説明

正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム及び余寿命診断に用いるコンピュータプログラム

【課題】正常時の軸受振動データとして機器種類、機器出力等に応じた類似機器の振動データベースを別途作成することで、正常時の軸受振動データを取得していない場合であっても、類似機器のデータを用いることにより、余寿命診断の連用範囲を広げる。
【解決手段】転がり軸受3について加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取する基礎データ採取段階と、診断対象となる転がり軸受3について最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、測定段階により求めた測定値と、基礎データ採取段階で求めたデータおよび回転機器1、2と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、転がり軸受3のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、転がり軸受3の余寿命を算出する判定段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、製鉄所ならびに発電所などで使用されている補機であるポンプ、ファンの転がり軸受やそれら機器を駆動するモータに使用されている転がり軸受の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断方法に係り、特にその転がり軸受の正常時のデータがないときでも余寿命を診断することができる正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム及び余寿命診断に用いるコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学プラント、製鉄所ならびに発電所などで使用されている補機であるポンプ、ファンの転がり軸受やそれら機器を駆動するモータで使用されている転がり軸受では、負荷荷重が定格荷重の5%以下と非常に小さく、通常の使用状態では金属疲労は発生しない。従って、これら転がり軸受の寿命は、ごみの混入により発生する圧痕の盛上り部における「応力集中によるはく離」あるいは、水の混入によりグリースの油膜切れが発生し、転がり軸受の軌道面の表面粗さが増大することによる「振動の増加」の2種類がある。
【0003】
その転がり軸受の余寿命診断方法としては、種々の方法が提案されている。本発明の発明者も余寿命診断方法を創案している。例えば、特許文献1の特開2004−3891公報「転がり軸受の余寿命診断方法及びこの余寿命診断装置」に示すように、転がり軸受におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑剤の劣化と振動・軸受寿命との関係を実験装置により採取する基礎データ採取手段と、ポンプ、ファン等の回転機器に備えられた被診断転がり軸受について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を測定する測定手段と、前記測定手段により求めた測定値と、前記基礎データ採取手段で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受のゴミ混入状態と潤滑剤の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受の余寿命を算出する判定手段と、から成る、ことを特徴とする転がり軸受の余寿命診断方法がある。
【特許文献1】特開2004−3891公報
【0004】
また、特許文献2の特開2005−291738公報「転がり軸受の余寿命診断方法及びこの余寿命診断装置」に示すように、転がり軸受におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受の型番、メーカー名等の軸受諸元毎について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を実験装置により採取する基礎データ採取手段と、ポンプ、ファン等の回転機器に備えられた、余寿命を診断する転がり軸受について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定手段と、前記測定手段により求めた測定値と、前記軸受諸元判定手段の判定結果と、前記基礎データ採取手段で求めたデータとを用いて、前記被診断転がり軸受のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該被診断転がり軸受の余寿命を算出する判定手段と、から成る転がり軸受の余寿命診断方法がある。
【0005】
特許文献1と特許文献2の「転がり軸受の余寿命診断方法」は、共に転がり軸受の寿命に多大に影響する、潤滑油へのゴミの混入や水の混入による潤滑油の劣化状態を、加速度センサの共振周波数帯信号や高周波信号を検出し、その測定値と、予め基礎データとして求めたデータ、予め測定した被診断転がり軸受の正常時の軸受荷重、回転速度、運転時間及び転がり軸受呼び番号に関する振動データとを用いて、被診断転がり軸受のゴミ混入状態、潤滑油の劣化状態を推定し、被診断転がり軸受の余寿命を算出する方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1と特許文献2の「転がり軸受の余寿命診断方法」では、軸受が正常時の振動データを測定する必要があった。一般には、軸受を新品に交換した際に、それを正常時の振動データとして測定していた。しかし、被診断軸受を最初に余寿命診断するときには、軸受がすでに劣化しており正常時の振動データがなく、余寿命診断が行えないという問題があった。
【0007】
