびB層の共押出シートに関しては、実施例18と同じもの(A層:表1中のa−7と、B層:表2中のb−6の組み合わせ)を用いた。上記した実施例1等におけるC層とD層の共押し出し製膜法と同様にして、C層とD層の共押出シートを得た。C層とD層の共押出シートのC層側表面への印刷柄Eの付与も実施例1等と同様に実施した。グラビア印刷機での印刷適性や溶剤乾燥のための熱風加熱炉での80℃程度までの加熱で、特に問題は発生しなかった。エンボス加工装置を用いた熱融着積層一体化に際する加熱、冷却の条件、及び、金属板へのラミネート方法、条件に関しても同様とした。
【0156】
C層の樹脂組成とC層の厚みを表5に、D層の樹脂組成とD層の厚みを表6に示した。また、実施例26〜43、及び比較例15〜20のC層とD層の組み合わせを表7に示した。評価についても実施例1等と同様に行い、その結果を表8に示した。なお、A層とB層の共押出シートに関しては、実施例18と同じものを用いているため、A層とB層の共押出シートのキャスティングロール粘着性、熱処理ロール粘着性、共押出シートの取り扱い性、及び、製膜時点でのエンボス転写率の評価は省略した。なお、比較例20ではD層の無いC層単層からなるシートを用いた。
【0157】
【表5】

【0158】
【表6】

【0159】
【表7】

【0160】
【表8】

【0161】
<実施例44、45>
実施例1〜25の評価の中で、エンボス加工装置での熱融着積層時に気泡の抱きこみを発生し、その結果として沸騰水浸漬後の意匠感が著しく低下する結果となった、実施例8、および、実施例10と同一の積層シートの組み合わせを用いて、キャスティングロールのみを中心線平均粗さ(Ra)が7μm、最大高さ(Ry)が41μmの石目の柄を基調とした抽象柄の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻された直径400mmの表面メッキ処理された金属ロールに交換し、他の条件は同一として、A層とB層の共押出シートを製膜した。これを実施例1等と同一のC層とD層の共押出シートとエンボス加工装置を用いて熱融着積層し、更に金属板にラミネートすることで意匠性積層シート被覆金属板とした。熱融着積層の条件や、金属板へのラミネート条件に関しても、実施例1等と同様とした。
【0162】
実施例44、45のキャスティングロールのエンボス版深さに対する、A層とB層の共押出シートの厚みの比「(A層の厚み(μm)+B層の厚み(μm))/エンボスロールの最大高さRy値(μm)」を表9中に示した。また評価結果を表10に示した。
【0163】
【表9】

【0164】
【表10】

【0165】
[積層シートおよびエンボス意匠シート被覆金属板の評価]
<実施例1〜25、比較例1〜14>
A層が無い構成である比較例13においては、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂から成るB層の表面に、押出キャストエンボス法によりエンボスを転写することとなる。製膜時のキャスティングロールによるエンボスの転写自体には問題がなく、良好なエンボス転写率を有するB層のシートが得られている。更に、エンボス加工装置での、C層とD層の共押出シートとの熱融着積層にも問題を生ずることは無かったが、同エンボス加工装置での加熱、及び、金属板へのラミネートの際の加熱によって著しいエンボス戻りを生じ、ラミネート後の意匠感は低下を来たした。
B層が無い構成である比較例14についても、エンボスの転写自体に問題は生じなかったが、60℃の水を循環させる事により温度調整された熱処理ロールに粘着を発生し、引き剥がし困難となってしまった。
【0166】
比較例4、及び比較例5は、A層のPBT系樹脂として、本発明の範囲より融点が低いものを用いた場合であるが、比較例13と同様の傾向を示しており、やはり樹脂被覆金属板の形態での意匠感は著しく低下している。A層のPBT系樹脂の融点が低いことそれ自体よりも、結晶化速度が遅いため熱処理ロールを用いることによっても、押出製膜ラインのキャスティングロールにより転写されたエンボス意匠を結晶化により固定することができなかったと考えられる。
これは、A層の結晶性ポリエステル系樹脂として、ホモPET樹脂を用いた比較例6、及び7についても同様である。
【0167】
本発明の融点範囲にあるPBT系樹脂を用いているものの、そのブレンド比率が本発明の範囲より少ない比較例1についても、比較例13と同様の傾向を示しており、A層のブレンド組成物に占めるPBT系樹脂の比率が少ない場合も、結晶化速度が遅くなることに起因して、押出製膜ラインのキャスティングロールにより転写されたエンボス意匠を結晶化により固定することができなかったと考えられる。
【0168】
