説明

機能性チューインガム

【課題】抗菌効果を有する機能性チューインガムを開発することが本発明の課題である。
【解決手段】本発明により、キトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガムが提供された。本発明の機能性チューインガムはキトサンオリゴ糖の抗菌効果により齲蝕原性細菌の増殖を抑制することができるので、口腔内を清潔に保って齲蝕を予防する目的に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガムに関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕(虫歯)の発生は、Streptococcus mutansやStreptococcus sobrinus等の口腔レンサ球菌が歯の表面に付着し、これらの細菌が持っているグルコシルトランスフェラーゼの働きでグルカンを合成して歯垢(プラーク)を形成することから始まる。プラーク中でこれらの細菌が砂糖や菌体内多糖類等を代謝して産生された酸が歯を脱灰し、これが拡大すると歯質が崩壊して齲蝕が発生する。
【0003】
このような齲蝕の初期段階に認められる脱灰は歯のエナメル質無機成分の溶解であり、再石灰化は溶け残った結晶の修復と再成長および新たな結晶の形成である。一方唾液にはカルシウムとリン酸塩が過飽和に存在し、この脱灰部分の再石灰化をもたらすことによって歯の石灰化状態の恒常性を保っている。そのように歯の表面では脱灰と再石灰化の相反するバランスが保たれているが、プラークが増加するとこのバランスが脱灰の方に傾き齲蝕が進行する。またこのようなバランスの観点から見れば、再石灰化は初期齲蝕における自然修復過程において必須不可欠の現象である。よって初期のものであれば歯科的処置を施さなくても、歯の形態と機能を回復させることができる。
【0004】
ところで、口腔内の清潔を保って齲蝕を防ぐための最も効果的な手段は、歯ブラシによる口腔内の清掃である。しかし歯ブラシ以外の簡便な補助的な手段として、チューインガムの咀嚼による方法がある。かかる用途に使用できる機能性チューインガムとして、現在キシリトール配合チューインガムなどの機能性チューインガムが開発され、市販されている。キシリトール配合チューインガムに含まれるキシリトールは、添加されるリン酸カルシウム塩などの形が工夫されているために、再石灰化作用による歯質強化に資する機能性チューインガムとして市販されている。なお再石灰化を促進し、歯の健康を維持・増進するのに有効であって齲蝕予防効果を有する製品として、「キシリトール」、「フクロノリ抽出物(フノラン)」、「リン酸一水素カルシウム(第二リン酸カルシウム)」を配合した機能性チューインガムなどが実際に開発されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0005】
ところで齲蝕の予防という観点からすると、齲蝕原性細菌を殺菌することが最も重要であるが、抗菌性を有する機能性チューインガムはこれまで存在していなかった。抗菌性を有する機能性チューインガムを開発する場合には、抗菌成分として何を配合するかが最も重要な問題となる。その点に関連して本発明者らはこれまで齲蝕の予防に有効な抗菌剤について検討を行ない、キトサンオリゴ糖が抗菌作用を有することを見出して抗菌薬として特許を受けている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004‐91413号公報
【非特許文献1】佐伯洋二、Food Style 21 Vol.7, No5, p130-p133
【非特許文献2】林善彦ら、日本歯科保存学雑誌 第48巻、第5巻、p648-p655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、抗菌性の機能を有するチューインガムを作製することにより、チューインガム咀嚼によって口腔清掃効果を達成するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は上記課題を解決するために、以下の抗菌性チューインガムを提供する。
