説明

機能性食品素材とその製造方法

【課題】 白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善あるいはその他の機能性効果を発揮させるため生体において吸収性を向上させたカロテノイドの乳化組成物で、水に対して澄明に溶解する機能性食品素材を提供する。
【解決手段】 カロテノイド化合物およびカロテノイド混合物からなる脂溶性物質を、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤と、多価アルコール、水、レシチン、セラミドを配合して0〜100℃で乳化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に対してカロテノイドの吸収性を高められる、つまり生体への吸収性に優れた、そして水に対して澄明に溶解する機能性食品素材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記カロテノイドは優れた抗酸化作用を示し、がんの発症リスクを低減することや白内障、加齢黄斑変性などの疾病予防に効果があるといわれている。
【0003】
加齢黄斑変性については決め手になるような治療法がまだ開発されていないが、有望な治療法のひとつとして、光感受性物質を静脈内に注入し、その物質と反応しやすい一定波長の半導体レーザーによる活性酸素で新生血管の閉塞を狙う方法が知られている。しかし、手術の技法が難しく、術後に網膜剥離や斜視などの合併症を引き起こすおそれがあり、その意味では開発途上の治療法といえども、健康保険の適用外であることからも問題点が多い。
【0004】
白内障や加齢黄斑変性などの目の疾病は発症してからでは治療が困難であるので、何らかの形で疾病予防をおこなう必要性があり、特に食品の摂取によりこれらの疾病を予防することは重要とされる。
【0005】
従来、白内障や加齢黄斑変性などに有効とされるもののうち、ブルーベリーの飲用が好ましいとされている。つまり、ブルーベリーに含まれるアントシアニンは、パソコンによる目の疲れや、ドライアイ、目のかすみなど現代人の目に関するトラブルに有効とされている。しかし、ブルーベリーの摂取だけでは、白内障や加齢黄斑変性などの重篤な疾病の改善には必ずしも十分ではなく、またこれらの疾病予防に関しても有効とされる根本的な治療方法とはいえない。
【0006】
白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善に関して、例えば、ルテインやアスタキサンチンなどのカロテノイド化合物が有効であることが報告されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0007】
ルテインやアスタキサンチンは、健康な黄斑と網膜のための大切な要因である黄斑色素濃度を高める働きがあり、白内障の発病率が非常に低くなることがわかっている。これらのカロテノイドは野菜や果物に含まれているが、極微量であるため、これらを抽出し、油や有機溶剤で乳化することによって食品や化粧品分野に適用することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また別の方法としてそれらのカロテノイドを保護コロイドの水溶液と混合し、溶媒成分を水相中に移動させ、カロテノイドなどの疎水相をナノ分散相として生じさせ、更に乾燥粉末の形態とする技術も報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、有機溶剤を用いて抽出されたものは、残留有機溶媒の問題から好ましいとはいえない。またシクロデキストリンで包接することで脂溶性のカロテノイドを水溶性化させる技術が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【非特許文献1】Gale CR,Hall NF,Phillips DI,Martyn CN,Plasma antioxdant vitamins and carotenoids and age− related cataract,Ophthalmology,108,1992−1998 (2001)
【0011】
【非特許文献2】Bone RA,Landrum JT,Macular pigment in donor eyes with and without AMD: a case−control study,Invest Ophthalmol Vis Sci,42,235−240 (2001)
【特許文献1】特表2005−512587号公報
【特許文献2】特表2002−543263号公報
【特許文献3】特開2002−348276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の各先行技術を用いて得られるカロテノイドが、はたして速やかに生体に対し吸収されるか否かについては、検証されていない。
そこで、生体に対して吸収に優れたカロテノイドの組成物を得る技術が発明されれば、それを少量摂取するだけで、カロテノイドが効率よく吸収され、白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防や改善に対して効果が期待できる。
【0013】
ところで、本発明者らは、白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善に有効とされるカロテノイドを乳化処理することにより、乳化しないカロテノイドに比べて、生体吸収能が著しく向上することを見出した。さらに乳化処理時にレシチンとセラミドを配合するとその効果が更に著しく向上することを確認した。
