説明

歯付ベルトの製造方法

【課題】周方向で均一な強度を有する心線と歯布を形成でき、高強度で信頼性の高い歯付ベルトを製造することのできる歯付ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成し、マンドレルの内部に配置された成形型の周りに歯布を配置する第1の工程と、成形型の周りに歯布を配置した姿勢で歯布とマンドレルを分離する第2の工程と、歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する第3の工程と、心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とする第4の工程からなり、第4の工程において、歯布が成形型側に案内されて歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部の表面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯付ベルトの製造方法に関し、特に繋ぎ目のない心線と歯布によってベルト強度を高めた動力伝達用の歯付ベルトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば、自動車用エンジンや工作機械等における二軸間で動力伝達する部材として歯付ベルトが広く採用されている。特に、エンジンで使用される歯付ベルトは「タイミングベルト」とも呼ばれている。
【0003】
上記する歯付ベルトは一般に合成ゴムやポリウレタン樹脂から形成されており、金属からなるローラーチェーンと比較して軽量であり、柔軟であることから回転時にも低騒音であって、さらに潤滑油等による潤滑作業も不要である。その一方で、歯付ベルトは素材自体の強度が低く、素材の劣化による切れが発生しやすいことから剛性や耐久性に関する課題も含んでいる。
【0004】
そこで、従来の歯付ベルトにおいては、歯付ベルト内部にたとえばガラス繊維やアラミド繊維からなる心線を埋設するとともに、ベルト歯部表面をナイロン織布からなる歯布で補強し、歯付ベルトの長手方向の伸びを抑制することで、歯付ベルト全体の剛性を向上させている。
【0005】
ここで、図8を参照して、上記する従来の歯付ベルトの製造方法を説明する。まず、歯布シートから所定寸法の歯布Sを裁断し、この歯布Sの両端部を縫合(縫合部H)して環状に形成する。次いで、外周面が歯付ベルトのベルト歯部およびベルト溝部と相補的な形状を有する成形型Kの周りに環状の歯布Sを装着する。その歯布Sの周りにガラス繊維または繊維束からなる心線Cを螺旋状に巻き付けて配置し、合成ゴムからなるベルト素材Fをその心線Cの周りに巻き付ける。そして、高温雰囲気下でベルト素材Fを加硫した後、所定温度まで冷却して心線Cと歯布Sをベルト材Gで一体に形成する。これにより、内部に心線Cが埋設され、ベルト歯部Tとベルト溝部Dが交互に形成され、その歯先側の表面が歯布Sで覆われた環状のベルトスラブAが形成される。そして、このベルトスラブAを成形型Kから脱型し、ローラカッターで所定幅に裁断することによって歯付ベルトが作製される。
【0006】
ところで、上記する歯付ベルトにおいては、環状に形成された歯布Sの一部に構造弱部となり得る縫合部Hが存在している。
【0007】
たとえば、図9(a)で示すように、動力伝達の際にベルト歯部Tに力Fが作用すると、ベルト歯部Tが力F方向に倒れるように変形し、ベルト歯部Tとベルト溝部Dの境界となる歯元の境界部Pには矢印X方向の引張り力が作用するとともに、境界部Qにはそれとは反対方向の矢印Y方向の引張り力が作用する。したがって、図示するように構造弱部となり得る縫合部Hがベルト溝部Dに存在する場合には、この縫合部Hに対して引張り応力が作用し、それが所定の応力にまで到達すると縫合部Hにおいて歯布Sの切れが発生し、それを起点としてベルト材Gの内部に向かう剪断破壊が進展して(破線L)ベルトBが破断してしまうといった問題がある。また、図9(b)で示すように、縫合部Hがベルト歯部Tとベルト溝部Dの境界となる歯元の境界部Pに存在する場合には、上記ベルト歯部Tの変形に伴って縫合部Hにて応力が集中し、それが所定の応力にまで到達すると縫合部Hにおいて歯布Sの切れが発生し、それを起点としてベルト材Gの内部に向かう剪断破壊が進展して(破線M)、その上部のベルト歯部Tが欠けてしまうといった問題もある。したがって、高負荷条件下においても歯布Sの切れを抑制し、歯付ベルトBの破損を効果的に抑止できる歯付ベルトの開発が望まれている。
【0008】
上記する問題に対して、ベルト強度を高めることを目的とした歯付ベルトの製造方法が特許文献1〜3に開示されている。
【0009】
特許文献1に開示されている歯付ベルトの製造方法は、歯型溝群を設けた円筒状の成形型の周りにウレタン不浸透性樹脂層を有する歯布を巻装し、この歯布の周りに心線を螺旋状に巻き付け、歯布と心線をポリウレタンエラストマーからなるベルト材で一体とする方法である。
【0010】
また、特許文献2に開示されている歯付ベルトの製造方法は、たて糸とよこ糸を織成した帆布と所定の厚みを有する接着剤層を基材層の片面に形成した不浸透性樹脂層を、その基材層が外側に位置するように重ね合わせ、これを加熱押圧して接着剤層を溶融させ、この溶融した接着剤を帆布に食い込ませて歯布を形成し、この歯布を歯部表面に配置して歯付ベルトを作製する方法である。
