説明

機能性抗体

本発明は、単一ドメイン結合部位を含む、新規な抗体に関する。本抗体は二価または多価であってもよく、二重特異性であってもよい。本発明はさらに、mPDGFRαに結合する単一特異性および二重特異性抗体に関する。本抗体は、単独で、あるいは抗血管新生薬または抗腫瘍薬と組み合わせて投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2006年2月15日出願の米国特許出願第60/773,994号に対する優先権を主張する。米国特許出願第60/773,994号は、参照することによりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、単一ドメイン結合部位を含む新規な抗体に関する。抗体は、二価または多価であってもよく、二重特異性または多重特異性であってもよい。また、細胞表面受容体タンパク質と結合する二重特異性および多重特異性抗体も開示される。被験体に単独で、または抗血管新生薬または抗腫瘍薬と組み合わせて投与されると、該抗体は、腫瘍増殖を阻害するため、ならびに過剰増殖性疾患を阻害するために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体(BsAb)は、同一かまたは異なる抗原上の2つの異なるエピトープと結合する免疫グロブリン(Ig)に基づく分子である。実験室での研究および初期の臨床研究の両方で、癌治療において、例えば腫瘍細胞を細胞傷害性薬剤、例えばエフェクター細胞、放射性核種、薬物および毒素などでターゲッティングすることによるか(Weiner et al.,1997,Cancer Immunol.Immunother.45:190−2.;van Spriel et al.,2000,Immuol.Today 21:391−7;Segal et al.,2000,J.Immunol.Methods 248:1−6.)、または個々の抗体治療薬の生物学的活性を強化するために2つの異なる腫瘍標的(またはエピトープ)を同時にターゲッティングすることにより(Lu et al.,1999,J.Immunol.Methods 230:159−71;Lu et al.,2001,Cancer Res.61:7002−8.;Lu et al.,2002,J.Immunol.Methods 267:213−26)BsAbが有意な用途を有しうることが実証された。BsAbに基づく治療薬の開発における主な障害は、ハイブリッドハイブリドーマおよび化学コンジュゲーション(Carter et al.,1995,J.Hematotherapy 4:463−70)を含む伝統的な方法によって臨床研究のために十分な量および質の材料を製造する際の困難さであった。2つの異なる組のIgG軽鎖および重鎖の同時発現により、多様な軽鎖および重鎖の対をもたらすことができ、そのうちの唯一つが所望の機能性の二重特異性ヘテロ二量体である(Suresh et al.,1986,Methods Enzymol.121:210−28)。一方、2つのIgGまたはそれらの断片の化学架橋は、非効率的である場合が多く、抗体活性の損失をもたらし得る(Zhu et al.,1994,Cancer Lett.86:127−34)。両方の方法において、非機能性種、例えばハイブリッドハイブリドーマにより産生されるコグネイト(同族)でないIg軽鎖および重鎖のホモ二量体および不対合ヘテロ二量体など、ならびに化学コンジュゲーションによりもたらされる多量体凝集体からのBsAbの精製は困難である場合が多く、収率は通常低い(Cao et al.,1998,Bioconj.Chem.9:635−44)。
【0004】
効率を改善するため、抗体断片(Carter et al.,1995;Pluckthun et al.,1997,Immunotechology 3:83−105;Todorovska et al.,2001,J.Immunol.Methods 248:47−66)および全長IgG型式(Carter,2001,J.Immunol.Methods 248:7−15)として、両方のBsAb製造のための多様な組換え法が開発されてきた。例えば、同種の全長IgG様BsAbの製造は、効率的なIg C3ドメインヘテロ二量体形成のためのいわゆる「ノブ・イントゥ・ホール(knobs−into−holes)」操作により(Ridgway et al.,1996,Protein Eng.9:617−21;Merchant et al.,1998,Nat.Biotech.16:677−81)、さらに異なる特異性をもつ2本の単鎖Fv(scFv)を全長IgG分子のN末端かまたはC末端のいずれかの上に融合することにより(Zhuang et al.,2000,Protein Eng.13:361−7;Coloma and Morrison,1997,Nat.Biotechnol.15:159−63)達成されている。また、BsAbは、柔軟なリンカーの使用の有無にかかわらず、二量体形成手段、例えば、ロイシンジッパー(Kostelny et al.,1992,J.Immunol.148:1547−53;de Kruif et al.,1996,J.Biol.Chem.271:7630−4)、およびIg C/CH1ドメイン(Muller et al.,1998,FEBS Lett.422:259−64);ダイアボディーを用いて(Holliger et al.,1993,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.90:6444−8;Zhu et al.,1996,Bio/Technology (NY)14:192−6);Fab−scFv融合(Lu et al.,2002;Schoonjans et al.,2000,J.Immunol.165:7050−7);ならびにミニ抗体フォーマット(Pack et al.,1992,Biochemistry 31 :1579−84;Pack et al.,1993,Bio/Technology 11:1271−7)などを介して2本の単鎖Fv(scFv)またはFab断片を遺伝的に融合することにより構築された(Mallender et al.,1994,J.Biol.Chem.269:199−206;Mack et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.92:7021−5;Zapata et al.,1995,Protein Eng.8:1057−62)。これらの事例の過半数において、これらの組換えアプローチは、それらの標的抗原の各々に対して一価である、二価の二重特異性抗体分子の産生をもたらす。さらに、機能性Fcドメインを含むIgG様二重特異性抗体の例は限定されている。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、単一可変ドメイン(sVD)抗原結合部位を含む新規な二重特異性抗体を提供する。また、本発明の抗体には、sVD抗原結合部位に加えて抗体Fvsを含む抗原結合部位が含まれ得る。
【0006】
本発明の抗体は、任意の抗原に対して特異的であってよい。一実施形態では、本発明の抗体は、受容体チロシンキナーゼ(PDGFR、VEGFR1、VEGFR2、EGFRを含むが、これらに限定されない)であってよい細胞表面抗原と結合する。もう1つの実施形態では、本発明の抗体は細胞表面受容体のリガンドと結合する。好ましい実施形態では、本発明の抗体は、受容体中和活性を有する。本発明はさらに、該抗体の医薬組成物を提供する。
【0007】
本発明は、1以上の受容体チロシンキナーゼの活性化を阻害する方法を提供する。哺乳類における腫瘍増殖は、哺乳類に有効量の本抗体を投与することにより治療または阻害され得る。本抗体は、その他の細胞表面抗原(例えば、RTKを含む)またはサイトカイン(例えば、RTKリガンドを含む)と結合する抗体と共に同時投与されることができる。特定の実施形態では、本方法は、また、哺乳類に、例えば、化学療法薬および/または放射線療法を含む、抗腫瘍薬または治療を投与することを含む。別の実施形態では、本発明は、哺乳類において非がん性過剰増殖性疾患、例えば、乾癬を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、単一可変ドメイン(sVD)抗原結合部位を含む新規な抗体を提供する。本発明はまた、単一ドメインの抗原結合部位と2ドメインのFv様抗原結合部位の両方を含む抗原結合タンパク質を提供する。
【0009】
単一ドメイン抗原結合部位は、免疫グロブリンの可変ドメイン(例えば、VまたはV)に類似するが、第2の抗原結合ドメイン(例えば、対になるVまたはV)の非存在下で抗原と特異的結合が可能である。そのような単一ドメインは、実際には対となる結合ドメインと安定な会合ができないであろう。しかし、単一ドメイン抗体は、VドメインとVドメインの両方を含む抗体のそれと同様の親和性および結合力をもつ抗原と結合することができる。さらに、天然抗体のように、単一ドメイン抗体は受容体−リガンド相互作用を阻止することができる。従って、単一ドメイン結合部位を含む本発明の抗体は、例えば、ハイブリドーマ、ヒト抗体を発現するトランスジェニックマウス、およびFabまたはscFv結合ドメインのファージディスプレイライブラリーから得られる抗体と同じ目的に使用される。
【0010】
本発明の抗体は、いくつかの点で免疫グロブリン様である。1)IgG様である本発明の抗体はヘテロ四量体であり、2つの異なるポリペプチド鎖の各々のうちの2つからなる。2)異なるポリペプチド鎖は会合し、例えば、標準的な、天然に存在する免疫グロブリンの重鎖および軽鎖定常領域と同じ方法でジスルフィド結合により共有結合しうる。3)ポリペプチド鎖の1つは、天然に存在する免疫グロブリン重鎖と同じ方法で安定な自己会合が可能である。例えば、ポリペプチド鎖のうちの1つには、天然に存在する免疫グロブリンのC2、C3、またはC4に対応する1以上のドメインが含まれ得る。好ましい実施形態では、本発明の抗体は、天然に存在するIgGの定常ドメイン構造を含む。
【0011】
免疫グロブリン様構造の非常に大きな1つの利点は、抗体鎖が発現時に自然に対となることである。先行技術の多くの四量体抗体とは異なり、同種の抗体の調製物を得るためにさらなる操作は必要でない。
【0012】
本発明の抗原結合タンパク質は単一可変ドメイン(sVD)である抗原結合部位を含む。本発明の特定の実施形態では、sVD結合部位はIgG様抗体の1つの可変ドメインと置き換わり、scFvはその他の可変ドメインと置き換わる。そのような実施形態の例は、図1Aに示される。本発明の他の実施形態では、sVD結合部位は、IgG重鎖または軽鎖のN末端またはC末端でIgG抗体へグラフトされる。そのような実施形態の例は、図1Bに示される。sVDはまた、その他の位置でも免疫グロブリン様抗体に組み込むことができる。例えば、sVDはCおよび/またはC定常ドメインのC末端で結合され得る。さらに、図1のようにsVD結合部位の置換と、sVD結合部位のCおよび/またはC定常ドメインのC末端への付加を組み合わせることにより、特定の抗原に対して多重特異性および/または多価のIgG様抗体を生成することができる。
【0013】
当技術分野で公知のように、Fvは2つのドメイン(例えば、VおよびVドメイン)からなる。標準的な抗体では、FvのVおよびVドメインは、会合して抗原結合部位を形成するが、直接結合しているのではなく、各々が結合された抗体定常領域に連結されている。FvのVおよびVドメインはまた、合成リンカーに連結されて単鎖Fv(scFv)を形成することもできる。
【0014】
抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識をさす。例えば、天然の抗体は単一特異性である。二重特異性抗体(BsAb)は、2つの異なる抗原結合特異性または部位を有する抗体である。抗原結合タンパク質が1よりも多くの特異性を有する場合、認識されるエピトープは、単一の抗原と、または1よりも多くの抗原と会合しうる。
【0015】
天然の抗体分子は、同一の2本の重鎖と同一の2本の軽鎖で構成される。各軽鎖は、鎖間ジスルフィド結合により重鎖と共有結合されている。2本の重鎖はさらにヒンジ領域で複数のジスルフィド結合により相互に結合されている。個々の鎖は折り畳まれて同様の大きさ(約110〜125アミノ酸)および構造であるが、異なる機能を有するドメインとなる。軽鎖は1つの可変ドメイン(V)と1つの定常ドメイン(C)を含む。重鎖は1つの可変ドメイン(V)と、抗体のクラスまたはアイソタイプによって、3または4つの定常ドメイン(C1、C2、C3およびC4)を含む。マウスおよびヒトにおいて、アイソタイプはIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGはさらにサブクラスまたはサブタイプに細かく分かれる。VおよびVドメインからなる抗体の部分は「Fv」と名付けられ、抗原結合部位を構成する。単鎖Fv(scFv)は、1本のポリペプチド鎖に1つのVドメインおよび1つのVドメインを含む操作されたタンパク質であり、その一方のドメインのN末端ともう一方のドメインのC末端は、柔軟なリンカーによって連結されている。「Fab」とは、V、V、CおよびC1ドメインからなる抗体の部分をさす。
【0016】
可変ドメインは、抗体間で、特に抗原結合部位の位置で相当なアミノ酸配列の多様性を示す。「超可変領域」または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる3つの領域がVおよびVの各々に見出される。
【0017】
「Fc」は、対になった重鎖定常ドメインを含む抗体の部分の呼称である。IgG抗体では、例えば、FcはC2およびC3ドメインを含む。IgAまたはIgM抗体のFcは、さらにC4ドメインを含む。Fcは、Fc受容体結合、補体媒介性細胞障害および抗体依存性細胞性細胞障害の活性化に関係している。複数のIgG様タンパク質の複合体であるIgAおよびIgMなどの天然の抗体については、複合体形成にFc定常ドメインが必要とされる。
【0018】
