説明

歪み補償回路

【課題】 任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができる歪み補償回路を提供する。
【解決手段】 アンプ3からのフィードバック信号をADC5でディジタル変換し、使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有するFIRフィルタ12にADC5からの出力を通過させて直交復調器13に出力し、直交復調器13で直交復調し、LUT係数演算部14でLUT係数を演算し、包絡線演算部15で包絡線の値を演算し、LUT係数設定部16でルックアップテーブルから包絡線の値に対するLUT係数を読み出し、乗算器17a,17bに出力し、乗算器17a,17bで送信信号とLUT係数を乗算して歪み補償を行う歪み補償回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンプ装置における歪み補償回路に係り、特に、歪み補償の性能を向上させることができる歪み補償回路に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
無線通信システムにおけるアンプ装置やアナログ素子では、所望の送信信号に対して非線形歪みが発生することがある。
この発生した歪みをディジタルプリディストーション(DPD)回路で補償することが多い。
【0003】
[従来のDPD回路:図5]
従来のDPD回路について図5を参照しながら説明する。図5は、従来のDPD回路及び周辺回路の構成ブロック図である。
従来のDPD回路は、図5に示すように、遅延回路(遅延(1))11と、直交復調器13と、LUT係数演算部14と、包絡線演算部15と、LUT係数設定部16と、乗算器17a,17bと、遅延回路(遅延(2))18とを備えている。
【0004】
そして、周辺回路として、乗算器17a,17bからの信号をディジタル/アナログ変換するDAC2と、DAC2からの出力信号を増幅するアンプ3と、アンプ3からの出力を電波として送出するアンテナ4と、アンプ3の出力が分岐されてフィードバック信号として入力し、アナログ/ディジタル変換して直交復調器13に出力するADC5を有している。
【0005】
従来のDPD回路の各部を説明する。
遅延回路(遅延(1))11は、送信信号の同相成分(I成分)と直交成分(Q成分)を入力してフィードバック信号に合わせて遅延させ、乗算器17a,17bに出力する。
直交復調器13は、ADC5からのフィードバック信号を直交復調してLUT係数演算部14に出力する。
【0006】
LUT係数演算部14は、フィードバック信号と遅延させた送信信号を用いてフィードバック信号の歪み成分を検出し、歪み成分に応じた歪み補償を行うためのLUT(ルックアップテーブル)の係数を演算して、LUT係数設定部16に出力する。
包絡線演算部15は、送信信号に対して包絡線の電力値(√(I2+Q2))を演算し、演算結果をLUT係数設定部16に出力する。
【0007】
LUT係数設定部16は、LUT係数演算部14から入力されるLUT係数をその演算された際の包絡線の電力値に対応付けて複数記憶するルックアップテーブルを記憶しており、包絡線演算部15から入力される包絡線の電力値に対応するLUT係数をルックアップテーブルから選択して乗算器17a,17bに出力する。
【0008】
乗算器17a,17bは、遅延回路11からの送信信号とLUT係数設定部16からのLUT係数を乗算してDAC2に出力する。
遅延回路(遅延(2))18は、送信信号の同相成分(I成分)と直交成分(Q成分)を入力してフィードバック信号に合わせて遅延させ、LUT係数演算部14に出力する。
【0009】
DPD回路は、フィードバック信号を参照して動作するため、フィードバック信号の特性に応じて補償されることになる。
つまり、従来のDPD回路では、送信信号の特性をフィードバック信号にそのまま反映させる構成となっており、歪み補償の結果は、自帯域の上位周波数と下位周波数で同じ程度となることが多い。
【0010】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開2008−048032号公報「歪補償装置」(株式会社日立国際電気)[特許文献1]、特開2010−258932号公報「歪補償装置」(株式会社日立国際電気)[特許文献2]がある。
特許文献1には、異なる次数の歪補償信号を出力する歪補償発生回路を、遅延線に並列に複数接続して備え、高次の歪補償発生回路のベクトル調整器を調整して高次の歪を補償してから低次の歪補償発生回路のベクトル調整器を調整して低次の歪を補償することが示されている。
特許文献2には、プリディストーション方式の歪補償装置として、歪補償テーブルを最適に作成するための技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−048032号公報
