説明

止水工法

【課題】 止水を必要とする箇所に変形追従性を有する弾性塊を、小型、軽量な装置でピンポイント的に形成させる止水効果に優れ、かつ経済性および安全性を備えた止水工法を提供する。
【解決手段】 マンホールの側壁31aに、接続されている管路32の外周を取り巻くように、内側から小径の孔34を、複数、穿設する。この孔34に止水液注入具2のノズル部分となる注入部5を挿入する。コントローラで計量された親水性ウレタンなどのA液と水道水などのB液からなるゲル化止水剤を注入部5内で混合し、注入部5の長手方向に形成された複数の注入孔10から地盤内に低圧で注入する。ゲル化止水剤はA液とB液の反応により注入部5の回りに土砂を取り込んだ球状の弾性塊35を形成する。各注入孔34についてゲル化止水剤の注入を行い、弾性塊35の群がマンホールの側壁31aと管路32の接続部を取囲むように、弾性塊の止水性連続体を形成して行く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物と地盤とが接する付近で止水を必要とする箇所あるいは構造物における止水を必要とする箇所についての止水工法であって、硬化して弾力性のある弾性ゲルを形成するゲル化止水剤を用いて部分的に止水する止水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木工事で、例えば、地下水を含む地盤を掘削し、下水道工事をする場合、関東ローム層など一部の良質地盤を除き、作業の安全のため、涌水や地盤崩壊の対策が必要となる。通常の下水道工事の場合の止水、地盤改良は、特に薬剤を選ばず、止水、地盤改良ができれば、薬剤は完全凝結硬化、あるいは完全固化で良い。
【0003】
このような止水、地盤改良で、現在、多く使用されている無機系セメント、水ガラス等の止水剤、地盤改良剤は、注入後化学反応して完全凝結硬化または完全固化する。一部、有機系の止水剤、地盤改良剤も使用されることがあるが、現状では、固化部分に十分な弾力性は存在しない。
【0004】
その他の背景技術として、例えば特許文献1には、パイプルーフの止水処理装置およびその工法として、推進工法で施工されたパイプルーフのパイプ間からの漏水等を防止するために止水材を高圧で噴射する噴射ノズルや施工方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、非開削で堤体を貫通する管路を敷設する方法として、堤体の天端から垂直に噴射ノズルを捩じ込み、セメントスラリーを噴射して、堤体内の管路が貫通する位置に遮水壁を造成することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、下水道工事において、地中で竪管と横管を接続する際に、あらかじめ竪管の側面を穿孔して、直径7〜10mm、長さ30mm程度(特許文献3において「cm」としているのは、図6、図7における寸法関係から見て明らかな誤記)のノズルを差し込み、ノズルを正逆回転させながら、ノズルの先端および側面の注出口から親水性ポリウレタン樹脂を注入して土中の水分と反応させ、横管が接続される位置に土砂を連結した直径60cm、長さ30cm程度のゴム状塊状体からなる止水帯を形成し、この止水帯をコア抜き機で穿孔して横管を通し、竪管と接続するようにした管埋設工法が記載されている。
【0007】
これらの噴射ノズルのうち、特許文献1、特許文献2記載のものは、ノズルの注入孔からのセメント系材料などの高圧噴射により広範囲の地盤改良を行うこと目的とするため、高圧に耐え得る材質、構造のものが用いられ、高価なものとなる。
【0008】
これに対し、特許文献3記載のものは、薬液を限られた狭い範囲に充填するものであるが、ごく短い筒状のノズルの先端と側面に設けた注出孔から薬液を噴出し、ノズルの前方に広がる形で、前述のような土砂を取り込んだ直径60cm、長さ30cm程度のゴム状塊状体を形成するようにしたものである。
【0009】
特許文献4には、鋼管矢板の継手部の止水方法として、継手部内に止水体充填用袋を配置設し、下端および条件によっては側面にも開口を設けた長尺の可撓性の充填管から、水と比重を高めるための金属塩を含有するA液とウレタンポリマーを含有するB液の混合液を止水体充填用袋内に充填し、A液とB液の反応により継手部内に弾性ゲルによる止水体を形成する方法が記載されている。
【0010】
また、弾性ゲルを形成する他の高分子系止水剤としては、例えば特許文献5にポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートをベースとした止水剤が、特許文献6にポリエチレングリコールモノメタクリレートをベースとした止水剤が記載されている。