最後に、「ヒンジ」領域は抗体のFab部分とFc部分を分離して、Fabの、お互いに対する、さらにFcに対する可動性をもたらすと同時に2本の重鎖の共有結合のための複数のジスルフィド結合を含む。
【0019】
本発明の抗体は望ましい特長の組合せを有する。第1に、それらは本質的に均一である。デザインにより、抗体重鎖と軽鎖の不対合は大幅に減少されるかまたは排除される。例えば、一部の二重特異性抗体は、2つの特異性を提供するために2本の異なる重鎖を用いる。かかる重鎖がIgG型分子に配置される場合には、4通りの組合せが可能である。これらのうちの2通りは、その生成物が単一特異性であるような不対合重鎖からなる。本発明の抗体において、不対合は実質的に排除される。
【0020】
本発明の抗体の第2の特長は、それらが各結合特異性に対して二価であることである。多くの二重特異性抗体は、それに含まれる抗体結合部位の各々に対して一価である。二価性は、結合の協同性、および単一の抗原特異的結合部位を含む分子について結合力の有意な増大を可能にするため、二価であることは抗体機能にとって重要である。
【0021】
本発明の抗体の第3の利点は、天然の抗体のFc領域(例えば、IgG分子のC2および/またはC3)を構成し、その他の抗体機能を提供する1以上の重鎖定常ドメインが存在することである。さらに、定常ドメインにより提供される機能が損なわれないように複数の結合ドメインが定常ドメインから分離されている。定常ドメイン機能には、特定のアクセサリー分子との結合(例えば、細胞表面および可溶性Fc受容体との結合、IgAおよびIgMに関してJ鎖との会合、IgAに関してSタンパク質)、補体経路の活性化(補体依存性細胞障害(cytoxicity)、CDC)、いくつかの異なる白血球集団による、標的細胞と結合した抗体の認識(抗体依存性細胞媒介性細胞障害、ADCC)およびオプソニン化(食作用の促進)が含まれる。また、Fc重鎖定常ドメイン(1または複数)は増加した血清半減期を付与し得る。
【0022】
本発明のタンパク質の第4の利点は、完全な生成物を得るためのインビトロプロセシング要件がないことである。人工的な方法で再配置されているが、各々のドメインは生物系での発現を可能にする天然の特性を有する。例えば、二重特異性抗体は原核生物および真核生物発現系で発現させることができる。生成されるタンパク質は実質的に二重特異性である。
【0023】
本発明の抗体における使用のためのsVD抗原結合部位およびFv領域含有結合部位は、多様な方法により得ることができる。選定された結合ドメインのVおよび/またはV部分のアミノ酸配列は天然に存在する抗体から得ることができ、あるいは所望の結合特性について選択または修飾され、スクリーニングされ、または選定される。例えば、Vおよび/またはVドメインは、所望の結合特性を有するモノクローナル抗体から直接得ることができる。あるいは、Vおよび/またはVドメインは、選択哺乳類由来のV遺伝子配列のライブラリー由来のものであってよい。かかるライブラリーの要素は、Vおよび/またはVドメインのランダムな組合せを示し、任意の所望の抗原を用いてスクリーニングされて所望の結合特性を有する要素が特定される。特に好ましいものはヒトV遺伝子ライブラリーである。かかるスクリーニングのための方法は当技術分野で公知である。あるいは、選定された非ヒト供給源由来のVおよび/またはVドメインを、ヒト定常ドメインを含むキメラ抗体に組み込んでもよい。例えば、ヒトへの投与には、VおよびVドメインが非ヒト供給源から選定された1以上の機能性ヒト定常ドメインを含む抗体を使用することが望ましいであろう。定常ドメイン関連機能を最大化するか、または抗体の免疫原性を低下させるため、ヒト定常ドメインが好ましい。
【0024】
あるいは、「ヒト化」されたVドメインを作製することができる。ヒト化可変ドメインは、非ヒト起源の1以上の相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列をヒトフレームワーク領域(FR)にグラフトして構築される。例えば、Jones,P.T.et al.,1996,Nature 321,522−25;Riechman,L.et al.,1988,Nature 332,323−27;およびQueenらの米国特許第5,530,101号参照。ヒト化構築物は、有害な免疫原性特性の排除に、例えば、非ヒト供給源由来の抗原結合ドメインをヒトにおける治療のために使用することが望まれる場合に特に役立つ。可変ドメインは高度の構造的相同性を有し、CDRおよびFRに相当する可変ドメイン内のアミノ酸残基の特定を容易にする。例えば、Kabat,E.A.,et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest.5th ed.National Center for Biotechnology Information,National Institutes of Health,Bethesda,MD参照。よって、抗原結合に関与するアミノ酸は容易に特定される。さらに、グラフトされたCDRを含むヒト化結合ドメインの抗原に対する親和性を保存または増強するための方法が開発された。一つの方法は、受容可変ドメイン中にCDR領域の立体構造に影響を及ぼす外来フレームワーク残基を含めることである。もう一つの方法は、外来CDRを外来可変領域に最も近い相同性をもつヒト可変ドメインの上にグラフトすることである。Queen,C.et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci USA 86,10029−33。CDRは、まず所望のCDR配列を含む重複プライマーを用いて個々のFR配列を増幅させること、そして得られる遺伝子セグメントをその後の増幅反応において連結させることにより、異なるFR上に最も容易にグラフトされる。異なる可変ドメイン上にCDRをグラフトすることは、さらに、アミノ酸配列中のCDRに隣接するか、またはCDRの立体構造に影響を及ぼす折り畳まれた可変ドメイン構造中のCDRにパッキングされた(packed)アミノ酸残基の置換を伴ってよい。そのため、本発明のヒト化可変ドメインには、1以上の非ヒトCDRを含むヒトドメインならびに結合特性を保存または増強するためにさらなる置換または置き換えがなされているかかるドメインが含まれる。
【0025】
本発明の抗体はまた、抗体を免疫系に対して自己として現れさせるために表面露出残基を置き換えることにより免疫原性を低くさせた可変ドメインを用いることができる(Padlan,E.A.,1991,Mol.Immunol.28,489−98)。抗体はこのプロセスにより親和性を失うことなく修飾された(Roguska et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci USA 91,969−973)。抗原結合部位の近傍のアミノ酸残基の内部パッキングは不変のままであるので、親和性は保存される。免疫原性の低下を目的とする、本発明による表面露出残基の置換は、結合特性に影響を及ぼすCDR残基または隣接残基の置換を意味しない。
【0026】
本質的にヒトである可変ドメインを用いることが多くの場合好ましい。ヒト結合ドメインは、ヒト重鎖および軽鎖可変ドメインの組合せが線維状ファージの表面に提示されるファージディスプレイライブラリーから得ることができる(例えば、McCafferty et al.,1990,Nature 348,552−54;Aujame et al.,1997,Human Antibodies 8,155−68参照)。可変ドメインの組合せは、一般にFabまたはscFvの形で線維状ファージ上に提示される。このライブラリーを、所望の抗原結合特性を有する可変ドメインの組合せを有するファージについてスクリーニングする。好ましい単一ドメインと可変ドメインの組合せは、選定された抗原に対して高親和性を示し、その他の関連抗原に対して交差反応性をほとんど示さない。非常に大きな抗体断片のレパートリーをスクリーニングすることにより(例えば、Griffiths et al.,1994,EMBOJ.13,3245−60参照)、良好な多様性の高親和性結合ドメインが単離され、多くは所望の抗原に対してナノモル以下の親和性を有すると予想される。
【0027】
あるいは、ヒト結合ドメインは、再配置されていないヒトIg遺伝子セグメントがその中に導入されており、内因性マウスIg遺伝子を不活化されているトランスジェニック動物から得ることができる(Bruggemann and Taussig,1997,Curr.Opin.Biotechnol.8,455−58に概説)。好ましいトランスジェニック動物には、1Mbを超える大きさの非常に大きな連続したIg遺伝子断片が含まれる(Mendez et al.,1997,Nature Genet.15,146−56)が、中程度の親和性をもつヒトMabは、より小さな遺伝子座を含むトランスジェニック動物から作製することができる(例えば、Wagner et al.,1994,Eur.J.Immunol.42,2672−81;Green et al.,1994,Nature Genet.7,13−21参照)。
【0028】
sVD結合部位は、抗原特異的Fv領域(VドメインおよびVドメインの両方を含む)から得ることができる。多くの場合、Fv領域の結合親和性および特異性は、主に可変ドメインのうちの1つによって寄与されることが示され得る。あるいは、scFvを直接得てもよい。sVDの直接供給源には、Vドメインのみを含有する抗体を自然に発現する哺乳類(例えば、ラクダ科動物)、および単一可変ドメインだけを発現するよう構築されたファージディスプレイライブラリーが含まれる。例えば、ヒトドメイン抗体ファージディスプレイライブラリーは、Domantis(Cambridge,UK)から市販されている。本明細書に例示されるように、PDGFRαに特異的なsVD結合部位は、Vドメインが自然に欠落している変異体を含むFabライブラリーから得た。
【0029】
生理学的免疫応答において、発現抗体遺伝子の突然変異および選定は、それらの標的抗原に高い親和性をもつ抗体の産生を導く。本発明の抗体に組み込まれているVドメインおよびVドメインを、同様に、インビトロ突然変異およびスクリーニング手順に付して高親和性の変異体を得ることができる。よって、本発明の結合ドメインには、直接突然変異によるかまたは親和性成熟方法により結合特性が改善された結合ドメインが含まれる。親和性および特異性は、CDRを変異させ、所望の特性を有する抗原結合部位についてスクリーニングすることにより変更または改良することができる(例えば、Yang et al.,1995,J.Mol.Bio.254,392−403参照)。単一ドメイン抗体結合の一次決定基であるアミノ酸残基は、Kabatに定義されるCDRの中にあってよいが、同様にその他の残基、例えば、例として、そうでなければV−Vヘテロ二量体のV−V界面(interface)に埋もれるであろう残基などを含んでよいことが理解される。CDRまたは結合を決定するその他の残基は多様な方法で変異される。一つの方法は、その他の点では同一の抗原結合部位の集団において、全20個のアミノ酸またはそのサブセットが特定の位置に見出されるように、個々の残基または残基の組合せをランダム化することである。あるいは、突然変異をエラープローンPCR法によりCDR残基の範囲にわたって誘導させる(例えば、Hawkins et al.,1992,J.Mol.Bio.226,889−96参照)。結合ドメインをコードする遺伝子を含むファージディスプレイベクター(例えば、重鎖および/または軽鎖可変領域遺伝子)は、大腸菌のミューテーター株で増殖させることができる(例えば、Low et al.,1996,J.Mol.Bio.250,359−68参照)。これらの突然変異誘発法は当業者に公知の多くの方法の実例である。
【0030】
本発明の抗体の各可変ドメインは、完全な免疫グロブリン重鎖または軽鎖可変ドメインであってよく、あるいは、天然に存在するドメインの機能的同等物または変異体または誘導体、あるいは、例えば、WO 93/11236号(Medical Research Council/Griffiths et al.)に記載されるものなどの技法を用いてインビトロで構築される合成ドメインであってよい。例として、1以上のアミノ酸を欠損している抗体可変ドメインに相当するドメインを組み込むことが可能である。特性を表す重要な特長は、各可変ドメインが相補可変ドメインと会合して抗原結合部位を形成する能力である。
【0031】
本発明の抗原結合タンパク質は、任意のエピトープ、抗原性部位またはタンパク質のための結合部位を有する。特に注目されるものは疾患の治療に有用な抗体である。好ましい抗体は、受容体タンパク質、例えば血管新生および/または腫瘍形成に関与する受容体などを中和する。受容体を中和するとは、シグナルを形質導入する受容体の内因性キナーゼ活性を不活性化することを意味する。受容体中和について信頼できるアッセイは、受容体リン酸化の阻害である。本発明は、何らかの特定の受容体中和機構に制限されない。いくつかの可能性のある機構としては、リガンドと受容体の細胞外結合ドメインの結合の阻止、および受容体の二量体化またはオリゴマー化の阻止が挙げられる。しかし、その他の機構を除外することはできない。
【0032】
内皮細胞または非内皮細胞、例えば腫瘍細胞のサンプルにおける受容体の活性化の中和は、インビトロで行われてもインビボで行われてもよい。受容体発現細胞のサンプルにおいて受容体の活性化を中和することは、細胞を本発明の抗体と接触させることを含む。インビトロでは、細胞サンプルにVEGFを添加する前、添加と同時に、または添加した後に細胞を抗体と接触させる。インビボでは、哺乳類への投与により本発明の抗体を受容体と接触させる。哺乳類への投与方法としては、例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、または筋肉内投与が挙げられる。
【0033】
かかる受容体の例としては、血小板由来増殖因子受容体(PDGF−R)、VEGF受容体(例えば、VEGFR2/KDR/Flk−1、VEGFR1/Flt−1、VEGFR3/Flt−4)、上皮成長因子受容体(EGFR)、インスリン様成長因子受容体(IGFR)および同種類のものが挙げられるが、これらに限定されない。受容体チロシンキナーゼのさらなる非限定的な例としては、Flt−4、HER2/neu、TekおよびTie2が挙げられる。
