説明

機能性粒子を用いた触力覚提示システム

【課題】
機能性粒子を使用したブレーキを用いたパッシブ型触力覚提示システムにおける粒子の沈降の問題、および/または、的確な力覚を提示できる必要最小個数数のパッシブな力発生部を用いた力覚提示装置の提供
【解決手段】人間に対し、力感覚を提示する回転関節型リンク機構のパッシブ型力覚提示システムであって、人間が操作する操作部と、前記操作部の位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部の出力を入力して、前記パッシブ型力発生部を制御する制御装置とを備えることを特徴とする装置であり,的確な力覚を提示することができる.機能性粒子の沈降の問題は、ブレーキ力伝達部の機構およびブレーキ回転軸の取り付け方向で解決し、的確な力覚を提示できる必要最小個数数のパッシブな力発生部を用いた力覚提示装置の提供のためには図9のような機構により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーチャルリアリティシステムをはじめ、遠隔操作システムやロボット教示などの工学的分野、またリハビリテーションや運動機能回復訓練など医療、運動生理学、福祉分野において使用され、人間に対して触覚および力感覚を提示するヒューマンインターフェースとしての触力覚提示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、サーボモータなどアクティブなアクチュエータを力発生部に用いた触力覚提示システムは、提示できる自由度の数およびアクチュエータの数にかかわらず多数開発されている。例えば、米国センサブル、テクノロジー社(SensAble Technologies Inc.)製のファントム(PHANToM)(特許文献1)は、回転関節型リンク機構を用いた力覚提示装置で、3台のサーボモータを用いて3次元の力覚提示を実現している。
【0003】
また、FCSコントロールシステムズ社製のハプティックマスター(HapticMaster)(非特許文献1)は、3台のサーボモータを用いており,回転関節および直動関節を用いた3次元の力覚提示システムである。また,本発明者らは,ER流体アクチュエータを用いた3次元触力覚提示システムである三次元上肢リハビリ訓練システムEMUL(非特許文献2)の研究開発を行っている.この他、商用および研究用を含め、アクティブなアクチュエータを用いた触力覚提示システムは数多く開発されている。
【0004】
しかし、触力覚提示システムの力発生部にアクティブなアクチュエータを用いた場合、故障や暴走など不慮の事故により操作する人間に危険が及ぶ可能性がある。また、特別に機構的、電気的、あるいはソフトウェア的に対策を施すことで安全性を高めることは可能であるが、装置やシステムが高価かつ複雑化する上、完全に危険性を排除することは難しい。
【0005】
これに対し、パッシブ型力発生部を用いた触力覚提示システムは、操作者の加えた力に対する抗力のみを提示するため、誤って装置が操作者に危害を加える可能性は全くない。
【0006】
このような、パッシブ型力発生部を用いた触力覚提示については、斉藤らのパウダクラッチを用いた触力覚提示システム(非特許文献3)が開示されている。このシステムは、1台のパウダクラッチを用いて1自由度の力覚を提示している。また、発明者らは粒子系ER流体ブレーキを用いたパッシブ型力覚提示システム(非特許文献4)を研究開発している。
【0007】
しかし、パッシブ型力発生部の発生できる力には制限があるため、ある自由度の力覚を実現するために必要最小限の数の力発生部しか用いていない場合、提示できる触覚、力感覚に制限が生じる。
【0008】
これに対し、ある自由度の力覚を提示するために最小限必要の数よりも多い冗長な数のパッシブ型力発生部を用いることで、最小限必要な数しか用いていない場合には提示できない精密な触覚、力感覚を提示することができる。
【0009】
このような冗長個数のパッシブ型力発生部を用いた触力覚提示システムとして、冗長個数の電磁ブレーキを用いたDavisおよびBookらのPTERがある(非特許文献5)。
【0010】
また、本発明者らは、先にER流体ブレーキ(クラッチを含む)(図1参照)、MR流体ブレーキ(クラッチを含む)(図1参照)を冗長個数用いた力覚提示システムを提案した(特許文献2、非特許文献6).
