説明

機械構造用鋼およびその製造方法

【課題】高強度かつ高靭性の機械構造用鋼を非調質かつ低合金の下に提供する。
【解決手段】C:0.35〜0.60質量%、Si:0.1〜1.0質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、P:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、Al:0.01〜0.10質量%およびO:0.0015質量%以下を含み、残部不可避不純物およびFeからなる成分組成を有し、加工フェライトを10〜50%含む、フェライトおよびパーライトの組織とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、機械構造部品等に好適な機械構造用鋼、とくに焼入れ焼戻しの調質処理を必要としない機械構造用鋼とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築機械、産業機械および船舶の分野において、高強度かつ高靭性を要求される部品には、S45Cに代表される機械構造用炭素鋼材や、これにCrやMoを含有した機械構造用低合金鋼の焼入れ焼戻し処理材が用いられてきた。ところが、近年の省コスト化或いは、CO2排出量削減の観点から、焼入れ焼戻し処理を省略可能な、非調質鋼の開発が積極的に進められてきた。
【0003】
代表的な非調質鋼としては、フェライト・パーライト型非調質鋼がある(例えば、非特許文献1参照)。これは、圧延後の冷却過程において、フェライト・パーライト変態とほぼ同時に析出する、V炭化物によりフェライトを強化して焼入れ焼戻し材並みの強度を得ているが、焼入れ焼戻し材に比べて靭性が低いという問題があった。
【0004】
そこで、フェライト・パーライト型非調質鋼材の勒性を改善する試みがなされた。例えば、靭性を改善する方法として、特許文献1には、オーステナイト再結晶域で圧延前の粗大なオーステナイト結晶粒に再結晶を起こさせる圧延(第1圧延)と、オーステナイト未再結晶域でオーステナイトに歪みを付与(第2圧延)し、その歪みによって結晶粒内での初析フェライトの発生を促して、微細なフェライト・パーライト組織を得ることによって低温靭性を改善することが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、下記のT1℃以下の温度域での粗圧延の減面率を25%以下とし、その後、下記のT2に従って(T2−200)〜T2℃の温度域で減面率25%以上の仕上げ圧延を施した後、650℃まで5℃/s以上の冷却速度で冷却することによって、靭性を改善している。

T1(℃)=−5440/(log[V][C]−3.314)−173
T2(℃)=910−203[C]+44.7[Si]−30[Mn]−20[Cu]−15.2[Ni]−11[Cr]
+31.5[Mo]+104[V]+400[Ti]+460[Al]+700[P]
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】特殊鋼42巻5号 第8〜14頁
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許32114731号公報
【特許文献2】特開2009−215576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、低温靭性は改善するものの、この靭性を改善するために実施する、圧延により強度が低下することから、所期した量以上のVを添加する必要があり、低合金化によるコスト削減を求める産業界の要求に必ずしも応えるものではなかった。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、圧延後に加速冷却を実施するため、ベイナイト組織などが生成し、鋼の強度が上昇し、却って靭性が低下する可能性があった。
【0010】
そこで、本発明は、高強度かつ高靭性の機械構造用鋼を非調質かつ低合金組成の下に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、前記課題を解決するため、C、Si、Mn、P、S、AlおよびOの添加量を変化させ、かつ加工フェライトの分率を変化させた鋼を製作し、強度および靭性について鋭意調査した。その結果、C、Si、Mn、P、S、AlおよびOの添加量の最適化、ならびに加工フェライトの分率を適正範囲に制御することにより、素材の強度並びに靭性が向上することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)C:0.35〜0.60質量%、
Si:0.1〜1.0質量%、
Mn:0.1〜1.5質量%、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Al:0.01〜0.10質量%および
O:0.0015質量%以下
を含み、残部不可避不純物およびFeからなる成分組成を有し、加工フェライトを10〜50%含む、フェライトおよびパーライトの組織からなることを特徴とする機械構造用鋼。
【0013】
(2)上記成分組成に、さらに
Cr:1.0質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Mo:1.0質量%以下、
W:1.0質量%以下および
Ni:1.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の機械構造用鋼。
