説明

樹脂製自動車用外装板

【課題】フロントピラーの外側表面を被覆する樹脂製自動車用外装板であって、フロントピラーにおけるHIC値を低減できる樹脂製自動車用外装板を提供する。
【解決手段】樹脂製自動車用外装板1は、フロントピラー16の外側表面を覆うピラー被覆部20を有する。ピラー被覆部20は、複数の空隙が形成されている発泡部21と、発泡部21を被覆し、空隙が形成されていないスキン層22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製自動車用外装板に関し、特に、フロントピラーの外側表面を被覆する樹脂製自動車用外装板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には、歩行者等の衝突安全性の確保が強く求められるようになってきている。例えば、歩行者の頭部が自動車に衝突した際の歩行者の安全性を確保するため、自動車には、頭部障害(HIC:Head Injury Criteria)値を基準値以下にすることが求められている。これに伴い、自動車のHIC値を低減する技術が種々提案されている。例えば、下記の特許文献1には、HIC値が低いフロントフェンダが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−337745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、HIC値に対する基準が高まってきており、これに伴い、フロントフェンダやボンネットのみならず、フロントピラーにおけるHIC値を小さくしたいという要望が出てきている。しかしながら、現在のところ、フロントピラーにおけるHIC値を効果的に小さくする技術は提案されていない。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フロントピラーの外側表面を被覆する樹脂製自動車用外装板であって、フロントピラーにおけるHIC値を低減できる樹脂製自動車用外装板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自動車の車体フレームに取り付けられる樹脂製自動車用外装板に関する。車体フレームは、フレーム本体と、ルーフと、金属製のフロントピラーとを有する。フレーム本体は、キャビン部と、フロント部とを含む。キャビン部には、キャビンが形成されている。フロント部は、キャビン部の前方に位置している。ルーフは、キャビン部の上方に配置されている。フロントピラーは、フロント部の後端部の車幅方向における端部と、ルーフとを接続している。本発明に係る樹脂製自動車用外装板は、フロントピラーの外側表面を覆うピラー被覆部を有する。ピラー被覆部は、発泡部と、スキン層とを有する。発泡部には、複数の空隙が形成されている。スキン層は、発泡部を被覆している。スキン層には、空隙が形成されていない。
【0007】
本発明のある特定の局面では、樹脂製自動車用外装板は、フロント部の側方及び上方のうちの少なくとも一部を覆い、ピラー被覆部の前端部に接続されているサイドフェンダをさらに備え、ピラー被覆部とサイドフェンダとが一体に形成されている。この構成によれば、フロントピラーとサイドフェンダとが一体に形成されているため、樹脂製自動車用外装板の車体フレームに対する取り付け面積を大きくすることができる。従って、樹脂製自動車用外装板を車体フレームに対して強固に取り付けることができる。また、サイドフェンダを車体フレームに対して取り付けることにより、ピラー被覆部の前端部を強固に固定することができる。このため、自動車の走行時において、走行風がピラー被覆部に吹き付けられているときにおけるピラー被覆部のばたつきを抑制することができる。
【0008】
本発明の他の特定の局面では、サイドフェンダは、複数の空隙が形成されている発泡部と、発泡部を被覆し、空隙が形成されていないスキン層とを有し、ピラー被覆部の発泡部とサイドフェンダの発泡部とは連続している。この構成によれば、サイドフェンダのピラー被覆部側端部の強度とピラー被覆部のサイドフェンダ側端部の強度との差を小さくすることができる。すなわち、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部における強度変化を抑制することができる。よって、サイドフェンダやピラー被覆部に応力が係った際に、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部に応力が集中することを抑制することができる。また、サイドフェンダ及びピラー被覆部を軽量化することができる。このため、サイドフェンダやピラー被覆部に応力が加わった際の、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部の損傷を抑制することができる。さらに、サイドフェンダに発泡部が形成されているため、フロント部におけるHIC値も低下させることができる。
【0009】
本発明に係る別の特定の局面では、ピラー被覆部の発泡部における空隙率と、サイドフェンダの発泡部における空隙率とは等しい。この構成によれば、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部における強度変化をより効果的に抑制することができる。従って、サイドフェンダやピラー被覆部に応力が加わった際の、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部の損傷をより効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明に係るさらに他の特定の局面では、樹脂製自動車用外装板は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ABS樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂及びそれらの化学誘導体からなる群から選ばれた1以上の樹脂からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂製自動車用外装板の内部には、衝撃吸収性に優れた発泡部が形成されているため、本発明の樹脂製自動車用外装板を用いることにより、フロントピラーにおけるHIC値を効果的に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】自動車の一部分を表す略図的前方斜視図である。
