説明

機能性貴金属製品およびその製造方法

【課題】遠赤外線効果を有する粒子を含みながら、良好な表面性状を有する機能性貴金属製品を提供する。
【解決手段】機能性貴金属製品は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とするものであって、素地中に遠赤外線効果を有する粒子を分散させた内側の第1貴金属部10と、第1貴金属部10の表面を覆うように形成され、上記分散粒子の含有量が第1貴金属部よりも少ない外側の第2貴金属部20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品に関し、特に遠赤外線効果を有する粒子を含む機能性貴金属製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
装飾機能と健康増進機能とを兼ね備えた機能性貴金属製品が、多くの先行技術文献に記載されている。例えば、特開2000−144283号公報(特許文献1)には、銀に適正量のゲルマニウムとインジウムとを含有させることによって遠赤外線効果を発揮するようにした装身具が提案されている。特開平11−56425号公報(特許文献2)には、マイナスイオンを発生するセラミックスを含有する貴金属製装身具が提案されている。特開2002−283491号公報(特許文献3)には、マイナスイオンを発生する鉱石を表面に塗布した装飾品が提案されている。
【特許文献1】特開2000−144283号公報
【特許文献2】特開平11−56425号公報
【特許文献3】特開2002−283491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本件出願と同一の出願人は、2005年11月1日に出願した特許出願(特願2005−318354号)において、人体に対して発癌性を有する結晶性シリカを一切含有しない、血行・血流促進効果を有する機能性貴金属製品を提案した。この出願は、現時点で未だ出願公開されていない。この関連出願に開示された機能性貴金属製品は、金、プラチナ、銀などの貴金属系合金の素地(地金)を構成する貴金属粉末とアモルファスシリカ粒子とを混合した後に、成形・焼結することによって得られる。
【0004】
上記の先行技術文献および関連出願に記載された貴金属製品においては、貴金属素地中に分散するゲルマニウム、インジウム、セラミックスなどの粒子によって貴金属の表面に凹凸や斑点状の模様が発生するので、宝飾品やジュエリーとしての品質や表面性状を損なう。
【0005】
本発明の目的は、遠赤外線効果を有する粒子を含みながら、良好な表面品質または表面性状を有する機能性貴金属製品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った機能性貴金属製品は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とするものであって、素地中に遠赤外線効果を有する粒子を分散させた内側の第1貴金属部と、第1貴金属部の表面を覆うように形成され、上記分散粒子の含有量が第1貴金属部よりも少ない外側の第2貴金属部とを備える。
【0007】
本明細書中で使用する「機能性貴金属製品」という用語は、貴金属を用いた宝飾品、美術工芸品、時計、指輪、ネックレス、ブレスレット、ペンダント、食器などの製品を含むことは勿論であるが、そのような製品を作るための素材としての貴金属材料をも含むものとして理解されねばならない。
【0008】
好ましくは、第1貴金属部の素地中に含まれる遠赤外線効果を有する粒子の含有率は、体積分率で1%以上20%以下である。
【0009】
一つの局面における本発明に従った貴金属製品の製造方法は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品を製造するものであって、内側の第1貴金属部を形成する第1粉末層と、外側の第2貴金属部を形成する第2粉末層とを積層し、その積層体を焼結して固化することを特徴とする。
【0010】
一つの実施形態では、焼結固化した積層体を加熱した後、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す。
【0011】
他の局面における本発明に従った貴金属製品の製造方法は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品を製造するものであって、以下の工程を備える。
