説明

歯の美白方法

【課題】歯を芯から白くする歯の美白方法の提供。
【解決手段】有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物と、過酸化物を含有する組成物とで交互に処理することを特徴とする歯の美白方法で、前記有機酸及び/又は無機酸が酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸及びリン酸から選ばれる1種又は2種以上のものであり、前記過酸化物が過酸化水素及び/又は過酸化尿素であり、前記フッ素イオン供給化合物がフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム及びフッ化アンモニウムから選ばれる1種又は2種以上のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯を芯から白くすることができる歯の美白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の着色は、歯石や歯垢、喫煙、又はコーヒー若しくはお茶等の習慣的飲食等により歯面に着色物が付着する外因性着色と、加齢等によって歯の内部に存在する象牙質の着色が透明度の高いエナメル質を通して見える場合や、エナメル質形成期にテトラサイクリン等の薬剤の使用によりエナメル質自体が着色した場合等の内因性着色に依存する。そこで、歯を根本的に白くするためには、外因性着色のみならず内因性着色にも対応する必要がある。
【0003】
歯を白くする手段としては、物理的研磨、酸化剤による化学的漂白、美白作用を有する成分の配合等が行なわれている。このうち、物理的研磨及び化学的漂白は、歯科医師又は歯科衛生士により行なわれるため、日常的に家庭でできるものではなく、場合によっては歯に対する影響も大きい。また、過酸化物を使用した漂白は、知覚過敏を引き起こしやすいという問題点がある。一方、美白作用を有する成分を配合した口腔用組成物としては、ヤニを除去するためにフィチン酸を配合した歯磨剤(特許文献1)、コウジ酸又はコウジ酸誘導体を配合した美白用貼付材(特許文献2)、水溶性ピロリン酸塩と水溶性ポリリン酸塩とを配合した歯磨剤(特許文献3)、ピロリン酸四ナトリウム塩とそれ以外の無機酸のナトリウム塩を配合した歯磨剤(特許文献4)等が知られている。
また、特許文献5には、有機酸及び/又は無機酸と、フッ素イオン供給化合物を含む口腔用組成物を歯に適用することにより、歯のエナメル質に光散乱層が形成され、遮蔽層として機能することで、内因性着色物質を除く必要もなく、かつ、歯を白く見えるようにする方法が記載されている。ここでは、歯のエナメル質層を構成するエナメル小柱間のわずかな間隙(以下、「小柱間隙」)に存在するリン酸カルシウムがフッ素を含有する微粒子に変化し、外部からの光に対して乱反射を生じる光散乱層が形成され、歯を白く見せる。
【特許文献1】特開昭56−18911号公報
【特許文献2】特開平10−17448号公報
【特許文献3】特開平9−175966号公報
【特許文献4】特開平10−182389号公報
【特許文献5】特開2004−217617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら美白作用を有する成分を配合した歯磨剤や、美白用貼付材等の使用による美白効果は十分でなく、より優れた美白効果を有し、歯を芯から白くすることのできる歯の美白手段が望まれていた。
従って、本発明の課題は歯を芯から白くすることのできる新たな歯の美白手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、歯のエナメル質層内において内因性着色物質を遮蔽する光散乱層を形成する歯の美白組成物について検討してきたところ、小柱間隙に着色物質が存在する限り、歯を白くする効果には限界があることが判明した。そこで、歯を有機酸及び/又は無機酸とフッ素イオン供給化合物を含む組成物と、過酸化物を含有する組成物とにより交互に処理すれば、小柱間隙に存在する着色物質を溶解除去しつつ、該小柱間隙にフッ素を含有する微粒子が形成され、歯が芯から白くなることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、歯を有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物と、過酸化物を含有する組成物とで交互に処理することを特徴とする歯の美白方法を提供するものである。
また本発明は、(A)有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物と、(B)過酸化物を含有する組成物とを組み合せてなり、歯を組成物(A)と組成物(B)とで交互に処理することを特徴とする歯の美白剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、歯の内部に存在する内因性着色物質を除去しつつ、内部(小柱間隙)にフッ素を含有する微粒子を形成させるため、歯が芯から白くなるという従来法よりも優れた美白効果が得られる。なお、本発明の歯の美白方法は美容目的で使用するのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の歯の美白方法は、有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物(A)と、過酸化物を含有する組成物(B)とで、歯を交互に処理するものである。