(1)キトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガム。
(2)前記キトサンオリゴ糖の重合度が2〜50である上記(1)記載の機能性チューインガム
(3)前記キトサンオリゴ糖の脱アセチル化度が80〜100%である上記(1)又は上記(2)記載の機能性チューインガム。
(4)前記抗菌機能性チューインガムの組成において、前記キトサンオリゴ糖の配合量が2〜10%である上記(1)から上記(3)のいずれか1つに記載の機能性チューインガム。
(5)前記抗菌機能性チューインガムを咀嚼した後に唾液のpHが6.4以上となる上記(1)から上記(4)のいずれか1つに記載の機能性チューインガム。
(6)更にキシリトールを含有することを特徴とする上記(1)から上記(5)のいずれか1つに記載の機能性チューインガム。
(7)抗菌効果に加えて再石灰化効果を有することを特徴とする上記(6)記載の機能性チューインガム。
(8)抗菌効果に加えて唾液分泌促進効果を有することを特徴とする上記(1)から上記(7)のいずれか1つに記載の機能性チューインガム。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、本発明はキトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガムが提供された。本発明の機能性チューインガムはキトサンオリゴ糖の抗菌効果により齲蝕原性細菌の増殖を抑制することができるので、口腔内を清潔に保って齲蝕を予防する目的に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記で述べたように本発明は、キトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガムを提供するものである。特開2004‐91413号公報において本発明者らは、キトサンオリゴ糖が齲蝕原性細菌に対して抗菌作用を有することを見出して報告しているが、本発明はキトサンオリゴ糖の抗菌作用を機能性チューインガムに応用したものである。なおキトサンオリゴ糖をチューインガムに配合した場合、咀嚼に伴って徐々に溶出する。よってキトサンオリゴ糖を機能性チューインガムに配合した場合には、洗口剤などの形態で配合した場合よりも、より長時間に渡って口腔内に一定濃度のキトサンオリゴ糖が存在するという利点を有する。なお下記の実施例において、キトサンオリゴ糖配合チューインガムの咀嚼は、キトサンオリゴ糖溶液でのうがいより、抗菌作用において優れているという結果が示されている。
【0011】
キトサンオリゴ糖含有する機能性チューインガムの有効成分をオリゴマーとした理由は、キトサンに関して、その重合度の影響を調べるために、モノマー、オリゴマー、ポリマーについて試験したところ、モノマー、ポリマーに比べ、オリゴマーにおいて有意にミュータンス連鎖球菌に対する発育抑制効果が見られたからである。すなわち本発明では、オリゴ糖の重合度は2〜50、好ましくは2〜8である。しかし本発明はこれら以外の重合度を有する物の使用を排除する趣旨ではない。
【0012】
また、キトサンオリゴ糖の脱アセチル化度は80〜100%が好ましい。これは、脱アセチル化度80%未満では十分な抗菌作用が得られず、不都合だからである。
【0013】
また、本発明の抗菌機能性チューインガムの組成において、キトサンオリゴ糖の配合量は2〜10%であることは好ましく、4〜7%であることは更に好ましい。この範囲の濃度のキトサンオリゴ糖が機能性チューインガムに配合されると唾液中のキトサンオリゴ糖の濃度は2重量%程度となるが、キトサンオリゴ糖の濃度がこの程度であることは、抗菌効果を得るのに最適であるからである。
【0014】
