説明

正孔注入層及び正孔輸送層の材料として使用可能な化合物及びこれを用いた有機発光素子

【課題】 本発明は、有機発光素子(Organic light emitting diode)や電気素子などの正孔注入層又は正孔輸送層の材料として使用可能な化合物に関する。
【解決手段】 本発明の化合物は、高分子イオン液体を用いて導電性高分子を合成し、これを有機発光素子などの正孔注入層又は正孔輸送層の材料として使用することが可能であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子は、その性能を維持する寿命が既存の材料よりもはるかに優れる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子(Organic light emitting diode)や電気素子の電極と関連して、正孔注入層(Hole injection layer)や正孔輸送層(Hole transporting layer)の材料として使用可能な化合物に関する。特に、本発明の化合物は、高分子イオン液体を用いて導電性高分子を合成して製造され、これを有機発光素子の正孔層の材料として使用することが可能であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の正孔注入層は、その性能を維持する寿命が既存の材料よりもはるかに優れる。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ用装置において、電子銃を用いた映像装置であるCRTが、液晶配向を用いた映像装置に代替された後、液晶ディスプレイ装置は多くの発展を遂げてきた。この液晶ディスプレイ装置は、外部から電圧を加えて液晶を配向させ光を通過させる技術であって、今は殆どの映像装置に用いられている。
【0003】
しかしながら、液晶配向を用いるためには、液晶が配向されるように電圧を加えて電場を形成しなければならなく、液晶の配向が瞬間的にうまく行われない場合は、残像が残ったり、或いは、映像信号が液晶を通過しなければならないので、液晶が入っているガラス板の上下に光を通過させる装置及び光を発生させる装置などの様々な機構が必要である。例えば、光を発生させる導光板、光を全面に均一に拡散させる拡散フィルム、さらに光を前方に送るプリズムフィルム、偏光フィルム、そしてさらに反対面にもこのようなフィルムがなければ映像を見ることができない。そのため、パネルの厚さを一定の厚さ以下に薄くし難く、光源から最終的に使用者が目で見るまで光の損失が非常に多いなど様々な欠点があった。
【0004】
このような欠点を克服できる映像装置が有機発光素子であり、これは別の光源が必要なく、いくつかの材料を数十ナノメートルの厚さで積層した後、ここに電圧を加えると層間で光が発生して別の光源が必要ないため、液晶配向技術を利用した映像装置に数枚の機能性フィルムを用いなくてもよいという利点がある。
【0005】
有機発光素子の層構造は図1に示す。先ず、電圧が加えられる層である透明電極層としては、インジウム元素がドープされた酸化錫(ITO)を用いる。ITO層の表面に正孔注入層を数十ナノメートル厚で形成した後、その上にN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(1-ナフチル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン(NPB)などの正孔輸送層、アルミニウムトリス(8-ヒドロキシキノリン)(Alq)などの発光層、LiFなどの電子注入層、そしてその上に電圧を加えるためのアルミニウムなどの金属電極層を形成した素子である。この装置において、透明電極層には正極性の電圧を、そして金属電極層には負極性の電圧を加えると、発光層で特定波長領域の光が発生され、この光は、透明電極層を通じて外部に出てくることになる。これにより、LCDのように別の光源が必要なく、且つこの光を伝達するための中間フィルムが必要ない。
【0006】
しかしながら、有機発光素子技術を用いた映像装置の開発に関する多くの研究及び開発が行われるにもかかわらず、まだ円滑に利用されていない理由は有機発光素子の寿命が短いためである。初期にはドイツのH. C. Starck社の導電性高分子の一種のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(以下、PEDOT:PSSとする。ドイツのH. C. Starck社製のgarde:AI4083)を正孔注入層の材料として用いてインジウム酸化錫(ITO)に薄膜を形成することにより、有機発光素子の効率が向上するという結果を報告したが、素子寿命を画期的に向上させるには無理があった。これはPEDOT:PSSを正孔注入層材料として用いる場合、この材料の酸度(acidity)が高すぎ、透明電極のインジウム酸化錫(ITO)層上に塗布されて用いられる場合に、透明電極層のインジウムを抽出することにより、時間の経過につれ有機発光素子の寿命を短縮させてしまうと知られている。
【0007】
近年、このような欠点を克服するために、低分子量材料である銅フタロシアニン(Copper phthalocyanine、CuPc)を蒸着法により正孔注入層として使用する技術が用いられている。この方法は、PEDOT:PSSのように透明電極からインジウムを抽出しないので、PEDOT:PSSより寿命が格段に長く維持される。しかし、この方法は、正孔注入層の材料を蒸着法により形成する技術であるので、サイズの小さい映像装置は構わないが、サイズの大きい大型映像装置の場合には実現が非常に難しい技術と知られている。
【0008】
したがって、インクジェットプリンティング又はスピンコーティングのように大面積ディスプレイの実現が可能な、溶液に基づいた高分子型正孔注入層又は正孔輸送層の材料であり、且つ既存のPEDOT:PSSより有機発光素子の寿命を延ばすことができる新材料の発明が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、有機発光素子の寿命を向上させることができる新しい正孔注入又は正孔輸送層用有機材料のような正孔層に関連した材料として使用が可能な新しい化合物を提供することにある。