【0034】
インビボ血管新生および/または腫瘍の増殖の可能性のあるレギュレーターとして意味づけられるその他の因子としては、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、および神経成長因子(NGF)が挙げられる。対応する受容体は、繊維芽細胞増殖因子(FGF−R)、および神経成長因子受容体(NGFR)である。細胞遊走、形態変化、および侵襲性にかかわる別の受容体は、マクロファージ刺激タンパク質受容体(「MSP−R」または「RON」)である。関心対象の受容体としては、ヒトタンパク質およびその他の哺乳類に由来するホモログが挙げられる。
【0035】
本発明の抗体は、任意の供給源由来のIg抗原結合ドメインを組み込むことができる。例えば、抗体は、上に記載される受容体として知られており、本発明の抗体で用いるVおよびVドメインの供給源である。KDRに特異的なscFv可変領域結合ドメインの例としては、例えば、IMC−1C11(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号1および2。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号3および4)(WO00/44777号参照)、IMC−2C6(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号5および6。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号7および8)(WO03/075840号参照)、ならびにIMC−1121(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号5および6。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号9および10)(WO03/075840号参照)のVドメインおよびVドメインが挙げられる。Flt−1に特異的な結合ドメインの例としては、6.12(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号11および12。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号13および14)ならびにIMC−18F1(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号27および28。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号29および30)が挙げられる。
【0036】
EGFRに特異的な結合ドメインとしては、例えば、WO96/40210号に開示されるERBITUX(登録商標)(セツキシマブ;IMC−C225)(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号15および16。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号17および18)ならびにIMC11F8(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号19および20。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号21および22)が挙げられる。IGFRに特異的な結合ドメインの例は、IMC−A12(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号23および24。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号25および26)である。FGF受容体と結合する抗体(WO2005/037235号参照)としては、例えば、FR1−H7(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号31および32。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号33および34)、FR1−A1(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号35および36。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号37および38)、ならびにFR1−4H(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号39および40。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号41および42)が挙げられる。RONまたはMSP−Rと結合する抗体(WO2005/120557号参照)としては、IMC−41A10(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号43および44。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号45および46)ならびにIMC−41B12(Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号47および48。Vのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列:配列番号49および50)が挙げられる。PDGFRαと結合する抗体としては、例えば、3G3および7G11が挙げられる(Loizos et al.,2005,Mol.Cancer Ther.4:369)。
【0037】
さらに、上に記載される結合ドメインの部分、例えばCDR領域などは、本明細書に記載される結合タンパク質を作製するために使用される結合ドメインに組み込むことができる。
【0038】
特定の好ましい抗体は上に記載される受容体の2つと結合する。本発明の実施形態では、二重特異性抗原結合タンパク質は血管新生に関与する2つの異なる受容体チロシンキナーゼと結合し、その活性化を阻止する。そのような一実施形態では、抗体はPDGFRおよびVEGF受容体、例えば、例として、VEGFR2/Flk−1/KDRなどと結合する。そのような別の実施形態では、抗体はKDRおよびFLT−1と結合する。
【0039】
別の実施形態では、本発明の抗体はHER2およびEGFRと結合する。さらにもう1つの好ましい実施形態では、本発明の抗体はEGFRおよびIGFRと結合する。
【0040】
別の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質はEGFRおよびVEGFRと結合する。好ましい実施形態では、VEGFRはVEGFR2である。そのような抗体は、EGFRとVEGFRの両方を経由するシグナル伝達を阻止することによる、血管上皮細胞の刺激の阻止に有用である。これはEGFRリガンド、特に腫瘍細胞に分泌されるTGFαに応答して生じる場合に特に有用である。
【0041】
本発明の抗体を用いて標的細胞上の抗原と免疫系エフェクター細胞上の抗原を架橋することができる。これは、例えば、細胞表面上に特定の関心対象の抗原を有する細胞に対する免疫応答を促進するために有用である。本発明によれば、免疫系エフェクター細胞には、細胞の免疫応答を活性化するT細胞などの抗原特異的細胞および細胞の免疫応答を媒介するマクロファージ、好中球およびナチュラルキラー(NK)細胞などの非特異的細胞が含まれる。
【0042】
本発明の抗体は、免疫系エフェクター細胞の任意の細胞表面抗原の結合部位を有し得る。そのような細胞表面抗原としては、例えば、サイトカインおよびリンホカイン受容体、Fc受容体、CD3、CD16、CD28、CD32およびCD64が挙げられる。sVDによりもたらされる抗原結合部位に加えて、二重特異性抗体にはFvによりもたらされる結合部位が含まれ得る。かかるFvは、コンビナトリアルライブラリーから、ならびに当技術分野で公知のその他の方法により、上述の抗原に対する抗体から得ることができる。サイトカイン受容体およびリンホカイン受容体に特異的な二重特異性抗体も、受容体の天然リガンドの全部または一部に相当するアミノ酸の配列を含む結合部位を含み得る。例えば、細胞表面抗原がIL−2受容体である場合、本発明の二重特異性抗体は、IL−2に相当するアミノ酸の配列を含む抗原結合部位を有し得る。その他のサイトカインおよびリンホカインとしては、例えば、インターロイキン類、例えばインターロイキン−4(IL−4)およびインターロイキン−5(IL−5)、ならびにコロニー刺激因子(CSF)、例えば顆粒球−マクロファージCSF(GM−CSF)、および顆粒球CSF(G−CSF)が挙げられる。
【0043】
本発明の抗体は2本のポリペプチド鎖を発現させることにより作製され、それらは総合して、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合部位を含む。2本のポリペプチド鎖は各々、少なくとも1つの二量体化の可能な重鎖定常ドメインを含む(例えば、C2および/またはC3)。抗体は、各ポリペプチド鎖の先頭に細菌の分泌シグナル配列を含むDNA構築物を用いて、大腸菌において都合よく産生される。多様な細菌のシグナル配列は当技術分野で公知である。好ましいシグナル配列は、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora;軟腐病菌)のpelB遺伝子に由来する。本抗体をコードするDNA断片は、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーターおよび高レベル発現のためのエンハンサーを用いて、哺乳類細胞、例えば、例として、CHO、NS0、COS−7、およびPER.C6細胞など、ならびにリンパ起源の細胞系統、例えばリンパ腫細胞、骨髄腫細胞、またはハイブリドーマ細胞などにおいて、ベクターにクローニングすることができる(例えば、Bendig,et al.,米国特許第5,840,299号;Maeda,et al.(1991)Hum.Antibod.Hybridomas 2,124−34参照)。
【0044】
選択マーカーは、選択培地中で増殖される形質転換宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする遺伝子である。典型的な選択マーカーは、(a)抗生物質またはその他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、またはテトラサイクリンに対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠損を補う、あるいは(c)複合培地から得られない決定的な栄養を供給する、タンパク質をコードする(例えばバチルスのD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。特に有用な選択マーカーは、メトトレキサートに対する耐性を付与する。例えば、DHFR選別遺伝子で形質転換された細胞は、まず、DHFRの競合的拮抗薬であるメトトレキサート(Mtx)を含む培地中で全ての形質転換細胞を培養することにより特定される。野生型DHFRが使用される場合に適切な宿主細胞は、Urlaub and Chasin(1980)Proc.Natl.Acad.Sd.USA 77,4216に記載されるように調製し増殖させた、DHFR活性欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系統である。次に、この形質転換細胞を増加したレベルのメトトレキサートに曝す。これにより、DHFR遺伝子の複数のコピーと、同時に、発現ベクターを含むその他のDNAの複数のコピー、例えば抗体または抗体断片をコードするDNAなどの合成がもたらされる。
【0045】
遺伝子構築物を酵母で発現させることを望む場合、酵母での使用に適した選別遺伝子の例は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である。Stinchcomb et al.(1979)Nature,282,39;Kingsman et al.(1979)Gene 7,141。trp1遺伝子は、トリプトファンで増殖する能力を欠く酵母の変異株に対する選択マーカーを提供する、例えば、ATCC番号44076またはPEP4−1。Jones (1977)Genetics 85,12。酵母宿主細胞ゲノム中にtrp1損傷が存在すると、トリプトファンの非存在下で増殖により形質転換を検出するために効果的な環境がもたらされる。同様に、Leu2−欠損酵母株(ATCC番号20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドで補完される。
【0046】
形質転換宿主細胞は、当技術分野で公知の方法により、炭素(例えば、グルコースまたはラクトースなどの炭水化物)、窒素(例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、または、ペプトン、アンモニウム塩もしくは同種類のものなどのそれらの分解生成物)、ならびに無機塩(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩および/または炭酸塩)の資化可能な供給源(assimilable sources)を含む液体培地中で培養される。培地はさらに、例えば、増殖促進物質(例えば、微量元素、例えば鉄、亜鉛、マンガンおよび同種類のものなど)を含む。
【0047】