比較例2は、A層の樹脂組成としてPBT系樹脂のみを用いた場合であるが、20℃の水を循環させることで温度調整されたキャスティングロールに対して、当初は僅かな粘着を示す程度であったが、十数分経過した後該ロールへの粘着が著しいものとなり、製膜作業の継続が困難となった。これは、当初はキャスティングロールの表面温度がA層の樹脂組成物のガラス転移温度よりやや低い温度に保たれていたものが、Tダイから熔融流下する樹脂組成物を引き取る間に次第に温度上昇を来たし、遂にはA層のガラス転移温度を越えたためと考えられる。また、製膜初期に採取したA層とB層の共押出シートは、反りが著しいものであり、取り扱い性に問題を生じた。
【0169】
比較例3は、A層の設定厚みが薄すぎる場合であり、フィードブロック法式の共押出し法ではA層の樹脂組成物がA層とB層の共押出シート端部まで十分に展開しなかったようであり、金属板にラミネートした後のエンボス残存率は、樹脂被覆金属板幅方向の中央では良好な値を示したものの、端部に於いては著しく意匠感が低下する結果となった。
【0170】
比較例8は、A層の樹脂組成物として、ホモPBT樹脂を主成分としながら、ガラス転移温度が70℃より低い実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を配合した場合であり、ブレンド組成物のガラス転移温度が低いことにより、キャスティングロールに著しい粘着を生じ、製膜が困難であった。また、参考例9は、B層の樹脂組成物として、ガラス転移温度が70℃である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主成分としながら、PBT樹脂が配合されたことにより、B層のガラス転移温度が60℃より低くなってしまった場合であり、熱処理ロールへの粘着を生じて製膜作業が困難となった。これは比較例10についても同様である。
比較例11は、B層の樹脂組成物にPBT樹脂は配合されておらず、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂のみからなる場合であるが、そのガラス転移温度が60℃より低いものであるため、結晶化ロールへの粘着を生じ、製膜作業が困難となった。これは比較例12に関しても同様である。
【0171】
これらに対して、本発明の実施例1〜25はいずれも、製膜時のキャスティングロールや熱処理ロールへの粘着によるトラブルは発生せず、エンボス転写率が良好であり、A層とB層の共押出シートの取り扱い性に関しても問題がなく、エンボス加工装置による熱融着積層時の耐粘着性や耐溶断性にも問題を生ぜずに良好な界面の密着強度が得られており、エンボス加工装置での加熱や、金属板へのラミネート時の加熱によってもエンボス戻りを生ずることがないため、良好なエンボス意匠感が維持されており、また意匠性積層シート被覆金属板を沸騰水浸漬に供した場合についても一部のものを除いて、同様に良好なエンボス意匠感が維持されている。更に、折り曲げ試験でも問題を生じない良好な加工性を有し、表面硬度も高く従って耐傷入り性の良好な意匠性積層シート被覆金属板が得られている。
【0172】
ただし、実施例1〜3においては、ラミネート後のエンボス残存率がやや低い結果となっており、これはA層の樹脂組成物として、PBT樹脂以外の樹脂成分が多くなるとブレンド組成物の結晶化速度が低下することにより、エンボス耐熱性が低下傾向となることを示す。押出キャストエンボス法によるエンボスの転写率自体には問題はなかった。
実施例7は、A層のガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂の配合量が少ない場合であり、引取りロールに僅かな粘着の傾向を示したが、押出製膜が困難となるほどではなかった。また、A層とB層の共押出シートには反りも発生しているが、後工程の作業が困難となるほどのものではなかった。PBT樹脂の配合割合が高いことにより、ラミネート後のエンボス残存率は良好な結果が得られている。
【0173】
実施例8は、熱融着積層時に積層界面への空気の抱きこみを生じ、結果として積層シート被覆金属板の意匠感の低下を来たした。また、沸騰水浸漬に供した場合、更に意匠感が低下する結果となったが、これは沸騰水浸漬を受けた際に積層界面に存在する気泡が膨張したことによると考えられる。実施例10においては、やはり同様の問題が更に顕著に発生すると同時に、エンボス転写率自体もやや悪い結果となった。しかし、これらの原因は、転写するエンボス版の版深(引き取りロール表面の最大高さ・Ry値)に対して、A層とB層の共押出シートの厚みが相対的に薄いことに問題があると考えられる。すなわち、エンボスを付与したA層側表面とは反対側の表面であるB層側に「裏シボ」と呼ばれる凹凸が顕著に発生したことにより、熱融着積層時に積層界面に空気を抱き込み易くなったものと推定される。エンボスの版深に対して、A層とB層の共押出シートの厚みを最適化することで、この問題は解決できるものであると考えられる。