【特許文献2】特開2010−258932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来の歪み補償回路では、自帯域の上位周波数と下位周波数における歪み補償の程度はほぼ同程度となるため、上位周波数又は下位周波数のいずれかで元々歪みが大きい場合に、両周波数でバランスのよい歪み補償を実現できないという問題点があった。
【0013】
また、上記従来の歪み補償回路では、自帯域の上位周波数と下位周波数における歪み補償の程度はほぼ同程度となるため、周囲の電波利用状況によっては、特定の帯域の歪みを他の帯域よりも大きく改善しなければならない場合があるが、それに対応できていないという問題点があった。
【0014】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができる歪み補償回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、送信信号の歪みを補償する歪み補償回路であって、送信信号を遅延させる第1の遅延回路及び第2の遅延回路と、送信信号の包絡線の値を演算する包絡線演算部と、使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有し、アンプからのフィードバック信号を通過特性に従って通過させて出力するフィルタと、フィルタからの出力を直交復調する直交復調器と、第2の遅延回路からの出力と直交復調器からの出力を基に歪み補償を行うためのルックアップテーブル係数を演算するルックアップテーブル係数演算部と、包絡線の値とルックアップテーブル係数とを対応付けてルックアップテーブルに記憶する動作を行い、ルックアップテーブルを参照して包絡線演算部で演算された包絡線の値に対応するルックアップテーブル係数を出力するルックアップテーブル係数設定部と、第1の遅延回路からの出力にルックアップテーブル係数設定部から出力されたルックアップテーブル係数を乗算してアンプに出力する乗算器とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明は、上記歪み補償回路において、フィルタが、使用周波数帯域の前又は後、若しくは前後両方の周波数の通過を制限するものであることを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記歪み補償回路において、フィルタが、外部からの設定で通過特性を変更可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1の遅延回路及び第2の遅延回路が送信信号を遅延させ、包絡線演算部が送信信号の包絡線の値を演算し、フィルタが使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有し、アンプからのフィードバック信号を通過特性に従って通過させて出力し、直交復調器がフィルタからの出力を直交復調し、ルックアップテーブル係数演算部が第2の遅延回路からの出力と直交復調器からの出力を基に歪み補償を行うためのルックアップテーブル係数を演算し、ルックアップテーブル係数設定部が包絡線の値とルックアップテーブル係数とを対応付けてルックアップテーブルに記憶する動作を行い、ルックアップテーブルを参照して包絡線演算部で演算された包絡線の値に対応するルックアップテーブル係数を出力し、乗算器が第1の遅延回路からの出力にルックアップテーブル係数設定部から出力されたルックアップテーブル係数を乗算してアンプに出力する歪み補償回路としているので、任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る歪み補償回路の構成ブロック図である。
【図2】第1の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図である。
【図3】第2の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図である。
【図4】第3の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図である。
【図5】従来のDPD回路及び周辺回路の構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る歪み補償回路は、従来のディジタルプリディストーション回路において、使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有するフィルタを設け、アンプからのフィードバック信号について当該フィルタを通過させて、ディジタルプリディストーションによる歪み補償を行うようにしているので、任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができるものである。
【0021】
[歪み補償回路:図1]
本発明の実施の形態に係る歪み補償回路(本回路)について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る歪み補償回路の構成ブロック図である。