【0011】
また、特許文献3に開示されている歯付ベルトの製造方法は、ポリウレタンエラストマーを塗布した歯布を一対の型付盤にて挟持し、これを加熱加圧して歯布の歯型型付けを行い、この歯型型付け後の歯布を成形型に巻装して歯付ベルトを作製する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−213282号公報
【特許文献2】特開平6−213283号公報
【特許文献3】特開平1−24610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されている歯付ベルトの製造方法においては、ベルト材として所定の材料からなるプレポリマーに硬化剤を配合してなるポリウレタンエラストマーを使用することで、耐熱性および耐寒性に優れた歯付ベルトを製造することができる。
【0014】
また、特許文献2に開示されている歯付ベルトの製造方法においては、接着剤層のアンカー効果によって歯布と不浸透性樹脂層を強固に接着することができ、高い作動温度環境下や高負荷条件下においても歯布の磨耗を低減でき、耐久性に優れた歯付ベルトを製造することができる。
【0015】
また、特許文献3に開示されている歯付ベルトの製造方法においては、予め歯布の型付け作業を行うことによって当該歯布を成形型の正確な位置に配置することができ、歯布のずれやしわつき、折れ曲がり等を抑制して高品質な歯付ベルトを製造することができる。
【0016】
しかしながら、特許文献1,2に開示されている歯付ベルの製造方法においては、その歯付ベルトで使用される歯布が歯布シートから所定の長さで裁断された後、熱プレスによる接着または溶着等によって筒状にエンドレス加工されており、依然として歯布の一部に構造弱部となり得る接合部が存在する。また、その接合部によって歯布の周方向での強度が不均一となり、これが歯付ベルト全体の強度を不均一とし、使用時に特定の箇所に応力が集中するといった課題がある。
【0017】
また、特許文献3に開示されている歯付ベルトの製造方法においては、型付け後の歯布を成形型の所定の位置に配置した後、その両端部を軽く押さえ込んで無端状に形成していることから、歯布の端部における強度が他の箇所の強度と相違し、歯布の周方向での強度が不均一となるといった課題がある。また、品質を高めるために予め型付け作業を行う必要があり、製造工数の増加に繋がるといった課題もある。
【0018】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、心線と歯布について周方向に構造弱部となり得る繋ぎ目がなく、かつ周方向で均一な強度を備え、もってベルト強度を効果的に高めることができる歯付ベルトの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成すべく、本発明による歯付ベルトの製造方法は、内部に心線が埋設され、ベルト歯部とベルト溝部が交互に形成され、該ベルト歯部とベルト溝部の表面に歯布を備えた環状を呈する歯付ベルトの製造方法であって、前記歯付ベルトの内周面の周長を有する円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成し、該マンドレルの内部に配置された成形型であって、外周面が前記歯付ベルトのベルト歯部およびベルト溝部と相補的な形状を有する成形型の周りに前記歯布を配置する第1の工程と、前記成形型の周りに前記歯布を配置した姿勢で歯布とマンドレルを分離する第2の工程と、前記成形型および前記歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する第3の工程と、心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体としてベルト歯部とベルト溝部を形成する第4の工程からなり、前記第4の工程において、前記歯布が前記成形型側に案内され、該歯布が前記歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部の表面に配置されるものである。
【0020】
ここで、心線は、歯付ベルトの長手方向(周方向)の剛性を保持する高耐熱性かつ高剛性の繊維束からなるものであって、この繊維束を構成する素材としては、たとえば、パラ系アラミド繊維やメタ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエステル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維などを適用することができる。
【0021】
また、歯布はたとえばナイロン繊維などから構成することができる。
【0022】
また、ベルト材としては、たとえばクロロプレンゴムや二トリルブタジエンゴムなどの合成ゴムや、合成ゴムよりも剛性の高いポリウレタン樹脂を適用することができる。
【0023】
なお、上記する心線や歯布は、合成ゴムの加硫温度以上の融点を有する繊維またはポリウレタン樹脂の硬化温度以上の融点を有する繊維から構成されているものである。また、ブレーディングによって形成された心線は溶融したベルト素材を透過させ、ブレーディングによって形成された歯布は溶融したベルト素材を透過させないものであることが好ましい。
