説明

欠陥検出装置および欠陥検出方法

【課題】欠陥の誤検出を低減することができる欠陥検出装置および欠陥検出方法を提供する。
【解決手段】時間遅れ座標系変換部24は、周期パターンが形成された検査対象物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換する。欠陥検出部25は、m次元空間上で時間遅れ座標系のデータの示す位置が所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期パターンが形成された検査対象物を撮像して得られた画像を用いて検査対象物上の欠陥を検出する欠陥検出装置および欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラインセンサカメラ等の撮像装置により、検査対象物(フラットパネルディスプレイ用の基板等)上に形成された電子回路の周期的なパターンを画像として順次読み込み、その画像を用いて検査対象物上の欠陥を検出するパターン検査が行われている。このパターン検査の手法として、画像上で1周期だけずれたパターン同士の輝度値を比較し、輝度値の差が所定の数値を超えている場合に、対応する箇所を欠陥として検出する、いわゆる隣接比較法が知られている。
【0003】
ラインセンサカメラを用いる場合、一列に並べられた受光素子から撮像信号が列(ライン)単位で出力される。隣接比較法では、この一列分のデータを記憶部に記憶させつつ、パターンの1周期分のデータと、同位置に対応する1周期分だけ前のデータとの比較を順次行う(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−78421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の隣接比較法によるパターン検査では、製造プロセスのゆらぎ等により、パターン幅が検出分解能の数画素程度変動した場合、そのパターン幅の変動(ゆらぎ)が製造上の許容範囲内である場合でも、欠陥として誤検出してしまうという問題があった。以下、この具体例を説明する。
【0005】
例えば、図9の実線901は、製造プロセスのゆらぎがないパターンを撮像したときの輝度信号の変化の一部分を模式的に示しており、破線902は、ゆらぎのないパターンに隣接した位置にあり、ゆらぎの発生により徐々に周期が短くなっているパターンを撮像したときの輝度信号の変化の一部分を模式的に示している。図10は、隣接比較による実線901の輝度信号と破線902の輝度信号の輝度差を示している。図10が示すように、図中右方向に進むにつれて、徐々に輝度差が広がり、例えば欠陥判定の閾値が1.0だった場合には、5周期目以後のパターンが欠陥として検出されてしまう。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、欠陥の誤検出を低減することができる欠陥検出装置および欠陥検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、周期パターンが形成された検査対象物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換するデータ変換手段と、m次元空間上で前記時間遅れ座標系のデータの示す位置が所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出する欠陥検出手段とを備えたことを特徴とする欠陥検出装置である。
【0008】
また、本発明は、周期パターンが形成された検査対象物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換するステップと、m次元空間上で前記時間遅れ座標系のデータの示す位置が所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出するステップとを備えたことを特徴とする欠陥検出方法である。
【0009】
時間遅れ座標系のデータの特性により、検査対象物上に欠陥がなく、時間遅れ座標系への変換前のデータ間の周期的な関係が維持されている場合には、周期パターンの寸法に変動があっても、時間遅れ座標系のm次元空間上ではデータが所定領域内に収まる。これに対して、検査対象物上に欠陥があり、時間遅れ座標系への変換前のデータ間の周期的な関係の一部に乱れが生じると、時間遅れ座標系のm次元空間上で上記の領域内に収まらないデータが発生する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、m次元空間において、時間遅れ座標系のデータが所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出することによって、欠陥の誤検出を低減することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態によるパターン検査システムの構成を示している。撮像装置1はラインセンサカメラ等を備えており、表面に周期パターンが形成された検査対象物や良品を撮像し、撮像信号を生成する。画像処理装置2(本発明の欠陥検出装置に対応)は、撮像装置1から入力された撮像信号に基づいた画像を処理し、検査対象物上の欠陥を検出する。表示装置3は、画像処理装置2による欠陥検出処理の結果等を表示する。