【0174】
実施例16で、沸騰水浸漬後の意匠感が低下したのは、B層の樹脂組成物として、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからなる配合を用い、且つ、B層の厚みとして比較的厚いものを用いたことにより、沸騰水浸漬時にB層の樹脂組成物の弾性率が低下し、多少の流動変形を生じたことによる。エンボスの残存率自体には大きな低下は無かったが、表面全体にうねりのような波打ちが認められた。B層の厚みを比較的厚くする場合は、実施例17のようにB層にPBT樹脂を20質量%程度配合することが、耐沸騰水性に問題を生じ難い点から好ましい。
【0175】
実施例20は、B層の樹脂組成物のガラス転移温度が60℃に漸近した場合であり、押出し製膜設備の熱処理ロールに僅かな粘着を示している。実施例22についても同様の理由により、同様の傾向が認められた。
実施例24は、A層に配合するガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂として、非晶性のものではなく、結晶性の共重合PET樹脂を用いた場合であるが、ラミネート後のエンボス残存率としては、実施例2と変わらない結果となっている。また、加工性試験に関しても悪い結果にはならなかった。
【0176】
<実施例26〜43、比較例15〜20>
比較例20は、D層が無いC層のみの単層シートを用いた場合であるが、エンボス加工装置の加熱ドラムにC層が粘着してしまい、熱融着積層を実施することができなかった。
比較例19は、D層が存在する構成であるが、D層の樹脂成分として、ホモPET樹脂のみを用いた場合であり、やはりエンボス加工装置の加熱ドラムへの粘着を生じ、熱融着積層を実施することができなかった。PET系樹脂は結晶化速度が遅いことにより、D層が非晶の状態のまま加熱ドラムと接触することになったためと考えられる。
【0177】
比較例17は、D層へのPBT系樹脂のブレンド比率が本発明の範囲より少ない場合であり、やはりエンボス加工装置の加熱ドラムへの粘着により以降の作業を実施することができなかった。粘着の理由は比較例19の場合と同様と考えられる。
比較例18は、D層の厚みが薄過ぎる場合であり、フィードブロック法式の共押出し法ではD層の樹脂組成物がC層+D層の一体シートの端部まで十分に展開しなかったようであり、積層シートの端部において加熱ドラムへの粘着を生じた。また、D層が加熱時の張力保持層として機能するには薄過ぎることにより、シートに著しい伸びと、それに伴う皺入りが発生し、以降の作業を実施することができなかった。
【0178】
比較例16は、C層の樹脂組成が本発明の範囲より多い量のPBT系樹脂を含む場合であり、エンボス加工装置での熱融着の作業性自体には問題を生じなかったが、熱融着界面に気泡の抱き込みを発生し、意匠感の低下が認められた。更に、熱融着界面の密着強度も不足であった。
また、比較例15はC層の厚みを厚くした事により、積層シート(A+B+C+D)の総厚みが本発明の範囲を超えて過剰に厚くなった場合であり、金属板にラミネートし加工性試験に供した場合、加工性不良となっている。
【0179】
これらに対し、本発明の実施例26〜43については、エンボス加工装置による熱融着積層時の耐粘着性や耐溶断性にも問題を生ぜずに良好な界面の密着強度が得られており、エンボス加工装置での加熱や、金属板へのラミネート時の加熱によってもエンボス戻りを生ずることがないため、良好なエンボス意匠感が維持されており、また意匠性積層シート被覆金属板を沸騰水浸漬に供した場合についても一部のものを除いて、良好なエンボス意匠感が維持されている。更に、折り曲げ試験でも問題を生じない良好な加工性を有し、表面硬度も高く従って耐傷入り性の良好な意匠性積層シート被覆金属板が得られている。
【0180】
ただし、沸騰水浸漬後の表面状態に関しては、C層の樹脂層厚みが厚く、且つC層の樹脂組成が実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂のみからなる実施例28、29、30では悪い結果となってしまっている。これらは樹脂被覆金属板のA層表面のエンボス戻りではなく、表面全体にうねりのような波打ちが認められたものである。C層が実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからなる場合も、これらよりC層の厚みが薄い実施例26では、このような表面の波打ちは発生しておらず、また、C層の厚みが実施例30と同じでありながら、C層の樹脂組成として25質量%のPBT樹脂を含む実施例33では沸騰水浸漬後の表面の波打ちは生じていない。従って、特に耐沸騰水浸漬後の表面状態が問題となるユニットバス用途等に本発明の意匠性積層シート被覆金属板を用いる場合には、B層とC層の樹脂組成、或いは、B層とC層との厚みに関して、問題の無いものを本発明の実施例の中から選択して用いることが好ましい。
