橋梁補強構造及び橋梁補強方法
【課題】過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる外ケーブル工法の橋梁補強構造及び橋梁補強方法を提供する。
【解決手段】橋梁補強構造は、橋梁1の橋長方向に張設されたケーブル13と、ケーブルを転向する支点形成部材12とを備え、ケーブルに作用する張力Fの鉛直成分F2によって支点形成部材に上向きの力を与えて橋桁3の曲げ応力を低減する。橋梁補強構造は、ケーブルの張力を橋桁外の構造体2、6又は地盤に伝達すべく該構造体又は地盤に立設した塔11と、塔を経由したケーブルを構造体又は地盤に係留し、或いは、ケーブルを塔に係留するケーブル係留手段14とを有する。
【解決手段】橋梁補強構造は、橋梁1の橋長方向に張設されたケーブル13と、ケーブルを転向する支点形成部材12とを備え、ケーブルに作用する張力Fの鉛直成分F2によって支点形成部材に上向きの力を与えて橋桁3の曲げ応力を低減する。橋梁補強構造は、ケーブルの張力を橋桁外の構造体2、6又は地盤に伝達すべく該構造体又は地盤に立設した塔11と、塔を経由したケーブルを構造体又は地盤に係留し、或いは、ケーブルを塔に係留するケーブル係留手段14とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の補強構造及び補強方法に関するものであり、より詳細には、既設鋼道路橋等の既設橋梁の耐荷力向上及び耐久性向上のために橋桁に沿ってケーブル構造を付設する外ケーブル工法の橋梁補強構造及び橋梁補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設橋梁の高齢化の急増、道路構造令の設計自動車荷重の改正による車両大型化及び交通量の増大等により、近年の鋼道路橋の耐荷力不足及び耐久性低下等の問題が指摘されている。この問題の一般的な解決策として、既設橋の架け替えが考えられるが、既設橋の架け替えは経済的・社会的に困難な場合が多い。そこで、ライフサイクルコストの低減等を目的とした構造物の長寿命化に資する適切な予防保全対策が必要であると考えられる。
【0003】
このような問題を抱える既設橋梁の補強対策として、鋼板補強工法、添接板高力ボルト締め工法、外ケーブル工法等の種々の工法が提案されている。例えば、鋼板補強工法は,既設部材に補強部材を添接し、既設部材の剛性を向上させる工法であり、比較的多くの施工実績が知られている。しかし、補強部材を溶接で取付けること自体は比較的簡易ではあるが、溶接に伴う比較的多額のコスト、疲労強度の低下等の不利が生じる。また、高力ボルトを用いる添接板高力ボルト締め工法は、補強部材を取付ける際、既設部材に多数の孔を孔明加工する必要があり、既設部材の耐荷力が一時的に低下する。鋼板補強工法は又、橋梁の局所的補強に適応し得るにすぎない。
【0004】
他方、外ケーブル工法は、近年注目されている工法であり、定着金具、偏向金具等を既設橋梁構成部材に取付けてケーブルを付設するとともに、ケーブルにプレストレスを導入し、死荷重等によって既設部材に作用する曲げモーメントを打ち消す方向の曲げモーメントを発生させる工法として知られている。
【0005】
外ケーブル工法は、特開2003-221809号公報、特開2001-64912号公報及び特開2003-293323号公報に記載される如く、ケーブルの端部を定着金具等によって橋桁の端部に連結し、サドル部、枕材、油圧ジャッキ、中間ブラケット等の偏向・緊張手段によってケーブルを橋脚間に緊張状態に張設し、橋桁に橋長方向内方の軸力を加えて橋梁の耐荷力を増大するように構成された工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-221809号公報
【特許文献2】特開2001-64912号公報
【特許文献3】特開2003-293323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外ケーブル工法では、死荷重等によって橋桁に作用する曲げモーメントを打ち消す曲げモーメントをケーブルのプレストレスによって発生させることから、橋長方向の軸力が圧縮力として橋桁に持続的に作用する。このように付加的な軸力を橋桁に常時作用せしめる工法を採用した場合、老朽化した橋梁にとって望ましくない常時負荷が橋桁に課せられることが懸念される。
【0008】
また、外ケーブル工法は、死荷重によって橋桁に作用する応力を低減するための既設橋梁補強対策としては有効な工法であるが、従来の外ケーブル工法によっては、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することは困難であると考えられる。しかし、車両大型化や交通量増大等の近年の傾向を考慮すると、このようなケーブル補強構造の付設によって活荷重応力をも効果的に低減することができる既設橋梁補強工法の開発が望まれる。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる外ケーブル工法の橋梁補強構造及び橋梁補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成すべく、橋梁の橋長方向に張設されたケーブルと、橋桁に一体化し且つ前記ケーブルに接触して該ケーブルを転向する支点形成部材とを備え、前記ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強構造において、
前記ケーブルの張力を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく前記構造体又は地盤に立設した塔と、
前記ケーブルに作用する張力の水平成分を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく、前記塔の上部及び前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記塔に係留するケーブル係留手段とを有することを特徴とする橋梁補強構造を提供する。
【0011】
本発明は又、橋梁の橋長方向にケーブルを張設し、橋桁に一体化した支点形成部材に前記ケーブルを接触させて該ケーブルを転向させ、該ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強方法において、
橋桁外の構造体又は地盤に立設した塔の上部と、前記支点形成部材とによって転向した前記ケーブルを橋桁外の構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材で転向した前記ケーブルを前記塔に係留し、これにより、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記構造体又は地盤の反力によって支持することを特徴とする橋梁補強方法を提供する。
【0012】
本発明の上記構成によれば、ケーブルの張力は、塔を介して橋桁外の構造体又は地盤に伝達し、或いは、橋桁外の構造体又は地盤に直に伝達し、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持される。ケーブルに作用する張力の鉛直成分は、支点形成部材に上向きの力を与えて橋桁の曲げ応力を低減するように働き、予めケーブルに加えられた予張力の水平成分、或いは、活荷重によってケーブルに作用する張力の水平成分は、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持される。即ち、本発明によれば、ケーブルに作用する張力の水平成分は実質的に橋桁に伝達せず、従って、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを確実に防止することができる。また、本発明によれば、橋桁に作用する活荷重はケーブルの張力として作用し、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持されるので、活荷重によって橋桁に作用する曲げ応力を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法によれば、外ケーブル工法の利点を損なうことなく、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A)は、本発明の第1実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す橋梁補強構造の変形例を示す概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図5】図5は、図4に示す橋梁の構造を概略的に示す部分斜視図である。