【0011】
また、特許文献7および特許文献8には、マンホールなどの耐震改修のための管路用の可撓性継手が記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開平05−332080号公報
【特許文献2】特開平11−131445号公報
【特許文献3】特開2001−349181号公報
【特許文献4】特開2001−349181号公報
【特許文献5】特開2003−193032号公報
【特許文献6】特開2004−115646号公報
【特許文献7】特開2005−330684号公報
【特許文献8】特開2006−274561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の非開削での止水、地盤改良工法では、広範囲に渡って止水、地盤改良を行うため、止水材を高圧噴射するのが一般的であり、かなり専門的な知識、技能を必要とする大規模工事となる。通常、施工機器は、大型トラック数台に積載されており、施工にはこれらを駐車あるいは設置するための広い面積を必要とする。また、施工機器が大型になるため、準備や片付けにも時間がかかり、工期が長くなる。
【0014】
また、無機系セメントや、水ガラス系の止水剤あるいは地盤改良剤で完全凝結硬化または完全固化させて止水する場合、ひび割れや亀裂が入りやすいため、止水を必要とする部分に限定した局部的な施工では不十分であり、施工範囲が広くなり、薬剤の使用、施工の手間等において無駄も多い。
【0015】
また、例えばマンホールなどの埋設構造物については、マンホールと管路の接続部の耐震性が問題となっており、その改修が急がれている。前述した特許文献7や特許文献8に記載のものは改修において接続部に可撓性継手を取り付けることで、耐震性の向上を図ったものであるが、施工の際、マンホールと管路の接続部をはつる必要があり、湧水や地盤崩壊の可能がある場合には、先に改修する接続部の回りの止水処理が必要となる。
【0016】
一方、その接続部の回りの部分が地盤改良剤で完全固定化されていると、可撓性継手を有効に機能させることができなかったり、接続部に破損が生じたりするという問題もある。すなわち、可撓性継手を用いた耐震改修工法では、地震動等による変位を吸収できるように管路接続部が地盤も含め変形追従できる必要がある。
【0017】
本発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、無機系セメントや、水ガラス系のような弾力性のない止水剤、地盤改良剤で完全凝結硬化または完全固化させるのではなく、弾性ゲルを形成する必要最小限の量のゲル化止水剤を低圧で注入し、止水を必要とする箇所に変形追従性を有する弾性塊を、小型、軽量な止水液注入装置でピンポイント的に形成させることで、止水効果に優れ、かつ経済性および安全性を備えた止水工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の請求項1に係る止水工法は、特定の止水液を特定の止水液注入具により止水性を与える箇所に供給し止水を行う止水工法であって、前記止水液は硬化して弾性ゲルを形成するゲル化止水剤であり、前記止水液注入具は止水液が送られてくるチューブを接続するためのアダプタを備えた基部と、前記基部の前方に延びた筒状の注入部とが分離可能に接続されているとともに、前記注入部の長手方向に複数の注入孔が間隔をおいて設けられているものであることを特徴とするものである。
【0019】
本発明で使用するゲル化止水剤は、無機系セメントや、水ガラス系の止水剤のように、完全固定化させるのではなく、硬化して止水を必要とする箇所に弾力性のあるゲルをピンポイント的に形成させて止水するもの(例えば、水を硬化剤とする親水性ウレタンなど)が好ましく、弾性ゲルの塊が部分的に形成される程度の低い排出圧(注入具からの注入部位への排出圧)で注入される。
【0020】
この排出圧は、例えば、マンホールと管路の接続部の部分止水に適用する場合において、0.01〜0.2Mpa程度の排出圧である。ただし、地盤の状態や深さによっては、それ以上の圧の場合もある。また、適正な圧は適用用途によっても変わる。
【0021】
止水液注入具についても、低圧での注入となるため、耐圧性はそれほど要求されず、プラスチックなど安価なものが使用できる。その場合、硬化したゲル化止水剤の除去や再使用は難しいため、注入具の基部から注入部を分離可能な構成とすることで使い捨てが容易となり、硬化したゲル化止水剤中に注入部をそのまま埋め殺しにすれば、止水性を損なう恐れもない。分離可能な構成としては、ネジによる接続が比較的簡単であるが、特に限定されず、例えば締付け金具やバネを利用したものなどでもよい。