【0024】
上記する製造方法によれば、心線と歯布の双方をブレーディングによって形成することで、歯付ベルトの周方向に繋ぎ目がなく、周方向で均一な剛性を有する心線と歯布を容易に形成することができる。したがって、心線と歯布をベルト材で一体とし、ベルト歯部とベルト溝部を形成して環状の歯付ベルトを作製した際に、歯付ベルト全体の強度を均一化してベルト強度を効果的に高めることができる。また、ブレーディングの繰り返し回数やブレーディングで使用される繊維の種類や交叉角度を適宜変更することで、心線や歯布の厚さや各方向の強度を容易に調整することができ、歯付ベルトの全領域を効果的に強化することができる。
【0025】
ここで、前記第1の工程においては、円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成した後、該マンドレルの内部に前記成形型を配置してもよいし、円筒状の前記マンドレルの内部に前記成形型を配置した後、該マンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成してもよい。
【0026】
また、前記第4の工程においては、前記成形型および前記歯布の周りに形成された前記心線の周りにベルト素材を配置し、該ベルト素材を高温雰囲気下で溶融させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体としてもよいし、前記成形型および前記歯布の周りに形成された前記心線の周りに別途の成形型を配置し、前記成形型と前記別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体としてもよい。
【0027】
ここで、ベルト素材を加硫させる場合にはたとえばクロロプレンゴム等の合成ゴムを適用することができる。また、成形型と別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させる場合には、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂や柔軟性熱可塑性樹脂などを適用することができ、特にウレタン系のポリウレタン樹脂などが使用される。
【0028】
また、上記するようにブレーディングによって形成された歯布がベルト素材を透過しないものであれば、第4の工程においてベルト素材を加硫させる、あるいはベルト素材を含浸させる際に、合成ゴムやポリウレタン樹脂等のベルト素材が流れる際の流体圧によって歯布を確実に歯付ベルトの内周面側へ案内することができる。
【0029】
本発明の製造方法によって得られた歯付ベルトは、環状を呈する歯付ベルトの周方向に繋ぎ目がなく、周方向で略均一な強度を有する心線と歯布を有することで、優れたベルト強度を備えた歯付ベルトとなる。また、心線と歯布をブレーディングによって作製することで、歯布の端部を縫合する工程が不要となり、心線と歯布の作製が容易となる。また、複数の繊維または繊維束を適宜の交叉角度で組み合わせてなるブレーディングを使用することで、たとえば心線を多層に形成することができるとともに、ブレーディングに使用される繊維の強度や交叉角度を調整して心線や歯布の厚みや強度を容易に調整することができ、歯付ベルトの強度を効果的に高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の歯付ベルトの製造方法によれば、歯付ベルトを構成する心線や歯布の作製が容易であり、構造弱部となり得る接合部等の発生を抑制でき、周方向で均一な強度を有する心線や歯布を形成することができ、もって歯付ベルト全体が強化されて破損が抑制された歯付ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1のフロー図である。
【図2】本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1の第1の工程を説明した図であって、(a)はマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成する工程を説明した図であり、(b)はブレーディングによって形成された歯布を模式的に示した斜視図であり、(c)は図2(a)のA−A矢視図である。
【図3】図2で示す第1の工程に続いて、本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1の第2の工程を説明した図であって、(a)は歯布とマンドレルを分離する工程を説明した図であり、(b)は図3(a)のB−B矢視図である。
【図4】図3で示す第2の工程に続いて、本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1の第3の工程を説明した図であって、(a)は歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する工程を説明した図であり、(b)は図4(a)のC−C矢視図である。
