説明

歯牙エナメル質の再石灰化促進剤

【課題】 口腔用組成物や飲食物に使用しても安全において問題なく、安価で且つ、脱灰した歯牙エナメル質の再石灰化を促進するなどにより、齲蝕の予防又は初症を抑制することができる再石灰化促進剤及びそれらを含有した口腔用組成物並びに飲食物を提供する。
【解決手段】 重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものである、マルトビオン酸などの糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を有効成分とする歯牙エナメル質の再石灰化促進剤、更にはそれら再石灰化促進剤を添加し製造した口腔用組成物及び飲食物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものである、マルトビオン酸などの糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を有効成分とする歯牙エナメル質の再石灰化促進剤、更にはそれら再石灰化促進剤を添加し製造した口腔用組成物及び飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯は象牙質の部分とエナメル質の部分とからなっており、象牙質をエナメル質が覆っている。エナメル質の約97%は、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO46(OH)2]で、主にリン酸とカルシウムから構成された結晶構造物である。
【0003】
一般に、齲蝕は、ストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリナス等の口腔内レンサ球菌(虫歯菌)が歯牙表面に付着し、これらの細菌が持っている酵素(グルコシルトランスフェラーゼ)の働きでグルカンを産生し、歯垢を形成することから始まる。その歯垢中で、前記細菌が食物残渣中の砂糖やデンプン等を代謝することにより生成される酸が、歯牙エナメル質を脱灰し、いわゆる初期の齲蝕状態となる。
【0004】
唾液にはカルシウムとリン酸塩が存在し、これらが、前記脱灰部分を修復すなわち再石灰化することによって、歯を元の状態に戻す作用をしている。つまり、歯牙表面では、脱灰と再石灰化と相反する現象が常に生起し、通常は所要のバランスを保っている。しかし、そのバランスは歯垢が増大すると脱灰の方に傾き、齲蝕が進行する。
【0005】
これまで齲蝕予防のために、虫歯菌に対する歯牙付着阻害剤、抗菌剤、あるいはまた、虫歯菌のグルカン形成を抑制するグルコシルトランスフェラーゼ酵素阻害剤(特許第2859612号公報、特開2006−45154号公報、特開2007−153788号公報)等が開発されている。しかし、例えば抗菌剤は虫歯菌のみに抗菌作用を示す特異的な素材でないため安全性に問題があり、グルコシルトランスフェラーゼ酵素阻害剤は唾液による影響を受けやすいという問題がある。
【0006】
また、再石灰化を促進する物質としてリン酸化オリゴ糖を用いることで、齲蝕の予防・発症を抑える手法が報告されている(特開2002−325556号公報、特許第4402140号公報)。リン酸化オリゴ糖は、馬鈴薯澱粉を原料にα−アミラーゼなどによる酵素分解物から得られるが、精製が煩雑であり収率は1%程度と非常に高価な素材となる。また、澱粉分解物とリン酸塩を混合焙煎して得たリン酸でん粉をα−アミラーゼなどによる酵素分解物からも得ることが出来るが、このような製法では食品素材としての利用が困難である。
【0007】
また、既に食品素材用途として利用されている水溶性カルシウムでは塩化カルシウムやグルコン酸カルシウムがある。これら物質は、後述の発明を実施するための形態において比較例として例示しているが、リン酸イオン存在化ではイオン状態を保てず、すぐに析出してしまうため再石灰化促進効果が期待されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、口腔用組成物や飲食物に使用しても安全において問題なく、安価で且つ、脱灰した歯牙エナメル質の再石灰化を促進するなどにより、齲蝕の予防又は初症を抑制することができる再石灰化促進剤及びそれらを含有した口腔用組成物並びに飲食物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、澱粉及び/又は澱粉分解物を糖転移酵素及び/又は澱粉分解酵素により転移反応及び/又は加水分解反応により製造される、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化されたものである、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩が良好な再石灰化促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
【0011】
第一に、本発明は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を有効成分とすることを特徴とする歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第二に、本発明は、前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、パノース酸化物、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物からなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする、上記第一に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第三に、本発明は、さらに、少なくとも一種のフッ化物を含むことを特徴とする、上記第一又は第二に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第四に、本発明は、さらに、少なくとも一種の糖アルコールを含むことを特徴とする、上記第一から第三の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第五に、本発明は、上記第一から第四の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする口腔用組成物である。