【0022】
また、低圧での注入となるため、注入孔を注入部の長手方向に複数、間隔をおいて配置することで、ゲル化止水剤を複数の側面注入孔から注入部の周囲に注入して行くことができるとともに、ピンポイントでの弾性ゲル塊の形成が容易となる。
【0023】
注入孔の数や間隔も特には限定されないが、弾性ゲル塊を注入部の周囲に均等に形成させるためには、注入部の外周面の周方向にも複数分散配置することが望ましく、また注入孔を千鳥配置にしてもよい。
【0024】
止水液は、1液の場合も2液の場合もポリタンクなどの容器に入れておく等しておけば、低圧のポンプでチューブを介して、止水液注入具の注入部に送り出すことができる。チューブは低圧での送圧であるため、特殊なものを用いる必要はなく、例えば塩化ビニル製のチューブ等、透明で柔軟なチューブが好ましい。透明であれば止水液の流れが目視でき、また柔軟性があることで、狭い空間での取扱いが容易となる。
【0025】
請求項2は、請求項1に係る止水工法において、前記弾性ゲルを前記注入部を取り囲むように形成させることを特徴とするものである。
【0026】
上述のように、本発明は、止水を必要とする箇所に弾性ゲルをピンポイント的に形成させて止水する工法であるが、必要な箇所に塊が形成される程度の低い注入圧で注入し、止水液注入具の注入部を取り囲むようにして弾性ゲルによる塊が形成させることで、ピンポイントでの止水が容易となる。
【0027】
請求項3は、請求項1または2に係る止水工法において、前記注入部の先端には注入孔がなく閉じられていることを特徴とするものである。
【0028】
本発明は、従来のようにノズルの先端から硬化性材料を高圧噴射して広範囲に渡って硬化させるタイプではなく、弾性ゲルをノズルの注入部の周囲にのみピンポイントで形成させて止水する工法であり、ゲル化止水剤をノズルとしての注入部の側面のみから注入することで、注入方向が筒状の注入部の径方向の限られた範囲となり、弾性ゲルによる塊が注入部を取り囲むように形成させやすくなる。
【0029】
請求項4は、請求項1〜3のいずれかに係る止水工法において、前記ゲル化止水剤が、A液10〜50重量%と、B液90〜50重量%とからなる2液タイプのゲル化止水剤であり、A液が親水性ウレタンであり、B液が水である場合を限定したものである。
【0030】
2液タイプとするのは、A液とB液の割合を変えることによって、容易に弾性ゲルの形成速度や形成した弾性ゲルの物性を制御できるからである。A液として、親水性ウレタンを使用する場合、親水性ウレタンは水に溶解分散し、短時間で弾性ゲルを形成するため、注入の際にB液と混合することで、注入部の回りに弾性ゲルが形成される。
【0031】
A液としての親水性ウレタンとB液としての水の標準的な配合は、A液約20重量%に対し、B液約80重量%である。地盤条件や地下水の影響も考慮する必要があるが、一般的には、A液の量が少なすぎるとA液が分散して広がってしまい、また多すぎると反応が不均一となり、いずれの場合も所望の均一な形態の弾性塊が得られにくい。従って、請求項4は好ましい範囲としては、A液10〜50重量%、B液90〜50重量%を規定したものである。
【0032】
請求項5は、請求項1〜4のいずれかに記載の止水工法を用いた地中構造物接続部への地盤からの漏水を止水するための部分止水工法であって、止水すべき前記接続部周辺の地盤中に前記止水液注入具により前記止水液を供給し、前記注入部の周囲に前記止水液を浸透させた土砂を含む弾性塊を形成させ、前記接続部周辺に複数個形成した弾性塊の群により前記接続部の止水を行うことを特徴とするものである。
【0033】
本発明の適用対象となる地中構造物は、マンホール、ヒューム管、ボックスカルバート等の比較的小規模な構造物から、地下室、地下駐車場、地下トンネル等の大型構造物まで特に限定されない。また、地中構造物接続部とは、上記のような比較的小規模な構造物の部材どうしの接続部だけでなく、大型構造物における構成部材どうしの接続部も含まれる。
【0034】
弾性塊の大きさや物性は注入するゲル化止水剤の濃度、量、浸透力、土の種類、注入圧等によって調節される。この部分止水工法の概略は、例えば、次の通りである。
【0035】
