説明

機能性薄膜形成用組成物およびそれを用いた機能性薄膜形成方法

【課題】導電性、帯電防止性、反射防止性など所望の性質を付与するための機能性薄膜を樹脂基材、特にオレフィン系樹脂基材表面に高い密着性で形成し得る機能性薄膜形成用組成物、およびそれを用いた機能性薄膜形成方法を提供すること。
【解決手段】機能性材料、該樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子、および分散媒を含有する、機能性薄膜形成用組成物が提供される。この組成物を樹脂基材に付与して薄膜を形成する工程、およびこの薄膜を有する樹脂基材を加熱する工程を包含する方法により、機能性薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材表面に高い密着性の機能性薄膜を形成するための組成物、それを用いた機能性薄膜の形成方法、および該方法により得られる、機能性薄膜を有する樹脂基材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材に種々の性能、例えば、導電性、絶縁性、撥水性など所望の性質を付与するため、その表面に機能性薄膜を形成することが行われている。これらの機能性薄膜は、通常、該機能性を付与する機能性材料、バインダーなどを含む塗布液を樹脂基材表面に付与することにより形成されている。上記バインダーは、薄膜と樹脂基材との密着性を高めるために塗布液に含有されるが、その性能は不充分である場合が多い。特に、樹脂基材が極性の低い樹脂、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂などのオレフィン系樹脂でなる基材である場合には、得られる機能性薄膜と基材との密着性が特に不充分であるという問題がある。
【0003】
上記問題点を克服する目的で、ウレタン系バインダー、アクリル系バインダー、ポリエステル系バインダーなどが検討されているが、未だ充分な密着性が得られていないのが現状である。別の試みとしては、基材表面にプライマーを塗工した後に上記機能性薄膜を形成するための塗布液を塗工することにより、薄膜と基材との密着性を改良する試みがなされているが、未だ充分な密着性が得られていない。さらに、コロナ処理などによる基材の前処理も検討されているが、やはり、未だ充分な密着性が得られていない。
【0004】
上記基材となるオレフィン形樹脂の他の樹脂との密着性については、非特許文献1に、「特に、弗素樹脂とポリエチレンはSolubility Parameterが異常に低い上、結晶性が高いので接着は最も困難とされている」と記載されている。さらに、非特許文献2によれば、「ポリエチレンは不活性なため、前もって表面を処理しないと印刷インキが付着し難い」と記載されている。
【0005】
上記オレフィン系樹脂は、液晶ディスプレイを始めとするディスプレイ用の光学フィルムに多く使用されているため、その表面に高い密着性の機能性薄膜を容易に形成する技術が望まれている。
【非特許文献1】接着の化学と実際、黄慶雲著、(株)高分子刊行会、1962、44頁
【非特許文献2】K,Rossman;J.Polymer Sci.,19,141(1956)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的とするところは、導電性、帯電防止性、反射防止性、防眩性、絶縁性、撥水性など所望の性質を付与するための機能性薄膜を、樹脂基材、特にオレフィン基材表面に高い密着性で形成し得る機能性薄膜形成用組成物、それを用いた機能性薄膜形成方法、および該方法により得られる、機能性薄膜を有する樹脂基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子を含有する組成物を塗布液とすることにより、機能性薄膜を樹脂基材表面に高い密着性で形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の機能性薄膜形成用組成物は、樹脂基材表面に機能性薄膜を形成するための組成物であって、機能性材料、該樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子、および分散媒を含有する。
【0009】
1つの実施態様によれば、上記樹脂微粒子はオレフィン系樹脂の微粒子である。
【0010】
1つの実施態様によれば、上記機能性材料は導電性ポリマーである。
【0011】
1つの実施態様によれば、上記導電性ポリマーは、以下の式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体である。
【0014】
本発明の機能性薄膜形成方法は、上記機能性薄膜形成用組成物を樹脂基材に付与して薄膜を形成する工程、および該薄膜を有する樹脂基材を加熱する工程を包含する。
【0015】
本発明の機能性薄膜形成方法は、上記機能性薄膜形成用組成物を樹脂基材に付与して薄膜を形成する工程、および該薄膜を有する樹脂基材を加熱および加圧する工程を包含する。
【0016】