【0010】
なお、本発明の目的は、上記化合物を用いた新しい有機発光素子を提供することにある。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない又他の課題は下記の記載から当業者が明確に理解するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明では、既存のポリスチレンスルホン酸を使用することで発生する高い酸度と水分酸性特性を防止するために、有機溶媒に分散して酸度を中性化させることができる下記一般式(1)の新しい化合物を提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、R及びRは、各々同一であっても異なっても良く、各々水素又は炭素数1〜12個の炭化水素基を示し、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含むことができる。Rは、水素又は炭素数1〜16個を含む炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ又はそれ以上を選択的に含むことができる。又、Y-は、イミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを示す。
【0015】
又、R及びRは、各々水素、ハロゲン、又は、炭素数1〜15個の炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなるか、或いはR及びRは、3〜8員の芳香族環又は脂肪族環化合物を形成するアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシであって、これらは、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなる。又、Xは、NH、NR、S、O、Se、Teから選ばれる1つである。
【0016】
上記一般式(1)の化合物は、有機発光素子などの正孔注入層や正孔輸送層の材料として使用することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により製造された化合物は、イミダゾリウム系高分子イオン液体化合物を用いることにより、有機溶媒に導電性高分子が分散し、酸度が非常に低いという利点がある。
【0018】
既存の導電性高分子は、水に分散されており、且つ酸度が非常に高いので、有機発光素子の正孔注入層として使用する場合、素子の寿命が急激に短縮される問題があった。その反面、本発明の化合物を正孔注入層として使用する場合には、有機発光素子の寿命をより一層増加させることができる。
【0019】
本発明に係る化合物を正孔層材料として使用すると、インクジェットプリンティング又はスピンコーティング法を用いて大きい面積の層を容易に形成できるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る化合物(一般式(1))の製造方法について説明する。
【0021】
先ず、導電性高分子合成用モノマー、酸化剤、そして有機溶媒に溶解されるイミダゾリウム系高分子イオン液体を混合して導電性高分子を合成する。上記の合成された導電性高分子は、水又は水系溶媒で洗浄した後乾燥して粒子状の最終導電性高分子を得るか、或いは有機溶媒で洗浄して導電性高分子が有機溶媒に分散されている形態の最終導電性高分子溶液を得ることができる。
【0022】
本発明において、イミダゾリウム系高分子イオン液体は、下記一般式(2)に示すようにイミダゾリウム基を含む有機陽イオンと有機又は無機陰イオンから構成された高分子形態の化合物である。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、R及びRは、各々同一であっても異なっても良く、各々水素又は炭素数1〜12個の炭化水素基を示し、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含むことができる。Rは、水素又は炭素数1〜16個を含む炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ又はそれ以上を選択的に含むことができる。又、Y-は、イミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを示す。
【0025】
上記イミダゾリウム系高分子イオン液体は、陽イオン及び陰イオンの組み合わせにより様々な物理的及び化学的特性を有する物質を使用することが可能であるが、望ましくは、有機溶媒に対する溶解性が高く、導電性高分子を有機溶媒に安定的に分散させることができるものを使用することが有利である。
【0026】
上記一般式(2)で表されるイミダゾリウム基を含む化合物における陽イオン成分の具体的な例としては、ポリ(1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-アリル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-(メタ)アクリロイルオキシ-3-アルキルイミダゾリウム)などがある。上記一般式(2)のYで表される陰イオンとしては、特に限定されないが、有機溶媒に対する溶解性の面でCHCOO-、CFCOO-、CHSO-、CFSO-、(CFSO)N-、(CFSO)C-、(CFCFSO)N-、CSO-、CCOO-、(CFSO)(CFCO)N-などを使用することが望ましい。
【0027】
上記イミダゾリウム系高分子イオン液体は、先に単分子型化合物を製造した後、これを通常のラジカル重合反応をさせることにより、高分子形態の化合物を作製して使用しても良く、或いは、高分子で作製された化合物を使用しても良い。