特許文献1と特許文献2の「転がり軸受の余寿命診断方法」を用いて、最初に診断するときは正常データがないことがほとんどであった。そこで、本発明の発明者は、比較的新しい転がり軸受についても類似機器のデータを用いれば初期的に余寿命診断を算出できることに着目した。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、正常時の軸受振動データとして機器種類、機器出力等に応じた類似機器の振動データベースを別途作成することで、正常時の軸受振動データを取得していない場合であっても、類似機器のデータを用いることにより余寿命診断が可能となり、余寿命診断の連用範囲を広げることができる正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム及び余寿命診断に用いるコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の余寿命診断方法によれば、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断方法であって、転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取する基礎データ採取段階と、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、前記測定段階により求めた測定値と、前記基礎データ採取段階で求めたデータおよび前記回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、を含む、ことを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法が提供される。
【0010】
前記判定段階では、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法に関する特徴量についてデータを構築することができる。
前記判定段階は、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法ごとに区分分けしてデータを構築することが好ましい。
前記判定段階は、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器に備えられた転がり軸受の振動から故障の特徴量を取り出し、この特徴量をデータベースとして構築することができる。
【0011】
本発明の余寿命診断システムによれば、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断システムであって、転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取する基礎データ採取手段と、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命の診断対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定手段と、前記測定手段により求めた測定値と、前記基礎データ採取手段で求めたデータおよび前記回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定手段と、を備えた、ことを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断システムが提供される。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムによれば、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断するコンピュータプログラムであって、コンピュータを用いて、ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命の診断対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する機能と、予め実施した転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取したデータデータベースにアクセスし、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)について求めた測定値と、基礎データおよび回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する機能と、診断対象となる転がり軸受(3)の余寿命診断結果を出力する機能と、を実現することを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断に用いるコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の余寿命診断方法及び余寿命診断システムでは、判定段階(判定手段)において、回転機器(1,2)と類似する機能を有する類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時のデータを採取し、このデータを用いることで、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)の正常時のデータがない状態でも余寿命診断を実施することができる。転がり軸受(3)についてはじめて余寿命診断を行うときは、正常時の軸受振動データがないことが殆どであり、このような場合にも初期的に余寿命診断を行うことができるので余寿命診断の連用範囲を広げることができる。
【0014】
本発明の余寿命診断に用いるコンピュータプログラムでは、コンピュータを用いた演算処理により本発明の余寿命診断方法及び余寿命診断システムを実現し、診断対象となる転がり軸受(3)の余寿命診断に対応して適切な管理を迅速かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム及び余寿命診断に用いるコンピュータプログラムは、判定段階(判定手段)の際に回転機器と類似する機能を有する類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取することにより、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)の正常時の軸受振動データがない状態でも余寿命診断を実施することができる。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムと機器ごとの正常データがあるときの余寿命診断方法の概略を示す説明図である。図2は本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法及び余寿命診断システムを示すブロック図である。図3は正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断システムの概略構成を示すブロック図である。