本発明はまた、上記方法により得られる機能性薄膜を有する樹脂基材を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導電性、絶縁性、撥水性など所望の性質の機能性薄膜を樹脂基材に高い密着性で形成し得る組成物が提供される。この組成物は、樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子を含有するため、該組成物を樹脂基材に塗布して加熱し、あるいは、加熱および加圧することによって、樹脂基材表面に機能性薄膜が強固に密着する。得られた機能性薄膜を有する樹脂基材は、所望の機能性を有し、光学フィルムなどの広い分野で好適に利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の機能性薄膜形成用組成物(以下、「組成物」という場合がある)は、機能性材料、用いられる樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子、分散媒、および必要に応じてバインダー、導電性向上剤、架橋剤、レベリング剤などを含有する。以下、本発明の組成物に含まれる成分、本発明の組成物、および該組成物を用いた機能性薄膜の形成方法を順次説明する。
【0019】
1.機能性材料
本発明の機能性薄膜形成用組成物に含有される機能性材料は、成形体表面に所望の機能性を付与するための材料である。例えば、目的の機能が導電性であれば、導電性ポリマー、金属、金属酸化物などの導電材料であり、目的の機能が絶縁性であれば、絶縁性樹脂などの絶縁材料であり、目的の機能が色であれば、染料、顔料、および発光体などである。これらの材料は、組成物中の分散媒に溶解するかまたは分散し得る材料であれば特に限定されない。機能性材料の量は特に限定されず、薄膜としたときにその機能が目的のレベルを発現するだけの量であればよい。作業性などを考慮すると、一般には、組成物中に1〜60質量%の割合で含有される。
【0020】
以下、機能性材料が導電性ポリマーである場合を例に挙げて、本発明を説明する。
【0021】
上記導電性ポリマーの種類に特に制限はない。好ましい導電性ポリマーとしてポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびその誘導体、並びにそれらの混合物を挙げることが出来る。中でも以下の式(1):
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体が特に好ましい。
【0024】
2.樹脂微粒子
本発明の組成物に含有される樹脂微粒子は、その表面に機能性薄膜の形成を目的とする樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子である。すなわち、この樹脂微粒子を樹脂基材上に付与して加熱あるいは加熱および加圧することにより、該基材に熱融着することが可能な樹脂微粒子である。具体的には、この樹脂微粒子を含む組成物の薄膜を該基材上に形成し、加熱することにより、あるいは加熱と同時に該薄膜を基材上に押圧することにより、該樹脂微粒子の少なくとも一部が基材の樹脂に融着することが可能であればよい。
【0025】
上記性質を有するためには、この樹脂微粒子が、該樹脂基材と同じ樹脂で構成されているか、または、熱、あるいは熱および圧力によって該基材を構成する樹脂に融着可能であることが必要である。特に、樹脂微粒子と樹脂基材が同じ樹脂で構成されていることが好ましいが、全く同じ樹脂でなくても、熱や熱および圧力によって融着するものであれば用いることができる。一般に、構造および溶解性パラメーターが類似している樹脂であれば熱、あるいは熱および圧力によって融着することが可能である。
【0026】
含有され得る樹脂微粒子の樹脂としては、次の樹脂が挙げられる:ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィドなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9Tなどのポリアミド樹脂;およびアクリル樹脂、ポリスチレン、アクリルニトリルスチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン、塩化ビニル樹脂などのその他の樹脂。
【0027】
上記樹脂微粒子の粒子径は特に限定はされないが、500μm以下が好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。粒子径が500μmより大きい場合は、この樹脂微粒子を含む組成物の各成分を混合して塗布液とした際に、該微粒子の分散安定性が悪くなる場合があり、あるいは、特に薄い厚みの薄膜が必要な場合に粒子径が大きい為に薄く成膜できないという問題が生じる。粒子径は、通常、0.1〜500μm、好ましくは0.1〜50μmである。
【0028】
