説明

機能性飲食品

【課題】過剰な体脂肪の蓄積を抑制または減少させ、肥満改善作用や肥満予防効果を有する機能性飲食品を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)により少なくとも乳清蛋白質と脱脂乳とを含有する培養基を培養した培養物(a)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)により前記の培養基を培養した培養物(b)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)により前記の培養基を培養した培養物(c)とカルシウム製剤とを含む混合物から成り、乳固形分中のカルシウムの割合が1.5重量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性飲食品に関し、詳しくは、過剰な体脂肪の蓄積を抑制または減少させ、肥満改善作用や肥満予防効果を有する機能性飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に体脂肪の増加とそれに伴う肥満(内臓脂肪型肥満)が高血糖などの生活習慣病の進行に大きく関わると考えられている。この内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうち何れか2つ以上を併せ持った状態がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と呼ばれている。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階であっても、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることにより動脈硬化を進行させ、心臓病、脳卒中、糖尿病合併症(失明等)といった重大な病気の危険性が急速に増す。従って、このメタボリックシンドロームにならないように肥満対策を行うことはきわめて重要である。
【0003】
これまでの肥満改善や治療の主な方法としては、食事制限や薬の摂取などが挙げられるが、この食事制限は精神的な苦痛を伴うことから継続性が難しく、さらには、栄養障害、拒食症、過食症といった病的な状態が発生する危険性がある。投薬に関しては、副作用を伴う危険性を注意しなければならない。
【0004】
近年、脱脂乳あるいは脱脂粉乳にカルシウム製剤を添加したカルシウム強化乳製品に体脂肪の減少効果があることが報告されている(非特許文献1)。脱脂乳や脱脂粉乳は牛乳から分離して得られる乳製品であり、これにカルシウム製剤を添加することによりその乳製品の付加価値が向上することは、酪農産業界、乳製品業界にとって大変好ましい。さらに、乳製品とカルシウム製剤は安全性が高い食材であるため、上記のカルシウム強化乳製品は、好ましい体脂肪改善剤になり得る。
【非特許文献1】J.Nutr.134:3054−3060,2004
【0005】
しかしながら、上記のカルシウム強化乳製品では、必ずしも十分な効果期待できるわけではなく、さらにその効果を高めるための改良が切望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、過剰な体脂肪の蓄積を抑制または減少させ、肥満改善作用や肥満予防効果を有する機能性飲食品を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、次の様な新規な知見を得た。すなわち、特定の乳酸菌により少なくとも乳清蛋白質と脱脂乳とを含有する培養基を培養した培養物とカルシウム製剤とを含む混合物は、意外にも、体脂肪蓄積の減少効果が顕著に高められ、しかも体脂肪を分解促進する効果も顕著に高められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)により少なくとも乳清蛋白質と脱脂乳とを含有する培養基を培養した培養物(a)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)により前記の培養基を培養した培養物(b)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)により前記の培養基を培養した培養物(c)とカルシウム製剤とを含む混合物から成り、乳固形分中のカルシウムの割合が1.5重量%以上であることを特徴とする、体脂肪蓄積抑制および抗肥満効果を有する機能性飲食品に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、過剰な体脂肪の蓄積を抑制または減少させ、肥満改善作用や肥満予防効果を有する機能性飲食品が提供される。本発明の機能性飲食品は先行技術であるカルシウム強化乳製品よりも体脂肪蓄積の減少効果が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る機能性飲食品は、ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)により少なくとも乳清蛋白質と脱脂乳とを含有する培養基を培養した培養物(a)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)により前記の培養基を培養した培養物(b)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)により前記の培養基を培養した培養物(c)とカルシウムとを含む混合物から成る。
【0011】
ラクトバチルス・ラムノーサスGG株は、American Type Culture Collectionに、ATCC53103として登録されている。
【0012】
ラクトバチルス・カゼイTMC0409株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて、受託番号「FERM P−17047」として、平成10年11月6日から国内寄託され保管されている。
【0013】
ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて、受託番号「FERM P−17046」として、平成10年11月6日から国内寄託され保管されている。
【0014】
乳清蛋白質および脱脂乳としては、特にその純度は限定されず、市販品をそのまま使用することが出来る。乳清蛋白質はその濃縮物を使用してもよく、また、脱脂乳は脱脂粉乳を使用してもよい。さらに、脱脂乳は、乳から分離して得られたものの他、脱脂粉乳を水で還元したものも使用することが出来る。
【0015】
培養基は、上記の乳酸菌による乳酸発酵で変換される物質を含有し、通常、乳清蛋白質および脱脂乳の他、牛乳や低脂肪乳などの乳製品、カゼイン、糖類、飲食品の種類に応じた乳酸発酵で使用される各種の成分を含有している。培養基における乳清蛋白質の濃度は、通常1〜6重量%、好ましくは1〜3重量%であり、脱脂乳の濃度は、通常40〜99重量%、好ましくは70〜99重量%である。
【0016】
本発明において、前記の培養物(a)〜(c)が同一の培養基を培養した培養物であっても、各別に準備された培養基を培養した後に混合された培養物であってもよいが、一般的には、同一の培養基を培養した培養物、すなわち、通常の乳酸発酵による培養物である。なお、上記の培養物とは、乳酸発酵で得られたブロス(菌体と乳酸発酵生成物の全体)を意味する。
【0017】
カルシウム製剤としては、特に種類や純度は限定されず、市販のミルクカルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸カルシウム等を使用することができる。また、カルシウム製剤は上記の培養基に添加しても培養物に添加してもよい。
【0018】
本発明の機能性飲食品の代表例としては、乳酸菌を添加して得られる液状または固形状の発酵乳が挙げられる。一般に、発酵乳は、全乳、脱脂乳、脱脂粉乳、クリーム等の乳製品に、安定剤、糖類などを添加し、乳酸菌で発酵して製造される。本発明においては、前述のラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)を使用し、常法に従って発酵乳を製造する。
【0019】
本発明の機能性飲食品において、乳固形分中のカルシウムの割合は1.5重量%以上でなければならない。カルシウムの割合が上記未満の場合は、常識的に摂取する飲食品の量では十分な体脂肪蓄積抑制や抗肥満効果が発現されない。因に、通常、発酵乳の乳固形分中のカルシウムの割合はおよそ0.6重量%から1.2重量%程度である。乳固形分中のカルシウムの割合の上限は通常10重量%である。
【0020】
また、本発明の機能性飲食品において、乳固形分中の乳蛋白質の割合は、通常36〜40重量%である。そして、乳蛋白質中の乳清蛋白質の割合は21重量%を超える割合であることが好ましい。斯かる条件を満足することにより、血清脂質改善効果も期待することが出来る。なお、乳蛋白質中の乳清蛋白質の割合の上限は通常80重量%である。因に、通常、発酵乳の乳蛋白質中の乳清蛋白質の割合は21重量%以下である。
【0021】
本発明において、対象となる飲食品は、液状または固形状の発酵乳に限定されず、液状または固形状の発酵乳を粉末化等に加工した健康補助食品も含む。また、クリームチーズ、サワークリーム、発酵バター等も挙げられ、これらはいずれも高脂肪食品であり、その摂取量によっては肥満を促すことになるので、本発明に係る体脂肪蓄積抑制ならびに抗肥満効果を有する機能性飲食品の対象として適している。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げ、本発明の効果を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1:
(発酵乳の調製)
脱脂粉乳10重量%、乳清蛋白質濃縮物1重量%、ミルクカルシウム0.55重量%、水85.45重量%の溶液を調製し、90℃で数秒間殺菌して培養基として使用した。ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)の3つの乳酸菌を上記の培養基に接種し、42℃で6時間発酵させ、冷却して発酵乳を得た。得られた発酵乳の乳酸酸度(中和滴定法)は0.7重量%、乳固形分中のカルシウムの割合は2.8重量%、乳蛋白質の割合は39.8重量%、乳蛋白質中の乳清蛋白質の割合は34.7重量%であった。
【0024】
(動物実験)
動物実験はZemelらの方法(FASEB J.14:1132−1138(2000))に従って実施した。すなわち、実験動物には6週齢の雄のaP2−agouti トランスジェニックマウス(P2マウス)を使用した。そして、このP2マウスに改良「AIN93−g」を6週間摂取させた。改良「AIN93−g」は、カルシウム濃度を0.4重量%に調節し、ラードを脂肪源として使用し脂肪エネルギー比を25%へ増加させたものである。そして、摂取後、このマウスを4群に分け、各群毎に表1に示す餌を与えて6週間に亘って飼育した。ただし、給水条件は自由摂取とした。
【0025】
【表1】