【0014】
(3)上記成分組成に、さらに
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.2質量%以下および
V:0.15質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の機械構造用鋼。
【0015】
(4)上記成分組成に、さらに
B:0.0002〜0.005質量%
を含有することを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【0016】
(5)上記成分組成に、さらに
Pb:0.01〜0.40質量%、
Bi:0.01〜0.40質量%および
Ca:0.0005〜0.0100質量%
を含有することを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【0017】
(6)C:0.35〜0.60質量%、
Si:0.1〜1.0質量%、
Mn:0.1〜1.5質量%、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Al:0.01〜0.10質量%および
O:0.0015質量%以下
を含み、残部不可避不純物およびFeからなる素材を、900〜1250℃に加熱後、Ar点以下の温度での累積減面率が80%以下、かつAr点以下の温度域にて1パス当たりの減面率が10%以上の圧延を少なくとも1パスは行い、仕上温度を(Ar−10℃)〜(Ar−150℃)とする、熱間圧延を施し、その後、放冷することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【0018】
(7)上記素材に、さらに
Cr:1.0質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Mo:1.0質量%以下、
W:1.0質量%以下および
Ni:1.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(6)に記載の機械構造用鋼の製造方法。
【0019】
(8)上記素材に、さらに
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.2質量%以下および
V:0.15質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(6)または(7)に記載の機械構造用鋼の製造方法。
【0020】
(9)上記素材に、さらに
B:0.0002〜0.005質量%
を含有することを特徴とする前記(6)から(8)のいずれかに記載の機械構造用鋼の製造方法。
【0021】
(10)上記素材に、さらに
Pb:0.01〜0.40質量%、
Bi:0.01〜0.40質量%および
Ca:0.0005〜0.0100質量%
を含有することを特徴とする前記(6)から(9)のいずれかに記載の機械構造用鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼材の合金成分を高めることなく、高い強度及び靭性を有する非調質の機械構造用鋼を安定して製造することが可能となる。更には、焼入れ焼戻し処理が省略可能となり、CO排出量削減にも寄与するため、産業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】加工フェライト分率と降伏強さとの関係を示す図である。
【図2】加工フェライト分率と引張強さとの関係を示す図である。
【図3】加工フェライト分率と衝撃値との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の機械構造用鋼について、まず、成分組成における各成分の限定理由から説明する。
C:0.35〜0.60質量%
Cは、必要な強度を確保するために必須の元素であり、0.35質量%未満では鋼の強度が低下するため0.35質量%以上で添加する。一方、0.60質量%を超えると、鋼の靭性の低下を招く。以上のことから、C量は0.35〜0.60質量%とする。
【0025】
Si:0.1〜1.0質量%
Siは、製鋼プロセスにおいて、脱酸剤および強度を調整するのに有効な元素である。これらの効果を得るには、0.1質量%以上が必要であり、一方1.0質量%を超えると靭性が損なわれるため、0.1〜1.0質量%の範囲とする。
【0026】
Mn:0.1〜1.5質量%
Mnは、強度を調整するために重要な元素であるが、その効果を得るためには0.1質量%以上が必要であり、一方1.5質量%を超えると靭性が損われるため、0.1〜1.5質量%の範囲とする。
【0027】
P、S:0.025質量%以下
PおよびSは、靭性を劣化させる元素であり、極力低減することが好ましいが、それぞれ0.025質量%までは許容される。
【0028】
Al:0.01〜0.10質量%
Alは、脱酸剤として添加する元素であり、0.01質量%未満ではその効果に乏しく、一方0.10質量%を超えて添加すると、靭性に悪影響を及ぼすため、Alは0.01〜0.10質量%の範囲とする。
【0029】
O:0.0015質量%以下
Oは、SiやAlと結合し、硬質な酸化物系非金属介在物を形成して、靭性の低下を招くため、可能な限り低い方が良い。本発明では、O含有量は0.0015質量%以下とする。
【0030】
本発明では、さらに、次の元素の1種または2種以上を添加することが可能である。