(a)内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を焼結して第1粉末焼結固化体を作製する工程。
(b)外側の第2貴金属部を形成する第2粉末を焼結して第2粉末焼結固化体を作製する工程。
(c)金型内で第1粉末焼結固化体と第2粉末焼結固化体とを積層してそれらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す工程。
(d)冶金的結合を促す工程に続いて、積層状態の第1および第2貴金属部を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す工程。
【0012】
さらに他の局面における本発明に従った貴金属製品の製造方法は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品を製造するものであって、以下の工程を備える。
(e)内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を焼結して第1粉末焼結固化体を作製する工程。
(f)溶解・鋳造法により外側の第2貴金属部を形成する第2貴金属部素材を作製する工程。
(g)金型内で第1粉末焼結固化体と第2貴金属部素材とを積層してそれらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す工程。
(h)冶金的結合を促す工程に続いて、積層状態の第1および第2貴金属部を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す工程。
【0013】
上記各局面における製造方法において、好ましくは、第1貴金属部を形成する第1粉末は、遠赤外線効果を有する粒子を含む。さらに好ましくは、第1貴金属部を形成する第1粉末中における遠赤外線効果を有する粒子の含有率は、体積分率で1%以上20%以下である。
【0014】
上記規定内容の意義および作用効果等については、以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本件出願の発明者は、ゲルマニウム、インジウム、セラミックスなどの遠赤外線効果を有する粒子を含む貴金属部の表面を、分散粒子の含有量が内部の貴金属部よりも少ない貴金属層で覆うことによって、貴金属製品の表面に凹凸や斑点模様などが現われないようにして、宝飾品やジュエリーの装飾価値を高めることを見出した。なお、表面の貴金属層は、分散粒子を一切含まないものであっても良い。本発明に関する詳細は以下の通りである。
【0016】
本発明に従った機能性貴金属製品は、外観として現われる外側(表側)に、遠赤外線効果を有する粒子を含まない第2貴金属部を配置し、その内側に遠赤外線効果を有する粒子を含む第1貴金属部を配置した積層構造を持つ。このような構造にすることにより、遠赤外線効果を発すると同時に、外観は通常の貴金属と同様に良好で、表面性状に優れた光沢のある貴金属製品となる。「第2貴金属部は、遠赤外線効果を有する粒子を含まない」と表現したが、この表現によって意図するところは、遠赤外線効果を有する粒子を一切含まないということと、粒子を含んでいてもその量が第1貴金属部中の量に比べて少量であることとを含むものである。
【0017】
なお、機能性貴金属製品の素地を構成する金、銀、プラチナまたはそれらの合金からなる貴金属については、その純度に関する規定は無い。指輪やネックレスなどのジュエリーや装飾品としての外観が損なわれない範囲の純度であれば、特に問題はない。
【0018】
貴金属粉末を出発原料として貴金属製品を製造する場合、貴金属粉末の粒子径に関して特別に限定すべき範囲はない。ただ、製造時における成形固化性および焼結性を考慮すると、100μmから3mm程度の範囲の粉末粒子径を有する素地用粉末であることが好ましい。
【0019】
(1)内側に配置する第1貴金属部の説明
第1貴金属部は、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属の素地と、遠赤外線効果を有し、貴金属素地中に分散した粒子とを備える。遠赤外線効果を有する粒子は、例えば、ゲルマニウム、インジウム、酸化物セラミックスなどであり、これらの粒子が貴金属素地中に均一に分散することにより、第1貴金属部を有する機能性貴金属製品は、遠赤外線効果を発揮する。
