説明

歯磨剤組成物

【解決手段】(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)アルキル基の炭素数が14〜18でエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、(D)キレート剤、(E)アルカリ剤を含有し、(D)/(A)の質量比が0.10〜4.0で、25℃における初期pHが8.0〜9.3であることを特徴とする歯磨剤組成物。
【効果】本発明の歯磨剤組成物は、長期間保存後も優れた歯肉炎予防効果及び口臭予防効果を発揮し、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が高く、口腔内病原性細菌の殺菌力も高く、組成物表面の滑らかさに優れ、異味がほとんどなく使用感も良好であり、歯周疾患の予防又は改善に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた歯肉炎予防効果及び口臭予防効果を有し、組成物表面の滑らかさ及び使用中の味に優れた歯磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、ポルフィロモナス ジンジバリス(P. gingivalis)等の偏性嫌気性グラム陰性桿菌を主とした細菌による感染症であり、また、口臭の原因としてはフゾバクテリウム ヌクレアタム(F. nucleatum)等の口腔内細菌が関与している。従って、歯周病や口臭の予防・改善に有効な手段として、プラークコントロール、即ち、口腔内の病原性細菌数を低レベルに保つことが有用であると考えられる。
【0003】
このような口腔内の病原性細菌数を低下させる手段としては、難水溶性殺菌剤やカチオン性殺菌剤を口腔ケア製品に配合することが有効な手段となっており、中でもイソプロピルメチルフェノール等の難水溶性殺菌剤は抗菌スペクトルが広い傾向にある特徴を有することから、歯磨剤組成物に配合することが提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
しかしながら、歯周病の発症には様々な要因が関与しており、このような殺菌活性を有する難水溶性殺菌剤を配合しただけでは、実際に優れた予防効果を発揮できないことがある。
【0005】
一方で、近年、アスコルビン酸リン酸エステル塩は、生体内に産生された過剰な活性酸素を消去し、生体組織を酸素傷害から保護する抗酸化ビタミンとして注目されている。更に、アスコルビン酸リン酸エステル塩は多様な生理活性を有し、口腔分野では歯肉炎、歯周炎の予防・治療に効果があることが知られており、練歯磨剤やトローチなどの口腔用組成物に配合することが試みられている(特許文献5,6参照)。
【0006】
出願人は、歯周病予防効果を向上させる手段として、アスコルビン酸又はその誘導体と抗プラスミン剤とを併用した組成や、ビタミンE又はその誘導体含有組成にノニオン界面活性剤とアスコルビン酸誘導体又はその塩とを配合することで、ビタミンE又はその誘導体の効果が持続する組成(特許文献7,8)を提案した。また、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩とε−アミノカプロン酸及び/又はトラネキサム酸を組み合わせ配合した組成物を特願2007−329477号に提案した。
【0007】
しかしながら、出願人が更に研究を進めたところ、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩にビタミンE又はその誘導体、あるいはε−アミノカプロン酸及び/又はトラネキサム酸を組み合わせると、一定の歯周病予防効果が認められるものの、主たる原因である病原性細菌数を低下させる効果は満足に認められず、より高い歯周病予防効果や口臭予防効果を発揮する組成物を得ることができる新たな技術が強く望まれる。
【0008】
こうした中、アスコルビン酸リン酸エステル塩、抗プラスミン剤及び抗菌剤を併用することで歯肉炎の予防・改善効果が向上することが知られている(特許文献7参照)。
【0009】
また、イソプロピルメチルフェノールなどの難水溶性抗菌剤の効果を充分に発揮させる技術について多くの研究がなされており、非イオン性界面活性剤を配合することで殺菌効果が向上する知見が述べられている(特許文献1,3,9参照)。
【0010】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、アスコルビン酸リン酸エステル塩、イソプロピルメチルフェノール及び非イオン性界面活性剤を同時に配合すると、経時的にアスコルビン酸リン酸エステル塩の安定性が低下することによって、満足な歯周病予防及び口臭予防の効果が十分に認められなくなり、更に組成物表面に粒が生じて滑らかさに問題が生じるという課題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−292426号公報
【特許文献2】特開2004−250381号公報
【特許文献3】特開2005−179266号公報
【特許文献4】特開2008−115115号公報
【特許文献5】特開平2−292211号公報
【特許文献6】特開平3−294227号公報
【特許文献7】特開平11−012142号公報
【特許文献8】特開2004−323488号公報