【0012】
以下、画像処理装置2の内部構成を説明する。画像入力部21は、撮像装置1から入力された撮像信号をA/D変換して画像データを生成する。記憶部22は、画像データや、欠陥検出処理に必要なデータ、欠陥検出処理の結果データ等を記憶する。制御部23は画像処理装置2内の各部を制御する。
【0013】
時間遅れ座標系変換部24は、画像内で一列に並んだ画素の画素値のデータ列を時系列データと見立て、データ列を構成する各データを、非線形解析の分野で知られている時間遅れ座標系(合原一幸,「カオス時系列解析の基礎と応用」,産業図書,2000)のデータに変換する。欠陥検出部25は、時間遅れ座標系へ変換されたデータを用いて、欠陥を検出する処理を行う。データ出力部26は、欠陥検出処理の結果等を表示装置3へ出力する。
【0014】
次に、本実施形態における欠陥の検出方法を説明する。検査対象物を撮像して得られた撮像信号が画像処理装置2に入力されると、画像入力部21は画像データを生成し、記憶部22に格納する。時間遅れ座標系変換部24は、画像データを記憶部22から読み出し、画像を構成する各画素の画素値からなるデータを遅れ時間τ(τは1以上の整数)、次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換する。
【0015】
遅れ時間τは、本実施形態では画素数を示している。パターン幅に変動(ゆらぎ)がなかった場合のパターン周期(例えばパターン周期の設計値)からτを決定してもよいし、自己相関の利用など既知の方法によりτを決定してもよいし、τを実験的に求めてもよい。また、次元mはいくつでもよいが、通常は2あるいは3を選択すればよい。
【0016】
一例として、時間遅れ座標系変換部24が、画像上で一列に並んだ50画素の画素値を記憶部22から読み出したとする。図2(a)は、これら50画素の画素値を示している。各画素の画素値は0〜255のいずれかの値をとる。これら50画素の画素値を格納する配列をFとし、そのt番目のデータをF(t)とする(t=1,2,・・・,50)。
【0017】
時間遅れ座標系変換部24は、配列Fのデータを、t=1画素目から順に、1単位時間で1画素進む時系列データと見立て、遅れ時間τ、次元mの時間遅れ座標系のデータに変換する。時間遅れ座標系の配列Gへの一般的な変換は以下の(1)式で表される。
G(t)=(F(t),F(t+τ),F(t+2τ),・・・,F(t+(m−1)τ)) ・・・(1)
【0018】
本例では、遅れ時間τ=1、次元m=2とする。本例の場合には、時間遅れ座標系の配列Gへの変換は以下の(2)式で表される。
G(t)=(F(t),F(t+1)) ・・・(2)
【0019】
図2(b)はG(t)の各要素値を示している。XがF(t)の値を示し、YがF(t+1)の値を示している。(2)式の変換により、図2(a)の黒丸および白丸で示した位置の値は、図2(b)の黒丸および白丸で示した位置の値に変換される。
【0020】
以下、欠陥検出処理の原理を説明する。G(t)の要素値F(t)をX座標値、要素値F(t+1)をY座標値とみなして、G(t)の各データをm=2次元空間にプロットすると図3のようになる。
【0021】
時間遅れ座標系のデータの特性により、検査対象物上に欠陥がなく、配列Fのデータ間の周期的な関係が維持されている場合には、周期パターンの寸法に変動があっても、時間遅れ座標系のm次元空間上では、配列Gのデータが示す位置は所定領域内に収まる。これに対して、検査対象物上に欠陥があり、配列Fのデータ間の周期的な関係の一部に乱れが生じると、配列Gのデータが示す位置のうち、時間遅れ座標系のm次元空間上で所定領域内に収まらない位置が発生する。
【0022】
配列Fにおいて、F(7)が異常値であり、その他の値は正常値であるものとする。図3において、異常値F(7)を含むG(6),G(7)は、他の正常値がプロットされる領域A,Bとは異なる位置C,Dにそれぞれプロットされている。本例では、遅れ時間τ=1、次元m=2であり、欠陥のある画素の画素値が、それと隣接する画素の画素値と関連を持っていないために、上記のようなプロット位置の相違が現れる。ちなみに、遅れ時間τ=1、次元m=3の場合には、注目画素の画素値と、その隣の画素の画素値と、さらにその隣の画素の画素値との3値の関連性でプロット位置が決まることになる。