【0009】
前記組成物(A)に用いられる有機酸又は無機酸は、組成物(A)で歯を処理した時に、歯の表面又は内部を酸性pH環境に維持するために用いる。組成物(A)に用いる有機酸又は無機酸としては、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されない。
【0010】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の一塩基酸;シュウ酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、マレイン酸等の二塩基酸;乳酸、グリコール酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、グリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸等のケト酸;安息香酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸;エチレンジアミンテトラ酢酸等のポリカルボン酸類等が挙げられ、特に美白効果発現の点から酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、及びコハク酸が好ましい。また、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、リン酸等が挙げられ、美白効果発現の点からリン酸が好ましい。これらの有機酸又は無機酸のなかで、さらに組成物(A)の味・風味の改善、原料の入手しやすさ、コストの低減の点から乳酸、リンゴ酸、酒石酸がより好ましい。
【0011】
本発明で使用する有機酸又は無機酸は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、歯に適用した際のpHをより安定に保つために、有機酸及び/又は無機酸と共にそれらの塩を組み合わせて緩衝系を調整してもよい。
【0012】
組成物(A)中の有機酸及び/又は無機酸の含有量は、歯のエナメル質層へ適度な浸透を促進し、美白効果及び味の点から、0.05〜10質量%、さらに0.1〜5質量%、特に0.5〜3質量%が好ましい。
【0013】
組成物(A)に用いられるフッ素イオン供給化合物としては、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されず、例えばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化スズ、フッ化リチウム、モノフルオロホスフェイト(例えばモノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸アンモニウム等)等の無機性フッ化物、アミンフッ化物等の有機性フッ化物が挙げられる。中でも溶解性及び風味等の点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム、フッ化アンモニウムが好ましい。
【0014】
組成物(A)中のフッ素イオン供給化合物の含有量(フッ素原子換算量)は、美白効果及び味の点から0.01〜0.5質量%、さらに0.02〜0.3質量%、特に0.05〜0.2質量%が好ましい。
【0015】
さらに、本発明の組成物(A)には、さらにカリウムイオンを配合することができる。カリウムイオンを添加することにより、当該組成物に配合すべき酸(有機酸及び/又は無機酸)の効果を強めることができ、酸の量が少なくても光散乱層を形成することができる。また、酸とカリウムイオンを併用することにより、組成物(A)の味覚が良好となり、使用感が改善される。
【0016】
カリウムイオンは、本発明における必須成分又は任意成分の対イオンとして添加することもできる。例えば、組成物(A)の必須成分であるフッ素イオン供給成分としてフッ化カリウムを用いたり、有機酸及び/又は無機酸と共にそれらのカリウム塩又は水酸化カリウムを用いて緩衝液系を調整することで、カリウムイオンを添加することができる。
【0017】
また、カリウムイオンを供給する化合物として配合することもできる。カリウムイオン供給化合物としては、口腔内で使用可能な物質であればよく、例えば、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、酒石酸カリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、ソルビン酸カリウム、硝酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。