【0020】
第1貴金属部中の遠赤外線効果発揮粒子の含有率は、好ましくは、体積分率で1%以上20%以下である。含有率が1%未満の場合、機能性貴金属製品の血行・血流促進効果が十分に発現しない。他方、含有率が20%を超えると、機能性貴金属素材の靱性が低下する。そのため、後工程での貴金属素材に対して、圧延加工、線引き加工、鍛造加工などの塑性加工を施したとき、貴金属素材に亀裂、割れ、破損などが発生する。
【0021】
より好ましい遠赤外線効果発揮粒子の含有率は、体積分率で3%以上12%以下である。含有率を3%以上にすることで、より顕著な血行・血流促進効果が現れる。他方、12%を超える量の粒子を添加しても、血行・血流促進効果はさらに顕著には向上しない。12%を超えて多量に粒子を添加すると、表面の凹凸が顕著となり、また光沢・色調が著しく低下するなど、貴金属の外観不良が生じる場合がある。
【0022】
遠赤外線効果発揮粒子の好ましい粒子径は、50nm以上500μm以下である。粒子径が50nm未満であれば、添加粒子が凝集し、素地中で大きな欠陥となるために機能性貴金属製品の強度や塑性加工性が低下する。一方、粒子径が500μmを超える場合も同様に、その粗大な分散粒子が欠陥または応力集中部となる。より好ましい粒子径は、500nm以上200μm以下である。粒子径が500nm以上であれば、上記の凝集の問題もなく、素地中に均一に粒子が分散する。他方、粒子径が200μm以下であれば、欠陥や応力集中部になることもなく、また素地を構成する原料粉体との混合性も良好であるために、素地中での粒子分散性が向上する。
【0023】
(2)外側に配置する第2貴金属部の説明
第2貴金属部は、第1貴金属部の表面を覆うように配置されるものであり、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を素地とし、この素地中に上記の遠赤外線効果発揮粒子を含まない(含んでいても少量である)。第2貴金属部の作製にあたっては、貴金属粉末を成形・焼結して固化体を得るようにしてもよく、あるいは溶解・鋳造法によって貴金属部材を得るようにしてもよい。また、素地の種類に関しては上記の第1貴金属部と異なるものであっても良い。例えば、第1貴金属部の素地をK18金合金とし、第2貴金属部をプラチナとする2層または積層構造製品とする。このような構造であれば、高価なプラチナの使用量を削減して経済性よく、外観はプラチナの高級感を有する機能性貴金属製品を得ることができる。
【0024】
なお、メッキなどの方法によって第2貴金属部を形成することも考えられるが、メッキ法によって作製できる貴金属部の厚みは数μm〜数十μm程度までであるので、前述したような、遠赤外線効果発揮粒子の分散による表面凹凸や斑点模様を貴金属メッキ層で完全に解消することは困難である。そこで、本発明の好ましい実施形態としては、第1貴金属部の外側に配置する第2貴金属部の好ましい厚みは、100μm以上である。他方、第2貴金属部の厚みが顕著に大きくなると、第1貴金属部が有する遠赤外線効果が弱まる可能性があるので、第2貴金属部の最大厚みを第1貴金属部の厚み以下とするのが望ましい。
【0025】
(3)機能性貴金属製品の製造方法の説明
【0026】
(a)製法A(図1)
図1は、この発明に従った機能性貴金属製品の製造方法の一実施形態(製法A)を示している。まず、図1(a)に示すように、金型1内に、遠赤外線効果発揮粒子を含んで内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を充填して加圧することにより、第1貴金属粉末層10を形成する。次に、図1(b)に示すように、金型1内の第1貴金属粉末層10の上に、外側の第2貴金属部を形成する第2粉末20を充填して加圧することにより、第1貴金属粉末層10と第2貴金属粉末層20との積層体を形成する。次に、図1(c)に示すように、この積層体を金型1内で加熱しながら加圧して焼結・固化する。こうして、図1(d)に示す2層構造の貴金属製品30が得られる。その後、必要に応じて、焼結固化した積層体に対して、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工等の塑性加工を施しても良い。
【0027】
(b)製法B(図2)