【0028】
本発明に使用できる導電性高分子合成用モノマーは、下記一般式(3)で表される。
【0029】
【化3】

【0030】
式中、R及びRは、各々水素、ハロゲン、又は、炭素数1〜15個の炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなるか、或いは、R及びRは、3〜8員の芳香族環又は脂肪族環化合物を形成するアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシであって、これらは、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなる。又、Xは、NH、NR、S、O、Se、Teから選ばれる1つである。
【0031】
上記のように、一般式(3)におけるモノマーは、ヘテロ原子を含む環型構造の共役二重結合を有する有機物であって、重合反応により生成された高分子が電気伝導性を示し、正孔注入を容易にする。
【0032】
上記イミダゾリウム系高分子イオン液体化合物を用いた導電性高分子の合成には2つの方法を用いることができる。
【0033】
第1の方法は、一般式(2)における有機溶剤性イミダゾリウム系高分子イオン液体、一般式(3)におけるモノマー、酸化剤を有機溶媒に溶解させた後重合することにより、有機溶媒に分散されている導電性高分子溶液を得ることができる。
【0034】
第2の方法は、水溶性イミダゾリウム系高分子イオン液体、一般式(3)におけるモノマー及び酸化剤を水系で混合して重合することにより、水系導電性高分子溶液を先に製造した後、ここに含まれたイミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを有機溶剤可溶性陰イオン、Y-に置換反応を誘導することから、上記導電性高分子が有機溶媒に分散されるようにすることである。
【0035】
上記のいずれの方法を用いても、適切な洗浄過程を経ると、純度が高く、有機溶媒に均一に分散されており、且つ酸度が高くない有機溶媒分散性導電性高分子溶液を得ることができる。
【0036】
導電性高分子モノマーを重合するための酸化剤は、導電性高分子の重合反応を誘導できるものであれば特に限定されず、例えば、過酸化水素(Hydrogen peroxide)、有機又は無機過酸化物、過硫酸(Persulfates)、過酸(Peracids)、ペルオキシ酸(Peroxyacides)、臭素酸(Bromates)、塩素酸(Chlorates)、過塩素酸(Perchlorates)、及び鉄(III)、クロミウム(IV)、クロミウム(VI)、マンガン(VII)、マンガン(V)、マンガン(IV)、バナジウム(V)、ルテニウム(IV)、銅(II)の有機又は無機塩などを用いることができる。
【0037】
上述の説明により合成された導電性高分子、すなわち、本発明に係る化合物は、溶媒に分散されて有機発光素子の正孔注入層や正孔輸送層の材料として使用することが可能である。
【0038】
上記導電性高分子を正孔注入層又は正孔輸送層の材料として使用すると有機発光素子の寿命を延ばすことができる。本発明の導電性高分子は、下記の有機溶媒に望ましく分散して使用が可能である。代表的な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ブチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコールエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン溶媒、N-メチル-2-ピロリジノン、2-ピロリジノン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド溶媒、ジエチルスルホン、テトラメチレンスルホンなどのスルホン溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル溶媒、アルキルアミン、環状アミン、芳香族アミンなどのアミン溶媒、メチルブチレート、エチルブチレート、プロピルプロピオネートなどのエステル溶媒、エチルアセテート、ブチルアセテートなどのカルボン酸エステル溶媒、ベンゼン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、クロロホルム、テトラクロロエチレン、カーボンテトラクロライド、ジクロロメタン、ジクロロエタンのようなハロゲン化された炭化水素溶媒、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどの有機溶媒のうち1つ、若しくはそれ以上が混合された混合溶媒を用いることができる。
【0039】
この中でも、特に、N-メチル-2-ピロリジノン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネートのような非プロトン性極性溶媒(Polar aprotic solvents)が望ましく用いられる。
【0040】
以下、図1を参考して、本発明の化合物は、有機溶媒に分散可能な導電性高分子であり、該化合物で正孔注入層を形成した有機発光素子について説明する。図1における有機発光素子は、本発明の化合物で正孔注入層を形成した例であり、本発明の化合物で正孔注入層を形成して様々な構造の有機発光素子を作製することができることは勿論である。図1に係る本発明の有機発光素子1は、正極として透明電極のITOフィルム16の表面に本発明の上記化合物(一般式(1))のPEDOTを一定の厚さで形成して正孔注入層15を作製し、上記正孔注入層15の上に正孔輸送層14を形成し、さらにその上に発光層13及び電子注入層12を形成した後、最終的に負極電極11を形成して作られる。
【0041】
以下、本発明に係る有機溶媒に分散されている導電性高分子を用いて有機発光素子を作製する方法をより具体的に説明する。
【0042】
