説明

歩行計測装置、歩行計測方法およびプログラム

【課題】 歩行体の左右の歩行動作に非対称性があっても、正確な移動方向の計測が可能な歩行計測装置、歩行計測方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】 歩行体に保持されて移動方向に関する物理量を検出する検出手段(ステップS1)と、この検出手段の検出により得られる前記物理量を表わす検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正手段(S9〜S11)と、この補正手段により補正された前記検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出手段(S12,S13)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行体の少なくとも移動方向を計測する歩行計測装置、歩行計測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行体に保持させて歩行による移動量および移動方向を連続的に計測していくことで歩行体の現在位置や移動経路を求める計測装置が開発されている。
【0003】
また、本発明に関連する技術として、特許文献1には、3軸地磁気センサ、1軸加速度センサおよび1軸ジャイロを用いて歩行体の進行方向を計測する装置が開示されている。また、引用文献2には、左右の足間で音波を送受信することで歩幅を求めるとともに、地磁気センサにより方位を計測して移動方向を求める装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−084312号公報
【特許文献2】特開2000−046578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行体は常に進行方向を向いた姿勢で移動するということはなく、歩行中に体を前後に傾斜させ、且つ、左回りや右回りに微少量ひねりながら進行する。そのため、歩行期間を通して歩行体の正面方向を連続的に計測しただけでは、歩行体が直線状に進行しているときでも歩行体の正面方向の計測結果は上下左右に変動する。そのため、歩行体の移動方向を求める場合には、例えば特許文献1にも示されているように、正面方向の計測データを平均化するなどして歩行動作に基づく上下左右の変動分を除去する必要がある。
【0006】
しかしながら、歩行体は、個々の癖あるいは一方の足を怪我している場合などに、左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作と(これらを左右の歩行動作と呼ぶ)が対称にならないことがある。このような場合、左右の歩行動作の区別なく正面方向に関わる計測データを単純に平均化して移動方向を求めると、左右の歩行動作の非対称性により、求められた移動方向に一定の誤差が生じることになる。このような誤差は、移動量と移動方向とを連続的に計測して現在位置や移動経路を求める場合に累積されていくため、なるだけ小さい方が良い。
【0007】
この発明の目的は、歩行体の左右の歩行動作に非対称性があっても、正確な移動方向の計測が可能な歩行計測装置、歩行計測方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、歩行計測装置において、
歩行体に保持されて移動方向に関する物理量を検出する検出手段と、
この検出手段の検出により得られる前記物理量を表わす検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正手段と、
この補正手段により補正された前記検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の歩行計測装置において、
前記検出手段は、
3軸方向の加速度をそれぞれ検出する加速度センサであり、
前記移動方向に関する物理量とは、
歩行動作に伴う前記歩行体の水平方向の加速度であることを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の歩行計測装置において、
歩行体に保持されて歩行動作に伴う加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力に基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作の大きさの違いを算出する差異算出手段とを備え、
前記補正手段は、
前記差異算出手段の算出結果に基づいて前記物理量を表わす検出データを補正することを特徴としている。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の歩行計測装置において、
前記差異算出手段は、