本回路は、図1に示すように、遅延回路(遅延(1))11と、FIRフィルタ12と、直交復調器13と、LUT係数演算部14と、包絡線演算部15と、LUT係数設定部16と、乗算器17a,17bと、遅延回路(遅延(2))18とを備えている。
【0022】
そして、周辺回路として、乗算器17a,17bからの信号をディジタル/アナログ変換するDAC2と、DAC2からの出力信号を増幅するアンプ3と、アンプ3からの出力を電波として送出するアンテナ4と、アンプ3の出力が分岐されてフィードバック信号として入力し、アナログ/ディジタル変換してFIRフィルタ12に出力するADC5と、FIRフィルタ12の特性を制御する制御部6とを有している。
【0023】
[本回路の各部]
本回路の各部について具体的に説明する。
遅延回路(遅延(1))11は、送信信号の同相成分(I成分)と直交成分(Q成分)を入力してフィードバック信号に合わせて遅延させ、乗算器17a,17bに出力する。
FIR(Finite Impulse Response)フィルタ12は、入力される信号に対して特定の周波数帯域を通過させ、それ以外の帯域の通過を抑える特性を有し、当該特性に従ってADC5からのアナログ信号を通過させて直交復調器13に出力する。
【0024】
尚、FIRフィルタ12におけるフィルタ特性は、制御部6によって設定され、変更可能となっている。また、本回路では、FIRフィルタを用いたが、バンドパスフィルタ(BPF)、ローパスフィルタ(LPF)又はハイパスフィルタ(HPF)であってもよい。
直交復調器13は、ADC5からのフィードバック信号を直交復調してLUT係数演算部14に出力する。
【0025】
LUT係数演算部14は、フィードバック信号と遅延させた送信信号を用いてフィードバック信号の歪み成分を検出し、歪み成分に応じた歪み補償を行うためのLUT(ルックアップテーブル)の係数を演算して、LUT係数設定部16に出力する。
包絡線演算部15は、送信信号に対して包絡線の電力値(√(I2+Q2))を演算し、演算結果をLUT係数設定部16に出力する。
【0026】
LUT係数設定部16は、LUT係数演算部14から入力されるLUT係数をその演算された際の包絡線の電力値に対応付けて複数記憶するルックアップテーブルを記憶するものであり、包絡線演算部15から入力される包絡線の電力値に対応するLUT係数をルックアップテーブルから選択して乗算器17a,17bに出力する。
【0027】
乗算器17a,17bは、遅延回路11からの送信信号とLUT係数設定部16からのLUT係数を乗算してDAC2に出力する。
遅延回路(遅延(2))18は、送信信号の同相成分(I成分)と直交成分(Q成分)を入力してフィードバック信号に合わせて遅延させ、LUT係数演算部14に出力する。
【0028】
[第1〜3の実施形態]
次に、本回路を用いて実現する第1〜3の実施形態について図2〜4を参照しながら説明する。図2は、第1の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図であり、図3は、第2の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図であり、図4は、第3の実施形態のFIRフィルタ特性と歪み補償結果例を示す図である。
【0029】
[第1の実施形態:図2]
第1の実施形態では、図2に示すように、下側の歪み補償結果の図で、歪み補償(DPD)前が点線に示すように、使用周波数(中央の突出した帯域)に対して、左側部分が下位周波数帯域であり、右側部分が上位周波数帯域である。
ここで、下位周波数帯域のパワーの抑制特性に比べて上位周波数帯域のパワーの抑制が不足している。つまり、下位と上位の周波数帯域はバランスがとれていない状態である。
【0030】
そこで、FIRフィルタ12のフィルタ特性を上側の図に示すように、使用周波数以上の帯域を通過させ、使用周波数より低い下位の帯域での通過をやや抑える特性としたものである。
これにより、図2の下側の歪み補償結果の図に示すように、DPD後は実線に示すように、下位及び上位の帯域でバランスのよい歪み補償特性を得ることができるものである。
【0031】
[第2の実施形態:図3]
第2の実施形態では、図3に示すように、下側の歪み補償結果の図で、DPD前の歪み補償特性を示し、更に参考のために、従来のDPD回路を用いて実現される歪み補償特性(DPD後(従来))も示している。
【0032】
従来のDPD回路では、使用周波数帯域に対して下位及び上位の周波数帯域でバランスのよい歪み補償特性を得られるが、第2の実施形態では、意図的に上位周波数帯域の歪みを抑える特性としたものである。
【0033】
つまり、図3の上側のフィルタ特性、つまり、使用周波数以上の帯域を通過させ、使用周波数より低い下位の帯域での通過を大きく抑える特性としたものである。
これにより、図3の下側の歪み補償結果の図に示すように、DPD後は実線に示すように、下位の帯域に比べて上位の帯域での歪みを大きく抑える歪み補償特性を得ることができるものである。
【0034】