第六に、本発明は、上記第一から第四の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする飲食物である。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において糖カルボン酸とは、澱粉及び/又は澱粉分解物を糖転移酵素及び/又は澱粉分解酵素により転移反応及び/又は加水分解反応により製造される、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものをいい、さらにこれらの塩の形態も含む。
【0014】
具体例としては、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、パノース酸化物、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる糖カルボン酸はその形態は問わず、液体、粉末でもよく、遊離の酸のみならず、塩又はラクトンの形態であってもよく、これらを組み合わせても良い。塩の形態においては、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられるが、これらのうちカルシウム塩の形態が最も好ましい。
【0016】
糖カルボン酸は、澱粉分解物又は転移反応物を化学的な酸化反応により酸化する方法や、澱粉分解物又は転移反応物にオリゴ糖酸化能を有する微生物或いは酸化酵素を作用させる反応により製造することができる。
【0017】
化学的な酸化反応としては、パラジウムや白金、ビスマスを活性炭に担持させた酸化触媒の存在下、澱粉分解物又は転移反応物と酸素をアルカリ雰囲気下で接触酸化させることにより得る方法が知られている。
【0018】
また、オリゴ糖酸化能を有する微生物を用いた方法としては、アシネトバクター属やブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などの微生物変換・発酵法により得る方法が知られている。
【0019】
酵素反応による製造方法としては、前記酸化能を有する微生物から酸化酵素を抽出する方法で製造することが可能である。
【0020】
化学的な酸化反応による製造方法の一例を挙げれば、まず、50℃に保持した30%マルトース溶液100mLに白金−活性炭触媒3gを加え、100mL/minで酸素を吹き込みながら600rpmで攪拌する。反応pHは10N水酸化ナトリウム溶液を滴下することでpH9.0を維持させる。そして、反応5時間後、遠心分離とメンブレンフィルターろ過により触媒を取り除き、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得ることができる。
【0021】
上記のように得たマルトビオン酸ナトリウム溶液をカチオン交換樹脂または電気透析により脱塩することで、マルトビオン酸溶液を得ることができる。
【0022】
上記方法で得られたマルトビオン酸溶液に炭酸カルシウムなどのカルシウム源を2対1のモル比となるように添加し溶解させることで、マルトビオン酸カルシウムの調製が可能である。また、本発明に用いるカルシウム源としては可食性のカルシウムであれば良く、例えば、卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等の天然素材や炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の化学合成品などがある。
【0023】
本発明に係る糖カルボン酸が再石灰化促進剤として有効に働くためには、カルシウム及びリン酸源が必要となる。
【0024】
一般に歯牙エナメル質中のカルシウムとリンの構成比率はカルシウム/リン=1.0〜1.67程度であるため、口腔内へは、このような比率となるようにカルシウムとリン酸を供給するのが好ましい。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、前記糖カルボン酸のカルシウム塩も含めカルシウム素材を配合することが可能である。使用可能なカルシウム素材としては、炭酸カルシウムや塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、クエン酸・リンゴ酸カルシウム、酢酸カルシウム、フッ化カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、フッ化カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、ピロリン酸カルシウム、乳清カルシウム、卵殻カルシウム、海藻カルシウム、貝殻カルシウム、魚骨粉、卵殻粉末、サンゴ粉末、貝殻粉末などが挙げられる。
【0026】
本発明において使用可能なリン酸源化合物は、水に溶けることによってリン酸イオンを放出する化合物であれば良く、好ましくは水溶性のリン酸塩または無機リン酸である。このようなリン酸源化合物の例としては、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。
【0027】
本発明においては、再石灰化促進成分としてフッ化物を併用することも可能である。フッ化物は再石灰化促進、結晶性の向上、耐酸性の向上、抗菌・抗酵素作用を示すことが知られており、歯磨剤等へ利用されている。
【0028】
しかしながら、フッ化物を応用する際の問題として、カルシウムにとても反応しやすいため、フッ化物がカルシウムと作用して有効性がなくなるのを避けるため、通常歯磨剤にはカルシウムを含有する素材は使用されない。これに対して、本発明では糖カルボン酸又はそのカルシウム塩は、カルシウム存在下でもフッ化物がイオン状態を保持させることが可能であることを見出した。
【0029】
本発明において使用可能なフッ化物は好ましくは、食品、医薬品または医薬部外品への配合が認められているフッ化物であり、このようなフッ化物の例としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロ酢酸ナトリウム、氷晶石などが挙げられる。本発明のフッ化物として、食品として使用可能なお茶、井戸水、海水、魚介類、海草等由来のフッ素を用いることもできる。例えば、フッ素の濃度が極めて高く、かつ茶ポリフェノールの濃度が極めて低い茶抽出物を使用しても良い。
【0030】
また、本発明においては、再石灰化促進成分として糖アルコールを併用することも可能である。本発明においては、糖カルボン酸又はそのカルシウム塩に糖アルコールを併用添加することで、カルシウムイオンの安定化が高まることにより再石灰化に利用できるカルシウムイオン量が増加することを見出した。
【0031】
本発明において用いられ得る糖アルコールは好ましくは、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、還元水飴、還元澱粉糖化物、パラチニット、ラクチトール、エリスリトール、マンニトール、ガラクチトール、アラビトールなどが挙げられる。