【0023】
上記のことから、図3のような2次元空間上で、正常な値がプロットされる領域A,Bから離れた位置にプロットされるG(6),G(7)を欠陥候補のデータとして検出し、それらのデータを構成する要素値に共通するF(7)が異常値であることを検出することが可能である。この検出結果から、7画素目が欠陥画素であると判定することが可能である。
【0024】
本実施形態では、欠陥画素の画素値を含まない正常な画素の画素値のみをX座標値、Y座標値とする2次元空間上の点を含む領域A,Bの位置と広がり具合は予め決定されているものとする(決定方法は後述する)。パターン幅の変動(ゆらぎ)の度合いにより、正常な画素の画素値のみをX座標値、Y座標値とする2次元空間上の点(以下、正常点と呼ぶ)の分布は変化する。そこで、パターン幅の変動(ゆらぎ)が多少あっても、正常点が領域A,B内に含まれるように、領域A,Bにはある程度の広がりを持たせておくことになる。以下、領域A,Bのような、正常点が含まれるべき領域をゆらぎ許容領域と呼ぶ。
【0025】
次に、上述した原理に従った欠陥検出処理の具体的な手順を説明する。まず、遅れ時間座標系のm次元空間上のゆらぎ許容領域の分布を示す配列Hのデータの生成手順(すなわち、ゆらぎ許容領域の決定手順)を説明する。画素値が0〜255のいずれかの値をとるものとすると、配列Hは、遅れ時間座標系のm次元空間上にある全ての座標位置に対応した256個のデータで構成される。ゆらぎ許容領域内の座標位置に対応した配列Hのデータは1、ゆらぎ許容領域外の座標位置に対応した配列Hのデータは0であるものとする。
【0026】
ゆらぎ許容領域は、検査対象物上の周期パターンが予め分かっている場合には、設計値に基づいた計算により求めてもよいし、実際のデータから求めてもよい。以下、図4を参照し、実際のデータから配列Hのデータを生成する方法を説明する。
【0027】
処理の開始後、時間遅れ座標系変換部24はまず、処理対象のデータを特定するための変数iの値を初期化(i=1)する(ステップS100)。また、時間遅れ座標系変換部24は、記憶部22に格納されている配列Hの全てのデータを初期化する(ステップS110)。続いて、時間遅れ座標系変換部24は、以下のようにして、処理に必要なm個の画素のデータを記憶部22から読み出す(ステップS120)。
【0028】
すなわち、時間遅れ座標系変換部24は、n=1〜m(ただしnは整数)の各nの値について、対象画素の番号iから(n−1)×τだけ番号の離れた画素の画素値を記憶部22から読み出し、各画素値を配列Fのi番目,(i+τ)番目,・・・,(i+(m−1)×τ)番目にそれぞれ格納する。例えば、m=2、i=0の場合、時間遅れ座標系変換部24は、i番目と(i+τ)番目の画素の画素値を記憶部22から読み出し、各画素値をそれぞれF(i),F(i+τ)とする。処理に用いる画像データは、例えば欠陥のない良品の基板等の基準物を撮像して得られたものである。
【0029】
続いて、時間遅れ座標系変換部24は、記憶部22から読み出したデータをm次元の時間遅れ座標系のデータに変換する(ステップS130)。すなわち(1)式と同様にして、時間遅れ座標系変換部24は、配列Fのデータから時間遅れ座標系の配列Gのi番目のデータであるG(i)を生成する。
【0030】
配列F,Gのデータおよび番号iの値は時間遅れ座標系変換部24から欠陥検出部25に渡される。また、欠陥検出部25は記憶部22から配列Hのデータを読み出す。欠陥検出部25は、配列Gのi番目のデータであるG(i)を参照し、m次元空間上でG(i)が示す点を中心とする所定範囲内の点(例えばG(i)が示す点から数画素以内の距離にある点など)のそれぞれに対応した配列Hのデータに1を格納する(ステップS140)。このとき、配列Hのデータが既に1であれば、欠陥検出部25はそのデータを更新せず(あるいは1に更新してもよい)、次のデータの処理に移行する。
【0031】
続いて、欠陥検出部25は、変数iが所定の最大画素数Nと同じ値になったか否かを判定する(ステップS150)。iとNが一致しなかった場合には、欠陥検出部25は次のデータの処理を時間遅れ座標系変換部24に通知する。通知を受けた時間遅れ座標系変換部24はiの値に1を加算し(ステップS160)、ステップS120の処理を再度実行する。iがNと同じ値になるまで、上述した処理が繰り返される。
【0032】