【図2】図1におけるII−II矢視図である。
【図3】図1におけるIII−III矢視図である。
【図4】発泡部の位置を説明するための自動車の一部分を表す略図的前方斜視図である。
【図5】車体フレームの略図的前方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について、図1〜図5を参照しつつ、詳細に説明する。
【0014】
図1に示す本実施形態の樹脂製自動車用外装板1は、自動車10の金属製の車体フレーム11(図5を参照)に取り付けられるものである。図5に示すように、車体フレーム11は、フレーム本体11aを備えている。フレーム本体11aは、キャビン部12と、フロント部13と、リア部14とを備えている。キャビン部12には、乗員が乗車する空間であるキャビン12aが形成されている。キャビン部12の後方には、リア部14が設けられている。通常、リア部14には、荷物を載せるトランクが形成されている。一方、キャビン部12の前方には、フロント部13が設けられている。フロント部13には、通常エンジンなどが搭載されている。
【0015】
キャビン部12の上方には、ルーフ15が配置されている。ルーフ15は、金属製の2本のフロントピラー16と、金属製の2本のリアピラー17とによってフレーム本体11aに接続されている。具体的には、フロントピラー16は、フロント部13の後端部の車幅方向における端部13aとルーフ15の前端部の車幅方向における端部15aとを接続している。
【0016】
図1〜図3に示すように、本実施形態の樹脂製自動車用外装板1は、車体フレーム11の一部を覆っている。樹脂製自動車用外装板1は、図1に示すように、ピラー被覆部20と、ピラー被覆部20の前端部に接続されているサイドフェンダ30とを備えている。本実施形態では、ピラー被覆部20と、サイドフェンダ30とは一体に形成されている。
【0017】
ピラー被覆部20は、フロントピラー16に取り付けられており、フロントピラー16の外側表面を覆っている。サイドフェンダ30は、フロント部13に取り付けられており、フロント部13の側方及び上方の少なくとも一部を覆っている。具体的には、本実施形態では、サイドフェンダ30は、フロント部13の側方の一部と共に、フロント部13の車幅方向の端部の上方とを覆っている。
【0018】
図3にピラー被覆部20の略図的断面図を示す。図3に示すように、ピラー被覆部20は、発泡樹脂成形体により構成されている。すなわち、ピラー被覆部20は、発泡部21とスキン層22とを備えている。
【0019】
本実施形態では、図4に示すように、発泡部21は、ピラー被覆部20のほぼ全体にわたって形成されている。発泡部21は、発泡樹脂からなる。すなわち、発泡部21は、複数の空隙が形成されている樹脂からなる。発泡部21は、スキン層22によって覆われている。スキン層22は、非発泡の樹脂からなる。すなわち、スキン層22は、空隙が実質的に形成されていない樹脂により形成されている。なお、発泡部21の厚みt1及びスキン層22の厚みt2は特に限定されない。
【0020】
図2にサイドフェンダ30の略図的断面図を示す。図2に示すように、サイドフェンダ30は、フロント部13の上方を覆う天板部30aと、フロント部13の側方を覆う側壁部30bとを備えている。
【0021】
サイドフェンダ30は、発泡樹脂成形体により構成されている。すなわち、サイドフェンダ30は、発泡部31とスキン層32とを備えている。本実施形態では、発泡部31は、サイドフェンダ30の一部にのみ形成されている。具体的には、発泡部31は、天板部30aのみに形成されており、側壁部30bには形成されていない。側壁部30bは、スキン層32のみにより構成されている。
【0022】
発泡部31は、発泡樹脂からなる。すなわち、発泡部31は、複数の空隙が形成されている樹脂からなる。発泡部31は、スキン層32によって覆われている。スキン層32は、非発泡の樹脂からなる。すなわち、スキン層32は、空隙が実質的に形成されていない樹脂により形成されている。なお、スキン層32の発泡部31を覆っている部分の厚みt3は、特に限定されない。
【0023】
図4に示すように、本実施形態では、ピラー被覆部20の発泡部21と、サイドフェンダ30の発泡部31とは連続している。そして、発泡部21における空隙率と、発泡部31における空隙率とが実質的に等しくされていると共に、スキン層32の発泡部31を覆っている部分の厚みt3と、スキン層22の厚みt2とも実質的に等しくされている。ここで、厚みt3と厚みt2とが実質的に等しいとは、厚みt3が厚みt2の0.9倍以上1.1倍以下であることをいう。また、発泡部21における空隙率と、発泡部31における空隙率とが実質的に等しいとは、発泡部21における空隙率が発泡部31における空隙率の0.9倍以上1.1倍以下であることをいう。
【0024】
なお、樹脂製自動車用外装板1の材料は、特に限定されない。樹脂製自動車用外装板1は、例えば、ナイロンなどのポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ABS樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂及びそれらの化学誘導体からなる群から選ばれた1以上の樹脂からなるものであってもよい。また、樹脂製自動車用外装板1には、樹脂の他に、アロイやガラス強化繊維などが含まれていてもよい。
【0025】
また、樹脂製自動車用外装板1の製造方法も特に限定されず、樹脂製自動車用外装板1は、例えば、既知の射出成形法により製造することができる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の樹脂製自動車用外装板1は、衝撃吸収性の高い発泡部21を有するピラー被覆部20を備えている。このため、フロントピラー16におけるHIC値を効果的に低下させることができる。
【0027】
ところで、例えば、ピラー被覆部20は、フロントピラー16に沿った細長形状を有しているため、樹脂製自動車用外装板1がピラー被覆部20のみからなる場合は、樹脂製自動車用外装板1を強固に固定することが困難である。それに対して本実施形態では、ピラー被覆部20は、大面積のサイドフェンダ30と一体に形成されている。このため、樹脂製自動車用外装板1は、車体フレーム11に対して取り付け容易である。また、樹脂製自動車用外装板1の取り付け面積を大きくすることができる。従って、樹脂製自動車用外装板1を車体フレーム11に対して強固に取り付けることができる。
