説明

樹脂部材の振動溶着法

【課題】一方の樹脂部材をしっかりと固定することにより、他方の複雑な構造を有する樹脂部材との不完全な溶着を防ぎ、全体を万遍なく溶着することのできる樹脂部材の振動溶着法を提供する。
【解決手段】熱可塑性合成樹脂からなる樹脂部材どうしの接合面を溶着させる方法であって、ひとつの樹脂部材を固定用治具1で固定し、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与えて溶着する方法において、上記固定用治具1は、保持型で挟み込んで固定するセット固定部11と磁力により固定する磁気固定部12とからなり、上記磁気固定部12を該セット固定部11を適用できない狭窄部に適用してひとつの樹脂部材を固定するとともに、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与え、溶着させる樹脂部材の振動溶着法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、熱可塑性合成樹脂からなる樹脂部材の接合方法に関し、さらに詳しくは、合成樹脂製品、例えば、洋式便器等の製造において用いられる振動溶着法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記洋式便器の便器本体は、本願図5に示すように、陶器製の一体成形品が主として用いられてきた。すなわち、上記便器本体は、スカート部7と水洗ボウル部8とリム部9とからなり、上記リム部9には図外便座が載置される。また、図6は、本願図5に示すX−X線に沿う部分断面斜視図であり、図6に示されているように、上記リム部9の内部は中空であり、洗浄水が流れる洗浄水用チャンネル6とされ、洗浄水用チャンネル6の底部には、洗浄水が噴出する複数の図外吐出孔が一列に設けられている。
【0003】
一方、近年、樹脂成形技術の進歩によって洋式便器等、大型部材も樹脂成型法で製造することが可能となり、合成樹脂製の洋式便器が普及しつつある。しかしながら、洋式便器の便器本体のうち、上記した洗浄水が流れる洗浄水用チャンネル等内部に中空部を有し、複雑な構造を有する部材を一体的に成形するには、技術的に困難であり、また、コストも高いものとなる。
【0004】
そこで、構造の簡単な大型部分と複雑な構造を有する部分とを分けて、予め、樹脂成形品として準備しておき、その後、それらを溶着して目的とする大型成形品を製造することが行われている。
【0005】
例えば、特開平10−291255号公報には、その図3、図4に示されているように、溶着する大型合成樹脂製部材たる洋式便器の便座本体と底板との内外周縁の溶着部相互において、便座本体側の溶着部と底板側の溶着部とのいずれか一方の溶着部の対向面にループ状に一巡する溝を形成し、該溝内にそれらの溶着部と同材質の被覆合成樹脂で被覆しかつ溝と同じループ状に形成した導電材たる針金を嵌めて溶着部相互間に介在させ、該針金を高周波磁場に置くことで該針金にうず電流による発熱を生じさせ、この発熱で先ず当該針金の被覆合成樹脂を、次いで上記溶着部相互を融解させて一体に接合する大型合成樹脂製部材の電磁誘導溶着法が開示されている。
【0006】
そして、電磁誘導溶着において、針金からの熱の伝達状態を改善し、溶着部全般での融解を確実に行えるようにして、局部的接合不良をなくし、接合不良による水の侵入をなくして、内部の暖房用ヒータ等の故障や漏電、感電の危険性を排し、かつ、針金の発錆とこれによる溶着部の破壊を除去するとの効果があると記載されている。
【0007】
一方、樹脂成形品の溶着方法においては、上記電磁誘導溶着法以外にも、例えば、振動溶着(バイブレーション溶着)が知られている。この方法は、溶着しようとする部位どうしを突き合わせ、あるいは当接して加圧しながら相互に水平方向に振動させ、この振動による溶着部相互間の摩擦熱で溶着部相互を融解させることにより、溶着部相互を接合させるものである。
【0008】
しかし、振動溶着を行う場合、一方の樹脂部材を固定したうえ、他方の樹脂部材の溶着部位を当接させて加圧し、振動溶着装置から振動を与える必要があるため、固定用治具を用いて上記固定をしっかりと確実に行わなければならない。
【特許文献1】特開平10−291255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、溶着させる樹脂部材どうしを突き合わせ、あるいは当接させて水平方向に振動を与える場合、上記したように、固定用治具を用いて一方の樹脂部材をしっかりと機械的に固定する必要がある。しかしながら、狭い中空部を有する等、構造の複雑な樹脂部材を上記治具によって機械的に固定することは困難で、振動溶着を実施し難い場合が多い。