また、本発明の抗菌機能性チューインガムを咀嚼した後に唾液のpHが6.4以上となることは好ましい。口腔内のpHが酸性となると象牙質の脱灰が懸念されるが、キトサンオリゴ糖を含有する機能性チューインガムを咀嚼した際のpH範囲が6.4以上であると、かかる脱灰を回避することができるからである。歯質のうち、表面を覆うエナメル質は、象牙質に比べて、耐酸性が強く、脱灰し難い性質を有する。しかし特に歯肉が退出して象牙質が露出した根面や、傷ついたエナメル質の微小な隙間が象牙質まで到達している場合には、象牙質の脱灰を防ぐために、本発明の抗菌機能性チューインガムを咀嚼した後の唾液のpHは6.4以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の抗菌機能性チューインガムがキシリトールを更に含有することは好ましい。脱灰と抗菌性の両者の機能を併せ持つ機能性チューインガムはこれまで存在しなかったが、キトサンオリゴ糖とキシリトールを共に含む本発明の機能性チューインガムは、抗菌効果に加えて再石灰化効果を期待することができる。よってかかる機能性チューインガムが開発されたならば、齲蝕の予防に大いに資するものと考えられる。なおキトサンオリゴ糖を配合した本発明の機能性チューインガムは、口腔細菌の増殖抑制効果を有するので、本発明の機能性チューインガムは、齲蝕の予防のみならず歯周病の予防にも有効である。また本発明において、更に生薬などを配合し、唾液中に持続的に遊離させることも可能である。
【0016】
本発明の機能性チューインガムを、好ましくは食後の出来る限り早いうちに咀嚼する。具体的には、食事を行なった後に時間が経過すると口腔内細菌が増殖するために、食後遅くとも1時間以内に本発明の抗菌機能性チューインガムを咀嚼することが好ましい。一例として、本発明の機能性チューインガムを1枚につき5分程度咀嚼する事を繰り返し、最終的に合計8枚程度の該チューインガムを咀嚼することにより抗菌効果を達成することができる。しかし本発明の機能性チューインガムを使用する態様は特に限定されるものではなく、必要に応じて咀嚼時間や回数を変えることができる。このようにして本発明の機能性チューインガムを使用すると、該チューインガムを咀嚼して1時間経過した時点における齲蝕原性細菌数を、該チューインガムを咀嚼する前の20%程度に抑制することが可能である。
【0017】
また就寝中は特に口腔内細菌が増殖しやすいために、就寝前に本発明の機能性チューインガムを咀嚼することも効果的である。また本発明の機能性チューインガムは、外出時、水道水のない場所、あるいは野外訓練時などの歯ブラシの使用出来ない状況において、歯ブラシの代替として極めて有効である。
【0018】
なおチューインガムにキトサンオリゴ糖を混ぜた機能性チューインガムを実際に開発する場合には、(1)機能性チューインガムをどのような組成にするか、(2)どのようにしてキトサンオリゴ糖を機能性チューインガムに混和するか、(3)添加後もチューインガムとして適切な形状、咀嚼性、味覚性を有するか、(4)本当に唾液中の細菌の発育を抑制できるか、などの点に関して検討が必要となる。本発明が行なわれるまで、キトサンオリゴ糖を含有する機能性チューインガムについてかかる検討が行なわれたことはなかった。
【0019】
下記の実施例に記載した本発明の機能性チューインガムにおいては、比較例の組成のチューインガムに含有されるパラチニット(還元パラチノース)の一部分を、必要量のキトサンオリゴ糖で置き換えることにより、キトサンオリゴ糖を機能性チューインガムに混和した。すなわち下記の実施例のチューインガム組成では5%キトサンオリゴ糖を含有する機能性チューインガムを作製したが、物性、咀嚼性、味覚とも、キトサンオリゴ糖を配合していない比較例と類似の状態をもたらすことが可能であった。よってパラチニットの一部分を必要量のキトサンオリゴ糖という態様は、本発明の目的とする効果を達成するという目的において優れていた。そして5%キトサンオリゴ糖を含有する機能性チューインガムを実際に咀嚼した結果、唾液中のキトサンオリゴ糖の濃度は好適な濃度である約2重量%となり、pH値も脱灰が起こらない6.4以上であった。更に下記の実施例のデータから示されるように、キトサンオリゴ糖を5%含有する本発明の機能性チューインガムは優れた抗菌効果を示した。