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】 米国特許第5,587,937号請求書
【特許文献2】 特開2000−322131号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】 Van der Linde R.Q.,Lammertse P.,Frederiksen E.,and Ruiter B.:“The HapticMaster,a New High−Performance Haptic Interface”、In Proceeding of Eurohaptics2002、1−5、2002
【非特許文献2】 古荘純次,小柳健一,片岡次郎,笠潮,井上昭夫,竹中重和:三次元上肢リハビリ訓練システムの開発(第1報:ERアクチュエータを用いた機構およびシステム全体の開発),日本ロボット学会誌,Vol.23,No.5,pp.123−130、2005
【非特許文献3】 斉藤理、小森谷清、村田良司:“パッシブな力覚提示手法−パウダークラッチを用いた力覚提示装置−”、日本機械学会ロボティクス、メカトロニクス講演会’98講演論文集CD−ROM、2AII1−6、1998
【非特許文献4】 Furusho,J.,Sakaguchi,M.,Takesue,N.and Koyanagi,K.:Development of ER brake and its application to passive type force display,Journal of Intelligent Material Systems and Structures,Vol.13,No.7/8,pp.425−429,2002
【非特許文献5】 Davis,H.and Book,W.:“Torque Control of a Redundantly Actuated Passive Manipulator”、In Proceeding of American Control Conference、959−963、1997
【非特許文献6】 古荘純次,小柳健一,董立誠:機能性流体ブレーキを冗長個数用いた力覚提示システム,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2003講演論文集CD−ROM、1P1−2F−E4、2003
【非特許文献7】 古荘純次、小澤拓也、小林弘,原口真:“冗長個数のER流体ブレーキを用いた上肢リハビリ支援システムRedundant−PLEMOの研究開発”、第10回システムインテグレーション部門講演会(SI2009)論文集、1119−1122、2009
【非特許文献8】 古荘純次,原口真:(解説)ロボット・VRおよび理学療法の技術を取り入れた上肢リハビリ支援システムによる訓練とその脳活動を含む評価,バイオメカニズム学会誌,Vol.33,No.2,109−116,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
機能性粒子を用いたブレーキ(あるいはクラッチ)であるパウダーブレーキ(あるいはクラッチ)、MR流体ブレーキ(あるいはクラッチ)、ER流体ブレーキ(あるいはクラッチ)等は、優れたトルク制御特性を持つが、機能性粒子の沈降という問題を持がある。そこで、重力場にたいするブレーキ(あるいはクラッチ)の回転軸の取りつけ方向に制限がある。
【0014】
パウダーブレーキ(ありはクラッチ)においては、磁性体からなる機能性粒子と空気の比重差が非常に大きい等のため回転軸を水平にして使用するよう規定されている。水平回転軸周りの回転運動は、重力場に沿った上下方向の粒子拡散効果を持ち、粒子の沈降を防ぐ効果を持つ。
【0015】
MR流体とは磁場でそのレオロジー特性が制御できる流体である。MR流体は磁性体からなる機能性粒子とシリコンオイル、鉱物油等からなる溶媒の混合物であり、粒子と溶媒の比重差が大きい。そこで、沈降の問題を完全に解決することはできない。その結果、MR流体を用いたブレーキ(あるいはクラッチ)においては、図1に示すように,回転軸を水平にして使用することにより、重力場において回転運動による上下方向の拡散効果を持たせて使用することが望ましい。
【0016】
触力覚提示システムは、実世界において体験する触覚、力感覚の頻度の高いものに対して、優れた触力覚提示性能を持つことが要求される.
