説明

欠陥マーキング装置、欠陥マーキング処理ライン、欠陥マーキング方法及び欠陥マーキングされたコイルの製造方法

【課題】アルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、防錆油の有無及び加工メーカー側の欠陥検出性能に関らず、目視によって容易に確認可能な圧痕を形成することができる欠陥マーキング装置、欠陥マーキング方法及び欠陥マーキングされたコイルを提供することを目的とする。
【解決手段】欠陥マーキング装置5を構成する圧痕装置5aは、円筒部8aと、その外周面に沿って形成された複数の突起部8bからなるローラ8と、前記ローラ8を回転自在に支持するベアリング9と、前記ベアリング9を支持するシリンダ10と、前記シリンダ10の駆動速度を制御するスピードコントローラ11と、を備えている。そして、欠陥検出装置の指示に基づいてシリンダ10が下方に駆動し、ローラ8が回転しながらアルミニウム板を押圧することで、欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、アルミニウムという)板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、アルミニウム板の表面欠陥をマーキングするための欠陥マーキング装置、欠陥マーキング処理ライン、欠陥マーキング方法及び欠陥マーキングされたコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム板材は、鋳造、面削、均質化処理を施したスラブに熱間圧延を施した後、必要に応じて冷間圧延、焼鈍、精整工程(例えば、平滑な平面にする矯正工程、適正製品の寸法の幅にスリットする工程、適正な長さに断裁する工程等)を施して製造され、コイルあるいはシートの製品形態で飲料缶成形メーカー、自動車メーカー、箔圧延メーカー、印刷版メーカー、電気部品メーカー等の加工メーカーへ出荷される。
【0003】
これらの加工メーカーは、アルミニウム板材の使用を開始した当初は使い勝手のよいアルミニウムシート(以下、シートという)を使用することが多いが、使用量が増加するにつれ、より低コストなアルミニウムコイル(以下、コイルという)を使用する傾向が高い。近年、コイルは缶用材料、印刷板(PS板)用材料、箔用材料、自動車パネル用材料(特にアウター材)、DVDやパソコン等の筐体、カーステレオやカーナビのDVD及びCDシャーシ用材料等の分野に幅広く用いられているが、このような分野においては、たとえ微細な疵であっても最終製品の機能に致命的欠陥をもたらす可能性がある。
【0004】
このため、特許文献1に記載されているように、アルミニウム板材に限らず金属板材の製造ラインには、従来からCCDカメラ等でコイルの全長・全幅に渡って欠陥部の有無を検査し、欠陥部を除去する工程が設けられている。しかし、このような手法をコイルの製造工程で用いると、欠陥部を除去することによって各コイル単重が不揃いになるという問題が生じる。従って現在では、製造メーカー側が予め欠陥部にマーキングを行なってマーキング済コイルを納入した後、加工メーカー側でマーキングに従って欠陥部を除去する、という手法が用いられている。
【0005】
例えば特許文献2には、疵検出装置で検出した有疵部に対してインクを噴射する有疵部マーキング装置が、特許文献3には、表面欠陥計で検出した表面疵に対して、インクを染み込ませたフェルトでマーキングする方法が開示されている。また、特許文献4には、鋼板面に対して垂直に刻印を施すことができる刻印装置が、特許文献5には、光学式読取装置によって確実に読み取ることができる打刻痕を刻印できる打刻式マーキング装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−307009号公報(段落0029〜0038、図1)
【特許文献2】特開平4−291138号公報(段落0009〜0013,図1)
【特許文献3】特開2001−188046号公報(段落0037〜0048,図3)
【特許文献4】特開平8−90065号公報(段落0010〜0013、図1)
【特許文献5】特開2002−42072号公報(段落0015〜0016、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法及び装置は以下のような問題を有している。すなわち、アルミニウム材料は鋼鉄材料等と比べて軟質で、熱膨張率及び熱伝導率が高いため、他の材料よりも疵等の表面欠陥が発生しやすい。従って、処理ラインでは表面欠陥防止のためにアルミニウム板に防錆油を塗油する工程が設けられ、さらに現在では脱脂に要するコストを抑えるために、防錆油に揮発性の高い油種を使用している。
【0008】
従って、特許文献2,3のようなインクマーキング方式では、揮発性の高い防錆油が塗油されていることが原因で、インクのにじみ、変色、変質、消滅等の不具合や、乾燥していないインクが転写することによる正常部の除去、あるいは、インクの消滅により欠陥部を含んだコイルがそのまま次の工程に進んでしまう、といった問題が生じることがあった。さらに、インクマーキング方式では、加工メーカーにおけるプレス段階で欠陥部を見落としてしまうと、塗装された完成品の段階でマーキング(欠陥部)を発見することが不可能であるという問題もあった。
【0009】