先ず、透明電極のITOフィルムの表面に有機溶媒に分散されている導電性高分子溶液をスピンコーティング法により厚さ5〜100ナノメートルで正孔注入層を形成する。
【0043】
その上に、図1に示すように順次必要な層を形成して有機発光素子を製造すれば良い。
【0044】
本発明に係る有機発光素子の一例として、有機薄膜層の材料としては正孔輸送層はN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(1-ナフチル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン(NPB)、発光層の材料はアルミニウムトリス(8-ヒドロキシキノリン)(Alq)、電子注入層はLiQ、負極材料はAlを使用して、それぞれの層を真空蒸着又はスパッタリング法を用いて有機発光素子を製造する。
【0045】
上記のような有機発光素子の発光効率と寿命を測定して本発明の正孔注入層材料が有機発光素子の寿命を延ばすのに効果的であるということを下記の実施例により確認した。
【0046】
本発明に係る有機溶媒分散性導電性高分子を正孔注入層として用いて有機発光素子を製造する方法を実施例及び比較例により具体的に説明する。しかしながら、実施例は本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0047】
なお、本発明の実施例と比較例は、主に、3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマーで作った正孔注入層材料を用いた。ところが、本発明の技術は、このような単量体に限定される技術ではなく、一般式(3)に示された単量体、例えば、ピロール、チオフェン、又は、その他導電性高分子単量体に全て適用することが可能である。
【0048】
<比較例>
比較例1は、既存の正孔注入層の材料として市販されているPEDOT:PSS(グレード名:Clevios P AI4083、ドイツのH. C. Starck社製)を使用して有機発光素子を作製した。この時、有機発光素子は、ITO(150nm)//AI4083(50nm)//NPB(60nm)//Alq(50nm)//LiQ(1nm)//Al(100nm)となるようにした。
【0049】
比較例1の有機発光素子の特性を表1に示す。
【実施例1】
【0050】
実施例1は、正孔注入層の材料として本発明のイミダゾリウム系高分子イオン液体化合物を使用して有機溶媒のプロピレンカーボネートに3重量%(wt%)の含有量で分散されている導電性高分子溶液を使用したことを除いては比較例と同一である。
【0051】
実施例1に使用された有機溶媒分散性導電性高分子は、次の方法により製造された。重量平均分子量が170,000g/モルであるポリ(1-ビニル-3-エチルイミダゾリイムブロマイド)1.5g、導電性高分子合成用モノマーである3,4-エチレンジオキシチオフェン1gを水150mlに入れて重合開始剤である過硫酸アンモニウムをモノマーに対して1.2モル比で一滴ずつ添加しながら常温で重合反応を経て水系導電性高分子を製造した。ここにアルカリ金属塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)をポリ(1-ビニル-2,3-エチルイミダゾリウム)ブロマイドに対して1.2モル比で投入してブロマイドとビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)間に陰イオン交換反応を誘導する。この反応により析出された物質を洗浄した後乾燥して収得し、これを再度有機溶媒であるプロピレンカーボネートに固形分の含有量が3%となるようにさらに分散させ、有機溶媒に分散されている導電性高分子溶液を製造した。
【0052】
実施例1の方法で製造された有機発光素子の特性が表1に比較されている。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように発光効率及び寿命試験の結果から、本発明の正孔注入層材料の場合、従来の材料に比べて、5V電圧を印加した時に発光効率は同等であるが、寿命が10倍以上に格段に長くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の化合物は、有機発光素子及び液晶ディスプレイ装置分野など様々な分野において使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の化合物を用いた有機発光素子の構造を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化学構造を有する化合物。
【化1】

式中、R及びRは、各々同一であっても異なっても良く、各々水素又は炭素数1〜12個の炭化水素基を示し、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含むことができ、Rは、水素又は炭素数1〜16個を含む炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ又はそれ以上を選択的に含むことができ、Y-は、イミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを示し、又、R及びRは、各々水素、ハロゲン、又は、炭素数1〜15個の炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなるか、或いは、R及びRは、3〜8員の芳香族環又は脂肪族環化合物を形成するアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシであって、これらは、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなり、そして、Xは、NH、NR、S、O、Se、Teから選ばれる1つを示す。
【請求項2】