【0017】
最も基本的なものとして、運動方向の逆方向の力覚を提示する場合がある。例えば、粘性場における運動を実現する際には、常に運動方向の逆方向の力覚を提示する必要がある。
【0018】
直動スライド機構によるパッシブ型触力覚提示システムでは、各スライド機構を直交させることで、運動方向の逆方向の力覚を提示することは容易に実現できる。しかし、直動スライド機構はシステムの複雑化、肥大化を招き、また、機械インピーダンスが大きく,動きにくい。
【0019】
そこで、一般的に触力覚提示システムには回転関節型リンク機構が用いられる。しかし、回転関節型リンク機構による冗長個数のブレーキ(クラッチを含む)を有しないパッシブ型触力覚提示システムでは、運動方向の逆方向の力を提示できないリンク姿勢がしばしば発生する(非特許文献7)。
【0020】
非特許文献7に示すように、冗長個数のパッシブ型力発生部を用いることで、この課題は解決可能である。
【0021】
しかし、このようなシステムは多くのブレーキ(クラッチを含む)を必要とするため、装置やシステムが複雑化するという課題があり、システムの複雑化を避けるためには、ブレーキの数を減らすことが要求される。すなわち、冗長個数のブレーキ(クラッチを含む)を用いることなく操作部の運動方向の逆方向の抵抗力をシステムの姿勢によらず提示可能とすることが望まれる。
【0022】
本発明は、機能性粒子を用いたブレーキ(クラッチを含む)を使用したパッシブ型の触力覚提示システムにおける以上のような課題の解決、すなわち、機能性粒子の沈降問題の解決、および/または、冗長個数のブレーキ(クラッチを含む)を用いることなく操作部の運動方向の逆方向の抵抗力をシステムの姿勢によらず提示可能とする、ことにより、長期安定性のある、および/または、少ない数のブレーキで自然な力触感が提示できる、パッシブ型触力覚提示システムの実現のためになされた発明である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題の一つである機能性粒子の沈降の問題を解決するため、ブレーキ(クラッチを含む)の回転軸はほぼ水平となるように設置し、ブレーキトルクを触力覚提示部である操作部へ伝達する機構にワイヤー・プーリーシステム、傘歯車機構等を用いて、必要とする触力覚提示のために必要とする回転方向に変換する。ただし、バックラッシュ、ガタ等は触力覚を大きく損なうため、例えば、傘歯車機構においては回転軸の軸方向に与圧をかける等の方法、ワイヤー・プーリーシステムにおいてはテンショナーを設ける方法等の導入を行う。
【0024】
上記課題のもう一つである少ない数のブレーキ(クラッチを含む)で自然な力触感を提示する課題を解決するため、本発明は、全ての姿勢において、操作部の自由度に等しい数のブレーキ(クラッチを含む)を用いた力発生部を用いて、各ブレーキ(クラッチを含む)の動作によって操作部に発生する力の方向が,ブレーキ力伝達部にリニアガイド,傘歯車等を用いることにより図2に示すように直交するような触力覚提示システムを、回転関節型リンク機構を用いた触力覚提示システムにより提供する。これにより、少ない数のブレーキ(クラッチを含む)で,全ての姿勢において操作部の運動方向と逆向きの力が発生可能となる。
【0025】
図2は,操作部の自由度が平面2自由度の場合について,2つのブレーキ,ブレーキAとブレーキBを用いた際に,ブレーキAとブレーキBの動作方向が直交している状態を示している。直線6はブレーキAの動作方向を示す直線であり,直線7はブレーキBの動作方向を示す直線である.このとき速度ベクトルV8の方向に操作部が運動すると、ハッチングでその力提示可能範囲10を示す範囲の方向の抵抗力が提示可能である.図からわかるように、ブレーキの動作方向が直交しているとき、操作部の自由度に等しい数のブレーキを用いて、操作部の運動方向によらず、運動方向の逆方向の力が常に発生できる。
【0026】
図3は,操作部の自由度が平面2自由度の場合について,ブレーキAとブレーキBの動作方向が直交していない状態を示している。このとき速度ベクトルV8の方向に操作部が運動すると、操作部の自由度に等しい数のブレーキを用いても,斜線で示す範囲10の方向の力しか提示できない。すなわち、運動方向の逆方向の力が提示できない。
【0027】
本発明は具体的には、人間に対し力感覚を提示する回転関節型リンク機構のパッシブ型触力覚提示システムであって、人間が操作する操作部と、前記操作部の位置を検出する位置検出部と、操作部の自由度の数と同じ数よりなるブレーキ(クラッチを含む)を用いたパッシブ型力発生部を用いて各パッシブ型力発生部の動作によって前記操作部に対する力としてそれぞれ直交する抗力をかけることができるブレーキ力伝達部と、前記位置検出部の出力を入力して、前記パッシブ型力発生部を制御する制御装置とを備えることを特徴とする、および/または,機能性粒子の沈降を防ぐため回転軸の方向を変換するためのバックラッシュやガタ等の無い駆動伝達系を備えることを特徴とする。パッシブ型力発生部には、ER流体やMR流体等の機能性流体ブレーキ(クラッチを含む)、パウダブレーキ(クラッチを含む)等を用いることができる。
【0028】
本発明で使用できるパッシブ型力発生部としては,例えば,流体を用いた機構がある.図1は,ER流体またはMR流体など,外的な場(電場,磁場)によってレオロジー特性の変化する機能性流体を用いたパッシブ型力発生部の例を示す.図1はその機能性流体を用いたパッシブ型力発生部の断面図を示している.図1(a)には円盤タイプ,図1(b)には円筒タイプを示す.本体3と出力部4の間隙に機能性流体5が充填される.機能性流体5の外的な場を変化させることで,出力軸1に抵抗力が発生する.出力部4は,多重円筒,または多重円盤とすることで,発生力を増大させることができる.