【0020】
なおキトサンオリゴ糖の配合量と配合方法を決定するにあたり、キトサンオリゴ糖をある程度配合するとキトサン特有の苦味や渋みをある程度感じるので、キトサンオリゴ糖を配合した機能性チューインガムを開発するにあたって味覚は最も重要な評価項目であると考えられる。しかし下記の実施例で示す咀嚼実験において、評価を行なった機能性チューインガム(パラチニットをキトサンオリゴ糖で置き換えて5%配合したチューインガム)に対して拒絶反応を示した被験者はいなかった。よって本発明において、実用に耐えるキトサンオリゴ糖含有機能性チューインガムが提供されたと認められる。また、唾液分泌がキトサンオリゴ糖を配合したチューインガム咀嚼の1〜2分後に特に増加すると、多くの被験者が感じていた。キトサンオリゴ糖に特有の苦味や渋みにより唾液分泌が促進されると、口腔乾燥傾向にある高齢者などにおいて、口腔保健を保つ上で有益となる。
【実施例】
【0021】
本発明を実施例により具体的に説明する。
(1)キトサンオリゴ糖含有キシリトール配合チューインガムの組成
比較例のコントロールチューインガムと本発明の機能性チューインガム(キトサンオリゴ糖5%配合したチューインガム)を、以下の組成で調製した。比較例のコントロールチューインガムと本発明の機能性チューインガムの組成を表1に示す。なお本発明の機能性チューインガムに配合するキトサンオリゴ糖として、甲陽ケミカル株式会社製のオリゴグルコサミンを用いた。この製品はキトサンオリゴマーの塩酸塩であり、重合度は2〜8糖の混合物であって、脱アセチル化度100%である。
【0022】
【表1】

【0023】
(2)機能性チューインガムから溶出するキトサンオリゴ糖の濃度
チューインガムからキトサンオリゴ糖の溶出量を以下のようにして測定した。チューインガムの水抽出液を塩酸で加水分解したのち、アミノ酸分析計によって総グルコサミン量を定量し、キトサンオリゴ糖中の総グルコサミン量の測定値(74.9%)をこの定量値に用いて、キトサンオリゴ糖の溶出量を算出した。その結果、5%キトサンオリゴ糖配合チューインガムからキトサンオリゴ糖が溶出した量は、上記組成の4.6%(キトサンオリゴ糖配合チューインガムの全組成を100%とした値)に相当する量であった。よってキトサンオリゴ糖の溶出率は92%であった。
【0024】
このキトサンオリゴ糖配合チューインガムの1枚(2.5g)を実際に咬んで唾液中に溶出するキトサンオリゴ糖を測定した。なお3名で実験を行なって平均値を求めた。3分間のチューインガム咀嚼で集まった唾液の分泌量は平均4.7gであり、その中にはキトサンオリゴ糖が0.11g含まれていたため、唾液中のキトサンオリゴ糖濃度は2.34重量%であった。この濃度は齲蝕原性細菌の最大発育抑制効果が得られる2重量%に近似している。
【0025】
(3)機能性チューインガム咀嚼による齲蝕原性細菌の発育抑制効果
表1のコントロールチューインガムとキトサンオリゴ糖配合チューインガムで咀嚼実験を行った。実験内容について被験者に説明し、了解を得た。また、本実験の内容は、あらかじめ長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得て実施した。健康な50名(男性21名、女性29名、19〜32歳、平均23.7歳)を対象とし、チューインガム咀嚼が口腔内細菌数に対して及ぼす効果を二重盲検交差比較試験で検討した。被験者は、昼食後に口腔清掃を行ったのち2時間後、10分間隔で計8枚のチューインガムを咀嚼した。更に1週間間隔を空けて、別のチューインガムを同じ条件で咀嚼した。即ち1回目にコントロールチューインガムを咀嚼した群では2回目にはキトサンオリゴ糖配合チューインガムを、1回目にキトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した群では二回目にはコントロールチューインガムを咀嚼した。そしてチューインガム咀嚼前、咀嚼直後、30分後、60分後の計4回、5分間のパラフィンワックス咀嚼による刺激により唾液を採取した。唾液の採取時間を60分後までとした理由は、120分まで採取した唾液試料から細菌検査を行った過去の予備実験において、60分以降は徐々に抑制傾向が回復するという結果を得ているからである。
