説明

機能性繊維構造体およびその製造方法および衣料

【課題】機能剤を含む機能性繊維構造体であって、洗濯耐久性に優れた機能性繊維構造体およびその製造方法および前記機能性繊維構造体を含む衣料を提供する。
【解決手段】単繊維の横断面において放射状にスリットを有するスリット繊維を含む繊維構造体であって、前記スリットに機能剤が含まれることを特徴とする機能性繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能剤を含む機能性繊維構造体であって、繰り返し洗濯した後においても機能剤による機能が維持される、洗濯耐久性に優れた機能性繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機能剤を含む機能性繊維構造体としては、例えば、光触媒性能やリラックス効果などを呈するものなど種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、これらの機能性繊維構造体は、洗濯耐久性の点においてまだ十分とはいえなかった。
他方、単繊維の横断面において放射状にスリット(溝)を有するスリット繊維が提案されている(例えば特許文献3参照)。本出願人も特願2006−181407号においてスリット繊維を提案した。
【0003】
【特許文献1】特開2005−273068号公報
【特許文献2】特開2004−250804号公報
【特許文献3】特開2004−308021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その課題は、機能剤を含む機能性繊維構造体であって、洗濯耐久性に優れた機能性繊維構造体およびその製造方法および前記機能性繊維構造体を含む衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維の横断面において放射状にスリット(溝)を有するスリット繊維を用いて繊維構造体を得たのち、該繊維構造体に機能剤を付与すると、機能剤が前記スリットに入り優れた洗濯耐久性が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「単繊維の横断面において放射状にスリットを有するスリット繊維を含む繊維構造体であって、前記スリットに機能剤が含まれることを特徴とする機能性繊維構造体。」が提供される。
【0007】
その際、前記スリット繊維の単繊維の横断面において、スリットが50〜500個形成されていることが好ましい。また、前記スリット繊維の単繊維の直径Dが1〜40μmの範囲内であることが好ましい。また、前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの長さL)/(スリット繊維の直径D)の比が0.22〜0.50の範囲内であることが好ましい。さらに、前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの巾の最大値W)/(スリットの長さL)の比が0.01〜0.05の範囲内であることが好ましい。かかるスリット繊維はポリエステル系ポリマーからなることが好ましい。
【0008】
本発明の機能性繊維構造体において、繊維構造体が織物組織または編物組織を有することが好ましい。また、前記機能剤が植物精油であることが好ましい。該機能剤としては、微粒子状の機能剤であり、(該微粒子の粒子径)/(前記スリットの巾の最大値)の比が0.01〜0.5の範囲内であってもよい。その際、機能剤が光触媒性能を有することが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、「アルカリ水溶液に対して溶解速度が互いに異なる2種類のポリマー成分a(溶解速度が速い成分)およびポリマー成分b(溶解速度が遅い成分)が、放射状に交互に接合した複合繊維を用いて繊維構造体を得て、前記ポリマー成分aを溶解除去した後、該繊維構造体に機能剤を付与する、前記に記載の機能性繊維構造体の製造方法。」が提供される。
【0010】
その際、ポリマー成分aとポリマー成分bがいずれもポリエステル系ポリマーからなり、NaOH4%濃度水溶液に対して、(ポリマー成分aの溶解速度)/(ポリマー成分bの溶解速度)の比が500以上であることが好ましい。また、前記ポリマー成分bがポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。一方、前記ポリマー成分aとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させたポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の機能性繊維構造体を用いてなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機能剤を含む機能性繊維構造体であって、繰り返し洗濯した後においても機能剤による機能が維持される、洗濯耐久性に優れた機能性繊維構造体およびその製造方法および前記機能性繊維構造体を含む衣料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の機能性繊維構造体にはスリット繊維が含まれる。かかるスリット繊維とは、その単繊維の横断面において放射状にスリット(すなわち、溝)を有する繊維である。このように、単繊維の横断面において放射状にスリットが形成されていると、該スリットに機能剤が入り込み、優れた洗濯耐久性が得られる。