【図5】図4で示す第3の工程に続いて、本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1の第4の工程を説明した図であって、(a)は心線の周りにベルト素材を配置した工程を説明した図であり、(b)は図5(a)のD−D矢視図であり、(c)はベルト素材を高温雰囲気下で溶融させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とした歯付ベルトを示した縦断面図である。
【図6】本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態2のフロー図である。
【図7】本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態2の第4の工程を説明した図であって、(a)は第3の工程に続いて、心線の周りに別途の成形型を配置した工程を説明した図であり、(b)は図7(a)のE−E矢視図であり、(c)は成形型と別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とした歯付ベルトを示した縦断面図である。
【図8】従来の歯付ベルトの製造方法を説明した図である。
【図9】従来の歯付ベルトを示した縦断面図であって、(a)は縫合部がベルト溝部に存在する歯付ベルトを示した図であり、(b)は縫合部がベルト歯部とベルト溝部の境界となる歯元の境界部に存在する歯付ベルトを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1,2を説明する。
【0033】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1の歯付ベルトの製造方法のフロー図を示したものである。図示するように、まず、第1の工程において、円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成し、マンドレルの内部に配置された成形型の周りに歯布を配置する(S11)。次いで、第2の工程において、成形型の周りに歯布を配置した姿勢で歯布とマンドレルを分離する(S12)。次に、第3の工程において、成形型および歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する(S13)。そして、第4の工程において、心線の周りにベルト素材を配置し、ベルト素材を高温雰囲気下で溶融させて心線と歯布をベルト材で一体とし、歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部を交互に形成する(S14)。ここで、第4の工程においては、歯布が成形型側に案内されて歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部の表面に配置されることとなる。
【0034】
図2〜図5は、本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態1の第1の工程〜第4の工程を具体的に説明した図である。
【0035】
まず、図2(a)で示すように、第1の工程において、円筒状のマンドレル60の外周面にブレーディングによって歯布6を形成する。また、この第1の工程においては、マンドレル60の内部に、外周面が歯付ベルト10のベルト歯部4およびベルト溝部5(図5(c)参照)と相補的な形状を有する成形型50を配置する。これにより、成形型50の周りに上記するブレーディングによって形成された歯布6が配置された姿勢となる。
【0036】
ここで、上記するブレーディングによって形成された歯布6は、図2(b)で示すように、複数の繊維(撚り糸)がそれぞれ固有の交叉角度で組んで編まれた構成となっている。より具体的には、図2(b)で示す円筒状の歯布6は、その軸心方向に対して傾斜した方向の2本の繊維(撚り糸)1A、1Bとその軸心方向に延びる繊維(撚り糸)2から構成されており、繊維1Aと繊維2は交叉角度θA、繊維1Bと繊維2は交叉角度θBでそれぞれ交叉して編み込まれている。ここで、歯布6は、編み込まれた繊維間の隙間が極めて小さく、後述する第4の工程において溶融したベルト素材(たとえば、合成ゴム)が透過しないように複数の繊維が密に編み込まれている。なお、繊維同士の交叉角度θA,θBは、歯布6の軸心方向または周方向の伸縮性や必要強度等に応じてたとえば10°〜80°の範囲内で適宜設定することができる。また、繊維1A、繊維1B、および繊維2は同種の繊維から構成してもよいし、それぞれ異なる種類の繊維から構成してもよい。
【0037】
なお、上記する第1の工程にて形成された歯布6は、後述する第4の工程において歯付ベルト10のベルト歯部4およびベルト溝部5の表面に配置されるものである。したがって、歯布6が形成されるマンドレル60の外周面は歯付ベルト10の内周面の周長、すなわち図2(c)で示す成形型50の外側表面の周長と同じ周長を有するものである。
【0038】
次いで、第2の工程においては、図3(a)で示すように、成形型50の周りに歯布6が配置された姿勢で歯布6とマンドレル60を分離する。なお、歯布6とマンドレル60を分離する際には、歯布6の端部を把持部(不図示)で把持し、マンドレル60を歯布6から引き抜くことで、歯布6とマンドレル60を容易に分離することができる。なお、歯布6とマンドレル60を分離すると、成形型50と歯布6との間には図3(b)で示すような空隙が発生することとなる。
【0039】