【図6】図6は、橋梁補強装置の設置前及び設置後における既設橋梁の死荷重応力(最大主応力)の変化を示す線図である。
【図7】図7は、中央径間の鋼床版トラフリブに関し、ケーブル構造補強前後の死荷重応力の変化を示す線図である。
【図8】図8は、箱桁部の下フランジに関し、ケーブル構造補強前後の活荷重応力(最大主応力)の変化を示す線図である。
【図9】図9は、中央径間の鋼床版トラフリブに作用する活荷重応力の変化を橋軸方向位置と関連して示す線図である。
【図10】図10は、塔の高さの相違と関連した活荷重応力性状の相違を示す線図である。
【図11】図11は、図10に示す第1モデル及び第2モデルの構成を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態によれば、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設される。好ましくは、支点形成部材は、ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、橋桁の下部に突設される。
【0016】
本発明の或る好適な実施形態においては、ケーブル係留手段は、ケーブルの端部を塔の上部に係留する係留具を含み、係留具は、支点形成部材によって上方に転向したケーブルを塔に係留する。好ましくは、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設され、ケーブルは、塔の塔頂部に係留される。支点形成部材によって上方に転向したケーブルは、塔の塔頂部に係留され、ケーブルに作用する張力の水平成分は、塔を介して橋台又は橋脚に伝達し、橋台又は橋脚の反力によって支持される。
【0017】
本発明の他の好適な実施形態においては、塔は、ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、この橋梁用サドル又は支承部材は、支点形成部材によって上方に転向したケーブルを下方に転向する。ケーブル係留手段は、塔の橋梁用サドル又は支承部材と、支点形成部材とによって上下方向に転向したケーブルの端部を橋桁外の構造体又は地盤に係留する係留具を含む。好ましくは、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設され、橋梁用サドル又は支承部材は、塔の塔頂部に配置される。支点形成部材によって上方に転向したケーブルは、塔の塔頂部で下方に転向するとともに、橋台又は橋脚に係留される。ケーブルに作用する張力の水平成分は、橋台又は橋脚に伝達して、橋台又は橋脚の反力によって支持される。
【0018】
塔を地盤、或いは、橋台又は橋脚以外の適当な構造体(橋桁を除く)に立設しても良く、また、ケーブルを地盤、或いは、橋台又は橋脚以外の適当な構造体(橋桁を除く)に係留しても良い。
【0019】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法を実施する上で、塔の高さは、その経済性及び施工性に大きく影響すると考えられる。本発明者の知見によれば、ケーブルに加える予張力を倍増すれば、塔高を半減したとしても、実質的に同じ橋梁補強効果が得られる。即ち、ケーブルの予張力と、塔高とは実質的に反比例する。従って、本発明の好適な実施形態においては、塔の高さを低減するためにケーブルの初期張力が付加され又は増大される。
【実施例1】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の実施例に係る橋梁補強構造を示す1径間鋼床版箱桁橋1の概略側面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す橋梁補強構造の変形例を示す概略側面図である。
【0021】
図1(A)に示す1径間鋼床版箱桁橋1は、一対の橋台2の間に架設された橋桁3を有する。橋桁3の両端部は、ローラー支承4及びピン支承5によって両橋台2に支持される。橋梁補強装置10を構成する垂直な塔11が一方の橋台2に垂直に立設される。塔11の頂部には、サドル部15が設けられる。ケーブル13の両端部を係留可能なケーブル係留装置14が両側の橋台2に夫々取付けられるとともに、サドル部12を有するサポートビーム19が橋桁3の径間中央部に配設される。サドル部12は橋軸直角方向且つ水平に橋桁3の下端部(下部フランジ)に突設される。サポートビーム19の先端部に配置されたサドル部12は、ケーブル13が摺接する下側摺接面を有する。サドル部12、15として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用し得る。
【0022】
ケーブル係留装置14によって左右の橋台2に係留されたケーブル13は、図1(A)において左側に示す橋台2のケーブル係留装置14から橋桁3の側部に沿って概ね水平に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して上方に転向して塔11の頂部に延びる。ケーブル13は更に、塔11の頂部に配置されたサドル部15の上側摺接面に摺接して下方に転向し、図1(A)において右側に示す橋台2のケーブル係留装置14に延び、ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。
【0023】
かくして、ケーブル13の両端部は、ケーブル係留装置14によって両側の橋台2に係留され、サドル部12は、ケーブル13に作用する張力Fの鉛直成分F2によってケーブル13に支承される支点形成部材を構成する。
【0024】
図1(A)に示す塔11、サドル部12、15、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成された橋梁補強装置10は、橋桁3の両側(両サイド)に対をなして配設される。ケーブル13は、橋桁3の主桁側面から所定間隔を隔てて配置される。例えば、ケーブル13は、側デッキ(側床版)の外側において側デッキ縁部に近接して延在し、或いは、側デッキ部分に配置される歩道又は路面を貫通して橋長方向に延在する。この場合、サポートビーム19は、概ね橋梁の幅員程度の範囲内で主桁側面から橋幅方向に張り出すように主桁に突設される。また、サポートビーム19を橋梁内部に配設することも可能である。例えば、橋桁3の橋幅方向中央部に中央分離帯等を設ける場合には、ケーブル13を橋桁3の中央帯域に沿って延在せしめるように橋梁補強装置10を配置しても良い。
【0025】
一対のケーブル係留装置14の間に延びるケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、ケーブル13は緊張状態に張設される。図1(A)には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、ケーブル係留装置14を介して両側の橋台2に伝達し、橋台2の水平反力R1、R3及び鉛直反力R2によって支持される。サドル部12に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重L(破線矢印で示す)を支持する反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【0026】
ケーブル13として、導入張力又は予張力に適合した断面寸法を有する公知のPC(Prestressed Concrete)鋼撚り線を好ましく使用し得る。また、サドル部12として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用することができる。
【0027】
図1(B)には、図1(A)に示す橋梁補強装置10の変形例が示されている。図1(B)に示す実施例では、橋台2に立設された塔11は、サドル部12の反対側に所定角度θをなして傾斜して上方に延びる。塔11の上端部には、ケーブル13の他端部を係留可能なケーブル係留装置14が配設される。ケーブル13が一方の塔11の上端部から斜め下方に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して概ね水平に延び、図1(B)において左側に示す橋台2のケーブル係留装置14に延びる。ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。図1(B)に示す実施例によれば、ケーブル13の初期張力Fは、ケーブル係留装置14及び塔11を介して橋台2に伝達し、橋台2の水平反力R1、R3及び鉛直反力R2によって支持される。