【0032】
前記再石灰化促進剤、すなわち糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩或いは更にフッ化物や糖アルコールを含有する口腔用組成物としては、練り歯磨、粉歯磨又は液状歯磨当の歯磨類、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、うがい用剤又はトローチなどが挙げられる。
【0033】
また、本発明に係る再石灰化促進剤を含む飲食物としては、ガム、キャンディー、グミ、錠菓、チョコレートなどの菓子類、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類、アイスクリーム、氷菓、シャーベット等の冷菓類、緑茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、ジュース、スポーツドリンク、加工乳などの飲料類、饅頭、ういろう、もち、おはぎ等の和菓子類、ゼリー、プリン、ケーキなどの洋菓子類、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、パン、ホットケーキ等のベーカリー製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、かまぼこ、ちくわ等の魚肉製品、惣菜類などが挙げられる。
【0034】
口腔用組成物或いは飲食物への糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩の添加量としては、利用する口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.01%〜100%、好ましくは0.05%〜60%、さらに好ましくは0.1%〜40%で配合されるのが好ましい。
【0035】
一つの実施形態として、一般にガムなど20分間の咀嚼で唾液は20mL程度分泌されることが知られており、口腔内の唾液中のカルシウム量として1mM〜10mMの濃度となるように口腔用組成物或いは飲食物への配合設計をした場合、カルシウム含有量が5.3%であるマルトビオン酸カルシウムでは、40(カルシウム分子量)×(1.0mM〜10mM)×0.02L(唾液)×〔100%(マルトビオン酸カルシウム)/5.3%(カルシウム)〕=15mg〜150mg程度配合すれば良いことなる。これをガム2gへ配合した場合、マルトビオン酸カルシウムのガムへの配合量は、(15mg〜150mg)/2g×100=0.75%〜7.5%となる。また、カルシウム量1.3%のデキストリン酸化カルシウムを配合する場合には、60mg〜600mg程度の配合量となるため、ガム2gへは3%〜30%配合することになる。
【0036】
また、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩とフッ化物とを併用添加する場合のフッ化物の添加量は、口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、これら口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.1ppm〜1000ppm、好ましくは0.5ppm〜100ppm、さらに好ましくは5ppm〜50ppmで配合されるのが好ましい。
【0037】
更に、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩と糖アルコールとを併用添加する場合の糖アルコールの添加量は、口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、これら口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.1ppm〜1000ppm、好ましくは1ppm〜500ppm、さらに好ましくは10ppm〜100ppmで配合されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を含有する再石灰化促進剤や、これを含有する口腔用組成物又は飲食物を摂取することで、安全かつ安価に、歯牙エナメル質の再石灰化を促進することができ、十分な再石灰化促進作用により、齲蝕の予防又は初症を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る、マルトビオン酸カルシウム(カルシウム含有量5.3%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図2】本発明に係る、マルトトリオース含量56%、マルトース含量22%、グルコース含量5%の水飴の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量3.8%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図3】本発明に係る、DE25の粉飴の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量2.2%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図4】本発明に係る、DE19のデキストリンの酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量1.6%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図5】可溶性カルシウム素材である塩化カルシウム(カルシウム含有量36%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図6】本発明に係る、マルトビオン酸と、カルシウム源として塩化カルシウム(カルシウム含有量36%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図7】可溶性カルシウム素材であるグルコン酸カルシウム一水和物(カルシウム含有量8.9%)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【図8】本発明に係る、DE44の分岐オリゴ糖の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量3.5%、グルコン酸カルシウム20%含有)を用い再石灰化促進作用について評価した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[調製例]