止水液注入具による止水液の注入を、地中構造物の内側から行う場合、地中構造物の内側からドリルなどで穿孔し、その孔に止水液注入具の筒状の注入部を挿入し、チューブを接続した基部のアダプタから注入部に止水液が送り込まれ、注入部の複数の注入孔から地中構造物接続部の地盤側に注入液が注入される。
【0036】
通常の2液混合タイプでは、別々のチューブを介して送り込まれた止水液が止水液注入具内で混合され、地盤への注入後、直ちにゲル化し始めることになる。その際、地盤中の土砂も取り込んだ形で弾性塊が形成される。
【0037】
複数箇所からの注入で、このような弾性塊を連続させ、この弾性塊の群により止水を必要とする部分について局所的な止水を行うことができる。
【0038】
請求項6は、請求項5に係る地中構造物接続部の部分止水工法において、前記止水液を供給する際の注入孔位置での排出圧が、0.01〜0.2Mpaであることを特徴とするものである。
【0039】
前述のように、本発明での排出圧は、従来の止水工法におけるセメント系止水剤の注入圧に比べ小さい。本発明では広範囲の止水は必要ないので、止水を必要とする箇所の近傍の限られた範囲に注入され、弾性塊が形成される。下限は必要な大きさ、例えば直径20〜40cm程度の弾性塊が形成されるのに必要な圧力であり、上限は必要以上に弾性塊が大きくなって材料の無駄が多くなる圧力であり、目安として上記の圧力範囲となる。本発明は、このように低圧での注入で止水が可能となる点が特徴の一つである。
【0040】
請求項7、請求項5または6に係る地中構造物接続部の部分止水工法において、前記止水液注入具における注入部の少なくとも一部が前記弾性ゲル中に埋設された状態で前記弾性塊が形成される場合である。
【0041】
前述のように、本発明では低圧での注入でよいため、止水液注入具における注入部はプラスチックなど安価な材料で製造することができる反面、一体成型されていると、再使用が困難である。しかし、埋め殺しとすることで、周囲に形成された弾性塊から引く抜く必要がなく、またそのまま残しておけば弾性塊に空隙が生じさせないので、その部分からの漏水の心配もない。これは、請求項1に示すように、基部と注入部とが分離されているからである。
【0042】
請求項8は、請求項5〜7のいずれかに記載の地中構造物接続部の部分止水工法において、前記地中構造物接続部がマンホールと該マンホールに接続される管路との接続部である場合を限定したものである。
【0043】
前述したように、従来はマンホールとマンホールに接続される下水管などの管路との接続部の耐震改修などを行う場合、該接続部を取り囲む広い範囲の地盤改良を行うのが一般的であるが、本発明によればマンホールの内側から止水を必要とする限られた範囲のみの止水が可能であり、材料の無駄がなく、施工装置も非常に簡易なものとなり、経済的である。
【0044】
また、止水するための部材は、前記弾性ゲルと地盤の土砂とからなる弾性塊であり、土砂を利用できるので、このようなマンホール関係での止水には、本発明が好適となる。
【0045】
また、上記耐震改修の観点からは、止水のための弾性塊が変形追従性に優れることから、特許文献7や特許文献8などに記載される可撓性継手を設置する場合において、可撓性継手による耐震機能を十分に発揮させることができるので、この点からも、本発明のマンホール関連への適用は好ましい。
【0046】
請求項9に係る部分止水工法は、既存のマンホールと該マンホールに接続されている既存の管路との接続部の改修における部分止水工法であって、マンホール内より管路の外周部に、該外周部の地盤にかけて複数の孔を穿孔し、穿孔した各孔に、止水液が送られてくるチューブを接続するためのアダプタを備えた基部と、前記基部の前方に延び注入区間の奥行き寸法に応じた長さを有する筒状の注入部とが分離可能に接続されているとともに、前記注入部の長手方向に複数の注入孔が間隔をおいて設けられている止水液注入具の前記注入部を挿入し、該注入部の注入孔より、ゲル化止水剤を地盤中に注入することで該注入部の周囲に該ゲル化止水剤を浸透させた土砂を含む弾性ゲルの弾性塊を形成させ、該接続部において該管路外周を取り囲むように連続させて該弾性塊を複数形成させることで、地盤から該接続部への漏水を該接続部近辺に限って阻止することを特徴とするものである。
【0047】
この請求項9は、マンホールと該マンホールに接続される既存の管路との接続部を対象として請求項8に係る部分止水工法について、その施工方法および手順をより具体的に限定したものである。
【0048】
請求項10は、請求項9に係る部分止水工法において、前記注入部の少なくとも一部が前記弾性塊中に残ったまま弾性塊が形成される場合を限定したもので、限定理由は請求項7の場合と同様である。