【0014】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善に有効とされるカロテノイド乳化組成物からなり、生体における吸収性に優れ、かつ安全性が高い機能性食品素材を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、カロテノイド乳化組成物を錠剤、カプセル、粉末などに適用するサプリメントおよびその原料、あるいはカロテノイドの乳化物を添加することによる、一般食品、化粧品および医薬品として提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために本発明に係る機能性食品素材は、セラミドとレシチンを配合したカロテノイドの乳化組成物からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載のように、前記カロテノイドは、カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物であり、前記カロテノイド化合物は、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンおよびこれらのエステル体の化合物であり、前記カロテノイド混合物は、前記カロテノイド化合物を溶剤で溶解あるいは懸濁させたもので、これらを含有させたものを含んでいてもよい。
【0018】
請求項3に記載のように、前記セラミドが、米、小麦、コーン、蒟蒻由来のいずれかであってもよい。
【0019】
請求項4に記載のように、前記レシチンが、大豆、卵黄由来のいずれかであってもよい。
【0020】
請求項5または請求項6に記載のように、前記請求項1〜4のいずれか記載の機能性食品素材を、錠剤、カプセルまたは粉末にしてサプリメントあるいはサプリメントの原料にすることができる。
【0021】
請求項7に記載のように、前記請求項1〜4のいずれか記載の機能性食品素材を添加して一般食品、化粧品または医薬品にすることができる。
【0022】
上記の目的を達成するために本発明(請求項8)に係る機能性食品素材の製造方法は、カロテノイドに対し、乳化剤と多価アルコール、水、レシチン、セラミド、酸化防止剤を配合し、乳化処理することを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載のように、前記カロテノイドは、カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物であり、前記カロテノイド化合物は、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンおよびこれらのエステル体の化合物であり、 前記カロテノイド混合物は、前記カロテノイド化合物を溶剤で溶解あるいは懸濁させたもので、これらを含有させたものを含むものであってよい。
【0024】
請求項10に記載のように、前記カロテノイド化合物または前記カロテノイド混合物を、20〜180℃で乳化処理することが好ましい。
【0025】
請求項11に記載のように、前記カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物カロテノイドに対し、窒素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを通気するか、それらの組成中に抗酸化剤を配合するかすることが好ましい。
【0026】
請求項12に記載のように、前記カロテノイド化合物あるいはカロテノイド混合物を加熱溶解させて得られるカロテノイド溶解液に対して、前記乳化剤、前記酸化防止剤、多価アルコール、レシチン、セラミド、水などを配合し、0〜100℃で乳化処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る機能性食品素材とその製造方法には、次のような優れた効果がある。
【0028】
すなわち、本発明に係る機能性食品素材は、白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善に有効であり、しかもレシチンおよびセラミドを含むカロテノイド乳化組成物からなるので、生体における吸収性に優れ、かつ安全性が高い。また、界面活性剤の親水基の割合が高いことから水に対して澄明に溶解する。
【0029】
請求項11記載の製造方法によれば、不活性ガスを通気するか、それらの組成中に抗酸化剤を配合することにより、カロテノイドの分解を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る機能性食品素材およびその製造方法について実施の形態を説明する。
【0031】
カロテノイドは、植物、藻類、細菌類などから、または化学合成して得られるが、本発明の機能性食品素材には、植物、藻類、細菌類などから得られるカロテノイドを使用するのが好ましい。
【0032】
本発明の機能性食品素材としてのカロテノイド乳化組成物において、カロテノイドとはカロテノイド化合物またはカロテノイド混合物であり、カロテノイド化合物とは、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンなどの化合物で、カロテノイド混合物とはカロテノイド化合物を溶剤で溶解あるいは懸濁させたものをいう。