【発明の効果】
【0029】
上記のように本発明は、機能性粒子を用いたパッシブ型触力覚提示システムにおいて機能性粒子の沈降問題の回避、および/または、回転関節型リンク機構において自由度の数に等しい数のブレーキを用いて、すなわち冗長個数のブレーキ(クラッチを含む)は用いないで、システムの姿勢によらず、運動方向の逆方向の力覚を提示可能な触力覚提示システムに関するものであり、システムの長期安定性、低コスト化、触力覚提示性能の向上などを図るものである。
【0030】
本発明は、回転関節型リンク機構を用いることで、システムのコンパクト化に加え、操作部から見た等価慣性が低い、操作部からのバックドライブ性がよい、機械損失が少ない、機構が操作の邪魔にならないなど操作性と制御性に優れている、という利点がある.
【0031】
また、本発明は、自由度の数に等しい数のブレーキしか用いないため、触力覚提示システムを簡単な機構によって構成することが可能であり、システムを低コスト化、コンパクト化することができる。
【0032】
さらに、上記触力覚提示システムに用いるパッシブ型力発生部は、操作者が操作部に加える操作力に抗する反力のみを発生するため、故障や暴走など不慮の事故により触力覚提示システムが操作者に危害をおよぼす可能性はなく、安全な触力覚提示システムが提供される。
【0033】
このように、本発明は優れた力覚提示性能、簡単な機構とそれによるシステムの低コスト化およびコンパクト化、安全性、長期安定性等を実現させることができる.
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】機能性流体ブレーキの概念図である.このシステムの本体を回転可能とすると、機能性流体クラッチとなる。
【図2】平面2自由度の場合のブレーキ力の発生方向が直交している場合の図である。
【図3】平面2自由度の場合のブレーキ力の発生方向が直交していない場合の図である。
【図4】2次元の触力覚提示システムの上面図。2個のパウダーブレーキを用いており、ワイヤー・プーリーによりブレーキトルクが伝達される。
【図5】駆動伝達部に傘歯車等を用いた2次元の触力覚提示システム
【図6】駆動伝達部にリニアガイド等を用いた2次元の触力覚提示システムの上面図
【図7】各ブレーキの作用方向が直交している場合の図
【図8】駆動伝達部にリニアガイド等を用いた2次元の触力覚提示システムの図面
【図9】駆動伝達部にワイヤー・プーリー等を用いた2次元の触力覚提示システムの上面図
【図10】駆動伝達部に傘歯車等を用いた2次元の触力覚提示システム
【符号の説明】
1 出力軸
2 出力接続部
3 本体
4 出力円筒(あるいは円盤)
5 機能性流体
6 ブレーキ1の動作方向を示す直線
7 ブレーキ2の動作方向を示す直線
8 操作部の運動方向ベクトル
9 操作部
10 力提示可能範囲
11,12,13,14,30,31,32,33,41,42,45,45,46,59,60,77,78,87,88,103,104,105,106,107,108,109,110 リンク
15 固定回転軸
16、17、20、21、22、28、26,27、84,85、92、95、98、101 プーリー
18 把持部を含むアーム部
19、25、91、97 ワイヤー
24、30、35、37、40、49、63,65、75、83、94、100、112、115 ブレーキ(クラッチを含む)
34、39、111 傘歯車機構
44、62、73 リニアガイド
51、52、54,55、57,58、117,118,119 傘歯車
74 カウンターウエイト
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に関する触力覚提示システムの第1実施形態について,図4を用いて説明する。
【0036】