【0026】
なお以下にこの実験のプロトコールを示す。実験開始1週間前から2回目のチューインガム咀嚼まで、被験者は指定のフッ素の入っていない歯磨き剤を使用した。更に1回目と2回目の咀嚼の間、被験者は暴飲・暴食や刺激の強い食品の摂取を避け、普通の生活リズムを保った。
【0027】
1.昼食をとる。
2.歯磨きをする。
3.2時間待機する。
4.パラフィンワックスを5分間咀嚼し、唾液を採取する(咀嚼前のサンプル)。
5.以後、以下の様にしてチューインガム咀嚼5分と休憩5分を繰り返す。
1) 5分咀嚼、5分休憩
2) 5分咀嚼、5分休憩
3) 5分咀嚼、5分休憩
4) 5分咀嚼、5分休憩
5) 5分咀嚼、5分休憩
6) 5分咀嚼、5分休憩
7) 5分咀嚼、5分休憩
8) 5分咀嚼、5分休憩
7.チューインガム8枚を咀嚼した直後、パラフィンワックスを5分間嚼し、唾液を採取する(咀嚼直後のサンプル)。
8.チューインガム咀嚼終了から30分後、パラフィンワックスを5分間嚼し、唾液を採取する(咀嚼30分後のサンプル)。
9.チューインガム咀嚼終了から60分後、パラフィンワックスを5分間嚼し、唾液を採取する(咀嚼60分後のサンプル)。
【0028】
次に生菌数の計測を行った。唾液を段階希釈した後、血液寒天平板培地(全菌用の培地)、MS寒天平板培地(連鎖球菌用の培地)、MSB寒天平板培地(ミュータンス群連鎖球菌用の培地)に塗抹した後、37℃48時間の嫌気培養を行った。なおミュータンス群連鎖球菌は、最も重要な齲蝕の原因細菌とされている。各培地上の細菌の集落数を、それぞれ全菌数、連鎖球菌数、ミュータンス群連鎖球菌数として算定し、咀嚼した後の菌数の変化を咀嚼前に対するパーセント表示で比較した。
【0029】
チューインガム咀嚼前後の菌数の変化を、全菌数(表2)、連鎖球菌数(表3)、ミュータンス群連鎖球菌数(表4)について示した(平均±標準偏差)。更に全菌数(図1)、連鎖球菌数(図2)、ミュータンス群連鎖球菌数(図3)の経時的変化をグラフ化した。統計学的な検討を行なうと、キトサンオリゴ糖配合チューインガム咀嚼群はコントロールチューインガム咀嚼群に比べて、咀嚼後全ての時間において細菌数は有意(危険率5%)に低い値となった。なお表2、表3、表4において*はコントロールチューインガムに対する有意差(p<0.05)を示す。キトサンオリゴ糖配合チューインガム咀嚼群において、齲蝕の原因細菌とされているミュータンス群連鎖球菌数が、チューインガム咀嚼後60分においても咀嚼前の菌数の20%台を維持していることが特に注目された。

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
(4)チューインガム咀嚼前後での唾液のpH
コントロールチューインガム咀嚼群(45名)とキトサンオリゴ糖配合チューインガム咀嚼群(43名)で唾液のpHを測定すると、咀嚼前の平均pHは6.8、咀嚼後の平均pHは6.7であった。一般的に歯の溶解は、エナメル質についてはpH5.5以下で、象牙質についてはpH6.4以下で開始するとされている。従って、チューインガム咀嚼前、咀嚼後とも、唾液のpHが6.4未満となることはないことが判明したので、チューインガム咀嚼により歯質が溶解する懸念はない。
【0034】
これらの結果から、キトサンオリゴ糖配合チューインガムの咀嚼により、全菌、連鎖球菌、ミュータンス連鎖球菌のいずれを指標としても、口腔細菌の発育が抑制されることが明らかとなった。特に、ミュータンス群連鎖球菌の数は、チューインガム咀嚼後60分においても咀嚼前の20%台に維持されていたので、チューインガムに共に含まれるキシリトールによる再石灰化効果と合わせて考えると、本発明の機能性チューインガムは齲蝕原性細菌抑制の目的で有効である。
