説明

歯付ベルト

【課題】歯付ベルトのゴム配合物中に接着埋設されている補強用繊維コードの耐熱性を改善し、屈曲疲労後の強力保持率を向上させる補強用繊維コード及びそれを用いた歯付ベルトを提供する。
【解決手段】歯付ベルトAは、その歯部3及び背部2が、水素添加率が80%以上である水素化ニトリルゴムに、不飽和カルボン酸金属塩が、総ポリマーに対して15〜40質量部配合されたゴムで構成され、補強用コード1が、無撚又は撚りをかけた無機繊維で構成されたコードが、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理され、さらにクロロスルホン化ポリエチレン配合物を溶液で溶かしたゴム糊でオーバーコート処理されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンのカム軸又は、カム軸とインジェクションポンプの駆動用あるいは、一般産業用機械の同期伝動用等に使用される歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンのカム軸、インジェクションポンプ、オイルポンプ、ウォータポンプ等を駆動する歯付ベルトは、エンジンの高出力化に伴い、ベルトへの負荷の増大及びエンジンルームのコンパクト化に伴う雰囲気温度の上昇など歯付ベルトの使用環境は近年特に厳しくなってきている為、さらなる耐久性の向上が要求されている。
【0003】
従来の歯付ベルトには、主にクロロプレンゴムが用いられてきたが、高い雰囲気温度下では、背ゴム部分より早期に亀裂の発生が見られた。このため最近では、耐熱性ポリマーとして開発された水素化ニトリルゴムが歯付ベルトに利用されている。また、加硫系に過酸化物を用いたゴムや、水素化ニトリルゴムに不飽和カルボン酸金属塩を使用したゴム配合も歯付ベルトのマトリックスとして使用されている。これに応じて、水素化ニトリルゴムに対する補強用繊維コードの接着処理方法も改善されつつある。
【0004】
例えば、補強用繊維コードと水素化ニトリルゴム組成物の接着方法について、特許文献1に開示されているものがある。このものは、ニトリルゴム変性エポキシ樹脂とアルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂を含む前処理液で処理し、続いてニトリルゴム配合物もしくは水素化ニトリルゴムラテックスからなるRFL液で処理するものである。又、特公昭60−24131号公報に開示されているカルボキシル基含有アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックスからなるRFL液で処理する方法などもある。また、この他にビニルピリジンゴムラッテクス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラッテクス、スチレン・ブタジエンゴムラッテクスからなるRFL液にて処理する方法なども開示されている。
【0005】
このように前述に示された処理方法により、補強用繊維コードと水素化ニトリルゴム(以下、H−NBRという。)との耐水性は十分改善されたが、これらの処理された補強用繊維コードを心線に用いた歯付ベルトを高い雰囲気温度下で耐熱屈曲走行させた場合、早期にRFL層が劣化し心線が屈曲疲労することが分かっている。また、H−NBRの加硫系に硫黄を用いた水素化ニトリルゴムの場合、過酸化部に比べ早期に背ゴム部にクラックが発生し、ベルト寿命に至ることが指摘されている。この他に、H−NBRのパーオキサイド加硫系では、従来のRFL液の場合、RFLが加硫剤の過酸化物と反応してRFLの劣化が早くなり、心線自体の高雰囲気温度下での耐屈曲疲労性が低く要求寿命に対し満足するものが得られず、また、過酸化物からなる加硫系の水素化ニトリルゴムの場合では、加硫時にラジカルが心線のRFLに移動し、早期に劣化し易い等の問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−212878公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、歯付ベルトのゴム配合物中に接着埋設されている補強用繊維コードの耐熱性を改善し、屈曲疲労後の強力保持率を向上させる補強用繊維コード及びそれを用いた歯付ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の歯付ベルトは、長手方向に沿って所定間隔で配置したゴムを基材とした複数の歯部と、前記複数の歯部と連続する背部と、前記背部に埋設された補強用繊維コードと、前記歯部の表面に被覆された歯布を有する歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部が、水素添加率が80%以上である水素化ニトリルゴムに、不飽和カルボン酸金属塩が、総ポリマーに対して15〜40質量部配合されたゴムで構成され、
前記補強用コードが、無撚又は撚りをかけた無機繊維で構成されたコードが、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理され、さらにクロロスルホン化ポリエチレン配合物を溶液で溶かしたゴム糊でオーバーコート処理されたものであることを特徴とするものである。
【0009】
水素化ニトリルゴムの水素添加率を80%以上とすることで、水素化ニトリルゴムの耐熱性及び耐オゾン性を確保できる。また、この水素化ニトリルゴムに不飽和カルボン酸金属塩を配合することによって、モジュラス(引張弾性率)や硬度を高めることができる。そして、モジュラス(引張弾性率)や切断伸度、さらに高い引き裂き強度や硬度を確保する為には、不飽和カルボン酸金属塩を総ポリマーに対して15〜40質量部配合することが好ましい。
