説明

樹脂/ガラスクロス積層体

【課題】摺動性と耐磨耗性を有するのみならず、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムとの間の接着強度にもすぐれる超高分子量ポリエチレンフィルム/ガラスクロス積層体を提供する。
【解決手段】本発明によれば、カルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤にてガラスクロスの両面に超高分子量ポリエチレンフィルムを接着してなる樹脂/ガラスクロス積層体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂/ガラスクロス積層体に関し、詳しくは、樹脂/ガラスクロス間の接着強度にすぐれると共に、摩擦特性と強度にすぐれる超高分子量ポリエチレン樹脂/ガラスクロス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摺動性、即ち、低摩擦性が求められる用途向け用の樹脂として、代表的には、フッ素樹脂がよく知られており、フッ素樹脂は、単独でシート、フィルムや機械部品のような成形物に成形され、又は他の樹脂や材料と組み合わせて、組成物や積層体として、種々の産業分野において広く用いられている。例えば、ガラスクロスにフッ素樹脂を接着、積層してなるフッ素樹脂/ガラスクロス積層体が知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
このようなフッ素樹脂/ガラスクロス積層体は、フッ素樹脂の有する耐熱性、摺動性、離型性等を活かして、コンベアベルト、製袋、ヒートシール、粘着テープ等、種々の用途において用いられているが、反面、フッ素樹脂は、摩擦を受けるとき、速やかに損耗するために、耐摩耗性が要求される用途には用い難い。更に、フッ素樹脂/ガラスクロス積層体の製造には、フッ素樹脂が本来、非粘着性であることから、積層体の製造には、多くの工程数を要している(特許文献1及び2参照)。
【0004】
一方、超高分子量ポリエチレン樹脂も、近年、摺動性と共に強度が求められる産業分野において実用されつつあるが、他の材料との接着性に乏しいために、これまで、他の材料との積層体は殆ど知られていない。但し、汎用のポリエチレン樹脂をガラスクロスにアイオノマー水性接着剤ディスパージョンを用いて接着、積層してなる積層体は既に知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−20133号公報
【特許文献2】特開平8−183123号公報
【特許文献3】特開2001−140143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、フッ素樹脂/ガラスクロス積層体が耐摩耗性の要求される用途には用い難い問題を有するところ、本発明者らは、超高分子量ポリエチレン樹脂がフッ素樹脂と同様に摺動性にすぐれ、しかも、耐磨耗性にもすぐれる特性を有することに着目して、鋭意、研究した結果、摺動性と耐磨耗性を有するのみならず、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレン樹脂との間の接着強度にもすぐれる樹脂/ガラスクロス積層体を得ることに成功して、本発明に至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は、摺動性と耐磨耗性を有するのみならず、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレン樹脂との間の接着強度にもすぐれる超高分子量ポリエチレン/ガラスクロス積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、カルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤にてガラスクロスの両面に超高分子量ポリエチレンフィルムを接着してなる樹脂/ガラスクロス積層体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明による樹脂/ガラスクロス積層体は、超高分子量ポリエチレンフィルムとガラスクロスの特性に由来して、摺動性、耐磨耗性、非粘着性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、低温特性等にすぐれ、伸びが小さく、寸法安定性にすぐれ、更に、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムとの間の接着強度にもすぐれるので、上記特性の要求される種々の産業分野において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による樹脂/ガラスクロス積層体は、カルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤にてガラスクロスの両面に超高分子量ポリエチレンフィルムを接着してなるものである。