前記加速度センサにより検出される上下方向の加速度に基づき一歩ごとの時間間隔を求めて、この時間間隔の差異に基づき左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出することを特徴としている。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の歩行計測装置において、
前記差異算出手段は、
前記加速度センサにより検出される水平方向の加速度の大きさに基づき左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出することを特徴としている。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項2記載の歩行計測装置において、
前記移動方向算出手段は、
前記補正手段により補正された前記歩行体の水平方向の加速度を表わす検出データの回帰直線を求めて、この回帰直線に基づいて前記歩行体の移動方向を算出することを特徴としている。
【0014】
請求項7記載の発明は、歩行計測方法において、
歩行体の歩行動作に伴う加速度を連続的に検出する加速度検出ステップと、
前記歩行体の移動方向に関する物理量を連続的に検出する方向検出ステップと、
前記加速度検出ステップの検出結果に基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出する差異算出ステップと、
前記方向検出ステップにより得られる前記物理量の検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、前記差異算出ステップの算出結果に基づき、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正ステップと、
この補正ステップにより補正された検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出ステップと、
を含むことを特徴としている。
【0015】
請求項8記載の発明は、
歩行体に保持されて歩行動作に伴う加速度を連続的に検出する加速度センサと、前記歩行体に保持されて前記歩行体の移動方向に関する物理量を連続的に検出する方向センサとからそれぞれ検出データを受け取って演算を行うコンピュータに、
前記加速度センサの検出データに基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出する差異算出機能と、
前記方向センサの出力に基づき得られる前記物理量の検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、前記差異算出機能による算出結果に基づき、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正機能と、
この補正機能により補正された検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出機能と、
を実現させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従うと、左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作とに非対称性があった場合でも、移動方向に関する物理量の検出データが上記の非対称性を除去する方向に補正されて移動方向が求められる。従って、移動方向の正確な計測結果が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】歩行動作に伴う3軸加速度センサの出力の一例を示すグラフである。
【図3】左足を踏み出す一歩分の歩行動作に伴い3軸加速度センサの出力から得られる歩行体の加速度水平成分の変化パターンの一例を示すグラフである。
【図4】右足を踏み出す一歩分の歩行動作に伴い3軸加速度センサの出力から得られる歩行体の加速度水平成分の変化パターンの一例を示すグラフである。
【図5】歩行体の加速度水平成分の変化パターンを示すデータの補正結果の一例を示すグラフである。
【図6】歩行体の加速度水平成分の変化パターンを示すデータから移動方向を算出する方式を説明するグラフである。
【図7】実施形態のナビゲーション装置により実行される移動計測処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の歩行計測装置の実施形態であるナビゲーション装置の全体構成を示すブロック図である。
【0020】
この実施形態のナビゲーション装置1は、歩行体に保持させて歩行による移動量および移動方向を連続的に計測するとともに、これらのデータを積算していくことで、相対座標による現在位置の測定および移動経路の記録を行う装置である。
【0021】
