説明

機械設備の異常診断システム

【課題】異常信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常信号と誤検出することなく高精度に異常診断を実施できる異常診断システムを提供すること。
【解決手段】検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部3と、エンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部4と、周波数スペクトルを移動平均化することにより平滑化し更にそのスペクトルを平滑化微分して微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出し、所定の閾値以上のものを抽出し、それらをソーティングしてそのうち上位のものをピークとして検出するピーク検出部5と、検出されたピークに基づいて異常を診断する診断部Tとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、航空機械、風力発電装置、工作機械、自動車、製鉄機械、製紙機械、回転機械、等といった、軸受を含む機械設備の異常診断技術に関し、より詳細には、機械設備から発生する音または振動を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する機械設備の異常診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の異常診断技術として、機械設備の摺動部材または摺動部材関連部材からの音または振動を表す信号を検出し、検出した信号またはそのエンベロープ信号の周波数スペクトルを求め、その周波数スペクトルから、機械設備の摺動部材または機械設備の摺動部材関連部材の異常に起因する周波数成分のみを抽出し、抽出した周波数成分の大きさにより、機械設備に使用されている摺動部材における異常の有無を診断するものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、回転体または回転体関連部材から発生する音または振動を検出し、検出した信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出し、更に取り出した信号のエンベロープ(包絡線)を求め、求めたエンベロープを周波数解析し、周波数解析により回転体または回転体関連部材の異常に起因する周波数の基本周波数成分の大きさと、その自然数倍の周波数成分の大きさとを求め、求めた基本周波数成分の大きさと、その自然数倍の周波数成分の大きさとを比較し、少なくともその比較結果を、機械設備の異常を判断する基準として用いるようにしたものも知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、機械設備から発生した音または振動のアナログ信号をA/D(アナログ・デジタル)変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析およびエンベロープ分析等の適宜解析処理を行なって実測周波数スペクトルデータを生成し、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、機械設備に対する異常の有無の診断を行なうものも知られている(特許文献3参照)。
【0005】
また、振動加速度のエンベロープ波形をデジタル信号に変換し、デジタル化した振動データの時間毎の振動スペクトル分布を求めると共に、振動測定時の転がり軸受の回転速度を時々刻々求めて、回転速度の時間変化パターンと振動スペクトル分布におけるピークスペクトルの周波数の時間変化パターンが一致し、さらに、任意の時刻におけるピークスペクトルの周波数が、転がり軸受の回転数と転がり軸受の幾何学的寸法とから求まる転がり軸受損傷の特徴周波数と一致する場合に、転がり軸受の特定部位に損傷が発生したと判定するものも知られている(特許文献4参照)。
【0006】
これらの特許文献には異常を示す周波数のピークを検出する方法について明記されてないが、軸受の剥離寿命や機械の回転軸偏心等の異常が発生した場合、これらの異常を示す信号(異常信号)の周波数のピークは、周波数スペクトルの積算平均によって容易に求めることができる。積算平均は、ランダムノイズの除去に有効であるとして高速フーリエ変換(FFT)解析等といった周波数分析の分野でよく使用される手法である。
【特許文献1】特開2003−202276号公報
【特許文献2】特開2003−232674号公報
【特許文献3】特開2003−130763号公報
【特許文献4】特開平09−113416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、振動センサや音響センサには、外部からの衝撃音や摩擦音、移動体の場合には旋回による加速度が作用するため、これら非定常的な外乱に起因して異常が誤検出されることが多い。このため、積算平均による周波数のピーク検出方法は、積算回数を多くとると速度の変化や外部からの衝撃音等の影響を受けやすくなるので有効でない場合もある。
【0008】
また、寿命に至る前の小さな傷、剥離、錆、等による異常の場合、振動センサや音響センサからの信号のパワーは、機械的ノイズや電気的ノイズに埋もれやすいほど小さいことが多い。このため、寿命以前の異常予知段階においては、閾値を設けてその値よりもパワーの大きい信号のみ抽出する方法は使えない場合が多い。異常の予知を行なう上で、最も厄介な問題は、このように異常信号あるいは異常の予兆を示す信号(異常予兆信号)と雑音信号とのS/N比が小さい場合に、雑音信号を異常信号または異常予兆信号と誤判定してしまうことである。極小さな異常信号や異常予兆信号も見逃さないようにすることは、軸受等の異常予知の正確性を高める上で有利であるが、その結果雑音信号を異常信号や異常予兆信号と誤判定してしまうと、機械設備を頻繁に運転停止させて点検することになるため、運転コストの増大を招く。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる、機械設備の異常診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る機械設備の異常診断システムは、下記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)および(6)を特徴としている。