(糖カルボン酸およびそのカルシウム塩の調製)
【0042】
30%マルトース溶液(和光純薬製)1000mLに、5%パラジウム炭素触媒(川研ファインケミカル製)を9g添加した。この溶液を40℃に保持した後、空気1.0L/min、回転数600rpmで反応を開始させた。反応pHは9.0に維持するように20%水酸化ナトリウム溶液を連続的に添加した。反応6時間後、触媒を含む反応液を遠心分離と0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得た。この溶液を強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製、商品名「DOWEX−88」)2Lをつめたカラムへ通液することで脱塩処理を行った。次に、弱塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名「WA30」)200mLと強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製、商品名「DOWEX−88」)200mLの混合樹脂をつめたカラム、次いで粒状活性炭(武田薬品工業製、粒状白鷺)200mLをつめたカラムに順次通液し脱色を行った後、減圧濃縮によりマルトビオン酸濃度40%まで濃縮した。これに炭酸カルシウムを添加しつつ、撹拌溶解させることでマルトビオン酸カルシウム塩を調製した。溶液のpHが7.0に達したところで反応を終了とし、この溶液を0.2μmフィルターで濾過し、凍結乾燥することで、マルトビオン酸カルシウム粉末サンプルを得た。
【0043】
また、マルトースの代わりに、マルトトリオース含量56%、マルトース含量22%、グルコース含量5%の水飴(商品名ピュアトースP,サンエイ糖化社製)、DE25の粉飴(商品名ニポデックス25,サンエイ糖化社製)、DE19のデキストリン(商品名NSD700,サンエイ糖化社製)、DE44の分岐オリゴ糖(商品名ISO,サンエイ糖化社製)を原料として前記と同じ方法でそれぞれ糖カルボン酸カルシウムを調製した。
【0044】
なお、DE(dextrose equivalent)とは、〔直接還元糖量(グルコースとして測定)/全固形分の質量〕×100の式で表せる値であり、このDE値は、澱粉の加水分解の程度(分解度)を示す指標である。
【実施例1】
【0045】
(マルトビオン酸カルシウムによる再石灰化促進作用評価)
調製例で得たマルトビオン酸カルシウム(カルシウム含有量5.3%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0046】
蒸留水50mLを加えた200mL用のビーカーへ100mMマルトビオン酸カルシウム溶液6mL(Ca量として0.024g、終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0047】
評価の結果を図1に示した。
【0048】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも変動しなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。この現象から、マルトビオン酸カルシウムは、再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【実施例2】
【0049】
(水飴酸化物カルシウム塩による再石灰化促進作用評価)
調製例で得たマルトトリオース含量56%、マルトース含量22%、グルコース含量5%の水飴(サンエイ糖化製、商品名ピュアトースP)の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量3.8%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0050】
蒸留水50mLを入れた200mL用のビーカーへ水飴酸化物カルシウム塩0.71g(Ca量として0.024g、終濃度6mM)を添加し撹拌溶解後、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0051】
評価の結果を図2に示した。
【0052】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも大きな変動は見られなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。この現象から、水飴酸化物カルシウム塩は、再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【実施例3】
【0053】
(粉飴酸化物カルシウム塩による再石灰化促進作用評価)
調製例で得たDE25の粉飴(サンエイ糖化製、商品名ニポデックス25)の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量2.2%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0054】
蒸留水50mLを入れた200mL用のビーカーへ粉飴酸化物カルシウム塩1.26g(Ca量として0.024g、終濃度6mM)を添加し撹拌溶解後、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0055】
評価の結果を図3に示した。
【0056】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも大きな変動は見られなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。この現象から、粉飴酸化物カルシウム塩は、再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【実施例4】
【0057】
(デキストリン酸化物カルシウム塩による再石灰化促進作用評価)
調製例で得たDE19のデキストリン(サンエイ糖化製、商品名NSD700)の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量1.6%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0058】
蒸留水50mLを入れた200mL用のビーカーへデキストリン酸化物カルシウム塩1.85g(Ca量として0.024g、終濃度6mM)を添加し撹拌溶解後、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0059】
評価の結果を図4に示した。