このナビゲーション装置1は、装置の全体的な制御を行うCPU(中央演算処理装置)10と、CPU10に作業用のメモリ空間を提供するRAM(Random Access Memory)11と、CPU10が実行する制御プログラムや制御データが格納されたROM(Read Only Memory)12と、検出手段としての3軸地磁気センサ13および3軸加速度センサ14と、移動量と移動方向の計測値を連続的に入力して相対座標による現在位置や移動経路を求める自律航法制御部15と、各種の情報表示を行う表示器17と、各部の動作電圧を供給する電源18等を備えている。この実施形態において、CPU10、RAM11、ROM12により、ROM12内の制御プログラムを実行するコンピュータが構成される。
【0022】
3軸地磁気センサ13は、互いに交差(例えば直交)するx軸、y軸、z軸の3軸方向について地磁気の大きさをそれぞれ検出するものである。3軸地磁気センサ13は、ナビゲーション装置1のハウジング内に所定の向きで固定されており、それにより、3軸地磁気センサ13の出力に基づきナビゲーション装置1のどの向きが地磁気の方向を向いているのかを求めることが可能になっている。
【0023】
3軸加速度センサ14は、互いに交差(例えば直交)するx軸、y軸、z軸の3軸方向の各加速度をそれぞれ検出するものである。3軸加速度センサ14は、ナビゲーション装置1のハウジング内に所定の向きで固定されており、それにより、3軸加速度センサ14の出力からナビゲーション装置1のどの向きが重力方向を向いているのかを求めることが可能になっている。また、歩行体の上下動が3軸加速度センサ14の出力に現れるため、その出力に基づいて歩数をカウントすることが可能であり、また、歩行時における前後と左右の水平方向の加速度の変化も3軸加速度センサの出力に現れる。歩行体は左足を踏み出すときに前方やや左側に大きく加速し、右足を踏み出すときに前方やや右側に大きく加速するため、3軸加速度センサ14の出力の水平成分にこのように変化する加速度が表れる。それゆえ、この3軸加速度センサ14の出力の水平成分の変化パターンによって歩行体の移動方向を求めることが可能になっている。
【0024】
3軸地磁気センサ13と3軸加速度センサ14の出力は、所定のサンプリング周波数でデジタル変換されて、それぞれCPU10に供給される。
【0025】
自律航法制御部15は、特定の演算処理を担ってCPU10の演算処理を補助するものである。自律航法制御部15は、CPU10から移動量と移動方向を表わすデータを連続的に受けて、これら移動量と移動方向とを表わす移動ベクトルを積算していくことで、例えば相対座標により現在位置の座標データを求め、この座標データを時間経過に伴って蓄積していくことで移動経路を表わす座標データのリストを構築する。
【0026】
ROM12には、3軸地磁気センサ13と3軸加速度センサ14の出力に基づいて移動量と移動方向を求める移動計測処理のプログラムが格納されている。このプログラムは、ROM12に格納するほか、例えば、データ読取装置を介してCPU10が読み取り可能な、例えば、光ディスク等の可搬型記憶媒体、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリに格納しておくことが可能である。また、このようなプログラムがキャリアウェーブ(搬送波)を媒体として通信回線を介してナビゲーション装置1にダウンロードされる形態を適用することもできる。
【0027】
RAM11には、ユーザに合わせて設定された歩幅を表わす歩幅データが記憶されている。歩幅データは、3軸加速度センサ14の出力に基づき求められる歩数と掛け合わせて移動量を算出するためのデータである。
【0028】
次に、上記構成のナビゲーション装置1において実行される移動計測処理について説明する。
【0029】
図2には、歩行動作に伴う3軸加速度センサ14の出力例を表わしたグラフを示す。この図において、実線のグラフ線によりx軸方向の加速度を、点線のグラフ線によりy軸方向の加速度を、破線のグラフ線によりz軸方向の加速度を、それぞれ表わしている。図2の出力例は、x軸を上下方向、y軸を進行方向に向けた状態で得られたものである。なお、図2のグラフからは重力加速度分の値をオフセットして表わしている。
【0030】
図2の実線のグラフ線に示すように、歩行時には、3軸加速度センサ14の出力に足の着地や踏み出しを表わす上下方向の大きな加速度の変化が現れる。そして、このグラフ線のピークから次のピークまでの期間によって一歩分の期間が表わされることとなる。上下の方向は重力加速度の検出により識別できる。また、左右の足は交互に踏み出されるはずなので、これにより一方の足を踏み出す歩行動作の期間(図2中、「左」と記す)と、他方の足を踏み出す歩行動作の期間(図2中、「右」と記す)とを識別することができる。
【0031】
また、図2の点線のグラフ線に示すように、3軸加速度センサ14の出力には、一歩分の期間の中ほどにピークPL,PRが生じる進行方向の加速度の出力が現れる。この進行方向の加速度のピーク値は一歩の歩行動作の大きさを反映する値である。図2の例では、左足を踏み出す1ステップ期間のピークPLに比べて、右足を踏み出す1ステップ期間のピークPRの方が小さいことから、左足を踏み出す一歩と右足を踏み出す一歩とでは前者の歩行動作の方が大きいことが認識できる。
【0032】