【0035】
(5)キトサンオリゴ糖配合チューインガムの咀嚼とキトサン溶液のうがいによる抗菌効果の比較
キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼することの有用性を更に示すために、キトサンオリゴ糖の溶液でうがいをした場合と細菌数の変化を比較した。すなわち、長崎大学歯学部学生6名(男女各3名、平均20.8歳)に研究の目的、内容を説明したのち了解を取り被験者とし、2%キトサンオリゴ糖溶液(pH 7.0に調整)でうがいをした場合と、表1に記載した組成のキトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した場合とを比較した。なおここでうがいに使用した2%キトサンオリゴ糖溶液は、機能性チューンガムに配合したのと同じキトサンオリゴ糖溶液と同じものを蒸留水に溶解し、2%溶液としたものである。本実験についてもその内容について、あらかじめ長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得た。本実験のプロトコールは以下の通りである。
【0036】
(1)一回10mLの洗口液で30秒間うがいを行った。これを10分間に1回の頻度で5回行った(計50分間)。
(2)1週間の休息期間をおいてガム咀嚼を行った。チューインガムは10分間(5分間咀嚼、5分間休憩)に1枚(板状2.5g)を咀嚼した(計50分間、5枚)。なおうがいとガム咀嚼の順序は被験者に任せ、先にうがいを行った後にガムを咀嚼した被験者も、先にガムを咀嚼した後にうがいを行った被験者もいた。
(3)なお、咀嚼あるいはうがい前、直後、30分後、60分後の4回にわたって唾液を採取し、5分間のパラフィンワックス咀嚼による刺激により唾液を全量採取した。細菌発育の評価は上記の「機能性チューインガム咀嚼による齲蝕原性細菌の発育抑制効果」の項と同様に行った。
【0037】
ガム咀嚼とうがいの前後における菌数の変化を、全菌数(表5)、連鎖球菌数(表6)、ミュータンス群連鎖球菌数(表7)について示した(平均±標準偏差)。更に全菌数(図4)、連鎖球菌数(図5)、ミュータンス群連鎖球菌数(図6)の経時的変化をグラフ化した。全ての時間において、うがいに比べてチューインガムの咀嚼の方が細菌の発育抑制効果が強かった。なお表5,表6,表7において*は、チューインガム咀嚼後の細菌数は、うがい後の細菌数に比べて有意(p<0.05)に発育が抑制されていることを示す。全菌数、連鎖球菌数、ミュータンス群連鎖球菌数において、全ての時間でうがい後の細菌数は有意に多いという結果になった。この結果から、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼することは、単にキトサンオリゴ糖溶液でうがいをすることに比べて、齲蝕原性細菌発育の抑制効果という点で明らかに有利な効果があることが示された。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
(6)機能性チューインガム咀嚼による唾液分泌効果の検討
本発明の機能性チューインガムに配合されているキトサンオリゴ糖は、独特の渋みと苦みを有する。よってそのような味覚により唾液分泌量が増加をすることが期待され、口腔衛生という点で好ましい影響を及ぼすと考えられる。よってキトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼したときの唾液分泌量を検討した。
【0042】
6名(男女各3名)の教室員(20歳代2名、30歳代3名、40歳代1名、平32.8歳)を被験者とし、表1に記載した組成のキトサンオリゴ糖配合チューインガムとコントロールチューインガムを咀嚼した後の唾液分泌量を計測して比較した。咀嚼実験のプロトコールは以下の通りである。
【0043】