一方、ステップS150において、iとNが一致した場合には、欠陥検出部25は配列Hのデータを記憶部22に格納する(ステップS170)。以上でゆらぎ許容領域の決定処理が終了する。上記の処理を行った結果、配列Hのデータのうち、ゆらぎ許容領域内の座標位置に対応したデータは1となり、ゆらぎ許容領域外の座標位置に対応したデータは0となる。
【0033】
次に、図5を参照しながら、欠陥検出処理の手順を説明する。欠陥検出処理の開始後、時間遅れ座標系変換部24はまず、処理対象のデータを特定するための変数iの値を初期化(i=1)する(ステップS200)。続いて、時間遅れ座標系変換部24は、図4のステップS110と同様にして、処理に必要なm個の画素のデータを記憶部22から読み出す(ステップS210)。
【0034】
続いて、時間遅れ座標系変換部24は、記憶部22から読み出したデータをm次元の時間遅れ座標系のデータに変換する(ステップS220)。すなわち(1)式と同様にして、時間遅れ座標系変換部24は、配列Fのデータから時間遅れ座標系の配列Gのi番目のデータであるG(i)を生成する。
【0035】
配列F,Gのデータおよび番号iの値は時間遅れ座標系変換部24から欠陥検出部25に渡される。また、欠陥検出部25は記憶部22から配列Hのデータを読み出す。欠陥検出部25は、配列Gのi番目のデータであるG(i)を参照し、m次元空間上でG(i)が示す点に対応した配列Hのデータを参照する(ステップS230)。
【0036】
続いて、欠陥検出部25は、ステップS230で参照した配列Hのデータが1であるか否かを判定する(ステップS240)。ステップS230で参照した配列Hのデータが1であった場合には、G(i)が示すm次元空間上の点はゆらぎ許容領域内にあることになる。また、ステップS230で参照した配列Hのデータが0であった場合には、G(i)が示すm次元空間上の点はゆらぎ許容領域外にあることになる。
【0037】
G(i)が示すm次元空間上の点がゆらぎ許容領域内にあった場合には、処理がステップS260に進む。また、G(i)が示すm次元空間上の点がゆらぎ許容領域外にあった場合には、欠陥検出部25は、G(i)が欠陥候補のデータであると判定する(ステップS250)。続いて、処理がステップS260に進む。
【0038】
欠陥検出部25は、変数iが所定の最大画素数Nと同じ値になったか否かを判定する(ステップS260)。iとNが一致しなかった場合には、欠陥検出部25は次のデータの処理を時間遅れ座標系変換部24に通知する。通知を受けた時間遅れ座標系変換部24はiの値に1を加算し(ステップS270)、ステップS210の処理を再度実行する。iがNと同じ値になるまで、上述した処理が繰り返される。
【0039】
一方、ステップS260において、iとNが一致した場合には、欠陥検出部25は、ステップS250で求めた配列Gの欠陥候補のデータから、欠陥画素の画素値を含む配列Fのデータを特定し、欠陥画素の位置を特定する(ステップS280)。欠陥検出部25が欠陥検出処理の結果を記憶部22に格納すると(ステップS290)、欠陥検出処理が終了する。
【0040】
次に、本実施形態における欠陥検出処理の変形例の手順を説明する。まず、図6を参照し、ゆらぎ許容領域の決定手順を説明する。図6のステップS300〜S330,S350〜S370の処理は図4のステップS100〜S130,S150〜S170の処理と同様であるので、それらの説明を省略する。
【0041】
ステップS340では、欠陥検出部25は、配列Gのi番目のデータであるG(i)を参照し、G(i)が示すm次元空間上の点を中心とする所定範囲内の点(例えばG(i)が示す点から数画素以内の距離にある点など)のそれぞれに対応した配列Hのデータに1を加算する。iとNが一致するまでステップS340の処理が繰り返されると、配列Gのデータのうち、正常な画素値のみで構成される配列Gのデータに対応した配列Hのデータには大きな値が格納される。
【0042】
ステップS380では、欠陥検出部25は、欠陥検出処理で欠陥候補のデータを抽出する際の判定処理に用いる欠陥判定閾値Dを配列Hのデータから算出し、欠陥判定閾値Dを記憶部22に格納する。欠陥判定閾値Dを求めるには、例えば0を除く配列Hのデータの平均値μと標準偏差σを求め、D=μ+3σとすればよい。以上でゆらぎ許容領域の決定処理が終了する。
【0043】
上記の処理を行った結果、配列Hのデータのうち、ゆらぎ許容領域内の座標位置に対応したデータは欠陥判定閾値以上の値であり、ゆらぎ許容領域外の座標位置に対応したデータは欠陥判定閾値未満の値となっている。以降の欠陥検出処理では、判定対象の座標位置がゆらぎ許容領域に含まれるか否かの判定は、配列Hのデータではなく、欠陥判定閾値Dを用いて行われる。
【0044】