2次元の触力覚提示システムの上面図である。2個のパウダーブレーキ等を用いており、ワイヤー・プーリーによりブレーキトルクが伝達される。リンク12とプーリー16、リンク14とリンク17は多重回転軸により結合されている。ブレーキ30、ブレーキ24は、機能性粒子の沈降の影響を減らすため、その回転軸が水平となるように取り付けられている。プーリー20、21、26、27は、自由回転するプーリーである。プーリー20、26はテンショナーとしての役割も持っている。プーリー28、22は回転軸の方向を90度変換するためのプーリーである。
【0037】
本発明の上記の第1実施形態から下記の第6実施形態までは、上肢リハビリに使用される際には、訓練あるいは評価目的に応じて操作面(操作部が動く平面)を傾けて使われることもある。
【0038】
本発明に関する触力覚提示システムの第2実施形態について,図5を用いて説明する。2次元の触力覚提示システムの上面図である。4個のパウダーブレーキ等(内1個はクラッチ)を用いており、冗長個数のブレーキを用いたシステム(特許文献2および非特許文献5〜非特許文献8)である。ブレーキ(内1個はクラッチ)の回転軸は、全て機能性粒子の沈降の影響を減らすため、水平となるように取り付けられている。リンク12の回転は、平行リンク機構および回転軸53により傘歯車機構39に伝えられる。リンク14の回転は、平行リンク機構および回転軸50により傘歯車34に伝えられる。回転軸36の回転に対してブレーキ35がブレーキトルクを発生する。回転軸38の回転に対してブレーキ40がブレーキトルクを発生する。回転軸36と回転軸38の回転の差に対してブレーキ(クラッチ)37がブレーキトルクを発生する。リニアガイドのスライド部を符号44、リニアガイドの移動部を符号43で示す。図から分かるように、リンク12およびリンク14が回転するとき、スライド部44は回転し、移動部はスライド部上を移動する。スライド部44の回転は平行リンク機構を通じて回転軸56に伝えられ、傘歯車減速機構47を回転させる。傘歯車の回転軸48はブレーキ49に接続されており、ブレーキトルクが伝達される。傘歯車機構は、一つの傘歯車を軸方向に移動可能としバネ等で与圧をかける方法等により、バックラッシュやガタなどを減らしている。このシステムは、冗長個数のブレーキを用いているため広い範囲の抵抗力が提示可能であり、脳卒中等のリハビリ訓練における抵抗誘導の手法(非特許文献8)をこのシステムで実現することができる。
【0039】
次に、操作部の運動方向の逆方向の力が、運動方向や操作部の姿勢にかかわらず常に提示可能な最小数のブレーキを用いた触力覚提示システムについて考える。本発明に関する触力覚提示システムの第3実施形態について,図6を用いて説明する。
【0041】
図6は,本発明に関する第3実施形態の回転関節型リンク機構の平行リンク型2次元触力覚提示システムの上面図である.操作部9を人間が操作する.固定回転軸(多重軸構造)15にリンク11,12,13,14よりなる平行リンク型触力覚提示システムが取り付けられている.また、リンク59、リンク60、リンク12の左上部、リンク14の右上部は、平行四辺形を形成している。ただし,図中に示す寸法A,B,a,bの比は、A:B=a:bを満たすものとする. 固定回転軸(多重軸構造)にはリニアガイド62が取り付けられ、左右に回転可能となっている。リニアガイド上を移動する移動部61には、リンク59およびリンク60が回転軸を介して取り付けられている。リニアガイド62と固定部(システムのベース)の間には、回転型のブレーキ63が取り付けられている。ブレーキ65は,リンク12とリンク14の相対回転角度に対して作用する。図中の一点鎖線は、ブレーキ65が動作時の操作部の運動方向を示す。図から分かるように、ブレーキ63のみが動作した際には、把持部は一点鎖線と直交する方向に運動する。
【0042】
図7は,2種類のリンク姿勢(実線および破線で示す)におけるブレーキ63およびブレーキ65による力の作用方向ベクトルを矢印で示している.図から分かるように,図6の機構を用いることにより,各ブレーキの作用方向66および作用方向67は直交している。また、破線の姿勢においても、各ブレーキの作用方向68および作用方向69は直交している。すなわち,図6の機構を用いることにより,操作部の運動方向の逆向きの力が常に提示可能である.