本発明に使用するカリウムイオンとしては、組成物(A)のフッ素イオン供給成分に含まれるフッ化カリウムが、有機酸及び/又は無機酸と併用することで緩衝液系を調整する成分として使用可能な水酸化カリウムが、又は風味や保存安定性の点から、塩化カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウムとして配合することが好ましい。
【0018】
カリウムイオンの含有量は、組成物(A)中の酸濃度を充分に低くしながらも優れた歯の美白効果を得る点から、組成物(A)中に0.1〜5質量%、特に0.5〜3質量%含有することが好ましい。
【0019】
組成物(A)中の水の含有量は、5〜90質量%であるのが好ましい。緩衝能を発揮するためには水溶液状態であることが本質的に必要である。また、エナメル質に対して直ちにフッ素イオンを供給するためにも水が必要である。
【0020】
本発明の組成物(A)は、フッ素含有微粒子を歯のエナメル質層の適度な深さまで形成させる点から、水で30質量%に稀釈したときのpHが3〜6、特に4〜5.5であることが好ましい。さらに、該pH範囲で緩衝系を有するものであることが、口腔内においてフッ素含有微粒子を形成するpH環境を維持する能力が特に優れており、美白効果の点から、さらに安定性の観点から好ましい。充分な緩衝能をもたせるためには、酸と塩の比をモル比で10対1〜1対10とするのが好ましい。塩としては、上記有機酸及び/又は無機酸のナトリウム塩、カリウム塩、アルギニン塩、アンモニウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩、カリウム塩のアルカリ金属塩等が使用できる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを別個に配合し、組成物(A)中で酸性化合物とその塩の緩衝液系を形成させてもよい。
【0021】
本発明において、組成物(A)の好ましい形態としては、有機酸及び/又は無機酸及びその塩としてはリンゴ酸及び/又は酒石酸及びその塩を0.03〜0.5mol/kgと、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物をフッ素原子換算で0.02〜0.2質量%と、カリウムイオン 0.03〜0.5mol/kgと、水とを含み、緩衝能を有し、水で30質量%に稀釈したときのpHが3〜5.5の口腔用組成物であると、歯の美白効果が高く、しかも酸味が抑えられ使用感に優れている。
【0022】
本発明の組成物(A)には、さらに任意成分として陰イオン界面活性剤を含有させることが、歯の美白効果をさらに高めるうえで好ましい。当該陰イオン界面活性剤としては、高級アルキル硫酸エステル塩、N−アルキルザルコシン塩、高級脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸塩が好ましい。これらの界面活性剤のアルキル基又は脂肪酸残基の炭素数は8〜24、特に8〜18が好ましい。また、これら界面活性剤の塩としてはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好ましい。当該界面活性剤は、歯の美白効果の点から、組成物(A)中に0.01〜5質量%、特に0.2〜2質量%含有させるのが好ましい。
【0023】
組成物(B)に用いられる過酸化物としては、小柱間隙中の着色物質を除去できるものであれば制限されず、例えば過酸化水素、過酸化尿素、過酸化カルシウム、過酸化カルバミドが挙げられ、このうち歯の美白効果の点から過酸化水素及び/又は過酸化尿素が好ましい。
【0024】
これらの過酸化物は、歯の美白効果及び口腔組織保護の点から、組成物(B)中に1〜40質量%、さらに2〜15質量%、特に5〜10質量%含有するのが好ましい。
【0025】
組成物(B)には、さらにフッ素イオン供給化合物を配合することができる。組成物(B)中のフッ素イオン供給化合物の含有量は、再石灰化促進(色戻りの防止)の点から0.01〜0.5質量%、特に0.02〜0.2質量%が好ましい
【0026】
組成物(B)は過酸化物を含む組成物であれば、どのような形態でもよく、水溶液もしくは水性ゲル状物である場合には、水の量は5〜99質量%とするのが好ましい。
【0027】
組成物(A)及び(B)には、前記成分の他、例えば湿潤剤、粘結剤、ゲル化剤、粘着剤、発泡剤、発泡助剤、研磨剤、増量剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができる。
【0028】
湿潤剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール、エリスリトール等が挙げられる。
また、溶液状組成物の粘稠剤あるいはゲル状組成物のゲル化剤としてさらにはペースト状組成物とする場合の粘結剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、グアガム、トラガントガム、カルボキシビニルポリマー、コンドロイチン硫酸ナトリウム等を含有させることができる。