なお、特許文献4,5に開示されている打刻マーキング方式であれば、防錆油を原因とする上記のような問題は発生しない。しかし、従来の打刻装置は回転不可能な打刻ペンを用いているため、50〜100m/minで搬送される板材の速度に追従することは困難であり、仮に速度に追従できたとしても、欠陥検出から打刻までの所要時間を算出し、正確に欠陥部を打刻することは非常に困難であった。さらに、アルミニウム板材は軟質であるため、打刻によって板材を貫通してしまう、あるいは、打刻装置が防錆油で滑ってしまい正常に打刻できない、打刻される面積が小さくてマーキング(欠陥部)を見落としてしまう、等の種々の問題が生じた。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、処理ラインにおける防錆油の有無や、加工メーカー側の欠陥検出性能に関らず、アルミニウム板の欠陥部に対して目視で容易に確認可能な圧痕を形成することにより、確実に欠陥部を検出・除去できる欠陥マーキング装置、欠陥マーキング処理ライン、欠陥マーキング方法及び欠陥マーキングされたコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、搬送ロールにより搬送されるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥検出装置で検出した欠陥部に圧痕を形成する欠陥マーキング装置であって、前記欠陥マーキング装置は、円筒部と、前記円筒部の外周面に沿って形成された複数の突起部と、からなるローラと、前記ローラを回転自在に支持する軸受と、前記軸受を支持するとともに、前記アルミニウム板に当接する方向に駆動する上下機構と、前記上下機構の下方で前記アルミニウム板を支持する従動ロールと、を備え、前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、前記ローラで前記従動ロール上の前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成することを特徴とする。
【0012】
このような構成を備える欠陥マーキング装置は、欠陥検出装置の指示に基づいて、ローラを回転させながらアルミニウム板を押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して複数の凹部からなる圧痕を形成することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記複数の突起部は、断面が円相当径0.5〜5mmの柱状であることを特徴とする。
【0014】
このような構成を備える欠陥マーキング装置は、欠陥検出装置の指示に基づいて、ローラを回転させながらアルミニウム板を押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して目視による確認が容易な大きさの、柱状の圧痕を形成することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、前記従動ロールは、ウレタン材料またはゴム材料から形成され、前記複数の突起部は、前記ローラの幅方向中央に形成された突起部を頂点として、曲率を有するように一定間隔を置いて設けられ、前記曲率の半径は、500〜2000mmの範囲内であることを特徴とする。
【0016】
このような構成を備える欠陥マーキング装置は、圧痕装置の下に配置された従動ロールがウレタン材料、ゴム材料等の柔軟な素材からなる場合であっても、アルミニウム板を歪ませることなく押圧し、幅方向に均一な深さの圧痕を形成することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記欠陥マーキング装置は、前記アルミニウム板の欠陥部に対して長さ200〜600mmの圧痕群を形成することを特徴とする。
【0018】
このような構成を備える欠陥マーキング装置は、欠陥検出装置の指示に基づいて、ローラを回転させながらアルミニウム板を押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して、一定範囲内に複数の圧痕群を形成することができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記上下機構は、内部の流体が排出される排出路に、前記流体の排出量を調整することによって前記上下機構の駆動速度を制御する流量制御弁を備え、 前記流量制御弁は、前記排出路の開度を15〜60%の範囲内に調整することにより、前記上下機構の駆動速度を減速させることを特徴とする。
【0020】
このような構成を備える欠陥マーキング装置は、流量制御弁の開度を調整して上下機構内の流体の流量を制限することにより、上下機構の下降速度を減速させて、圧痕装置のローラをアルミニウム板にゆっくりと接触させることができる。
【0021】
請求項6に係る発明は、搬送ロール上を流れるアルミニウム板の欠陥部に圧痕群を形成してコイルに巻き取る欠陥マーキング処理ラインであって、前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する欠陥検出装置と、前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する防錆油塗油装置と、前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する欠陥マーキング装置と、を有することを特徴とする。
【0022】
このような構成を備える欠陥マーキング処理ラインは、欠陥検出装置の指示に基づいて、ローラを回転させながら、アルミニウム板を押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して複数の凹部からなる圧痕を形成することができる。
【0023】
請求項7に係る発明は、前記防錆油塗油装置の後に前記圧痕装置を配置することを特徴とする。
【0024】
このような構成を備える欠陥マーキング処理ラインは、欠陥検出装置の指示に基づいて、表面に予め防錆油が塗油されたアルミニウム板を回転しながら押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して、圧痕群を形成することができる。
【0025】