上記樹脂微粒子の含有量は特に限定されない。含有量が多いほど密着性は上がるので目的とする密着性が得られるだけの量を含有させれば良い。但し、含有量が多すぎると、塗布液の流動性が減少するため、基材表面に付与するのが難しくなる。通常、組成物中に、1〜80質量%、好ましくは5〜60質量%の割合で含有される。
【0029】
上記樹脂微粒子の作製方法は特に限定はされない。市販の樹脂ペレットを遠心粉砕機や冷凍粉砕機などで微粉砕する方法;分級機などにより樹脂微粒子を分級もしくは篩に掛けて、所望の粒子径のものを取り出す方法などが用いられる。
【0030】
3.分散媒
本発明の組成物に含有される分散媒は、機能性材料を溶解または分散し、かつ上記樹脂微粒子を分散可能なものであれば特に制限はなく、水、水系溶剤、有機溶剤のいずれもが使用可能である。
【0031】
水系溶剤の場合は、水と、水に混和可能な有機溶剤との混合溶剤が使用可能である。水に混和可能な有機溶剤は特に制限はないが、例えば、次の溶剤が挙げられる:メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリルおよびそれらの混和物。
【0032】
4.樹脂基材
本発明の組成物によりその表面に機能性薄膜を形成することを目的とする樹脂基材は特に限定されない。樹脂の種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィドなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9Tなどのポリアミド樹脂;およびアクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂などのその他の樹脂を挙げることができる。基材の形状も特に限定されず、フィルム状の基材、板状の基材、その他所望の形状を有する基材が用いられ得る。
【0033】
5.組成物中のその他の成分
5.1 バインダー
本発明の組成物に含有され得るバインダーは、該組成物の成膜性を向上する目的で用いられる。このようなバインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミドなどの単独重合体;スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、およびアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される共重合成分を有する共重合体;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物などが挙げられる。バインダーが含有される場合には、その量は特に限定されないが、通常、組成物中に90質量%以下の割合で含有される。
【0034】
5.2 導電性向上剤
本発明の組成物中の機能性材料が導電性ポリマーの場合、導電性を向上させる目的で、導電性向上剤を含有させることができる。このような導電性向上剤は特に限定されないが、次の化合物が挙げられる:エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなど。これらの中でも、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、およびN−メチルホルムアミドが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記導電性向上剤の含有量は特に限定されない。通常、組成物中に95質量%以下の割合で含有される。
【0035】
5.3 架橋剤
本発明の組成物には、機能性薄膜の強度を向上させる目的で、架橋剤が含有されていてもよい。このような架橋剤としては、メラミン系架橋剤、ポリカルボジイミド系架橋剤、ポリオキサゾリン系架橋剤、ポリエポキシ系架橋剤、ポリイソシアネート系架橋剤などが挙げられる。架橋剤が含有される場合には、その量は特に限定されないが、通常、組成物中70質量%以下の割合で含有される。
【0036】
5.4 レベリング剤
本発明の組成物には、レベリング剤として、界面活性剤、アルコールなどが含有されていてもよい。界面活性剤はレベリング性向上効果、アルコールはレベリング性の向上効果および乾燥性の向上効果を与える。レベリング剤が含有される場合には、その量は特に限定されないが、通常、組成物中に20質量%以下の割合で含有される。
【0037】
6.機能性薄膜形成用組成物および該組成物を用いた機能性薄膜形成方法
本発明の組成物は、上述のように、機能性材料、該樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子、分散媒、および必要に応じてバインダー、導電性向上剤、架橋剤、レベリング剤などを含有する。この組成物は、通常、これらの成分が混合された分散液の状態で利用される。この分散液は、上記成分を、通常の攪拌機などを用いて攪拌・混合することにより、機能性材料およびその他の材料を溶剤中に溶解あるいは分散させ、かつ上記樹脂微粒子を分散させることにより得られる。攪拌・混合時の温度は特に制限されないが、含有される各成分の融点以上であり、かつ沸点以下の温度であることが好ましい。