上記化合物が下記一般式(2)におけるイミダゾリウム系高分子イオン性液体及び下記一般式(3)における単量体を混合して重合反応させることにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

式中、R及びRは、各々同一であっても異なっても良く、各々水素又は炭素数1〜12個の炭化水素基を示し、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含むことができる。Rは、水素又は炭素数1〜16個を含む炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ又はそれ以上を選択的に含むことができる。又、Y-は、イミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを示す。
【化3】

式中、R及びRは、各々水素、ハロゲン、又は、炭素数1〜15個の炭化水素基であって、この炭化水素基は、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなるか、或いは、R及びRは、3〜8員の芳香族環又は脂肪族環化合物を形成するアルキレン、アルケニレン、アルケニルオキシ、アルケニルジオキシ、アルキニルオキシ、アルキニルジオキシであって、これらは、ヘテロ原子を1つ以上選択的に含んでなる。又、Xは、NH、NR、S、O、Se、Teから選ばれる1つである。
【請求項3】
上記イミダゾリウム系高分子イオン性液体は、イミダゾリウム基を含む有機陽イオン及び有機又は無機陰イオンから構成された高分子形態のイオン性化合物であることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
上記単量体は、ヘテロ原子を含み、環型の共役二重結合構造を有する有機物であって、重合反応により生成された高分子が電気伝導性を示し、正孔注入を容易にすることを特徴とする請求項2又は3に記載の化合物。
【請求項5】
上記単量体は、3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマー、ピロール、チオフェンのうちいずれか1つであることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
上記イミダゾリウム系高分子イオン性液体の陽イオンとしては、ポリ(1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-アリル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-(メタ)アクリロイルオキシ-3-アルキルイミダゾリウム)を含むか、或いは、
陰イオンとしては、CHCOO-、CFCOO-、CHSO-、CFSO-、(CFSO)N-、(CFSO)C-、(CFCFSO)N-、CSO-、CCOO-、(CFSO)(CFCO)N-を含むことを特徴とする請求項2〜5のうちいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
上記イミダゾリウム系高分子イオン性液体の陽イオンとしては、ポリ(1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-アリル-3-アルキルイミダゾリウム)、ポリ(1-(メタ)アクリロイルオキシ-3-アルキルイミダゾリウム)を含むか、或いは、
陰イオンとしては、CHCOO-、CFCOO-、CHSO-、CFSO-、(CFSO)N-、(CFSO)C-、(CFCFSO)N-、CSO-、CCOO-、(CFSO)(CFCO)N-を含むことを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の化合物が有機溶媒に分散することを特徴とする化合物。
【請求項9】
上記有機溶媒が非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
請求項8に記載の化合物を用いて製造された有機発光素子用正孔注入層材料。
【請求項11】
請求項10に記載の正孔注入層材料として形成された正孔注入層を含んだ有機発光素子。
【請求項12】
上記有機発光素子が、
正極と、
上記正極の上に上記正孔注入層材料として形成された上記正孔注入層と、
上記正孔注入層の上に形成された正孔輸送層と、
上記正孔輸送層の上に形成された発光層と、
上記発光層の上に形成された電子注入層と、
上記正孔注入層の上に形成された負極層と、
を含むことを特徴とする請求項11に記載の有機発光素子。
【請求項13】
請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の化合物を製造するための方法において、上記製造方法は、
一般式(2)における有機溶剤性イミダゾリウム系高分子イオン液体、一般式(3)におけるモノマー、及び酸化剤を有機溶媒に溶解させた後重合することにより、有機溶媒に分散されている導電性高分子溶液を得るか、或いは水溶性イミダゾリウム系高分子イオン液体、一般式(3)におけるモノマー、及び酸化剤を水系で混合して重合することにより、水系導電性高分子溶液を先に製造した後、ここに含まれたイミダゾリウム系高分子イオン液体の陰イオンを有機溶剤可溶性陰イオン、Y-に置換反応を誘導することから、上記化合物が有機溶媒に分散されるようにすることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−520373(P2012−520373A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553958(P2011−553958)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/KR2010/001538
【国際公開番号】WO2010/104349
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(508137992)
【Fターム(参考)】