Cr:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、W:1.0質量%以下およびNi:1.0質量%以下
Cr、Cu、Mo、W及びNiは、固溶強化元素として強度調整に有効な元素である。そのため、必要に応じて、上記5種のいずれか1種または2種以上を、好ましくはそれぞれ0.05質量%以上で添加することが可能である。一方、いずれの元素も、1.0質量%を超えると靭性が低下するため、1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
同様に、次の元素の1種または2種以上を、さらに添加することが可能である。
Nb:0.1質量%以下、Ti:0.2質量%以下およびV:0.15質量%以下
Nbは、炭窒化物を形成することによって結晶粒の粗大化を防止する効果を有するとともに、Cと析出物を形成し、強度を得るために有用な元素であるが、0.1質量%を超えて添加すると靭性が低下するため、0.1質量%以下とした。
【0032】
Tiは、鋼中のNをTiNとして固定し、結晶粒の粗大化を防止する効果を有するとともに、Nbと同様にCと析出物を形成するため、強度を得るのに有用な元素であるが、0.2質量%を超えて添加すると靭性が低下するため、0.2質量%以下とした。
【0033】
Vは、NbやTiと同様にCと析出物を形成して強度の向上に寄与する元素である。0.15質量%を超えて添加しても効果が飽和する。また、析出物が増加するため、靭性が却って低下するため、0.15質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
さらにまた、以下の元素を添加することが可能である。
B:0.0002〜0.005質量%
Bは、焼入れ性の増大により焼戻し後の鋼の強度を高める元素であり、必要に応じて含有することができる。上記効果を得るためには、0.0002質量%以上にて添加することが好ましい。しかし、0.005質量%を超えて添加すると、靭性が劣化する。よって、Bは0.0002〜0.005質量%とすることが好ましい。
【0035】
また、本発明では、被削性を向上させるために、以下の元素を添加することが可能である。
Pb:0.01〜0.40質量%
Pbは、被削性を向上させる元素であり、その効果を得るためには、0.01質量%以上で添加することが好ましい。一方、0.40質量%を超えて添加すると、靭性を低下させるため、0.010〜0.40質量%とすることが好ましい。
【0036】
Bi:0.01〜0.40質量%
Biは、被削性を向上させる元素である。その効果を得るためには、0.01質量%以上で添加することが好ましい。一方、0.40質量%を超えて添加すると、靭性を著しく低下させるため、0.01〜0.40質量%とすることが好ましい。
【0037】
Ca:0.0005〜0.0100質量%
Caは、被削性を向上させる元素である。その効果を得るためには、0.0005質量%以上で添加することが好ましい。一方、0.0100質量%を超えて添加しても効果が飽和するため、0.0005〜0.0100質量%とすることが好ましい。
【0038】
次に、本発明の機械構造用鋼の組織について説明する。
さて、直径100mmφ以上のような大径棒鋼に代表される、機械構造用鋼に、基地組織として、フェライトおよびパーライト以外の、マルテンサイト、ベイナイトあるいはそれらの混合組織などの低温変態組織を適用すると、例えば棒鋼の断面内組織を均一にすることが困難となる上、冷却中に発生する熱応力と変態に伴い発生する、変態応力の影響にて、内部割れが発生しやすくなる。このようなことから、本発明では、基地組織を、低温変態組織ではなく、フェライトおよびパーライト組織とした。
【0039】
このフェライトおよびパーライト組織において高強度化を実現する手段としては、第2相のパーライト分率を増やす方法、フェライト組織を一層細粒化する方法、フェライトを固溶強化や析出強化して硬くする方法、あるいは(オーステナイト+フェライト)2相域で圧延してフェライトの一部を高転位密度化する方法、等が考えられる。
【0040】
上記の諸方法のうち、フェライトを細粒化する方法は、降伏応力(以降、YPと示す)を上昇させるには有利であるが、引張強さ(以降、TSと示す)の上昇は小さいため、この手法のみでは十分な高強度化は図れない。また、パーライト分率を増加する方法は、Cを多量に添加する必要があるが、Cの過度な添加は上述したように、靭性の低下を招くため好ましくない。固溶強化元素や析出強化元素を添加してフェライトを強化する方法は、合金元素の多量添加が必要となり、合金コストの上昇や、靭性の低下を招いたりする。
【0041】
一方、加工フェライトの活用は、Cや合金元素の添加を最小限に抑制し、YPおよびTSを上昇させることができる。すなわち、加工フェライトを利用する方法は、熱間圧延後、制御冷却(加速冷却)することなく高強度化を図ることができるため、冷却中に発生する熱応力と変態に伴い発生する変態応力との影響による、内部割れの発生を抑えながら、高強度化することが可能である。
【0042】
そこで、本発明においては、機械構造用鋼の高強度化手段として、鋼のミクロ組織が、加工フェライトを面積率で10〜50%含むフェライトおよびパーライトの組織とする方法を採用することにしたのである。ここで、加工フェライトの分率を、面積率にして鋼組織全体の10〜50%の範囲としたのは、次の理由によるものである。