増殖因子受容体と結合する抗体は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)活性の活性化を阻止できることが好ましい。チロシンキナーゼ阻害は、周知の方法を用いて、例えば、組換えキナーゼ受容体の自己リン酸化レベル、および/または天然もしくは合成基質のリン酸化を測定することにより決定することができる。よって、リン酸化アッセイは本発明のRTKアンタゴニストを決定する際に有用である。リン酸化は、例えば、ホスホチロシンに特異的な抗体を用いてELISAアッセイで、またはウエスタンブロットで検出することができる。チロシンキナーゼ活性に関するいくつかのアッセイはPanek et al.,J.Pharmacol.Exp.Thera.(1997)283:1433−44 および Batley et al.,Life Sci.(1998)62:143−50に記載されている。
【0048】
さらに、測定されるタンパク質の発現がRTKに媒介される、タンパク質発現の検出のための方法を、RTKアンタゴニストを決定するために利用することができる。これらの方法には、タンパク質発現検出のための免疫組織化学(IHC)、遺伝子増幅の検出のための蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、競合的放射性リガンド結合アッセイ、固体マトリックスブロッティング手法、例えばノーザンブロットおよびサザンブロットなど、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)およびELISAが含まれる。例えば、Grandis et al.,Cancer,(1996)78:1284−92;Shimizu et al.,Japan J.Cancer Res.,(1994)85:567−71;Sauter et al.,Am.J.Path.,(1996)148:1047−53;Collins,Glia,(1995)15:289−96;Radinsky et al.,Clin.Cancer Res.,(1995)1:19−31;Petrides et al.,Cancer Res.,(1990)50:3934−39;Hoffmann et al.,Anticancer Res.,(1997)17:4419−26;Wikstrand et al.,Cancer Res.,(1995)55:3140−48参照。
【0049】
抗体のリガンド結合を阻止する能力は、例えば、インビトロ競合的アッセイにより測定することができる。そのようなアッセイでは、RTKのリガンド(例えば、EGFRに対するEGF)を固定化し、RTKと固定化されたリガンドの結合を競合的に阻害する抗体の有効性を決定するための結合アッセイが行われる。
【0050】
インビボアッセイもRTKアンタゴニストを決定するために使用することができる。例えば、受容体チロシンキナーゼ阻害は、阻害剤の存在下および不在下、受容体リガンドで刺激した細胞株を用いる細胞分裂促進アッセイにより観察することができる。例えば、EGFで刺激したA431細胞(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、Rockville1,MD)を用いてEGFR阻害をアッセイすることができる。別の方法には、例えば、マウスに注入されたヒト腫瘍細胞を用いてEGFR発現腫瘍細胞の増殖の阻害を試験することが含まれる。米国特許第6,365,157号(Rockwell et al.)参照。
【0051】
好ましい本発明の抗体は二重特異性を有し、2つの異なる抗原と同時に結合することが可能である。異なる抗原は異なる細胞上または同じ細胞上に位置し得る。抗原の架橋はインビトロで、例えば、第1の抗原が結合している固体表面を提供し、第1の抗原と第2の抗原(結合タンパク質はこれに対しても特異的である)に特異的な二重特異性抗体を加え、結合した第2の抗原の存在を検出することにより示され得る。
【0052】
好ましい本発明の抗体は、2つの受容体とそれらのそれぞれのリガンド間の相互作用を阻止することが可能である。例えば、KDRおよびFlt−1に特異的な抗体は、VEGFに誘導される細胞遊走ならびにPlGFに誘導される細胞遊走を阻害する。二重特異性抗体における2つの受容体の結合特異性の組合せは、個々の親抗体よりも細胞遊走の阻害に有効であり得る(例えば、Zhu,Z.,WO 2004/003211号参照)。
【0053】
単一特異性の抗体と比較して、二重特異性抗体は、細胞機能のより強力な阻害剤であり得る。例えば、VEGFに刺激される細胞機能、例えば、例として、内皮細胞の増殖など、ならびにVEGFおよびPlGFに誘導されるヒト白血病細胞の遊走などは、2つの標的抗原の一方または両方に対する親和性が低下している場合でさえも、二重特異性抗体により一層効率的に阻害され得る。KDRとFlt−1の両方に対して特異的な(一価の)抗体は、いずれかの標的抗原に対して作られた単一特異性scFvよりもVEGFまたはPlGFに誘導される細胞遊走を一層効果的に阻害することができる(WO2004/003211号)。
【0054】
別の例では、EGFR(またはHer2/neu)とIGFRの両方に対して二重特異性を有し、両方の受容体と結合が可能であり、それらの特異的リガンドとの相互作用を阻止することの可能な抗体は、EFGおよびIGFに刺激される受容体活性化の両方および下流シグナル伝達の中和に用いられる。EGFRかまたはIGFRのいずれかの刺激は、程度は異なるが、Aktおよびp44/42を含む、共通の下流シグナル伝達分子の活性化(例えば、リン酸化)をもたらすことが観察される。特定の腫瘍細胞では、EGFR機能の阻害は、その他の成長因子受容体シグナル伝達経路のアップレギュレーションにより、特にIGFR刺激により補償され得る。1つの受容体と結合し、Aktかまたはp44/42のいずれかのリン酸化を完全に阻止しない抗体を用いる治療と対照的に、EGFRとIGFRの両方と結合する抗体での腫瘍細胞のインキュベーションは、Aktおよびp44/42の両方のリン酸化を阻止する。従って、IGFRシグナル伝達の阻害は、腫瘍増殖の阻害および特定の治療薬に対する腫瘍細胞の感受性の増加をもたらす。
【0055】
そのような共通のシグナル伝達カスケード成分のリン酸化の阻害も、その他のRTK、例えば、RONなどと結合する抗体で観察される。従って、抗原結合タンパク質は、複数のシグナル伝達経路の活性化に起因する細胞増殖または形質転換を特徴とする腫瘍性疾患を治療するために一般に有用である。
【0056】
本発明の抗体は、多様な増殖性障害の治療に有用である。例えば、本発明は、1より多くの受容体チロシンキナーゼを発現し、それを経由して刺激を受ける腫瘍の治療を提供する。その1より多くの受容体を経由する刺激は、各受容体単独の封鎖に非感受性の制御されない増殖をもたらし得る。あるいは、第2の受容体の刺激を、第1の受容体を経由する刺激に応答して観察される活性化に加えることができる。あるいは、個々の受容体からの貢献は増殖性であってよい。上の例の各々において、両方の受容体を阻止する抗原結合タンパク質の存在下で、有意に改善された腫瘍増殖の阻害が観察される。
【0057】
本発明の抗体は、受容体刺激がEGFRパラ分泌および/または自己分泌ループを経由している疾患を治療するために有用である。例えば、EGFR発現腫瘍は、それらの環境中に存在するEGFに対して特徴的に感受性があり、さらに、腫瘍産生EGFまたはTGF−αにより刺激を受け得る。任意の特定の機構に縛られるものではないが、本方法により治療または予防されうる疾患および状態としては、例えば、腫瘍増殖が刺激されるものが挙げられる。そのため、本方法は、血管新生していないか、またはまだ実質的に血管新生していない固形腫瘍を治療するために効果的である。
【0058】
本発明の特定の抗体は、過剰増殖性疾患に関連する血管新生を阻害するために有用である。例えば、腫瘍に関連する血管新生を阻止することにより、腫瘍増殖は阻害されうる。一実施形態では、抗体は腫瘍関連RTKと結合し、腫瘍による血管新生リガンド(すなわちVEGF)の産生を阻害し、また脈管構造の細胞に関連するVEGF受容体と結合してかかる細胞の増殖を阻害する。異なる実施形態では、抗体は複数のVEGF受容体と結合し、VEGFまたはVEGFR(例えば、PlGF)リガンドのその他のリガンドが1種類より多くのVEGF受容体との結合から阻止される。
【0059】
治療されうる腫瘍としては、原発腫瘍および転移性腫瘍、ならびに難治性腫瘍が挙げられる。難治性腫瘍としては、化学療法薬のみ、抗体のみ、放射線のみまたはそれらの組合せを用いる治療に応答できないかまたは抵抗性のある腫瘍が挙げられる。また、難治性腫瘍は、そのような薬剤を用いる治療により阻害されると思われるが、治療を中断してから5年まで、時には10年まで、またはそれよりも後に再発する腫瘍を包含する。腫瘍はEGFRまたはその他のRTKを正常レベルで発現するか、または腫瘍はRTKを、例えば、正常レベルの少なくとも10、100、または1000倍のレベルで過剰発現する。
【0060】
EGFRを発現し、EGFRのリガンドにより刺激される腫瘍の例としては、癌腫、神経膠腫、肉腫、腺癌、腺肉腫、および腺腫が挙げられる。かかる腫瘍は実質的に身体の全ての部分で起こり、それには、例えば、乳房、心臓、肺、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭頚部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、子宮頚部または肝臓が含まれる。本発明に従って治療されうる、EGFRを過剰発現することが観察される一部の腫瘍としては、結腸直腸および頭頚部の腫瘍、特に頭頚部の扁平上皮癌、神経膠芽腫などの脳腫瘍、ならびに肺、乳房、膵臓、食道、膀胱、腎臓、卵巣、子宮頚部、および前立腺の腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。構成的に活性な(すなわち制御されていない)受容体チロシンキナーゼ活性を有することが観察される腫瘍の限定されない例としては、神経膠腫、非小細胞肺癌、卵巣癌および前立腺癌が挙げられる。腫瘍のその他の例としては、カポジ肉腫、CNS腫瘍、神経芽腫、毛細血管芽腫、髄膜腫および脳転移、黒色腫、胃腸癌および腎癌および肉腫、横紋筋肉腫、神経膠芽腫、好ましくは、多形性膠芽腫、ならびに平滑筋肉腫が挙げられる。その他のRTKの過剰発現は同様の増殖不良を生じ得る。例えば、たいていの転移性骨癌は、前立腺、乳房、または肺の原発腫瘍に起因する。前立腺腫瘍は初期にはホルモン依存性でありうるが、そのような依存関係の喪失が、骨へと遊走する細胞のIGFRに媒介される刺激と同時に起こる。
【0061】
また、抗体は、腫瘍以外の過剰増殖性疾患を治療するためにも有用であり、哺乳類へ有効量の本発明の抗体を投与することを含む。本明細書に開示されるように「過剰増殖性疾患」は、EGFRファミリーまたはその他のチロシンキナーゼ受容体のメンバーを発現する非癌細胞の過剰な増殖によって起こる状態として定義される。過剰増殖性疾患により産生された過剰な細胞はRTKを正常レベルで発現するか、またはそれらはRTKを過剰発現する。
【0062】
過剰増殖性疾患の例としては、乾癬、光線性角化症、および脂漏性角化症、いぼ、ケロイド瘢痕、ならびに湿疹が挙げられる。ウイルス感染、例えばパピローマウイルス感染などにより起こる過剰増殖性疾患も含まれる。例えば、乾癬には多くの異なる変形形態および重篤度の程度がある。異なる種類の乾癬は、膿様の水疱(膿疱性乾癬)、重度の皮膚の脱落(乾癬性紅皮症)、水滴様の点(滴状乾癬)および平滑な炎症病変(逆乾癬)などの特性を示す。全ての種類の乾癬(例えば、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症(psoriasis erythrodermica)、関節症性乾癬、類乾癬、掌蹠膿疱症)の治療が、本発明により意図される。
【0063】
本発明によれば、抗体は、疾患の治療のために、化学的にまたは生合成的にその他の薬剤、例えば抗腫瘍薬または血管新生阻害薬とコンジュゲートされ得る。抗体と連結された抗腫瘍薬には、抗体が結合している腫瘍を破壊または損傷させる、または抗体が結合している細胞の環境において腫瘍を破壊または損傷させる、任意の薬剤が含まれる。例えば、抗腫瘍薬は、化学療法薬または放射性同位元素などの毒物である。化学療法薬は従来法を用いて抗体とコンジュゲートされ(例えば、Hermentin and Seiler (1988)Behring Inst.Mitt.82、197−215参照)、それにはペプチドおよび非ペプチドリンカーによるものが含まれる。
【0064】
また、本発明の抗体は、診断目的のためにインビボおよびインビトロで有用な、検出可能なシグナル生成剤と連結することもできる。シグナル生成剤は、外部手段、通常電磁放射の測定により検出できる測定可能なシグナルを生じる。大部分、シグナル生成剤は酵素または発色団であり、あるいは蛍光、燐光またはケミルミネッセンスにより発光する。発色団は、紫外または可視領域の光を吸収する色素を含み、酵素触媒反応の基質または分解生成物であってよい。
【0065】
本発明はさらに、第2の試薬に組み込まれた治療薬もしくは診断薬ととともに抗体の使用を企図する。例えば、結合対の1つのメンバーを本発明の抗体と連結させる。例えば、抗腫瘍薬は、かかる対の第2のメンバーとコンジュゲートされ、その結果抗体が結合している部位に向けられる。好ましい実施形態では、ビオチンを本発明の抗体とコンジュゲートし、それにより、抗腫瘍薬の標的あるいはアビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートされた他の部分がもたらされる。あるいは、ビオチンまたは別のかかる部分は本発明の抗体と連結され、例えば、検出可能なシグナル生成剤がアビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートされている診断系において、レポーターとして用いられる。
【0066】
抗体は、1以上の適したアジュバント、例えば、例として、サイトカイン(例えば、IL−10およびIL−13)など、またはその他の免疫賦活剤、例えば、限定されるものではないが、ケモカイン、腫瘍関連抗原、およびペプチドと組み合わせて投与してよい。しかし、抗体単独の投与が、治療上効果的な方法で腫瘍の進行を防止、阻害または低下させるために十分であることは当然理解される。