【発明の効果】
【0049】
本発明の止水方法は、例えば、従来の無機系セメントや、水ガラス系の材料を用いた地盤改良工法のように地盤の広範囲を一気に改良して止水する方法と異なり、必要箇所のみピンポイント的に止水することができるため、硬化性材料の使用量が大幅に減少し、大掛かりな設備も要しないので経済的である。
【0050】
また、従来の無機系セメントや、水ガラス系材料を用いた止水工法では、硬化物が弾性を有さないため地震時の地中構造物等の構造物の変形に追従させることができず、変形に対し脆く、ひび割れや崩壊により止水性を失いやすいのに対し、本発明の止水方法では形成される止水部材としての弾性ゲルや弾性塊が変形追従性を有するので、止水性を損なう恐れが少ない。
【0051】
一方、耐震性を考慮して構造物の接続部に可撓継手を組込む等の設計を行った場合に、止水部材が弾性を有しない場合、その変形を拘束して十分な耐震効果が得られない恐れがあるが、本発明の止水方法ではゲル硬化物である弾性ゲルや弾性塊が弾性を有するため、構造物における耐震改修等において用いる可撓継手を有効に機能させることができる。
【0052】
本発明において、ゲル化止水剤は低圧で注入されノズルとしての注入部を取囲む形で、径が200〜400mm程度の弾性ゲルや弾性塊を形成すればよいので、注入装置も簡易なコンパクトなものが利用でき、マンホールのような狭い空間での作業も可能である。また、注入圧が小さくて済むため、作業の安全性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の最良の実施形態を、図示した図面に基づいて説明する。
【0054】
図1〜図4は本発明の止水工法を、既存のマンホールと該マンホールに接続される既存の管路との接続部における部分止水に適用した場合の部分止水工法における具体的な施工手順の一例を示したものである。
【0055】
また、 図5は本発明の止水液注入具の一実施形態を示したもので、図6は図5の止水液注入具を備えた本発明の止水液注入装置全体の構成を示したものである。
【0056】
本実施形態において、止水液注入具2は、図5(a)に示されるように、止水液が送られてくる塩化ビニル製チューブを接続するためのアダプタ4を備えた基部3と、基部3の前方に延びた筒状(この例では円筒状)の注入部5とがねじ式の接続部6で分離可能に接続されている。
【0057】
本実施形態では、ゲル化止水剤として2液タイプのゲル化止水剤を用い、親水性ウレタンを主成分とするA液と、B液としての水道水等の水を止水液注入具2の合流部分で混合し、注入部5の側面の注入孔10から注入する場合であり、親水性ウレタンが水に溶解分散し、注入後、短時間で硬化して弾力性を有する弾性ゲルが形成される。
【0058】
そのため、アダプタ4部分には、A液用チューブ接続部4aとB液用チューブ接続部4bが設けられている。また、筒状の注入部5は、外管7と内管8の2重管構造となっており、A液用チューブ接続部4aから内管8内を通過するA液が内管8の先端からさらに前方に延びる外管7内に入り、B液用チューブ接続部4bから内管8の外側を通過してきたB液と合流し、混合されるようになっている。
【0059】
この合流部分には、例えば図示するような外管7と一体成形されたスタティックミキサ9が設けられており、均一な混合を可能としている。
【0060】
注入部5は、内管8の前方に所要長さ延びている外管7の長手方向に複数の注入孔10が間隔をおいて設けられており、外管7側面の各注入孔10から2液混合されたゲル化止水剤が接続部における管路周囲の地盤等に注入されるようになっており、これら複数の注入孔10が設けられている区間の長さが1回の注入区間の幅に対応する。注入部5を貫通させる壁厚が75mm〜200mm(一般的なマンホールの場合)の場合において、注入部の寸法は、300mm〜500mm程度となる。
【0061】
長手方向での注入孔10の数や間隔、周方向での注入孔10の数は、特に限定されず、注入部全体が弾性ゲルの塊で覆われるように注入孔10が設けられていれば良い。なお、注入部先端には注入孔がなく、閉じられている。
【0062】
注入孔10の孔径は長手方向で異なり、注入における圧力損失を考慮し、注入部5の先端に近いほど孔径が大きくなっている。注入孔10の孔径は特に限定されないが、例えば注入部の外径を16.5mmとした場合において、注入孔10の孔径は3mm〜6mm程度が好ましい。
【0063】
また、注入部5の先端には注入孔がなく、閉じられている。ゲル化止水剤はノズルの側面の各注入孔10からノズルの径方向に低圧で注入され、必要に応じて注入しながら、止水液注入具2を動かすことにより、弾性ゲルによる塊が止水液注入具2の注入部5を取り囲むように形成される。
