説明

正極活物質及びその製造方法、並びに、それを用いた非水電解質電池

【課題】高温環境下での電池性能に優れた非水電解質電池を提供する。
【解決手段】α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料に対してフッ化処理を施すことにより、正極活物質の表面にフッ化物が付与され、高温環境下での電池性能が向上する。また、このフッ化物は正極活物質粒子の表面にのみ付与され、正極活物質粒子の内部には付与されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質及びその製造方法に関する。また、それを用いた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高性能化、小型化が進む電子機器用電源、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源として、高エネルギー密度が得られる非水電解質電池が注目されている。
【0003】
現在市販されている非水電解質電池は、正極にLiCoO2が、負極にリチウムイオンを吸蔵放出する炭素質材料が、電解質に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質がエチレンカーボネートを主構成成分とする非水溶媒に溶解されたものが用いられている。
【0004】
正極活物質としては、LiCoO2の他、LiNiO2、LiMn24等が研究されている。近年、α−NaFeO2型層状構造を有し、LiNiaMnbCoc2(a+b+c=1)で表される組成の材料についても研究されている。
【0005】
このような非水電解質電池に求められる性能の一つに高温環境下での充放電サイクル性能がある。即ち、携帯用機器は高温環境下で使用されることが少なくない。また、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源等においては特に、使用環境温度の問題のみならず、電池が大型化することによる蓄熱の問題が大きく、このため、高温環境下で保存しても自己放電率が小さく、また、高温環境下で繰り返し充放電を行っても放電容量の低下が小さい非水電解質電池が強く求められていた。高温環境下で自己放電が生じるメカニズムや、高温環境下で繰り返し充放電を行った場合に放電容量が低下するメカニズムのひとつとしては、高温環境下で電極活物質表面に形成される表面皮膜が、常温環境下で形成される表面皮膜よりも高抵抗であるためと推測される。しかし、表面皮膜形成の抑制だけでは、高温環境下での充放電サイクル性能や高温環境下での自己放電性能を改善することは困難であった。
【0006】
一方、正極活物質にフッ素を含有させることにより、各種電池特性を向上させる技術が検討されている。例えば、特許文献1には、NF3ガスを用いてLiCoO2をフッ素化処理し、高電圧、高エネルギー密度化する技術が開示されているが、本発明者らの検討によれば、LiCoO2にフッ素化処理を行うと、容量の低下が大きく、高温環境下での電池性能については悪化するといった問題点があった。
【0007】
特許文献2には、LiCoO2、LiNiO2あるいはLiMn24と炭酸リチウムとを混合し、20〜200ppmのフッ化水素を含有する電解液を用いて電池を組み立て、電池内で炭酸リチウムと電解液中のフッ化水素を反応させる工程を含むリチウム二次電池の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法では高温環境下での充放電サイクル性能や高温環境下での自己放電性能を十分に向上させることができなかった。
【0008】
特許文献3には、正極活物質を合成する際にLiFを原料に混合させて焼成することでフッ素を420ppm又は1200ppm含有する正極活物質を得る技術が開示されている。そして、200〜300℃における電解液と正極活物質の化学的な反応性が抑制される効果が示されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、種々の元素組成の正極材料に対してこの方法を適用しても、高温環境下での充放電サイクル性能や高温環境下での自己放電性能については向上することがなく、逆に低下してしまう傾向があった。また、活物質自体の放電容量も低下する傾向があった。この原因については必ずしも明らかではないが、フッ素の含有量が過度となってしまうこと、活物質の内部にまでフッ素が存在してしまうこと、LiFが残存する場合があること等が原因と推察された。
【特許文献1】特許第3340515号
【特許文献2】特開2004−95188号公報
【特許文献3】特開2004−296098号公報
【特許文献4】国際公開第02/086993号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温下でのサイクル性能や高温保存性能に優れた非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討の結果、α−NaFeO2型層状構造を有し、特定の元素組成範囲のリチウム遷移金属化合物を選択してフッ化処理を行うことにより、実に驚くべきことに、従来の技術では悪化する傾向のあった高温環境下での電池性能が、逆に向上することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の技術的構成及びその作用効果は以下の通りである。ただし、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。
【0011】
本発明の一は、α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料にフッ化処理を施す正極活物質の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、正極活物質の粒子表面にフッ素化合物が存在するようにフッ化処理を施すことを特徴とする前記正極活物質の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、正極活物質粒子の中心部にフッ素化合物が存在しないようにフッ化処理を施すことを特徴とする前記正極活物質の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、前記正極活物質の製造方法によって製造された正極活物質である。