【0038】
本発明の方法により樹脂基材表面に機能性薄膜を形成するにはまず、所望の種類の樹脂でなり、所望の形状を有する樹脂基材を準備する。この樹脂基材表面に、上記分散液の状態の機能性薄膜形成用組成物(塗布液)を付与し、薄膜を形成する。基材表面への塗布液の付与方法は特に限定されず、当該分野で汎用の方法の中から適宜選択することができる。例えば、スピンコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティングなどが挙げられる。さらに、スクリーン印刷、スプレー印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷などの印刷法も採用することが可能である。
【0039】
基材上に形成される薄膜の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常、加熱または加熱・加圧後の厚みが0.01〜300μmであることが好ましく、0.1〜100μmがより好ましい。0.01μm未満であると機能性を発現し難くなり、300μmを超えてもそれに比例した機能性が得られない。
【0040】
上記樹脂基材表面に形成された分散媒を含む薄膜は、一旦乾燥された後加熱されるか、あるいは加熱することにより、乾燥と加熱とが同時に行われる。さらにまた、加熱とともに加圧がなされてもよい。上記乾燥により薄膜に含まれる分散媒が蒸発・除去され、加熱により薄膜中の樹脂微粒子の少なくとも一部が基材に融着する。融着の温度は、少なくとも樹脂微粒子の熱変形温度以上、好ましくは融点以上の温度である。例えば、樹脂基材および樹脂微粒子がポリエチレンである場合には、好適には75〜150℃、さらに好適には、100〜120℃の温度で加熱が行われる。融着のためには、加圧は必須要件ではないが、加圧を行うことにより樹脂微粒子の融着がより容易となる。加圧を行う場合には、目的とする基材の形状を損なわなければ、特に圧力の上限はない。加圧を行う場合は、通常0.11〜5MPaの圧力が採用される。
【0041】
上記薄膜の乾燥には、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機などが用いられる。これらのうち加熱手段を有する乾燥機(熱風乾燥機、赤外線乾燥機など)を用いると、乾燥および加熱を同時に行うことが可能である。加熱手段としては、上記乾燥機の他、加熱・加圧ロール、プレス機などが用いられ得る。加圧手段としては、プレス機、加圧ロール、加熱・加圧ロールなどを用いることができる。加熱機能を有する加圧手段(例えば、加熱・加圧ロール)を用いると、加熱および加圧を同時に行うことが可能であり、効果的に樹脂微粒子の融着がなされ得る。フィルムなどの製造において、ロールコーティングを行う場合は、コーティングライン上に加圧ロールを設ける事により加圧してもよい。
【0042】
さらにまた、射出成形機、プレス成形機などの成形機の金型表面に塗布液を付与し、樹脂基材の成形と同時に金型から薄膜を樹脂上に転写することも可能である。この場合は、金型からの熱を利用して、薄膜の乾燥および形成された樹脂成形体表面への樹脂微粒子の融着が行われ、プレス成形の場合はプレス機の圧力、射出成形の場合は、樹脂射出時の圧力が融着に利用される。その結果、樹脂基材表面に強固に融着した機能性薄膜を形成することが可能である。上述のように金型表面に塗布液が付与される場合には、好適には、金型温度が30℃〜150℃、好ましくは80℃〜120℃であるときに塗布液を付与し、1秒から10分間、好適には5秒から2分間程度の乾燥を行い、薄膜中に溶媒または分散媒が残留している状態とすることが推奨される。そのことにより、薄膜の基材表面への転写が有利に行われる。
【0043】
このようにして、樹脂基材と組成物中の樹脂微粒子の組み合わせを適宜選択し、かつ所望の機能性材料を用いることにより、所望の機能性薄膜が表面に形成された樹脂基材が得られる。本発明により、例えば、従来、機能性薄膜の形成が困難であったオレフィン系樹脂基材に、所望の機能性薄膜を形成することが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
I.使用原料
I.1 機能性材料
機能性材料を含む水分散液として、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体でなる導電性ポリマーの水分散液である、H.C.スタルク社製のBaytron Pを用いた。本材料は固形分が1.3質量%の水分散体であり、残り98.7%は水である。
【0046】
I.2 樹脂微粒子
樹脂微粒子として、住友精化(株)製のフローセンUF−80(中位粒度:20〜30μm)およびゼオノア微粉末を用いた。なお、ゼオノア微粉末は日本ゼオン(株)製のゼオノア1020Rペレットを遠心粉砕機で粉砕して400メッシュのふるいにかけることにより得た。なお、本ゼオノア微粉末は粒度分布測定を行ったところ、メジアン径は35μmであった。
【0047】
I.3 分散媒
