説明

機能性シート

【課題】可視光に対して透明でありながら、赤外線カメラによって確実に認識される、微細なドットパターンを有する機能性シートを提供する。
【解決手段】主表面を有するシート状の基材と、該主表面上に、400〜800nmの可視域において実質的に透明であり800〜950nmの近赤外域において該可視域より高い吸収特性を示す赤外線吸収剤を含むインキで形成されたドット状の位置符号化パターンを有する機能性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性シートに関し、特にドットパターンが形成された機能性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の外観やセキュリティ性を向上させるために、赤外域に吸収を示す透明インキを用いて、バーコードなどの記録情報を可視光に対して透明化することは、従来から知られている。特許文献1及び2には、イッテルビウム系の赤外線吸収剤を用いた透明インキの例が記載されている。
【0003】
しかしながら、この種のインキは従来から近赤外域(800〜950nm)における吸収率が不十分であり、印刷するパターンが微細であると、赤外線カメラで読み取ることが困難になるという問題がある。
【0004】
微細な印刷パターンの例としては、入力位置情報を符号化するために用いられる位置符号化パターン、例えば、アノト機能対応シートの表面に形成された特殊なドットパターンが挙げられる。アノト機能はアノトグループ(本社スウェーデン)が開発した、手書き文字や絵を瞬時にデジタル化する新しいユーザーインターフェースである。光学カメラを有するボールペン(アノトペン)を使ってアノト機能対応シート上に文字、図形、絵を描写すると、描写された文字等は同時にデジタル化される。なお、「アノト」は、アノト・アクティエボラーク社の登録商標である。
【0005】
特許文献3にはアノトドットパターンの構成及びその利用方法が記載されている。図3はアノトドットパターンの一例を示す平面図である。パターンを構成するドットは約0.3mmの間隔の格子からそれぞれ上下左右に所定量ずれている。ペンに内蔵されたカメラが読み取る範囲は6×6=36ドットである。この36個のドットの配置を一つのパターンとすると、隣接するドットを上下左右のいずれかにずらすことによって、6000万平方キロメートルにわたって、異なるパターンを構成することができる。
【0006】
それゆえ、シート状の基材表面に形成されたアノトドットパターンにおいて、36個のドットの配置が重複することは実質的になく、一つのパターンが印刷されたシートの位置を、絶対値として知ることができる。
【0007】
アノトペンが備えるカメラは赤外線カメラであり、アノトドットパターンは赤外光により読み取り可能でなければならない。そのため、従来、アノトドットパターンは通常黒色インキにより印刷されており、白い紙の表面に印刷した場合、その表面はグレーに見えてしまい、また黄色や緑の表面に印刷した場合でも、パターンの黒色が紙表面の彩度や明度を低下させ、基材主表面のデザイン性を著しく損なってしまっていた。
【特許文献1】特開平7−53946号公報
【特許文献2】特開平9−104857号公報
【特許文献3】特表2003−511761
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、赤外線カメラによって確実に認識されながら、人間の目には認識しにくいドット状の位置符号化パターンを有する機能性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主表面を有するシート状の基材と、
該主表面上に、400〜800nmの可視域において実質的に透明であり800〜950nmの近赤外域において該可視域より高い吸収特性を示す赤外線吸収剤を含むインキで形成されたドット状の位置符号化パターンを有する機能性シートを提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の機能性シートにおいては、位置符号化パターンを可視域に対して透明なインクや目立たない色のインクで形成することが可能であり、基材主表面のデザイン性を阻害しない。これにより、従来グレーに変色されていた機能性シートの表面を、基材本来の色に戻すことができ、使用者にパターン自体を意識させず、より自然な筆記作業を実現する。また、基材主表面のデザインに制約がなくなり、より幅広い形態の機能性シートを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