【特許文献9】特開昭59−101417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、上述のように従来の技術では歯周病や口臭の予防又は改善効果には未だ改善の余地があり、本発明は上記事情に鑑み、アスコルビン酸リン酸エステルやその塩、イソプロピルメチルフェノール及び非イオン性界面活性剤を配合するに際し、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の長期保存後の安定性を保持することによって、長期保存後もアスコルビン酸リン酸エステルやその塩及びイソプロピルメチルフェノール由来の効果を有効に発現させ、歯肉炎及び口臭を有効に予防又は改善することができ、かつ組成物表面の滑らかさや使用感にも優れる歯磨剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)アルキル基の炭素数が14〜18でエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、(D)キレート剤、(E)アルカリ剤を配合し、(D)/(A)の質量比が0.10〜4.0であり、かつ25℃における初期pHが8.0〜9.3であることにより、長期に亘って保存後のアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性を満足に保持することができ、かつ口腔内の病原性細菌への高い殺菌力も保持でき、これによりアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩とイソプロピルメチルフェノールとによる相乗的な歯肉炎及び口臭の予防又は改善効果が発揮され、しかも、組成物表面の滑らかさ(練り表面の滑らかさ)に優れ、キレート剤由来の異味のない良好な使用感を有する歯磨剤組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0014】
即ち、本発明では、上記構成とすることで、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、イソプロピルメチルフェノール及び非イオン性界面活性剤を同時に配合しても、キレート剤が組成物中の金属を捕捉し、長期間保存後にアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩を安定に保持でき、しかも、フゾバクテリウム ヌクレアタム(F. nucleatum)等の口臭の原因となる口腔内病原性細菌への高い殺菌力も保持できる。このような本発明の歯磨剤組成物では、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩とイソプロピルメチルフェノールに由来する歯肉炎及び口臭予防効果が相乗的に発揮され、更に歯磨剤組成物表面に粒が生じて滑らかさに劣るという課題を解消できる。このような本発明の作用効果は、後述の実施例からわかるように、上記成分を組み合わせ、適当な配合量及び比率で配合することで発揮されるものであり、本発明にかかわるいずれかの必須成分を欠いたり、各成分の配合量や比率が不適切な場合はなし得ない格別なものである。
【0015】
なお、出願人は、特願2009−136994号に、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩と、ビタミンE又はその誘導体と、適切なポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキルグルコシドと、非イオン性又はカチオン性殺菌剤とを、相応しい配合量及び配合割合で配合することによって、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩とビタミンE又はその誘導体と殺菌剤とが同時に安定配合されて、歯周疾患由来の口臭や歯肉溝滲出液量の増加を改善する高い効果及び歯周病原因菌への殺菌効果が発揮され、外観(分離)安定性も良好な口腔用組成物を提案したが、これはアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、ビタミンE又はその誘導体及び殺菌剤が同時に安定配合されて上記のような優れた効果が発現したものであり、本発明とは技術的に相違する。本発明では、(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)特定の非イオン性界面活性剤を併用し、かつ(D)キレート剤及び(E)アルカリ剤を配合することが重要で、ビタミンE又はその誘導体は配合しなくても上記構成とすることでアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性を保持でき、また、歯磨剤表面の滑らかさに優れるなど、上記格別な作用効果を達成したものである。
【0016】
従って、本発明は、下記の歯磨剤組成物を提供する。
請求項1;
(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)アルキル基の炭素数が14〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、(D)キレート剤、(E)アルカリ剤を含有し、(D)/(A)の質量比が0.10〜4.0で、25℃における初期pHが8.0〜9.3であることを特徴とする歯磨剤組成物。
請求項2;
キレート剤が、クエン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれることを特徴とする請求項1記載の歯磨剤組成物。
請求項3:
(A)成分を0.2〜1質量%、(B)成分を0.03〜0.2質量%、(C)成分を0.5〜2質量%含有し、(D)/(A)の質量比が0.3〜3.5であることを特徴とする請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歯磨剤組成物は、長期間保存後も優れた歯肉炎予防効果及び口臭予防効果を発揮し、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が高く、口腔内病原性細菌の殺菌力も高く、組成物表面の滑らかさに優れ、異味がほとんどなく使用感も良好であり、歯周疾患の予防又は改善に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき更に詳細に説明する。本発明の歯磨剤組成物は、(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)アルキル基の炭素数が14〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのPOE硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、(D)キレート剤、(E)アルカリ剤を含有し、(D)/(A)が0.10〜4.0で、25℃における初期pHが8.0〜9.3であることを特徴とする歯磨剤組成物である。