請求項8に係る発明は、搬送ロール上を流れるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥部に圧痕群を形成する欠陥マーキング方法であって、欠陥検出装置により、前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する検出工程と、防錆油塗油装置により、前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する塗油工程と、前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、ローラを備えた圧痕装置によって前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する圧痕工程と、を有することを特徴とする。
【0026】
このような構成を備える欠陥マーキング方法は、欠陥検出装置の指示に基づいて、防錆油が塗油されたアルミニウム板を回転押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して目視による確認が容易な深さの圧痕を形成することができる。
【0027】
請求項9に係る発明は、搬送ロール上を流れるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥マーキングがされたコイルの製造方法であって、欠陥検出装置により、前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する検出工程と、防錆油塗油装置により、前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する塗油工程と、前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、ローラを備えた圧痕装置によって前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する圧痕工程と、前記圧痕工程を経たアルミニウム板を巻き取りコイルにする巻取工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
このような構成を備える欠陥マーキングされたコイルの製造方法は、欠陥検出装置の指示に基づいて、防錆油が塗油されたアルミニウム板を回転押圧し、アルミニウム板の欠陥部に対して目視による確認が容易な深さの圧痕を形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に係る欠陥マーキング装置によれば、揮発性の高い防錆油が予め塗油されたアルミニウム板であっても、確実に欠陥部に対して圧痕を形成することができる。従って、欠陥部を確実に除去でき、欠陥部を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。また、マーキングにインクや塗料を用いないため、別途マーキングを乾燥させる設備が不要になり、作業効率の向上及び低コスト化を実現できる。
【0030】
請求項2に係る欠陥マーキング装置によれば、突起部の先端が目視での確認が容易な大きさの平面で形成されているため、アルミニウム板に防錆油が塗油されている場合や、処理ラインが高速の場合であっても、欠陥部に対して、確実に目視で確認可能な圧痕を形成することができる。
【0031】
請求項3に係る欠陥マーキング装置によれば、圧痕装置の下方に配置された従動ロールがウレタン材料、ゴム材料等の柔軟な素材で形成されている場合であっても、アルミニウム板を歪ませることなく、欠陥部に対して、目視で確認可能であって、幅方向及び長さ方向に均一な深さの圧痕を形成することができる。
【0032】
請求項4に係る欠陥マーキング装置によれば、アルミニウム板の表面に、目視での確認が十分に可能な広さの圧痕群を形成することにより、欠陥部を確実に除去でき、欠陥部を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。
【0033】
請求項5に係る欠陥マーキング装置によれば、圧痕装置のローラがアルミニウム板に最初に接触する際の衝撃を和らげ、アルミニウム板の欠陥部に対して、均一かつ正常な圧痕を形成することができる。
【0034】
請求項6に係る欠陥マーキング処理ラインによれば、アルミニウム板の欠陥部に対して圧痕を形成することで、欠陥部を確実に除去でき、欠陥部を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。また、マーキングにインクや塗料を用いないため、別途マーキングを乾燥させる設備が不要になり、作業効率の向上及び低コスト化を実現できる。
【0035】
請求項7に係る欠陥マーキング処理ラインによれば、揮発性の高い防錆油が予め塗油されたアルミニウム板であっても、確実に欠陥部に対して圧痕を形成することができる。従って、欠陥部をより確実に除去でき、欠陥部を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。
【0036】
請求項8に係る欠陥マーキング方法によれば、揮発性の高い防錆油が予め塗油されたアルミニウム板であっても、目視での確認が容易な深さのマーキングを確実に施すことができる。従って、欠陥部を確実に除去でき、欠陥部を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。また、マーキングにインクや塗料を用いないため、別途マーキングを乾燥させる設備が不要になり、作業効率の向上及び低コスト化を実現できる。
【0037】
請求項9に係る欠陥マーキングがされたコイルの製造方法によれば、揮発性の高い防錆油が予め塗油されたアルミニウム板であっても、目視での確認が容易な深さのマーキングを確実に施すことができる。従って、欠陥部を確実に除去できるコイルを製造することができる。また、マーキングにインクや塗料を用いないため、別途マーキングを乾燥させる設備が不要になり、作業効率の向上及び低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の説明に用いるアルミニウム板1aをコイル1bに巻き取る処理ラインにおける、要部設備の配置図である。
【図2】本発明に係る圧痕装置5aの構成を示す全体斜視図である。
【図3】本発明に係るローラ8の構成を示す全体斜視図である。