【実施例2】
【0028】
図2は、本発明の他の実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【0029】
前述の実施例と同じく、1径間鋼床版箱桁橋1は、一対の橋台2の間に架設された橋桁3を有する。橋桁3の両端部は、ローラー支承4及びピン支承5によって両橋台2に支持される。橋梁補強装置10は、塔11、サドル部12、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成される。ケーブル13は、塔11の頂部に設けられたサドル部15の上側摺接面に摺接して下方に転向し、ケーブル係留装置14に延びる。ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。サドル部15として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用し得る。
【0030】
ケーブル係留装置14からサドル部15を経由してサドル部12に延びるケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、前述の実施例と同じく、ケーブル13は緊張状態に張設される。図2には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、橋台2の水平反力R1及び鉛直反力R2によって支持される。前述の実施例と同じく、サドル部12に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重Lを打ち消す反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【実施例3】
【0031】
図3及び図4は、本発明の更に他の実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。図5は、図4に示す橋梁の構造を概略的に示す部分斜視図である。図3には、2径間連続鋼床版箱桁橋1が示されており、図4及び図5には、3径間連続鋼床版箱桁橋1が示されている。
【0032】
図3及び図4に示す如く複数径間連続に施工される鋼床版箱桁橋1においては、橋桁3は、橋台2及び橋脚6によって支持される。橋台2及び橋脚6は、等間隔を隔てて配置される。橋桁3の一端は、ピン支承5によって橋台2に支持され、橋桁3の他端及び中間部は、ローラー支承4、7によって橋台2及び橋脚6に支持される。
【0033】
図3に示す橋梁補強装置10は、サドル部12、17、塔11、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成される。塔11は、橋桁3の中間部に配置された橋脚6に垂直に立設される。サドル部17は、塔11の頂部に設けられ、ケーブル13を下方に転向する上側摺接面を備える。
【0034】
前述の実施例と同じく、ケーブル係留装置14は、ケーブル13の各端部を各橋台2に固定するように左右の橋台2に夫々配設され、サドル部12は径間中央部に配設される。ケーブル係留装置14によって左右の橋台2に係留されたケーブル13は、橋桁3の側部に沿って概ね水平に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して上方に転向して塔11の頂部に延び、サドル部17の上側摺接面に摺接して下方に転向する。
【実施例4】
【0035】
図4及び図5に示す3径間連続鋼床版箱桁橋1においては、二本の塔11の間にサドル部18が更に配設される。サドル部18は、サドル部12と実質的に同一の構造を有するケーブル転向手段である。一方の塔11のサドル部17によって下方に転向したケーブル13は、2本の塔11の間(中央径間)のサドル部18によって上方に転向し、他方の塔11のサドル部17に延び、サドル部17によって下方に転向する。
【0036】
なお、鋼床版箱桁橋1は、図5に示す如く、橋軸方向に延びる多数のトラフリブ9を鋼床版の下面に配設した構造を有する。また、4径間以上の多径間に亘って連続的に施工される多径間連続鋼床版箱桁橋においては、橋脚6の数に相応して、図4及び図5に示す塔11、サドル部17、18が増設されるが、橋梁補強装置10は、図4及び図5に示す3径間連続鋼床版箱桁橋1と実質的に同じ基本構成を有する。
【0037】
前述の実施例と同様、図3及び図4に示す橋梁補強装置10においても、ケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、ケーブル13は緊張状態に張設される。図3及び図4には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、橋台2の水平反力R3と、橋台6の鉛直反力R4とによって支持される。前述の実施例と同じく、サドル部12、18に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12、18に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重Lを打ち消す反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【0038】
図6〜図10は、三次元FEM解析によって求められた橋梁補強装置10の作用を示す線図であり、橋梁補強装置10の設置前及び設置後における既設橋梁の曲げ応力(最大主応力)の変化が示されている。図6及び図7には、死荷重応力の変化が示され、図8〜図10には、活荷重応力の変化が示されている。なお、活荷重は、日本道路協会・道路橋示方書において積載荷重として規定されたL荷重(B荷重)である。
【0039】
各図において、横軸は橋軸方向位置を示し、縦軸は最大主応力を示す。各図の上部には、横軸と対応する橋梁の概略形状が参考として示されている。なお、FEM解析の解析対象は、1径間に7パネルを有する全長約180mの3径間連続鋼床版箱桁橋1であり、各々のケーブル13に対して所定の初期張力(500kN)を導入した条件で解析が行われた。
【0040】
図6には、3径間連続鋼床版箱桁橋1の下フランジ部の死荷重応力と橋軸方向位置との関係が示されている。図6に示されるように、橋梁全体の応力性状の傾向には大きな変化は認められない。しかしながら、サドル部12、18の近傍においては、最大主応力の顕著な低減が認められる。橋梁全体の応力低減率は平均22%であり、中央径間及び側径間のいずれの径間においても、応力低減効果が認められた。従って、橋梁補強装置10の設置によって桁全体の耐荷力向上を図ることができると判明した。なお、橋軸方向に特定間隔を隔てて応力性状が10N/mm2程度立ち上がる傾向が、図6の線図に顕れている。これは、各パネル間に設けられた横リブ(図示せず)によって橋桁3の下フランジの変形が拘束されているために生じた現象である。
【0041】
図7には、中央径間の鋼床版トラフリブ9(図5)に関し、ケーブル構造補強前後の死荷重応力の変化が示されている。
【0042】
図7に示されるように、中央径間の中央部近傍の3つのパネルの範囲では、鋼床版トラフリブ9に作用する最大主応力がケーブル構造補強後に増大している。これは、初期張力Fによる橋桁3の吊り上げ作用に依るものである。
【0043】
図8には、ケーブル構造補強前後の橋梁全体の箱桁部下フランジの活荷重応力が示されている。
【0044】
橋梁全体の応力性状の傾向には、ケーブル構造補強の前後で大きな変化は認められないが、補強後の橋梁において補強前よりも応力度が増大する箇所は生じていない。補強前後の応力低減率を橋軸方向範囲毎に検討すると、橋梁全体では平均23%,中央径間では34%,側径間では13%,桁端部では71%の活荷重応力の低減が生じている。従って、本発明の橋梁補強装置10は、橋桁全体に亘って活荷重応力の低減に寄与することが判明した。
【0045】
また、中央径間の中央領域と、中央径間の桁端近傍領域、そして、側径間の桁端近傍領域は、ケーブル構造補強前に特に高い応力度を示していたが、ケーブル構造補強後には、中央径間の中央領域において約30%、そして、中央径間及び側径間の桁端近傍領域において約65%応力度が低減しており、本発明の橋梁補強装置10による活荷重応力の低減効果は、これらの領域に顕著に顕れている。
【0046】