【0181】
<実施例44、45>
エンボス加工装置での熱融着積層時に気泡の抱きこみを発生し、その結果として沸騰水浸漬後の意匠感が著しく低下する結果となった、実施例8、及び実施例10と同一の積層シートの組み合わせを用いて、キャスティングロールのエンボス版深(最大高さ・Ry値)を浅くした場合、熱融着積層時の著しい気泡の抱きこみは観察されず、結果として沸騰水浸漬試験に於いても意匠感が低下する事はなくなった。エンボス意匠の良好な転写と、裏シボの発生による意匠感の低下を防止するという点からは、A層とB層の共押出シートの厚みは、エンボスロールの版深さ(最大高さ・Ry値)の1.2倍〜2倍程度であることが好ましいことがわかった。
【0182】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、樹脂被覆金属板用積層シート、意匠性積層シート被服金属板、該金属板を用いたユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材、および、樹脂被覆金属板用積層シートの製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】(a)は、A層10とB層20とを共押出し製膜法により作製した共押出シートの一実施形態を示す略断面図である。A層10の表面には押出し製膜設備の引き取りロールにより付与されたエンボス意匠を備えている。(b)は、C層30とD層40とを共押出し製膜法により作製した共押出シートの一実施形態を示す略断面図である。C層30側表面には印刷柄D50が付与されている。(c)は、本発明の積層シート100の4層すべてが積層一体化された状態の一実施形態を示す略断面図である。(d)は、(c)の本発明の積層シートを金属板にラミネートして作製した意匠性積層シート被覆金属板200である。
【図2】従来より軟質PVCのシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられてきたエンボス加工装置300の模式図である。本発明においては、該エンボス加工装置300を用いて、A層10およびB層20の共押出シートと、C層30およびD層40の共押出シート(C層側に印刷柄E50が付与されている。)との熱融着積層を行うことができる。
【符号の説明】
【0184】
10 A層
20 B層
30 C層
40 D層
50 印刷柄E
60 金属板
70 接着剤層
10+20 A層およびB層の共押出シート
50+30+40 C層およびD層の共押出しシートのC層側表面に印刷柄50を付与したもの
100 樹脂被覆金属板用積層シート
200 意匠性積層シート被覆金属板
300 エンボス加工装置の機能を示す略図
310 加熱ロール
320 テイクオフロール
330 赤外線ヒーター
340 ニップロール
350 エンボスロール
360 冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に、以下のA層、B層、C層、D層の少なくとも4層と、印刷柄Eからなる積層シートであって、
前記A層が、A層における樹脂成分全体の質量を基準として、70質量%以上95質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂、および、5質量%以上30質量%以下のガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂からなり、厚み5μm以上100μm以下の無配向で実質的に透明な樹脂層であり、
前記B層が、ガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなる無配向で実質的に透明な樹脂層であり、
前記C層が、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主体としてなり、着色剤が添加された厚み200μm以下の無配向の樹脂層であり、
前記D層が、D層における樹脂成分全体の質量を基準として、融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂を70質量%以上100質量%以下含有してなる厚み5μm以上の無配向の樹脂層であり、
前記印刷柄Eが前記B層と前記C層との間に介在し、
前記A層側表面に、エンボス転写による柄意匠を備えてなり、該柄意匠が、前記A層と前記B層とを共押出し製膜法により積層すると同時に、キャスティングロールとして柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることにより形成されたものであり、
