説明

橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置

【課題】 橋脚と橋梁桁との間に免震デバイスを配置することにより、列車軌道の免震を確実に行うことができる橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置を提供する。
【解決手段】 橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置において、地盤1のフーチング3上に配置される橋脚上4に形成される下方受台5の湾曲支持面5Aと、橋梁桁9の下部に配置される上方受台6の突起部6Aとの間に滑動可能に配置される鋼鉄製滑り球7と、この鋼鉄製滑り球7の移動を斜め方向に規制する部材8とを具備し、前記鋼鉄製滑り球7が前記鋼鉄製滑り球7の移動を規制する部材8により規制されて滑動することによって、線路直角方向に働く地震動による変位の一部を線路方向の変位へと転換して、前記橋梁桁9の線路直角方向の変位を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、変位方向を制御できる滑り方式杭頭免震装置(下記特許文献1参照)を既に提案している。この免震装置では、地震時の列車走行安全性を確保するために、線路直角方向の加振による構造物の応答変位を線路方向へ変換することができる。
【0003】
図4はかかる従来の滑り方式杭頭免震装置の設置状態を示す図であり、図4(a)はその滑り方式杭頭免震装置が設けられる列車軌道の断面模式図、図4(b)は図4(a)のa部の拡大図である。図5は従来の滑り方式杭頭免震装置の滑り球の移動方向を示す図である。
【0004】
これらの図において、101は地盤、102は地盤101に設けられる杭、103は杭頭天端部の下方受台、103Aはその下方受台103の湾曲支持面、104は列車軌道側のフーチングの上方受台、104Aはその上方受台104の中央の下方に延びる突起部、105はフーチング、106は上記した下方受台103の湾曲支持面103Aと上方受台104の突起部104Aの間に配置される鋼鉄製滑り球、107は杭102に固定される、鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材であり、鋼鉄製滑り球106を復元中心位置の左右斜めに移動可能にするための溝107Aが形成されている。また、108はフーチング105上に設けられる橋脚、109は橋脚108上に敷設される桁と列車軌道、Aは線路方向、Bは線路直角方向の地震動、Cはこの滑り方式杭頭免震装置により転換された鋼鉄製滑り球106の変位方向を示している。
【0005】
免震デバイスは、杭頭天端部の下方受台103とその湾曲支持面103A、列車軌道側のフーチングの上方受台104とその突起部104A、鋼鉄製滑り球106及び鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材107とで構成されている。
【0006】
鋼鉄製滑り球106は、通常は下方受台103の湾曲支持面103Aの中央部に配置されている。鋼鉄製滑り球106の移動を規制する部材107には、鋼鉄製滑り球106の移動を線路方向Aと線路方向Aから角度αの範囲内に規制するように、テーパ面107Bを有する溝107Aが形成されている。したがって、線路直角方向の地震動Bが発生すると、鋼鉄製滑り球106は溝107Aのテーパ面107Bにガイドされて転がり、線路直角方向の地震動Bは免震デバイスにより変位Cとなり、線路方向Aの変位へと転換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−51438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した変位方向を制御できる滑り方式杭頭免震装置は、免震デバイスを杭部に配置する構成であるため、フーチング、橋脚及び軌道の大きな荷重が免震デバイスの上部に付加されることになり、免震デバイスによる免震効果が低減されるといった問題があった。また、鋼鉄製滑り球にも過大な荷重が付加されるために強度の面でも問題があった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、橋脚と橋梁桁との間に免震デバイスを配置することにより、列車軌道の免震を確実に行うことができる橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置において、地盤のフーチング上に配置される橋脚上に形成される下方受台の湾曲支持面と、橋梁桁の下部に配置される上方受台の突起部との間に滑動可能に配置される鋼鉄製滑り球と、この鋼鉄製滑り球の移動を斜め方向に規制する部材とを具備し、前記鋼鉄製滑り球が前記鋼鉄製滑り球の移動を規制する部材により規制されて滑動することによって、線路直角方向に働く地震動による変位の一部を線路方向の変位へと転換して、前記橋梁桁の線路直角方向の変位を抑制することを特徴とする。
【0011】
〔2〕請求項1記載の橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置において、前記橋梁桁が隣り合って配置される場合、この隣り合う橋梁桁の間にギャップを設定することを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0013】
(1)橋脚と橋梁桁との間に免震デバイスを配置することにより、列車軌道の免震を確実に行うことができる。
【0014】
(2)橋梁桁が隣り合って配置される場合、これらの隣り合う橋梁桁の間にギャップを設定することで、橋梁桁同士の干渉を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例を示す橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置の設置状態を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す滑り方式免震装置への加震とそれに対する応答の関係を示す模式図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置の適用例である。
【図4】従来の滑り方式杭頭免震装置の設置状態を示す図である。