特に緩衝液系の為に高塩濃度となる場合は、非イオン性のポリマーすなわちヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアガム等を含有させることもできる。
【0029】
発泡剤や発泡助剤としては、陰イオン、非イオン、陽イオン、及び両性界面活性剤が使用できる。陰イオン性界面活性剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、アミノ酸系界面活性剤、スルホコハク酸系界面活性剤等が含まれる。また、非イオン性界面活性剤には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等が挙げられる。
研磨性粉体としては、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、酢酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、合成樹脂系研磨剤等が好適に用いられる。
【0030】
組成物(A)及び(B)は、例えば溶液状、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、粉歯磨剤、潤性歯磨剤、練り歯磨剤、液状歯磨剤、洗口剤等の口腔用組成物、或いは、シートやトレーに塗布して歯表面を処理するためのジェルとして用いることができる。
【0031】
組成物(A)及び(B)は、その剤型に応じて、口腔用組成物の一般的な製法に準じて製造することができる。例えば練歯磨剤の場合には、精製水、研磨剤、湿潤剤、粘結剤、香味剤、保存料、甘味剤、緩衝液成分及びフッ素イオン供給成分、さらに必要に応じてその他の薬効成分等の各成分を処方量計測した後、一定の製造条件に従って混合、粘結剤を膨潤させ、さらに研磨剤及び発泡剤を加えて脱泡混合することにより製造できる。必要に応じpHの調整は組成物調製後に行っても良い。
【0032】
本発明においては、歯を組成物(A)と組成物(B)とで交互に処理することが重要である。交互に処理することにより、小柱間隙に存在する着色物質が除去されるとともに、小柱間隙にフッ化カルシウム等のフッ素含有微粒子が形成される。ここで交互に処理するとは、組成物(B)で処理した後に組成物(A)で処理するという操作を継続して行うことが好ましい。例えば、通常の歯磨きをまず組成物(B)で行った後に組成物(A)を使用すればよい。
組成物(A)及び(B)の形態としては、上記のように組成物(A)及び(B)共に歯磨剤としてあるいは洗口剤として使用すること;組成物(B)で歯磨きした後に組成物(A)の洗口液で口を漱ぐ;ジェル状の組成物(B)を、口腔保護用プレートを使用して歯面に塗って処理した後に組成物(A)で歯磨きする、あるいは組成物(A)の洗口剤で口を漱ぐ等とすることもできる。この場合、口腔保護用プレートのかわりにジェル状組成物(B)が予め塗布されているシートを歯面に貼っても良い。
【0033】
また、各々の組成物の適用時間は、組成物の形態に応じて設定することができる。例えば、歯磨剤の場合は1分〜10分間程度、洗口剤の場合は20秒〜5分間程度、プレートやシートで適用する場合には1〜60分間、好ましくは10〜40分程度適用することができる。また、組成物(A)と組成物(B)との交互処理の回数は、組成物(A)と(B)との両方で処理することを1サイクル(1回)として、1日1〜5回を継続して行うことが好ましく、例えば3日以上、特に7日以上継続することが好ましい。
【0034】
このようにすることにより、歯のエナメル質層の深部に存在する着色物質が組成物(B)の作用により溶解除去され、その部分にフッ素含有微粒子が形成される。これにより、エナメル質層深部に存在した着色物質が除去されることに基づく美白効果と、着色物質が除去された部分、すなわち従来の手段よりもさらに深部にフッ素含有微粒子が形成されることによる美白効果の向上とが相俟って、歯の芯から優れた美白効果が達成される。
【0035】
フッ素含有微粒子は、一定範囲の酸性pHに保たれた口腔内において、フッ素イオン供給化合物からのフッ素イオンと、歯の成分や唾液中の成分とが反応して形成され、主にフッ化カルシウムから構成されるが、通常は、リン酸カルシウム・フッ化物複合体等の他の成分も含まれる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
試験例1
表1に示す組成物に従って、組成物(A1)、組成物(B1)及び組成物(AB1)の練り歯磨剤を調製した。
表1の組成物をイオン交換水で30質量%に希釈し、この希釈液の中に牛の歯(表面は鋭面研磨)を所定時間浸漬した。なお、本発明方法の場合は、組成物(B1)で処理した後、続けて組成物(A1)で処理をするサイクル(交互処理)を1サイクルとして、所定回数行った。その後、美白効果を評価した。
【0038】
美白効果の評価
(色の変化)
色差計で浸漬した牛の歯の白さの変化を測定し、CIE-1976L***表色系(JIS Z8729−(1980))を用いて色差を示した。L***を用いた三次元座標系によって色の相互関係を色感覚に近いスケールによって表すことができる(図1)。図1において、縦軸L*で視感明度を示し、a*、b*により色度を示す。L***表色系において、b*の値が0に近いほど、黄色味が少なく、白さが増すことを意味する。