[第3の実施形態:図4]
第3の実施形態では、図4に示すように、下側の歪み補償結果の図で、DPD前の歪み補償特性を示している。
第3の実施形態では、第2の実施形態とは反対に、意図的に下位周波数帯域の歪みを抑える特性としたものである。
【0035】
つまり、図4の上側のフィルタ特性、つまり、使用周波数以下の帯域を通過させ、使用周波数より高い上位の帯域での通過を大きく抑える特性としたものである。
これにより、図4の下側の歪み補償結果の図に示すように、DPD後は実線に示すように、上位の帯域に比べて下位の帯域での歪みを大きく抑える歪み補償特性を得ることができるものである。
【0036】
[応用例]
次に、本回路の応用例1,2について説明する。
[応用例1]
応用例1として、ADC5からのディジタル信号の出力を監視するモニタ装置を設け、当該モニタ装置が制御部6に対してディジタル信号の出力状態を通知し、ADC5からの出力状態に応じて制御部6がFIRフィルタ12のフィルタ特性を変更するものである。
従って、制御部6には、予めADC5からの出力状態に対するフィルタ特性のパラメータを記憶している。
【0037】
[応用例2]
応用例2として、アンプ3の近くに温度を検出する温度センサを設け、当該温度センサが検出した温度の値を制御部6に出力し、制御部6がアンプ3の近傍における温度の値に応じてFIRフィルタ12のフィルタ特性を変更するものである。
従って、制御部6には、予めアンプ3の近傍における温度の値に対するフィルタ特性のパラメータを記憶している。
【0038】
[実施の形態の効果]
本回路によれば、アンプ3からのフィードバック信号をADC5でディジタル変換し、使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有するFIRフィルタ12にADC5からの出力を通過させて直交復調器13に出力し、LUT係数演算部14、包絡線演算部15、LUT係数設定部16、乗算器17a,17bにより歪み補償を行うものであり、任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができる効果がある。
【0039】
また、本回路の応用例では、ADC5からの出力又はアンプ3の近傍の温度に応じて制御部6がFIRフィルタ12のフィルタ特性を適宜変更するようにしているので、ADC5からの出力又はアンプ3の近傍の温度に応じた歪み補償を実現できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、任意の周波数帯域における歪み補償の性能を向上させることができる歪み補償回路に好適である。
【符号の説明】
【0041】
1...歪み補償(DPD)回路、 2...DAC、 3...アンプ、 4...アンテナ、 5...ADC、 6...制御部、 10...歪み補償(DPD)回路、 11...遅延回路(遅延(1))、 12...FIRフィルタ、 13...直交復調器、 14...LUT係数演算部、 15...包絡線演算部、 16...LUT係数設定部、 17a,17b...乗算器、 18...遅延回路(遅延(2))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の歪みを補償する歪み補償回路であって、
送信信号を遅延させる第1の遅延回路及び第2の遅延回路と、
送信信号の包絡線の値を演算する包絡線演算部と、
使用周波数帯域を含む特定帯域の通過特性を有し、アンプからのフィードバック信号を前記通過特性に従って通過させて出力するフィルタと、
前記フィルタからの出力を直交復調する直交復調器と、
前記第2の遅延回路からの出力と前記直交復調器からの出力を基に歪み補償を行うためのルックアップテーブル係数を演算するルックアップテーブル係数演算部と、
包絡線の値と前記ルックアップテーブル係数とを対応付けてルックアップテーブルに記憶する動作を行い、前記ルックアップテーブルを参照して前記包絡線演算部で演算された包絡線の値に対応するルックアップテーブル係数を出力するルックアップテーブル係数設定部と、
前記第1の遅延回路からの出力に前記ルックアップテーブル係数設定部から出力されたルックアップテーブル係数を乗算してアンプに出力する乗算器とを有することを特徴とする歪み補償回路。
【請求項2】
フィルタは、使用周波数帯域の前又は後、若しくは前後両方の周波数の通過を制限するものであることを特徴とする請求項1記載の歪み補償回路。
【請求項3】
フィルタは、外部からの設定で通過特性を変更可能としたことを特徴とする請求項1又は2記載の歪み補償回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138743(P2012−138743A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289397(P2010−289397)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】