次に、図7を参照しながら、欠陥検出処理の手順を説明する。図7のステップS400〜S420,S450〜S490の処理は図5のステップS200〜S220,S250〜S290の処理と同様であるので、それらの説明を省略する。
【0045】
ステップS430では、欠陥検出部25は、配列Gのi番目のデータであるG(i)を参照する。ステップS440では、欠陥検出部25は、ステップS430で参照したG(i)と欠陥判定閾値Dを比較し、G(i)が欠陥判定閾値D以上であるか否かを判定する。
【0046】
ステップS430で参照したG(i)が欠陥判定閾値D以上であった場合には、G(i)が示すm次元空間上の点はゆらぎ許容領域内にあることになる。また、ステップS430で参照したG(i)が欠陥判定閾値D未満であった場合には、G(i)が示すm次元空間上の点はゆらぎ許容領域外にあることになる。
【0047】
G(i)が示すm次元空間上の点がゆらぎ許容領域内にあった場合には、処理がステップS460に進む。また、G(i)が示すm次元空間上の点がゆらぎ許容領域外にあった場合には、処理がステップS450に進む。
【0048】
上述したように、本実施形態の欠陥検出処理によれば、時間遅れ座標系のm次元空間において、配列Gのデータが示す座標位置がゆらぎ許容領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出することによって、検査対象物上の周期パターンの寸法に変動があっても、欠陥の誤検出を低減することができる。
【0049】
また、基準物と検査対象物を同一の製造装置や検査装置で処理する場合には、基準物と検査対象物の周期パターンのゆらぎ方は同様となる。したがって、基準物の画像からゆらぎ許容領域を決定することによって、検査対象物の画像を用いた欠陥検出処理の際に、周期パターンのゆらぎ方によらず、安定して欠陥を検出することができる。
【0050】
なお、図4または図6に示した手順に従って決定されたゆらぎ許容領域を時間遅れ座標系のm次元空間上にプロットしたものを表示し、m次元空間上のプロットを確認したユーザの指示に基づいてゆらぎ許容領域の位置や大きさ等を変更できるようにしてもよい。また、ゆらぎ許容領域を決定するために用いる基準物は良品でなくてもよく、検査対象物自身であってもよい。
【0051】
検査対象物自身の画像からゆらぎ許容領域を決定する場合でも、変形例に示したように、配列Hのデータの全体的な傾向(統計分布)に基づいてゆらぎ許容領域を決定することによって、欠陥画素の画素値が影響する領域をゆらぎ許容領域から除外し、適切なゆらぎ許容領域を設定することが可能である。あるいは、m次元空間上のプロットを確認したユーザの指示に基づいて、欠陥画素の画素値の影響があると思われる領域をゆらぎ許容領域から除外することによって、適切なゆらぎ許容領域を設定することも可能である。
【0052】
次に、ゆらぎ許容領域の分布を示す配列Hのデータに関するその他の利用方法を説明する。上記の欠陥検出処理は画像の1ライン分のデータ毎に行われるので、1つの検査対象物の全体について欠陥検出処理を行うと、複数回の欠陥検出処理を行うことになる。したがって、各欠陥検出処理について個別にゆらぎ許容領域を決定しておく必要がある。
【0053】
配列Hが1つの基準物の画像からN個生成されるものとし、それらの配列をそれぞれH,H,・・・,Hとする。制御部23は、配列Hのデータに基づいて、1個目のゆらぎ許容領域の重心座標を算出する。同様にして、制御部23は、2個目,3個目,・・・,N個目のゆらぎ許容領域の重心座標をそれぞれ算出する。そして、制御部23は、算出したゆらぎ許容領域の重心座標の平均値を算出し、記憶部22に格納する。
【0054】
常に同じ基準物から求めたゆらぎ許容領域を使用し続けるわけではなく、定期的に基準物が変更され、その画像から新たなゆらぎ許容領域が決定される。制御部23は、基準物毎にゆらぎ許容領域の重心座標の平均値を算出し、記憶部22に格納する。
【0055】
制御部23は、検査中定期的に、またはユーザから指示を受けたときなどに、複数の基準物についてのゆらぎ許容領域の重心座標の平均値を記憶部22から読み出し、それらの平均値に対応した位置を時間遅れ座標系のm次元空間上に同時に(重ねて)表示するための表示データを生成し、データ出力部26を介して、表示装置3へ出力する。表示装置3は、この表示データに基づいて、時間遅れ座標系のm次元空間におけるゆらぎ許容領域の重心座標の平均値の分布を表示する。
【0056】
図8は、ゆらぎ許容領域の重心座標の平均値の分布を表示した例である。製造装置や検査装置の故障やその前兆は、周期パターンのゆらぎ方の変化として表面化することがある。図8において、時間が経過する毎に、ゆらぎ許容領域の重心座標が矢印800の方向に移動しているものとすると、図8の分布から、製造装置や検査装置の構造等に経時変化が生じていることを知ることが可能となる。したがって、図8の分布を用いて、故障を早期に発見することが可能となる。