図9には、中央径間の鋼床版トラフリブ9(図5)に作用する活荷重応力が橋軸方向位置と関連して示されている。ケーブル構造補強による鋼床版トラフリブ9の応力低減率は、中央径間において約6%であった。また、中央径間の中央領域では、ケーブル構造補強の前には、約25N/mm2の応力が作用していたが、ケーブル構造補強後は、約2N/mm2に大きく低減した。従って、ケーブル構造補強は、橋梁に作用する一次応力の低減だけでなく、鋼床版トラフリブ9の活荷重応力の低減(即ち、設計では考慮し得ない二次応力の低減)をも可能にすることが判明した。
【0047】
従って、本発明の上記実施例によれば、以下の効果が具体的に得られると判明した。
(1)本発明のケーブル構造補強により死荷重応力を橋梁全体で平均22%低減し、橋桁全体の耐荷力向上を図ることができる。
【0048】
(2)本発明のケーブル構造補強により活荷重応力を橋梁全体で平均23%低減し、従来の補強工法では得られなかった活荷重応力低減効果を達成することができる。
【0049】
(3)サポートビーム19の直上近傍では、鋼床版トラフリブ9の活荷重応力を大きく低減することができ、橋梁に作用する二次応力の低減を図ることができる。
【0050】
かくして、本発明の橋梁補強装置10によれば、既設鋼道路橋の桁全体の応力を抜本的に低減し、従来の補強工法では得られない橋梁全体の補強効果を達成するとともに、死荷重応力の低減のみならず、従来の補強工法では実現し得なかった活荷重応力の低減をも可能にし、従って、既設鋼道路橋の耐荷力向上及び耐久性向上を図ることができる。
【0051】
図10には、塔11の高さhの相違に伴う橋梁補強装置10の活荷重応力低減効果の変化が示されており、図11には、図10に示す第1モデル及び第2モデルに係る3径間連続鋼床版箱桁橋1の構成が概略的に示されている。
【0052】
図11(A)には、塔高hを支間長L/5に設定した第1モデルが示され、図11(B)には、塔高hを支間長L/10に設定した第2モデルが示されている。第2モデルは、第1モデルに比べ、塔高hが半減しているため、初期張力Fの鉛直成分F2(図4)が半減する。ケーブル構造補強においては、桁の応力低減をもたらす主要因の一つは、初期張力Fの鉛直成分F2であると考えられる。このため、本発明者は、第1モデルと同等の鉛直成分F2を確保すべく、第2モデルにおいて初期張力Fを約2倍に設定してFEM解析を実行した。
【0053】
図10には、第1モデル及び第2モデルのFEM解析結果が示されている。図10に示されるとおり、第1モデルと第2モデルの発生応力は概ね同一であり、両者の実質的な差は認められない。即ち、本発明の橋梁補強装置10においては、初期張力Fを増大することよって塔高hを低減することができる。これは、橋梁補強装置10の補強効果と、その経済性及び施工性とを両立させる設計を本発明に従って採用し得ることを意味する。
【0054】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0055】
例えば、上記実施例2〜4の橋梁補強構造では、ケーブルを塔頂サドル部で下方に転向しているが、各塔の頂部にケーブル係留装置を配設してケーブルを各塔頂部で分断し、各ケーブルの端部を各塔の塔頂部に係留しても良い。
【0056】
また、塔の断面(横断面)は、正方形、円形、楕円形、長方形、菱形等の任意の形態に設計することができる。
【0057】
更に、上記各実施例では、橋桁のサドル部を径間の中央部に配置しているが、径間の片側に偏在した位置にサドル部を配置し、或いは、複数のサドル部を径間に配設することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法は、既設鋼道路橋等の既設橋梁の耐荷力向上及び耐久性向上のために橋桁に沿ってケーブル構造を付設する外ケーブル工法に適用される。本発明は殊に、鋼床版箱桁橋の補強構造及び補強方法として有利に使用し得る構成を有する。本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法によれば、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる。本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法は又、橋梁全体の活荷重応力低減を達成し得る補強工法として、既設橋の架け替えに近い補強効果を発揮するであろうと考えられ、その実用的効果は顕著である。
【符号の説明】
【0059】
1 鋼床版箱桁橋
2 橋台
3 橋桁
4、7 ローラー支承
5 ピン支承
6 橋脚
9 鋼床版トラフリブ
10 橋梁補強装置
11 塔
12、15、17、18 サドル部
13 ケーブル
14 ケーブル係留装置
19 サポートビーム
F 初期張力
F1 水平成分
F2 鉛直成分
R1 水平反力
R2 鉛直反力
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の補強構造及び補強方法に関するものであり、より詳細には、既設鋼道路橋等の既設橋梁の耐荷力向上及び耐久性向上のために橋桁に沿ってケーブル構造を付設する外ケーブル工法の橋梁補強構造及び橋梁補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設橋梁の高齢化の急増、道路構造令の設計自動車荷重の改正による車両大型化及び交通量の増大等により、近年の鋼道路橋の耐荷力不足及び耐久性低下等の問題が指摘されている。この問題の一般的な解決策として、既設橋の架け替えが考えられるが、既設橋の架け替えは経済的・社会的に困難な場合が多い。そこで、ライフサイクルコストの低減等を目的とした構造物の長寿命化に資する適切な予防保全対策が必要であると考えられる。
【0003】
このような問題を抱える既設橋梁の補強対策として、鋼板補強工法、添接板高力ボルト締め工法、外ケーブル工法等の種々の工法が提案されている。例えば、鋼板補強工法は,既設部材に補強部材を添接し、既設部材の剛性を向上させる工法であり、比較的多くの施工実績が知られている。しかし、補強部材を溶接で取付けること自体は比較的簡易ではあるが、溶接に伴う比較的多額のコスト、疲労強度の低下等の不利が生じる。また、高力ボルトを用いる添接板高力ボルト締め工法は、補強部材を取付ける際、既設部材に多数の孔を孔明加工する必要があり、既設部材の耐荷力が一時的に低下する。鋼板補強工法は又、橋梁の局所的補強に適応し得るにすぎない。
【0004】
他方、外ケーブル工法は、近年注目されている工法であり、定着金具、偏向金具等を既設橋梁構成部材に取付けてケーブルを付設するとともに、ケーブルにプレストレスを導入し、死荷重等によって既設部材に作用する曲げモーメントを打ち消す方向の曲げモーメントを発生させる工法として知られている。
【0005】
外ケーブル工法は、特開2003-221809号公報、特開2001-64912号公報及び特開2003-293323号公報に記載される如く、ケーブルの端部を定着金具等によって橋桁の端部に連結し、サドル部、枕材、油圧ジャッキ、中間ブラケット等の偏向・緊張手段によってケーブルを橋脚間に緊張状態に張設し、橋桁に橋長方向内方の軸力を加えて橋梁の耐荷力を増大するように構成された工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-221809号公報
【特許文献2】特開2001-64912号公報
【特許文献3】特開2003-293323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外ケーブル工法では、死荷重等によって橋桁に作用する曲げモーメントを打ち消す曲げモーメントをケーブルのプレストレスによって発生させることから、橋長方向の軸力が圧縮力として橋桁に持続的に作用する。このように付加的な軸力を橋桁に常時作用せしめる工法を採用した場合、老朽化した橋梁にとって望ましくない常時負荷が橋桁に課せられることが懸念される。
【0008】