【0011】
本発明において、超高分子量ポリエチレンフィルムは、超高分子量ポリエチレン粉末をプレス成形して得られるブロック状成形体を切削加工して得られるフィルムでもよく、また、超高分子量ポリエチレンを押出成形して得られるフィルムでもよい。このような超高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量が100×104〜1000×104の範囲にあるものが好ましく用いられる。重量平均分子量の大きい超高分子量ポリエチレンフィルムを用いる程、得られる積層体は耐磨耗性が向上する。
【0012】
また、本発明において、超高分子量ポリエチレンフィルムは、好ましくは、厚さが10〜200μmの範囲にあり、より好ましくは、30〜100μmの範囲にある。超高分子量ポリエチレンフィルムの厚さが200μmを超えるときは、得られる積層体が柔軟性に劣るようになって、使用条件によっては、外力を受け続けた場合にフィルムにクリープが発生するおそれがある。一方、超高分子量ポリエチレンフィルムの厚さが10μmよりも小さいときは、用途にもよるが、フィルムの強度不足によって、使用中に破損するおそれがある。但し、本発明による樹脂/ガラスクロス積層体は、その厚みにおいて、上記に限定されるものではない。
【0013】
更に、超高分子量ポリエチレンフィルムは、必要に応じて、着色剤、導電材、耐電防止剤、耐熱安定剤、滑材、耐候剤等、適宜の添加剤を適量、含有していてもよい。
【0014】
他方、本発明において、ガラスクロスは、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラスのいずれからなるものでもよく、また、織り組織も、平織、朱子織、あや織、からみ織、模紗織等、超高分子量ポリエチレンフィルムと積層することができる限り、どのような織り組織のガラスクロスでもよいが、なかでも、寸法安定性と取扱いの点から、平織が好ましい。
【0015】
また、ガラスクロスの厚さは、特に限定されるものではなく、また、用いる超高分子量ポリエチレンフィルムの厚さにもよるが、好ましくは、10〜500μmの範囲である。ガラスクロスの厚さが500μmを超えるときは、得られる積層体が柔軟性に劣るようになり、一方、厚さが10μmよりも小さいときは、用途にもよるが、得られる積層体が十分な強度を有しないおそれがある。同じく、得られる積層体の強度の点から、ガラスクロスは、縦横の引張強さがそれぞれ50〜3000N/25mmの範囲にあることが好ましい。
【0016】
本発明による樹脂/ガラスクロス積層体は、上述したような超高分子量ポリエチレンフィルムをカルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤にてガラスクロスの両面に接着してなるものである。
【0017】
本発明によれば、ガラスクロスに超高分子量ポリエチレンフィルムを接着するための接着剤として、カルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤を用いることが必要である。その理由は必ずしも、明らかではないが、接着剤として、アイオノマー水性ディスパージョンを用いても、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムとの間に十分な接着強度を得ることができない。また、超高分子量ポリエチレンフィルムに代えて、汎用の高密度ポリエチレンフィルムを用いても、アイオノマー水性ディスパージョンを用いるときは、ガラスクロスと高密度ポリエチレンフィルムとの間に十分な接着強度を得ることができない。本発明によれば、超高分子量ポリエチレンフィルムとガラスクロスとの接着にカルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるものを用いることによって、初めて、超高分子量ポリエチレンフィルムとガラスクロスとの間に高い接着強度を有する積層体を得ることができる。
【0018】
本発明によれば、ホットメルト型接着剤は、フィルム状のものを用いるとき、ガラスクロスに超高分子量ポリエチレンフィルムを簡易に接着、積層することができることから有利である。即ち、ガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムの間にホットメルト型接着剤フィルムを挟み、得られた積層体を加圧加熱すればよい。
【0019】
このようなカルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるフィルム状のホットメルト型接着剤は、例えば、東セロ(株)製の「アドマーVE−300」として入手することができる。以下、このように、フィルム状のホットメルト型接着剤をホットメルト型接着剤フィルムという。
【0020】