【0010】
請求項2に記載の歯付ベルトは、請求項1において、前記RFL液に含まれる、前記水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることを特徴とするものである。
【0011】
RFL液中に含まれる水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることが好ましい。重量比が60/40以下であると、耐熱性が低下する。また、重量比が90/10以上であると耐水性が低下する。
【0012】
請求項3に記載の歯付ベルトは、長手方向に沿って所定間隔で配置したゴムを基材とした複数の歯部と、前記複数の歯部と連続する背部と、前記背部に埋設された補強用繊維コードと、前記歯部の表面に被覆された歯布を有する歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部が、水素添加率が80%以上である水素化ニトリルゴムに、不飽和カルボン酸金属塩が総ポリマーに対して5〜15質量部配合されるとともに、短繊維が総ポリマーに対して1〜20質量部配合されたゴムで構成され、
前記補強用コードが、無撚又は撚りをかけた無機繊維で構成されたコードが、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理され、さらにクロロスルホン化ポリエチレン配合物を溶液で溶かしたゴム糊でオーバーコート処理されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
水素化ニトリルゴムの水素添加率を80%以上とすることで、水素化ニトリルゴムの耐熱性及び耐オゾン性を確保できる。また、この水素化ニトリルゴムに不飽和カルボン酸金属塩と短繊維を配合することによって、モジュラス(引張弾性率)や硬度を高めることができる。そして、モジュラス(引張弾性率)や切断伸度、さらに高い引き裂き強度や硬度を確保する為には、不飽和カルボン酸金属塩を総ポリマーに対して5〜15質量部配合するとともに、短繊維を総ポリマーに対して1〜20重量部配合することが好ましい。
【0014】
請求項4に記載の歯付ベルトは、請求項3において、前記RFL液に含まれる、前記水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることを特徴とするものである。
【0015】
RFL液中に含まれる水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることが好ましい。重量比が60/40以下であると、耐熱性が低下する。また、重量比が90/10以上であると耐水性が低下する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明は、補強用繊維コードの耐熱性を改善し、ゴム配合物との接着力を向上させ、高雰囲気温度下での屈曲疲労後の強力保持率を向上させ、高負荷下で発生するベルト損傷によるベルト寿命を長寿命化することができ、ベルトの耐久性を大幅に向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の一例を説明する。なお、本発明に係る補強用繊維コード及び歯付ベルトは以下の実施の形態例に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る歯付ベルトAの全体斜視概略図である。図1において、歯付ベルトAは、長手方向に沿って所定間隔で配置したゴム5を基材とした複数の歯部3と、歯部3と連続する背部2と、背部2に埋設された補強用繊維コード1と、歯部3の表面に被覆された歯布4を有する構成である。
【0019】
歯部3及び背部2の基材となるゴム5の材質には特に制限はなく、使用条件に応じて適切なものが適宜選択される。自動車エンジン用及び各種エンジン用歯付ベルトの場合、耐熱性と耐油性を備えたH−NBR、CR、CSM等が使用される。一般産業用機械に用いられる歯付ベルトには、H−NBR、CR、CSM以外に、NBR、EPDM、エチレンプロピレン共重合体(EPR)、SBR、イソプロピレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、フッ素ゴム、シリコンゴム等何れの場合も使用可能である。本実施形態例においては、ゴム5として、H−NBRあるいは、H−NBRに不飽和カルボン酸金属塩を配合した配合ゴムと、有機過酸化物又は硫黄化合物のいずれかを架橋して形成したゴムについて例示する。
【0020】
H−NBRとしては、水素添加率80%以上であり、耐熱性及び耐オゾン性の特性を発揮するためには、水素添加率90%以上が好ましいが、92〜98%が好適である。水素添加率80%以下であるとH−NBRは、耐熱性及び耐オゾン性が極度に低下する。また、耐油性および耐寒性を考慮すると、結合アクリロニトリル量は20〜45%が好ましい。結合アクリロニトリル量が20%以下であると、耐油性が低下し、結合アクリロニトリル量が45%以上であると、耐寒性が低下する。
【0021】
