説明

機能性表面層を有する抄造成形品およびその製造方法

【課題】機械的強度が高く、且つ所定の機能性表面層が強固に結着された抄造成形品を提供する。
【解決手段】繊維周囲にバイダー樹脂粉末4が付着した耐熱性繊維2から抄造される抄造物96を所定の含水率に脱水してから加熱圧縮成形することにより得られる機能性表面層を有する抄造成形品であって、機能性表面層は、前記脱水後の湿った状態にある抄造物96の表面にまぶすように均一付着させた機能性粉末6から形成され、前記加熱圧縮時に機能性粉末6が溶融して前記抄造物96の表層にある耐熱性繊維2に絡むことによって機能性表面層が抄造物96に結着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性表面層を有する抄造成形品およびその製造方法に係り、特に、機械的強度が高く且つ所定の機能性表面層を有する抄造成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械的強度を高めた樹脂成形品を製造するために、化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の繊維材料を強化材として母材であるプラスチックに含有させた繊維強化プラスチックまたはFRP(Fiber Reinforced Plastics)が用いられている。このようなFRPは、加熱により流動性をもたせた熱可塑性プラスチック中に比較的短い繊維長(例えば1〜3mm)の繊維材料を混練した後に、射出成形や押出成形等の方法によって所望の形状に成形品に仕上げられることが多い。
【0003】
このような機械的強度を高めた繊維強化プラスチックにおいて、所望の表面特性(例えば、摺動性、絶縁性、導電性、金属光沢発色等)を付与したい場合には、そのような特性を有する樹脂材料や金属材料をコーティングあるいは接着することが一般に行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭素繊維強化プラスチックの表面に電気めっき層を形成し、その電気めっき層表面をエッチング処理で所定粗さに粗面化した後に、樹脂コーティング等を施して被覆することにより、炭素繊維強化プラスチックに対する前記コーティング層の密着性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−82864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示される技術では、所望特性の表面特性を付与するための処理を実行する前に、炭素繊維強化プラスチックの表面に電気めっき層を形成する工程と、その表面をエッチング処理で粗面化させる工程とをさらに必要とするものであり、工数が多くコスト高になるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、機械的強度が高く、且つ所定の機能性表面層が強固に結着された抄造成形品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る機能性表面層を有する抄造成形品は、繊維周囲にバイダー樹脂粉末が付着した耐熱性繊維を分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記耐熱性繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を所定の含水率に脱水してから加熱圧縮成形することにより得られる機能性表面層を有する抄造成形品であって、前記機能性表面層は、前記脱水後の湿った状態にある抄造物の表面にまぶすように均一付着させた機能性粉末から形成され、前記加熱圧縮時に前記機能性粉末または前記バインダー樹脂粉末が溶融して前記抄造物の表層にある耐熱性繊維間に絡むことによって前記機能性表面層が前記抄造物に結着されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法は、繊維周囲にバイダー樹脂粉末が付着した耐熱性繊維を分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記耐熱性繊維を互いに絡み合った状態で抄き取る抄造工程と、前記抄網上に抄き取られた抄造物を所定の含水率に脱水する脱水工程と、前記脱水後に湿った状態にある抄造物の表面に機能性粉末をまぶすように均一付着させる粉末付着工程と、前記機能性粉末を付着させた抄造物を加熱圧縮成形して抄造成形品を得る成形工程であって、前記加熱圧縮時に前記機能性粉末または前記バインダー樹脂粉末が溶融して前記抄造物の表層にある耐熱性繊維間に絡んで結着されることによって前記成形品の表面に前記機能性粉末からなる機能性表面層が形成される成形工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る機能性表面層を有する抄造成形品およびその製造方法によれば、加熱圧縮時に溶融した機能性粉末またはバインダー樹脂が抄造物の表層を構成する耐熱性繊維間に入り込んで絡まった状態になることにより機能性表面層が抄造物に対して結着されるため、表層耐熱性繊維に絡まった樹脂がアンカーのように引っ掛かっていることで、基材となる抄造物に対する機能性表面層の結着強度を格段に向上させることができる。