本発明において用いる上記ホットメルト型接着剤フィルムは、用いるガラスクロスの厚さにもよるが、通常、10〜100μmの範囲にあるものが好ましく用いられる。
【0021】
本発明による樹脂/ガラスクロス積層体は、前述したような特性を有するので、例えば、寸法精度、非粘着性、耐薬品性等を活かして、伝動ベルト、コンベヤベルト、スクレーパ等のほか、電子写真装置における画像定着部材や用紙搬送部材、また、高い絶縁性や低い誘電率等の特性を活かして、電子機器における配線基板や各種の絶縁部材、スペーサ、被覆材等、更に、耐磨耗性、摺動性、低温特性等を活かして、各種機器におけるパッキン、ガスケット、スペーサ等として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例1
超高分子量ポリエチレンフィルム(作新工業(株)製、厚さ100μm)とガラスクロス(サカイ産業(株)製平織ガラスクロスATG25330、厚さ220μm)の間にカルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤フィルム(東セロ(株)製アドマーフィルムVE−300、厚さ100μm)を挟んで、超高分子量ポリエチレンフィルム/ガラスクロス/超高分子量ポリエチレンフィルムなる層構成を有する積層体を構成し、これをロール温度150℃でカレンダー機にて圧着、積層して、本発明による樹脂/ガラスクロス積層体を得た。この積層体のガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムとの間の接着強度を180°剥離法にて求めたところ、33N/25mmであり、この際、ガラスクロスが破壊された。
【0024】
比較例1
実施例1において用いたと同じガラスクロスの両面にアイオノマー水性接着剤ディスパージョン(三井化学(株)製ケミパールS300、固形分濃度35重量%)を片面の10cm2当たり3.5gの割合で塗布し、150℃で加熱乾燥させた後、そのガラスクロスの両面に実施例1において用いたと同じ超高分子量ポリエチレンフィルムを重ねて、超高分子量ポリエチレン/ガラスクロス/超高分子量ポリエチレンフィルムなる層構成を有する積層体を構成し、これを150℃で5分間、熱圧着して、積層体を得た。この積層体のガラスクロスと超高分子量ポリエチレンフィルムとの間の接着強度を180°剥離法にて求めたところ、界面剥離が生じて、接着強度は3N/25mmであった。
【0025】
比較例2
実施例1で用いたと同じガラスクロスの両面に比較例1で用いたと同じアイオノマー水性接着剤ディスパージョンを比較例1と同じ割合にて塗布し、150℃で加熱乾燥させた後、そのガラスクロスの両面に高密度ポリエチレンフィルム(厚さ100μm)を重ねて、高密度ポリエチレンフィルム/ガラスクロス/高密度ポリエチレンフィルムなる層構成を有する積層体を構成し、これを150℃で5分間、熱圧着して、積層体を得た。この積層体において、ガラスクロスと高密度ポリエチレンフィルムとの間の接着強度を180°剥離法にて求めたところ、界面剥離が生じて、接着強度は6N/25mmであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなるホットメルト型接着剤にてガラスクロスの両面に超高分子量ポリエチレンフィルムを接着してなる樹脂/ガラスクロス積層体。
【請求項2】
ホットメルト型接着剤が厚さ10〜100μmの範囲の厚さを有するフィルムである請求項1に記載の樹脂/ガラスクロス積層体。
【請求項3】
超高分子量ポリエチレンフィルムが10〜200μmの範囲の厚さを有し、ガラスクロスが10〜500μmの範囲の厚さを有するものである請求項1に記載の樹脂/ガラスクロス積層体。
【請求項4】
超高分子量ポリエチレンが100×104〜1000×104の範囲の重量平均分子量を有するものである請求項1に記載の樹脂/ガラスクロス積層体。
【請求項5】
10〜200μmの範囲の厚さを有する超高分子量ポリエチレンフィルムと10〜500μmの範囲の厚さを有するガラスクロスの間にカルボキシル基変性エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂からなる厚さ10〜100μmのホットメルト型接着剤フィルムを挟んで、超高分子量ポリエチレンフィルム/ガラスクロス/超高分子量ポリエチレンフィルム積層体を構成し、加圧加熱して得られる樹脂/ガラスクロス積層体。


【公開番号】特開2010−253708(P2010−253708A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103702(P2009−103702)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(391033827)作新工業株式会社 (5)
【出願人】(000243331)本多産業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】