(1) 機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルを移動平均化処理することにより平滑化してそのピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたこと。
(2) 上記(1)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記FFT部により得られた周波数スペクトルに対して平滑化微分処理を実施し、得られた微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する平滑化微分ピーク抽出部を備えていること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の異常診断システムにおいて、前記移動平均化処理における重み係数が左右対称(現時点を基準にして前後対象)であること。
(4) 上記(2)または(3)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記平滑化微分ピーク抽出部により抽出されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別する第1の選別部を備えていること。
(5) 上記(4)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記第1の選別部により選別されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別する第2の選別部を備えていること。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか構成の異常診断システムにおいて、前記診断部が、前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断すること。
【0011】
上記(1)の構成の異常診断システムによれば、機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号のエンベロープを求め、そのエンベロープを周波数スペクトルに変換し、得られた周波数スペクトルを移動平均化することにより平滑化した上でそのピークを検出し、検出されたピークに基づいて異常を診断するので、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。
上記(2)の構成の異常診断システムによれば、周波数スペクトルに対して平滑化微分処理(即ち、同じ点を中心にして複数の区間の差分と区間長の積和)を行ない、その微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出するので、雑音に埋もれた周波数スペクトルのピーク検出を高精度に行なうことができる。
上記(3)の構成の異常診断システムによれば、移動平均化処理における重み係数が左右対称であるので、雑音信号を誤って異常信号や異常予兆信号として検出してしまうのを防止できる。
上記(4)の構成の異常診断システムによれば、抽出されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別するので、ピーク雑音に埋もれた周波数スペクトルのピーク検出をより高精度に行なうことができる。
上記(5)の構成の異常診断システムによれば、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別するので、異常診断を行なう上で有効なピークに絞り込んで異常診断を高精度に且つ効率良く行なうことができる。
上記(6)の構成の異常診断システムによれば、検出された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断するので、異常診断を高精度に実施できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、転がり軸受を含む機械設備を対象とし、機械設備内の転がり軸受の傷といった異常の有無を判断する場合を例にとし説明する。
【0014】
図1は本発明の異常診断システムの形態例を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の異常診断システムは、アンプ・フィルタ(フィルタ処理部)1、A/D変換器2、エンベロープ処理部3、FFT部4、ピーク検出部5、診断部6、および診断結果出力部7を備えている。
【0016】
アンプ・フィルタ1には、診断対象の機械設備から発生する音または振動を検出するセンサ(振動センサ、音響センサ、等)により検出された信号が入力される。アンプ・フィルタ1は、入力された信号を所定のゲインで増幅するとともに、所定周波数以上の信号を遮断する。
【0017】
A/D変換器2は、アンプ・フィルタ1を通過したアナログ信号を、所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタル信号に変換する。
【0018】
エンベロープ処理部3は、A/D変換器2により生成されたデジタル信号のエンベロープ(包絡線波形)を求める。
【0019】
FFT部4は、エンベロープ処理部3により求められたエンベロープを周波数解析し、周波数スペクトルに変換する。
【0020】
ピーク検出部5は、FFT部4により得られた周波数スペクトルのピークを検出する。
【0021】
診断部6は、転がり軸受に設けられた図示しない回転センサにより検出された回転速度と軸受の内部諸元とで決まる特徴周波数と、ピーク検出部5により得られたピークとを比較し、その一致度を評価することにより異常を診断する。
【0022】
診断結果出力部7は、診断部6による診断結果を出力する。
【0023】
ピーク検出部5は、移動平均化処理部5aと、平滑化微分ピーク抽出部5bと、第1選別部5cと、第2選別部5dとを備えている。
【0024】
移動平均化処理部5aは、FFT部4により得られた周波数スペクトル(周波数領域の離散データ)を左右対称に重み付けして移動平均化する。たとえば、5点の移動平均では、FFT部4により得られた周波数スペクトルに対し、次式の演算を施すことにより、
【数1】

