説明

次亜塩素酸塩分解用触媒およびその製造方法並びにその使用方法

【課題】安価で塩基性水溶液中での耐崩壊性に優れた次亜塩素酸塩分解触媒を提供することにある。更に、上記触媒を使用して次亜塩素酸塩を分解する方法およびこの方法により発生した原子状酸素を利用した分解の方法を提供する。
【解決手段】次亜塩素酸塩を分解し原子状酸素を発生させるための触媒として、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含むことを特徴とする次亜塩素酸塩分解用触媒を使用する。より具体的には、触媒は、8、9または10族元素が鉄、コバルト、ニッケルから選択される1種類以上の金属であり、2族元素がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選択される1種類以上の金属であり、化合物が水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩のいずれかの形態であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸塩を分解する触媒およびその製造方法並びに使用方法に関する。より詳細には、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含む安価で高活性な次亜塩素酸塩分解用触媒および、その製造方法、さらにこの触媒を用いて次亜塩素含有排水中の次亜塩素酸塩を分解する方法および分解した際に発生した原子状酸素を有機物と接触させて酸化分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸塩を製造する工場では排水中に次亜塩素酸塩が含まれる。また、食品加工工場などから出る有機物排水に次亜塩素酸塩を添加し浄化するとき、過剰に添加した次亜塩素酸塩が処理後排水中に残留する。
【0003】
次亜塩素酸塩を含む排水は異臭を放つだけでなく、酸との接触により有毒な塩素ガスを生成するため、未処理のまま公共水系に放出すると公害の原因となる。
【0004】
次亜塩素酸塩を含む排水の処理法には、亜硫酸塩や過酸化水素水等の還元剤を用いて次亜塩素酸塩を酸化分解する方法がある。しかし、この方法を用いて多量の次亜塩素酸塩を含む排水を処理するには、多量の還元剤が必要となるためランニングコストが高くなる。さらに、変動する次亜塩素酸塩濃度に応じて還元剤を添加するには高度の技術と、そのための設備投資が必要となる。
【0005】
ニッケル、コバルト等を含む固定床触媒上で次亜塩素酸塩を分解する方法がある。この手法は次亜塩素酸塩が触媒上で酸素を発生して自発的に分解するので、ランニングコストが低くなる。しかし、この触媒は金属を活性成分とするため、金属使用量が多いと活性は高いが、触媒のコストも高くなる。
【0006】
固定床触媒のコストを低くするには、触媒活性を高めることと活性成分を希釈することが必要となる。一般的に、触媒活性は活性成分の表面積を高めることで達成できる。希釈剤は使用中に崩壊しないものを選ばなければならない。特許文献1に記載されているように、一般的に次亜塩素酸塩排水のpHは高いため、希釈剤や結合剤は崩壊し易い。
【0007】
特許文献1では、ポリフッ化ビニリデンのような熱可塑性樹脂結合剤を用い、微細な金属酸化物と一体化させることにより、崩壊に強い触媒を開発した。しかし、樹脂の熱可塑性を利用して成形するため、熱処理時に活性成分である金属酸化物が樹脂に埋没し、触媒活性が低下する恐れがある。
【0008】
特許文献2では比較的安価なアルミン酸カルシウムセメントを希釈剤かつ結合剤として用い、複雑な組成および細孔構造の制御を行うことにより、高い活性と耐崩壊性を両立した。しかし、複雑な細孔構造の制御を行うことは製造コスト高を招く。また、アルミン酸カルシウムセメントは水中でセメントゲルを形成し、粒子同士が結合する性質を持つ。結合したアルミン酸カルシウムセメント粒子間に活性成分である金属酸化物が埋没し、触媒活性が低下する恐れがある。
【0009】
これら技術を用いて、高活性かつ耐崩壊性に優れた次亜塩素酸塩分解触媒を調製するためには、高価な材料の使用や細孔構造の制御を必要とするため、コスト低減が困難である。
【0010】
さらに、特許文献3は、次亜塩素酸塩の分解時に生成する原子状酸素を用いて汚染物質を酸化するための触媒として、次亜塩素酸分解触媒を転用可能であると述べている。
【0011】
しかしながら、排水中の次亜塩素酸塩の分解触媒としての使用および、その際発生した原子状酸素を更に排水中の有機物を酸化分解するための触媒としての使用を両立する触媒であって、安価で高活性な触媒については未だ実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭56−97544号公報
【特許文献2】特表2001−500781号公報
【特許文献3】米国特許第3,944,487号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、安価で塩基性水溶液中での耐崩壊性に優れた原料を用いた次亜塩素酸塩分解触媒を提供することにある。更に、上記触媒を使用して次亜塩素酸塩を分解する方法およびこの方法により発生した原子状酸素を利用した有機物分解の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を続けた結果、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含む触媒は、次亜塩素酸塩に対して非常に優れた分解能力を有し、且つ細孔構造の制御の必要がなく安価な原料を使用することができ、pHの高い次亜塩素酸塩含有排水中における長時間の使用でも耐崩壊性に優れることを見出した。この知見に基づき、更に詳細に検討することによって本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、次亜塩素酸塩を分解し原子状酸素を発生させるための触媒であって、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含むことを特徴とする次亜塩素酸塩分解用触媒に関する。