実施例1の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断システムは、図3に示すように、入力手段11、基礎データ採取手段12、測定手段13、判定手段14、正常状態の振動データのデータベース15と類似機器の正常状態の振動データのデータベース16からなるデータベース17、及び出力手段18を備えている。各手段は、例えばコンピュータ及びその周辺機器により構成される。
【0017】
図4は転がり軸受の余寿命診断方法の余寿命診断準備段階を示すフロー図である。図5は転がり軸受の余寿命診断方法の判定段階を示すフロー図である。
以下、各手段(段階)を具体的に説明する。
本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムは、ポンプ、ファン等の回転機器1,2におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命の関係を実験装置により採取する基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)と、余寿命を診断する転がり軸受3について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定手段(測定段階)と、回転機器1,2と類似する機能を有する類似機器に備えられた転がり軸受を用いて採取された正常データベースを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受3の余寿命を算出する判定手段(判定段階)とから成る。これらの余寿命診断準備段階で求めたデータを用いて、被診断転がり軸受3の余寿命を図4と図5に示すようなフローに基づいて推定する。
【0018】
基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)では、ゴミ混入を模擬するために、分解した軸受の転動面に直接きずをつけて、軸受に圧痕を生成させ、また潤滑剤の劣化状態を模擬するために潤滑剤を少なくした軸受を用いて軸受荷重試験機にて試験を行い、基礎データを採取する。また、この他にゴミ混入を模擬する方法として、潤滑剤にゴミの代わりとなる異物を混入させ、混入する異物の量や大きさを変える、混入する異物の硬さを変えるなどがある。同様に、潤滑剤の劣化を模擬する方法として、酸化劣化させた潤滑剤を使用する、水を混入させるなどがある。
【0019】
この基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)において、予めゴミの混入又は潤滑剤の劣化による潤滑が劣化したときの転がり軸受3に圧痕の形成状態について、その加速度と圧痕の大きさとの関係についてのデータを取得する。転がり軸受3の主な劣化形態は、内部起点型はく離と表面起点型はく離の2つの劣化モードがある。この内部起点型はく離は、転がり要素転動面の受ける繰り返し応力が転動面表層下に集中し、転動面内部からはく離が発生するものである。表面起点型はく離は、潤滑剤中へのゴミ等の異物の混入により転動面表面に傷がつき、転動面表面からはく離が発生するものである。軸受本来の寿命とは、内部起点型はく離モードにおける寿命であり、この寿命は近年の材料技術の進歩により、軸受の定格寿命の数倍〜数十倍に伸延された。一方、潤滑剤中への異物混入等による表面起点型はく離モードの寿命は、内部起点型はく離の寿命の数分の一から数十分の一と著しく短くなる。
【0020】
このように転がり軸受3は多様な劣化モードを持ち、これらの劣化モード・破壊メカニズムを考慮することは軸受の余寿命診断において非常に重要である。そこで、本発明ではこのような転がり軸受3の劣化モードを考慮し、従来よりも早期に診断可能な、かつ高精度な余寿命を診断するために、その前提として基礎データ採取手段を用いた。
【0021】
余寿命を被診断しようとする回転機器1,2に備えられた、余寿命診断の対象となる診断転がり軸受3については、判定手段(判定段階)のうち余寿命診断準備段階と測定手段(測定段階)とを講ずる。余寿命診断準備段階では、余寿命診断の対象となる診断転がり軸受3について、軸受荷重、回転速度、運転時間及び転がり軸受呼び番号に関するデータ、及び加速度センサを用いて正常時の振動データを収集する。
【0022】
特に、本発明では正常時の軸受振動データがないことに鑑み、この余寿命診断準備段階において、回転機器1,2と類似する機能を有する類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取する。
【0023】
例えば、余寿命を診断する転がり軸受3とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取する際に、この類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法に関する特徴量についてデータを構築する。
「機器タイプ」としては、後述する図6の評価結果の表に記載されているように、片持ちファン駆動用電動機、遠心ポンプ、遠心ポンプ駆動用電動機、片持ちファン(支持軸受けあり)駆動用電動機等がある。「回転数」としては、1800rpm、3600rpm等がある。「機器出力」は、7.5kW、15kW、30kW等と様々である。「機器設置方法」には横型又は縦型がある。
【0024】
この基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)は、余寿命を診断する転がり軸受3とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、採取した振動データから特徴量を取り出し、この特徴量をデータベースとして構築することができる。
【0025】
または、余寿命を診断する転がり軸受3とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを、類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法ごとに区分分けしてデータを構築する。
【0026】
更に、余寿命を診断する転がり軸受3とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データから故障の特徴量を取り出し、この特徴量をデータベースとして構築する。
【0027】
余寿命診断準備段階では、余寿命診断を行うために、圧痕や潤滑油切れの程度を、
被診断軸受の運転時の振動値/被診断軸受の正常時の振動値