【図4】本発明に係る圧痕装置5aによってアルミニウム板1aに形成された圧痕群13を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、アルミニウム板1aをコイル1bに巻き取る処理ラインは、欠陥検出装置2と、制御部3と、防錆油塗油装置4と、圧痕装置5a及び従動ロール5bからなる欠陥マーキング装置5と、搬送ロール6と、テンションリール7と、から構成される。また、処理ラインは、欠陥検出装置2が最も上流に、その後に防錆油塗油装置4、圧痕装置5aの順に配設することが好ましい。
【0040】
アルミニウム板1aは、アルミニウム(合金)のスラブに熱間圧延等を施して製造されるものであり、搬送ロール6によって処理ラインの上流から下流へと搬送され、コイル1bに巻き取られるものである。アルミニウム板1aの板厚は、0.2〜16mmの範囲内であることが好ましい。板厚を当該範囲内とすることで、より均一かつ正常な圧痕を形成することができる。
【0041】
欠陥検出装置2は、アルミニウム板1aの表裏両面に疵等の欠陥部がないかを常時監視し、欠陥部を検出すると、制御部3に対して欠陥位置、大きさ等の情報が含まれた欠陥検出信号を送信するものである。欠陥検出装置2は、例えばCCDカメラ等により構成される。
【0042】
制御部3は、欠陥検出装置2に内蔵され、圧痕装置5aの動作を制御するものである。制御部3は、欠陥部の位置、大きさ、範囲に関する情報やアルミニウム板1aの搬送速度に関する情報等から、圧痕のタイミング、圧痕の時間を算出し、圧痕装置5aに対して当該情報を送信してマーキング指示を行なう。
【0043】
防錆油塗油装置4は、アルミニウム板1aに防錆油を塗油するものである。アルミニウム板1aに防錆油を塗油することにより、搬送時、輸送時等に形成される疵を防止することができるとともに、圧痕を形成した際のバリ・磨耗粉を抑制することができる。
【0044】
圧痕装置5aは、制御部3の指示に基づいて、処理ラインの上流から送られてきたアルミニウム板1aを押圧して圧痕を形成するものであり、従動ロール5bと共に本発明に係る欠陥マーキング装置5を構成するものである。ここで、圧痕装置5aは、処理ラインにおいて、防錆油塗油装置4の下流に配設することが好ましい。防錆油塗油装置4と圧痕装置5をこのような順序で配設することで、圧痕を形成した際のバリ・磨耗粉を抑制することができ、かつ、当該バリ・磨耗粉を原因とするアルミニウム板の表面欠陥の発生をも防止することができる。なお、圧痕装置5aの詳しい構成及び動作については後述する。
【0045】
従動ロール5bは、圧痕装置5aの下に配置され、圧痕装置5aと共に本発明に係る欠陥マーキング装置5を構成するものである。従動ロール5bは、ウレタン材料、ゴム材料等の柔軟な素材から構成され、圧痕装置5aに従動するものである。従動ロール5bにこのような素材を用いることにより、鉄鋼材料等と比べて軟質で疵付きやすいアルミニウム材料を、疵付けることなく安全に搬送することができる。
【0046】
搬送ロール6は、アルミニウム板1aを搬送するためのものであり、処理ラインに沿って複数配設されるものである。搬送ロール6は、回転決定手段6aを備え、図示しないモータ等を駆動源として、回転決定手段6aの操作により所定速度で回転駆動し、アルミニウム板1aを上流から下流に搬送する。また、搬送ロール6の回転決定手段6aは、制御部3に対して、アルミニウム板1aの搬送速度に関する情報である搬送速度信号を送信する。
【0047】
テンションリール7は、処理ラインを流れるアルミニウム板1aを巻き取るためのものであり、処理ラインの最下流に配設されるものである。テンションリール7は、図示しないモータ等を駆動源として回転駆動し、これにより最下流でアルミニウム板1aをコイル1bに巻き取る。なお、上記回転決定手段6aを搬送ロール6ではなくテンションリール7に設け、制御部3に対してテンションリール7の回転速度に関する情報を送信するように構成してもよい。
【0048】
次に、圧痕装置5aの詳しい構成及び動作について詳述する。図2、図3を参照すると、圧痕装置5aは、ローラ8と、ベアリング9と、シリンダ10と、から構成される。
【0049】
ローラ8は、処理ラインの搬送速度に追従しつつ、回転しながらアルミニウム板1aを押圧するためのものである。ローラ8は、中空円筒形に形成された円筒部8aと、円筒部8aの外周面に沿って形成された突起部8bと、から構成され、ベアリング9によって回転自在に支持されている。ここで、ローラ8は、アルミニウム板1aの搬送速度に追従しやすいように、モータ等の駆動源を設けずに構成することが好ましい。また、ローラ8を構成する円筒部8aと、突起部8bは、鉄、チタン等の材料で一体的に形成することが好ましい。
【0050】
突起部8bは、ローラ8がアルミニウム板1aを押圧する際に、複数の凹部からなる圧痕を形成するためのものである。突起部8bは、円筒部8aの外周面に、略垂直に突設するように、軸(幅)方向及び周方向にそれぞれ複数個形成されることが好ましい。また、突起部8bの各々の間隔及び数量は、円筒部8aの大きさや希望する圧痕の範囲に従って適宜変更することができる。
【0051】
突起部8bは、断面が円相当径0.5〜5mmの柱状で形成することが好ましい。これは、突起部8bの形状を半球状や角錐・円錐状等のように曲率や傾斜を持たせて形成すると、防錆油が原因でローラ8がアルミニウム板1aの表面を滑ってしまい、正常な圧痕を形成できない場合があるためである。従って、このように突起部8bの先端が平面になるように柱状で形成することにより、防錆油の有無に関らず確実に圧痕を形成することができる。なお、突起部8bは、例えば円柱状、角柱状、またはこれらの組み合わせで形成することが好ましい。
【0052】
突起部8bの大きさは、円柱状に形成する場合は直径0.5〜5mm、角柱状で形成する場合は1辺の長さ0.5〜5mmの範囲内で形成することが好ましい。これは、突起部8bの直径及び1辺の長さが0.5mm以下だと、圧痕の面積が小さすぎて目視での確認が困難となる場合がある、逆に5mmを超えると、圧痕の面積が大きすぎて他の正常面に悪影響を及ぼす場合があるためである。なお、目視による確認が容易な深さの圧痕を形成するために、突起部8bの高さは0.1〜5mmとすることが好ましい。