基材は、情報が記録される主表面を有する、シート状の材料である。かかる材料はアノト機能対応シートの基材として従来から使用されているもの等であればよい。基材の具体例としては、紙、樹脂フィルム、不織布、ガラス、及び樹脂板等が挙げられる。又、基材としての紙には、上質紙、中質紙、再生紙の他、コート紙やアート紙等の種々の紙が含まれる。
【0012】
ドット状の位置符号化パターンは、インキ組成物を用いて印刷することにより、基材の主表面の上に形成する。印刷は平版オフセット印刷法を用いて行うことが好ましい。平版オフセット印刷法は印刷効率がよいからである。例えば、アノト機能対応シートにする場合は、アノト社の指定するドットパターンを形成する必要があるが、各ドットは、80〜150μmの直径の円形であり、極めて微細なドットパターンを形成する必要がある。図1は本発明の機能性シートの主表面に形成したドット状の位置符号化パターンの一例を示す平面図である。
【0013】
インキ組成物は、可視光領域での吸収が少ないため目視では目立ちにくいものを使用する。そうすることにより、例えば、基材が白色の紙である場合、従来困難であった、「くすみ」、「暗さ」または「黒っぽさ」を感じさせない白色の機能性シートが提供される。また、例えば、ポリマーフィルムが無色透明である場合、従来困難であった、「曇り」を感じさせない無色透明の機能性シートが提供される。
【0014】
形成されたドットパターンが光学的に読み取り可能である条件として、パターンを形成するインキは近赤外域において十分な吸光度を持たなければならない。具体的には、白色上質紙の表面に0.0875mlのインキ盛りで展色した場合、近赤外域(800〜950nm)での反射率(Reflection%)が十分低くなければならず、具体的には、可視域における平均反射率の90%以下、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下である。なお、ここで「反射率(Reflection%)」とは、インキを展色した白色上質紙に光を入射させた場合の、入射光強度に対する反射光強度の比率を百分率で示すものである。インキが入射光を吸収する場合は、インキを透過し白色上質紙に達する光強度が減じ、さらに白色上質紙面での反射光が一部インキで吸収されるため、反射率は減少する。一方、インキの透明性が高ければ、反射率は高い値を示す。
【0015】
波長に対する反射率スペクトルを図2に示すようなグラフで描写した場合、近赤外域(800〜950nm)におけるベースライン(x軸)、すなわち反射率0%ラインと各波長での反射率で示される積分面積が9000nm・Reflection%以下が好ましい。より好ましくは、500nm・Reflection%以上8000nm・Reflection%以下、更に好ましくは、700nm・Reflection%以上7000nm・Reflection%以下である。
【0016】
近赤外域の条件を満たすインキのうち、可視光域における反射率が、好ましくは60Reflection%以上90Reflection%以下、更に好ましくは70Reflection%以上90Reflection%以下であれば、ほぼ透明に近いドットパターンを実現できる。
【0017】
好ましいインキ組成物は、赤外線吸収剤(A)、樹脂ワニス成分(B)、溶剤成分(D)を含有する平版オフセット印刷インキ組成物である。このうち、主成分となるのは、赤外線吸収剤(A)と樹脂ワニス成分(B)とであり、赤外線吸収剤(A)は、質量比において、樹脂ワニス成分(B)の量を超えない範囲、好ましくは樹脂ワニス成分(B)に対し約1/3〜1/4の範囲で使用する。
【0018】
赤外線吸収剤(A)は、400〜800nmの可視域において実質的に透明であり800〜950nmの近赤外域において可視域より高い吸収特性を示すものを用いれば、インキの着色を少なくすることができる。このような赤外線吸収剤としては、例えば「化学工業」1986年5月号、化学工業社発行、p.379−389に記載されているようなニトロソ化合物、シアニン色素を含むポリメチン系色素、スクワリリウム系色素類、チオール金属錯塩、フタロシアニン系色素、トリアリルメタン系色素、イモニウム系色素、ジイモニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などが挙げられる。