ナビゲーション装置1のCPU10は、上記のような3軸加速度センサ14の出力に基づいて、上下方向の加速度のピークを識別して歩数のカウントを行う。そして、この歩数がカウントされる毎に、CPU10は予め設定されている歩幅長の移動量が歩行体に生じたと算出する。
【0033】
また、ナビゲーション装置1のCPU10は、移動方向の算出に必要な左右の歩行動作の大きさの違いを算出するために、先ず、上下方向の加速度のピークを識別して各一歩分の期間をそれぞれ算出する。また、水平方向の加速度のうち一歩分の期間の中ほどにピークが現われる加速度の方向をおおよその進行方向と認識し、この進行方向の加速度のピークPL,PRをそれぞれ抽出する。
【0034】
なお、3軸加速度センサ14の3つの軸(x軸、y軸、z軸)の中間に進行方向がある場合には、各軸の出力を回転行列に掛け合わせて、上下方向、進行方向、左右方向の各加速度出力に変換することで、おおよその進行方向の加速度出力を求め、そのピークPL,PRを抽出するようにしても良い。
【0035】
CPU10は、上記の3軸加速度センサ14の出力に基づいて、先ず、左右の歩行動作の大きさの違いを算出する。歩行動作の大きさの違いは、例えば2つの要素、すなわち、第1要素である左右の各一歩分の期間長の差異と、第2要素である左右の歩行動作における進行方向の加速度のピーク値の差異とから求める。
【0036】
具体的には、連続する2歩分の加速度データから、各一歩の期間長の差異(例えばΔT=“−5%”)を求め、さらに、進行方向の加速度のピークPL,PRの差異(例えばΔa=“−30%”)が求められたら、これらに所定の重み付け係数を掛けた上で合算して(g1×ΔT+g2×Δa)、一方の足による歩行動作と、他方の足による歩行動作との大きさの差異(例えば“−10%”)として求める。
【0037】
なお、左右の歩行動作の大きさの差異の求め方は、上記の例に限られるものではなく、さらに、左右方向の加速度のピーク値や、水平2成分(前後左右)の加速度の半値幅などのパラメータを用いて、より正確な左右の歩行動作の大きさの差異を求めるようにしても良い。
【0038】
図3と図4には、歩行動作に伴って3軸加速度センサ14の出力から得られる歩行体の加速度水平成分の変化パターンを表わすグラフを示す。図3は、左足を踏み出す歩行動作のもの、図4は右足を踏み出す歩行動作のものである。
【0039】
3軸加速度センサ14の出力には常に重力加速度が含まれているので、その出力の時間平均をとることで重力方向を検出でき、これに基づき3軸加速度センサ14の出力を鉛直成分と水平成分とに分離することができる。そして、この3軸加速度センサ14の出力の水平成分を時系列にプロットしたものが図3と図4のグラフである。
【0040】
歩行動作中には、図3と図4に示すように、体が大きく前後に運動することにより歩行者の前後方向(図3と図4のy方向)に加速度が大きく変化する。さらに、上体が左右に揺れたり左右にローリングすることによって歩行者の左右方向(図3と図4のz方向)に加速度が小さく変化する。また、左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作とで体の左右の揺れや左右のローリングのパターンは左右反転する。従って、左右の揺れやローリングの成分を除去して加速度の前後方向の変化分のみを抽出することで、歩行体の進行方向を算出することができる。
【0041】
ここで、左右の揺れや左右のローリングの大きさが、左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作とで同一であるとすれば、左足の歩行動作に伴う加速度水平成分の変化パターン(図3)と、右足の歩行動作に伴う加速度水平成分の変化パターン(図4)とを合わせたデータの回帰直線を求めることで歩行者の前後方向を算出して、これにより進行方向を求めることができる。
【0042】
しかしながら、歩行体は、個々の癖や一方の足に怪我がある場合などに、左右の揺れや左右のローリングの大きさに一定の差異が生じる。そのため、この実施形態のナビゲーション装置1では、左右の歩行動作の際にそれぞれ得られる加速度水平成分の変化パターンのデータに対して、左右の揺れや左右のローリングの大きさの違いを均衡させるように補正を行った上で、上記のように回帰直線を求めることで進行方向を求めるようにしている。
【0043】
図5には、歩行体の加速度水平成分の変化パターンを示すデータの補正結果の一例を表わしたグラフを、図6には、歩行体の加速度水平成分の変化パターンを示すデータから移動方向を算出する方式を説明するグラフを示す。
【0044】
CPU10は、上述したように、3軸加速度センサ14の出力に基づいて左右の歩行動作の大きさの差異を算出する。そして、この算出結果に基づいて加速度水平成分の変化パターンに対してデータ補正を行う。例えば、図2の加速度の計測結果から、左足を踏み出す歩行動作が右足を踏み出す歩行動作よりも10%大きいという算出結果が得られた場合、図3の左足を踏み出す歩行動作で得られる加速度水平成分の変化パターンのデータを、例えば原点を中心に10%小さくするように補正する。図5において10%小さくした補正後のデータを示している。