また、外ケーブル工法は、死荷重によって橋桁に作用する応力を低減するための既設橋梁補強対策としては有効な工法であるが、従来の外ケーブル工法によっては、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することは困難であると考えられる。しかし、車両大型化や交通量増大等の近年の傾向を考慮すると、このようなケーブル補強構造の付設によって活荷重応力をも効果的に低減することができる既設橋梁補強工法の開発が望まれる。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる外ケーブル工法の橋梁補強構造及び橋梁補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成すべく、橋梁の橋長方向に張設されたケーブルと、橋桁に一体化し且つ前記ケーブルに接触して該ケーブルを転向する支点形成部材とを備え、前記ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強構造において、
前記ケーブルの張力を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく前記構造体又は地盤に立設した塔と、
前記ケーブルに作用する張力の水平成分を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく、前記塔の上部及び前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記塔に係留するケーブル係留手段とを有することを特徴とする橋梁補強構造を提供する。
【0011】
本発明は又、橋梁の橋長方向にケーブルを張設し、橋桁に一体化した支点形成部材に前記ケーブルを接触させて該ケーブルを転向させ、該ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強方法において、
橋桁外の構造体又は地盤に立設した塔の上部と、前記支点形成部材とによって転向した前記ケーブルを橋桁外の構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材で転向した前記ケーブルを前記塔に係留し、これにより、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記構造体又は地盤の反力によって支持することを特徴とする橋梁補強方法を提供する。
【0012】
本発明の上記構成によれば、ケーブルの張力は、塔を介して橋桁外の構造体又は地盤に伝達し、或いは、橋桁外の構造体又は地盤に直に伝達し、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持される。ケーブルに作用する張力の鉛直成分は、支点形成部材に上向きの力を与えて橋桁の曲げ応力を低減するように働き、予めケーブルに加えられた予張力の水平成分、或いは、活荷重によってケーブルに作用する張力の水平成分は、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持される。即ち、本発明によれば、ケーブルに作用する張力の水平成分は実質的に橋桁に伝達せず、従って、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを確実に防止することができる。また、本発明によれば、橋桁に作用する活荷重はケーブルの張力として作用し、橋桁外の構造体又は地盤の反力によって支持されるので、活荷重によって橋桁に作用する曲げ応力を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法によれば、外ケーブル工法の利点を損なうことなく、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A)は、本発明の第1実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す橋梁補強構造の変形例を示す概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【図5】図5は、図4に示す橋梁の構造を概略的に示す部分斜視図である。
【図6】図6は、橋梁補強装置の設置前及び設置後における既設橋梁の死荷重応力(最大主応力)の変化を示す線図である。
【図7】図7は、中央径間の鋼床版トラフリブに関し、ケーブル構造補強前後の死荷重応力の変化を示す線図である。
【図8】図8は、箱桁部の下フランジに関し、ケーブル構造補強前後の活荷重応力(最大主応力)の変化を示す線図である。
【図9】図9は、中央径間の鋼床版トラフリブに作用する活荷重応力の変化を橋軸方向位置と関連して示す線図である。
【図10】図10は、塔の高さの相違と関連した活荷重応力性状の相違を示す線図である。
【図11】図11は、図10に示す第1モデル及び第2モデルの構成を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態によれば、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設される。好ましくは、支点形成部材は、ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、橋桁の下部に突設される。
【0016】
本発明の或る好適な実施形態においては、ケーブル係留手段は、ケーブルの端部を塔の上部に係留する係留具を含み、係留具は、支点形成部材によって上方に転向したケーブルを塔に係留する。好ましくは、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設され、ケーブルは、塔の塔頂部に係留される。支点形成部材によって上方に転向したケーブルは、塔の塔頂部に係留され、ケーブルに作用する張力の水平成分は、塔を介して橋台又は橋脚に伝達し、橋台又は橋脚の反力によって支持される。
【0017】
本発明の他の好適な実施形態においては、塔は、ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、この橋梁用サドル又は支承部材は、支点形成部材によって上方に転向したケーブルを下方に転向する。ケーブル係留手段は、塔の橋梁用サドル又は支承部材と、支点形成部材とによって上下方向に転向したケーブルの端部を橋桁外の構造体又は地盤に係留する係留具を含む。好ましくは、塔は、橋梁の橋台又は橋脚に立設され、橋梁用サドル又は支承部材は、塔の塔頂部に配置される。支点形成部材によって上方に転向したケーブルは、塔の塔頂部で下方に転向するとともに、橋台又は橋脚に係留される。ケーブルに作用する張力の水平成分は、橋台又は橋脚に伝達して、橋台又は橋脚の反力によって支持される。
【0018】
塔を地盤、或いは、橋台又は橋脚以外の適当な構造体(橋桁を除く)に立設しても良く、また、ケーブルを地盤、或いは、橋台又は橋脚以外の適当な構造体(橋桁を除く)に係留しても良い。
【0019】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法を実施する上で、塔の高さは、その経済性及び施工性に大きく影響すると考えられる。本発明者の知見によれば、ケーブルに加える予張力を倍増すれば、塔高を半減したとしても、実質的に同じ橋梁補強効果が得られる。即ち、ケーブルの予張力と、塔高とは実質的に反比例する。従って、本発明の好適な実施形態においては、塔の高さを低減するためにケーブルの初期張力が付加され又は増大される。
【実施例1】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の実施例に係る橋梁補強構造を示す1径間鋼床版箱桁橋1の概略側面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す橋梁補強構造の変形例を示す概略側面図である。
【0021】
図1(A)に示す1径間鋼床版箱桁橋1は、一対の橋台2の間に架設された橋桁3を有する。橋桁3の両端部は、ローラー支承4及びピン支承5によって両橋台2に支持される。橋梁補強装置10を構成する垂直な塔11が一方の橋台2に垂直に立設される。塔11の頂部には、サドル部15が設けられる。ケーブル13の両端部を係留可能なケーブル係留装置14が両側の橋台2に夫々取付けられるとともに、サドル部12を有するサポートビーム19が橋桁3の径間中央部に配設される。サドル部12は橋軸直角方向且つ水平に橋桁3の下端部(下部フランジ)に突設される。サポートビーム19の先端部に配置されたサドル部12は、ケーブル13が摺接する下側摺接面を有する。サドル部12、15として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用し得る。
【0022】