【0026】
飼育期間中、餌摂取量は毎日測定し、体重は毎週測定した。そして、マウスは6週間後に麻酔下で屠殺し、血液、体脂肪、筋肉組織を採取し、凍結保存し、必要に応じ脂肪組織重量測定、生化学的検査を実施した。そして、以下の(1)〜(5)に記載の項目について測定を行い、その結果を図1〜図5に示した。
【0027】
(1)脂肪分解:
フォルスコリン(1μM)の存在下または非存在下で脂肪分解を4時間インキュベートした。脂肪分解を評価するために、培養培地へのグリセロール放出を測定した。グリセロール放出データを細胞タンパク質量について標準化した。
【0028】
(2)脂肪酸シンターゼ(FAS)活性:
死後ただちに脂肪細胞を単離し、NADPHの酸化速度を測定することにより、細胞質ゾル抽出物中で脂肪酸合成酵素活性を測定し、クマシーブルー色素を使用してタンパク質補正した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】体重減少効果の説明図
【図2】体脂肪量減少効果の説明図
【図3】体脂肪率減少効果の説明図
【図4】脂肪組織での脂肪分解効果の説明図
【図5】脂肪組織での脂肪酸シンターゼ(FAS)活性の説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(ATCC53103)により少なくとも乳清蛋白質と脱脂乳とを含有する培養基を培養した培養物(a)、ラクトバチルス・カゼイTMC0409株(FERM P−17047)により前記の培養基を培養した培養物(b)、ストレプトコッカス・サーモフィラスTMC1543株(FERM P−17046)により前記の培養基を培養した培養物(c)とカルシウム製剤とを含む混合物から成り、乳固形分中のカルシウムの割合が1.5重量%以上であることを特徴とする、体脂肪蓄積抑制および抗肥満効果を有する機能性飲食品。
【請求項2】
培養物(a)〜(c)が同一の培養基を培養した培養物である請求項1に記載の機能性飲食品。
【請求項3】
カルシウム製剤を含有する培養基を使用する請求項1又は2に記載の機能性飲食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−57465(P2010−57465A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230604(P2008−230604)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(591152584)高梨乳業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】