【0015】
また、本発明は、前記正極活物質を用いた非水電解質電池である。
【0016】
このような構成によれば、高温環境下での電池性能に優れた非水電解質電池とすることのできる正極活物質及びその製造方法、並びに高温環境下での電池性能に優れた非水電解質電池を提供できる。
本発明の構成により、高温環境下での電池性能、具体的には、高温環境下での充放電サイクル性能及び高温環境下での自己放電性能が向上できる。その作用機構については必ずしも十分に解析ができているとはいえないものの、特定元素組成を有するリチウム遷移金属化合物に対してフッ化処理を行うことで、活物質粒子の表面にのみ適度な程度のフッ素化を施すことができ、その程度は電解液にHFを含有させておく方法に比べて十分なものとなり、正極活物質の合成前の原料にLiFを含有させておく方法に比べてフッ素含有量が過度となることがなく、またフッ素の含有が活物質粒子内部にまで至ることを避けることができたことによるものと推察される。また、この作用の程度は、リチウム遷移金属化合物の元素組成、特に、Mnの含有量と深く関連しているものと推察している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温環境下での電池性能に優れた非水電解質電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの記述により限定されるものではない。
【0019】
α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料は、例えば特許文献4に詳述された方法により合成することができ、原料に用いる金属酸化物の比率を調整することにより、元素組成比を任意に調整できる。本発明に用いるLixNiaMnbCoczの組成は、なかでも係数aとbの比が実質的に1:1であるものが好ましく、工程中の誤差を考慮すれば|a―b|≦0.03である。この材料の組成について、上記には便宜上a+b+c=1と記載したが、Ni、Mn、Co以外の元素を含んでいても良い。このような元素としては、この材料の結晶格子に存在するMnと置換可能な元素が好ましく、具体的には、Be、B、V、C、Si、P、Sc、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W.Pb、Bi、Fe、Cr、Ni、Ti、Zr、Nb、Y、Al、Na、K、Mg、Ca、Cs、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。なかでも、V、Al、Mg、Cr、Ti、In、Snのいずれかを用いると、高率放電性能を向上させる効果が得られるため、より好ましい。これらの元素の含有量としては0.1以下とすることが好ましい。
【0020】
α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料にフッ化処理を施す方法としては、特に限定されるものではないが、F2ガスやNF3ガスの熱分解ガスによって処理する方法が挙げられ、これらの方法を用いると、フッ素化合物を主体とする被膜が安定且つ均一に材料の表面にのみ形成させることができる点で好ましい。なかでも、F2ガスを用いる方法によれば、F2ガスの活性が高いことから、比較的低温で短時間に処理ができ、製造コストも抑えられるため、より好ましい。材料表面に存在するフッ素化合物を仮に被膜と見なしたとき、その被膜厚さは、処理ガスの注入圧力、処理温度、処理時間を調整することによって任意に制御可能である。
【0021】
具体的には、α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料を密閉容器に封入して脱気した後、フッ素ガスを注入し、一定時間保持する方法が好ましい。前記保持の間、密閉容器内の温度を上昇させるとより好ましい。
【0022】
フッ素ガスとして、フッ素/アルゴン混合ガス等の混合ガスを用いてもよく、減圧状態で所定量の純フッ素ガスを注入する方法を用いてもよい。使用するフッ素ガスの純度としては、酸素の混入がないことが好ましく、この観点から酸素含有量を可能な限り減じたガスを用いることに留意することが好ましい。
【0023】
フッ素ガスの注入量は、0.02×105Pa以上1.0×105Pa以下が好ましい。フッ素ガスの注入量を0.02×105Pa以上とすることにより、材料の粒子表面に対するフッ素化の程度を十分なものとすることができ、高温環境下における充放電サイクル性能及び高温環境下における自己放電性能が向上した電池とすることのできる正極活物質を提供できる。フッ素ガスの注入量は、より好ましくは0.5×105Pa以上であり、さらに好ましくは0.1×105Pa以上である。また、フッ素ガスの注入量を1.0×105Pa以下とすることにより、フッ素化の程度が過度となりすぎる虞を低減でき、よって十分な放電容量を有する非水電解質電池とすることのできる正極活物質を提供できる。
【0024】
フッ素ガス注入後の保持温度は常温であってもよいが、75℃〜150℃の温度とすることが好ましい。フッ素ガス注入後の保持温度を75℃〜150℃の温度とすることにより、材料の粒子表面に対するフッ素化を速やかに進行させ完結させることができる。
【0025】
以上のフッ素化の処理により、α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料の粒子のごく表面にフッ素化合物が存在し、且つ、該材料の粒子の内部にフッ素化合物が存在していない正極活物質を製造することができる。
【0026】