【0033】
本発明の機能性食品素材における溶剤には、動植物油脂、精油成分、脂溶性ビタミン類が用いられる。動植物油脂としては、ヤシ油、オリーブ油、大豆油、ナタネ油、綿実油、椿油、コーン油、ピーナッツ油、紅花油、ヒマワリ油、ゴマ油、シソ油、米油、ヒマシ油、魚油、牛油、豚油、鶏油、中鎖脂肪酸トリグリセライドなどがあげられる。精油成分としては、レモン油、オレンジ油などの柑橘油や、ハッカ、ラベンダー、バラ、ユーカリ、カミツレなどのハーブ類からの精油があげられる。脂溶性ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの合成または天然抽出物があげられる。カロテノイドの添加量としては、0.01〜50重量%、好ましくは1〜30重量%の範囲内である。
【0034】
HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)とは界面活性剤の親油基と親水基の割合を数値化したもので、HLBは高値であれば親水基が多く、HLBが8以上で水分散製剤、11以上で水可溶化製剤となることからここの範囲内にあるとカロテノイドが均一になり、扱いやすい。
【0035】
また、これらカロテノイドには、エステル類などが結合したものも存在するが、基本骨格がカロテノイド(フリー体)であればエステル類などが結合しているものもカロテノイド化合物を意味するものである(エステル体)。
【0036】
本発明のカロテノイド組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤と、多価アルコール、水、レシチン、セラミドを配合して乳化処理を行うことにより得られる。使用可能な乳化剤は、HLB値が8以上で、好ましくは11以上である。
【0037】
また、これらの乳化剤の複数種を混合して使用することは特に有効であり、本発明においてはポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを混合して使用しているが、どちらか単独でも本発明の目的を達することが可能である。
【0038】
乳化剤の添加量としては、0.5%〜50重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内である。この範囲内であれば物性的に安定な乳化製剤が得られる。
【0039】
多価アルコールは、カロテノイド組成物を安定化するために使用される。一般に、カロテノイドは脂溶性であり、乳化処理によって得られた水可溶性製剤や水分散性製剤は経時的に分離や、カロテノイドの再結晶を起こす可能性がある。また、水分活性が高い状態では腐敗してしまう危険性もあり、多価アルコールを添加することでこれらを回避し、経時的安定性の向上を狙えるものである。
【0040】
使用される多価アルコールは、食品、医薬品、化粧品等の原料として使用されるものであればよい。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、フラクトース、還元澱粉分解物などがある。また、同様の目的でデキストリン、デンプン、加工デンプンやエタノールなどのアルコール類を用いることも可能である。
【0041】
レシチンとしては一般的に大豆レシチンが多く使用され、種類としては、ペーストレシチン、分画レシチン、酵素処理レシチン、化学処理されたレシチンが使用されている。また、卵黄レシチンも使用可能で、添加量としては、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲内である。この添加量が最も乳化安定性がよく、カロテノイドの生体吸収に優れている。
【0042】
セラミドには一般的に米セラミド、小麦セラミド、コーンセラミド、蒟蒻セラミドがあるが、いずれのセラミドを使用してもよい。添加量としては、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲内である。この添加量が最もカロテノイドの生体吸収に優れている。
【0043】
また、カロテノイドを安定化させるために酸化防止剤を配合させることが好ましい。利用可能な酸化防止剤としては、天然または合成の酸化防止剤で、合成のdl−α−トコフェロール、BHAやアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムなどがあげられ、天然では抽出トコフェロール、トコトリエノール、ローズマリー抽出物、茶抽出物などがあげられる。
【0044】
混合乳化機としては、ホモジナイザー、ホモミクサー、ホモジェッター、フィルミックス、ハイフレックスミキサー、クレアミックスなどの高速回転型攪拌機、ゴーリン型、ラニエ型などの超高圧式乳化機、ナノマイザー、アルティマイザーなどの高圧衝突型微粒化装置、CLEAR SS5、マスコローダーなどの摩砕型微粒子化装置、ウルトラビスコミル、スターミルなどのビーズミルなどが使用可能である。この他、3本ロールミルや超音波乳化機でも本発明の前記目的に使用することができる。本発明において平均粒径を0.1μm以下、好ましくは0.05μm以下に加工できるものであれば、使用する機器は特に限定されないが、ホモジナイザーもしくはホモミクサーの使用が好ましい。
【0045】
本発明のカロテノイド組成物を製造するには、カロテノイド化合物あるいはカロテノイド混合物を加熱溶解させる必要がある。そのために、動植物油脂、精油成分、脂溶性ビタミン類や酸化防止剤を配合することが望ましい。また、乳化剤を配合するのも効果的である。