総厚みが80μm以上300μm以下である樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項2】
前記C層と前記D層とが、共押し出し製膜法により積層一体化された状態で製膜されたものである、請求項1に記載の樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項3】
前記A層と前記B層との共押し出し一体シートと、前記C層と前記D層との共押し出し一体シートのC層側表面に印刷柄Eを付与したものとを、B層側表面と印刷柄Eを付与したC層側表面とを積層面として、熱融着積層により一体化したものである、請求項2に記載の樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項4】
前記A層のガラス転移温度が70℃以上であるポリエステル系樹脂、前記B層のガラス転移温度が70℃以上である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂、前記C層の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%以上80モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、20モル%以上80モル%以下のエチレングリコールとをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルである、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項5】
前記B層における樹脂成分全体の質量を基準として、前記B層に15質量%以上の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂が配合されており、且つ、B層の樹脂組成物のガラス転移温度が60℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項6】
前記C層における樹脂成分全体の質量を基準として、前記C層に15質量%以上45質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂が配合されている、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂被覆金属板用積層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂被覆金属板用積層シートおよび金属板を備え、該樹脂被覆金属板用積層シートのD層側の表面が該金属板に積層されている、意匠性積層シート被覆金属板。
【請求項8】
請求項7に記載の意匠性積層シート被覆金属板を用いた、ユニットバス部材。
【請求項9】
請求項7に記載の意匠性積層シート被覆金属板を用いた、建築内装材。
【請求項10】
請求項7に記載の意匠性積層シート被覆金属板を用いた、鋼製家具部材。
【請求項11】
請求項3に記載の樹脂被覆金属板用積層シートの製造方法であって、
前記A層と前記B層とを共押出し製膜法により積層すると同時に、キャスティングロールとして柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いることにより、前記A層側表面に柄意匠のエンボスを付与する第1工程、及び、
別途共押出し製膜法により積層した前記C層および前記D層からなる共押出シートのC層側表面に印刷柄Eを付与したものと、形成した前記A層と前記B層からなる共押出シートとを、前記B層側表面と印刷柄Eを付与した前記C層側表面とを積層面として熱融着する第2工程、
を備えてなる、樹脂被覆金属板用積層シートの製造方法。
【請求項12】
前記第1工程において、キャスティングロールの表面温度をA層の樹脂組成物のガラス転移温度より低い温度に調整しておき、押出し製膜設備のキャスティングロール以降に、B層の樹脂組成物のガラス転移温度より低く、かつ、A層の樹脂組成物のガラス転移温度より高い表面温度に調整された熱処理ロールを設け、A層とB層からなる共押出シートのB層側の表面を該熱処理ロール表面に当接することにより、A層の結晶化を促進させる、請求項11に記載の樹脂被覆金属板用積層シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−94890(P2010−94890A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267108(P2008−267108)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】