【0019】
ここで用いられる(A)アスコルビン酸リン酸エステルとしては、アスコルビン酸の2,3,5,6位のいずれかの水酸基の1つ又は2つ以上がリン酸、ポリリン酸等の化合物のエステルとなったものであり、例えば、アスコルビン酸−2−リン酸エステル、アスコルビン酸−3−リン酸エステル、アスコルビン酸−6−リン酸エステル、アスコルビン酸−2−ポリリン酸エステル等が挙げられ、その塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。特に口腔用として用いるものであり、歯肉炎予防効果の点からアスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩やナトリウム塩が好適に用いられる。
【0020】
アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の配合量は、組成物全量に対して0.1〜2%(質量%、以下同様)、特に0.2〜1%が好適である。配合量が0.1%未満の時は歯肉炎予防効果が充分発揮されない場合があり、2%を超えるものは効果が上がらないだけでなく異味が発生するなど使用感が低下する場合がある。
【0021】
(B)イソプロピルメチルフェノールは、1−ヒドロキシ−4−イソプロピル−3−メチルフェノールであり、市販品、例えば商品名ビオゾールとして大阪化成(株)から販売されているものを使用できる。
【0022】
イソプロピルメチルフェノールの配合量は、組成物全量に対して0.01〜0.5%、特に0.03〜0.2%が好適である。配合量が0.01%未満の時は十分な殺菌効果が発揮されない場合があり、0.5%を超えるものは異味が発生するなど使用感が低下したり、保存安定性の面で問題が生じる場合がある。
【0023】
本発明では、(C)アルキル基の炭素数が14〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレン(以下、POEと略す。)アルキルエーテル、及びエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのPOE硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を配合する。
【0024】
POEアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は14〜18であり、より好ましくは16〜18である。アルキル基の炭素数が14より小さい場合や18より大きい場合は十分な殺菌効果が発揮されない。このようなPOEアルキルエーテルとして具体的には、POEセチルエーテル、POEミリスチルエーテル、POEステアリルエーテル等が挙げられ、特にPOEステアリルエーテルが好適である。また、上記POEアルキルエーテルのEOの平均付加モル数は2〜20モル、好ましくは3〜10モル、より好ましくは5〜10モルの範囲であり、平均付加モル数が2モルより小さい時や、20モルより大きい時は、十分な殺菌効果が発揮されない場合がある。このようなPOEアルキルエーテルとしては、日本エマルジョン(株)のEMALEX102、103、105、107、110、112、115、117、120、602、603、605、608、611、615、620等の市販品を使用することができる。
【0025】
POE硬化ヒマシ油のEOの平均付加モル数は5〜30モルであり、好ましくは10〜30モル、より好ましくは20〜30モルである。EOの平均付加モル数が5モルよりも小さい時や、30モルよりも大きい時は、十分な殺菌効果が発揮されない場合がある。このようなPOE硬化ヒマシ油としては、日光ケミカルズ(株)のNIKKOL HCO−5、HCO−10、HCO−20、HCO−30等の市販品を使用することができる。
【0026】
(C)成分としては、上記したPOEアルキルエーテル又はPOE硬化ヒマシ油を配合してもよく、あるいはPOEアルキルエーテル及びPOE硬化ヒマシ油から選ばれる2種以上を組み合わせて配合してもよいが、EOの平均付加モル数が5〜10モルのPOEステアリルエーテルとEOの平均付加モル数が20〜30モルのPOE硬化ヒマシ油を併用することが特に好ましい。
【0027】
これらのPOEアルキルエーテル及び/又はPOE硬化ヒマシ油の総配合量は、組成物全量に対して0.3〜5%、特に0.5〜2%が好適である。配合量が0.3%未満では、長期保存後にイソプロピルメチルフェノールの安定性に問題が生じて十分な殺菌効果が発揮されない場合があり、5%を超えるものは異味が発生したり、保存安定性の面で問題が生じる場合がある。
【0028】
本発明に用いる(D)キレート剤は、組成物中の金属イオンを捕捉することで、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩が不溶性の沈殿となるのを防ぎ、組成物の効果を安定的に発揮させるものであると考える。キレート剤として、具体的にはカルボキシル基を有するものとしてクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などや、これらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩などが挙げられ、リン酸基を有するものとしてピロリン酸、トリポリリン酸などの縮合リン酸、フィチン酸などや、これらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩などが挙げられ、特にクエン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸及びこれらのナトリウム塩やカリウム塩が好適に用いられる。