キトサンオリゴ糖配合チューインガムまたはコントロールチューインガムを、10:00、14:00、および17:00の1日3回、2日間咀嚼した。1週間休憩した後、もう一方のチューインガムを、10:00、14:00、および17:00の1日3回、2日間咀嚼した。すなわち、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを先に咀嚼した場合には1週間にコントロールチューインガムを咀嚼し、コントロールチューインガムを先に咀嚼した場合には1週間にキトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した。なお2種類のガムの咀嚼順序は被験者に任せた。1回の咀嚼時間は5分間とし、その間にすべて唾液を遠心管内へ回収した。採取した唾液は、1000rpmで5分間遠心した後に計量した。
【0044】
その結果、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した時の唾液量は16.7±2.6mLであり、一方コントロールチューインガムを咀嚼した時の唾液量は14.8±1.9mLであった(平均±標準偏差)。統計処理をすると、キトサンオリゴ糖配合チューインガム咀嚼時の唾液分泌量は、コントロールチューインガムの咀嚼時と比較して、危険率5%で有意に多いという結果となった。よって本発明のキトサンオリゴ糖配合チューインガムは、齲蝕原性細菌数の減少のみならず、唾液分泌の増加という効果からも、齲蝕の予防に有効であると考えられる。
【0045】
(7)味覚嗜好性に関するアンケート調査
既に述べたように、本発明のキトサンオリゴ糖配合チューインガムには独特の渋みと苦みがあるので、咀嚼時の味覚性という観点からも評価する必要がある。なお本発明の本発明のキトサンオリゴ糖配合チューインガムは、歯ブラシ清掃の困難な状況において特に有用であることを考えて、かかる状況において味覚嗜好性の評価を行なった。歯ブラシ清掃の困難な状況の一例として陸上自衛隊の野外訓練時があるので、その機会を利用して味覚嗜好性についてアンケート調査を行った。
【0046】
具体的には30名の陸上自衛隊員(男性、平均21.9歳)に表1のキトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼してもらい、その際の味覚嗜好性についてアンケート調査を行った。本臨床試験は陸上自衛隊大村駐屯地の承認のもと、30名の陸上自衛隊員へ本試験のインホームドコンセントを行ったのち実施した。支給されたキトサンオリゴ糖配合チューインガムを、朝、昼、夜の毎食後の出来るだけ早い時間に被験者に咀嚼してもらうことにより、味覚調査を2日間行った。咀嚼するキトサンオリゴ糖配合チューインガムの数は毎食後5枚づつとし、1日15枚、2日間で計30枚咀嚼した。ガムの咀嚼方法としては、左右両側で最低3分間は自然に咬むように指示をした。なおアンケートの内容は以下の通りである。
【0047】
I 自衛隊での演習中の口腔清掃状態について回答下さい。
1.演習期間中、普段と比べて歯磨きがしずらいと感じますか?
(1)感じる、(2)どちらでもない、(3)感じない
2.演習期間中、普段と比べて歯磨きの状況・程度は?
(1)普段と変わらない、(2)普段の半分程度、(3)普段の半分以下、(4)ほとんど磨けない
II 虫歯予防ガムの味に関する嗜好調査
新しい虫歯予防用ガムの咀嚼試行後の味に関する質問に回答下さい。
1.はじめて噛んだ味はどうでしたか?
(1)特に違和感(問題)はない、(2)多少違和感がある、(3)違和感がつよい
2.2日間を通して味はどうでしたか?
(1)特に違和感(問題)はない、(2)多少違和感がある、(3)違和感がつよい
3.今後、野外訓練時に虫歯予防のためにガムを噛むことについてどのように思いますか?
(1)特に違和感(問題)はない、(2)多少違和感がある、(3)違和感がつよい
4.今回、ガムを噛んでいる時の唾液の出かたは普段と比べてどうでしたか?
(1)多かった、 (2)同じ程度、 (3)少なかった
5.総合的に今回のガムの味は10点満点で何点と評価しますか?