【0045】
そして、図6に示すように、この補正後の左足の歩行動作の変化パターンのデータと、右足の歩行動作の変化パターンのデータとから、左右の揺れや左右のローリング成分を除去するために回帰直線Lsを算出して、この回帰直線Lsを歩行体の前後方向として進行方向を求める。すなわち、3軸加速度センサ14の何れの向きが進行方向であるかを求める。
【0046】
さらに、CPU10は、3軸地磁気センサ13の出力に基づき3軸地磁気センサ13のどの向きが磁北の方角であるかを求め、3軸加速度センサ14の出力に基づき何れの方向が鉛直方向であるかを求めることができる。そして、これらの情報から先に求められた回帰直線Lsの方向を方位により表わすことが可能となる。CPU10は、このような演算を行って歩行体の進行方向を方位として求める。
【0047】
移動計測処理において、CPU10は、上記のような演算を繰り返し実行して、一歩の歩行動作ごとに移動量と移動方向とを求め、これらの情報を自律航法制御部15へ供給する。そして、これらの移動量と移動方向とから表わされる移動ベクトルが自律航法制御部15において積算されて相対座標による現在位置と移動経路とが求められるようになっている。
【0048】
図7は、CPU10により実行される移動計測処理の処理手順を示すフローチャートである。次に、上記移動計測処理の詳細な制御手順について説明する。
【0049】
移動計測処理は、ナビゲーション装置1が測位モードに移行することに伴って開始される。移動計測処理が開始されると、先ず、CPU10は、ステップS1〜S3のループ処理によって、一歩とカウントできるまで、3軸地磁気センサ13と3軸加速度センサ14からのサンプリングデータを取り込んで、今回一歩分のデータとしてRAM11に記憶させていく(ステップS1,S2:方向検出ステップ、加速度検出ステップ)。そして、上下方向の加速度データから足の着地を示すピークが検出されたか判別し(ステップS3)、このピークが検出されたら歩数カウントのタイミングであると判別して次のステップに移行する。
【0050】
次に移行したら、初回の歩数カウント時のみ分岐処理を行うために前回の歩数カウントがあるか否かを確認する(ステップS4)。そして、前回歩数カウントが未だなければ、今回の歩数カウントが初回のものであると認識して、先のステップS1〜S3のループ処理で得られた3軸地磁気センサ13のサンプリングデータを前回一歩分の3軸方位データとしてRAM11の別領域に記憶し(ステップS5)、3軸加速度センサ14のサンプリングデータを前回一歩分の3軸加速度データとしてRAM11の別領域に記憶する(ステップS6)。そして、再び、ステップS1に戻る。
【0051】
一方、ステップS4の判別処理で前回歩数カウントが既にあると判別されたら、今回一歩分の3軸加速度センサ14のサンプリングデータから加速度の水平成分を分離して、図3のグラフに示されるようなデータに展開する(ステップS7)。続いて、RAM11の別領域に記憶された前回一歩分の3軸加速度センサ14のサンプリングデータから加速度の水平成分を分離して、図4のグラフに示されるようなデータに展開する(ステップS8)。
【0052】
続いて、CPU10は、今回一歩分と前回一歩分の加速度データのうち鉛直方向(例えばx軸方向)の加速度データから各一歩の期間長(ピークからピークの時間長)の差異を算出する(ステップS9:差異算出ステップ)。
【0053】
さらに、CPU10は、今回一歩分と前回一歩分の加速度データのうち水平方向(例えばy軸方向とz軸方向)の加速度データから歩行体の揺れ成分(例えば進行方向の加速度のピークPL,PRの値など)を歩行動作の大きさの差異として抽出する(ステップS10:差異算出ステップ)。
【0054】
そして、ステップS9,S10により得られた値から所定の演算処理を行って、前回一歩分と今回一歩分の歩行動作の大きさの違いを算出し、この歩行動作の大きさの違いに基づいてステップS7とステップS8とで展開された加速度水平成分の変化パターンのデータを、歩行動作の大きさの違いに基づく変化量の大小の差異を均衡させる方向に補正する。例えば、図3と図5を用いて先に示したように、歩行動作の大きい方のデータ(図3参照)を大きい分だけ縮小したデータ(図5参照)へと補正する(ステップS11:補正ステップ)。
【0055】
次いで、ステップS11にて補正したデータから左右の揺れや左右のローリング成分が平均化されて除去されるように回帰直線を求め(ステップS12)、この回帰直線の向きと方位ベクトルが示す磁北の方向とから進行方向を方位で表わして求め、この進行方向のデータを自律航法制御部15へ送る(ステップS13)。これらステップS12,S13により移動方向算出ステップが構成される。
【0056】
さらに、CPU10は、予め設定されている歩幅データに基づき、歩数カウントが1回加算されているので、歩幅×一歩の移動量を算出して、この移動量のデータを自律航法制御部15へ送る(ステップS14)。