【0053】
円筒部8aに形成された複数の突起部8bは、円筒部8aの幅方向中央に形成された突起部8bを頂点として、500〜2000mmの範囲内の曲率を有するように、各突起部8bの先端部の高さ位置に差異を設けて構成することが好ましい。これは、各突起部8bの先端部の高さを揃えると、従動ロール5bがウレタン材料やゴム材料等の柔軟な素材で形成されている場合、押圧の際にアルミニウム板1aが歪み、幅及び長さ方向の深さが均一な圧痕を形成できない場合があるためである。
【0054】
ここで、突起部8bの曲率半径が500mm未満だと、アルミニウム板1aの幅方向中央の圧痕が幅両端よりも深く形成されてしまい、逆に曲率半径が2000mmを超えると、アルミニウム板1aの幅両端の圧痕が幅方向中央よりも深く形成されてしまう。従って、曲率半径は上記の範囲内とすることが好ましい。なお、曲率半径は700〜900mmであることがさらに好ましい。
【0055】
ベアリング9は、ローラ8を両側から回転自在に支持するものである。ベアリング9は、例えばボールベアリング等で構成され、シリンダ10によって支持されている。
【0056】
シリンダ10は、内部に密閉された流体の圧力によって、上下に往復駆動する機構である。具体的には、シリンダ10内部には流体(例えば空気)が密閉され、当該流体が図示しないピストンを押圧することにより、上下に駆動する。そしてそれに伴い、シリンダ10の一端に設けられたローラ8が、回転しながらアルミニウム板1aを押圧することで圧痕を形成する。シリンダ10は、例えば空気圧式で構成される。
【0057】
圧痕を形成する際の圧力は、突起部8bの形状によって左右されるが、好ましくは0.2〜0.5MPaの範囲内とすることが好ましい。そして、例えば1辺の長さが1mmの角柱状ローラの場合は、0.4MPa程度とすることが好ましい。圧力を上記の範囲内とすることにより、目視による確認が容易な深さの圧痕を形成することができる。
【0058】
なお、圧痕装置5aは、図2のようにスピードコントローラ11を備えて構成することが好ましい。スピードコントローラ11は、シリンダ10内に密閉された流体の流量を調整してシリンダ10の駆動速度を制御するものであり、流量制御弁(速度制御弁)として機能するものである。
【0059】
スピードコントローラ11は、シリンダ10に設けられた図示しない流体の排出路に取り付けられ、当該排出路の開度を調整することにより、シリンダ10内の流体の流量を制御して、シリンダ10の駆動速度を制御することができるものである。つまり、スピードコントローラ11の開度を100%以下に調整することで、シリンダ10の駆動速度を減速させることができる。なお、スピードコントローラ11の制御は、予め開度を手動で調整することにより行い、スピードコントローラ11は、制御部3に対して、開度に関する情報である開度信号を送信する。
【0060】
スピードコントローラ11は、シリンダ10が下降する際の開度を15〜60%の範囲内とすることが好ましい。これは、シリンダ10を元の速度のまま下降させると、ローラ8がアルミニウム板1aに接触する際の衝撃が大きく、圧痕開始時の圧痕が深く形成されて、幅及び長さ方向に均一な深さの圧痕を形成できない場合があるからである。
【0061】
ここで、下降時の開度が15%未満だと、シリンダ10の下降速度が遅すぎるため、高速で搬送されるアルミニウム板1aと接触した際にローラ8がバウンドする場合があり、逆に開度が60%を超えると、シリンダ10の下降速度が速すぎるため、圧痕開始時の圧痕が深くなりすぎて均一な深さの圧痕を形成できない場合がある。従って、開度は上記の範囲内とすることが好ましい。なお、開度は25〜50%であることがさらに好ましい。
【0062】
圧痕装置5aは、スピードコントローラ11を使用しない場合であっても、シリンダ10内の流体の流量を制限することで、シリンダ10の下降速度を減速させることができる。しかし、上記のようにスピードコントローラ11を使用することで、より簡便に、かつ、きめ細かくシリンダ10の下降速度を制御することができる。また、シリンダ10の上昇速度については特に制御する必要はない。
【0063】
次に、圧痕装置5aによって形成する圧痕群13について詳述する。まず圧痕群13の深さは、5〜50μmの範囲内で形成することが好ましい。圧痕群13の深さを当該範囲内にすることにより、アルミニウム板の欠陥部に対して目視による確認が確実に可能な圧痕群13を形成することができる。
【0064】
図4に記載されている通り、圧痕装置5aは、アルミニウム板1aにおける欠陥部12の位置に関らず、幅方向に欠陥部12が含まれる長さの圧痕群13をアルミニウム板1aに形成することが好ましい。また圧痕群13は、アルミニウム板1aの幅方向中央に形成することが好ましい。但し、常に欠陥部12が含まれる長さになるように形成するのであれば、圧痕群13は幅方向中央でなくてもよい。
【0065】
圧痕群13の長さをこのように規制することにより、欠陥部12の位置に合わせて(欠陥部12に追従して)マーキングを行なうための制御が不要となる。従って、処理ラインの搬送速度をさらに高速化した場合であっても、その速度に追従して圧痕群13を形成することができる。
【0066】
また、圧痕装置5aは、ここでは欠陥部12が圧痕群13の長さ方向の中心位置に位置するようなタイミングで、アルミニウム板1aに圧痕群13を形成することが好ましい。さらに、図4のように、アルミニウム板1aに複数の欠陥部12が存在する場合は、複数の欠陥部12の内で最もアルミニウム板1aの幅方向中央寄りに存在する欠陥部12が、圧痕群13の長さ方向の中心位置に位置するようなタイミングで、アルミニウム板1aに圧痕群13を形成することが好ましい。
【0067】