【0039】
(光散乱層の有無の評価方法)
試験後の歯を割って、その割断面をマイクロスコープで写真撮影した。エナメル質の表層下に光散乱層が形成されているか否かを確認した(図2)。光散乱層が認められたもの(図2(a))を○、光散乱層が認められなかったもの(図2(b))を×とした。
また、この光散乱層が表面から500μm以上の深さまで存在するものを「光散乱層の深さが500μm以上」の評価を○、深さが500μmに満たないものを×とした。
【0040】
表2に示したように、組成物(A1)による48時間単独処理(試験例1-1)、組成物(B1)による48時間単独処理(試験例1-2)、組成物(AB1)単独処理(試験例1-3)、及び組成物(B1)48時間浸漬後続けて組成物(A1)で48時間処理することを1回行った(試験例1-4)場合に比べて、本発明方法の交互処理(試験例1-5)によりb*は大きく低下している。これは試験例1−5の歯片が白色になっていることを意味する。また、光散乱層の深さが500μm以上にも達している。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
試験例2
表1に示す組成の歯磨剤をそのまま使用し、被験者各15人が、表3に示す条件で朝晩2回歯磨きを2週間継続して行い、処理前後の歯を写真撮影し、評価者により色の変化を判定した。その結果をあわせて表3に示す。
【0044】
<評価基準>
○:評価者により10名以上が白くなったと評価
△:7〜9名が白くなったと評価
×:白くなったと評価されたものが6名以下
組成物(B1)で2分間歯磨きし、次いで組成物(A1)で2分間歯磨きする操作をした場合(試験例2−3)は、組成物(A1)のみで4分間歯磨をした場合(試験例2−1)、又は組成物(AB1)のみで4分間で歯磨きした場合(試験例2−2)に比べて、美白効果が優れていた。また、試験例2−1は、過酸化物を使用しているにもかかわらず知覚過敏の症状を訴えた者は15名中0名であった。
【0045】
【表3】

【0046】
試験例3
表4に示す組成に従って、組成物(A2)、組成物(B2)及び組成物(AB2)のジェル状組成物を調製した。このジェル状組成物3gを口腔保護用プレート(図3)に塗布し、このプレートを、歯を覆うようにセットした。
被験者各15名に対し、表5に示す条件で朝晩の2回、プレートを1時間装着することを1週間行った。組成物(A2)もしくは(AB2)のみを1時間連続で使用した場合(試験例3−1及び3−2)、もしくは組成物(B2)を30分装着し、ついで組成物(A2)を30分装着して合計1時間セットした場合(試験例3−3)のそれぞれについて1週間後に試験例2と同様にして美白効果(色の変化)の評価を行った。評価基準は試験例2と同様である。
【0047】
表5の結果より、試験例3−3は試験例3−1及び3−2に比べて美白効果が優れていた。また、過酸化物を使用しているにもかかわらず知覚過敏の症状を訴えた者は15名中0名であった。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】CIE−1976 L***表色系(JIS Z8729−(1980))を用いた三次元座標系によって色の相互関係を示す図である。
【図2】歯の割断面をマイクロスコープで写真撮影した結果を示す図である。
【図3】試験例3で用いた歯保護用トレーを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物と、過酸化物を含有する組成物とで交互に処理することを特徴とする歯の美白方法。
【請求項2】
前記有機酸及び/又は無機酸が、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸及びリン酸から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の美白方法。
【請求項3】
前記過酸化物が、過酸化水素及び/又は過酸化尿素である請求項1又は2記載の美白方法。
【請求項4】
前記フッ素イオン供給化合物が、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム及びフッ化アンモニウムから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の美白方法。
【請求項5】
(A)有機酸及び/又は無機酸並びにフッ素イオン供給化合物を含有する組成物と、(B)過酸化物を含有する組成物とを組み合せてなり、歯を組成物(A)と組成物(B)とで交互に処理することを特徴とする歯の美白剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−201732(P2008−201732A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40655(P2007−40655)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】