【0064】
この止水液注入具2の注入部については、プラスチックの射出成形などによって製造することができ、図5(b)、(c)は外管7を2分割した半割の成形を行い、2部材を嵌め合わせるようにして組立式とした場合を示している。前述のスタティックミキサ9は外管7の成形において凹凸形状が形成され、混合される2液が通過する際に、この凹凸形状により乱流を生じ混合されるようになっている。
【0065】
基部3についてもプラスチックの成形品を用いることができるが、止水液注入具2全体について、材質は必ずしも限定されない。
【0066】
止水液注入装置1全体の構成は、例えば図6に示すような構成とすることができる。図6の例では、A液(親水性ウレタン)を入れたタンク21aとB液(水)を入れたタンク21bが、チューブ24a,24bを介してポンプ機能を備えたコントローラ22に接続され、A液およびB液をそれぞれ計量しながら、チューブ25a,25bを介して止水液注入具2に接続されている。
【0067】
この例では、コントローラ22にチューブポンプ23a,23bが設けられており、A液およびB液を0.2MPa程度の吐出圧で止水液注入具2に送るようになっている。現場の状況などにより、さらに大きい吐出圧が必要な場合は、ロータリーポンプなどを使用することもできる。
【0068】
タンク21a,21bの容量は、特に限定されないが、止水はピンポイント的に行うため、止水液の量は少なくて良い。したがって、タンクは従来に比べ、遥かに小さくて良い。
【0069】
本発明ではこのようにポンプの吐出圧も低いため、コントローラ22全体もマンホール内に持ち運ぶことができる程度の小型のものでよく、例えば家庭用電源単相100Vを動カとする人力で移動可能な、小型・軽量のコンパクトな機器で構成することができる。
【0070】
また、主な装置は地上のマンホール31の入口付近に設置し、マンホール31の内部ではノズルとチューブのみを使用するようにしてもよく、狭いマンホール31内でも容易に安全な手持ち注入機での作業が可能である。上記のように、コントローラ22も小型のものにすれば、タンク以外の機器を搭載した手持ち注入機での作業も可能となる。
【0071】
次に、本発明の止水液注入装置1を用いて、既存のマンホールと該マンホールに接続されている既存の管路との接続部の耐震改修の際に、部分止水を行う場合の具体的な施工手順の一例を、図1〜図4に基づいて説明する。
【0072】
(1) 穿孔作業(図1参照)
マンホール31の内側から、振動ドリル33などの穿孔器具で、マンホールの側壁31aに直径10〜20mm程度の孔34を穿孔する。穿孔は一般工事に用いる電動振動ドリル程度で十分である。
【0073】
この孔34は、図1(b)に示すように、マンホールに接続されている管路32の外周に管路32の外周を取り巻くように、複数、例えば管路32の外周面から150mm程度離れた位置に、p=300mm程度の間隔で穿孔する。
【0074】
穿孔深さは注入部5を貫通させる壁厚が75mm〜200mm(一般的なマンホールの場合)の場合において、注入部の寸法は、300mm〜500mm程度となる。
【0075】
(2) 止水液注入具2のセット(図2参照)
マンホール31内に、図5、図6で説明した止水液注入装置1を設置する。なお、タンク21a、21b、コントローラ22の一部あるいは全部をマンホール31外の地上に設置してもよい。前述のように本発明における注入は低圧であるため、装置はコンパクトなものでよく、100V電源で可動なものを用いれば、設備的にも安価となる。
【0076】
穿孔した孔34に、止水液注入具2のノズル部分となる注入部5を挿入する。注入部5は基部3に対し脱着可能であり、工事に応じて異なる長さのものを使用することができる。本実施形態の場合は、注入部5の長さは、マンホールの側壁31aの厚さに注入区間の長さを加えた長さとする。
【0077】
(3) ゲル化止水剤の注入(図3参照)
コントローラ22で計量され、チューブポンプ23aの圧を受けたA液(親水性ウレタン)は(図6参照)、チューブ25aを介して止水液注入具2の内管8に送られ、内管8の先端から外管7の内部に入る。
【0078】
同様に、コントローラ22で計量され、チューブポンプ23bの圧を受けたB液(水道水など)は、チューブ25bを介して止水液注入具2の外管7に送られ、外管7内でA液と合流し、スタティックミキサ9を通過することで混合され、ゲル化止水剤として注入部5の長手方向に設けられた複数の注入孔10から地盤内に0.01〜0.2Mpa程度の低い排出圧で注入される。