という、運転時(余寿命診断したい時)と正常時の振動の大きさの比(特徴量の比)で評価する。そこで、本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断では、正常データが採取できない場合に、類似機器のデータ(特徴量)を使って余寿命診断を行う。
【0028】
これらの余寿命診断準備段階で求めたデータを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受3が劣化初期であるのか末期状態であるのかを推定する。この余寿命診断段階では、振動の増加傾向を算出することにより、この余寿命診断の対象となる転がり軸受3が劣化初期であるのか末期状態であるのかを判定する。
【0029】
この余寿命診断段階の結果について、余寿命診断の対象となる転がり軸受3が劣化初期であると推定したときには、次のような判定を行う。
先ず、測定手段(測定段階)で求めた余寿命診断の対象となる転がり軸受け3の加速度センサの共振周波数帯信号、または高周波帯信号、及び余寿命診断準備段階で測定した被診断転がり余寿命診断の対象となる転がり軸受け3の正常時の振動データを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受3が正常な劣化過程であるか、ゴミ混入過程であるか、潤滑油劣化過程であるかを判定する。
余寿命診断の対象となる転がり軸受3にゴミ混入もなく、潤滑剤も劣化状態にない軸受状態が正常な劣化過程であると判定し、その余寿命として定格寿命を算出する。
【0030】
次に、余寿命診断の対象となる転がり軸受3にゴミが混入し、軸受状態が劣化初期であると判定した場合は、基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)における振動データにより、混入したゴミのサイズを推定し、その余寿命を算出する。
【0031】
更に、余寿命診断の対象となる転がり軸受3の潤滑剤が劣化して軸受状態が劣化初期であると判定した場合は、基礎データ採取手段(基礎データ採取段階)における振動データより、潤滑剤の劣化を推定し、その余寿命を算出する。
【0032】
最後に、劣化末期と判定したときに、加速度の低周波帯振動の増加傾向及びゴミ混入又は潤滑剤の劣化から劣化末期までの時間に基づいて余寿命を算出する。このように、本発明の診断方法では、ゴミの混入から加速度の急増までの経過時間観測等により、より精度の高い余寿命を算出することができる。
【0033】
更に、コンピュータに接続したプリンタを出力手段18の構成要素として、転がり軸受3の余寿命診断の評価結果を印刷するように構成してもよい。このように印刷手段を用いて本発明の正常データベースを用いた転がり軸受3の余寿命診断の評価結果及び転がり軸受3の交換時期を印刷することにより、転がり軸受3の交換時期の確認が容易となり、さらに適切かつ確実な管理を行うことができる。
【0034】
図6は余寿命診断の評価結果に関する表であり、(a)は本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果、(b)は機器ごとの正常データがあるときの余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果、(c)は回転機器の軸受番号を示す説明図である。
本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果について説明する。図6(a)は、正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果に関する表であり、表の左側から機器名、軸受番号、機器タイプ、機器設置方法、電動機出力(kW)、回転数を示す。表の右側は、正常DBの振動値を用いたときの評価結果を表している。この右側の表には、左から故障モード、余寿命に関する評価結果を表している。「故障モード」としては、圧痕発生、潤滑油劣化発生、要注意、正常等のモードがある。余寿命の単位は時間(hr)である。これらの数字の前に三角のマークを付したものは、余寿命が2年(16000時間)以下を示し、交換する必要がある転がり軸受を意味する。
【0035】
図6(b)は機器ごとの正常データがあるときの余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果であり、この表の余寿命について、数字の前に三角のマークを付したものと、上述した図6(a)の表における三角のマークを付した余寿命が2年の軸受の診断結果とは略一致していることが読み取れる。従って、本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムは正確な診断が可能であることを裏付けている。
【0036】
上述した余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果と本来の余寿命との相関関係についてグラフに示すと、2年間の余寿命を分岐として、正常な診断領域と誤診断となる領域とに分けることができる。従って、本発明の診断方法、余寿命診断システムは余寿命が2年以下か2年以上かという大まかな診断をする場合においては精度の高い余寿命診断が可能であることがわかった。
【0037】
本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断に用いるコンピュータプログラムは、コンピュータを用いた演算処理により上述した実施例1の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法及び余寿命診断システムを実現するものであり、CD−ROM、DVD等の記憶媒体に記憶して配布したり、インターネット等の電気通信回線を介して配布することができる。
【0038】
上述した例では、汽力発電所やガスタービン発電所等で用いる転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム、及び余寿命診断に用いるコンピュータプログラムについて詳述したが、気力発電所等に設置された設備を総合的に管理するコンピュータを用いたり、あるいは専用のパーソナルコンピュータを用いたりといった種々の形態にすることができる。
【0039】