すなわち、加工フェライトの分率が10%未満では、鋼の強化が十分に得られず、一方、50%を超えると、強度は上昇するものの靭性が低下すると共に、(オーステナイト+フェライト)の2相域圧延時の荷重増大に伴うロール割損リスクが増加するからである。
なお、上記加工フェライトは、Ar変態点以下の(オーステナイト+フェライト)2相域での熱間圧延によって形成された、加工歪が導入されたフェライトのことであり、通常、フェライトをトレースし、短軸および長軸の長さを求めて、短軸に対する長軸の比(アスペクト比)が2以上のフェライトを加工フェライトと定義し、これがミクロ組織中に占める面積を定量化すれば、その分率を測定することができる。
【0043】
次に、本発明の鋼を得るための製造条件について説明する。
本発明の機械構造用鋼の製造に当たっては、先ず、上記した成分組成を有する鋼を転炉や電気炉等による、通常の方法にて溶製し、連続鋳造法や造塊法等の通常の方法にてスラブ、ビレットまたはブルーム等の鋼素材とする。なお、溶製後、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加しても良い。
【0044】
その後、上記鋼素材を、加熱炉に装入して再加熱後、熱間圧延して所望の寸法、組織及び特性を有する、例えば非調質棒鋼とする。この際、鋼素材の再加熱温度は、900〜1250℃の範囲とする必要がある。加熱温度が900℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きくなるため、熱間圧延が難しくなる。一方、1250℃を超える加熱は、表面痕の発生原因となったり、スケールロスや燃料原単位が増加したりする。好ましくは、900〜1200℃の範囲である。
【0045】
続く熱間圧延は、まず、Ar点以下の温度で圧延を行う必要がある。この温度で圧延を行わないと、鋼のミクロ組織が加工フェライトを含まないものとなり、必要な強度および靭性を確保することができない。Ar点以下の温度での圧延は、1パス当たり10%以上の減面率を有する圧延を少なくとも1パス行う必要がある。なぜなら、この減面率が10%未満の場合、加工フェライトの生成量が少なくなるため、2相域圧延による強度や靭性を高める効果が十分に得られないからである。
Ar点以下の温度での累積減面率が80%を超えると、圧延荷重が増大して圧延が困難となったり、圧延のパス回数が増えて生産性の低下を招いたりする。さらに、加工フェライト量が50%を超えるようになり、鋼の強度が上昇し過ぎて、却って靭性の低下を招く。よって、Ar点以下での累積減面率は80%以下とする。
【0046】
さらに、上記熱間圧延における、仕上温度を(Ar−10℃)〜(Ar−180℃)の条件にて行う必要がある。圧延仕上温度が、(Ar−10℃)超えでは、2相域圧延による靭性を高める効果が十分に得られず、一方、(Ar−180℃)未満では、変形抵抗の増大により圧延荷重が増加し、圧延することが困難となり、さらに、加工フェライト量が50%を超えるようになり、鋼の強度が上昇し過ぎて、靭性の低下を招く。
【0047】
上記熱間圧延に続く冷却は、放冷することが好ましい。なぜなら、熱間圧延後に加速冷却を行うと、組織がフェライト+パーライト以外の、マルテンサイト、べイナイトあるいはそれらの混合組織などの低温変態組織となり、断面内の組織を均一な組織とすることが困難となる上、冷却中に発生する熱応力と変態に伴い発生する変態応力の影響にて、内部割れが発生しやすくなる。そのために、熱間圧延に続く冷却は、放冷することが好ましい。具体的には、0.5℃/s以下で冷却するとよい。
【実施例1】
【0048】
以下に、機械構造用鋼として棒鋼を例に、具体的に説明する。
表1に示す成分組成を有する鋼を、真空溶解炉または転炉で溶製してブルームとし、このブルームを加熱炉に装入して加熱後、表2に示した条件に従う熱間圧延にて丸棒に熱間圧延した。得られた圧延ままの棒鋼の表面から直径の1/4深さ部分より、JIS4号引張試験片およびJIS3号シャルピー衝撃試験片を切り出し、機械的特性を評価した。
【0049】
なお、シャルビー衝撃試験は、試験温度20℃で3本実施し、平均衝撃値で評価した。また、上述した試験片の採取位置と同じ位置から組織観察用の試料を採取し、光学顕微鏡にて倍率400倍で5視野観察し、生成したフェライトのトレースを行い、NIPPON ROPER製「Image−Pro」(商品名)を使用して、該フェライトの短軸および長軸の長さを求め、アスペクト比が2以上のフェライト(加工フェライト)のミクロ組織中に占める面積を定量化し、加工フェライトの分率を求めた。
【0050】
圧延温度は、ミルの入側および出側に放射温度計を設置して測定した。また、表2の仕上圧延温度は、最終圧延時の出側の温度のことを言う。
降伏強さ、引張強さおよび靭性(衝撃値)は、従来のS45C(基準鋼)に比べて10%以上向上した場合に特性が向上したと判断した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表3に、加工フェライト分率、降伏強さ、引張強さ、衝撃値および組織の評価結果を示す。また、表3の結果を、図1〜図3に整理して示す。本発明の成分組成、組織および製造条件を満たす、鋼B−4〜8の鋼は、降伏強さ、引張強さ並びに衝撃値が基準鋼に比べて10%以上良好な値を示しており、高強度でありながら高靭性を有していることがわかる。これに対して、成分組成が本発明範囲内であっても、本発明の組織形態を有していない鋼B−2、3、9および10は、降伏強さ、引張強さ並びに衝撃値が基準鋼レベル、または高強度化により靭性が低下していることが分かる。