また、湿った状態にある抄造物の表面に機能性粉末を均一付着させてから加熱圧縮成形するという非常に簡素な工程で足りるので、製造コストを非常に安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】抄造装置の全体概略構成図である。
【図2A】分散ノズルの斜視図である。
【図2B】分散ノズルの底面を示す平面図である。
【図3A】貯水槽の底面を示す平面図である。
【図3B】図3Aに示す貯水槽の底面上に移動可能に載置される開閉弁を示す平面図である。
【図4】抄造および成形の各工程を順番に示す工程図である。
【図5】貯水槽底面から上部抄造槽へ落下した分散水の動きを示す図である。
【図6】抄き取った抄造物を抄網と共に複数段積み上げてプレス脱水する様子を示す図である。
【図7A】所定含水率に調整された抄造物の一部側面図と、その表層部分拡大図である。
【図7B】図7Aの抄造物の表面に機能性粉末を付着させた状態を示す一部側面図と、その表層部分拡大図である。
【図7C】図7Bの抄造物を加熱圧縮成形して得られる抄造成形品を示す一部側面図と、その表層部分拡大図である。
【図8】立体的形状の抄造物および抄造素材を得るための抄網および抄網ホルダを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る天然繊維成形品の抄造素材を製造するための抄造装置10を示す概略構成図である。抄造装置10は、それぞれ計量された原材料である耐熱性繊維2およびバインダー樹脂粉末4(図7A参照)を所定量の水にモータ駆動攪拌機12で攪拌しながら分散させる分散水14とする分散槽16と、非イオン界面活性剤などの添加剤18を収容しモータ駆動攪拌機20を備えた添加剤槽22と、開閉弁24,26を開くことによって分散槽16および添加剤槽22からそれぞれ供給される分散水14および添加剤槽22を収容してモータ駆動攪拌機28で攪拌して混合する混合槽30と、混合槽30内で分散水14に添加剤18が加えられて生成した分散水32が混合槽30から放出され一時貯留する貯水槽34と、貯水槽34の下方に落下した分散水32を収受して一時貯留する上部抄造槽36および下部抄造槽38と、上部抄造槽36と下部抄造槽38の間に設けられた抄網40と、抄網40を載置支持する抄網ホルダ42と、下部抄造槽38の底部に設けられて下部抄造槽38内に満たされている水44を抜き取る止水弁46とから、主に構成されている。上記貯水槽34、上部抄造槽36、および下部抄造槽38の上側部分は例えば縦横約950mm寸法の平面視角筒状に形成されている。ただし、各槽は角筒の平面形状や上記寸法に限るものでない。
【0014】
ここで、上記耐熱性繊維2としては、例えば耐熱性合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などが挙げられる。これらの繊維は、1種類だけに限らず、2種類以上の繊維が混合されて用いられてもよい。上記耐熱繊維として合成繊維を用いる場合は、機械的強度の大きな材質のものを選定することが好ましい。このような合成繊維の材質の具体例としては、芳香族ポリアミド(例えば、アラミド繊維)、芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられ、これらの材質からなる合成繊維は耐薬品性や耐候性が高いことから一層好ましい。
【0015】
また、上記バインダー樹脂粉末4の材質としては、フェノール樹脂で例示される熱硬化性樹脂が好適に用いられ、フェノール樹脂以外には例えばフラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。ただし、本発明におけるバイダー樹脂粉末の材質は、熱硬化性樹脂に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。
【0016】