【0014】
前記スリット繊維の単繊維の横断面において、スリットが50〜500個(より好ましくは150〜350個)形成されていることが好ましい。スリットの個数が50個よりも小さいと、該スリットに入り込む機能剤の量が少なくなり、十分な洗濯耐久性が得られないおそれがある。逆にスリットの個数が500個よりも大きいとスリット繊維の製造が困難となるおそれがある。
【0015】
前記スリット繊維の単繊維の直径Dとしては、1〜40μmの範囲内であることが好ましい。該直径Dが1μmよりも小さいと製造が困難となるおそれがある。逆に、該直径Dが40μmよりも大きいと、繊維構造体の風合いが硬くなるおそれがある。なお、該直径Dは、スリット繊維の断面形状が真円でない場合には、長径と短径の平均値を用いる。
【0016】
前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの長さL)/(スリット繊維の直径D)の比としては0.22〜0.50の範囲内であることが好ましい。該比が0.22より小さいとスリットの溝深さが浅いため、スリットに入った機能剤が洗濯により容易に脱落し、十分な洗濯耐久性が得られないおそれがある。逆に該比が0.50よりも大きいと製造が困難となるおそれがある。
【0017】
また、前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの巾の最大値)/(スリットの長さL)の比が0.01〜0.05の範囲内であることが好ましい。該比が0.01よりも小さいとスリットの巾が小さすぎて機能剤がスリットにはいらないおそれがある。逆に該比が0.05よりも大きいと、スリットの巾が大きすぎてスリットに入った機能剤が洗濯により容易に脱落し、十分な洗濯耐久性が得られないおそれがある。
【0018】
前記スリット繊維を形成するポリマーとしては特に限定されないが、特に繊維形成性のポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。なかでも衣料製品などでは、ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましく、ポリアミドでは、ナイロン6、ナイロン66が好ましい。また、極細繊維織物など、産業資材、医療素材、フィルターなどの浄化デバイスへの適応に関しては、水や酸、アルカリに強いポリスチレン、ポリエチレンなどが耐久性の点で好ましい。
【0019】
本発明の機能性繊維構造体は、前記スリット繊維のみで構成されることが最も好ましいが、繊維構造体重量の60重量%以下であれば他の繊維が含まれていてもよい。その際、かかる他の繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリオキシエチレンベンゾエート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリル、ポリビニルアルコールなどの繊維が好ましい。特に、ポリエチレンテレフタレート繊維などの非弾性ポリエステル繊維が好ましい。もちろん、他の繊維がウール、綿、絹、麻、キュプラ、レーヨン等の再生セルロース繊維であってもさしつかえない。
【0020】
また、本発明の繊維構造体において、その構造としては、織物、編物、不織布、通常の糸条、芯鞘構造を有する混繊糸などが例示される。なかでも、繊維構造体が織物組織または編物組織を有することが好ましい。
【0021】
本発明の機能性繊維構造体は、前記繊維構造体に機能剤を付与したものである。ここで、機能剤としては植物精油や微粒子状の機能剤が容易に前記スリットに入り込み優れた洗濯耐久性が得られ好ましい。
【0022】
ここで、前記植物精油としては、グレープフルーツオイル、フェンネルオイル、ペッパーオイル、ヒソップオイル、セージオイル、エストラゴンオイル、ユーカリオイル、ローズマリーオイル、シンナモンオイル、クローブオイル、イランイランオイル、ジンジャーオイル、ゼラニウムオイル、及びオリバナムからなる群より選択される1種または2種以上の精油を含有するか、またはリモネン、ピネン、ミルセン及びベンジルベンゾエートからなる群より選択される1種または2種以上の活性成分を含有するものが好適である。
【0023】
また、前記微粒子状の機能剤としては、(該微粒子の粒子径)/(前記スリットの巾の最大値)の比が0.01〜0.5の範囲内である機能剤が好ましく、光触媒性能を有する機能剤が特に好ましく例示される。
【0024】
本発明の機能性繊維構造体は、例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、まず、アルカリ水溶液に対して溶解速度が互いに異なる2種類のポリマー成分a(溶解速度が速い成分)およびb(溶解速度が遅い成分)を用いて複合繊維を得る。ポリマー成分bは、ポリマー成分aを溶解除去した後スリット繊維として残る成分である。
【0025】