一般には、次式(1)の演算を施すことにより、
【数2】

周波数スペクトルを平滑化して雑音の軽減を行なう。
【0025】
平滑化微分ピーク抽出部5bは、移動平均化処理部5aによる移動平均化処理後、移動平均されたスペクトルをさらに平滑して微分値を得て、微分係数の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する。
【0026】
すなわち、平滑化微分ピーク抽出部5bは、次式(2)の値(平滑化微分係数yj)が正から負へ変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークの候補とみなす。
【数3】

【0027】
この式(2)からわかるように、隣接するデータよりも離れた点同士の傾きの方が重みが大きいと見ることができる。ピーク検出部5は、FFT部4により得られた周波数スペクトルに対して、式(2)からわかるようにj点を中心にして複数の区間の差分とその区間長の積和を行なう平滑化微分処理を実施し、得られた微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する平滑化微分ピーク抽出部5bを備えていることになる。
【0028】
したがって、式(2)によれば、式(1)を用いずとも雑音に埋もれたピークの検出が可能であるが、式(1)と併用してもよい。
【0029】
第1選別部5cは、平滑化微分ピーク抽出部5bにより抽出されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別する。閾値には、平滑化微分ピーク抽出部5bにより抽出されたピークのパワー平均値や二乗平均平方根に応じて決まる相対的な値を用いる。絶対的な閾値は、相対雑音レベルが低い場合には有効であるが、雑音レベルが大きい場合には必ずしも有効とは言えない。
【0030】
第2選別部5dは、第1選別部5cで選別されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別する。その最も簡単な方法として、たとえば公知のソーティングアルゴリズムを用いて複数のピークをレベルに関して降順あるいは昇順ソートした後、上位のもの、即ち、値の大きなものから順に選別する方法をあげることができる。
【0031】
図2に周波数スペクトル波形の例を示す。この例は、傷ありと診断されたスペクトルとその移動平均処理結果を示している。ここでの移動平均は、次式に示すような7点の移動平均である。
【数4】

【0032】
重み係数wは、上記の値に限らないが、j=0に関して対称でj=0の点の重みを一番大きくするという条件は外さないことが望ましい。
【0033】
図2の例では、比較的S/N比が良好であるので、軸受外輪の傷による基本波成分f1と高調波成分f2、f3、f4は、移動平均処理の前後において際だって見えるが、移動平均処理後では雑音による偽のピークが極めて少なくなったのがわかる。
【0034】
図2のように移動平均処理されたスペクトルを移動平均化処理部5aで平滑化微分し、平滑化微分ピーク抽出部5bで微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出した後、第1選別部5cで閾値以上のものを抽出し、それらを第2選別部5dでソーティングしてそのうちの上位5個までをピークとして抽出することにより、ピーク周波数f1、f2、f3、f4が求められる。その際の平滑化微分係数yiは、離散化周波数スペクトルをxiとすると、次式で表される。
【数5】

【0035】
通常の数値微分と異なり、この式では平滑化の効果を持たせるために、より離れたポイント同士の差分により大きな重み付けをしているので、整数演算だけで微分演算が可能であるし、割り算も必要ない。したがって、浮動小数点演算ユニット(FPU)や除算命令を持たないマイクロコンピュータでも無理なく演算することができる。
【0036】
上記のようにして第2選別部5dにより得られた周波数スペクトル(エンベロープ周波数分布)のピークのデータが、診断部6に入力される。
【0037】
診断部6は、入力された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数とを比較し、その一致度を求める。そして、求めた一致度に点数を付けて累計することで、信頼性の高い診断を行なう。たとえば、主成分、2次、4次の3成分と異常を示す周波数との比較を行ない、主成分とその他の成分とが検出されれば、傷が発生している可能性があると判断して、予め設定された点数テーブル内の該当するポイント数を加算する。点数テーブルの例を下記の表1に示す。図2の例では、主成分、2次、4次の3成分とも検出されているので、4点が加算されることになる。
【0038】
【表1】