ケーブル係留装置14によって左右の橋台2に係留されたケーブル13は、図1(A)において左側に示す橋台2のケーブル係留装置14から橋桁3の側部に沿って概ね水平に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して上方に転向して塔11の頂部に延びる。ケーブル13は更に、塔11の頂部に配置されたサドル部15の上側摺接面に摺接して下方に転向し、図1(A)において右側に示す橋台2のケーブル係留装置14に延び、ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。
【0023】
かくして、ケーブル13の両端部は、ケーブル係留装置14によって両側の橋台2に係留され、サドル部12は、ケーブル13に作用する張力Fの鉛直成分F2によってケーブル13に支承される支点形成部材を構成する。
【0024】
図1(A)に示す塔11、サドル部12、15、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成された橋梁補強装置10は、橋桁3の両側(両サイド)に対をなして配設される。ケーブル13は、橋桁3の主桁側面から所定間隔を隔てて配置される。例えば、ケーブル13は、側デッキ(側床版)の外側において側デッキ縁部に近接して延在し、或いは、側デッキ部分に配置される歩道又は路面を貫通して橋長方向に延在する。この場合、サポートビーム19は、概ね橋梁の幅員程度の範囲内で主桁側面から橋幅方向に張り出すように主桁に突設される。また、サポートビーム19を橋梁内部に配設することも可能である。例えば、橋桁3の橋幅方向中央部に中央分離帯等を設ける場合には、ケーブル13を橋桁3の中央帯域に沿って延在せしめるように橋梁補強装置10を配置しても良い。
【0025】
一対のケーブル係留装置14の間に延びるケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、ケーブル13は緊張状態に張設される。図1(A)には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、ケーブル係留装置14を介して両側の橋台2に伝達し、橋台2の水平反力R1、R3及び鉛直反力R2によって支持される。サドル部12に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重L(破線矢印で示す)を支持する反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【0026】
ケーブル13として、導入張力又は予張力に適合した断面寸法を有する公知のPC(Prestressed Concrete)鋼撚り線を好ましく使用し得る。また、サドル部12として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用することができる。
【0027】
図1(B)には、図1(A)に示す橋梁補強装置10の変形例が示されている。図1(B)に示す実施例では、橋台2に立設された塔11は、サドル部12の反対側に所定角度θをなして傾斜して上方に延びる。塔11の上端部には、ケーブル13の他端部を係留可能なケーブル係留装置14が配設される。ケーブル13が一方の塔11の上端部から斜め下方に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して概ね水平に延び、図1(B)において左側に示す橋台2のケーブル係留装置14に延びる。ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。図1(B)に示す実施例によれば、ケーブル13の初期張力Fは、ケーブル係留装置14及び塔11を介して橋台2に伝達し、橋台2の水平反力R1、R3及び鉛直反力R2によって支持される。
【実施例2】
【0028】
図2は、本発明の他の実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。
【0029】
前述の実施例と同じく、1径間鋼床版箱桁橋1は、一対の橋台2の間に架設された橋桁3を有する。橋桁3の両端部は、ローラー支承4及びピン支承5によって両橋台2に支持される。橋梁補強装置10は、塔11、サドル部12、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成される。ケーブル13は、塔11の頂部に設けられたサドル部15の上側摺接面に摺接して下方に転向し、ケーブル係留装置14に延びる。ケーブル係留装置14は、ケーブル13の端部を橋台2に係留する。サドル部15として、ケーブル13を摺動可能に支持し又は挿通せしめてケーブル変曲点を形成するように構成された公知構造の橋梁用サドルを使用し得る。
【0030】
ケーブル係留装置14からサドル部15を経由してサドル部12に延びるケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、前述の実施例と同じく、ケーブル13は緊張状態に張設される。図2には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、橋台2の水平反力R1及び鉛直反力R2によって支持される。前述の実施例と同じく、サドル部12に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重Lを打ち消す反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【実施例3】
【0031】
図3及び図4は、本発明の更に他の実施例に係る橋梁補強構造を示す橋梁の概略側面図である。図5は、図4に示す橋梁の構造を概略的に示す部分斜視図である。図3には、2径間連続鋼床版箱桁橋1が示されており、図4及び図5には、3径間連続鋼床版箱桁橋1が示されている。
【0032】
図3及び図4に示す如く複数径間連続に施工される鋼床版箱桁橋1においては、橋桁3は、橋台2及び橋脚6によって支持される。橋台2及び橋脚6は、等間隔を隔てて配置される。橋桁3の一端は、ピン支承5によって橋台2に支持され、橋桁3の他端及び中間部は、ローラー支承4、7によって橋台2及び橋脚6に支持される。
【0033】
図3に示す橋梁補強装置10は、サドル部12、17、塔11、ケーブル13及びケーブル係留装置14から構成される。塔11は、橋桁3の中間部に配置された橋脚6に垂直に立設される。サドル部17は、塔11の頂部に設けられ、ケーブル13を下方に転向する上側摺接面を備える。
【0034】
前述の実施例と同じく、ケーブル係留装置14は、ケーブル13の各端部を各橋台2に固定するように左右の橋台2に夫々配設され、サドル部12は径間中央部に配設される。ケーブル係留装置14によって左右の橋台2に係留されたケーブル13は、橋桁3の側部に沿って概ね水平に延び、サドル部12の下側摺接面に摺接して上方に転向して塔11の頂部に延び、サドル部17の上側摺接面に摺接して下方に転向する。
【実施例4】
【0035】
図4及び図5に示す3径間連続鋼床版箱桁橋1においては、二本の塔11の間にサドル部18が更に配設される。サドル部18は、サドル部12と実質的に同一の構造を有するケーブル転向手段である。一方の塔11のサドル部17によって下方に転向したケーブル13は、2本の塔11の間(中央径間)のサドル部18によって上方に転向し、他方の塔11のサドル部17に延び、サドル部17によって下方に転向する。
【0036】
なお、鋼床版箱桁橋1は、図5に示す如く、橋軸方向に延びる多数のトラフリブ9を鋼床版の下面に配設した構造を有する。また、4径間以上の多径間に亘って連続的に施工される多径間連続鋼床版箱桁橋においては、橋脚6の数に相応して、図4及び図5に示す塔11、サドル部17、18が増設されるが、橋梁補強装置10は、図4及び図5に示す3径間連続鋼床版箱桁橋1と実質的に同じ基本構成を有する。
【0037】
前述の実施例と同様、図3及び図4に示す橋梁補強装置10においても、ケーブル13には、油圧ジャッキ等(図示せず)によって初期張力F(破線矢印で示す)が予張力として付与され、ケーブル13は緊張状態に張設される。図3及び図4には、初期張力Fの水平成分F1及び鉛直成分F2が示されている。初期張力Fは、橋台2の水平反力R3と、橋台6の鉛直反力R4とによって支持される。前述の実施例と同じく、サドル部12、18に作用する左右の水平成分F1は互いに釣り合うので、橋桁3には軸力(圧縮力又は引張力)は作用しない。サドル部12、18に作用する鉛直成分F2は、橋桁3の中央部に作用する鉛直荷重を打ち消し、橋桁中央部の曲げモーメントを軽減するように働く。初期張力Fが限りなくゼロに近いと仮定すると、橋桁3に作用する活荷重Lを打ち消す反力として張力F(鉛直成分F2)がケーブル13に作用すると考えることができる。