図2は、この発明に従った機能性貴金属製品の製造方法の他の実施形態(製法B)を示している。まず、図2(a)に示すように、事前に内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を圧粉し、焼結固化した第1粉末焼結固化体110と、外側の第2貴金属部を形成する第2粉末を圧粉し、焼結固化した第2粉末焼結固化体120とを作製しておく。第1粉末焼結固化体110の内部には、遠赤外線効果発揮粒子が均一に分散している。次に、図2(b)に示すように、金型1内で、第1粉末焼結固化体110と第2粉末焼結固化体120とを積層し、それらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す。こうして得られた図2(c)の2層構造の貴金属部材130を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施すことにより、機能性貴金属製品を得る。
【0028】
(c)製法C
製法Cは、この発明に従った機能性貴金属製品の製造方法のさらに他の実施形態であり、上記の製法Bと類似している。事前に第1貴金属部と第2貴金属部とを作製するが、第2貴金属部材については、一般の溶解・鋳造法によって作製する。遠赤外線効果発揮粒子を含む第1貴金属部については、製法Bと同様、第1粉末を圧粉し、焼結固化した第1粉末焼結固化体を作製する。そして金型内で、第1粉末焼結固化体と第2貴金属部素材とを積層してそれらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す。続いて、2層構造の貴金属部材を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施して、機能性貴金属製品を得る。
【0029】
(d)遠赤外線効果発揮粒子を含む第1貴金属部の出発原料
上記の3種類の製造方法に関して、遠赤外線効果発揮粒子を含む第1貴金属部の出発原料として、金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属粉末粒子と、ゲルマニウム、インジウム、酸化物セラミックスなどの遠赤外線効果を有する粒子とを準備する。
【0030】
上記の貴金属粉末粒子と遠赤外線効果発揮粒子とを前述した所定の適正な比率で秤量し、これをボールミル、V型混合機、ロッキングミルなどを用いた従来の乾式混合法によって均一に混合して混合粉末を得る。この混合粉末を投入原料粉末として用いる。
【0031】
なお、焼結後の素地中に残存する空隙・空孔をできる限り削減するために、遠赤外線効果を有する粒子を有機溶媒等で洗浄した後に80℃程度以下で乾燥することによって粒子表面に付着した不純物成分を分解・除去する。
【0032】
(e)製法Aの詳細
製法Aにおいては、上記の第1貴金属部を形成する混合粉末10を金型1に充填し、比較的低圧力を付与して圧粉する。続いてその上に第2貴金属部を形成する貴金属粉末20を充填した後に加圧・固化する。この状態で、好ましくは真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱・加圧することで、第1および第2貴金属粉末間での焼結を促進させると同時に、両者の貴金属部間での結合を行ない、2層構造の貴金属部材を作製する。金型1の材質としては、耐熱性を考慮して主にカーボンを用いるが、温度条件によっては鉄鋼材料や超硬などを適用できる。
【0033】
加熱および焼結条件に関しては、用いる貴金属粉末粒子の融点をTmとすると、好ましくは、加熱・加圧する際の金型内における投入原料粉末の温度Tは0.85×Tm≦T≦Tm+100℃である。粉末温度Tが0.85×Tm未満であれば、粉末間の焼結が十分に進行せず、その結果、焼結体の強度が低下して次工程の塑性加工過程において貴金属部材に亀裂、割れ、分断、裂けなどの問題が生じ得る。一方、粉末温度TがTm+100℃を超えると、貴金属粉末表面からの溶融現象が顕著に進行し、その結果、金型から貴金属成分が液状として流出するといった問題が生じる。したがって、粉末加熱温度Tは、0.85×Tm以上でTm+100℃以下であることが望ましい。なお、金属粉末同士の焼結を促進させる観点から、真空雰囲気中で処理することが望ましい。
【0034】
以上の製造工程によって、表面に光沢ある貴金属部を配置し、内側に遠赤外線効果を発揮する機能性貴金属部を有する2層または積層構造貴金属製品部材を得ることができる。
【0035】