【0019】
前記の赤外線吸収剤(A)は単独で、もしくは組み合わせて便用することができるが、好ましくは、チオールニッケル錯塩、アミニウム塩及び又は亜硫酸塩が好ましい。より好ましくは、前記チオールニッケル錯塩であって一般式(1)等で表される赤外線吸収剤である。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(1)において、R〜Rは各々独立に、次の(a)〜(j)から成る群から選ばれるいずれかを表し、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていても良い。
【0022】
(a)水素原子、(b)シアノ基、(c)アシル基、(d)カルバモイル基、(e)アルキルアミノカルボニル基、(f)アルコキシカルボニル基、(g)アリールオキシカルボニル基、(h)置換または未置換のアルキル基、(i)置換または未置換のアリール基及び(j)置換または未置換のフェニル基。
【0023】
樹脂ワニス成分(B)、溶剤成分(C)、植物油成分(D)は、一般的な平版印刷で使用される各種材料を使用することができ、その質量比は、印刷条件に応じて調整する。また、上記平版インキ組成物には、一般の平版インキに用いられる顔料(E)を添加して可視光領域で着色したパターンを形成することができる。この場合、顔料として、基材と同一の色彩を有するものを使用する場合には、インキが透明でないが、透明な場合と同様目立たないドットパターンを形成することができる。また、基材と異なる色彩を有するものを使用する場合は、ドットパターンの着色が視認されることになるが、着色の色や着色部分のパターンによっては、種々のデザイン化を図ることができる。なお、顔料としては、一般の平版印刷で用いられている種々の顔料を使用できる。着色パターンの形成により、デザイン上の効果を高めたり、あるいは偽造防止効果を高めたりすることができる。
【0024】
以下の実施例によって本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に制限されるものではない。実施例において「部」は重量基準である。
【実施例】
【0025】
樹脂ワニスの調製
ロジン変性フェノール樹脂(大日本インキ化学工業(株)製)45部及びアマニ油22部を仕込み、200℃に昇温し、同温にて1時間撹吽して溶解させた後、AF−6号ソルベント(日石三菱(株)製)を31部とアルミニウムキレート(ホープ製薬(株)製)2部を加えて160℃にて1時間攪拌して反応させ、樹脂ワニス(a)を得た。
【0026】
実施例1
赤外線吸収剤としてIR−T(昭和電工(株)製、亜硫酸塩)を用い、これと前記の樹脂ワニス(a)とを三本ロールミルにて練肉したのち、ワックス、ドライヤー、重合禁止剤、溶剤とを加えて、実施例1の赤外線吸収剤含有インキを得た。表1にそのインキの配合組成を示す。なお、用いたワックス、ドライヤー、重合禁止剤はいずれも大日本インキ化学工業(株)製であり、ワックスはポリテトラフルオロエチレンコンパウンド、ドライヤーはネオデカン酸コバルトとネオデカン酸マンガンとの混合ドライヤー、そして重合禁止剤はハイドロキノンコンパウンドである。
【0027】
[表1]
実施例1のインキの配合組成

【0028】
得られたインキを、0.0875mlのインキ盛りにて、JIS K5701−1付属書3(簡易展色法)に記載の展色装置を用いて白色上質紙表面に展色し、得られた展色物の反射吸光スペクトルを可視・紫外光電分光光度計にて測定した。図2はこの展色物の反射吸光スペクトル測定結果を示すグラフである。次いで、得られた曲線の800〜950nmにおけるベースラインとの積分面積を計算した。その結果、近赤外域での吸収として8000nm・Reflection%が得られた。
【0029】
つづいて、アノトAB社(アノト・アクティエボラーク社)より提供されたドットパターン(パターンファイル SDK_test_license_28.0.30.88.oal)を樹脂版上に製版したのち、オフセット印刷機を使って白色の上質紙表面に印刷を行った。これによりほぼ白色の印刷物が得られ、表面のドットパターンを意識させなかった。
【0030】
これを専用のパターンアナライザー(TECHKON社製DMS910)を用いて検査したところ、読み取りは可能であった。性能評価結果を表2に示した。