【0067】
特定の実施形態では、RTKと結合し、リガンドと結合する別の抗原結合タンパク質と一緒にリガンド結合を阻止する本発明の抗体を投与することが望ましい。リガンド結合抗体は当技術分野で周知であり、例えば、抗VEGF(Avastin(登録商標);ベバシズマブ)が挙げられる。
【0068】
本発明の抗体はまた、化学療法薬または放射性同位元素などの抗腫瘍薬とともに投与する併用療法で使用される。適した化学療法薬は当業者に公知であり、イリノテカン(CPT−11)、アントラサイクリン(例えば、ダウノマイシンおよびドキソルビシン)、メトトレキサート、ビンデシン、ネオカルチノスタチン、シスプラチン、クロラムブシル、シトシンアラビノシド、5−フルオロウリジン、メルファラン、リシンおよびカリチアマイシンが挙げられる。抗体と抗血管新生薬または抗腫瘍薬は、血管新生を阻害し、かつ/または腫瘍増殖を低下させるために有効な量で患者に投与される。抗体はまた、その他の治療計画と、例えば、放射線療法などの治療と組み合わせて投与される。併用療法の例については、例えば、米国特許第6,217,866号(Schlessinger et al.)(Anti−EGFR andibodies in combination with anti−neoplastic agents);WO99/60023号(Waksal et al.)(Anti−EGFR antibodies in combination with radiation)参照。
【0069】
任意の適した抗腫瘍薬、例えば、化学療法薬、放射線またはそれらの組合せなどを使用することができる。当技術分野で公知であるか評価されている抗腫瘍薬は、その標的または作用様式に基づいてクラスに分類することができる。例えば、アルキル化剤には、限定されるものではないが、シスプラチン、シクロホスファミド、メルファラン、およびダカルバジンが含まれる。代謝拮抗薬の例としては、限定されるものではないが、ドキソルビシン、ダウノルビシン、およびパクリタキセル、ゲムシタビン、およびトポイソメラーゼ阻害剤イリノテカン(CPT−11)、アミノカンプトテシン、カンプトテシン、DX−8951f、およびトポテカン(トポイソメラーゼI)およびエトポシド(VP−16)およびテニポシド(VM−26)(トポイソメラーゼII)が挙げられる。放射線に関して、線源は、治療される患者に対して外部(外照射療法−EBRT)かまたは内部(近接照射療法−BT)であってよい。かかる分類は使用する抗腫瘍薬の選択に有用であり得る。例えば、IGFRと結合する抗体は、トポイソメラーゼ阻害剤とともに投与される場合に特に効果的でありうることが観察されている。
【0070】
投与される抗腫瘍薬の用量は、多数の因子に依存し、それには、例えば、薬剤の種類、治療される腫瘍の種類および重篤度ならびに薬剤の投与経路が挙げられる。しかし、本発明が何らかの特定の用量に制限されないことは強調されるべきである。
【0071】
併用療法において、抗体は、治療開始の前、途中、または後に別の薬剤ならびにその任意の組合せとともに、すなわち、抗腫瘍薬治療の開始の前および途中、前および後、途中および前、あるいは前、途中および後に投与される。例えば、腫瘍または腫瘍性疾患の治療には、抗体は放射線療法開始前の1〜30日の間、好ましくは、3〜20日、より好ましくは、5〜12日の間に投与することができる。本発明の好ましい実施形態では、化学療法は抗体療法と同時に、前に、または後に投与される。
【0072】
本発明において、任意の適した方法または経路を用いて本発明の抗体を投与することができ、かつ、所望により、抗腫瘍薬、受容体アンタゴニスト、またはその他の医薬組成物と同時投与することができる。例えば、本発明に従って用いられる抗腫瘍薬投与計画には、患者の腫瘍の状態の治療に最も適していると考えられる任意の投与計画が含まれる。様々な悪性腫瘍が特異的抗腫瘍抗体および特異的抗腫瘍薬の使用を必要とし得、それは患者ごとに決定される。投与の経路としては、例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、または筋肉内投与が挙げられる。投与される抗腫瘍薬の用量は多数の因子に依存し、それには、例えば、抗腫瘍薬の種類、治療される腫瘍の種類および重篤度ならびに抗腫瘍薬の投与経路が挙げられる。しかし、本発明が何らかの特定の方法または投与経路に制限されないことは強調されるべきである。
【0073】
本発明の抗体は、予防または治療の目的のために哺乳類において使用される場合、製薬上許容される担体をさらに含む組成物の形態で投与されることが当然理解される。適した製薬上許容される担体としては、例えば、1以上の水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールおよび同種類のもの、ならびにそれらの組合せが挙げられる。製薬上許容される担体は、結合タンパク質の保存期間または有効性を促進する、湿潤もしくは乳化剤、防腐剤またはバッファーなどの少量の補助物質をさらに含む。注射用組成物は、当技術分野で周知のように、哺乳類への投与の後に有効成分の即時、持続または遅延放出をもたらすように処方される。
【0074】
本発明はまた、治療上有効な量の本発明の抗体を含む、腫瘍増殖および/または血管新生を阻害する、またはその他の疾患を治療するためのキットを含む。ヒトまたはヒト化抗体が好ましい。このキットにはさらに、例えば、腫瘍形成または血管新生に関与する別の増殖因子受容体(例えば、上記のEGFR、VEGFR−1/Flt−1、VEGFR2/Flk−1/KDR、IGFR、PDGFR、NGFR、FGFR、他)の任意の適したアンタゴニストが含まれる。代わりに、またはそれに加えて、本発明のキットは抗腫瘍薬をさらに含んでよい。本発明の文脈において適した抗腫瘍薬の例は本明細書に記載されている。本発明のキットは、さらにアジュバントを含んでよく、例も上に記載されている。
【0075】
また、当技術分野で周知の調査または診断方法のための、インビボおよびインビトロでの本抗体の使用も本発明の範囲に含まれる。診断法には、本発明の抗体を含むキットが含まれる。
【0076】
従って、本受容体結合抗体は、よって、当技術分野で周知の調査、診断、予防もしくは治療方法のためにインビボおよびインビトロで使用することができる。当然、本明細書に開示される本発明の原則の変動が当業者によりなされ得ることが理解され、そのような変更形態も本発明の範囲内にあることが意図される。本明細書中で言及されるすべての参照文献は、参照することによりその全文が組み込まれる。
【実施例】
【0077】
以下の実施例でさらに本発明を説明するが、決して本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。従来法、例えば、ベクターおよびプラスミドの構築、ポリペプチドをコードする遺伝子のかかるベクターおよびプラスミドへの挿入、宿主細胞へのプラスミドの導入、ならびに遺伝子および遺伝子産物の発現およびその定量などに用いられた方法の詳細な説明は、多数の刊行物から得ることができ、それにはSambrook,J et al.,(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press;and Coligan,J.et al.(1994)Current Protocols in Immunology,Wiley & Sons,Incorporatedが含まれる。
【0078】
ファージディスプレイFabライブラリーからのヒト抗mPDGFRα抗体の選定。Dyax製の大型の未処置の(naive)ヒトFabファージディスプレイライブラリー(3.7×1010クローンを含む)を用いてmPDGFRα−Fcタンパク質(R&D Systems (Minneapolis,MN)に対して作成された抗体を選定した。ライブラリーストック(100μl)を、20mlの2YTAG培地中で対数期まで増殖させ、M13K07ヘルパーファージを用いてレスキューし、2YTAK培地(2YTは100μg/mlのアンピシリンおよび50μg/mlのカナマイシンを含む)中で30℃にて一晩増幅させた。ファージ調製物を4%PEG、0.5M NaClに沈殿させた。ファージ調製物を、240μgの非関連ヒトIgGを含む1mlの3%無脂肪乳/PBS中に再懸濁し、37℃で1時間インキュベートして非特異的結合およびmPDGFRαタンパク質のFcタグとの結合を阻止した。
【0079】
選定用チューブをコートするタンパク質の量を減少させながら(それぞれ50、10および2μg)、固定化mPDGFRα−Fcに関して3ラウンドの選定を行った。各選定ラウンドでは、mPDGFRα−FcコートMaxisorp Starチューブ(Nunc,Rosklide,DenMark)を、まず3%乳/PBSで37℃にて1時間ブロッキングし、次いでファージ調製物とともに室温にて1時間インキュベートした。PBST(0.1% Tween20を含むPBS)でチューブを15回洗浄した後、PBSで15回洗浄した。結合したファージを、1mlの新たに調製した100mMトリエチルアミン(Sigma)溶液で、室温にて10分間溶出させた。溶出させたファージを、10mlの対数期中期のTG1細胞とともに37℃にて30分間静置し、30分間振盪させながらインキュベートした。感染したTG1細胞をペレット化し、3枚の2YTAGプレート上に蒔き、30℃にて一晩インキュベートした。プレート上で増殖した全てのコロニーを、3〜5mlの2YTA培地中へかき取り、グリセロール(終濃度:10%)と混合し、等分して、−80℃にて保存した。その後の選定ラウンドでは、前回の選定ラウンド由来のファージストック溶液(100μl)を増幅させ、Maxisorp StarチューブをコートするためのmPDGFRα/Fcの量を減らした上記の手順に従って、選定に使用した。
【0080】
ファージ投入量を評価するために、選定前の10μlのファージを用いてTG1細胞を感染させ、次いで2YTAGプレートで力価を測定した。選定からのファージの回収を評価するため、上記選定手順から溶出したファージで感染させた10μlのTG1細胞の力価を2YTAGプレートで測定した。各選定ラウンドの回収率を計算したところ、コートするmPDGFRα/Fcが減少しているにもかかわらず、連続するラウンドごとに回収率は増加した(第1ラウンド1×10−6%、;第2ラウンド4×10−6%;第3ラウンド2×10−4%)。
【0081】
結合および阻止活性を有する抗体のELISAスクリーニング。2回目および3回目の選定ラウンドの後、各ラウンドから190のクローンをランダムに選び、ファージELISAおよびFab ELISAの両法により結合および阻止活性を試験した。要するに、2回目および3回目の選定ラウンド後に回収された個々のTG1クローンをランダムに選び、96ウェルプレート中で37℃にて培養した。ファージを作製するために、上記のようにM13K07ヘルパーファージを用いて細胞をレスキューした。可溶性Fabを作製するために、1mMのIPTGを含有する2YTA培地中で細胞をインキュベートした。結合ELISA用には、ファージ調製物および可溶性Fabを含有する細胞培養上清を、1/6量の18%乳/PBSを用いて室温にて1時間ブロッキングした。次いでブロッキングされたファージ調製物または細胞培養上清を、mPDGFRα/Fcでコートした(1μg/ml、50μl、4℃にて一晩)96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に加え、室温にて1時間インキュベートした。室温にて1時間のインキュベーションの後、PBSTを用いてプレートを3回洗浄した。
【0082】
ファージELISA用には、プレートを抗M13ファージ抗体−HRPコンジュゲート(Amersham Biosciences)とともにインキュベートした。Fab ELISA用には、プレートを抗ヒトFab抗体−HRPコンジュゲート(Jackson ImmunoResearch Laboratory)とともにインキュベートした。3回洗浄した後、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL,Gaithersburg,MD)を加えることにより発色させ、マイクロプレートリーダー(Molecular Device,Sunnyvale,CA)を用いて、450nMにて吸光度を測定した。ライブラリースクリーニングにおいて結合剤であることが確認されたFc特異的抗体を除去するために、1C11 IgGとの結合についてのELISAも行った。2回目の選定後に選ばれたクローンの77%超、および3回目の選定後に回収されたクローンの99%超がmPDGFRα結合アッセイにおいて陽性であり、選定プロセスの効率が高いことが示唆された。
【0083】
阻止ELISA用には、50μlのファージ調製物またはFab培養物上清を一定量のmPDGFRα−Fc(0.5μg/ml)と混合し、室温にて30分間インキュベートした。次にこの混合物をrhPDGF−AA(0.5μg/ml;R&D Systems,Minneapolis,MN)でプレコートした96ウェルプレートに移し、室温にて1時間インキュベートした。結合したmPDGFRα−Fcタンパク質を定量するため、次にプレートをウサギ抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートとともに室温にて1時間インキュベートし、その後に3回洗浄し、TMSペルオキシダーゼ基質を加えた。結合したmPDGFRα−Fcタンパク質は、450nMでの吸光度を読み取ることにより定量した。阻止活性は、抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートにより検出されるELISAシグナルの低下で示された。mPDGFRαに結合したクローンの約4.2%が、PDGF−AA阻止活性を示した。
【0084】