【0057】
そして、今回一歩分の方位と加速度のデータを、前回一歩分の方位と加速度のデータとしてRAM11の別領域に保存して(ステップS15)、再び、ステップS1に戻る。そして、ステップS1からの処理を再び繰り返す。
【0058】
このような移動計測処理により、歩行体が一歩進むごとにステップS7以降の処理へ移行して移動方向と移動量とが求められるようになっている。また、ステップS9〜S11の処理により左右の歩行動作の非対称性の検出と、この非対称性を解消するような補正処理が行われて、それにより正確な移動方向が求められるようになっている。
【0059】
以上のように、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、移動方向を表わす変動量に体の左右の揺れや左右のローリング成分の変動量が付加された加速度水平成分の変化パターンのデータに対して、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく当該変化パターンのデータの差異を均衡させる方向に補正を行った上で、この変化パターンのデータから移動方向を求めている。そのため、左右の歩行動作に偏りのある歩行体であっても、一方に偏るような誤差の少ない移動方向を求めることができる。
【0060】
また、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、3軸加速度センサ14の出力に基づき歩行体の加速度水平成分の変化パターンに基づいて移動方向を算出するようになっているので、ナビゲーション装置1をどのような向きで歩行体に保持させても同様に移動方向を求めることが可能になっている。
【0061】
さらに、上記加速度水平成分の変化パターンのデータから回帰直線を求めることで、左右の揺れや左右のローリング成分の変化量が平均化されて除去された移動方向を算出することが可能になっている。
【0062】
また、この実施形態のナビゲーション装置1によれば、3軸加速度センサ14の出力に基づき左右の歩行動作の大きさの違いを算出して、これを加速度水平成分の変化パターンのデータの補正処理に用いるようにしているので、直進しているのに左右の揺れや左右のローリング動作の大きさが異なるような左右の歩行動作の非対称性をより正確に求めて、これを補正することが可能になっている。
【0063】
具体的には、3軸加速度センサ14の出力から各一歩に掛かる時間長、および、一歩ごとの水平方向の加速度の大きさを求め、これらの差異に基づいて左右の歩行動作の大きさの違いを求めているので、直進しているのに左右の揺れや左右のローリング動作の大きさが異なるような左右の歩行動作の非対称性をより正確に求めることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、上記実施形態では、左右の歩行動作の大きさの違いを加速度データから算出する例を示したが、種々の動作センサを用いて左右の歩行動作の大きさの違いを求めるようにしても良い。例えば、方位センサやジャイロセンサを用いて左右の歩行動作の非対称性を表わす出力パターンを認識して、これを左右の歩行動作の大きさの違いとして算出するようにしても良い。
【0065】
また、上記実施形態では、加速度水平成分の変化パターンを表わすデータを、左右の歩行動作の大きさの違いに応じて縮小したり拡大したりして、左右の非対称性を均衡させる補正を行う例を示したが、例えば、図3や図4のグラフのプロット点の追加や間引きによって左右の非対称性を均衡させる補正を行うこともできる。また、図3や図4のグラフのプロット点に重み付けを行い、この重み付けの値によって左右の非対称性を均衡させるように補正を行っても良い。プロット点の重み付けは回帰直線を求める演算式において、各プロット点のデータ値が現れる項目に係数として乗算することで、補正された回帰直線を求めることができる。
【0066】
また、上記実施形態では、3軸加速度センサの出力の水平成分を移動方向に関する物理量とし、この加速度水平成分の変化パターンから歩行体の進行方向を求める構成を採用しているが、例えば、歩行体に対して装置が一定の向きで装着されることが保証されるのであれば、移動方向に関する物理量として装置正面の方位を2軸の地磁気センサによって計測し、これを歩行体の進行方向として求める構成としても良い。この場合、左右の歩行動作の非対称性により装置正面の方位データには、非対称な左右のブレが付加されることになるが、このブレを左右の歩行動作の大きさの差異に基づき補正した上で平均化することで、左右の歩行動作の非対称性による誤差を小さくして、正確な移動方向を求めることができる。
【0067】
また、上記実施形態では、前回と今回の2歩分のデータを用いて、左右の歩行動作の大きさの違いと移動方向とを求めるようにしているが、例えば、左の歩行動作に伴って得られた複数歩分のデータと、右の歩行動作に伴って得られた複数歩分のデータとを用いて、左右の歩行動作の大きさの違いを求めたり、移動方向を求めたりするようにしても良い。