なお、必要に応じて上記の2層構造貴金属部材に対して圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工などの塑性加工を適用することで、第1貴金属部材と第2貴金属部材との結合性をさらに向上させることができ、また、宝飾品やジュエリーなどの貴金属製品として好ましい板状、ワイヤー状、異形状断面などの形状付与を行なうことができる。
【0036】
(f)製法Bの詳細
製法Bにおいては,製法Aと同様に第1貴金属部を形成する混合粉末を金型に充填した状態で真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱・加圧して、第1貴金属焼結固化体110を作製する。また第2貴金属部を形成する貴金属粉末を金型に充填した状態で真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱・加圧して、第2貴金属焼結固化体120を作製する。それぞれの貴金属粉末を加熱・焼結する際の条件に関しては、用いる貴金属粉末粒子の融点をTmとすると、好ましくは、加熱・加圧する際の金型内における投入原料粉末の温度Tは0.85×Tm≦T≦Tm+100℃である。この設定理由は、上記の製法Aと同じである。
【0037】
続いて、第1貴金属粉末焼結固化体110および第2貴金属粉末焼結固化体120を金型1内に積み重ねた状態で配置し、その状態で真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱・加圧し、両焼結固化体を拡散接合することで2層構造貴金属部材を作製する。その際の試料の加熱温度T1に関しては、第1貴金属部の素地の融点と第2貴金属部の素地の融点とを比較して低い融点をTm1とした場合、T1≦Tm1+100℃を満足することが好ましい。T1がTm1+100℃を超えると、より低い融点を有する貴金属素地の一部が溶融して液相が発生し、金型から貴金属成分が液状として流出するといった問題が生じる。
【0038】
以上の製造工程によって、表面に光沢ある貴金属部を配置し、内側に遠赤外線効果を発揮する機能性貴金属部を有する2層または積層構造の貴金属製品部材を得ることができる。
【0039】
なお、必要に応じて上記の2層構造貴金属部材に対して圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工などの塑性加工を適用することで、第1貴金属部材と第2貴金属部材との結合性をさらに向上させることができ、また宝飾品やジュエリーなどの貴金属製品として好ましい板状、ワイヤー状、異形状断面などの形状付与を行なうことができる。
【0040】
(g)製法Cの詳細
製法Cにおいても、製法Bと同様に、第1貴金属部を形成する混合粉末を金型に充填した状態で真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱・加圧することで、第1貴金属粉末焼結固化体を作製する。他方、第2貴金属部に関しては、溶解・鋳造法によって適正な形状・寸法に鋳込むことで第2貴金属部材を作製する。そして両者の貴金属部材を金型内に積層状態に配置した後、加熱・加圧することによって2層構造貴金属部材を作製する。その際の試料の加熱温度T2に関しては、第1貴金属部の素地の融点と第2貴金属部の素地の融点とを比較して低い融点をTm2とした場合、T2≦Tm2+100℃を満足することが好ましい。T2がTm2+100℃を超えると、より低い融点を有する貴金属素地の一部が溶融して液相が発生し、金型から貴金属成分が液状として流出するといった問題が生じる。
【0041】
以上の製造工程によって、表面に光沢ある貴金属部を配置し、内側に遠赤外線効果を発揮する機能性貴金属部を有する2層または積層構造の貴金属製品部材を得ることができる。
【0042】
なお、必要に応じて上記の2層構造貴金属部材に対して、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工などの塑性加工を適用することで、第1貴金属部材と第2貴金属部材との結合性をさらに向上させることができ、また宝飾品やジュエリーなどの貴金属製品として好ましい板状、ワイヤー状、異形状断面などの形状付与を行なうことができる。
【0043】
(4)機能性貴金属製品の用途
血行・血流促進効果を有する機能性貴金属製品を、物品または素材全体として使用しても良いし、あるいは物品の一部として使用しても良い。機能性貴金属製品の用途を、以下に例示的に列挙する。
【0044】