分散媒としては、水を用いた。この水の大半は、Baytron Pに含まれる水であるが、新たに加える水はイオン交換処理をして用いた。
【0048】
I.4 バインダー
バインダーを含む水分散液として、ナガセケムテックス(株)製のガブセンES−210を用いた。本製品は、固形分が25%の水分散体である。
【0049】
I.5 導電性向上剤およびその他の材料
導電性向上剤として、ナカライテスク(株)製のN−メチルピロリドン(試薬1級)を用いた。界面活性剤として互応化学工業(株)製のプラスコートRY−2を用いた。
【0050】
I.6 樹脂基材
樹脂基材として、日本ユニカー(株)製の低密度ポリエチレンフィルムNUC−8160および(株)オプテス製のゼオノアフィルムZF14を用いた。
【0051】
II.評価方法
II.1 表面抵抗率
表面抵抗率は、JIS K7194に従い、三菱化学(株)製ロレスタGP(MCP−T600)を用いて測定した。
【0052】
II.2 全光線透過率
全光線透過率は、JIS K7150に従い、スガ試験機(株)製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。
【0053】
II.3 密着性
薄膜の基材への密着性は、JIS K5400の碁盤目剥離試験に従って評価した。
【0054】
II.4 耐擦傷性試験
基材上に形成された機能性薄膜について、乾拭き試験、水拭き試験、およびメタノール拭き試験を行った。乾拭き試験においては、乾燥した綿棒を準備し、これを用いて薄膜表面の3cmの間隔を、筆圧の高い字を書く程度の力を加えて5往復擦った。水拭き試験においては、水を染み込ませた綿棒、メタノール拭き試験においてはメタノールを染み込ませた綿棒を用いて、同様の操作を行った。
【0055】
基材表面の目視観察を行い、次の4段階の評価を行った:
◎:薄膜に全く傷が付かない;
○:薄膜に僅かに傷が観察される;
△:薄膜に剥がれはないが明確な傷が観察される;
×:薄膜に剥がれが観察される。
【0056】
(実施例1)
表1に示す各成分を混合して、分散液の状態の機能性薄膜形成用組成物(塗布液)を調製した。この塗布液を、基材のポリエチレンフィルム上に、No.28のワイヤーバーで塗布し(ウェット膜厚64μm)、熱風乾燥機にて70℃で5分間乾燥させた。その後、(株)神藤金属工業所製のプレス成形機(AYS−5型)を用い、金型温度110℃、圧力0.3MPaで1分間、薄膜を基材上に押圧するように、加熱および加圧して、機能性薄膜被覆フィルムを得た。得られた機能性薄膜被覆フィルムの性能を評価した。その結果を表2に示す。表2において、「処理前」とは、110℃での加熱・加圧を行う前のフィルムの評価結果を、「処理後」とは、110℃での加熱・加圧を行った後のフィルムの評価結果を示す。
【0057】
以下の実施例および比較例で調製した塗布液の各成分を併せて表1に、そして各実施例および比較例で得られた機能性薄膜被覆フィルムの評価結果を併せて表2に示す。
【0058】
(実施例2〜4)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例1と同様に機能性薄膜被覆フィルムを得、その評価を行った。
【0059】
(比較例1および2)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例1と同様に機能性薄膜被覆フィルムを得、その評価を行った。
【0060】
(実施例5)
表1に示す各成分を混合し、実施例4と同様の塗布液を得た。この塗布液を、基材のポリエチレンフィルム上に、No.28のワイヤーバーで塗布し(ウェット膜厚64μm)、熱風乾燥機にて70℃で5分間乾燥させた。次いで、熱風乾燥機にて120℃で2分間加熱して機能性薄膜被覆フィルムを得、その評価を行った。
【0061】
(実施例6)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製した。この塗布液を、基材のゼオノアフィルムにNo.44のワイヤーバーで塗布して薄膜を形成し(ウェット膜厚101μm)、70℃で5分間、熱風乾燥機にて乾燥させた。その後、(株)神藤金属工業所製のプレス成形機(AYS−5型)を用い、金型温度150℃、圧力0.3MPaで1分間、薄膜を基材上に押圧するように、加熱および加圧して機能性薄膜被覆フィルムを得た。上記熱風乾燥機にて乾燥した後の被覆フィルム、およびプレス機で加熱・加圧した後の被覆フィルムについて、各々の性能を評価した。
【0062】
(実施例7〜9)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例6と同様に機能性薄膜被覆フィルムを得、その評価を行った。
【0063】