【0028】
また、サイドフェンダ30を車体フレーム11に取り付けた場合、ピラー被覆部20の前端部を車体フレーム11に対して強固に固定できる。このため、自動車10の走行時において、走行風がピラー被覆部20に吹き付けられているときにおけるピラー被覆部20のばたつきを抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態では、サイドフェンダ30の上部30aにも発泡部31が形成されている。このため、フロント部13におけるHIC値も効果的に低下させることができる。
【0030】
ところで、例えば、サイドフェンダとピラー被覆部との両方に発泡部を設ける場合、サイドフェンダの発泡部とピラー被覆部の発泡部とを相互に独立して形成することも考えられる。すなわち、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部をスキン層のみにより形成することができる。この場合、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部の剛性を高くすることができる。しかしながら、この場合は、スキン層のみにより形成されている、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部と、ピラー被覆部の発泡部が形成されている部分との境界で、剛性が大きく変化することとなる。このため、ピラー被覆部やサイドフェンダに応力が加わった場合、サイドフェンダとピラー被覆部との接続部と、ピラー被覆部の発泡部が形成されている部分との境界部に応力が集中し、その境界部が損傷しやすい。
【0031】
それに対して本実施形態では、ピラー被覆部20の発泡部21とサイドフェンダ30の発泡部31とが連続している。このため、ピラー被覆部20とサイドフェンダ30との接続部40(図4を参照)における剛性のむらを小さくすることができる。従って、ピラー被覆部20やサイドフェンダ30に応力が加わった場合にも、一カ所に応力が集中することを抑制することができる。その結果、ピラー被覆部20やサイドフェンダ30に応力が加わった際の、ピラー被覆部20とサイドフェンダ30との接続部40の損傷を効果的に抑制することができる。
【0032】
特に、本実施形態では、ピラー被覆部20の発泡部21における空隙率とサイドフェンダ30の発泡部31における空隙率とが実質的に等しくされている。よって、ピラー被覆部20とサイドフェンダ30との接続部40(図4を参照)における剛性のむらをより小さくすることができる。従って、ピラー被覆部20やサイドフェンダ30に応力が加わった際の、ピラー被覆部20とサイドフェンダ30との接続部40の損傷をより効果的に抑制することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、サイドフェンダ30の一部にのみ発泡部31が形成されている例について説明した。但し、本発明はこの構成に限定されない。例えば、サイドフェンダ30の全体に発泡部31を形成してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…樹脂製自動車用外装板
10…自動車
11…車体フレーム
11a…フレーム本体
12…キャビン部
12a…キャビン
13…フロント部
13a…フロント部の端部
14…リア部
15…ルーフ
15a…ルーフの端部
16…フロントピラー
17…リアピラー
20…ピラー被覆部
21…ピラー被覆部の発泡部
22…ピラー被覆部のスキン層
30…サイドフェンダ
30a…天板部
30b…側壁部
31…サイドフェンダの発泡部
32…サイドフェンダのスキン層
40…ピラー被覆部とサイドフェンダとの接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビンが形成されているキャビン部と、前記キャビン部の前方に位置するフロント部とを含むフレーム本体と、前記キャビン部の上方に配置されているルーフと、前記フロント部の後端部の車幅方向における端部と、ルーフとを接続している金属製のフロントピラーとを有する、自動車の車体フレームに取り付けられる樹脂製自動車用外装板であって、
前記フロントピラーの外側表面を覆うピラー被覆部を有し、
前記ピラー被覆部は、複数の空隙が形成されている発泡部と、前記発泡部を被覆し、空隙が形成されていないスキン層とを有する、樹脂製自動車用外装板。
【請求項2】
前記フロント部の側方及び上方のうちの少なくとも一部を覆い、前記ピラー被覆部の前端部に接続されているサイドフェンダをさらに備え、
前記ピラー被覆部と前記サイドフェンダとが一体に形成されている、請求項1に記載の樹脂製自動車用外装板。
【請求項3】
前記サイドフェンダは、複数の空隙が形成されている発泡部と、前記発泡部を被覆し、空隙が形成されていないスキン層とを有し、
前記ピラー被覆部の発泡部と前記サイドフェンダの発泡部とは連続している、請求項2に記載の樹脂製自動車用外装板。
【請求項4】
前記ピラー被覆部の発泡部における空隙率と、前記サイドフェンダの発泡部における空隙率とは等しい、請求項3に記載の樹脂製自動車用外装板。
【請求項5】
ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ABS樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂及びそれらの化学誘導体からなる群から選ばれた1種以上の樹脂からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂製自動車用外装板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−221866(P2010−221866A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71694(P2009−71694)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】