また、このH−NBRに不飽和カルボン酸金属塩を配合することによって、モジュラス(引張弾性率)や硬度を高めるようにしているものであり、モジュラス(引張弾性率)や切断伸度、さらに高い引き裂き強度や硬度を確保する為には、上記のようにH−NBRに不飽和カルボン酸金属塩を総ポリマーに対して15〜40質量部配合することが好ましい。或いは不飽和カルボン酸金属塩5〜15質量部混合し、短繊維をポリマー成分100に対して1〜20質量部配合することもできる。
【0022】
ここで、短繊維には、摩擦時に低温で溶融しにくい高融点、又は融点を持たない綿、ビニロン、アラミド、無機繊維等が好ましい。その長さは5mm以下であることが好ましい。繊維長が5mmを越える場合は、ゴムをカレンダー又は押し出し機等で圧延シート状にする時に、配向し易く、ベルトになった場合に、屈曲により早期にクラックが発生し易い。また、短繊維の配向方向は、ベルト幅方向が好ましいが、ベルト長さ方向の配向であってもよい。短繊維の配合量が1質量部より少ないと、短繊維を配合した効果が現れない。一方、短繊維の量が20質量部より多くなると、ゴムのムーニ粘度が上昇し加工(練り工程で分散不良、シート圧延工程で圧延できない、表面肌が悪く厚みが出ない等)できず、歯を精度良く形成することが困難となる。
【0023】
なお、不飽和カルボン酸金属塩の量が5質量部未満であるとゴム硬度が所定の硬度にならない。一方40質量部を越えるとゴム硬度が大きくなりすぎ、ベルト剛性が高くなり、屈曲疲労性に劣りベルト寿命が短くなる。このように、H−NBRに不飽和カルボン酸金属塩を配合したゴムを使用することによって、背部2の背面硬度が80度(JISA型硬度計)以上とすることができる。背面硬度が80度(JISA型硬度計)以上、好ましくは85度以上とできることから、応力が負荷された場合であっても、ゴムの変形を抑制することができる。
【0024】
不飽和カルボン酸金属塩はカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合したものであり、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸が好ましく、金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、錫、鉛、アンチモンなどを用いることができる。
【0025】
ゴム5は、以上のようにして、配合された後、有機過酸化物又は硫黄化合物のいずれかと架橋して構成されている。
【0026】
有機過酸化物としては、特に限定されるものではないが、従来よく使用される任意のものであって良い。例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド(t−butyl hydroperoxide)、1,1,3,3テトラブチルヒドロペルオキシド(1,1,3,3−tetramethylbutylhydroperoxide)、p−メンタンヒドロペルオキシド(p−menthane hydroperoxide)、クメンヒドロペルオキシド(cumene hydroperoxide)、ジイソピロプルベンゼンヒドロペルオキシド(di−isopiropylbenzene hydroperoxide)、ジテトラブチルペルオキシド(di−tetra−buthyl peroxide)、ジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)、テトラブチクミルペルオキシド(tetra−butyl cumyl peroxid)、1,3ビス(第3ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(1,3−bis(tert−butylperoxy isopropyl)benzen)、トリアルキルイソシヌレート(trialkyl isocyanurate)等を挙げることが出来る。
【0027】
硫黄化合物としては一般的な硫黄や硫黄化合物、加硫剤としてはチウラム(Thiurams)系、塩化ジチオカルボメート(Salt of Dithiocarbates)系、スルフォンアミド(Sulfenamides)系、チアゾール(Thiazoles)系等を挙げることが出来る。また有機化合物と硫黄化合物、加硫剤を併用しても良い。
【0028】
本実施形態例においては、以上のようにゴム5を基材として構成される背部2に埋設される補強用繊維コード1には、無機繊維であるガラス繊維を使用する。また、無機繊維には、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維等があり、補強用繊維コードとしていずれでも使用できる。ガラス繊維の組成は、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)のいずれでもよく、ガラス繊維のフィラメントを撚り合わせた撚コードであり、無撚りの原糸を3本寄せ集め下撚りを8回/10cm、上撚りを12回/10cmして得たものであり、特にフィラメントの太さ及びフィラメントの集束本数及びストランド本数に制限されない。なお、補強用繊維コード1として前述の撚コードに限定するものでなく、無撚コードでも構わない。
【0029】
この補強用繊維コード1は、未処理無撚コード又は、撚りコードをレゾルシンとホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスを混合したRFL液にアルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂を添加した溶液にて処理し、230〜280℃で熱処理を行う。次に、オーバーコート液としてクロロスルホン化ポリエチレン配合物をトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などの溶剤に溶かしたゴム糊に浸漬し、処理を行い、130〜180℃前後で熱処理される。