本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的とするところは、樹脂部材どうしを振動溶着させるとき、一方の樹脂部材をしっかりと固定することにより、他方の樹脂部材との不完全な溶着接合を防ぐとともに、全体を万遍なく、溶着することのできる樹脂部材の振動溶着法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明に係る樹脂部材の振動溶着法は、熱可塑性合成樹脂からなる樹脂部材どうしの接合面を溶着させる方法であって、ひとつの樹脂部材を固定用治具で固定し、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与えて溶着する方法において、上記固定用治具は、保持型で挟み込んで固定するセット固定部と磁力により固定する磁気固定部とからなり、上記磁気固定部を該セット固定部を適用できない狭窄部に適用してひとつの樹脂部材を固定するとともに、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与え、溶着させることを特徴としている。
【0011】
本願請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の樹脂部材の振動溶着法において、上記磁気固定部がセット固定部の外側保持型に埋め込まれた磁石と、この磁石に磁着され、上記ひとつの樹脂部材を保持する押圧磁性片とからなるものであることを特徴としている。
【0012】
本願請求項3記載の発明は、上記請求項1記載の樹脂部材の振動溶着法において、上記樹脂部材が洋式便器のスカート部を含む便器本体であることを特徴としている。
【0013】
本願請求項4記載の発明は、上記請求項1記載の樹脂部材の振動溶着法において、上記磁力が電磁石によるものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1記載の発明に係る樹脂部材の振動溶着法においては、保持型で挟み込んで固定するセット固定部と磁力により固定する磁気固定部とからなる固定用治具を用い、セット固定部を適用できる個所はセット固定部により、セット固定部を適用できない狭窄部には磁気固定部を適用してひとつの樹脂部材が固定されているため、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与えても、共振することなく、当接面どうしが摩擦され、摩擦熱により、二つの樹脂部材をしっかりと均一に溶着することができる。
【0015】
本願請求項2記載の発明に係る樹脂部材の振動溶着法においては、特に、上記磁気固定部がセット固定部の外側保持型に埋め込まれた磁石と、この磁石に磁着され、上記樹脂部材を保持する押圧磁性片とからなるものであるため、外側の保持型の、例えば、上部に磁石をビルトインすることにより、外側保持型を磁気固定部用の保持型として兼用することができる。
【0016】
本願請求項3記載の発明に係る樹脂部材の振動溶着法においては、特に、上記樹脂部材を洋式便器のスカート部を含む便器本体とすることにより、従来の陶土を用いて、形を造り、素焼きをした後、釉薬で色付けし、本焼きをして一体的に成形する陶器製のものに比べて、コスト的に有利に便器本体を得ることができる。また、得られた便器本体も軽量であり、据え付け等も作業性よく行うことができる。
【0017】
本願請求項4記載の発明に係る樹脂部材の振動溶着法においては、特に、上記磁力を電磁石によるものとすることにより、通電により簡単に着磁できるとともに、電流を切ることにより、消磁できるため、振動溶着終了後、樹脂成形した製品を簡単に取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を実施する際に用いる固定用治具1を示す斜視図である。図1に示すように、上記固定用治具1は図外固定手段で固定される外側の固定保持型11aとこの固定保持型11aと対をなすセット保持型11bとからなるセット固定部11、および電磁石12aとこの電磁石12aによって強力に磁着される押圧磁性片12bとからなる磁気固定部12から構成されている。
【0019】
図1に示すように、電磁石12aは、固定保持型11aの上部に内設され、両者は一体的に構成されるとともに、セット保持型11bも図外締圧手段によって締圧され、固定保持型11aと共に樹脂部材をしっかりと固定する。図1においては、樹脂部材として洋式便器の便器本体のスカート部2が用いられ、このスカート部2に便器本体の他の樹脂部材が振動溶着される。符号21は、後記する載置部を示す。
【0020】
図2は、上記便器本体を構成する構造部をリム部3と水洗ボウル部4とに分割し、本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を用いて上記スカート部2に振動溶着する状態を示す説明図である。図2に示されるように、リム部3の下方は開放されて、水洗ボウル部4の上端を折曲した水平棚部41と上記スカート部2と共に洗浄水流路5を形成する。この水平棚部41の端部は、振動溶着の際、スカート部2の内側に周設された載置部21にしっかりと載置される。また、水平棚部41には、洗浄水が噴出する図示しない吐出孔が設けられている。
【0021】