【0016】
更に、上記触媒は、8、9または10族元素が鉄、コバルト、ニッケルから選択される1種類以上の金属であり、2族元素がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選択される1種類以上の金属であり、化合物が水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩のいずれかの形態であることを特徴とする。
【0017】
更に、上記触媒は、8、9または10族元素酸化物を5〜70重量%、2族元素化合物を95〜30重量%含む均質混合物であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物との混合物に対し水を添加して混練し、押出成形し、80〜400℃で乾燥することを特徴とする次亜塩素酸塩分解用触媒の製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、上記触媒の存在下、次亜塩素酸塩水溶液を分解し原子状酸素を発生させることを特徴とする方法に関する。
【0020】
更に、上記方法は、次亜塩素酸塩水溶液を、pH6〜14、10〜100℃の条件で、上記触媒と接触させることを特徴とする。
【0021】
更に、上記方法により発生した原子状酸素を有機物と接触させて酸化分解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の触媒は、次亜塩素酸塩に対して非常に優れた分解能力を有し、且つ細孔構造の制御の必要がなく安価な原料を使用することができ、pHの高い次亜塩素酸塩含有排水中における長時間の使用でも耐崩壊性に優れ、更に次亜塩素酸塩から発生した原子状酸素を排水中の有機物分解に有効に利用でき、あらゆる規模の次亜塩素酸塩含有排水の浄化に適している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を詳述する。
【0024】
本発明の触媒は、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含む混合物である。
【0025】
8、9または10族元素は鉄、コバルト、ニッケルから選択される1種類以上の金属であり、この酸化物は、高表面積であることが望ましい。
【0026】
2族元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選択される1種類以上の金属であり、その化合物は、水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩からなる。
【0027】
本発明の触媒は、5〜70重量%の8、9または10族元素酸化物と95〜30重量%の2族元素化合物とを含む均質混合物である。ここで、触媒の成形体において、8、9または10族元素酸化物の含有量が70重量%を超えると、成型性の悪化とコスト高のため好ましくなく、5重量%未満であると大量の次亜塩素酸塩処理するには活性が低いため好ましくない。
【0028】
また、これらの混合物に成形助剤を添加して成形してもよい。成形助剤としては、例えば、メチルセルロースやステアリン酸マグネシウムが挙げられ、任意の量を添加することができる。
【0029】
得られた触媒は、BET表面積は少なくとも30m/g、特に60〜150m/gである。また、かさ密度は、0.7〜1.2g/mlである。
【0030】
本発明に係わる触媒の形状やサイズはその使用形態により適宜選択することができる。一般的には直径が1〜6mmで長さが3〜20mm程度の円柱状ペレットが好適に用いられるが、種々の形状の触媒、錠剤形状、顆粒状及び破砕粒状の触媒でも利用できる。上記直径のペレットは、次亜塩素酸塩に直接使用することができ、細孔構造の制御が必要な触媒と比較すると簡便に製造することができる。
【0031】
上記触媒の組成により、活性成分である8、9、または10族元素酸化物を多量に含有しながら、次亜塩素酸塩水溶液中で安定な2族元素化合物を成型助材として作用させることができる。そのため、高活性と耐崩壊性を両立することができる。
【0032】
従って、本発明の触媒は、工業規模の排水を連続的に処理したとしても、成形体の粉化や割れが生じないため崩壊しない。
【0033】
本発明に係る触媒の製造方法として、例えば、一般的な押出円柱状ペレットを製造する場合には、所定量の8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物をニーダーなどの混練機を用いて、混合粉体に対して20〜50重量%の水を添加して混練する。この混合粉は、8、9または10族元素酸化物50重量%に対して2族元素化合物を50重量%混合したものである。
【0034】
得られた混合物を押出成形機あるいはディスクペレッタと、所定の形状のダイスを用いて円柱状ペレットに成形し、80〜400℃、好ましくは100〜300℃の温度で乾燥する。ペレットを80℃以下で乾燥させると、乾燥効率が悪く、400℃を超えて乾燥させると、高温により8、9または10族元素酸化物が焼結するため活性が低下する。
【0035】
本発明に係る触媒の使用方法は特に限定されるものではなく、移動床や流動床に使用することもできるが、通常は固定床に使用する。例えば円筒内に触媒を充填し、次亜塩素酸塩を含む排液を流通させることにより、排液中の次亜塩素酸塩を安全且つ効率良く除去することができる。
【0036】
次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムあるいは次亜塩素酸塩カルシウムを好適に用いることができる。これら次亜塩素酸塩と共に使用するアルカリ水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を挙げることができる。
【0037】
本発明の方法において、次亜塩素酸塩水溶液を、pH6〜14、10〜100℃の条件で、触媒と接触させる。使用する次亜塩素酸塩水溶液の濃度は、用途に応じて適宜決定することができる。
【0038】
本発明による触媒は、また、次亜塩素酸塩の分解時に生成する原子状酸素を用いて汚染物質を酸化するための触媒としても使用可能である。