【0060】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも大きな変動は見られなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。この現象から、デキストリン酸化物カルシウム塩は、再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【0061】
[比較例1]
(塩化カルシウムによる再石灰化促進作用評価)
可溶性カルシウム素材である塩化カルシウム(和光純薬製、カルシウム含有量36%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0062】
蒸留水50mLを加えた200mL用のビーカーへ100mM塩化カルシウム溶液6mL(Ca量として0.024g、終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0063】
評価の結果を図5に示した。
【0064】
反応開始直後よりカルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。また反応容器の底には沈殿物の形成も確認した。また、反応60分後にハイドロキシアパタイトを添加しても、カルシウムの可溶化量やpHに大きな変動は観察されなかった。この結果から、塩化カルシウムは、リン酸存在下では、カルシウムのイオン状態を維持することが出来ず、リン酸カルシウムを生成し沈殿したと考えられる。この結果から塩化カルシウムには、再石灰化を促進する効果は期待されないことが示された。
【実施例5】
【0065】
(マルトビオン酸による再石灰化促進作用評価)
調製例で得たマルトビオン酸と、カルシウム源として塩化カルシウム(和光純薬製、カルシウム含有量36%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0066】
蒸留水44mLを加えた200mL用のビーカーへ100mM塩化カルシウム溶液6mL(Ca量として0.024g、終濃度6mM)、100mMマルトビオン酸6mL(終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0067】
評価の結果を図6に示した。
【0068】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも変動しなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。また、比較例1では塩化カルシウムには再石灰化促進効果は観察されなかったことから、マルトビオン酸が再石灰化促進物質として有用に働いたものと考えられる。このことから、マルトビオン酸は再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【0069】
[比較例2]
(グルコン酸カルシウムによる再石灰化促進作用評価)
可溶性カルシウム素材であるグルコン酸カルシウム一水和物(関東化学製、カルシウム含有量8.9%)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0070】
蒸留水50mLを加えた200mL用のビーカーへ100mMグルコン酸カルシウム溶液6mL(Ca量として0.024g、終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0071】
評価の結果を図7に示した。
【0072】
反応開始直後よりカルシウムの可溶化率が低下すると共に、pHも同様に低下した。また反応容器の底には沈殿物の形成も確認した。また、反応60分後にハイドロキシアパタイトを添加しても、カルシウムの可溶化量に大きな変動は観察されなかった。この結果から、グルコン酸カルシウムは、リン酸存在下では、カルシウムイオン状態を維持することが出来ず、リン酸カルシウムになり沈殿したと考えられる。この結果からグルコン酸カルシウムには、再石灰化を促進する効果は期待されないことが示された。
【実施例6】
【0073】
調製例で得たDE44の分岐オリゴ糖(サンエイ糖化製、商品名ISO)の酸化物カルシウム塩(カルシウム含有量3.5%、グルコン酸カルシウム20%含有)を用い再石灰化促進作用について評価した。
【0074】
蒸留水50mLを加えた200mL用のビーカーへ分岐オリゴ糖酸化物カルシウム塩1.85g(Ca量として0.024g、終濃度6mM)を添加し撹拌溶解後、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)10mL(終濃度20mM)、2M KCl溶液5mL(終濃度100mM)、100mM K2HPO4溶液3.6mL(終濃度3.6mM)を順次加え撹拌した後、1M KOH溶液を滴下しpH6.8となるように調整し、全量100mLとなるように蒸留水を加えた。37℃温浴中でマグネティックスタラー撹拌により反応を開始し、反応60分後にハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mgを添加し、120分まで反応を行った。反応の経時変化は、pHおよび可溶性カルシウム含量を10分毎に測定することで評価した。カルシウム濃度の測定はカルシウムEテストワコー(和光純薬製)を使用した。
【0075】
評価の結果を図8に示した。
【0076】
反応開始から60分までは、リン酸存在下でもカルシウムは可溶化した状態を保っており、pHも大きな変動は見られなかった。そこへハイドロキシアパタイトが添加されると、カルシウムの可溶化率が急激に低下すると共に、pHも同様に急激に低下した。これはハイドロキシアパタイトが結晶核となり、そこへカルシウムが沈着し再石灰化した結果と考えられる。この現象から、分岐オリゴ糖酸化物カルシウム塩は、再石灰化を促進する物質として有用であることが示された。
【実施例7】
【0077】
(フッ化物併用添加による再石灰化促進作用評価)
【0078】
2mL用のマイクロチューブへ100mMマルトビオン酸カルシウム溶液60μL(終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)100μL(終濃度20mM)、2M KCl溶液50μL(終濃度100mM)、フッ化ナトリウム(1mg/mL)0μL〜50μL、100mM K2HPO4溶液36μL(終濃度3.6mM)、)を加え混合した後、全量800μLとなるように蒸留水を加えた。前記溶液に5mg/mLハイドロキシアパタイト(和光純薬製)溶液200μLを加えたものと、ハイドロキシアパタイト非添加(蒸留水200μL添加)の2種類の試験溶液を調製し、37℃温浴中で2時間、160rpmで振盪した。反応終了後、遠心分離した上清液のカルシウム含量をカルシウムEテストワコー(和光純薬製)で測定し、下記式からカルシウムの可溶化率並びにカルシウム沈着率(再石灰化に利用されたカルシウム量)を算出した。