【0068】
その他、実施形態に示した細部は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 ナビゲーション装置
10 CPU(差異算出手段、補正手段、移動方向算出手段)
11 RAM
12 ROM
13 3軸地磁気センサ
14 3軸加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行体に保持されて移動方向に関する物理量を検出する検出手段と、
この検出手段の検出により得られる前記物理量を表わす検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正手段と、
この補正手段により補正された前記検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出手段と、
を備えたことを特徴とする歩行計測装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
3軸方向の加速度をそれぞれ検出する加速度センサであり、
前記移動方向に関する物理量とは、
歩行動作に伴う前記歩行体の水平方向の加速度であることを特徴とする請求項1記載の歩行計測装置。
【請求項3】
歩行体に保持されて歩行動作に伴う加速度を検出する加速度センサと、
この加速度センサの出力に基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作の大きさの違いを算出する差異算出手段とを備え、
前記補正手段は、
前記差異算出手段の算出結果に基づいて前記物理量を表わす検出データを補正することを特徴とする請求項1記載の歩行計測装置。
【請求項4】
前記差異算出手段は、
前記加速度センサにより検出される上下方向の加速度に基づき一歩ごとの時間間隔を求めて、この時間間隔の差異に基づき左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出することを特徴とする請求項3記載の歩行計測装置。
【請求項5】
前記差異算出手段は、
前記加速度センサにより検出される水平方向の加速度の大きさに基づき左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出することを特徴とする請求項3記載の歩行計測装置。
【請求項6】
前記移動方向算出手段は、
前記補正手段により補正された前記歩行体の水平方向の加速度を表わす検出データの回帰直線を求めて、この回帰直線に基づいて前記歩行体の移動方向を算出することを特徴とする請求項2記載の歩行計測装置。
【請求項7】
歩行体の歩行動作に伴う加速度を連続的に検出する加速度検出ステップと、
前記歩行体の移動方向に関する物理量を連続的に検出する方向検出ステップと、
前記加速度検出ステップの検出結果に基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出する差異算出ステップと、
前記方向検出ステップにより得られる前記物理量の検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、前記差異算出ステップの算出結果に基づき、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正ステップと、
この補正ステップにより補正された検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出ステップと、
を含むことを特徴とする歩行計測方法。
【請求項8】
歩行体に保持されて歩行動作に伴う加速度を連続的に検出する加速度センサと、前記歩行体に保持されて前記歩行体の移動方向に関する物理量を連続的に検出する方向センサとからそれぞれ検出データを受け取って演算を行うコンピュータに、
前記加速度センサの検出データに基づいて左足を踏み出す歩行動作と右足を踏み出す歩行動作との大きさの違いを算出する差異算出機能と、
前記方向センサの出力に基づき得られる前記物理量の検出データのうち、左足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データと、右足を踏み出す歩行動作の際に得られる検出データとの何れか又は両方を、前記差異算出機能による算出結果に基づき、左右の歩行動作の大きさの違いに基づく前記検出データの差異を均衡させる方向に補正する補正機能と、
この補正機能により補正された検出データに基づいて前記歩行体の移動方向を算出する移動方向算出機能と、
を実現させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117945(P2011−117945A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238184(P2010−238184)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】