(比較例3)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例6と同様に機能性薄膜被覆フィルムを得、その評価を行った。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1〜4および比較例1〜2の結果を参照すると、樹脂微粒子を含む塗布液を用いた実施例1〜4の場合は、形成された機能性薄膜と基材との密着性に優れ、その密着性は、樹脂微粒子の量が多いほど高いことがわかる。これは、加熱・加圧により樹脂微粒子が基材に融着し、その量が多いほど密着性が高くなるためと考えられる。微粒子量の増加とともに耐擦傷性も高くなっており、これは、加熱・加圧により樹脂微粒子同士も強固に融着するため、薄膜の強度が高くなるためであると考えられる。
【0067】
これに対して、樹脂微粒子を全く含有しない比較例1および2の場合は薄膜の密着性に劣る。比較例1においては、バインダーが大量に含有されているが、このバインダーはポリエチレン基材上において薄膜の密着性に寄与していないことがわかる。実施例1〜4において、薄膜の加熱・加圧処理前においては、該薄膜の耐擦傷性はいずれも不充分であったが、加熱・加圧処理後には高い耐擦傷性を示すようになった。これは、加熱・加圧処理により、樹脂微粒子が基材に融着し、かつ微粒子同士が融着し、強固な薄膜が形成されるためと考えられる。
【0068】
機能性薄膜被覆フィルムの全光線透過率は、塗布液付与時には、樹脂微粉末の含有量が高いほど低くなったが、加熱および加圧処理後には上昇傾向が見られた。
【0069】
実施例4で用いるプレス成形機の代わりに熱風乾燥機を用いて加熱・乾燥させる実施例5においては、実施例4と比較して薄膜の密着性がやや低かったが、その他の評価においては、実施例4とほぼ同様であった。従って、加熱を行うことのみで、薄膜中の樹脂微粒子の融着が充分に行われることがわかる。
【0070】
実施例6〜9および比較例3の結果を参照すると、樹脂微粒子を含む塗布液を用いる実施例6〜9の場合は、形成された機能性薄膜と基材との密着性に優れ、その密着性は、樹脂微粒子の量が多いほど高いことがわかる。これは、加熱・加圧により樹脂微粒子が基材に融着し、その量が多いほど密着性が高くなるためと考えられる。実施例6〜9において、薄膜の加熱・加圧処理前においては、該薄膜の耐擦傷性はいずれも不充分であったが、加熱・加圧処理後には高い耐擦傷性を示すようになった。これは、加熱・加圧処理により、樹脂微粒子が基材に融着し、かつ微粒子同士が融着し、強固な薄膜が形成されるためと考えられる。
【0071】
実施例6〜9においても、機能性薄膜被覆フィルムの全光線透過率は、塗布液付与時には、樹脂微粉末の含有量が高いほど低くなったが、加熱および加圧処理後には上昇傾向が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、導電性、帯電防止性、反射防止性、防眩性、絶縁性、撥水性など所望の性質の機能性薄膜を有する樹脂基材を調製するための組成物、それを用いた機能性薄膜の形成方法、および該方法により得られる、機能性薄膜を有する樹脂基材が提供される。本発明によれば、従来、その表面に機能性薄膜を形成することが困難であった樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンなどのオレフィン系樹脂でなる基材表面に、上記所望の機能を有する機能性薄膜を形成することが可能となる。このような機能性薄膜を有する基材は広い分野で利用可能であり、例えば、機能性薄膜を有するオレフィン系樹脂基材は、液晶ディスプレイを始めとするディスプレイ用の光学フィルムなどに広く利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材表面に機能性薄膜を形成するための機能性薄膜形成用組成物であって、
機能性材料、該樹脂基材に熱融着可能な樹脂微粒子、および分散媒を含有する、機能性薄膜形成用組成物。
【請求項2】
前記樹脂微粒子がオレフィン系樹脂の微粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記機能性材料が導電性ポリマーである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、以下の式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の機能性薄膜形成用組成物を樹脂基材に付与して薄膜を形成する工程、および
該薄膜を有する樹脂基材を加熱する工程、
を包含する、機能性薄膜形成方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の機能性薄膜形成用組成物を樹脂基材に付与して薄膜を形成する工程、および
該薄膜を有する樹脂基材を加熱および加圧する工程、
を包含する、機能性薄膜形成方法。
【請求項7】
請求項5または6の方法により得られる機能性薄膜を有する樹脂基材。

【公開番号】特開2008−1813(P2008−1813A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173121(P2006−173121)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】