スリット繊維として残るポリマー成分bとしては前記のポリマーが例示される。一方、溶解除去されるポリマー成分aとしては、特に繊維形成性のポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン、ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリに溶解性しやすいポリマーとしては、ポリエステル系ポリマーでは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。
【0026】
前記ポリマー成分aとポリマー成分bの組合せとしては、いずれもポリエステル系ポリマーからなり、NaOH4%濃度水溶液に対して、(ポリマー成分aの溶解速度)/(ポリマー成分bの溶解速度)の比が500以上(好ましくは500〜2000)であることが好ましい。該溶解速度比は、ポリマー成分aがポリエステル系ポリマーの場合は溶解速度定数の比とした。具体的には、4%NaOH水溶液で95℃にて、減量時間に対する減量率(不溶解重量分率=1−減量率)と処理時間、繊維半径から溶解速度定数を下記式より算出する。
【0027】
【数1】

kは溶解速度定数、Rは不溶解重量分率、tは処理時間、r0は繊維半径である。ポリ
マー成分Bがポリアミド系ポリマーの場合はギ酸で25℃(室温)にて、ポリマー成分B
がスチレンの場合はトルエンで60℃にて、それぞれ24時間測定した溶解速度をいう。
【0028】
前記2種類のポリマーが放射状にそれぞれ交互に接合する複合紡糸口金、例えば、上記ポリマー成分Aの数だけ細孔が設けられた分流板から帯状となるポリマー成分Aを流し、該ポリマー成分Aの間と繊維の中心部、または、さらに複合繊維の外周部にポリマー成分Bが流れるようにした複合紡糸口金を用い、両ポリマーが放射状にそれぞれ交互接合するよう複合化して溶融押出し、これを引取ることによって例えば、図1の写真に示す横断面を有する複合未延伸繊維を紡糸する。
【0029】
得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度、伸度、熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。具体的には60〜190℃、好ましくは75〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー120〜220℃、好ましくは130〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると該繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0030】
次いで、該複合繊維を用いて織物または編物などの繊維構造体を得たのち、該繊維構造体にアルカリ減量加工を施して複合繊維に含まれるポリマー成分Bを溶解除去する。その際、アルカリ減量加工の条件としては、4%程度のNaOH水溶液で95℃程度の温度で加工することが好ましい。
【0031】
次いで、該繊維構造体に機能剤を付与する。ここで、機能剤が例えば植物精油である場合には、精油を0.5〜2重量%含む水分散体に繊維構造体を浸漬し、マングルで絞った後、90〜110℃で5〜10分間乾燥させた後、150〜170℃で0.5〜2分間熱セットすることで、スリット部に機能剤が固着されている、機能性繊維構造体を得ることができる。また、機能剤が光触媒を有する微粒子状の機能剤である場合には、微粒子状の機能剤を0.5〜2重量%、シリコーン系バインダーを1〜3重量%、反応触媒を0.5〜2重量%を含む水分散体に繊維構造体を浸漬し、マングルで絞った後、90〜110℃で5〜10分間乾燥させた後、150〜170℃で0.5〜2分間熱セットすることで、スリット部に機能剤が固着されている、機能性繊維構造体を得ることができる。
【0032】
かくして得られた機能性繊維構造体において、機能剤がスリットに固着されているので繰り返し洗濯した後でも機能剤による機能が維持される。
なお、本発明の繊維構造体には、常法の撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0033】
次に、本発明の衣料は、前記の機能性繊維構造体を用いてなる衣料である。かかる衣料は、前記の繊維構造体を用いているので、優れた洗濯耐久性を呈する。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
【0035】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し温度35℃で測定した。
【0036】
(2)溶解速度比
ポリマー成分aと、ポリマー成分bの各々別々に、孔径0.3mm、ランド長0.6m
mの吐出孔を24ホールを有する紡糸口金にて1000〜2000m/分の速度で紡糸巻
取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、75dtex/2
4フィラメントのマルチフィラメントを作成する。
溶解速度比は、ポリマー成分bの場合は溶解速度定数の比とした。具体的には、後述す
る溶剤にて、減量時間に対する減量率(不溶解重量分率=1−減量率)と処理時間、繊維
半径から溶解速度定数を下記式より算出した。