【0046】
処理条件はカロテノイドの種類や乳化機の種類により異なるため特に限定されることはないが、低温ではカロテノイドが溶けにくく、高温ではカロテノイドが分解することから、20〜180℃で乳化処理することが好ましい。加熱手段は、特に限定されない。カロテノイドは酸素によって分解されやすく、この際、カロテノイドの分解を防ぐために窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスを通気することも有効である。
【0047】
また、組成中に抗酸化剤を配合してカロテノイドの分解を防ぐことも有効である。
【0048】
カロテノイド化合物あるいはカロテノイド混合物を加熱溶解させて得られるカロテノイド溶解液に対して、前記乳化剤、前記酸化防止剤、多価アルコール、レシチン、セラミド、水などを配合し、0〜100℃で乳化処理することで、本発明のカロテノイド乳化組成物が得られる。本発明品には水が配合されており、0℃以下では凍結し、100℃以上では沸騰乾燥の可能性があることから0〜100℃で乳化処理することが必要である。
【0049】
本発明のカロテノイド乳化組成物は、後記の実施例に示すように、ラットにおける生体吸収促進作用を示した。本生理機能は、実際に動物に与えてその効果を検証したものであり、生体吸収促進はすなわち白内障や加齢黄斑変性などの疾病予防および改善、あるいはその他の機能効果に対して有効な機能性食品素材となり得るものである。
【実施例1】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
<実施例1 ルテインの乳化物の製造>
マリーゴールドオイルNo.84790(ルテイン:総キサントフィル含量15% 三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)6.7重量%、理研Eオイル600G(トコフェロール含量60% 理研ビタミン(株)製)0.5重量%、リョートーポリグリエステルL−7D(デカグリセリンラウリン酸エステル HLB=17.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%、リョートーシュガーエステルS−1670(ショ糖ステアリン酸エステル HLB=16.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%を混合し、70℃に昇温後エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて70℃で8000rpm/min、10分間の混合処理を行った。 この混合液に対して、グリセリン(坂本薬品工業(株)製)55.0重量%、水29.8重量%を加え、70℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDXを用いて70℃で8000rpm/min、30分間の混合処理を行った。その結果、水に対して澄明に溶解するカロテノイド組成物を得た。
【実施例2】
【0052】
<実施例2 レシチンを配合したルテインの乳化物の製造>
マリーゴールドオイルNo.84790(ルテイン:総キサントフィル含量15% 三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)6.7重量%、理研Eオイル600G(トコフェロール含量60% 理研ビタミン(株)製)0.5重量%、リョートーポリグリエステルL−7D(デカグリセリンラウリン酸エステル HLB=17.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%、リョートーシュガーエステルS−1670(ショ糖ステアリン酸エステルHLB=16.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%を混合し、70℃に昇温後エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて70℃で8000rpm/min、10分間の混合処理を行った。この混合液に対して、SLPペースト(レシチン:辻製油(株)製)2.0重量%、グリセリン(坂本薬品工業(株)製)5.0重量%、水27.5重量%を加え、70℃に昇温後エクセルオートホモジナイザーDXを用いて70℃で8000rpm/min、30分間の混合処理を行った。その結果、水に対して澄明に溶解するカロテノイド組成物を得た。
【実施例3】
【0053】
<実施例3 セラミド+レシチンを配合したルテインの乳化物の製造>
マリーゴールドオイルNo.84790(ルテイン:総キサントフィル含量15% 三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)6.7重量%、理研Eオイル600G(トコフェロール含量60% 理研ビタミン(株)製)0.5重量%、リョートーポリグリエステルL−7D(デカグリセリンラウリン酸エステル HLB=17.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%、リョートーシュガーエステルS−1670(ショ糖ステアリン酸エステルHLB=16.0 三菱化学フーズ(株)製)3.0重量%を混合し、70℃に昇温後エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて70℃で8000rpm/min、10分間の混合処理を行った。 この混合液に対して、SLPペースト(レシチン:辻製油(株)製)2.0重量%、ニップンセラミドRPS(セラミド:日本製粉(株)製)1.0重量%、グリセリン(坂本薬品工業(株)製)55.0重量%、水26.8重量%を加え、70℃に昇温後エクセルオートホモジナイザーDXを用いて0℃で8000rpm/min、30分間の混合処理を行った。 その結果、水に対して澄明に溶解するカロテノイド組成物を得た。