圧痕群13をこのように形成することにより、欠陥部12がどこに位置するのかを目視で容易に確認することができる。従って、アルミニウム板1aの欠陥部12を確実に除去でき、欠陥部12を含んだ製品が市場に流通することを防止することができる。
【0068】
圧痕群13は、欠陥部12を中央として、長さ200〜600mmの範囲内で形成することが好ましい。圧痕群13の長さが上記の範囲未満だと、目視での確認が困難となり、逆に上記の範囲を超えると、他の正常面に疵付きが発生する等の悪影響が生じる場合があるためである。なお、圧痕群13は、欠陥部12を中央として、前後に200mmずつの合計400mmの長さで形成することがさらに好ましい。また、圧痕群13の幅は、欠陥部12を中央として、20〜100mmの範囲内で形成することが好ましい。
【0069】
なお、圧痕群は13は、図4のように、防錆油塗油装置4によって予め防錆油が塗油されたアルミニウム板1aに対して形成することが好ましい。これにより、圧痕を形成した際のバリ・磨耗粉を抑制することができ、かつ、当該バリ・磨耗粉を原因とするアルミニウム板の表面欠陥の発生をも防止することができる。
【0070】
圧痕群13は、具体的には以下の手順で形成される。まず、制御部3は、欠陥検出装置2から欠陥検出信号を、搬送ロール6の回転決定手段6aから搬送速度信号を、スピードコントローラ11から開度信号を受信する。ここで、上記の通り、欠陥検出信号は欠陥部12の位置、大きさ、範囲に関する情報を、搬送速度信号はアルミニウム板1aの搬送速度に関する情報を、開度信号はスピードコントローラ11の開度に関する情報をそれぞれ含むものである。
【0071】
制御部3は、欠陥部12の位置、大きさ、範囲(欠陥検出信号)から、圧痕群13を形成する時間を算出する。さらに、アルミニウム板1aの搬送速度(搬送速度信号)及び、スピードコントローラ11の開度(開度信号)から導き出したシリンダ10の下降速度から、圧痕群13を形成するタイミングを算出し、これらの情報を圧痕装置5aに送信する。そして圧痕装置5aは、制御部3に指示されたタイミングで、指示された時間だけアルミニウム板1aを押圧し、欠陥部12が長さ方向の中心位置に位置するように圧痕群13を形成する。
【0072】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、上記以外にも実施の形態を適宜変更することが可能である。例えば、処理ラインは、防錆油塗油装置4を配設しない構成や、圧痕装置5aの下流に防錆油塗油装置4を配設する構成に変更することができる。本発明に係る欠陥マーキング装置5であれば、予め防錆油を塗油しない場合であっても、アルミニウム板1aに対して均一かつ正常に圧痕を形成することができる。
【0073】
また、圧痕装置5aは、ローラ8を幅方向に複数並べて構成することもできる。ローラ8を複数並べて構成することにより、圧痕群13の幅を広げることができ、圧痕の目視による確認がさらに容易となる。また、圧痕装置5aは、円筒部8a自体をいわゆるビア樽形状にすることで、ローラ8の幅方向中央に形成された突起部8bを頂点として、500〜2000mmの範囲内の曲率を有するように構成することもできる。
【0074】
また、シリンダ10は、油圧式で構成することもできる。圧縮性である空気と異なり油は非圧縮性であるため、空気圧式よりも駆動効率がよく、ハイパワーの上下機構を構成することができる。また、本発明を実施するための形態では、欠陥マーキング装置5をアルミニウム板材に適用した場合について述べたが、アルミニウム板材のみならず、銅板、鋼板にも適用することができる。
【実施例1】
【0075】
以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較しながら具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
表1に、本発明に係るマーキング方式の必要条件を満たす実施例(No.1〜4)及び必要条件を満たさない比較例(No.5〜10)の構成と、各々の方式でマーキングを行った場合の評価結果を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
本試験では、従来の方法で製造した板厚約1mmのアルミニウム板材(1100−O材:1t)に対して、ボールペン先端を押し付けて幅1.0mm×長さ1.0mmの欠陥を人工的に入れ、100m/minの速度でラインに搬送した。そして防錆油を1g/m塗油した後、各条件によりマーキングを実施した。
【0079】
アルミニウム板へのマーキングは、直径5mmの円柱状または、一片5mmの四角柱状の突起部を備える回転ロール方式、インクジェット方式、マジック方式、ペイント方式、打刻ペン方式によって施した。また、回転ロール方式では、圧痕時の圧力を0.4MPaに設定した。
【0080】
回転ロール方式は、本発明に係る方式による実施例であり、欠陥検出装置の欠陥検出信号に連動して、アルミニウム板を押圧して長さ500mmの圧痕群を形成するものである。また、インクジェット・マジック・ペイント方式は、上記欠陥検出信号に連動して、噴霧機あるいはペイント装置によりマーキングを施すものである。また、打刻ペン方式は、先端が45度に傾斜した鋼製楔形治具により、深さ50μmの打刻痕を刻印するものである。
【0081】
マーキング転写の評価は、他の正常面にインク・塗料等が転写していないかどうかを、目視で確認することにより行ない、マーキングが転写していないものを「○(良好)」、やや転写しているものを「△(概ね良好)」、転写しているものを「×(不良)」と評価した。
【0082】
搬送時疵付きの評価は、100m/minで搬送した場合にでもアルミニウム板を疵付けることなくマーキングできたか否かによって行い、疵付けることなくマーキングできたものを「○(良好)」、疵付きが発生したものを「×(不良)」とした。
【0083】