上記混合槽30の下部には、止水弁48によって開閉される連通管50を介して分散ノズル52が接続されている。止水弁48は例えばモータにより開閉駆動される。図2Aの斜視図に示すように、分散ノズル52は、例えば縦が約150mmで横が約400mmの大きさであって側面視略半円形状をなす箱体からなっている。そして、分散ノズル52の底面54には、図2Bの底面図に示すように、多数の噴水孔56が形成されている。噴水孔56は例えば長径が約40mmで短径が約20mmの長円形状の貫通孔として形成され、混合槽30内の分散水32が貯水槽34の底面58全体に向けて均一に放水されるよう底面54に、例えば千鳥状またはマトリックス状に適宜配置されている。
【0017】
上記貯水槽34の底面58には、図2の上面視図に示すように、多数の抜水孔60が形成されている。一方、貯水槽34の底面58には、矩形板状の開閉弁62が摺動可能に載置されている。開閉弁62には、図2Bの上面視図に示すように、上記貯水槽34の底面58の抜水孔60と同等形状であって対応位置に多数の連通孔64が形成されている。これらの抜水孔60および連通孔64は短径が約5mmで長径が約20mmの長穴に形成されていて、開閉弁62は連通孔64の短径方向に移動可能とされている。
【0018】
そして、上記開閉弁62の両側面には、ガイドロッド66と、エアシリンダなどのアクチュエータ68の駆動軸と連結された駆動ロッド70とが突設されている。これらのガイドロッド66と駆動ロッド70は貯水槽34の両側壁面をそれぞれ貫通して設けられ、各水封軸受72で水洩れが防止された状態で軸方向に移動可能に支持されている。
【0019】
上記上部抄造槽36は上面開口と下面開口とを有する角筒状に形成されていて、分散水32を混合槽30から収受したときに槽内の抄網40の上方に空間部74を形成し得る大きさのものが使用される。
【0020】
上記抄網40は、例えばステンレス鋼で構成された約60メッシュの網体である。抄網40を載置支持する抄網ホルダ42は、いわゆるパンチングメタルや合成樹脂板などで構成されていて、多数の通水孔76が全面にわたって穿設されている。
【0021】
なお、抄造装置10において、上下方向に離間可能に組み立てられる貯水槽34の底面58の周縁部と上部抄造槽36の上面開口周縁部とは図示しないシール部材によって水封されている。また、上下方向に離間可能に組み立てられる上部抄造槽36の下面開口周縁部、抄網40の周縁部、抄網ホルダ42の周縁部、および下部抄造槽38の上面開口周縁部は、図示しないシール部材により水封されている。
【0022】
下部抄造槽38の底部は、止水弁46が設けられる連結管78を介して貯水タンク80に接続されている。下部抄造槽38から排水されて貯水タンク80に貯められた水は、ポンプ82の駆動により戻り配管84から分散槽16へ送水されて再利用される。また、水が不要の場合は排水管86から系外へ排出されるようになっている。
【0023】
続いて、上記構成からなる抄造装置10を用いて抄造物96(図7A参照)を抄造し、その抄造物96から機能性表面層を有する抄造成形品1(図7C参照)を製造する製造工程について、図4を参照して説明する。この実施形態では、耐熱性繊維2として合成樹脂繊維のアラミド繊維とガラス繊維とを用い、バインダー樹脂粉末4として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂粉末を用いた例を挙げる。また、後述するように、加熱圧縮成形前に抄造物96の表面に付着させる機能性粉末6として、成形品表面の摺動特性を良好にする、すなわち低摩擦抵抗値の表面性状にするために、フッ素樹脂粉末を用いた例を挙げる。ここで用いる抄造物96の原材料の処方を重量%で以下に示す。
(1)フェノール樹脂粉末: 35〜50重量%
(2)アラミド繊維: 15〜35重量%
(3)ガラス繊維: 15〜35重量%
【0024】
ここで、アラミド繊維(例えばケブラー(米国デュポン社の登録商標)繊維)は、約12μm径のフィラメントを約3mm長にカットしたものを用いた。また、ガラス繊維は約9μm径のロービングを約3mm長にカットしたものを用いた。また、フェノール樹脂粉末は、エア・ウォーター社製のベルパールを用いた。
【0025】
まず、抄造物96の抄造工程を開始するに際し、抄造装置10では、止水弁46を閉じた状態で下部抄造槽38の底部から抄網ホルダ42ないし抄網40までの間には空気層を形成しないように、予め水44が満たされている。これにより、分散水32から分離した水を抄網ホルダ42の通水孔76を円滑に通過させられるため、抄網40上に貯留される分散水32の状態を乱すことがない。この場合に抄網ホルダ42の下方を満水にさせていないと、分散水32から分離した水が通水孔76を流下する際に下部抄造槽38内にある空気が抄網ホルダ42の通水孔76および抄網40を遡上して上部抄造槽36内で静置されている分散水32をかき混ぜることとなり、仕上がった抄造素材に空気が通った跡の空洞部を生じたり、耐熱性繊維2がその空洞部の向きに揃ったりするので好ましくない。