【図5】従来の滑り方式杭頭免震装置の滑り球の移動方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置は、地盤のフーチング上に配置される橋脚上に形成される下方受台の湾曲支持面と、橋梁桁の下部に配置される上方受台の突起部との間に滑動可能に配置される鋼鉄製滑り球と、この鋼鉄製滑り球の移動を斜め方向に規制する部材とを具備し、前記鋼鉄製滑り球が前記鋼鉄製滑り球の移動を規制する部材により規制されて滑動することによって、線路直角方向に働く地震動による変位の一部を線路方向の変位へと転換して、前記橋梁桁の線路直角方向の変位を抑制する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の実施例を示す橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置の設置状態を示す図であり、図1(a)はその滑り方式免震装置が設けられる列車軌道の断面模式図、図1(b)は図1(a)のa部拡大図、図1(c)は滑り方式免震装置の免震デバイスの要部を示す斜視図、図2はその滑り方式免震装置への加震とそれに対する応答の関係を示す模式図である。
【0019】
これらの図において、1は地盤、2は地盤1に設けられる杭、3はフーチング、4はフーチング3上に構築される橋脚、5は橋脚4に配置される下方受台、5Aは下方受台5に形成される湾曲支持面、6は橋梁桁9に固定される上方受台、6Aはその上方受台6の中央の下方に延びる突起部、7は上方受台6の突起部6Aと湾曲支持面5Aの間に配置される鋼鉄製滑り球、8は鋼鉄製滑り球7の移動を規制する部材であり、鋼鉄製滑り球7を復元中心位置の左右斜めに移動可能にするための溝8Aが形成されている。また、10は列車軌道であり、Aは線路方向、Bは線路直角方向の地震動、Cは本発明の滑り方式免震装置により転換された鋼鉄製滑り球7の変位方向を示している。
【0020】
この滑り方式免震装置の免震デバイスは、図1(b)に示すように、下方受台5とその湾曲支持面5A、上方受台6とその突起部7A、鋼鉄製滑り球7及び鋼鉄製滑り球7の移動を規制する部材8とによって構成される。
【0021】
鋼鉄製滑り球7は、通常は下方受台5の湾曲支持面5Aの中央部に配置されている。図1(c)に示すように、鋼鉄製滑り球7の移動を規制する部材8は、鋼鉄製滑り球7の移動を線路方向Aから所定の角度の範囲内に規制するように、テーパ面8Bを有する溝8Aが形成されている。したがって、線路直角方向の地震動Bが発生すると、鋼鉄製滑り球7は溝8Aのテーパ面8Bにガイドされて転がり、線路直角方向の地震動Bと変位Cとなる。
【0022】
その鋼鉄製滑り球7の変位Cは、線路直角方向の変位及び線路方向Aの変位へと転換されるが、鋼鉄製滑り球7の変位Cの範囲角度α(図5参照)が小さい程、線路直角方向の変位を抑え、線路方向Aの変位へと転換し、列車走行性に与える影響を低くすることができる。
【0023】
このように、免震デバイスを橋梁桁の底部に取り付けることにより、列車の走行安全性をより配慮した免震支承とすることができる。特に、従来の杭頭免震装置のように免震デバイスにフーチングや橋脚の荷重が付加されることがないため、直上の列車軌道の免震を確実に行わせることができる。
【0024】
また、基礎部に免震デバイスの設置ができない構造物に対して、桁支承部における走行安全性を配慮した免震化を行うことができる。
【0025】
図3は本発明の他の実施例を示す橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置の適用例である。
【0026】
図3に示すように、橋脚11と12の間には橋梁桁18が、橋脚12と13の間には橋梁桁19とが配置されるような場合には、上記した免震デバイス14,15,16,17がそれぞれ橋脚に配置されるが、このような場合、橋脚12上の橋梁桁18と19との間にはギャップ20を設定する。このように構成することにより、免震デバイス15と16の動作による橋梁桁18と19との干渉、例えば、地震時に橋梁桁18と19が衝突するのを回避する。
【0027】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置は、列車軌道の変位方向を転換し、その免震を確実に実行することができる免震装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 地盤
2 杭
3 フーチング
4,11,12,13 橋脚
5 下方受台
5A 湾曲支持面
6 上方受台
6A 上方受台の突起部
7 鋼鉄製滑り球
8 鋼鉄製滑り球の移動を規制する部材
8A 溝
8B テーパ面
9,18,19 橋梁桁
10 列車軌道
A 線路方向
B 線路直角方向の地震動
C 鋼鉄製滑り球の変位方向
14,15,16,17 免震デバイス
20 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)地盤のフーチング上に配置される橋脚上に形成される下方受台の湾曲支持面と、橋梁桁の下部に配置される上方受台の突起部との間に滑動可能に配置される鋼鉄製滑り球と、
(b)該鋼鉄製滑り球の移動を斜め方向に規制する部材とを具備し、
(c)前記鋼鉄製滑り球が前記鋼鉄製滑り球の移動を規制する部材により規制されて滑動することによって、線路直角方向に働く地震動による変位の一部を線路方向の変位へと転換して、前記橋梁桁の線路直角方向の変位を抑制することを特徴とする橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置。
【請求項2】
請求項1記載の橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置において、前記橋梁桁が隣り合って配置される場合、該隣り合う橋梁桁の間にギャップを設定することを特徴とすることを特徴とする橋梁桁の応答変位方向を転換する滑り方式免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−168729(P2010−168729A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9586(P2009−9586)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】