このように成形型50の周りに歯布6を配置した後、図4(a)で示すように、第3の工程において、成形型50および歯布6の周りにブレーディングによって心線3を形成する。この第3の工程においては、図4(b)で示すように心線3の巻き付け力によって歯布6が成形型50側に押し付けられることで、図3(b)で示す成形型50と歯布6との間の空隙が解消され、歯布6の一部が成形型50の溝部51に入り込んで配置されることとなる。
【0040】
ここで、上記する心線3は、歯布6と同様ブレーディングによって作製されるものの、歯布6と比較して編み込まれた繊維間の隙間が相対的に大きく、後述する第4の工程において溶融したベルト素材がその隙間を介して心線3を透過できるようになっている。すなわち、この心線3は、歯布6と比較してブレーディングで使用される繊維同士が相対的に疎に編み込まれた構成となっている。一方で、この心線3は、ブレーディングに使用される繊維同士の交叉角度等を適宜設定することで、繊維同士を重ね合わせて積層構造を構成することができ、歯付ベルト10の伸縮性や強度を適宜調整することができる。
【0041】
そして、成形型50の周りに歯布6と心線3を形成した後、第4の工程において、歯布6や心線3の周りにベルト素材8を配置し、ベルト素材8を高温雰囲気下で溶融させ、その後所定温度まで冷却して心線3と歯布6とベルト歯部4とベルト溝部5をベルト材7で一体とする。より具体的には、まず、図5(a)および図5(b)で示すように、歯布6や心線3の周りに合成ゴムからなるベルト素材8を巻き付けて配置する。そして、これらを高温雰囲気下に配置し、ベルト素材8を溶融させた後、所定温度まで冷却してベルト素材8を固化させ、図5(c)で示すように、心線3と歯布6とベルト歯部4とベルト溝部5をベルト材7で一体とする。
【0042】
ここで、上記する加硫工程においては、心線3は溶融したベルト素材8を透過させ、歯布6はベルト素材8を透過させないことから、図5(b)で示すように歯布6や心線3の周りに配置され、高温雰囲気下で溶融したベルト素材8は、心線3の編み込まれた繊維間の隙間を通って成形型50の方向へ流動し、歯布6はその流れの圧力(流体圧)によって成形型50側に案内されて、歯付ベルト10のベルト歯部4とベルト溝部5の表面(成形型側)に配置されることとなる。
【0043】
なお、既述する歯付ベルト10の成形品においては、脱型後、その背面を研磨して表面処理し、ロットナンバー等を背面に印刷してロールカッター等で所望の幅に裁断される。
【0044】
上記する製造方法を用いることで、図5(c)で示すように、歯付ベルト10の周方向に繋ぎ目のない心線3が内部に埋設され、ベルト歯部4とベルト溝部5が交互に形成され、ベルト歯部4とベルト溝部5の表面に繋ぎ目のない歯布6を備えた歯付ベルト10が製造されることとなる。このように心線3と歯布6をブレーディングによって作製することで、歯付ベルト10の周方向(長手方向)で略均一な強度を有する心線3と歯布6を形成することができ、構造弱部の発生を抑制して心線3や歯布6の破損を抑制し、歯付ベルト10の強度を効果的に高め、歯付ベルト10の製品信頼性を向上させることができる。したがって、たとえば自動車用エンジンに使用する際にも歯付ベルトの幅を低減することができ、高剛性かつ高品質を維持しながら歯付ベルトおよびエンジン部品等の体格の小型化を実現することができる。
【0045】
[実施の形態2]
実施の形態2は、実施の形態1の第4の工程における加硫工程に代えて、樹脂含浸工程を適用した歯付ベルトの製造方法である。
【0046】
図6は、実施の形態2の歯付ベルトの製造方法のフロー図を示したものである。図示するように、まず、第1の工程において、円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成し、マンドレルの内部に配置された成形型の周りに歯布を配置する(S21)。次いで、第2の工程において、成形型の周りに歯布を配置した姿勢で歯布とマンドレルを分離する(S22)。次に、第3の工程において、成形型および歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する(S23)。そして、第4の工程において、心線の周りに別途の成形型を配置し、成形型と別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させて心線と歯布をベルト材で一体とし、歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部を交互に形成する(S24)。ここで、第4の工程においては、歯布が成形型側に案内されて歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部の表面に配置されることとなる。
【0047】
図7は、本発明の歯付ベルトの製造方法の実施の形態2の第4の工程を説明した図であって、図7(a)は第3の工程に続いて、心線の周りに別途の成形型を配置した工程を説明した図であり、図7(b)は図7(a)のE−E矢視図であり、図7(c)は成形型と別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とした歯付ベルトを示した図である。
【0048】