なお、α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3 、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表され る材料の一個の粒子の形態は、多数の一次粒子が集合した二次粒子の形態を呈している。本願明 細書にいう「正極活物質の粒子」とは、前記多数の一次粒子が集合した二次粒子の形態を呈して いる一個の粒子のことをいう。
【0027】
本発明に係る非水電解質を構成する有機溶媒は、一般に非水電解質電池用非水電解質に使用さ れる有機溶媒が使用できる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレ ンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、等の環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、 γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル;ジメチルカーボネート、ジエチルカ ーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート;酢酸 メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル;テトラヒドロフラン又はその誘導体、1,3−ジオキサ ン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエ ーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等の単独又はそれら2種以上の混合 物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、一般に非水電解質電池 用電解液に添加される難燃性溶媒である、リン酸エステルを使用することもできる。例えば、リ ン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸ト リプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリフルオ ロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)などが挙げられるが、これらに限定される ものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0028】
非水電解質中のリチウム塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、1mol/l〜2 .5mol/lである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明のさらなる詳細を実施例により説明するが、本発明はこれらの記述により限定されるものではない。
【0030】
α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料として、LiNi0.42Mn0.42Co0.162、LiMn0.33Ni0.33Co0.342、LiMn0.25Ni0.25Co0.52、LiMn0.16Ni0.16Co0.682及びLiMn0.08Ni0.08Co0.842の各組成の材料を次のようにして合成した。
【0031】
以下、LiMn0.42Ni0.42Co0.162組成を有する材料を得る方法を例に挙げて説明するが、他の組成の材料は、下記原料溶液の作製に用いる遷移金属化合物のモル比を調整することによって任意に合成可能である。
【0032】
密閉型反応槽に水を3.5リットル入れた。さらにpH=11.6となるよう、32%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。パドルタイプの攪拌羽根を備えた攪拌機を用いて1200rpmの回転速度で攪拌し、外部ヒーターにより反応槽内溶液温度を50℃に保った。また、前記反応槽内溶液にアルゴンガスを吹き込んで、溶液内の溶存酸素を除去した。硫酸マンガン5水和物(0.738mol/l)と硫酸ニッケル6水和物(0.738mol/l)と硫酸コバルト7水和物(0.282mol/l)とヒドラジン1水和物(0.0101mol/l)が溶解している原料溶液を作製した。該原料溶液を3.17ml/minの流量で前記反応槽に連続的に滴下した。これと同期して、12mol/lのアンモニア溶液を0.22ml/minの流量で滴下混合した。また、前記反応槽内溶液のpHが11.4±0.1と一定になるよう、32%水酸化ナトリウム水溶液を断続的に投入した。また、前記反応槽内の溶液温度が50℃と一定になるよう断続的にヒーターで制御した。また、前記反応槽内が還元雰囲気となるよう、アルゴンガスを液中に直接吹き込んだ。また、溶液量が3.5リットルと常に一定量となるよう、フローポンプを使ってスラリーを系外に排出した。反応開始から60時間経過後、そこから5時間の間に、反応晶析物であるNi−Mn−Co複合酸化物のスラリーを採取した。採取したスラリーを水洗、ろ過し、80℃で一晩乾燥させ、Ni−Mn−Co共沈前駆体の乾燥粉末を得た。
【0033】
得られたNi−Mn−Co共沈前駆体粉末を75μm未満に篩い分け、水酸化リチウム一水塩粉末をLi/(Ni+Mn+Co)=1.0となるように秤量し、遊星型混練器を用いて混合した。これをアルミナ製こう鉢に充てんし、電気炉を用いて、ドライエア流通下、100℃/hrの昇温速度で850℃まで昇温し、850℃の温度を15hr保持し、次いで、100℃/hrの冷却速度で200℃まで冷却し、その後放冷した。得られた粉体を75μm以下に篩い分けすることでリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粉末を得た。エックス線回折測定の結果、得られた粉末は層状岩塩型結晶構造を有する単一相を確認した。ICP発光分光分析の結果、LiMn0.42Ni0.42Co0.162組成を確認した。
【0034】