【0048】
Iのアンケートの結果、演習中普段と比べて歯磨きがしずらいと感じると回答した者は83%、どちらでもないと回答した者は10%、感じないと回答した者は7%であった。また演習中の普段と比べての歯磨きの状況程度は、普段とかわらないという回答が7%、普段の半分程度という回答が17%、普段の半分以下という回答が17%、ほとんど磨けないという回答が59%であった。これらを総合すると、90%以上の隊員で、野外訓練時に口腔清掃に関して不便さを感じていると評価された。
【0049】
IIのアンケートの結果、はじめて噛んだ味については特に違和感がないという回答が10%、多少違和感があるという回答が43%、違和感が強いという回答が47%であった。2日間を通じての味に関しては、特に違和感がないという回答が17%、多少違和感があるという回答が33%、違和感が強いという回答が50%であった。更に今後訓練時に虫歯予防のためにチューインガムを噛むことについて、特に違和感がないという回答が60%、多少違和感があるという回答は20%、違和感が強いという回答が20%であった。よって6割の隊員において問題ないとの回答で、多少違和感あるという程度も含めると、8割の隊員で、虫歯予防のために機能性チューインガムを咀嚼することについて好意的な回答が得られた。
【0050】
キトサンオリゴ糖配合チューインガムを噛んでいるときの唾液の出方に関する設問に対しては、唾液の量が普段と比べて多かったという回答が57%、同じ程度という回答が40%、少なかったという回答が3%であった。つまり6割の隊員で唾液量の増加を感じており、同程度という回答を含めるとほぼ100%において唾液の量は普段と同等かそれ以上と感じていた。よってキトサンオリゴ糖配合チューインガムの咀嚼は、唾液の量という点からも口腔衛生の観点から好ましいという結果が得られた。
【0051】
更に10点を満点として、キトサンオリゴ糖配合チューインガムの味覚を何点と評価するか、という設問に対する回答の結果を図7に示す。図7の結果から計算した平均値は3.9点であった。よって味覚に関しては、10点満点の半分よりやや少し悪い程度なので、虫歯予防、口腔細菌の発育抑制効果を期待して使用する分においては、許容範囲内であると考えられる。以上のアンケート調査の結果から、味、唾液分泌感とも虫歯予防という効果を期待してキトサンオリゴ糖配合チューインガムを利用することは可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、キトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を含有する機能性チューインガムが提供された。本発明の機能性チューインガムはキトサンオリゴ糖が配合されているために齲蝕原性細菌の増殖を抑制することができるが、それに加えて、再石灰化効果を有するキシリトールも併せて配合することもできる。本発明の機能性チューインガムの咀嚼は齲蝕原性細菌の増殖を抑制するので齲蝕の予防に有効であるため、外出時および野外訓練時などにおいて歯ブラシによる清掃の代替法となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は全菌数を指標として、咀嚼前後の菌数の変化を示したグラフである。
【図2】図2は連鎖球菌数を指標として、咀嚼前後の菌数の変化を示したグラフである。
【図3】図3はミュータンス群連鎖球菌数を指標として、咀嚼前後の菌数の変化を示したグラフである。
【図4】図4は全菌数を指標として、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した時と、キトサンオリゴ糖溶液でうがいをした時の菌数の変化を示したグラフである。
【図5】図5は連鎖球菌数を指標として、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した時と、キトサンオリゴ糖溶液でうがいをした時の菌数の変化を示したグラフである。
【図6】図6はミュータンス群連鎖球菌数を指標として、キトサンオリゴ糖配合チューインガムを咀嚼した時と、キトサンオリゴ糖溶液でうがいをした時の菌数の変化を示したグラフである。
【図7】図7はキトサンオリゴ糖配合チューインガムの味覚を、10点満点で何点と評価するか、という設問に対する回答の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンオリゴ糖を有効成分として含有して抗菌効果を有することを特徴とする機能性チューインガム。
【請求項2】
前記キトサンオリゴ糖の重合度が2〜50である請求項1記載の機能性チューインガム。
【請求項3】
前記キトサンオリゴ糖の脱アセチル化度が80〜100%である請求項1又は請求項2記載の機能性チューインガム。
【請求項4】
前記抗菌機能性チューインガムの組成において、前記キトサンオリゴ糖の配合量が2〜10%である請求項1から請求項3のいずれか1つの請求項に記載の機能性チューインガム。
【請求項5】
前記抗菌機能性チューインガムを咀嚼した後に唾液のpHが6.4以上となる請求項1から請求項4のいずれか1つの請求項に記載の機能性チューインガム。
【請求項6】
更にキシリトールを含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つの請求項に記載の機能性チューインガム。
【請求項7】
抗菌効果に加えて再石灰化効果を有することを特徴とする請求項6記載の機能性チューインガム。
【請求項8】
抗菌効果に加えて唾液分泌促進効果を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つの請求項に記載の機能性チューインガム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−314505(P2007−314505A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274038(P2006−274038)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】