【0054】
<1:ルテインの分析方法>
ルテインには、フリー体ルテインとエステル類などが結合したエステル体ルテインが存在する。これらを定量的に分析するため、高速液体クラマトグラフ(HPLC)を用いた測定法を確立した。カラムには、Develosil C30−UG−5 4.6×250mm(野村化学製)を使用し、移動相には、エタノール:ヘキサン=3:1溶液、波長480nm、流速1ml/minで測定した。フリー体ルテインとエステル体ルテインをそれぞれ分析することができた。この条件で、血中および肝臓中のルテインを定量することができた。
【0055】
図1は前記分析法を用いたHPLCによるルテインのクラマトグラムを示す線図である。
【0056】
<2:動物実験によるルテイン化合物の乳化物の生体吸収性>
Sprague Dawley(SD)ラットの雄5週齢を1群5匹で群分けし、さまざまなルテイン化合物およびその乳化物をルテイン濃度で0.02%となるよう飼料に混ぜ、7日間、ラットに自由摂取させた。腹部大動脈より採血して血清中のルテイン含量(図2)と肝臓中に蓄積したルテイン含量(図3)を測定した。検討したルテイン化合物およびその乳化物は次に示した。
【0057】
1)フリー体ルテイン化合物「Lutein Soft Extract」(味の素製)
2)エステル体ルテイン化合物「マリーゴールドオイルNo.84790」(三栄源エフ・エフ・アイ)
3)フリー体ルテイン化合物の乳化物(実施例1)
4)エステル体ルテイン化合物の乳化物(実施例1)
血中および肝臓中のルテイン含量は、フリー体およびエステル体ともに乳化することで、吸収性が有意に向上した(実施例1)。
【0058】
図2は血清中のルテイン含量を示す棒グラフで、図2中の異なるアルファベットは有意差(p<0.05)を表している。
【0059】
図3は肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフで、図3中の異なるアルファベットは有意差(p<0.05)を表している。
【0060】
<3:フリー体ルテインのレシチン配合による生体吸収性の向上>
Sprague Dawley(SD)ラットの雄5週齢を1群5匹で群分けし、フリー体ルテイン化合物、その乳化物およびレシチン配合の乳化物をルテイン濃度で
0.02%となるよう飼料に混ぜ、7日間、ラットに自由摂取させた。腹部大動脈より採血して血清および肝臓ルテイン含量を測定した。肝臓中に蓄積したルテイン含量を図4に示した。検討したルテイン化合物およびその乳化物は次に示している。
【0061】
1)フリー体ルテイン化合物「Lutein Soft Extract」(味の素製)
2)フリー体ルテイン化合物の乳化物(レシチンなし)(実施例1)
3)フリー体ルテイン化合物の乳化物(レシチン配合)(実施例2)
【0062】
肝臓中のルテイン含量は、レシチンを配合したフリー体ルテイン化合物の乳化物(実施例2)において吸収性が有意に向上した。
【0063】
図4は肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフで、図4中の符号*は有意差(p<0.05)、符号**は有意差(p<0.01)をそれぞれ表している。
【0064】
<4:エステル体ルテインのセラミド+レシチン配合による生体吸収性の向上>
Sprague Dawley(SD)ラットの雄5週齢を1群5匹で群分けし、エステル体ルテイン化合物、そのレシチン配合の乳化物およびセラミド+レシチン配合の乳化物をルテイン濃度で0.02%となるよう飼料に混ぜ、7日間、ラットに自由摂取させた。腹部大動脈より採血して血清中のルテイン含量(図5)と肝臓中に蓄積したルテイン含量(図6)を調べた。検討したルテイン化合物およびその乳化物は次に示す。
【0065】
1)エステル体ルテイン化合物「マリーゴールドオイルNo.84790」(三栄源エフ・エフ・アイ)
2)エステル体ルテイン化合物の乳化物(レシチン配合)(実施例2)
3)エステル体ルテイン化合物の乳化物(セラミド+レシチン配合)(実施例3)
肝臓中のルテイン含量は、セラミド+レシチンを配合したエステル体ルテイン化合物の乳化物(実施例3)において吸収性が向上した。
【0066】
図5は血清中のルテイン含量を示す棒グラフで、図5中の異なるアルファベットは有意差(p<0.05)を表している。
【0067】
図6は肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフで、図6中の異なるアルファベットは有意差(p<0.05)を表している。
【0068】
<実施例4:本発明品を含有した飲料>
本発明品を含有した飲料の実施例を次に示している。下記の配合表に示すものを全て混合し、水で50mlとし瓶詰めする。90℃で火入れ殺菌をおこない、放冷することにより飲料を製造できる。本製造方法によりルテインが澄明に溶解した飲料が処方できる。
【0069】
配合表(50ml中)
1.高果糖液糖 6g
2.エリスリトール 3g
3.クエン酸 0.7g