なお、本発明は、正常時の軸受振動データとして機器種類/機器出力に応じた類似機器の振動データベースを別途作成することで、正常時の軸受振動データを取得していない場合であっても、類似機器のデータを用いることにより余寿命診断が可能となり、余寿命診断の連用範囲が広げることができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システム及び余寿命診断タに用いるコンピュータプログラムは、発電所の機器に備えられる転がり軸受以外に、一般的な工場内やプラント設備などおける機器に備えられる転がり軸受の診断にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法と機器ごとの正常データがあるときの余寿命診断方法の概略を示す説明図である。
【図2】本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムを示すブロック図である。
【図3】正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の転がり軸受の余寿命診断方法の余寿命診断準備段階を示すフロー図である。
【図5】本発明の転がり軸受の余寿命診断方法の判定段階を示すフロー図である。
【図6】余寿命診断の評価結果に関する表であり、(a)は本発明の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法、余寿命診断システムによる評価結果、(b)は機器ごとの正常データがあるときの余寿命診断方法による評価結果、(c)は回転機器の軸受番号を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 回転機器(ポンプ、ファン)
2 回転機器(電動機)
3 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断方法であって、
転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取する基礎データ採取段階と、
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定段階と、
前記測定段階により求めた測定値と、前記基礎データ採取段階で求めたデータおよび前記回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定段階と、を含む、ことを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記判定段階は、
余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法に関する特徴量についてデータを構築する、ことを特徴とする請求項1の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記判定段階は、
余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器の機器タイプ、回転数、機器出力、軸受が備えられた機器設置方法ごとに区分分けしてデータを構築する、ことを特徴とする請求項2の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記判定段階は、
余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)とは異なる類似機器に備えられた転がり軸受を用いてその正常時の振動データを採取し、該類似機器に備えられた転がり軸受の振動から故障の特徴量を取り出し、この特徴量をデータベースとして構築する、ことを特徴とする請求項2又は3の正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断方法。
【請求項5】
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断システムであって、
転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取する基礎データ採取手段と、
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命の診断対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する測定手段と、
前記測定手段により求めた測定値と、前記基礎データ採取手段で求めたデータおよび前記回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する判定手段と、を備えた、ことを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断システム。
【請求項6】
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、転がり軸受(3)の残りの寿命を推定する転がり軸受の余寿命診断するコンピュータプログラムであって、
コンピュータを用いて、
ポンプ、ファン等の回転機器(1,2)に備えられた、余寿命の診断対象となる転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を測定する機能と、
予め実施した転がり軸受(3)におけるゴミ混入状態と振動・軸受寿命との関係、及び潤滑油の劣化と振動・軸受寿命とに関し、各転がり軸受(3)について、加速度センサを用いて振動信号を求め、最も高感度検出が可能な共振周波数帯信号を含む周波数帯域信号を、実験装置により採取したデータデータベースにアクセスし、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)について求めた測定値と、基礎データおよび回転機器(1、2)と類似する機器に備えられた転がり軸受を用いて採取した正常状態の振動データとを用いて、余寿命診断の対象となる転がり軸受(3)のゴミ混入状態と潤滑油の劣化状態を推定し、該転がり軸受(3)の余寿命を算出する機能と、
診断対象となる転がり軸受(3)の余寿命診断結果を出力する機能と、
を実現することを特徴とする正常データベースを用いた転がり軸受の余寿命診断に用いるコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−102107(P2008−102107A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287072(P2006−287072)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】