阻止アッセイの結果に基づき、さらなる試験のために、最初に14のクローン(阻止しない結合剤を対照クローン(3F3)として含む)を選定した。ファージミドDNAを単離し、ジデオキシヌクレオチドシークエンシングによりDNA配列を決定した。VH遺伝子およびVL遺伝子の分類およびアラインメントは、Andrew C.R.Martin’s Bioinformatics GroupのBioinformaticsウェブサイト(www.bioinf.org.uk)およびDNAstarのMagAlignを用いて行った。
【0085】
選定された抗mPDGFRα抗体の分析。14のクローンのうち、9つの特徴のある抗体が明らかとなった(表1)。1C10および1F2の他に、同一のVまたはVは見られなかった。興味深いことに、より強い阻止活性を有する抗体のうちの4つが、不完全な軽鎖を有していた。クローン1F2および1F9は、インフレームV欠失を有していた(リーダーペプチド配列に続いてC配列がある)。クローン1C10および1F2は同じV遺伝子を共有していた。しかし、1C10の配列をコードするVに終止コドンが含まれるため、Cは発現されなかった。クローン3G7はV遺伝子の5’末端に出現する終止コドンを含んでいた。1C10および3G7の双方は、強い阻止を示した。Fab発現および結合活性は非常に低いと思われたが、これは抗ヒト−Fab二次試薬の結合が弱いことにより説明することができる。
【表1】

【0086】
Fabのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を以下に示す。1E10 Vドメイン:配列番号51および52。1E10 Vドメイン:配列番号53および54。1A12 Vドメイン:配列番号55および56。1A12 Vドメイン:配列番号57および58。3B2 Vドメイン:配列番号59および60。3B2 Vドメイン:配列番号61および62。1C10 Vドメイン:配列番号63および64。1C10 Vドメイン:配列番号65および66。3G7 Vドメイン:配列番号67および68。3G7 Vドメインヌクレオチド配列:配列番号69。3G7 Vドメイン:QAW;1F9 Vドメイン:配列番号70および71。1F9 Vドメイン:配列番号72および73。1F2 Vドメイン:配列番号74および75。1F2 Vドメイン:配列番号76および77。図15は、それぞれのドメイン(3G7、1F9、および1F2のV切断または欠失を含む)、ならびにCDR領域の位置を示す。
【0087】
6つのクローンのFab断片を大腸菌HB2151宿主細胞において発現させ、アフィニティークロマトグラフィープロテインGカラムにより精製した。個々の選定クローンのファージミドを用いて、非サプレッサー大腸菌宿主HB2151を形質転換した。HB2151におけるFab断片の発現を、1mMのIPTGを含有する2YTA培地中で細胞を30℃にて培養することにより誘導した。Lu(x)に記載されるように、細胞の周辺質抽出物を調製した。可溶性Fabタンパク質は、製造業者(Amersham Biosciences)のプロトコールに従って、プロテインGカラムを用いて精製した。調製物の純度および分子量を調べるために、精製された抗体をNuPAGE(商標)4〜12% Bis−Trisゲル(Invitrogen)中で電気泳動させ、SimplyBlue(商標)SafeStain(Invitrogen)溶液で染色することにより可視化した。
【0088】
精製された結合タンパク質を、SDS−PAGEにより解析した(図2)。完全軽鎖を有するFabは図2Aに示され、分子量は約50,000である。その一方、1F2および1F9の非還元断片は、標準対照Fabと比較して小さなバンド(−DTT:MW約37,500)を生じた(図2B)。還元性条件下では(+DTT)、2つのバンドは明瞭であり、上部のバンドは正常なサイズのVH−CH1断片と一致し、下部のバンドはCL断片を有する軽鎖と一致したが(MW約12,500)、可変ドメインが欠如していた。
【0089】
抗mPDGFRα抗体によるmPDGFRα結合およびmPDGFRα/PDGF−AA阻止。6つの抗mPDGFRαクローンの可溶性Fab断片を、mPDGFRα/PDGF−AA相互作用の阻止におけるそれらの抗原結合効率および効力について、定量的に比較した。結合アッセイにおいて、FabをまずmPDGFRα/Fc融合タンパク質(1μg/ml)でプレコートした96ウェルプレート中で室温にて1時間インキュベートし、その後ウサギ抗−抗ヒトFab抗体HRPコンジュゲートとともにさらに1時間インキュベートした。次に、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより、プレートに結合した抗体−HRPを定量した。最初のスクリーニング結果に一致して(表1)、1F2 Fabは他の全てのFabタンパク質よりもさらに効率よくmPDGFRαに結合した(図3A)。
【0090】
様々な抗mPDGFRα抗体の結合動態を、BIAcore 3000バイオセンサーを用いる表面プラズモン共鳴により測定し、BIA Evaluation 2.0プログラム(Biacore,Inc.,Uppsala,Sweden)を用いて評価した。親和定数、Kdを、解離速度(koff)/会合速度(kon)の比から計算した。報告された値は、Fabに関しては少なくとも2回の測定、IgGに関しては3回の測定からの平均±S.E.を示す(表2)。結合アッセイに一致して、sVD抗体1F2は、選定された標準Fabである1E10よりも23倍以上高い、約0.5nMというより高い親和性(Kd)を示した。
【0091】
表2において、1F2−2H Fabは、CLとの融合物として発現された第二の同一のVHドメインを含む、操作された二価のFabである。この二価Fabを、大腸菌中で発現させ、プロテインGクロマトグラフィーにより精製した。精製された1F2−2H FabのSDS−PAGE解析では、約50kDの1つの単一タンパク質バンドが示され、それは標準Fab断片のものと類似していた(図5)。二価のFabの親和性は79.5pMであり、一価の1F2 Fabの418pMと比較して5.2倍の増強を示した(表2)。
【表2】

【0092】
阻止アッセイでは、様々な量の抗体を、溶液中の一定量のmPDGFRα/Fc融合物とともに30分間インキュベートし、次いでその混合物をrhPDGF−AAでコートした96ウェルプレートへ移し、1時間インキュベートした。次に、結合したmPDGFRαを、結合した抗ヒトFc−Abを定量することにより定量した。1F2 Fabは、mPDGFRα/PDGF−AAの相互作用を強力に阻止し(図3B)、IC50値は、1F9、1E10および1A11のそれぞれ57nM、140nMおよび220nMと比較して12nMであった。等モルベースでは、二価のFabは、mPDFGRαへの結合および受容体/リガンド相互作用の阻止の両方において、中程度に増強された活性を示した(図6)。
【0093】
完全IgGのクローニング、発現、および精製。VHドメインおよびVLドメインを重鎖発現ベクターであるpDFcと、軽鎖発現ベクターであるpLCκにそれぞれクローニングすることにより、選定されたクローンのFabを全長IgGに変換した。pDFcは、リーダーペプチド配列のコード遺伝子とCH1の間にクローニング部位Hind IIIおよびNhe Iを有する。pLCκは、リーダーペプチド配列とCLの間にクローニング部位Hind IIIおよびBsi WIを有する。要するに、VHおよびVLをコードする遺伝子を、ファージミドDNAからの逆転写PCRにより増幅し、それらのそれぞれの発現ベクターにクローニングした。次に、既に記載されたように、重鎖および軽鎖発現ベクター(VH−pDFcおよびVL−pLCκ)を一過性発現のためにCOS−7細胞にコトランスフェクトした。細胞培養の培地をトランスフェクション後48時間および96時間に回収し、プールした。抗体は、製造業者(Amersham Biosciences)のプロトコールに従って、プロテインAカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより細胞培養上清から精製した。IgGの機能を確認した後、発現されたVH遺伝子とL遺伝子の対を単一発現ベクターにクローニングし、COS−7細胞にトランスフェクトした。抗体精製は上記の通り行った。
【0094】
VHを1つだけ含む1F2 Igから3つのIgG様構築物を作製し(図7参照)、それには4つのVを有する四価の1F2−2H IgG(A)、およびCまたはCいずれかとの融合物として発現された1F2 Vを含む二価の1F2(BおよびC)が含まれた。軽鎖および重鎖を発現するプラスミドを用いて、一過性発現のためにCOS−7細胞をコトランスフェクトした。細胞培養物の上清を用いるELISAにより抗体の発現レベルをモニターした。1F2−2Hの発現は、両方の二価の1F2抗体よりも一貫してより少なく、二価の1F2抗体の約1/4であった。細胞培養物の上清由来の抗体を、プロテインAカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0095】
標準抗体成分を有する遮断剤であるクローン1E10もまた、全長IgGへと変換した。1E10のVおよびV遺伝子を、まずpDFcおよびpLCκにそれぞれクローニングした。上記のように、DNAシークエンシングおよび1E10 IgG結合活性の確認の後、発現されたV/V対を単一発現ベクターにクローニングし、次いでそれを用いてCOS−7細胞にトランスフェクトした後、抗体を精製した。
【0096】
精製された抗体をSDS−PAGEにより解析して調製物の純度および分子量を決定した。二価抗体1F2−CH/CLおよび1F2−CL/CH(分子量約125,000)は、標準IgG(1E10および2B4;図8の左パネル)よりも速く移動した。抗体を電気泳動前にDTTで処理した場合(図8の右パネル)、重鎖および軽鎖成分は分離した。抗体1F2−CH/CLは、1E10および2B4の重鎖に似た重鎖と関連のある上部のバンド、および予想された移動度に近い移動度の、速く移動する下部のバンド(MW約12,500、CLのみ)を有していた。一方、抗体1F2−CL/CHは1E10および2B4の移動度に似た移動度の軽鎖を示す下部のバンド、およびC1−Fcポリペプチドのみに関連のある上部バンド(MW約37,500)を有していた。
【0097】
全長抗mPDGFRα抗体の結合および阻止活性。3つの全ての精製1F2変異抗体、1F2−2H IgG、1F2−CH/CLおよび1F2−CL/CH、ならびに抗体1E10を、ELISAによりmPDGFRαに対する結合親和性について比較した。様々な量の抗体を、mPDGFRα/FcでコートしたELISAプレート中でインキュベートし、次にmPDGFRα−結合抗体を抗ヒトκ抗体HRPコンジュゲートにより検出した。ELISAの結果は、1F2−2H IgGが4つの結合部位を有しているとしても、1F2−2Hの結合活性は両方の二価の1F2 IgG(1F2−CH/CLおよび1F2−CL/CH)よりも約8倍低いことを示す(図9A)。一方、二価の1F2(1F2−CH/CLおよび1F2−CL/CH)は両方とも、ELISA(図9A)およびBIAcore分析(表2)により非常に類似した結合親和性を示した。二価の1F2 IgGの親和性は、親の1F2 Fabから約1等級(magnitude)増加し、1E10 IgGはそのFabから20倍増加した(表2)。全体にわたって、二価の1F2 IgG両方のmPDGFRαに対する結合親和性は、1E10 IgGよりも約1等級高かった(図9Aおよび表2)。
【0098】
抗mPDGFRα抗体を評価するために、定量的阻止アッセイも行った。上に記載されるように、様々な量の抗体を溶液中の一定量のmPDGFRα/Fc融合物とともに30分間インキュベートし、次いでその混合物をrhPDGF−AAでコートした96ウェルプレートへ移し、1時間インキュベートした。次に、結合した抗ヒトFc−Abを定量することにより、結合したmPDGFRαを定量した。結合データに一致して、二価の1F2−CH/CLおよび1F2−CL/CHは1F2−2H IgGおよび1E10 IgGよりも優れた遮断剤であった:IC50値は、1F2−CH/CL、1F2−CL/CH、1F2−2H IgGおよび1E10 IgGそれぞれに対して3.2、2.7、17、および9.6nMであった(図9B)。
【0099】
二重特異性抗体。Maxisorp StarチューブをmVEGFR2−Fc融合タンパク質でコートする以外は上記と同じ手順を用いて、抗Flk−1抗体2B4もDyax Fabファージライブラリーから単離した。2B4のFabはFlk−1に特異的であり、Flk−1/VEGF165の相互作用を阻止した。Fab 2B4のVおよびVドメインは、それぞれ配列番号79および81により提供される。図15は、各ドメインおよびCDR領域の位置を示す。2B4 Fabを、上に記載されるように完全IgG1に変換した。2B4 FabおよびIgGの結合動態を、BIAcore分析により測定した。2B4 FabおよびIgGのmVEGFR2への結合親和性は、それぞれ6.7±3.0nMおよび0.39±0.1nMである。2B4 IgGは、VEGFR2/VEGF165の相互作用を、約3.5nMのIC50値で阻止する(図13B)。
【0100】
ドメインに基づく二重特異性抗体の構築(抗mPDGFRα×抗Flt−1)。ドメインに基づく二重特異性抗体を、2つの型式、つまりscFv−型とFab−型に構築した(図10、AおよびB)。scFv−型では、2B4のVHおよびVL遺伝子をコードするPCR断片をまずオーバーラップPCRを用いてアセンブルした。2B4 VLのCOOH末端を5−アミノ酸リンカー(Ala−Ser−Thr−Lys−Gly、CLドメインのN末端から取得)を介して2B4 VHのNH末端に連結した(図10A)。2B4 VL−VHをコードする、得られる遺伝子を、次にscFv2B4−CH融合物(2B4 VL−2B4 VH−CH1−CH2−CH3から成る)の発現のためにHind III/Nhe Iライゲーションを介してベクターpDFcにクローニングした。次に、scFv2B4−CH発現ベクターを、一過性発現のためのCOS−7細胞のコトランスフェクションにより、上に記載される1F2VH−CL発現ベクターと対にした。
【0101】