4.本発明品(実施例3) 0.3g
5.香料 適量
6.クエン酸ナトリウム 適量
7.ローズマリー抽出物 0.025g
8.保存料(安息香酸ナトリウム) 0.015g
9.甘味料(スクラロース) 0.7mg
【0070】
<実施例5:本発明品を含有した食品(キャンディー)>
本発明品を含有した食品(キャンディー)の実施例を次に示している。還元麦芽水あめを170℃まで加熱し、130℃まで温度が下がったところで、本発明品(実施例例3)を加えて混ぜる。さらに50%クエン酸水をまぜて、すばやく型に流し込む。固まったら型からはずすことにより、キャンディーを製造できる。本製造方法によりルテインが澄明に溶解した食品(キャンディー)が処方できる。
【0071】
10〜15個のキャンディーを作る場合の配合
1.還元麦芽水あめ50g
2.50%クエン酸水0.1ml
3.本発明品(実施例例3)0.5g
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】HPLCによるルテインのクロマトグラムを示す棒グラフである。
【図2】血清中のルテイン含量を示す棒グラフである。
【図3】肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフである。
【図4】肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフである。
【図5】血清中のルテイン含量を示す棒グラフである。
【図6】肝臓中のルテイン含量を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミドとレシチンを配合したカロテノイドの乳化組成物からなることを特徴とする機能性食品素材。
【請求項2】
前記カロテノイドは、カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物であり、
前記カロテノイド化合物は、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンおよびこれらのエステル体の化合物であり、
前記カロテノイド混合物は、前記カロテノイド化合物を溶剤で溶解あるいは懸濁させたもので、これらを含有させたものを含むことを特徴とする請求項1に記載の機能性食品素材。
【請求項3】
前記セラミドが、米、小麦、コーン、蒟蒻由来のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の機能性食品素材。
【請求項4】
前記レシチンが、大豆、卵黄由来のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の機能性食品素材。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか記載の機能性食品素材を、錠剤、カプセルまたは粉末にしたことを特徴とするサプリメント。
【請求項6】
前記請求項1〜4のいずれか記載の機能性食品素材を、錠剤、カプセルまたは粉末にしたことを特徴とするサプリメントの原料。
【請求項7】
前記請求項1〜4のいずれか記載の機能性食品素材を添加したことを特徴とする一般食品、化粧品または医薬品。
【請求項8】
カロテノイドに対し、乳化剤と多価アルコール、水、レシチン、セラミド、酸化防止剤を配合し、乳化処理することを特徴とする機能性食品素材の製造方法。
【請求項9】
前記カロテノイドは、カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物であり、
前記カロテノイド化合物は、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンおよびこれらのエステル体の化合物であり、
前記カロテノイド混合物は、前記カロテノイド化合物を溶剤で溶解あるいは懸濁させたもので、これらを含有させたもの含むことを特徴とする請求項8に記載の機能性食品素材の製造方法。
【請求項10】
前記カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物を、20〜180℃で乳化処理することを特徴とする請求項9に記載の機能性食品素材の製造方法。
【請求項11】
前記カロテノイド化合物またはカロテノイド混合物カロテノイドに対し、窒素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを通気するか、それらの組成中に抗酸化剤を配合するかしたことを特徴とする請求項9または10に記載の機能性食品素材の製造方法。
【請求項12】
前記カロテノイド化合物あるいはカロテノイド混合物を加熱溶解させて得られるカロテノイド溶解液に対して、前記乳化剤、前記酸化防止剤、多価アルコール、レシチン、セラミド、水などを配合し、0〜100℃で乳化処理することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の機能性食品素材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−255069(P2008−255069A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101197(P2007−101197)
【出願日】平成19年4月7日(2007.4.7)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】