【0079】
なお、A液とB液の割合は、例えば、A液約20重量%に対し、B液約80重量%であるが、施工条件や配合等に応じて調節することができる。
【0080】
注入され、地盤内に浸透したゲル化止水剤は、地盤内の土砂の間でA液とB液の反応によりゲル化膨張し、注入部5の回りに土砂を取り込んだ弾性塊35を形成する。
【0081】
各注入孔34について、同様にゲル化止水剤の注入を行うことにより、弾性塊35がマンホールの側壁31aと管路32の接続部を取囲む形で(図3(b)参照)変形追従性を有する弾性塊の止水性連続体を形成して行く。
【0082】
なお、A液とB液の注入量、濃度は、マンホール31の内面からの穿孔時に調査し、地下水の水圧・湧水の有無とその量、管路周りの水路(みずみち)の有無などにより総合的に決定する。また、本実施形態の場合、形成される弾性塊の大きさは直径d=300mm程度とする。奥行きは注入部5の長さおよび注入孔5の間隔、個数などによって、例えば100mm〜600mm程度に調整することができる。もちろん、必要に応じ、径、奥行きとも設計変更が可能である。
【0083】
このような略球状の弾性塊をマンホール31の外面と管路32の接続部に多数連続形成させ止水するとともに、マンホール31内部への涌水や周りの地盤崩壊を防止し、地震発生時に地振動変位を吸収する。
【0084】
本実施形態において、ゲル化止水剤であるウレタン、その他親水性薬品を水と化学反応の速度は、使用するゲル化止水剤や水の温度に影響を受けるため、これらの温度に応じて配合を調整する。
【0085】
(4) 注入完了(図4参照)
図4は注入が完了し、マンホールの側壁31aと管路32の接続部の周囲に弾性塊の群による変形追従性(弾性)を有する止水部材が形成された状態を示している。注入部5と基部3はネジにより分離できるように接続してあったので、注入部5を基部3から外し、そのまま弾性塊35中に埋め殺しにしてある。
【0086】
低圧で注入され、地盤内の土砂中に浸透したゲル化止水剤は、5〜10分程度で硬化し、注入部5の周囲に注入部5に接して弾性塊35を形成するので、注入部5を無理に引き抜くより、埋め殺しにする方が硬化物に力をかけなくて済むので、止水性が損なわれず、注入部5自体プラスチックなどで安価に製造でき、廃棄処分の手間も省けるなど、結果的に経済的である。
【0087】
以上で、既存のマンホール31と既存の管路32との接続部の部分止水が完了し、耐震改修のためには、例えば特許文献7,8などに記載されているような耐震改修のための可撓性継手を取り付けることができる。
【0088】
その場合、形成される止水部材が弾性を有し、可撓性継手の変位に追随させることができるため、地震時にも可撓性継手の変位が拘束されず、マンホール31の本体や、管路32との接続部の破損が効果的に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、最良の実施形態として説明した既存のマンホールとそれに接続される既存の管路との接続部の耐震改修における部分止水のほか、地下鉄工事における部分止水、各種地中構造物の接続部における部分補修、また地中に限らず、地上のトンネル工事での湧水箇所、コンクリート構造物のひび割れ部分の裏側など止水を必要とする箇所の限定された範囲に、変形追従性を有する弾性ゲルの塊を作り、簡易な装置で経済的に止水を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明を既存のマンホールと該マンホールに接続される既存の管路との接続部における部分止水に適用した場合の具体的な施工手順を示すもので、(a)はマンホールと管路との接合部の鉛直断面図、(b)は(a)と直交する方向における管路部分の鉛直断面図である。
【図2】図1の手順に続く手順におけるマンホールと管路との接合部の鉛直断面図である。
【図3】図2の手順に続く手順を示すもので、(a)はマンホールと管路との接合部の鉛直断面図、(b)は(a)と直交する方向における管路部分の鉛直断面図である。
【図4】図3の手順に続く手順におけるマンホールと管路との接合部の鉛直断面図である。
【図5】本発明で使用する止水液注入具の一実施形態を示したもので、(a)は止水液注入具全体を一部切欠き断面で示した正面図、(b)は注入部を構成する半割部分の平面図、(c)は同じく半割部分の正面図である。