a)貴金属を主体とした素材。
【0045】
b)宝飾品、ジュエリーおよび装飾品。
【0046】
c)美術工芸品。
【0047】
d)万年筆やボールペンなどの筆記用具。
【0048】
e)キーホルダー、根付、時計、時計ベルト、めがねフレーム、めがねチェーン、携帯ストラップ、ドッグタグ、ペットジュエリーなど、身体に接触する装身具。
【0049】
f)下着金具、衣類金具、サンダル金具、靴金具、履物金具、ベルト金具など。
【0050】
g)敷布、枕、マフラー、手袋、帽子、ヘアバンド、サポータ、下着、服など、身体に接触する寝具類および衣料品。
【実施例1】
【0051】
K18イエローゴールド(Au:75%,Ag:12.5%,Cu:12.5%/重量%基準,融点Tm:905℃)の鋳造インゴット素材から切削加工によって長さ0.5〜2.2mm程度の棒状粉体試料を作製し、これを第1貴金属部および第2貴金属部の各素地を構成する出発原料粉体とした。遠赤外線効果を有する粒子として、ゲルマニウム、インジウム、トルマリン、アモルファスシリカの微細粉末粒子を準備した。なお、粒子径はいずれも40μm〜280μmを満足するものであった。
【0052】
上記の遠赤外線効果発揮粒子から1種類を選び、これをK18粉末と混合した粉末において体積分率で遠赤外線効果発揮粒子の含有量が2.5%となるように配合した。
【0053】
前述の製法Aに基づき、先ずカーボン型(直径φ45mm)内に上記の混合粉末を充填し、面圧10MPaで圧粉した後、その上にK18粉体を充填して再度面圧10MPaで圧粉して、2層構造圧粉成形体をカーボン型内で作製した。この状態で真空雰囲気下において圧力30MPa、温度850℃を負荷して各焼結体を緻密化すると同時に、2層間での固相拡散接合を促進することで隙間・欠陥等がない良好な2層構造貴金属部材を作製した。
【0054】
組織観察の結果、遠赤外線効果発揮粒子を含むK18合金層の厚さは約3mm、K18粉体のみの焼結体の厚さは約1mmであった。各焼結体を複数回に分けて熱間双ロール圧延加工(圧延加工前の試料の加熱温度:800℃)を施した結果、厚さが約0.2mmの状態においても2層間に隙間や剥離は見られず、良好な結合状態にあることが認められた。K18焼結合金のみで表面を覆うことで、表面凹凸や斑点模様もなく良好な外観が得られた。また遠赤外線効果発揮粒子を含むK18貴金属部を含むことで、圧延加工後の2層貴金属製品においても同様の遠赤外線効果が確認された。
【実施例2】
【0055】
この実施例2は、比較のために、遠赤外線効果発揮粒子を含む第1貴金属部の表面にメッキ皮膜を形成し、その外観性状を確認するものである。
【0056】
実施例1で用いたK18粉末とアモルファスシリカ粒子とを出発原料とし、シリカ粒子の含有量が体積分率で2.5%となるように両者を混合した。これをカーボン型内に充填し、圧力30MPa、温度850℃を負荷して緻密な焼結体を作製した。これを再度、800℃に加熱した後、熱間双ロール圧延加工を施して厚さ約0.3mmの素材を作製した。この試料表面に金メッキを施した後、表面外観を観察した結果、添加したシリカ粉末による斑点状の模様や微細な表面凹凸が存在しており、宝飾品やジュエリーとしての品質を満足するものではないことを確認した。
【実施例3】
【0057】
実施例1で用いたK18粉末とアモルファスシリカ粒子とを出発原料とし、シリカ粒子の含有量が体積分率で5%となるように両者を混合した。これをカーボン型内に充填し、圧力30MPa、温度880℃を負荷して緻密な焼結体(幅:10mm、長さ:50mm、厚さ:4.8mm)を作製した。
【0058】
そして、この焼結体の表面を覆うためのPt900プラチナ合金焼結体を次のような条件で作製した。Pt900(Pt:90%,Pd:10%/重量%基準,融点Tm:1730℃)の鋳造インゴット素材から切削加工によって長さ0.4〜0.9mm程度の棒状粉体試料を作製し、これをカーボン型内に充填し、圧力80MPa、温度1450℃を負荷して緻密な焼結体(幅:10mm,長さ:50mm,厚さ:1.9mm)を作製した。
【0059】
次に、矩形のカーボン型に上記の2つの焼結体を積み重ねて配置した後、真空雰囲気下において圧力30MPa、温度880℃を負荷して各焼結体を緻密化すると同時に、2層間での固相拡散接合を促進することで隙間・欠陥等がない良好な2層構造貴金属部材を作製した。
【0060】