次に、α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される上記各組成の材料に対して、次の手順によりフッ化処理を施した。一例として、LiNi0.42Mn0.42Co0.162粉末を用いた場合を例に挙げて説明するが、他の組成の材料に対するフッ化処理の手順についても同様である。LiNi0.42Mn0.42Co0.162粉末をニッケル製の密閉容器に封入して脱気した後、フッ素ガス(純度99.4−99.7%、ダイキン工業株式会社製)を0.2×105Paの圧力まで注入した。次に、密閉容器内を100℃に昇温し、10分間保持した後、室温に戻し、大気圧まで空気を注入した。このようにして、表面にフッ素化合物が存在するLiMn0.42Ni0.42Co0.162粉末を得た。エックス線回折測定の結果、得られた粉末はフッ化処理後もα−NaFeO2型層状構造を有する単一相であることを確認した。エックス線光電子分光分析(XPS)測定の結果、粉末の表面にF1sピークが存在し、かつ、エッチングにより前記ピークの大きさが徐々に小さくなり、やがて観測されなくなったことから、前記フッ素化合物は材料表面にのみ存在していることが確認された。
【0035】
続いて、本実施例において作製した非水電解質電池について説明する。図1は本実施例に用いた非水電解質電池の断面図であり、正極1、負極2及びセパレータ3からなる極群4と、非水電解質と、金属樹脂複合フィルム5から構成されている。正極1は、正極合剤11が正極集電体12上に塗布されてなる。また、負極2は、負極合剤21が負極集電体22上に塗布されてなる。非水電解質は極群4に含浸されている。金属樹脂複合フィルム5は、極群4を覆い、その四方を熱溶着により封止されている。
【0036】
次に、本実施例において作製した非水電解質電池の作製方法につき説明する。正極1は、正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラックを混合し、さらに結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物をアルミ箔からなる正極集電体12の片面に塗布した後、乾燥し、正極合剤11の厚みが0.1mmとなるようにプレスした。以上の工程により正極1を得た。
【0037】
負極2は、負極活物質であるグラファイトと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物を銅箔からなる負極集電体22の片面に塗布した後、乾燥し、負極合剤21厚みが0.1mmとなるようにプレスした。以上の工程により負極2を得た。
【0038】
極群4は、正極合剤11と負極合剤21とを対向させ、その間にセパレータ3を配し、正極1、セパレータ3、負極2の順に積層することにより、構成した。次に、非水電解質中に極群4を浸漬させることにより、極群4に非水電解質を含浸させた。さらに、金属樹脂複合フィルム5で極群4を覆い、その四方を熱溶着により封止した。以上の製法により非水電解質電池を得た。
【0039】
(本発明電池1)
上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.42Ni0.42Co0.162を正極活物質として用い、非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比6:4の割合で混合した混合溶媒1リットルに、1モルのLiPF6を溶解させたものを用い、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池1とした。
【0040】
(本発明電池2)
非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比6:4の割合で混合した混合溶媒1リットルに、1モルのLiClO4を溶解させたものを用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池2とした。
【0041】
(本発明電池3)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.33Ni0.33Co0.342を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池3とした。
【0042】
(本発明電池4)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.25Ni0.25Co0.52を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池4とした。
【0043】
(本発明電池5)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.16Ni0.16Co0.682を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池5とした。
【0044】
(本発明電池6)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.08Ni0.08Co0.842を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、本発明電池6とした。
【0045】
(比較電池1)
正極活物質として、フッ化処理を施していないLiMn0.42Ni0.42Co0.162を用いた以外は、本発明電池1と同一の原料及び製法により、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池1とした。
【0046】
(比較電池2)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiCoO2を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池2とした。
【0047】
(比較電池3)
正極活物質として、フッ化処理を施していないLiCoO2を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池3とした。
【0048】
(比較電池4)