【0039】
図3に示す周波数スペクトル波形の例では、外部衝撃によるノイズを受けながらも軸受外輪の傷による周波数のピークが抽出されている。図2の場合と同様に、平滑化微分を行なってピーク検出を行なった後、閾値以上のものをソーティングして上位5個までをピークとして抽出した結果、主成分と2次成分とが検出されている。この場合の加算ポイント数は2点である。
【0040】
図4に示す周波数スペクトル波形の例では、外部衝撃によるノイズが大き過ぎたため、ピークが検出されていない。この場合の加算ポイント数は0点である。
【0041】
図5は衝撃性のノイズが入ったときの振動波形の例を示している。このように振幅が大きく且つ突発的な衝撃性のノイズが入った振動波形のエンベロープの周波数分析結果は、DC(直流)成分に近い低周波側が大きくなってしまい、図4の例のように微小傷による振動のピークが隠れてしまう。このような場合には無理に傷による信号成分を検出するための処理を行なう必要はない。
【0042】
この異常診断システムは、図6に示すように、上述の振動信号検出から異常ポイント数判定までの一連の処理を所定回数N(たとえば30回)繰り返して上記ポイント数を累計し、その累計ポイント数によって異常診断を行なう。図6において、nは現在の回数、PAは1回のスペクトル測定における診断ポイントを、PACCはPAの累積値をそれぞれ示している
【0043】
図2、図3および図4に例示した周波数スペクトル波形を各々1回サンプリングして異常診断するのに要する時間は1秒程度である。したがって、診断結果を得るために許容される時間が40〜60秒程度あれば、約40〜60回の診断を繰り返して上記ポイント数を累計し、その累計ポイント数によって異常診断を行なうことが可能である。ただ1回のみのサンプリングによる異常診断では、図2〜図4のようにどのようなスペクトルが得られるか不明であるが、周波数ピーク検出を繰り返してその都度、診断ポイント数を加算していき、ポイント数の累計値を評価することにより、スペクトルのばらつきの影響を軽減して異常診断を高精度に行なうことができる。
【0044】
図7は、傷のない正常な軸受の診断スペクトルであり、ピーク検出を行なった結果、傷による振動の周波数成分が検出されなかった実測結果を示している。移動平均化された周波数分析結果に一見何か特徴がありそうに見えるが、閾値およびソーティングによる選別処理の結果、軸受異常による周波数成分とは無関係であったため、表1の異常診断ポイントは加算されない。
【0045】
図8は、軸受の微小傷品と正常品の異常診断を40回繰り返しその診断ポイントの累計数を棒グラフにして示したものである。微小傷品と正常品とでは累計ポイント数に大きな開きがあるため、累計ポイントを40回分程度累計することにより、軸受の異常診断を正確に行なえることがわかる。また、微小な傷であるにもかかわらず正常品との間に大きな差が生じることから、図8に示すように閾値の範囲を大きく取れるため、この範囲をグレーゾーンとして段階的な警報を発するようにすることも可能である。
【0046】
以上説明したように、この形態例の異常診断システムでは、機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号のエンベロープを求め、そのエンベロープを周波数スペクトルに変換し、得られた周波数スペクトルを移動平均化処理し、更にそのスペクトルを平滑化微分して、微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出した後、所定の閾値以上のものを抽出し、それらをソーティングしてそのうちの上位所定数個をピークとして抽出し、それらのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度に点数を付けて複数回分累計し、その累計値を評価することにより異常を診断するので、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、極めて高精度に且つ高効率に異常診断を実施できる。
【0047】
なお、本発明は上記形態例に限定されない。たとえば、図1中に破線ブロックで示すように、A/D変換器2とエンベロープ処理部3との間にデジタルフィルタ(LPF・HPF)8を設け、高域の雑音成分を除くとともにDCオフセットを除くことが望ましい。また、FFT部4の前にデシメーション部9を設け、必要な周波数に応じて間引き処理(デシメーション)を行なうようにしてもよい。エンベロープ処理の後で信号の間引き処理を行なって、エンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくすることにより、検出された信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の異常診断システムの形態例を示すブロック図である。
【図2】周波数スペクトルとその移動平均処理結果を例示する波形図である。
【図3】周波数スペクトルとその移動平均処理結果を例示する波形図である。
【図4】周波数スペクトルとその移動平均処理結果を例示する波形図である。
【図5】衝撃性のノイズが入ったときの振動波形の例を示している。
【図6】図1に示す異常診断システムの異常診断動作例を示す流れ図である。
【図7】周波数スペクトルとその移動平均処理結果を例示する波形図である。
【図8】軸受の微小傷品と正常品の異常診断結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 アンプ・フィルタ
2 A/D変換器
3 エンベロープ処理部
4 FFT部
5 ピーク検出部
6 診断部
7 診断結果出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルを移動平均化処理することにより平滑化してそのピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断システム。
【請求項2】
前記ピーク検出部は、前記FFT部により得られた周波数スペクトルに対して平滑化微分処理を実施し、得られた微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する平滑化微分ピーク抽出部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の機械設備の異常診断システム。
【請求項3】
前記移動平均化処理における重み係数が左右対称であることを特徴とする請求項1または2に記載の機械設備の異常診断システム。
【請求項4】
前記ピーク検出部は、前記平滑化微分ピーク抽出部により抽出されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別する第1の選別部を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の機械設備の異常診断システム。
【請求項5】
前記ピーク検出部は、前記第1の選別部により選別されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別する第2の選別部を備えていることを特徴とする請求項4に記載の機械設備の異常診断システム。
【請求項6】
前記診断部は、前記ピーク検出部によって検出されたピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の機械設備の異常診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−113002(P2006−113002A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302804(P2004−302804)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】