なお、実施の形態2における第1の工程〜第3の工程は、図2〜図4で示す実施の形態1の第1の工程〜第3の工程と同様の工程であるため、その詳細な説明を省略する。
【0049】
この実施の形態2においては、図2〜図4を参照して説明したように、第1の工程〜第3の工程によって成形型70の周りに歯布16と心線13を形成した後、第4の工程において、心線13の周りに別途の成形型80を配置し、成形型70と別途の成形型80で画定された領域にベルト素材(不図示)を含浸させて心線13と歯布16とベルト歯部14とベルト溝部15をベルト材17で一体とする。より具体的には、まず、図7(a)および図7(b)で示すように、心線13の周りに2つの可動型81,82からなる別途の成形型80を配置する。そして、成形型70と可動型81および可動型82で画定された領域にポリウレタン樹脂からなるベルト素材を含浸させた後、所定温度まで冷却してベルト素材を固化させ、図7(c)で示すように、心線13と歯布16とベルト歯部14とベルト溝部15をベルト材17で一体とする。
【0050】
ここで、上記する樹脂含浸工程において、別途の成形型80の所定の位置に設けられた樹脂注入口(不図示)からベルト素材を注入して充填することで、ベルト素材は心線13の繊維間の隙間を通って成形型70側へ流動し、実施の形態1と同様に、歯布16はその流れに圧力(流体圧)によって成形型70側へ案内されて、歯付ベルト20のベルト歯部14とベルト溝部15の表面(成形型側)に配置されることとなる。
【0051】
このようにベルト材17としてたとえばポリウレタン樹脂を用いて心線13と歯布16とベルト歯部14とベルト溝部15を一体とすることで、合成ゴムを用いる場合と比較してベルト全体の剛性を高めることができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B…軸心方向に対して傾斜した方向の繊維、2…軸心方向の繊維、3…心線、4…ベルト歯部、5…ベルト溝部、6…歯布、7…ベルト材(合成ゴム)、8…ベルト素材、10…歯付ベルト、50…成形型、60…マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に心線が埋設され、ベルト歯部とベルト溝部が交互に形成され、該ベルト歯部とベルト溝部の表面に歯布を備えた環状を呈する歯付ベルトの製造方法であって、
前記歯付ベルトの内周面の周長を有する円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成し、該マンドレルの内部に配置され、外周面が前記歯付ベルトのベルト歯部およびベルト溝部と相補的な形状を有する成形型の周りに前記歯布を配置する第1の工程と、
前記成形型の周りに前記歯布を配置した姿勢で歯布とマンドレルを分離する第2の工程と、
前記成形型および前記歯布の周りにブレーディングによって心線を形成する第3の工程と、
心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体としてベルト歯部とベルト溝部を形成する第4の工程からなり、
前記第4の工程において、前記歯布が前記成形型側に案内され、該歯布が前記歯付ベルトのベルト歯部とベルト溝部の表面に配置される歯付ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、円筒状のマンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成した後、該マンドレルの内部に前記成形型を配置する、もしくは、円筒状の前記マンドレルの内部に前記成形型を配置した後、該マンドレルの外周面にブレーディングによって歯布を形成する請求項1に記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記第4の工程において、前記成形型および前記歯布の周りに形成された前記心線の周りにベルト素材を配置し、該ベルト素材を高温雰囲気下で溶融させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とする請求項1または2に記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項4】
前記ベルト材が合成ゴムからなる請求項3に記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項5】
前記第4の工程において、前記成形型および前記歯布の周りに形成された前記心線の周りに別途の成形型を配置し、前記成形型と前記別途の成形型で画定された領域にベルト素材を含浸させて心線と歯布とベルト歯部とベルト溝部をベルト材で一体とする請求項1または2に記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項6】
前記ベルト材がポリウレタン樹脂からなる請求項5に記載の歯付ベルトの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−250349(P2012−250349A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122076(P2011−122076)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】