【図6】本発明で使用する止水液注入装置の実施形態を示したもので、(a)は止水液注入装置全体の構成を示した正面図、(b)は止水液注入具部分の平面図、(c)はコントローラ部分の正面図(ただし、(a)とは直交する方向を基準とした正面図)、(d)は(c)に対応する平面図である。
【符号の説明】
【0091】
1…止水液注入装置、2…止水液注入具、3…基部、4…アダプタ、4a…A液用チューブ接続部、4b…B液用チューブ接続部、5…注入部、6…接続部、7…外管、8…内管、9…スタティックミキサ、10…注入孔、
21a,21b…タンク、22…コントローラ、23a,23b…チューブポンプ、24a,24b…チューブ、25a,25b…チューブ、
31…マンホール、31a…側壁、32…管路、33…振動ドリル、34…孔、35…弾性塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の止水液を特定の止水液注入具により止水性を与える箇所に供給し止水を行う止水工法であって、前記止水液は硬化して弾性ゲルを形成するゲル化止水剤であり、前記止水液注入具は止水液が送られてくるチューブを接続するためのアダプタを備えた基部と、前記基部の前方に延びた筒状の注入部とが分離可能に接続されているとともに、前記注入部の長手方向に複数の注入孔が間隔をおいて設けられているものであることを特徴とする止水工法。
【請求項2】
前記弾性ゲルを前記注入部を取り囲むように形成させることを特徴とする請求項1に記載の止水工法。
【請求項3】
前記注入部の先端には注入孔がなく閉じられていることを特徴とする請求項1または2に記載の止水工法。
【請求項4】
前記ゲル化止水剤は、A液10〜50重量%と、B液90〜50重量%とからなる2液タイプであり、A液が親水性ウレタンであり、B液が水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の止水工法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の止水工法を用いた地中構造物接続部への地盤からの漏水を止水するための部分止水工法であって、止水すべき前記接続部周辺の地盤中に前記止水液注入具により前記止水液を供給し、前記注入部の周囲に前記止水液を浸透させた土砂を含む弾性塊を形成させ、前記接続部周辺に複数個形成した弾性塊の群により前記接続部の止水を行うことを特徴とする地中構造物接続部の部分止水工法。
【請求項6】
前記止水液を前記止水液注入具に供給する際の注入孔位置での排出圧は、0.01〜0.2Mpaであることを特徴とする請求項5に記載の地中構造物接続部の部分止水工法。
【請求項7】
前記止水液注入具の注入部の少なくとも一部が前記弾性塊中に埋設された状態で前記弾性塊が形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の地中構造物接続部の部分止水工法。
【請求項8】
前記地中構造物接続部がマンホールと該マンホールに接続される管路との接続部である請求項5〜7のいずれかに記載の地中構造物接続部の部分止水工法。
【請求項9】
既存のマンホールと該マンホールに接続されている既存の管路との接続部の改修における部分止水工法であって、マンホール内より管路の外周部に、該外周部の地盤にかけて複数の孔を穿孔し、穿孔した各孔に、止水液が送られてくるチューブを接続するためのアダプタを備えた基部と、前記基部の前方に延び注入区間の奥行き寸法に応じた長さを有する筒状の注入部とが分離可能に接続されているとともに、前記注入部の長手方向に複数の注入孔が間隔をおいて設けられている止水液注入具の前記注入部を挿入し、該注入部の注入孔より、ゲル化止水剤を地盤中に注入することで該注入部の周囲に該ゲル化止水剤を浸透させた土砂を含む弾性ゲルの弾性塊を形成させ、該接続部において該管路外周を取り囲むように連続させて該弾性塊を複数形成させることで、地盤から該接続部への漏水を該接続部近辺で阻止することを特徴とする部分止水工法。
【請求項10】
前記注入部の少なくとも一部が前記弾性塊中に残ったまま弾性塊が形成されることを特徴とする請求項9に記載の部分止水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240425(P2008−240425A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84321(P2007−84321)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(507100281)帝国ヒューム管東日本株式会社 (2)
【Fターム(参考)】