図3は、上記のように分割したリム部3と水洗ボウル部4とをスカート部2に当接して振動溶着を実施する状態を示す説明図である。図3に示すように、スカート部2と水洗ボウル部4との間にセット保持型11bが入る空間がある場合は、固定保持型11aとセット保持型11bとによって、スカート部2の下部をセット固定部11によって固定する。
【0022】
一方、セット保持型11bを入れる空間がない場合、すなわち、洗浄水流路5としての中空部を設ける場合には、予め、押圧鉄片12bを上記中空部に設けた後、電磁石12aに電流を通して着磁させ、磁力によって吸引される押圧磁性片12bとの間で磁気固定部12を構成し、スカート部2の上部を挟み、磁力でしっかりと固定する。その後、図3に示すようにリム部3と水洗ボウル部4とをスカート部2に組み付ける。このようにすることによって、図外振動溶着装置から与えられる振動でスカート部2、特に、その上部が共振することを防ぐことができる。
【0023】
上記のようにしてスカート部2を固定し、スカート部2とリム部3とを当接させ(A)、水洗ボウル部4の上端から延設された水平棚部41をスカート部2の載置部21に載置し(B)、またリム部3を水洗ボウル部4上に載置し(C)、図外振動発生装置から振動を与えることにより、熱可塑性樹脂からなる上記部材どうしの接合部は摩擦エネルギーによって接合部分が溶解し、溶着する。
【0024】
溶着を終了した後は、セット固定部11のセット保持型11bの圧締手段を緩めるとともに、電磁石12aへの通電を停止することにより、押圧磁性片12bは消磁して磁気固定部12は磁力を失って該便器本体Dがセット固定部11から外れ、洗浄水用流路5が形成される。図4は、上記のようにして成形し、バリ取り等の後処理をして製品とされた便器本体Dを示す部分断面斜視図である。
【0025】
なお、本実施形態においては、磁力発生手段として電磁石を用いたが、これに限られず、フェライト磁石、ネオジム磁石等の永久磁石を用いてもよい。また、洋式便器の便器本体のみならず、他の樹脂部材に適用してもよい。このように、本願発明は設計変更自在であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、本願発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を実施する際に用いる固定用治具を示す斜視図。
【図2】本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を用いて便器本体を構成するリム部と水洗ボウル部とスカート部とを振動溶着する状態を示す説明図。
【図3】本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を用いて便器本体を構成するリム部と水洗ボウル部とをスカート部に当接して振動溶着を実施する状態を示す説明図。
【図4】本願発明に係る樹脂部材の振動溶着法を用いて成形された便器本体を示す部分断面斜視図。
【図5】公知の洋式便器の便器本体を示す斜視図。
【図6】本願図5に示すX−X線に沿う部分断面斜視図。
【符号の説明】
【0027】
1 固定用治具
11 セット固定部
11a 固定保持型
11b セット保持型
12 磁気固定部
12a 電磁石
12b 押圧磁性片
2 スカート部
21 載置部
3 リム部
4 水洗ボウル部
41 水平棚部
5 洗浄水流路
6 公知の洗浄水用チャンネル
7 公知のスカート部
8 公知の水洗ボウル部
9 公知のリム部
A スカート部とリム部との当接部
B 水洗ボウル部上端から延設された水平棚部と載置部との当接部
C リム部と水洗ボウル部との当接部
D 便器本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂からなる樹脂部材どうしの接合面を溶着させる方法であって、ひとつの樹脂部材を固定用治具で固定し、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与えて溶着する方法において、上記固定用治具は、保持型で挟み込んで固定するセット固定部と磁力により固定する磁気固定部とからなり、上記磁気固定部を該セット固定部を適用できない狭窄部に適用してひとつの樹脂部材を固定するとともに、他の樹脂部材に振動溶着装置からの振動を与え、溶着させる樹脂部材の振動溶着法。
【請求項2】
上記磁気固定部がセット固定部の外側保持型に埋め込まれた磁石と、この磁石に磁着され、上記ひとつの樹脂部材を保持する押圧磁性片とからなる請求項1に記載の樹脂部材の振動溶着法。
【請求項3】
上記樹脂部材が洋式便器のスカート部を含む便器本体である請求項1に記載の樹脂部材の振動溶着法。
【請求項4】
上記磁力が電磁石によるものである請求項1に記載の樹脂部材の振動溶着法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−196157(P2009−196157A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38577(P2008−38577)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】