巻き取り時疵付きの評価は、得られたアルミニウムコイルの全長を長手方向に1m長さに切断し、その切断板全ての表裏面を目視で検査し、前記人工的に入れた欠陥およびマーキングされた疵以外の疵が発見されなかった装置構成を「○(良好)」、疵が発見された装置構成を「×(不良)」と評価した。なお、人工的に入れた欠陥およびマーキングされた疵以外の疵としては、アルミコイル表面にマーキングすることにより生じたアルミニウム粉やアルミニウム細片(バリが千切れたもの)がコイル巻き取りによって押し込まれた欠陥が発見された。
【0084】
マーキング読取可否の評価は、光学式検出機及び目視検出により、マーキングが確認できたかどうかにより行ない、マーキングの読取が可能なものを「○(良好)」、にじみ等で一部不可能なものを「△(概ね良好)」、不可能なものを「×(不良)」とした。
【0085】
表1に示すように、本発明に係る圧痕装置の必要条件を満たす実施例(No.1〜4)を用いてマーキングした場合は、マーキング転写、搬送時疵付き、巻き取り時疵付き、マーキング読取可否のいずれの評価においても、「○(良好)」であることがわかる。またその際、防錆油塗油による影響も見られなかった。
【0086】
一方、本発明の必要条件を満たさない比較例(No.5〜10)においては、マーキング方式が本発明とは異なるか、マーキングの深さが本発明で規定する範囲の下限値未満または上限値超であるため、マーキング時に要求される値を十分に満たしていないという結果が得られた。
【0087】
比較例No.5においては、回転ロールによって形成された圧痕の深さが本発明で規定する範囲の下限値以下である。従って、油膜の影響で圧痕による凹凸が不明確となり、マーキング読取可否が「×(不良)」と評価された。また、比較例No.6においては、回転ロールによって形成された圧痕の深さが本発明で規定する範囲の上限値超である。従って、圧痕形成時に発生するバリが多く、コイルの正常面に疵付きが発生し、巻き取り時疵付きが「×(不良)」と評価された。
【0088】
比較例(No.7〜9)においては、インク・塗料等を用いてマーキングを行なっているため、マーキング転写の評価では、インクジェット方式及びペイント方式では「△(概ね良好)」と、マジック方式では「×(不良)」と評価された。また、マーキング読取可否の評価では、マジックマーキング方式が光学式検出器で「×(不良)」と、インクジェット方式及びマジック方式が目視検出で「△(概ね良好)」と評価された。さらに、比較例(No.7〜9)においては、防錆油によってインク・塗料のにじみが発生した。
【0089】
比較例(No.10)においては、回転不可能な打刻ペンを用いているため、搬送速度に正確に追従することができず、打刻の際にロール表面に大きな線状の疵が発生した。従って、搬送時疵付き、巻き取り時疵付きが「×(不良)」と評価された。
【実施例2】
【0090】
以下では、防錆油の塗油、回転ロールのクラウンの曲率半径及び、スピードコントローラ(以下、スピコン)の開度が圧痕群に及ぼす影響について、具体的に説明する。表2に、スピコンの開度を適切に調整した場合(No.1〜3)及びスピコンの開度を適切に調整しなかった場合(No.4〜8)の構成と、各々の条件でマーキングを行った場合の結果を示す。
【0091】
【表2】

【0092】
本試験で用いたアルミニウム板の製造方法、素材、搬送速度、圧力等の各条件は、実施例1の試験と同様である。また、アルミニウム板へのマーキングは、本発明に係る角柱状回転ロール(一辺5mm)を備える圧痕装置で行ない、各実施例ともアルミニウム板の長さ方向に500mmの圧痕群を形成するようにした。また、マーキング条件としては、圧痕前における防錆油の塗油有無、突起部におけるクラウンの曲率半径(700〜3000mm)、スピコンの開度(8〜100%)、圧痕群の状態の4つを設けた。
【0093】
バリの発生の評価は、圧痕群を形成したアルミニウム板にバリ・磨耗粉がどの程度発生したかにより行なった。
【0094】
巻き取り時疵付きの評価は、得られたアルミニウムコイルの全長を長手方向に1m長さに切断し、その切断板全ての表裏面を目視で検査し、前記人工的に入れた欠陥およびマーキングされた疵以外の疵が発見されなかった装置構成を「○(良好)」、疵が発見された装置構成を「×(不良)」と評価した。なお、人工的に入れた欠陥およびマーキングされた疵以外の疵としては、アルミコイル表面にマーキングすることにより生じたアルミニウム粉やアルミニウム細片(バリが千切れたもの)がコイル巻き取りによって押し込まれた欠陥が発見された。
【0095】
また、圧痕群の深さの評価は、圧痕群をVecoo instruments Inc.製(米国)の『WYKO NT3300(表面形状測定システム)』にて形状測定して、凹凸の深さを測定するとともに、当該深さが幅方向及び長さ方向に均一であるかどうかを確認することにより行った。また、圧痕群の状態の評価は、アルミニウム板に形成した圧痕群の状態を具体的に検証した。
【0096】
表2に示すように、スピコンの開度を適切に調整した場合(No.11〜13)は、バリの発生、巻き取り時疵付き、圧痕群の深さいずれの評価においても、良好であり、圧痕群の状態も深さ及び長さ方向でほぼ均一であることがわかる。
【0097】
一方、スピコンの開度を適切に調整しなかった場合(No.14〜18)は、防錆油が塗油されていないか、クラウンの曲率半径またはスピコンの開度が本発明で規定する範囲の下限値未満または上限値超であるため、上記No.11〜13と比較してマーキングが不均一になるという結果が得られた。
【0098】
No.14においては、圧痕前に防錆油を塗油しなかったため、マーキング後のアルミニウム板に大量のバリが発生するとともに、コイルの正常面に疵付きが発生し、巻き取り時疵付きが「×(不良)」と評価された。また、No.15においては、クラウンの曲率半径が本発明で規定する範囲の下限値未満であったため、圧痕群の幅方向中央にバリが発生するとともに、コイルの正常面に疵付きが発生し、巻き取り時疵付きが「×(不良)」と評価された。さらに、幅方向中央の圧痕の深さが幅両端よりも深くなった。
【0099】