この2層構造焼結体を複数回に分けて熱間線引き加工(線引き加工前の試料の加熱温度;850℃)を施した結果、直径1.2mmの線材においてもK18合金とPt900合金の2層間に隙間や剥離は見られず、良好な結合状態であった。また、Pt900焼結合金のみで表面を覆うことで表面凹凸や斑点模様もなく良好な外観が得られた。また遠赤外線効果発揮粒子を含むK18貴金属部を含むことで圧延加工後の2層貴金属製品においても同様の遠赤外線効果が確認された。
【実施例4】
【0061】
実施例3で作製した5体積%のアモルファスシリカ粒子が分散したK18焼結合金(幅:10mm,長さ:50mm,厚さ:4.8mm)を準備し、他方、この焼結体の表面を覆うためのスターリングシルバー(Ag:92.5%,Cu:7.5%/重量%基準,融点Tm;893℃)の板状鋳造合金(幅:10mm,長さ:50mm,厚さ:1.6mm)を準備した。
【0062】
次に、矩形のカーボン型に上記の2つの試料を積み重ねて配置した後、真空雰囲気下において圧力50MPa、温度850℃を負荷して各焼結体を緻密化すると同時に、2層間での固相拡散接合を促進することで隙間・欠陥等がない良好な2層構造貴金属部材を作製した。
【0063】
この2層構造焼結体を熱間押出加工(押出加工前の試料の加熱温度:850℃)した結果、直径3.5mmの状態においてもK18合金とスターリングシルバー合金の2層間に隙間や剥離は見られず、良好な結合状態にあった。また、スターリングシルバー鋳造合金のみで表面を覆うことで表面凹凸や斑点模様もなく良好な外観が得られた。また遠赤外線効果粒子を含むK18貴金属部を含むことで圧延加工後の2層貴金属製品においても同様の遠赤外線効果が確認された。
【実施例5】
【0064】
実施例1で用いたK18合金粉体(融点Tm;905℃)とアモルファスシリカ粒子とを出発原料とし、シリカ粒子の含有量が体積分率で3.5%となるように両者を混合した。
【0065】
先ず、この混合粉末をカーボン型内に充填し、面圧20MPaを負荷した後、次いで、その上にK18合金粉体のみを充填し、表1に示す加熱条件下で圧力50MPaを負荷した状態で15分間、真空雰囲気下で加熱・保持して2層構造焼結体(幅:10mm,長さ:50mm,厚さ:4.8mm)を作製した。続いて、各2層構造焼結体に対して複数回に分けて熱間双ロール圧延加工(圧延加工前の試料の加熱温度:800℃)を施した。試料1〜4では、適正な焼結温度を設定することで焼結過程にて液相は流出せず、良好な2層構造焼結体が得られた。また圧延加工後において2層間で剥離・亀裂等は観察されず、良好な貴金属製品部材が作製できた。
【0066】
他方、試料5では、焼結温度が700℃と適正値よりも低いために圧延加工過程で2層間での剥離・亀裂が発生し、良好な2層構造貴金属製品部材が得られなかった。試料6では、焼結温度が1030℃と適正値よりも高いために、焼結過程で型から液相が流出し、良好な2層構造貴金属焼結体が得られなかった。
【0067】
【表1】

【実施例6】
【0068】
実施例1で作製したK18焼結合金にアモルファスシリカ粒子が分散した素材(第1貴金属部)とK18焼結合金のみの素材(第2貴金属部)からなる2層構造貴金属部材を用いて、断面形状がかまぼこ型のブレスレットの結合部を作製した。
【0069】
図3は、かまぼこ型結合部40を有するブレスレット50の一部を示す平面図であり、図4は、かまぼこ型結合部40の側面図である。結合部40は、内側の第1貴金属部41と、外側の第2貴金属部42とを積層させた構造を有している。第1貴金属部41には、2個の穴が設けられている。
【0070】
K18焼結合金のみからなる第2貴金属部42の曲面状の表面には、凹凸や斑点模様は見られず、良好な外観を有していた。また使用過程においても、2層間で剥離や分離なども生じることなく、宝飾品として使用できることが認められた。
【0071】
図5は、結合部40の接合界面の光学顕微鏡写真である。接合界面には、微小な空隙や亀裂は存在せず、第1貴金属部41と第2貴金属部42とが良好な結合状態となっていることが認められる。
【0072】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明は、装飾機能と健康増進機能とを併せ持つ機能性貴金属製品に有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に従った製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明に従った製造方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図3】ブレスレットの一部を示す平面図である。