【0038】
図6〜図10は、三次元FEM解析によって求められた橋梁補強装置10の作用を示す線図であり、橋梁補強装置10の設置前及び設置後における既設橋梁の曲げ応力(最大主応力)の変化が示されている。図6及び図7には、死荷重応力の変化が示され、図8〜図10には、活荷重応力の変化が示されている。なお、活荷重は、日本道路協会・道路橋示方書において積載荷重として規定されたL荷重(B荷重)である。
【0039】
各図において、横軸は橋軸方向位置を示し、縦軸は最大主応力を示す。各図の上部には、横軸と対応する橋梁の概略形状が参考として示されている。なお、FEM解析の解析対象は、1径間に7パネルを有する全長約180mの3径間連続鋼床版箱桁橋1であり、各々のケーブル13に対して所定の初期張力(500kN)を導入した条件で解析が行われた。
【0040】
図6には、3径間連続鋼床版箱桁橋1の下フランジ部の死荷重応力と橋軸方向位置との関係が示されている。図6に示されるように、橋梁全体の応力性状の傾向には大きな変化は認められない。しかしながら、サドル部12、18の近傍においては、最大主応力の顕著な低減が認められる。橋梁全体の応力低減率は平均22%であり、中央径間及び側径間のいずれの径間においても、応力低減効果が認められた。従って、橋梁補強装置10の設置によって桁全体の耐荷力向上を図ることができると判明した。なお、橋軸方向に特定間隔を隔てて応力性状が10N/mm2程度立ち上がる傾向が、図6の線図に顕れている。これは、各パネル間に設けられた横リブ(図示せず)によって橋桁3の下フランジの変形が拘束されているために生じた現象である。
【0041】
図7には、中央径間の鋼床版トラフリブ9(図5)に関し、ケーブル構造補強前後の死荷重応力の変化が示されている。
【0042】
図7に示されるように、中央径間の中央部近傍の3つのパネルの範囲では、鋼床版トラフリブ9に作用する最大主応力がケーブル構造補強後に増大している。これは、初期張力Fによる橋桁3の吊り上げ作用に依るものである。
【0043】
図8には、ケーブル構造補強前後の橋梁全体の箱桁部下フランジの活荷重応力が示されている。
【0044】
橋梁全体の応力性状の傾向には、ケーブル構造補強の前後で大きな変化は認められないが、補強後の橋梁において補強前よりも応力度が増大する箇所は生じていない。補強前後の応力低減率を橋軸方向範囲毎に検討すると、橋梁全体では平均23%,中央径間では34%,側径間では13%,桁端部では71%の活荷重応力の低減が生じている。従って、本発明の橋梁補強装置10は、橋桁全体に亘って活荷重応力の低減に寄与することが判明した。
【0045】
また、中央径間の中央領域と、中央径間の桁端近傍領域、そして、側径間の桁端近傍領域は、ケーブル構造補強前に特に高い応力度を示していたが、ケーブル構造補強後には、中央径間の中央領域において約30%、そして、中央径間及び側径間の桁端近傍領域において約65%応力度が低減しており、本発明の橋梁補強装置10による活荷重応力の低減効果は、これらの領域に顕著に顕れている。
【0046】
図9には、中央径間の鋼床版トラフリブ9(図5)に作用する活荷重応力が橋軸方向位置と関連して示されている。ケーブル構造補強による鋼床版トラフリブ9の応力低減率は、中央径間において約6%であった。また、中央径間の中央領域では、ケーブル構造補強の前には、約25N/mm2の応力が作用していたが、ケーブル構造補強後は、約2N/mm2に大きく低減した。従って、ケーブル構造補強は、橋梁に作用する一次応力の低減だけでなく、鋼床版トラフリブ9の活荷重応力の低減(即ち、設計では考慮し得ない二次応力の低減)をも可能にすることが判明した。
【0047】
従って、本発明の上記実施例によれば、以下の効果が具体的に得られると判明した。
(1)本発明のケーブル構造補強により死荷重応力を橋梁全体で平均22%低減し、橋桁全体の耐荷力向上を図ることができる。
【0048】
(2)本発明のケーブル構造補強により活荷重応力を橋梁全体で平均23%低減し、従来の補強工法では得られなかった活荷重応力低減効果を達成することができる。
【0049】
(3)サポートビーム19の直上近傍では、鋼床版トラフリブ9の活荷重応力を大きく低減することができ、橋梁に作用する二次応力の低減を図ることができる。
【0050】
かくして、本発明の橋梁補強装置10によれば、既設鋼道路橋の桁全体の応力を抜本的に低減し、従来の補強工法では得られない橋梁全体の補強効果を達成するとともに、死荷重応力の低減のみならず、従来の補強工法では実現し得なかった活荷重応力の低減をも可能にし、従って、既設鋼道路橋の耐荷力向上及び耐久性向上を図ることができる。
【0051】
図10には、塔11の高さhの相違に伴う橋梁補強装置10の活荷重応力低減効果の変化が示されており、図11には、図10に示す第1モデル及び第2モデルに係る3径間連続鋼床版箱桁橋1の構成が概略的に示されている。
【0052】
図11(A)には、塔高hを支間長L/5に設定した第1モデルが示され、図11(B)には、塔高hを支間長L/10に設定した第2モデルが示されている。第2モデルは、第1モデルに比べ、塔高hが半減しているため、初期張力Fの鉛直成分F2(図4)が半減する。ケーブル構造補強においては、桁の応力低減をもたらす主要因の一つは、初期張力Fの鉛直成分F2であると考えられる。このため、本発明者は、第1モデルと同等の鉛直成分F2を確保すべく、第2モデルにおいて初期張力Fを約2倍に設定してFEM解析を実行した。
【0053】
図10には、第1モデル及び第2モデルのFEM解析結果が示されている。図10に示されるとおり、第1モデルと第2モデルの発生応力は概ね同一であり、両者の実質的な差は認められない。即ち、本発明の橋梁補強装置10においては、初期張力Fを増大することよって塔高hを低減することができる。これは、橋梁補強装置10の補強効果と、その経済性及び施工性とを両立させる設計を本発明に従って採用し得ることを意味する。
【0054】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0055】
例えば、上記実施例2〜4の橋梁補強構造では、ケーブルを塔頂サドル部で下方に転向しているが、各塔の頂部にケーブル係留装置を配設してケーブルを各塔頂部で分断し、各ケーブルの端部を各塔の塔頂部に係留しても良い。
【0056】
また、塔の断面(横断面)は、正方形、円形、楕円形、長方形、菱形等の任意の形態に設計することができる。
【0057】
更に、上記各実施例では、橋桁のサドル部を径間の中央部に配置しているが、径間の片側に偏在した位置にサドル部を配置し、或いは、複数のサドル部を径間に配設することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法は、既設鋼道路橋等の既設橋梁の耐荷力向上及び耐久性向上のために橋桁に沿ってケーブル構造を付設する外ケーブル工法に適用される。本発明は殊に、鋼床版箱桁橋の補強構造及び補強方法として有利に使用し得る構成を有する。本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法によれば、過剰な軸力が橋桁に導入されるのを防止するとともに、活荷重によって橋桁に作用する応力を効果的に低減することができる。本発明の橋梁補強構造及び橋梁補強方法は又、橋梁全体の活荷重応力低減を達成し得る補強工法として、既設橋の架け替えに近い補強効果を発揮するであろうと考えられ、その実用的効果は顕著である。
【符号の説明】
【0059】
1 鋼床版箱桁橋
2 橋台
3 橋桁
4、7 ローラー支承
5 ピン支承
6 橋脚
9 鋼床版トラフリブ
10 橋梁補強装置
11 塔
12、15、17、18 サドル部
13 ケーブル
14 ケーブル係留装置
19 サポートビーム
F 初期張力
F1 水平成分
F2 鉛直成分
R1 水平反力
R2 鉛直反力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の橋長方向に張設されたケーブルと、橋桁に一体化し且つ前記ケーブルに接触して該ケーブルを転向する支点形成部材とを備え、前記ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強構造において、
前記ケーブルの張力を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく前記構造体又は地盤に立設した塔と、