【0026】
抄造工程の最初の工程として、開閉弁24を閉じた状態で分散槽16へ所定量の水を計量して投入し、そこに原材料であるアラミド繊維、ガラス繊維およびフェノール樹脂粉末を水の投入量(100重量%)に対し上記原材料(1)〜(3)の合計重量が約100重量%となるように上記処方に応じてそれぞれ計量して分散槽16へ投入し、モータ駆動攪拌機12で攪拌することにより上記各原材料が均一に分散された分散水14を生成する(工程S10)。また、開閉弁26を閉じた状態で添加剤槽22には、上記原材料の合計重量に対し0.08重量%の非イオン界面活性剤(添加剤)18、例えば住友精化社製の商品名「PEO−PF」でポリエチレンオキサイドを主成分とするものを投入してモータ駆動攪拌機20で攪拌しておく(工程S10)。
【0027】
そして、上記分散水14の生成および非イオン界面活性剤18の準備が整ったら、各開閉弁24,26を開放して分散槽16および添加剤槽22から混合槽30へ分散水14および非イオン界面活性剤18を投入して混合する(工程S12)。このとき、モータ駆動攪拌機28をしばらく作動させることにより、混合槽30において原材料を含む分散水14と非イオン界面活性剤18とが均一に混合されて分散水32が生成される。
【0028】
上記混合槽30内の分散水32中において、低濃度(0.08重量%)の非イオン界面活性剤は高分子凝集剤として機能する。この非イオン界面活性剤の機能により、フェノール樹脂粉末6が繊維表面に付着した状態で耐熱性繊維2が互いに絡み合って約10〜15mm径程度の柔らかい纏まりになった多数のフロックF(図5参照)が形成され、そのフロックFが分散水32中に浮遊し安定に分散する。続いて、止水弁48を開くことにより、混合槽30内の分散水32は分散ノズル52の噴水孔56から貯水槽34内の全面にわたり均等に噴射されて一時貯留される(工程S14)。
【0029】
それから、図5に示すように、分散水32中のフロックFが水中を漂っている間(数秒間程度)にアクチュエータ68により開閉弁62を矢印B方向に駆動し、貯水槽34の全ての抜水孔60を同時に開放して分散水32を放出させる(工程S16)。このとき、貯水槽34の底面58の全体にわたってほぼ均等に、分散水32を落下させることが望ましい。同時に、貯水槽34の上部から一部の水を抜き取っても構わない。なお、分散水32を長時間放置しすぎて貯水槽34内でフロックFが沈降してしまうと、フロックFを形成する耐熱性繊維2が一定の向きとなって絡むことになり、後に得られる抄造物96の厚みが均一にならないという不都合が生じる。
【0030】
貯水槽34の抜水孔60から落下した分散水32は空間部74を経て上部抄造槽36内で抄網40上方に収受されて貯留される。そうして、次第に分散水32の貯留量が増えていくと、空間部74を落下する落下流88の勢いにより、上下方向の渦巻流90を生じ、フロックF中の耐熱性繊維2が上下左右前後の3次元のあらゆる方向にランダムに向いて相互に絡まっていく。そして、上部抄造槽36内に一時的に貯留された分散水32は適当な時間だけ静置される(工程S18)。これにより、フロックFが抄網40に向かって沈降し、その際に隣り合ったフロックF間でも耐熱性繊維2が互いに絡み合っていくのである(図7A中の部分拡大図参照)。
【0031】
その後、止水弁46を開くことにより下部抄造槽38から水抜きが実施される(工程S20)。すると、上部抄造槽36と下部抄造槽38の間に配置された抄網40で、フェノール樹脂粉末6が繊維周囲に付着した状態の耐熱性繊維2が抄き取られて、抄網40上に抄造物96が形成される(工程S22)。
【0032】
なお、上記の水抜き操作は、上部抄造槽36内における分散水32の水面が平定しているときにいずれの通水孔76からも均等に一気に抜くのが好ましい。ちなみに、抄網40上の分散水32の水面が波打っているときに水抜きすると、抄網40上の抄造物の上面が側方から見て波打って仕上がるので好ましくない。
【0033】
上記のように水抜きした後に、上部抄造槽36はエアシリンダ等のリフト機構(図示省略)により持ち上げられて下部抄造槽38から分離される。そして、水を多量(含水率:約85重量%程度)に含む抄造物96が抄網40を付けたまま下部抄造槽38上から取り外される。
【0034】
下部抄造槽38から取り外された抄造物96および抄網40は、図6に示すように、プレス台92上に複数段重ね合わせられて載置され、プレス板94により圧下されて脱水される(工程S24)。このように複数段重ねてプレス脱水すると、抄網40が水の通り道となって脱水を容易に迅速に終えることができる。また、この脱水時のプレス圧力を適宜に設定することによって、抄造物96を所望の含水率に調整することができる。プレス脱水後、抄造物96は抄網40から容易に剥し取ることができる。なお、抄造物96の含水率は、脱水後に抄網40から剥ぎ取られた抄造物96に対する乾燥工程を実施して、乾燥時の温度や時間の設定によって調整されてもよい。