【0037】
【数2】

kは溶解速度定数、Rは不溶解重量分率、tは処理時間、r0は繊維半径である。スリ
ット形成ポリマー成分のポリエステル系ポリマー(ポリエチレンテレフタレート、ポリブ
チレンテレタレート、ポリ乳酸)の場合は4%NaOH水溶液で95℃にて24時間測定
した溶解速度をいう。
【0038】
(3)スリットの長さL、スリット繊維の直径D、スリットの巾の最大値
ポリマー成分aを溶解除去後のスリット型繊維について、30000倍TEM観察した。繊維直径は、繊維断面における長径と短径の平均値とした。スリットの厚みの最大値とスリットの長さは、任意10本のスリットを選び、最も厚みがある箇所を目視で選び、その箇所の平均値とした。スリットの長さは、スリットの先端部同士を直線で結んだ際の長さとした。
【0039】
(4)荷重−伸長曲線
室温で初期試料長を100mm、引っ張り速度を200m/分として荷重−伸長曲線を
求めた。
【0040】
(5)ばらの香り
試験者3名が官能評価し、3級:香りがある、2級:少し香りがある、1級:香りがない、の3段階評価した。
【0041】
(6)機能剤の平均粒子径
機能剤粒子を透過型顕微鏡で観察し、顕微鏡写真より代表粒子40点を選定。これらの直径の平均を平均粒子径とした。
【0042】
(7)光触媒機能性
繊維構造体2gを、4ppmの硫化水素を含む乾燥空気3Lとともに5Lテドラーバックにいれ、紫外線下24時間放置した後のテドラーバック中の硫化水素濃度を検知管にて測定、硫化水素の減少率を持って光触媒機能性の尺度とした。
【0043】
(8)洗濯耐久性
JIS L0217−103に記載された家庭洗濯法で洗濯することにより洗濯耐久性を評価した。
【0044】
[実施例1]
固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレート(PET:帝人ファイバー(株)製)と、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール4重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートとを各々突起部形成ポリマー成分(ポリマー成分b)、スリット形成ポリマー成分(ポリマー成分a)とし、200の細孔が設けられた分流板から溶融された突起部形成ポリマーが流れ、突起部ポリマー間に溶融されたスリット形成ポリマーが流れるようにした複合紡糸口金から両ポリマーを放射状に交互にそれぞれ200層接合した複合紡出糸条を押出し、これを冷却固化し、紡糸速度1000m/分で一旦巻き取り、未延伸複合繊維糸を得た。その際、突起部成形ポリマー成分:スリット形成ポリマー成分の重量比を70:30、後述する延伸糸の繊度となるようポリマーの吐出量を調整し、紡糸温度を280℃とした。
【0045】
次いで、得られた未延伸複合繊維糸をホットローラー、スリットヒーター系延伸機ローラー延伸し、熱セットして巻き取った。その際、得られる延伸糸が30dtex/6filになるように延伸倍率を調整した。延伸温度は90℃とし、熱セット温度は180℃、延伸倍率は3.3倍とした。
【0046】
次いで、該延伸複合繊維糸を経糸・緯糸の両方に使い、タフタ織物を織成した。このタフタ織物を1g/Lのスコアロール400(花王(株))を含む温度80℃の水に20分間つけ精練した後、180℃で2分間熱セットした。このタフタ織物を4%水酸化ナトリウム水溶液にいれ沸騰状態で30%の重量減量となるまで処理し、繊維直径20.9μm、スリット長さ7.1μm、スリット厚みの最大値0.18μmのスリットを持つスリット繊維のみからなる繊維構造体(織物)を得た。
【0047】
ついで、この繊維構造体を、ばらの精油重量1%を含む水分散体に付け、マングルで絞った後、100℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱セットすることで、スリットにばらの精油(機能剤)が固着されている、機能性繊維構造体を得た。得られた機能性繊維構造体(織物)において、洗濯20回したあとでもばらの香りが楽しめた(3級)。
また、前記繊維構造体を用いて衣料を得たところ、該衣料も同様に洗濯耐久性を有するものであった。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、延伸複合繊維糸のかわりに、丸断面の通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント30dtex/6filを用いること以外は実施例1と同様にした。得られた機能性繊維構造体(織物)において、ばらの香りは洗濯1回で消えてしまった(1級)。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、ばら精油を含む水分散体のかわりに、平均粒子系20nmの酸化チタン微粒子(石原産業(株)STS−100)1重量%、シリコーン系バインダー(信越化学(株)ポロンMF23)2重量%、反応触媒(信越化学(株)LZ−1)1重量%を含む水分散体に付け、マングルで絞った後、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱セットすることで、スリットに微粒子の機能剤が固着されているスリット繊維のみからなる機能性繊維構造体を得た。この機能性繊維構造体の光触媒性能(紫外線下の消臭性能)は、初期99%と良好であり、洗濯30回で94%、洗濯50回でも90%と大変良好であった。