【0031】
実施例2
実施例1の赤外線吸収剤IR−TをSIR−159(三井化学ファイン(株)製、チオールニッケル錯塩)に置き換えて、それ以外は実施例1と同様の配合組成にて実施例2の赤外線吸収剤含有インキを得た。
【0032】
得られたインキを、0.0875mlのインキ盛りにて、JIS K5701−1付属書3(簡易展色法)に記載の展色装置を用いて白色上質紙表面に展色し、得られた展色物の反射吸光スペクトルを可視・紫外光電分光光度計にて測定した。図2はこの展色物の反射吸光スペクトル測定結果を示すグラフである。次いで、得られた曲線の800〜950nmにおけるベースラインとの積分面積を計算した。その結果、近赤外域での吸収として7400nm・Reflection%が得られた。
【0033】
つづいて、アノトAB社より提供されたドットパターン(パターンファイル SDK_test_license_28.0.30.88.oal)を樹脂版上に製版したのち、オフセット印刷機を使って白色の上質紙表面に印刷を行った。これによりほぼ白色の印刷物が得られ、表面のドットパターンを意識させなかった。
【0034】
これを専用のパターンアナライザー(TECHKON社製DMS910)を用いて検査したところ、十分機能した。性能評価結果を表2に示した。
【0035】
比較例
実施例1の赤外線吸収剤IR−Tを酸化イッテルビウム(信越化学(株)製)に置き換えて、それ以外は実施例1と同様の配合組成にて比較例1の赤外線吸収剤含有インキを得た。
【0036】
得られたインキを、0.0875mlのインキ盛りにて、JIS K5701−1付属書3(簡易展色法)に記載の展色装置を用いて白色上質紙表面に展色し、得られた展色物の反射吸光スペクトルを可視・紫外光電分光光度計にて測定した。図2はこの展色物の反射吸光スペクトル測定結果を示すグラフである。次いで、得られた曲線の800〜950nmにおけるベースラインとの積分面積を計算した。その結果、近赤外域での吸収はほとんどなく、積分面積として11700nm・Reflection%が得られた。
【0037】
つづいて、アノトAB社より提供されたドットパターン(パターンファイル SDK_test_license_28.0.30.88.oal)を樹脂版上に製版したのち、オフセット印刷機を使って白色の上質紙表面に印刷を行った。これによりほぼ白色の印刷物が得られ、表面のドットパターンを意識させなかった。
【0038】
これを専用のパターンアナライザー(TECHKON社製DMS910)を用いて検査したところ、十分に機能しなかった。性能評価結果を表2に示した。
【0039】
[表2]

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の機能性シートの主表面に形成したドット状の位置符号化パターンの一例を示す平面図である。
【図2】実施例で用いたインキ展色物の反射吸光スペクトル測定結果を示すグラフ
【図3】アノトドットパターンの一例を示す平面図である。である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有するシート状の基材と、
該主表面上に、400〜800nmの可視域において実質的に透明であり800〜950nmの近赤外域において該可視域より高い吸収特性を示す赤外線吸収剤、を含むインキで形成されたドット状の位置符号化パターンを有する機能性シート。
【請求項2】
前記インキは、白色上質紙表面に展色した状態で、前記近赤外域の反射率が、前記可視域における平均反射率の80%以下である請求項1に記載の機能性シート。
【請求項3】
前記インキは、JISK5701−1に基づく簡易展色法にて作製した展色面の前記赤外域における反射率の積分面積が、9000nm・Reflection%以下である請求項1又は2に記載の機能性シート。
【請求項4】
前記基材は、紙である請求項1〜3のいずれかに記載の機能性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−156722(P2007−156722A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349546(P2005−349546)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】