【0035】
その後、図7Bに示すように、所定の含水率の抄造物96の表面に機能性粉末であるフッ素樹脂粉末6をまぶすように均一に付着させる(工程S26)。ここで、「まぶすように均一付着」とは、抄造物96の表層部分にある耐熱性繊維間に形成される隙間にフッ素樹脂粉末6が入り込んだ状態で抄造物96表面にフッ素樹脂粉末6がほぼ均一に付着していることを意図している。このようにフッ素系樹脂粉末6を付着させる方法の1つとして、例えば、まだ水を含んでいる抄造物96の湿った表面を容器内に収容されているフッ素樹脂粉末の粉面に押し付け又は擦り付けることによってフッ素樹脂粉末6を水分の吸着力を利用して付着させた後に、余分なフッ素樹脂粉末6をはたき落とす又は払い落とすことが挙げられる。また、別の方法として、載置された抄造物96の上方からフッ素樹脂粉末6を一様に少しずつ降りかけて抄造物表面に堆積させた後に、例えばへらのような道具を用いて堆積したフッ素樹脂粉末6を均すか又は余剰分を削ぎ落とす等によって行ってもよい。なお、機能性粉末6は、シート状をなす抄造物96の両面に付着させてもよい。
【0036】
上記のようにしてフッ素樹脂粉末6が均一に付着した抄造物96を成形型にセットし、例えば200〜300℃程度の温度で加熱圧縮成形する(工程S28)。これにより、図7Cに示すように、機能性表面層8を有する抄造成形品1が出来上がる。抄造成形品1は、使用する成形型に応じて平板形状または三次元的な所望立体形状を有するように形成されることができる。
【0037】
この加熱圧縮成形時に、耐熱性繊維2に付着しているフェノール樹脂粉末6は、一旦溶融したのちに硬化して極めて機械的強度の高い3次元網目構造体を形成して、互いに絡み合った耐熱性繊維2を各接合点において強固に結合する。その結果、出来上がった成形品は、いかなる方向の曲げや引っ張り等の外力に対して極めて高い機械的強度を有するものになる。
【0038】
上記機能性表面層8は、加熱圧縮成形時に、抄造物96に均一付着させたフッ素樹脂粉末6が溶融して形成されるフッ素樹脂層であり、その表面は低摩擦抵抗値であって良好な摺動特性を有する。また、上述したように抄造物表層部の耐熱性繊維2間の隙間に入り込んで付着されていたフッ素樹脂粉末6が表面に付着したフッ素樹脂粉末6と共に溶融することで、上記機能性表面層8は、溶融したフッ素樹脂が抄造物96の表層を構成する耐熱性繊維間に入り込んで絡まった状態になる。これにより、抄造物表層の耐熱性繊維に絡まったフッ素樹脂がアンカーのように引っ掛かっていることで、基材となる抄造物96に対する機能性表面層8の結着強度が非常に高くなる。したがって、平滑面あるいは粗面化処理した基材表面にフッ素樹脂をコーティング又は接着して機能性表面層を形成する場合に比べて、機能性表面層8の剥離や脱落が格段に生じにくい。
【0039】
さらに、上記実施形態では、湿った状態にある抄造物96の表面に機能性粉末であるフッ素樹脂粉末6を均一付着させてから加熱圧縮成形するという非常に簡素な工程で良好な摺動特性を有する成形品1を得ることができるので、製造コストを非常に安価にすることができるというメリットもある。
【0040】
上記において本発明に係る一実施形態について十分に説明されてきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更や改良が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、いずれも平坦な二次元形状を有する抄網40および抄網ホルダ42を用いて抄造を行ったが、図8に示した形状の抄網40aと抄網ホルダ42aを用いると、下向きに陥入した凹部98を有する三次元的立体形状の抄造物96aを抄造することが可能になり、ひいては所望の立体形状の抄造成形品1を加熱圧縮成形するのに適した形状にできる。
【0042】
また、上記実施形態においては、機能性表面層8を形成する機能性粉末としてフッ素樹脂粉末を用いた例について説明したが、抄造成形品に要望される特性に応じた機能性表面を有するように機能性粉末を適宜に選択することができる。
【0043】
具体例としては、機能性粉末として絶縁性粉末(例えばアルミナ粉末、窒化アルミ粉末など)を用いれば、電気絶縁性の機能性表面層を有する抄造成形品が得られる。また、機能性粉末として導電性粉末(例えば銅などの金属粉末)を用いれば、導電性の機能性表面を有する抄造成形品が得られる。さらに、機能性粉末として金属光沢発現粉末(例えば、アルミ、チタン、ステンレスなどの金属粉末)を用いれば、あたかも金属製品であるかのような外観に仕上げることができる。これらの絶縁性粉末、導電性粉末、金属光沢発現粉末は、例えば200〜300℃程度の比較的低い温度での加熱圧縮成形時に、抄造物内から染み出るバインダー樹脂によって抄造物表面に結着されることになる。