【0039】
例えば、有機物を含有する排水を上記次亜塩素酸塩水溶液と共に、上記触媒に接触させることができる。この有機物含有排水としては、特に制限はなく、食品加工工場などから出る有機物排水などがある。ここで、共存させる次亜塩素酸塩水溶液の量は、排水中に含まれる有機物を酸化分解するために必要な理論量の1〜100重量倍であることが好ましく、1〜10重量倍であることがより好ましい。
【0040】
本発明による触媒は、次亜塩素酸塩など酸化剤の分解触媒として使用でき、且つ酸化剤を用いた汚染物質の酸化触媒としても強い活性を有し、効果的に使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の具体的な実施例にかかる触媒の調製例と、それらの触媒を用いた実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(触媒の性能試験)
NaOHを用いてpH10に調整した0.28molL−1NaClO水溶液100mlを75℃に加温し、触媒10g投入から1h後の酸素発生量を調べた。さらに24h放置し、崩壊の有無を目視により確認した。
【0043】
(実施例1)
酸化ニッケル300gと水酸化カルシウム600gを混練し、ディスクペレッタを用いて直径3mm、長さ5〜7mmに押出した。次に150℃で10h乾燥し、触媒を得た。NaOHを用いてpH10に調整した0.28molL−1NaClO水溶液100mlを75℃に加温し、触媒10g投入から1h後の酸素発生量を調べた。さらに24h放置し、崩壊の有無を目視により確認した。得られた触媒の崩壊ならびに酸素発生量の結果を表1に示す。
【0044】
(実施例2)
酸化ニッケル300gと水酸化カルシウム300gと水酸化マグネシウム300gを混練し、ディスクペレッタを用いて直径3mm、長さ5〜7mmに押出した。次に150℃で10h乾燥し、触媒を得た。NaOHを用いてpH10に調整した0.28molL−1NaClO水溶液100mlを75℃に加温し、触媒10g投入から1h後の酸素発生量を調べた。さらに24h放置し、崩壊の有無を目視により確認した。得られた触媒の崩壊ならびに酸素発生量の結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
酸化ニッケル300gとアルミナ600gを混練し、ディスクペレッタを用いて直径3mm、長さ5〜7mmに押出した。次に150℃で10h乾燥し、触媒を得た。NaOHを用いてpH10に調整した0.28molL−1NaClO水溶液100mlを75℃に加温し、触媒10g投入から1h後の酸素発生量を調べた。さらに24h放置し、崩壊の有無を目視により確認した。得られた触媒の崩壊ならびに酸素発生量の結果を表2に示す。
【0046】
(比較例2)
酸化ニッケル300gと水ガラス50gを混練し、錠剤成型機を用いて直径10mm、長さ9〜10mmに成型した。NaOHを用いてpH10に調整した0.28molL−1NaClO水溶液100mlを75℃に加温し、触媒10g投入から1h後の酸素発生量を調べた。さらに24h放置し、崩壊の有無を目視により確認した。得られた触媒の酸素発生量の結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
上記表1,2の結果より、本発明の8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含む触媒は、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物との両方を含まない組成の触媒と比較して、触媒が崩壊しないと共に高い酸素発生量の両方を可能にすることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩を分解し原子状酸素を発生させるための触媒であって、8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物とを含むことを特徴とする次亜塩素酸塩分解用触媒。
【請求項2】
8、9または10族元素は、鉄、コバルト、ニッケルから選択される1種類以上の元素であり、2族元素がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選択される1種類以上の元素であり、化合物が水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩のいずれかの形態であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
8、9または10族元素酸化物を5〜70重量%、2族元素化合物を95〜30重量%含む均質混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
8、9または10族元素酸化物と2族元素化合物との混合物に対し水を添加して混練し、押出成形し、80〜400℃で乾燥することを特徴とする次亜塩素酸塩分解用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒の存在下、次亜塩素酸塩水溶液を分解し原子状酸素を発生させることを特徴とする方法。
【請求項6】
次亜塩素酸塩水溶液を、pH6〜14、10〜100℃の条件で、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒と接触させることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法により発生した原子状酸素を有機物と接触させて酸化分解することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2011−98328(P2011−98328A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256600(P2009−256600)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(591110241)ズードケミー触媒株式会社 (31)
【Fターム(参考)】