【0057】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明の欠陥検出方法を他の欠陥検出方法と併用することも可能である。一例として、本発明の欠陥検出方法を用いて欠陥検出処理を実行し、欠陥として検出された座標において他の隣接比較法等の検出方法で欠陥を検出するようにしてもよい。これによって、より精度の高い欠陥検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態によるパターン検査システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における時間遅れ座標系へのデータの変換方法を説明するための参考図である。
【図3】本発明の一実施形態における時間遅れ座標系のm次元空間上のプロットを示す参考図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるゆらぎ許容領域の決定処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における欠陥検出処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態におけるゆらぎ許容領域の決定処理の他の手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態における欠陥検出処理の他の手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態におけるゆらぎ許容領域の重心位置の経時変化の様子を示す参考図である。
【図9】周期パターンの輝度変化を示す参考図である。
【図10】隣接比較による周期パターン同士の輝度差を示す参考図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・撮像装置、2・・・画像処理装置、3・・・表示装置、21・・・画像入力部、22・・・記憶部(記憶手段)、23・・・制御部(表示データ生成手段)、24・・・時間遅れ座標系変換部(データ変換手段)、25・・・欠陥検出部(欠陥検出手段、領域決定手段)、26・・・データ出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期パターンが形成された検査対象物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換するデータ変換手段と、
m次元空間上で前記時間遅れ座標系のデータの示す位置が所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出する欠陥検出手段と、
を備えたことを特徴とする欠陥検出装置。
【請求項2】
基準物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを変換して得られた前記次元mの時間遅れ座標系のデータに基づいて前記所定領域を決定する領域決定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の欠陥検出装置。
【請求項3】
複数の異なる時点で前記基準物を撮像して得られた各々の画像から得られた複数の前記所定領域を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶している複数の前記所定領域の前記m次元空間上の分布を表示するための表示データを生成する表示データ生成手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の欠陥検出装置。
【請求項4】
周期パターンが形成された検査対象物の画像を構成する各画素の画素値からなるデータを次元m(mは2以上の整数)の時間遅れ座標系のデータに変換するステップと、
m次元空間上で前記時間遅れ座標系のデータの示す位置が所定領域に含まれるか否かを判定し、判定結果に基づいて欠陥を検出するステップと、
を備えたことを特徴とする欠陥検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−175550(P2008−175550A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6767(P2007−6767)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】