【符号の説明】
【0044】
1 抄造成形品、2 耐熱性繊維、4 フェノール樹脂粉末(バイダー樹脂粉末)、6 フッ素樹脂粉末(機能性粉末)8 機能性表面層、10 抄造装置、12,20,28 モータ駆動攪拌機、14 分散水、16 分散槽、18 非イオン界面活性剤、22 添加剤槽、24,26 開閉弁、30 混合槽、32 分散水、34 貯水槽、36 上部抄造槽、38 下部抄造槽、40,40a 抄網、42,42a 抄網ホルダ、44 水、46,48 止水弁、50 連通管、52 分散ノズル、56 噴水孔、58 貯水槽底面、60 抜水孔、62 開閉弁、64 連通孔、66 ガイドロッド、68 アクチュエータ、70 駆動ロッド、72 水封軸受、74 空間部、76 通水孔、78 連結管、80 貯水タンク、82 ポンプ、84 戻り配管、86 排水管、88 落下流、90 渦巻流、92 プレス台、94 プレス板、96,96a 抄造物、F フロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維周囲にバイダー樹脂粉末が付着した耐熱性繊維を分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記耐熱性繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を所定の含水率に脱水してから加熱圧縮成形することにより得られる機能性表面層を有する抄造成形品であって、
前記機能性表面層は、前記脱水後の湿った状態にある抄造物の表面にまぶすように均一付着させた機能性粉末から形成され、前記加熱圧縮時に前記機能性粉末または前記バインダー樹脂粉末が溶融して前記抄造物の表層にある耐熱性繊維間に絡むことによって前記機能性表面層が前記抄造物に結着されていることを特徴とする機能性表面層を有する抄造成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の機能性表面層を有する抄造成形品において、
前記抄造物に対する前記機能性粉末の付着量は、前記脱水後の抄造物の含水率によって調整されることを特徴とする機能性表面層を有する抄造成形品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機能性表面層を有する抄造成形品において、
前記機能性粉末は、フッ素樹脂粉末、絶縁性粉末、導電性粉末、または金属光沢発現粉末であることを特徴とする機能性表面層を有する抄造成形品。
【請求項4】
繊維周囲にバイダー樹脂粉末が付着した耐熱性繊維を分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記耐熱性繊維を互いに絡み合った状態で抄き取る抄造工程と、
前記抄網上に抄き取られた抄造物を所定の含水率に脱水する脱水工程と、
前記脱水後に湿った状態にある抄造物の表面に機能性粉末をまぶすように均一付着させる粉末付着工程と、
前記機能性粉末を付着させた抄造物を加熱圧縮成形して抄造成形品を得る成形工程であって、前記加熱圧縮時に前記機能性粉末または前記バインダー樹脂粉末が溶融して前記抄造物の表層にある耐熱性繊維間に絡んで結着されることによって前記成形品の表面に前記機能性粉末からなる機能性表面層が形成される成形工程と、
を含む機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法において、
前記抄造物に対する前記機能性粉末の付着量は、前記脱水後の抄造物の含水率によって調整されることを特徴とする機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法において、
前記機能性粉末は、フッ素樹脂粉末、絶縁性粉末、導電性粉末、または金属光沢発現粉末であることを特徴とする機能性表面層を有する抄造成形品の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−274559(P2010−274559A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130215(P2009−130215)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(598159908)株式会社ワメンテクノ (5)
【出願人】(509107150)株式会社エムティアール (1)
【Fターム(参考)】