【0079】
カルシウム可溶化率(%)=〔反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)/反応液へ添加したカルシウム量(mg/mL)〕×100
【0080】
カルシウム沈着率(%)=〔[ヒドロキシアパタイト非添加反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)−ヒドロキシアパタイト添加反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)]/反応液へ添加したカルシウム量(mg/mL)〕×100
【0081】
評価の結果を表1に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
ヒドロキシアパタイト非添加条件でのカルシウム可溶化率は95%前後を維持していることから、カルシウムはフッ素やリンと結合することなく、イオンの状態を保っていることが確認された。また、ヒドロキシアパタイト添加によりカルシウムの可溶化率は12.9%〜52.1%へ低下していることから、結晶核(ヒドロキシアパタイト)にカルシウムが沈着したものと考えられる。また、フッ化ナトリウム濃度依存的に、カルシウムの沈着率が上昇していることから、フッ素添加による再石灰化促進の相乗効果を確認した。
【0084】
[比較例3]
実施例7の比較試験として、マルトビオン酸カルシウムの代わりに塩化カルシウムを用い、フッ化物添加併用添加による再石灰化促進作用について評価した。
【0085】
評価の結果を表2に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
ヒドロキシアパタイト非添加条件でのカルシウム可溶化率は50%以下であり、また、添加したフッ化ナトリウム濃度依存的にカルシウム可溶化率が低くなっていることから、塩化カルシウムは、フッ素やリン酸存在下では、カルシウムイオン状態を維持することが出来ず、リン酸カルシウムやフッ化カルシウムを生成し沈殿したと考えられる。この結果から塩化カルシウムには、フッ化物併用添加による再石灰化促進効果は期待されないことが示された。
【実施例8】
【0088】
(糖アルコール併用添加による再石灰化促進作用評価)
【0089】
2mL用のマイクロチューブへ100mM マルトビオン酸カルシウム溶液60μL(終濃度6mM)、200mM HEPES緩衝液(pH7.0)100μL(終濃度20mM)、2M KCl溶液50μL(終濃度100mM)、糖アルコール(キシリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニットのいずれか一つ)(500mg/mL)0μL〜200μL、100mM K2HPO4溶液36μL(終濃度3.6mM)を加え混合した後、全量800μLとなるように蒸留水を加えた。前記溶液に5mg/mLハイドロキシアパタイト(和光純薬製)溶液200μLを加えたものと、ハイドロキシアパタイト非添加(蒸留水200μL添加)の2種類の試験溶液を調製し、37℃温浴中で24時間、160rpmで振盪した。反応終了後、遠心分離した上清液のカルシウム含量をカルシウムEテストワコー(和光純薬製)で測定し、下記式からカルシウムの可溶化率並びにカルシウム沈着率(再石灰化に利用されたカルシウム量)を算出した。
【0090】
カルシウム可溶化率(%)=〔反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)/反応液へ添加したカルシウム量(mg/mL)〕×100
【0091】
カルシウム沈着率(%)=〔[ヒドロキシアパタイト非添加反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)−ヒドロキシアパタイト添加反応終了液の可溶性カルシウム量(mg/mL)]/反応液へ添加したカルシウム量(mg/mL)〕×100
【0092】
評価の結果を表3〜表6に示した。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
キシリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニットのいずれの糖アルコールを用いても、糖アルコール濃度依存的にカルシウムの沈着率が上昇していることから、マルトビオン酸カルシウム塩に糖アルコールを併用添加することで、カルシウムイオンの安定性がより高まることにより、再石灰化に利用できるカルシウムイオン量が増加したと考えられる。これらの結果から、糖アルコール併用添加による再石灰化促進の相乗効果を確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【特許文献1】特許第2859612号公報
【特許文献2】特開2006−45154号公報
【特許文献3】特開2007−153788号公報
【特許文献4】特開2002−325556号公報
【特許文献5】特許第4403140号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を有効成分とすることを特徴とする歯牙エナメル質の再石灰化促進剤。
【請求項2】
前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、パノース酸化物、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物からなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤。
【請求項3】
さらに、少なくとも一種のフッ化物を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤。
【請求項4】
さらに、少なくとも一種の糖アルコールを含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131750(P2012−131750A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286869(P2010−286869)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(591014097)サンエイ糖化株式会社 (15)
【Fターム(参考)】