【0050】
[比較例2]
実施例2において、延伸複合繊維糸のかわりに、丸断面の通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント30dtex/6filを用いること以外は実施例1と同様にした。この機能性繊維構造体の光触媒性能(紫外線下の消臭性能)は、初期99%と良好であるものの、洗濯30回で70%、洗濯50回でも40%と洗濯による性能低下が激しいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、機能剤を含む機能性繊維構造体であって、洗濯耐久性に優れた機能性繊維構造体およびその製造方法および前記機能性繊維構造体を含む衣料が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明で用いられる複合繊維の横断面の一例を示す写真である。
【符号の説明】
【0053】
a:溶解速度が速いポリマー成分
b:溶解速度が遅いポリマー成分
A:円周方向
B:放射方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の横断面において放射状にスリットを有するスリット繊維を含む繊維構造体であって、前記スリットに機能剤が含まれることを特徴とする機能性繊維構造体。
【請求項2】
前記スリット繊維の単繊維の横断面において、スリットが50〜500個形成されている、請求項1に記載の機能性繊維構造体。
【請求項3】
前記スリット繊維の単繊維の直径Dが1〜40μmの範囲内である、請求項1または請求項2に記載の機能性繊維構造体。
【請求項4】
前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの長さL)/(スリット繊維の直径D)の比が0.22〜0.50の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項5】
前記スリット繊維の単繊維の横断面において、(スリットの巾の最大値W)/(スリットの長さL)の比が0.01〜0.05の範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項6】
前記スリット繊維がポリエステル系ポリマーからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項7】
繊維構造体が織物組織または編物組織を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項8】
前記機能剤が植物精油である、請求項1〜7のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項9】
前記機能剤が微粒子状の機能剤であり、(該微粒子の粒子径)/(前記スリットの巾の最大値)の比が0.01〜0.5の範囲内である請求項1〜7のいずれかに記載の機能性繊維構造体。
【請求項10】
前記機能剤が光触媒性能を有する、請求項9に記載の機能性繊維構造体。
【請求項11】
アルカリ水溶液に対して溶解速度が互いに異なる2種類のポリマー成分a(溶解速度が速い成分)およびポリマー成分b(溶解速度が遅い成分)が、放射状に交互に接合した複合繊維を用いて繊維構造体を得て、前記ポリマー成分aを溶解除去した後、該繊維構造体に機能剤を付与する、請求項1に記載の機能性繊維構造体の製造方法。
【請求項12】
ポリマー成分aとポリマー成分bがいずれもポリエステル系ポリマーからなり、NaO
H4%濃度水溶液に対して、(ポリマー成分aの溶解速度)/(ポリマー成分bの溶解速
度)の比が500以上である、請求項11に記載の機能性繊維構造体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー成分bがポリエチレンテレフタレートである、請求項12に記載の機能性繊維構造体の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマー成分Bが5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させたポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルである、請求項12または請求項13に記載の機能性繊維構造体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載の機能性繊維構造体を用いてなる衣料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106400(P2008−106400A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291030(P2006−291030)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】