【0030】
RFL液としては、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスが75/25の重量比で混合されたゴムラテックスからなるものとする。前記RFL液はレゾルシンとホルマリンの初期縮合物を前記ゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルマリンのモル比は3/1〜1/3にすることが接着力を高める上で望ましい。また、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物は、このゴムラテックスのゴム分100重量部に対してその樹脂分が5〜100重量部になるように混合した上、全固形濃度を5〜40%に調整される。アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂は、フェノール或いはクレゾール、クロロフェノールなどの1価フェノール、又はレゾルシン、カテコールなどの多価フェノールの1種又は2種以上のフェノールとホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの1種又は2種以上とを酸或いはアルカリ触媒の存在下で縮合したものである。
【0031】
また、前記RFL液中のアルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂を添加された水素化ニトリルゴムラテックスは、クロロスルホン化ポリエチレンラテックス及びスチレンブタジエンゴムラテックスに比べ耐熱性に優れ、フィルム状で熱老化させたときの硬度上昇が前記ふたつのラテックスに比べ小さいという利点を有しており、スチレン―ブタジエン―ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスは、レゾルシン―ホルマリン樹脂との間に著しく強い双極子又は水素結合的な相互作用が見られるのに対し、スチレンブタジエンゴムラテックスでは、RF樹脂との間に相互作用は極めて弱く物理的なものでしかないということが確認されている。
【0032】
前述のRFL液の配合物の他に、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加されたカルボキシル水素化ニトリルゴムラテックスを単独、又はカルボキシル水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理することによって補強用繊維コードである無機繊維及びガラス繊維の耐熱性やフィラメント間の接着性を向上させることができる。また、このRFL液中のアルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加されたカルボキシル水素化ニトリルゴムラテックスは、水素化ニトリルゴムラテックスを添加したものと比較して、より無機繊維及びガラス繊維のフィラメント間の接着性を向上させることができる。
【0033】
歯布4を構成する繊維材料の材質としては、ナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリベンゾオキサゾール、綿等が用いられている。繊維の形態は、フィラメント糸及び紡績糸の何れでも良く、単独組成の撚糸又は混撚糸、混紡糸の何れであっても良い。また、織成構成は綾織り、繻手織り、平織り等何れであっても良い。
【0034】
この歯布4は、RFL液、イソシアネート溶液あるいはエポキシ溶液によって処理されたあと、歯部3に用いたゴム5と同質のゴムを含浸付着させ加硫するゴム糊処理が行われたものである。具体的にはゴム5に使用したポリマー分を溶剤によって溶解したゴム糊を作製した後、これを含浸付着させ、そして乾燥させた後に加硫してゴム付帆布にする。また、必要に応じて老化防止剤を添加することもできる。
【0035】
ゴム5を溶解する溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどから選ばれた溶剤を使用することができる。そして、ゴム5を溶解して得られたゴム糊は、この歯布4に塗布、吹き付け等によって含浸付着させ加硫させることが好ましい。
【0036】
以上のようにして歯付ベルトAが構成され、歯付ベルトAのゴム配合物中に耐熱性を改善した前記補強用繊維コードを接着埋設することにより、高雰囲気温度下での屈曲疲労後の強力保持率を向上させることができる。
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例)
補強用繊維コードは、表1に示す処理を行いA−1、A−2及びA−3を得た。表1のRFL処理は、表2に示すRFL液B−1、B−2及びB−3にガラス繊維のフィラメント群よりなる3.7dの無撚原糸を3本引き揃えたものを浸漬した後、230〜280℃で熱処理を行った。表1に示すゴム糊によるオーバーコート処理は、表3に示すゴム糊C−1にRFL処理が済んだガラス繊維を撚り数8回/cmでS方向及びZ方向に片撚コードしたものを準備し、これを11〜13本引き揃え、12回/cmで上撚りしたものを浸漬し、130〜180℃前後で熱処理を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