前記ケーブルに作用する張力の水平成分を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく、前記塔の上部及び前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記塔に係留するケーブル係留手段とを有することを特徴とする橋梁補強構造。
【請求項2】
前記塔は、前記橋梁の橋台又は橋脚に立設されることを特徴とする請求項1に記載の橋梁補強構造。
【請求項3】
前記支点形成部材は、前記橋桁の下部に突設され、前記ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の橋梁補強構造。
【請求項4】
前記ケーブル係留手段は、前記ケーブルの端部を前記塔の上部に係留する係留具を有し、該係留具は、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔に係留することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の橋梁補強構造。
【請求項5】
前記塔は、前記ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、該橋梁用サドル又は支承部材は、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを下方に転向することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の橋梁補強構造。
【請求項6】
前記ケーブル係留手段は、前記塔に設けられた前記橋梁用サドル又は支承部材と、前記支点形成部材とによって上下方向に転向したケーブルを前記構造体又は地盤に係留する係留具を有することを特徴とする請求項5に記載の橋梁補強構造。
【請求項7】
橋梁の橋長方向にケーブルを張設し、橋桁に一体化した支点形成部材に前記ケーブルを接触させて該ケーブルを転向させ、該ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強方法において、
橋桁外の構造体又は地盤に立設した塔の上部と、前記支点形成部材とによって転向した前記ケーブルを橋桁外の構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材で転向した前記ケーブルを前記塔に係留し、これにより、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記構造体又は地盤の反力によって支持することを特徴とする橋梁補強方法。
【請求項8】
前記塔の高さを低減するために前記ケーブルの初期張力を付加することを特徴とする請求項7に記載の橋梁補強方法。
【請求項9】
前記塔を前記橋梁の橋台又は橋脚、或いは、地盤に立設し、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔の塔頂部に係留し、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記塔によって前記橋台、橋脚又は地盤に伝達して、該橋台、橋脚又は地盤の反力によって支持することを特徴とする請求項7又は8に記載の橋梁補強方法。
【請求項10】
前記塔を前記橋梁の橋台又は橋脚、或いは、地盤に立設し、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔の塔頂部で下方に転向するとともに、前記ケーブルを前記橋台、橋脚又は地盤に係留し、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記橋台、橋脚又は地盤に伝達して、該橋台、橋脚又は地盤の反力によって支持することを特徴とする請求項7又は8に記載の橋梁補強方法。
【請求項1】
橋梁の橋長方向に張設されたケーブルと、橋桁に一体化し且つ前記ケーブルに接触して該ケーブルを転向する支点形成部材とを備え、前記ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強構造において、
前記ケーブルの張力を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく前記構造体又は地盤に立設した塔と、
前記ケーブルに作用する張力の水平成分を橋桁外の構造体又は地盤に伝達すべく、前記塔の上部及び前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材において転向した前記ケーブルを前記塔に係留するケーブル係留手段とを有することを特徴とする橋梁補強構造。
【請求項2】
前記塔は、前記橋梁の橋台又は橋脚に立設されることを特徴とする請求項1に記載の橋梁補強構造。
【請求項3】
前記支点形成部材は、前記橋桁の下部に突設され、前記ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の橋梁補強構造。
【請求項4】
前記ケーブル係留手段は、前記ケーブルの端部を前記塔の上部に係留する係留具を有し、該係留具は、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔に係留することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の橋梁補強構造。
【請求項5】
前記塔は、前記ケーブルに摺接又は転接する橋梁用サドル又は支承部材を有し、該橋梁用サドル又は支承部材は、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを下方に転向することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の橋梁補強構造。
【請求項6】
前記ケーブル係留手段は、前記塔に設けられた前記橋梁用サドル又は支承部材と、前記支点形成部材とによって上下方向に転向したケーブルを前記構造体又は地盤に係留する係留具を有することを特徴とする請求項5に記載の橋梁補強構造。
【請求項7】
橋梁の橋長方向にケーブルを張設し、橋桁に一体化した支点形成部材に前記ケーブルを接触させて該ケーブルを転向させ、該ケーブルに作用する張力の鉛直成分によって前記支点形成部材に上向きの力を与えて前記橋桁の曲げ応力を低減する橋梁補強方法において、
橋桁外の構造体又は地盤に立設した塔の上部と、前記支点形成部材とによって転向した前記ケーブルを橋桁外の構造体又は地盤に係留し、或いは、前記支点形成部材で転向した前記ケーブルを前記塔に係留し、これにより、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記構造体又は地盤の反力によって支持することを特徴とする橋梁補強方法。
【請求項8】
前記塔の高さを低減するために前記ケーブルの初期張力を付加することを特徴とする請求項7に記載の橋梁補強方法。
【請求項9】
前記塔を前記橋梁の橋台又は橋脚、或いは、地盤に立設し、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔の塔頂部に係留し、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記塔によって前記橋台、橋脚又は地盤に伝達して、該橋台、橋脚又は地盤の反力によって支持することを特徴とする請求項7又は8に記載の橋梁補強方法。
【請求項10】
前記塔を前記橋梁の橋台又は橋脚、或いは、地盤に立設し、前記支点形成部材によって上方に転向した前記ケーブルを前記塔の塔頂部で下方に転向するとともに、前記ケーブルを前記橋台、橋脚又は地盤に係留し、前記ケーブルに作用する張力の水平成分を前記橋台、橋脚又は地盤に伝達して、該橋台、橋脚又は地盤の反力によって支持することを特徴とする請求項7又は8に記載の橋梁補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−32651(P2011−32651A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177238(P2009−177238)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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