【0043】
本発明に関する触力覚提示システムの第4実施形態を図8に示す。図8は、図6でその概念図を示したシステムとほぼ同じであるが、次の点で異なる。すなわち、図6のブレーキ64(図8ではブレーキ83)は、リニアガイドスライド部62に直接取り付けられてはおらず、図8に示すようにリンク77およびリンク78を介して取り付けられている。図8(a)は上面図であり、図8(b)は見取り図である。操作部9の下部にはテフロン等の摩擦係数が小さいものが用いられており、滑らかなテーブル上を動く。脳卒中の片麻痺患者等では、操作部を強く下に押しつけながら把持部を動かすことが多いため、このようなテーブル等の導入が必要となる。本発明の第1実施形態から下記の第6実施形態までにおいては、上肢リハビリに使用される際には、訓練あるいは評価目的に応じて上記テーブルおよびシステム全体を傾けて使うこともある。
【0044】
図4のシステムにおいては,ブレーキ24およびブレーキ30の作用方向は,大部分の姿勢に対して直交しない.すなわち,図4の機構を用いた際には,図3に示すように、操作部の運動方向の逆向きの力が提示可能でない状況がしばしば発生する。一方、図6、図8に示すシステムにおいては、使用しているブレーキの個数は2個であるにもかかわらず、各ブレーキの作用方向が常に直交しているため、操作部の運動方向の逆向きの力が常に提示可能である。
【0045】
本発明に関する触力覚提示システムの第5実施形態について,図9を用いて説明する。
【0046】
図9は,本発明に関する第5実施形態の回転関節型リンク機構の平行リンク型2次元触力覚提示システムの上面図である.操作部9を人間が操作する.固定回転軸(多重軸)15にリンク11、12、13,14よりなる平行リンク型触力覚提示システムが取り付けられている。さらに、リンク11、14、87,88も平行リンクを形成している。本実施形態と図6の第3実施形態の差は、本実施形態ではブレーキの回転軸を水平とするためにワイヤー・プーリー機構が導入されている点にあり、他はほぼ同様である。
【0047】
図9のリンク14とプーリー85は回転軸で結合されている。リニアガイド90とプーリー84は部材86を介して結合されている。リニアガイド90の上をその移動部89が運動する。リンク87、リンク88の一端は、回転軸を介してリニアガイド上の移動部89に取り付けられている。その結果、リニアガイド90の回転を止めてリンク11とリンク14を相対的に回転させるとき、操作部は図中に1点鎖線で示す直線上を運動する。また、リンク11とリンク14の相対回転を止めてリニアガイド90を固定回転軸15の回りに回転させるとき、操作部は円周方向(1点鎖線と直交する方向)に運動する。リニアガイド90の回転(すなわちプーリー84の回転)は、ワイヤー91を介してブレーキ94に伝えられる。プーリー92の回転軸93は水平となっており、ブレーキ94に取り付けられる。プーリー95は軸96の回りを自由回転するアイドラーであり、テンショナーとしての役割も果たす。リンク11とリンク14の相対回転は、ワイヤー97を介してブレーキ100に伝えられる。このワイヤー・プーリー機構は、ブレーキ94のワイヤー・プーリー機構と同様である。ブレーキ100の回転軸は水平となっている。以上により、操作部の運動方向の逆方向の抵抗力が必ず提示可能となり、機能性粒子の沈降問題にも対応可能となる。
【0048】
本発明に関する触力覚提示システムの第6実施形態について,図10を用いて説明する。
【0049】
図10(a)は,本発明に関する第6実施形態の回転関節型リンク機構の平行リンク型2次元触力覚提示システムの上面図である.操作部9を人間が操作する.固定回転軸(多重軸)15にリンク11、12、13,14よりなる平行リンク型触力覚提示システムが取り付けられている。また、回転軸間の距離AおよびBは、A=Bを満たすものとする。リンク12が固定回転軸15の回りを回転するとき、平行リンク機構によりリンク105およびリンク106が回転する。また、リンク14が固定回転軸15の回りを回転するとき、平行リンク機構によりリンク109およびリンク110が回転する。図中の111は傘歯車機構を示す。また、図中の112および115はブレーキを示す。
【0050】
図10(b)および図10(c)は、ブレーキ関連の伝達機構の正面図を示す。傘歯車機構111内の傘歯車117と傘歯車119の歯数は等しいものとする。このとき、リンク105の回転角速度と回転軸120の回転角速度は、符号が逆になり絶対値は等しくなる。その結果、図10(a)の1点鎖線の方向に操作部を動かす時、ブレーキ115のみが動作し、1点鎖線の方向と直交する方向に操作部を動かす時、ブレーキ112のみが動作する。すなわち、操作部の運動方向の逆方向の力が常に提示可能である。