【図4】ブレスレットのかまぼこ型結合部の側面図である。
【図5】第1貴金属部と第2貴金属部との接合界面のさらに他の例を示す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0075】
1 金型、10 第1貴金属粉末層、20 第2貴金属粉末層、30 貴金属製品、40 結合部、41 第1貴金属部、42 第2貴金属部、110 第1粉末焼結固化体、120 第2粉末焼結固化体、130 貴金属部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品であって、
素地中に遠赤外線効果を有する粒子を分散させた内側の第1貴金属部と、
前記第1貴金属部の表面を覆うように形成され、前記分散粒子の含有量が前記第1貴金属部よりも少ない外側の第2貴金属部とを備える、機能性貴金属製品。
【請求項2】
前記第1貴金属部の素地中に含まれる遠赤外線効果を有する粒子の含有率は、体積分率で1%以上20%以下である、請求項1に記載の機能性貴金属製品。
【請求項3】
金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品の製造方法であって、
内側の第1貴金属部を形成する第1粉末層と、外側の第2貴金属部を形成する第2粉末層とを積層し、その積層体を焼結して固化する、機能性貴金属製品の製造方法。
【請求項4】
焼結固化した前記積層体を加熱した後、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す、請求項3に記載の機能性貴金属製品の製造方法。
【請求項5】
金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品の製造方法であって、
内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を焼結して第1粉末焼結固化体を作製する工程と、
外側の第2貴金属部を形成する第2粉末を焼結して第2粉末焼結固化体を作製する工程と、
金型内で前記第1粉末焼結固化体と前記第2粉末焼結固化体とを積層してそれらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す工程と、
前記冶金的結合を促す工程に続いて、積層状態の前記第1および第2貴金属部を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す工程とを備える、機能性貴金属製品の製造方法。
【請求項6】
金、銀、プラチナおよびそれらの合金からなる群から選ばれた貴金属を主体とする貴金属製品の製造方法であって、
内側の第1貴金属部を形成する第1粉末を焼結して第1粉末焼結固化体を作製する工程と、
溶解・鋳造法により外側の第2貴金属部を形成する第2貴金属部素材を作製する工程と、
金型内で前記第1粉末焼結固化体と前記第2貴金属部素材とを積層してそれらを加熱・加圧し、両者間の冶金的結合を促す工程と、
前記冶金的結合を促す工程に続いて、積層状態の前記第1および第2貴金属部を再度加熱した後に、圧延加工、線引き加工、鍛造加工、押出加工、スエージング加工、プレス加工のいずれかの塑性加工を施す工程とを備える、機能性貴金属製品の製造方法。
【請求項7】
前記第1貴金属部を形成する第1粉末は、遠赤外線効果を有する粒子を含む、請求項3〜6のいずれかに記載の機能性貴金属製品の製造方法。
【請求項8】
前記第1貴金属部を形成する第1粉末中における遠赤外線効果を有する粒子の含有率は、体積分率で1%以上20%以下である、請求項7に記載の機能性貴金属製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−321179(P2007−321179A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150270(P2006−150270)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(504100802)
【出願人】(593157297)株式会社デスク・トウー・ワン (4)
【Fターム(参考)】