Fab−型では、1F2のV遺伝子および2B4のVをまずオーバーラップPCRを用いてアセンブルした。この融合物において、1F2 VのCOOH末端をCの5’末端由来の5−アミノ酸リンカーを介して2B4 Vのアミノ末端に連結した。次に、1F2 VH−2B4 VL−CL−融合タンパク質の発現のために、1F2 VH−2B4 VLをコードする遺伝子をHind III/BsiW I部位を介してベクターpLCκにクローニングした。V発現のために、2B4 V遺伝子を上記のようにpDFcベクターにクローニングした。軽鎖および重鎖を発現するためのプラスミドを、図10Bに表されるように対にして、一過性の発現のためにCOS−7細胞をコトランスフェクトするために使用した。
【0102】
二重結合活性についてELISAによりクローンを試験した後、Ig発現構築物を単一発現ベクターに組み入れ、次いで、デザインされたIgGの一過性発現のためにCOS−7細胞をトランスフェクトするために使用した。抗体は、上記のように細胞培養物の上清から精製した。
【0103】
ドメインに基づく二重特異性抗体の発現および精製。1F2/scFv2B4および1F2−2B4抗体を、COS−7細胞(100〜200mlの細胞培養物)におけるトランスフェクションおよび一過性発現により作製した。抗体を、プロテインAカラムを用いる細胞培養物の上清のアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0104】
精製された二重特異性抗体(1F2/scFv2B4および1F2−2B4)ならびにそれらの親抗体1F2および2B4をSDS−PAGEにより解析した(図8)。未処理の二重特異性抗体(−DTT)の移動度がより低いのは、2B4 IgGおよび分子量位置約125,000にて移動した二価のF2−CH/CLと比較して、それらの分子量が大きい(約175,000)ことと関連していた。4つの抗体それぞれの2つの成分を、DTTで処理した後に別々に分離した。標準IgG(2B4)と比較すると、二重特異性抗体1F2/scFv2B4(VH−CL融合物)の下部のバンドは標準IgG軽鎖に相当する。上部バンドは、scFv−重鎖融合タンパク質(MW約62,500)と相関する。一方、1F2−2B4の上部バンドは標準IgG(2B4)の重鎖に相当し、下部バンドはVH−軽鎖融合物とみられる位置に観察される(MW約37,500)。
【0105】
ドメインに基づく二重特異性抗体の二重特異性。架橋アッセイにおいて、最初に二重特異性1F2−2B4抗体および単一特異性1F2−CH/CLおよび2B4抗体を、まず溶液中のmPDGFRαまたはmVEGFR2とともにインキュベートし、次に第2の受容体(それぞれmVEGFR2またはmPDGFRα)でコートしたマイクロタイタープレートに移し、その後に第1の受容体に対するビオチン標識ポリクローナル抗体とともにインキュベートする。BsAbのみが(親の単一特異性2B4 IgGおよび1F2−CH/CLではない)、2つの標的受容体と架橋することが可能であった。
【0106】
ドメインに基づく二重特異性抗体の抗原結合効率を、固定化mPDGFRαおよびFlk−1で判定した。ELISAでは、二重特異性抗体、1F2/scFv2B4および1F2−2B4はmPDGFRαおよびFlk−1に結合したが、親抗体1F2および2B4ほど効率的でなかった(図12)。しかし、両方の場合で、1F2/scFv2B4と比較して、1F2−2B4抗体の結合のほうがわずかに効率的であった。予想通り、Flk−1特異的抗体2B4はmPDGFRαと結合せず(図12A)、mPDGFRα特異的抗体1F2もFlk−1に結合しなかった(図12B)。二重特異性抗体のmPDGFRαおよびFlk−1への結合動態を、BIAcore機器を用いる表面プラズモン共鳴により測定した(表3)。ELISAの所見と一致して、1F2−2B4抗体は、1F2/scFv2B4抗体と比較して、mPDGFRαおよびFlk−1両方により強い親和性を有する。
【表3】

【0107】
図13は、両方の二重特異性抗体が、mPDGFRαを固定化PDGF−AAとの結合から阻害し(図13A)、1F2/scFv2B4および1F2−2B4に対して推定IC50がそれぞれ9.9nMおよび25.3nMであることを示す。抗体はまた、Flk−1を固定化VEGF165との結合からも阻止し(図13B)、IC50値はそれぞれ9.5nMおよび19.5nMである。予想通り、2B4はmPDGFRα/PDGF−AAの相互作用に対して影響を及ぼさず、一方1F2はFlk−1/VEGF165の相互作用に対して影響を及ぼさなかった。
【0108】
mPDGFα結合およびmVEGFR2結合において、それぞれ単一特異性二価分子である1F2−CH/CLおよび2B4 IgGと比較して二重特異性抗体の結合親和性は低いにもかかわらず(表3)、eEnd.1細胞(mPDGFRαおよびmVEGFR2両方を発現する細胞)上の細胞表面発現受容体との結合を調べた場合、BsAbは親の単一特異性二価抗体のいずれかよりも高い効率を実証した。細胞上の平均蛍光強度(MFI)は、1F2−CH/CL(mPDGFRα結合)、2B4 IgG(mVEGFR2結合)および1F2−2B4IgG(mPDGFRαおよびmVEGFR2結合)それぞれに対して15.7、31および36.9であった。
【0109】
mVEGFR2およびmPDGFRのリガンド誘発活性化の阻害。mVEGFR2およびmPDGFRαの発現は、eEnd.1細胞において、FACS分析を介して示された。細胞を、2B4 IgG、1F2−CH/CLまたは1F2−2B4IgG(10μg/ml)とともに4℃にて1時間インキュベートした後、PE標識ヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson ImmunoResearch Lab.)とともにさらに1時間インキュベートし、Guava Easycyte System(Guava Technologies,Inc.Hayward,CA)で分析した。
【0110】
受容体リン酸化を調べるために、eEnd.1細胞を6cmの皿に蒔き、集密度70〜80%まで増殖させ、その後PBS中で細胞を2回洗浄し、無血清培地中で一晩培養した。最初にこの細胞を様々な抗体とともに37℃にて30分間インキュベートし、その後VEGFまたはPDGF−AAを用いて37℃にて15分間刺激した。細胞を溶解バッファー(50mM Tris−HCl、pH 7.4、150mM NaCl、1% TritonX−100、1mM EDTA、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、0.5mM NaVO、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチン、および1μg/mlアプロチニン)中で1時間溶解させ、その後溶解物を4℃にて10分間、12,000rpmで遠心分離した。抗mPDGFRα(eBioscience,Sandiego,CA)または抗mVEGFR2抗体(Santa Cruz Biotech,Santa Cruz,CA)を用いて、細胞溶解物上清から受容体を免疫沈降させ、その後20μlのProA/G−セファロースビーズ(Santa Cruz Biotech)を添加した。沈殿した受容体タンパク質を4〜12% Nupage Bis−Trisゲル(Invitrogen)上で分離し、ポリ二フッ化ビニリデン膜に移した。ホスホ−mVEGFR2およびホスホ−mPDGFRαを、抗ホスホチロシン抗体−HRPコンジュゲート(Santa Cruz Biotech)を用いるブロット上に検出した。ゲルに負荷した全受容体タンパク質を、mPDGFRαまたはmVEGFR2に対する抗体(両方ともSanta Cruz Biotech製)を用いてアッセイした。
【0111】
図14に示されるように、BsAbはmPDGFRαおよびmVEGFR2受容体のPDGFおよびVEGF刺激リン酸化の両方を阻害し、一方、単一特異性親抗体は、その同種リガンドにより刺激された単一受容体の活性化を阻止したのみであった。対照として、抗EGFR抗体、C225は、いずれの受容体のリガンド刺激活性化に対しても何ら影響を及ぼさなかった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の単一ドメイン抗体に基づく二重特異性抗原結合タンパク質の例を表す模式図である。単一ドメイン(図中、V2で示される)は、他の抗体ドメインのN末端またはC末端との融合により導入することができる。
【図2】mPDGFRα特異的Fabの発現および精製を示す図である。Fabを大腸菌宿主HB2151細胞に発現させ、アフィニティークロマトグラフィーで精製し、SDS−PAGEで解析する。A)同様の分子量の重(V−C1)鎖および軽(V−C)鎖を有する「標準的な」mPDGFRα特異的Fab。B)DTTの存在または不在下で、Vドメインを欠く1F2および1F9 Fab断片ならびに標準的なFab対照。分子量マーカーはキロダルトンで表される。
【図3】精製されたFabの結合および阻止アッセイを表すグラフである。A)精製されたFabのネズミPDGFRαに対する定量的結合ELISA。様々な量のFabを、まずmPDGFRα−Fc融合タンパク質でプレコートした96ウェルプレート中でインキュベートし、それに続いてウサギ抗抗ヒトκ抗体−HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。プレート結合抗体HRPを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量化し、吸光度をA450nmで読み取った。B)精製されたFabによる、mPDGFRαと固定化されたPDGF−AAの結合の阻害。様々な量のFabを、溶液中、一定量のmPDGFRα/Fcとともにインキュベートした。混合物を、PDGF−AAでコートした96ウェルプレート中で、それに続いて抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。次に、結合したmPDGFRαを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量し、吸光度をA450nmで読み取った。示されるデータは、2通りのサンプルの平均±SDを表す。
【図4】本発明の一価および二価のFabの構造を表す図である。
【図5】二価のmPDGFRα特異的Fabの発現および精製を表す図である。Fabを大腸菌宿主HB2151細胞に発現させ、アフィニティークロマトグラフィーで精製し、SDS−PAGEで解析した。二価の1F2−2H Fabを、非還元条件下で標準的なFab(5C5)と比較する。分子量マーカーはキロダルトンで表される。
【図6】精製された抗体の結合および阻止アッセイを表すグラフである。A)精製された抗mPDGFRα一価および二価の1F2 Fab抗体の定量的結合アッセイ。様々な量の抗体をmPDGFRα/Fcでプレコートした96ウェルプレート中でインキュベートし、それに続いて抗ヒトκ抗体HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。次に、プレート結合抗体HRPを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量化し、吸光度をA450nmで読み取った。B)精製されたFab抗体による、mPDGFRαと固定化されたPDGF−AAの結合の阻害。様々な量の抗体を、一定量のmPDGFRα/Fcとともにインキュベートし、混合物をPDGF−AAでプレコートしたプレートに移した。洗浄後、次に、プレートを抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。結合したmPDGFRαを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量し、吸光度をA450nmで読み取った。示されるデータは、2通りのサンプルの平均±SDを表す。2B4は、マウスVEGFR2(Flk1)に対して作られた抗体である。
【図7】1F2に基づく全長IgGの模式図を表す。1F2 VHはCLおよび/またはCHに対する融合タンパク質として表され、四価(パネルA;MW約150,000)または二価(パネルBおよびC:MW約125,000)の抗体が得られる。
【図8】抗mPDGFRα抗体の発現および精製を表す図である。右側のパネルでは、電気泳動の前に抗体をDTT処理した。
【図9】精製された抗体の結合およびリガンド阻止アッセイを表すグラフである。A)精製された抗mPDGFRα抗体の定量的結合。様々な量の抗体を、mPDGFRα/Fcでプレコートした96ウェルプレート中でインキュベートし、それに続いて抗ヒトκ抗体HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。プレート結合抗体HRPを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量化し、吸光度をA450nmで読み取った。B)精製されたFab抗体による、mPDGFRαと固定化されたPDGF−AAの結合の阻害。様々な量の抗体を、一定量のmPDGFRα/Fcとともにインキュベートし、PDGF−AAでプレコートしたプレートに移した。プレートを洗浄し、抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。次に、結合したmPDGFRαを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量し、吸光度をA450nmで読み取った。データは、2通りのサンプルの平均±SDを表す。2B4は、マウスVEGFR2(Flk1)に対して作られた抗体である。
【図10】mPDGFRαおよびflk−1と結合する、選定された1F2に基づく四価の二重特異性抗体の模式図を表す。A)1F2/scFv2B4と名付けられたIgG様抗体。1F2 VはCに対する融合物として表され、2B4はCに対するscFv融合物として表される。B)1F2−2B4と名付けられたIgG様抗体。1F2 Vは2B4 Vのアミノ末端の融合物として表される。