【0051】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の様態を採用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間に対し、力感覚を提示する触力覚提示システムであって、人間が操作する操作部と、前記操作部の位置および/または姿勢を検出する検出部と、回転軸が水平あるいは水平より±30度以内の傾きを持つ回転型ブレーキ(あるいはクラッチ)よりなるパッシブ型力発生部と、前記パッシブ型力発生部から前記操作部に力を伝達するバックラッシュやガタ等の無いブレーキ力伝達部と、前記検出部からの前記位置および/または前記姿勢の情報を入力して、前記パッシブ型力発生部を制御する制御部とを備えることを特徴とするパッシブ型触力覚提示システム。
【請求項2】
人間に対し、力感覚を提示する触力覚提示システムであって、人間が操作する操作部と、前記操作部の位置および/または姿勢を検出する検出部と、操作部の自由度の数と同じ数よりなる、前記操作部に対する力に対してそれぞれ直交する抗力をかけることができるパッシブ型力発生部と、前記パッシブ型力発生部から前記操作部に力を伝達するブレーキ力伝達部と、前記検出部からの位置および/または前記姿勢の情報を入力して、前記パッシブ型力発生部を制御する制御部とを備え、触力覚提示システムの基台から操作部に至る機構を回転関節型リンク機構とすることを特徴とするパッシブ型触力覚提示システム。
【請求項3】
人間に対し、力感覚を提示する触力覚提示システムであって、人間が操作する操作部と、前記操作部の位置および/または姿勢を検出する検出部と、操作部の自由度の数と同じ数よりなる、前記操作部に対する力に対してそれぞれ直交する抗力をかけることができる回転軸が水平あるいは水平より±30度以内の傾きを持つ回転型ブレーキ(あるいはクラッチ)よりなるパッシブ型力発生部と、前記パッシブ型力発生部から前記操作部に力を伝達するバックラッシュやガタ等の無いブレーキ力伝達部と、前記検出部からの前記位置および/または前記姿勢の情報を入力して、前記パッシブ型力発生部を制御する制御部とを備え、触力覚提示システムの基台から操作部に至る機構を回転関節型リンク機構とすることを特徴とするパッシブ型触力覚提示システム。
【請求項4】
パッシブ型力発生部に、MR流体等の機能性粒子を含む機能性流体を使用したブレーキ(あるいはクラッチ)を用いた請求項1に記載の触力覚提示システム。
【請求項5】
パッシブ型力発生部に、パウダブレーキまたはパウダクラッチを用いた請求項1に記載の触力覚提示システム。
【請求項6】
パッシブ型力発生部に、MR流体、ER流体等の機能性粒子を含む機能性流体を使用したブレーキ(あるいはクラッチ)を用いた請求項2に記載の触力覚提示システム。
【請求項7】
パッシブ型力発生部に、パウダブレーキまたはパウダクラッチを用いた請求項2に記載の触力覚提示システム。
【請求項8】
パッシブ型力発生部に、MR流体、ER流体等の機能性粒子を含む機能性流体を使用したブレーキ(あるいはクラッチ)を用いた請求項3に記載の触力覚提示システム。
【請求項9】
パッシブ型力発生部に、パウダブレーキまたはパウダクラッチを用いた請求項3に記載の触力覚提示システム。
【請求項10】
パッシブ型力発生部に、MR流体、ER流体等の機能性流体を使用したブレーキ(あるいはクラッチ)を用いた請求項3に記載の触力覚提示システム。
【請求項11】
パッシブ型力発生部に、パウダブレーキおよび/またはパウダクラッチを用いた請求項3に記載の触力覚提示システム。
【請求項12】
駆動伝達部に、リニアガイドおよび/または傘歯車および/またはワイヤー・プーリーシステムを用いた請求項1〜11に記載の触力覚提示システム。
【請求項13】
駆動伝達部に、リニアガイドおよび/または傘歯車を用いた請求項1〜11に記載の触力覚提示システム。
【請求項14】
駆動伝達部に、傘歯車および/またはワイヤー・プーリーシステムを用いた請求項1〜11に記載の触力覚提示システム。
【請求項15】
駆動伝達部に、歯車および/またはリニアガイドおよび/または傘歯車および/またはワイヤー・プーリーシステムおよび/またはワイヤー・ベルトシステムを用いた請求項1〜11に記載の触力覚提示システム。
【請求項16】
請求項1〜15に記載の触力覚提示システムを、上肢リハビリを目的として、システム全体を傾斜可能とした触力覚提示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−170828(P2011−170828A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51061(P2010−51061)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504019711)
【Fターム(参考)】