【0054】
【表3】

【実施例2】
【0055】
表4に示す成分組成を有する鋼を、真空溶解炉または転炉で溶製してブルームとし、このブルームを加熱炉に装入して加熱後、表5に示した条件で熱間圧延を行い、丸棒に熱間圧延した。得られた圧延ままの棒鋼に対して、上述した試験を実施し評価した。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
表6に、加工フェライト分率、降伏強さ、引張強さ、衝撃値および組織の評価結果を示す。本発明の成分組成、組織および製造条件を満たす、鋼C−1〜11は、降伏強さ、引張強さ並びに衝撃値が、基準鋼に比べて10%以上良好な値を示しており、高強度でありながら高靭性を有していることが分かる。これに対して、成分組成が本発明範囲内であっても、本発明の組織形態を有していない鋼C−12〜16、製造条件が本発明の範囲外であって本発明の組織形態を有していない鋼C−17〜19の鋼は、降伏強さ、引張強さ並びに衝撃値のいずれかが基準鋼レベル、または高強度化により靭性が低下していることが分かる。
【0059】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.35〜0.60質量%、
Si:0.1〜1.0質量%、
Mn:0.1〜1.5質量%、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Al:0.01〜0.10質量%および
O:0.0015質量%以下
を含み、残部不可避不純物およびFeからなる成分組成を有し、加工フェライトを10〜50%含む、フェライトおよびパーライトの組織からなることを特徴とする機械構造用鋼。
【請求項2】
上記成分組成に、さらに
Cr:1.0質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Mo:1.0質量%以下、
W:1.0質量%以下および
Ni:1.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
【請求項3】
上記成分組成に、さらに
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.2質量%以下および
V:0.15質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
【請求項4】
上記成分組成に、さらに
B:0.0002〜0.005質量%
を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【請求項5】
上記成分組成に、さらに
Pb:0.01〜0.40質量%、
Bi:0.01〜0.40質量%および
Ca:0.0005〜0.0100質量%
を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【請求項6】
C:0.35〜0.60質量%、
Si:0.1〜1.0質量%、
Mn:0.1〜1.5質量%、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Al:0.01〜0.10質量%および
O:0.0015質量%以下
を含み、残部不可避不純物およびFeからなる素材を、900〜1250℃に加熱後、Ar点以下の温度での累積減面率が80%以下、かつAr点以下の温度域にて1パス当たりの減面率が10%以上の圧延を少なくとも1パスは行い、仕上温度を(Ar−10℃)〜(Ar−150℃)とする、熱間圧延を施し、その後、放冷することを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
【請求項7】
上記素材に、さらに
Cr:1.0質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Mo:1.0質量%以下、
W:1.0質量%以下および
Ni:1.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6に記載の機械構造用鋼の製造方法。
【請求項8】
上記素材に、さらに
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.2質量%以下および
V:0.15質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の機械構造用鋼の製造方法。
【請求項9】
上記素材に、さらに
B:0.0002〜0.005質量%
を含有することを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の機械構造用鋼の製造方法。
【請求項10】
上記素材に、さらに
Pb:0.01〜0.40質量%、
Bi:0.01〜0.40質量%および
Ca:0.0005〜0.0100質量%
を含有することを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の機械構造用鋼の製造方法。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246769(P2011−246769A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121747(P2010−121747)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】