【図11】1F2に基づく二重特異性抗体の発現および精製を表す図である。抗体を哺乳類細胞に発現させ、アフィニティークロマトグラフィーで精製し、SDS−PAGEで解析した。電気泳動の前にDTTを用いて/用いずに(+/−)抗体を処理した。分子量マーカーはキロダルトンで表される。
【図12】精製された抗mPDGFRα×抗Flk−1二重特異性抗体の定量的結合アッセイを表すグラフである。A)様々な量の抗体を、まずmPDGFRα/Fcでプレコートした96ウェルプレート中でインキュベートし、それに続いて抗ヒトκ抗体HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。B)様々な量の抗体を、まずFlk−l/Fcでプレコートした96ウェルプレート中でインキュベートし、それに続いて抗ヒトκ抗体HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。示されるデータは、2通りのサンプルの平均±SDを表す。
【図13】精製された二重特異性抗mPDGFRα×抗Flk−1二重特異性抗体の阻止アッセイを表すグラフである。A)精製された二重特異性抗体による、mPDGFRαと固定化されたPDGF−AAの結合の阻害。B)精製された二重特異性抗体による、Flk−1と固定化されたVEGF165の結合の阻害。両方のアッセイにおいて、様々な量の抗体を溶液中、一定量の受容体(mPDGFRα/FcまたはFlk−1)とともにインキュベートし、リガンド(PDGF−AAまたはVEGF165)でプレコートしたプレートに移した。次に、プレートを抗ヒトFc抗体−HRPコンジュゲートとともにインキュベートした。次に、結合したmPDGFRαを、ペルオキシダーゼ基質を添加することにより定量し、吸光度をA450nmで読み取った。示されるデータは、2通りのサンプルの平均±SDを表す。
【図14】二重特異性1F2−2B4IgGによる、PDGFおよびVEGFに刺激される受容体リン酸化の阻害を表す図である。eEnd.1細胞をまず様々な抗体で37℃にて30分間インキュベートし、それに続いてVEGFまたはPDGFで37℃にて15分間刺激した。細胞溶解後、抗mPDGFRαまたは抗mVEGFR2抗体で、それに続いてProA/G−セファロースビーズとともにインキュベートすることにより、細胞溶解物上清から受容体を免疫沈降させた。沈殿した受容体タンパク質を4〜12%Nupage Bis−Trisゲル上で分離させ、ポリ二フッ化ビニリデン膜に移した。抗ホスホチロシン抗体−HRPコンジュゲートを用いてホスホ−mVEGFR2およびホスホ−mPDGFRαをブロット上に検出した。ゲルに負荷した全受容体タンパク質を、mPDGFRαまたはmVEGFR2に対する抗体を用いてアッセイした。
【図15】いくつかの同定されたFabタンパク質のVおよびVドメインのアミノ酸配列を表す。Fab 1E10、1A11、3B2、1C10、3G7、1F9、および1F2を、ネズミPDGFRαと結合するFab−ファージについてのスクリーニングで同定した。Fab 2B4はネズミVEGFR2と結合するFab−ファージについてのスクリーニングで同定された。^:フレームシフト突然変異;フレームシフト突然変異によりもたらされる停止コドン;@...@:インフレーム欠失。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の第1のポリペプチドと2本の第2のポリペプチドを含んでなる複合体を含む抗原結合タンパク質であって、
各第1のポリペプチドは免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)のN末端に位置する第1の抗原結合部位を有し、前記Cドメインは、免疫グロブリン重鎖の第1の定常ドメイン(C1ドメイン)と安定な会合が可能であり、
各第2のポリペプチドはC1ドメインのN末端に位置する第2の抗原結合部位を有し、前記C1ドメインの後には安定な自己会合の可能な1以上の重鎖定常ドメインが続き、
前記第1の抗原結合部位および前記第2の抗原結合部位の少なくとも1つが、単一の可変ドメイン(sVD)である、
抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記第1および第2の抗原結合部位の両方が、単一可変ドメイン(sVD)である、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記第1および第2の抗原結合部位のうちの一方が、単一可変ドメイン(sVD)であり、前記第1および第2の抗原結合部位のもう一方が、単鎖Fv(scFv)である、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
2本の第1のポリペプチドと2本の第2のポリペプチドを含んでなる複合体を含む抗原結合タンパク質であって、
各第1のポリペプチドは、可変ドメインと定常ドメインで構成される免疫グロブリン重鎖を含み、
各第2のポリペプチドは、可変ドメインと定常ドメインで構成される免疫グロブリン軽鎖を含み、
該2本の第1のポリペプチドと2本の第2のポリペプチドが、安定に会合して免疫グロブリン様分子を形成し、
該免疫グロブリン重鎖の可変ドメインが、免疫グロブリン軽鎖の可変ドメインと安定に会合して第1の抗原結合部位を形成し、
前記第1および第2のポリペプチドのいずれかまたは両方が、第2の単鎖可変ドメイン(sVD)抗原結合部位をN末端またはC末端にさらに含む、
抗原結合タンパク質。
【請求項5】
前記第1の抗原結合部位および前記第2の抗原結合部位が、異なる特異性を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
前記異なる特異性が、異なる抗原上に存在するエピトープに対する、請求項5に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
前記異なる特異性が、同じ抗原上に存在するエピトープに対する、請求項5に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
前記第2の抗原結合部位の前記第1の抗原結合部位が、同じ特異性を有する、請求項1および2のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
前記定常ドメインが、ヒト定常ドメインである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記単一可変ドメインが、ヒトである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
Fc受容体に結合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
補体依存性細胞障害(CDC)をもたらす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)をもたらす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項14】
抗腫瘍薬と結合されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項15】
検知可能なシグナル生成剤と結合されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項16】
前記第1および第2の抗原結合部位の少なくとも1つが受容体チロシンキナーゼ(RTK)に特異的である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項17】
リガンドと受容体チロシンキナーゼの結合を阻害する、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項18】
受容体チロシンキナーゼの活性化を中和する、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項19】
受容体チロシンキナーゼによるシグナル伝達を阻害する、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項20】
受容体チロシンキナーゼがヒトである、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項21】
受容体チロシンキナーゼが、PDGFRα、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3、EGFR、HER2、IGFR、FGFR、NGFR、RON、Tek、およびTie2からなる群から選定される、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項22】
前記第1および第2の抗原結合部位の一方が、PDGFRαに特異的であり、前記第1および第2の抗原結合部位のもう一方が、VEGFR2に特異的である、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項23】
前記第1および第2の抗原結合部位の一方が、VEGFR1に特異的であり、前記第1および第2の抗原結合部位のもう一方が、VEGFR2に特異的である、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項24】
前記第1および第2の抗原結合部位の一方が、IGFRに特異的であり、前記第1および第2の抗原結合部位のもう一方が、EGFRまたはHER2に特異的である、請求項16に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項25】
受容体の活性化を中和するために十分な量で、前記受容体チロシンキナーゼに特異的な請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質を用いて細胞を処理することを含む、受容体チロシンキナーゼの活性化を中和する方法。
【請求項26】
該受容体の活性化を中和するために十分な量で、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質を用いて哺乳類を処理することを含む、血管新生を阻害する方法。
【請求項27】
腫瘍増殖を減少させるために十分な量で、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質を用いて哺乳類を処理することを含む、腫瘍増殖を減少させる方法。
【請求項28】
抗原結合タンパク質が、PDGFRαとVEGFR2とに結合し、PDGFRαのリガンド誘導活性化とVEGFR2のリガンド誘導活性化とを阻害する、請求項26および27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
抗原結合タンパク質が、VEGFR1とVEGFR2とに結合し、VEGFR1のリガンド誘導活性化とVEGFR2のリガンド誘導活性化とを阻害する、請求項26および27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
抗原結合タンパク質が、EGFRとIGFRとに結合し、EGFRのリガンド誘導活性化とIGFRのリガンド誘導活性化とを阻害する、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
抗原結合タンパク質が、HER2とIGFRとに結合し、HER2のリガンド誘導活性化とIGFRのリガンド誘導活性化とを阻害する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
有効量の抗腫瘍薬を投与することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
a)宿主細胞において、
免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)のN末端に位置する第1の抗原結合部位を有する第1のポリペプチドをコードする組換えDNA構築物と、ここで、前記Cドメインは、免疫グロブリン重鎖の第1の定常ドメイン(C1ドメイン)と安定な会合が可能である、
1ドメインのN末端に位置する第2の抗原結合部位を有する第2のポリペプチドをコードする組換えDNA構築物と、ここで、前記C1ドメインの後には安定な自己会合の可能な1以上の重鎖定常ドメインが続く、
をポリペプチドの発現および抗体の形成を可能にするのに十分な時間および方法で同時発現させるステップと、
ここで、前記第1の抗原結合部位および前記第2の抗原結合部位の少なくとも1つが、単一の可変ドメイン(sVD)であり、
b)抗原結合タンパク質を回収するステップと
を含む、
抗原結合タンパク質を作製するための方法。
【請求項34】
構築物が、同じDNA発現ベクター上にある、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
構築物が、異なるDNA発現ベクター上にある、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
宿主細胞が、細菌細胞、酵母細胞または哺乳類細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
抗体が宿主細胞から分泌される、請求項33に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−526857(P2009−526857A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555359(P2008−555359)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/004051
【国際公開番号】WO2007/095338
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(508188662)イムクローン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (23)
【氏名又は名称原語表記】Imclone LLC
【Fターム(参考)】