No.16においては、クラウンの曲率半径が本発明で規定する範囲の上限値超であったため、圧痕群の幅両端にバリが発生するとともに、コイルの正常面に疵付きが発生し、巻き取り時疵付きが「×(不良)」と評価された。さらに、幅両端の圧痕の深さが幅方向中央よりも深くなった。また、No.17においては、スピコンの開度が本発明で規定する範囲の下限値未満であったため、圧痕群の長さ方向初期が不均一となった。また、No.18においては、スピコンの開度が本発明で規定する範囲の上限値超であったため、圧痕時の圧痕群の長さ方向初期が深くなった。
【符号の説明】
【0100】
1a アルミニウム板
1b コイル
2 欠陥検出装置
3 制御部
4 防錆油塗油装置
5 欠陥マーキング装置
5a 圧痕装置
5b 従動ロール
6 搬送ロール
6a 回転決定手段
7 テンションリール
8 ローラ
8a 円筒部
8b 突起部
9 ベアリング
10 シリンダ
11 スピードコントローラ
12 欠陥部
13 圧痕群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ロールにより搬送されるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥検出装置で検出した欠陥部に圧痕を形成する欠陥マーキング装置であって、
前記欠陥マーキング装置は、
円筒部と、前記円筒部の外周面に沿って形成された複数の突起部と、からなるローラと、
前記ローラを回転自在に支持する軸受と、
前記軸受を支持するとともに、前記アルミニウム板に当接する方向に駆動する上下機構と、
前記上下機構の下方で前記アルミニウム板を支持する従動ロールと、を備え、
前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、前記ローラで前記従動ロール上の前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成することを特徴とする欠陥マーキング装置。
【請求項2】
前記複数の突起部は、断面が円相当径0.5〜5mmの柱状であることを特徴とする請求項1に記載の欠陥マーキング装置。
【請求項3】
前記従動ロールは、ウレタン材料またはゴム材料から形成され、
前記複数の突起部は、前記ローラの幅方向中央に形成された突起部を頂点として、曲率を有するように一定間隔を置いて設けられ、
前記曲率の半径は、500〜2000mmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の欠陥マーキング装置。
【請求項4】
前記欠陥マーキング装置は、前記アルミニウム板の欠陥部に対して長さ200〜600mmの圧痕群を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の欠陥マーキング装置。
【請求項5】
前記上下機構は、内部の流体が排出される排出路に、前記流体の排出量を調整することによって前記上下機構の駆動速度を制御する流量制御弁を備え、
前記流量制御弁は、前記排出路の開度を15〜60%の範囲内に調整することにより、前記上下機構の駆動速度を減速させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の欠陥マーキング装置。
【請求項6】
搬送ロール上を流れるアルミニウム板の欠陥部に圧痕群を形成してコイルに巻き取る欠陥マーキング処理ラインであって、
前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する欠陥検出装置と、
前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する防錆油塗油装置と、
前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する欠陥マーキング装置と、
を有することを特徴とする欠陥マーキング処理ライン。
【請求項7】
前記防錆油塗油装置の後に前記圧痕装置を配置することを特徴とする請求項6に記載の欠陥マーキング処理ライン。
【請求項8】
搬送ロール上を流れるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥部に圧痕群を形成する欠陥マーキング方法であって、
欠陥検出装置により、前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する検出工程と、
防錆油塗油装置により、前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する塗油工程と、
前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、ローラを備えた圧痕装置によって前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する圧痕工程と、
を有することを特徴とする欠陥マーキング方法。
【請求項9】
搬送ロール上を流れるアルミニウム板をコイルに巻き取る処理ラインにおいて、欠陥マーキングがされたコイルの製造方法であって、
欠陥検出装置により、前記アルミニウム板の表面の欠陥部を検出する検出工程と、
防錆油塗油装置により、前記アルミニウム板の表面に防錆油を塗油する塗油工程と、
前記欠陥検出装置からの指示に基づいて、ローラを備えた圧痕装置によって前記アルミニウム板を押圧し、前記アルミニウム板の欠陥部に対して深さ5〜50μmの圧痕を形成する圧痕工程と、
前記圧痕工程を経たアルミニウム板を巻き取りコイルにする巻取工程と、
を有することを特徴とする欠陥マーキングされたコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190642(P2010−190642A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33763(P2009−33763)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】