正極活物質として、上記の方法でフッ化処理を施したLiMn0.5Ni0.52を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池2とした。
【0049】
(比較電池5)
正極活物質として、フッ化処理を施していないLiMn0.5Ni0.52を用いた以外は、本発明電池1と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池2とした。
【0050】
(比較電池6)
正極活物質として、フッ化処理を施していないLiMn0.42Ni0.42Co0.162を用いた以外は、本発明電池2と同様にして、容量10mAhの非水電解質電池を作製し、比較電池6とした。
【0051】
なお、本発明電池1〜6及び比較電池1〜5に用いた非水電解質中に含まれるHFの濃度は15ppmであり、本発明電池2及び比較電池6に用いた非水電解質からはHFは検出されなかった。
【0052】
(初放電容量試験)
本発明電池1〜6及び比較電池1〜6について、初放電容量を測定した。20℃において、電流2mA、終止電圧4.2Vの定電流定電圧充電した後、20℃において、電流2mA、終止電圧2.7Vの定電流放電した時の放電容量を測定し、これを初放電容量とした。
【0053】
(高温サイクル試験)
本発明電池1〜6及び比較電池1〜6について、高温サイクル試験を行った。試験温度は50℃とし、充電は、電流2mA、終止電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。放電は、電流2mA、終止電圧2.7Vで、定電流放電とした。1サイクル目の放電容量を100%としたときの200サイクル後の放電容量を、高温サイクル後容量とした。
【0054】
(高温保存試験)
本発明電池1〜6及び比較電池1〜6について、高温保存試験を行った。前述の初期放電容量試験と同様の条件で、初期容量の確認を行った電池を、前述した条件で充電後、環境温度60℃で30日間保存し、前述した条件で保存後の放電容量を測定し、自己放電率を求めた。なお、自己放電率は(式1)により算出した。
【数1】

【0055】
初放電容量試験、高温サイクル試験及び高温保存試験の結果を表1に示すと共に、電解質塩としてLiPF6を用いた場合の電池性能について、一般式LixNiaMnbCoczにおける係数cの値を横軸として図2〜4に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
比較電池2と比較電池3とを比べると、正極活物質としてLiCoO2を用いた場合には、正極活物質に対してフッ化処理を行うと、初放電容量、高温充放電サイクル性能及び高温保存後自己放電率がいずれも却って悪化することがわかる。
【0058】
同様に、比較電4と比較電池5とを比べると、正極活物質としてLiMn0.5Ni0.52を用いた場合にも、正極活物質に対してフッ化処理を行うと、初放電容量、高温充放電サイクル性能及び高温保存後自己放電率がいずれも却って悪化することがわかる。
【0059】
ところが、本発明電池1と比較電池1とを比べると、正極活物質としてLiMn0.42Ni0.42Co0.162を用いた場合には、正極活物質に対してフッ化処理を行うと、初放電容量はフッ化処理を行わない正極活物質を用いた場合と同等の性能を維持したまま、高温充放電サイクル性能が向上し、高温保存後自己放電率についても大きく低下させることができるという顕著な効果が認められた。
【0060】
本発明電池2と比較電池6とを比べると、電解質塩としてフッ素を含まない無機塩であるLiClO4を用いた場合にも、正極活物質としてLiMn0.42Ni0.42Co0.162を用いた場合には、フッ素処理を行った正極活物質を用いることにより、高温充放電サイクル性能の向上と、自己放電量の顕著な低下が認められた。
【0061】
本発明電池1,3〜6及び比較電池1〜5の結果をプロットした図2〜4より、一般式LiNiaMnbCoc2におけるcの値が0<c<1のときにのみ、正極活物質に対するフッ化処理を行うことで電池の諸特性に顕著な効果を示すことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の非水電解質電池の断面図である。
【図2】本発明電池及び比較電池の初放電容量を示す図である。
【図3】本発明電池及び比較電池の高温充放電サイクル性能を示す図である。
【図4】本発明電池及び比較電池の高温保存後自己放電率を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 正極
11 正極合剤
12 正極集電体
2 負極
21 負極合剤
22 負極集電体
3 セパレータ
4 極群
5 金属樹脂複合フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−NaFeO2型層状構造を有し、LixNiaMnbCocz(0<x≦1.3、0<a<1、0<b<0.6、0<c<1、a+b+c=1、1.7≦z≦2.3)で表される材料にフッ化処理を施す正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記正極活物質の粒子表面にフッ素化合物が存在するようにフッ化処理を施すことを特徴とする請求項1記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記正極活物質粒子の中心部にフッ素化合物が存在しないようにフッ化処理を施すことを特徴とする請求項1又は2記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法によって製造された正極活物質。
【請求項5】
請求項4記載の正極活物質を用いた非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−202678(P2006−202678A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15382(P2005−15382)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】