次に、ベルト作製用のSTPD歯形105歯数の金型に表4に示す2/2折りの歯布D−1を接着処理し、この歯布を金型に巻き付けた後、表1に示すガラス繊維コードを歯布が巻き付けられた金型の歯布の上から巻き付けを行い、さらに、表−5のH−NBRゴム配合からなるゴムシートE−1を巻き付けた後、加硫缶に投入して通常の圧力方式により歯形を形成させた後、109℃にて20分加圧加硫して、ベルト背面を一定厚さに研磨し一定幅に切断して走行用歯付ベルトを得た。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
作製したベルトのサイズは、ベルト幅19.1mm、ベルト歯形STPD、歯数105歯、歯ピッチ8.000mmであり、通常S8Mと表示される。次に得られた歯付ベルトを用いて走行試験を行った。走行試験装置として、図2に示す21歯の駆動プーリ10、42歯の従動プーリ11に歯付ベルトを取り付け、背面に直径52mmの平プーリ12を当接させてなる試験装置を使用する。雰囲気温度130℃、負荷3.67kw、初張力147N、駆動側回転数7200rpmの条件下で1000時間の走行試験を行った。試験終了後、取り外した歯付ベルトを長さ250〜300mmに切り取って短冊状にしたものを引張試験片とした。次に引張速度50mm/minで前記引張試験片のベルト強力を測定し、引張速度50mm/minで走行試験前のベルト強力を測定した値で除して強力保持率を求めた。これを屈曲疲労後の強力保持率とした。表6に各ベルトの屈曲疲労後の強力保持率の結果をまとめて示す。
【0045】
【表6】

【0046】
表6から通常のRFL処理液で処理された比較例1より、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理された実施例1や実施例1で処理したRFL処理液の水素化ニトリルゴムからカルボキシル水素化ニトリルゴムに換わった実施例2の屈曲疲労後の強力保持率が向上していることがことがわかる。また、強力保持率が向上することにより高負荷下で発生するベルト損傷によるベルト寿命も長寿命化することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る歯付ベルトの概略斜視図である。
【図2】歯付ベルトの走行試験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0048】
A 歯付ベルト
1 補強用繊維コード
2 背部
3 歯部
4 歯布
5 ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って所定間隔で配置したゴムを基材とした複数の歯部と、前記複数の歯部と連続する背部と、前記背部に埋設された補強用繊維コードと、前記歯部の表面に被覆された歯布を有する歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部が、水素添加率が80%以上である水素化ニトリルゴムに、不飽和カルボン酸金属塩が、総ポリマーに対して15〜40質量部配合されたゴムで構成され、
前記補強用コードが、無撚又は撚りをかけた無機繊維で構成されたコードが、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理され、さらにクロロスルホン化ポリエチレン配合物を溶液で溶かしたゴム糊でオーバーコート処理されたものであることを特徴とする歯付ベルト。
【請求項2】
前記RFL液に含まれる、前記水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
長手方向に沿って所定間隔で配置したゴムを基材とした複数の歯部と、前記複数の歯部と連続する背部と、前記背部に埋設された補強用繊維コードと、前記歯部の表面に被覆された歯布を有する歯付ベルトであって、
前記歯部及び前記背部が、水素添加率が80%以上である水素化ニトリルゴムに、不飽和カルボン酸金属塩が総ポリマーに対して5〜15質量部配合されるとともに、短繊維が総ポリマーに対して1〜20質量部配合されたゴムで構成され、
前記補強用コードが、無撚又は撚りをかけた無機繊維で構成されたコードが、アルキルフェノールフォルムアルデヒド樹脂が添加された水素化ニトリルゴムラテックス及びスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスを含むRFL液にて処理され、さらにクロロスルホン化ポリエチレン配合物を溶液で溶かしたゴム糊でオーバーコート処理されたものであることを特徴とする歯付ベルト。
【請求項4】
前記RFL液に含まれる、前記水素化ニトリルゴムラテックスとスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ゴムラテックスの重量比が60/40〜90/10であることを特徴とする請求項3に記載の歯付ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−309523(P2007−309523A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155906(P2007−155906)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【分割の表示】特願2002−153631(P2002−153631)の分割
【原出願日】平成14年5月28日(2002.5.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】