【0029】
上記キレート剤の配合量は、組成物全量に対して0.05〜2%、特に0.1〜0.8%が好適である。配合量が0.05%未満では、歯磨剤表面の滑らかさを改善する効果が十分に発揮されない場合があり、また、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が保てない場合があり、2%を超えるものは異味が生じる場合がある。
【0030】
(D)成分の(A)成分に対する配合割合は、組成物の有効性、安定性及び使用性を保つために(D)/(A)の質量比が0.10〜4.0であり、特に0.2〜4.0、とりわけ0.3〜3.5が好適である。歯磨剤組成物中の(D)/(A)が0.10未満の場合は、長期保存後のアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が保てず、また、4.0を超えると、キレート剤由来の異味が生じ、本発明効果が充分発揮されない場合がある。
【0031】
(E)アルカリ剤は、一般に使用されるアルカリ剤を用いることができるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを好適に使用することができ、重曹、トリエタノールアミンなども好ましく用いることができる。
【0032】
アルカリ剤の配合量は、組成物全量に対して0.01〜1.0%が好適である。配合量が0.01%未満の時は初期pHを8.0より高くする効果がない場合があり、1.0%を超えるものは歯磨剤表面の滑らかさや使用中の味に問題が生じる場合がある。
【0033】
歯磨剤組成物のpHは、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性及び有効性を保つために、25℃における初期pHが8.0〜9.3であり、好ましくは8.0〜9.0である。歯磨剤組成物中の25℃における初期pHが8.0未満では、アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が保たれず、歯肉炎予防効果及び口臭予防効果が充分発揮されない場合がある。また、初期pH及び保存した後の25℃におけるpHが9.3を超えるものはアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩の安定性が保てず、歯肉炎予防効果及び口臭予防効果が充分発揮されなかったり、使用者が歯磨中や歯磨後に異味が生じる場合がある。
【0034】
本発明の歯磨剤組成物は、練歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等として、特に練歯磨として調製でき、本発明の効果を損なわない範囲で、上記必須成分に加えて任意成分としてその他の公知の添加剤を配合できる。即ち、歯磨剤組成物に通常配合する研磨剤、粘結剤、粘稠剤、保湿剤、界面活性剤、甘味料、防腐剤、香料、着色料、保存安定化剤、薬効成分等の適宜の成分を配合し得る。
【0035】
研磨剤としては、通常使用されている研磨剤を本発明の効果を損なわない範囲で配合でき、例えば一般的に使用されている無水ケイ酸を配合し得るほか、具体的に歯磨用リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、合成樹脂系研磨剤等が挙げられ、特に無水ケイ酸が好適である。研磨剤の配合量は、通常、組成物全量に対して2〜40%、特に10〜25%が好適である。
【0036】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム等のガム類、ポリビニルアルコール、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム、非架橋型ポリアクリル酸ナトリウム等のカルボキシビニルポリマー、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどの有機系粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイトなどの無機系粘結剤が挙げられる。粘結剤の配合量は、通常、組成物の0.2〜10%である。
【0037】
粘稠剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビット、キシリット、マルチット、ラクチット、平均分子量200〜6,000のポリエチレングリコール、エチレングリコール、還元でんぷん糖化合物等の多価アルコールが挙げられる。これらの配合量は、通常、組成物全体の5〜50%、特に20〜45%である。
【0038】
界面活性剤としては、上記(C)成分に加えて、その他の非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合し得る。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルサルコシン酸ナトリウム等のN−アシルサルコシン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルフォン酸ナトリウムなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテル型の界面活性剤、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチンなどが挙げられる。これら界面活性剤の配合量は、通常組成物の0.2〜15%、好ましくは0.5〜10%であり、(C)成分との合計配合量が0.3〜15%となる範囲が好ましい。
【0039】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p−メトキシシンナミックアルデヒド、アスパルテーム、キシリトールなどが挙げられる。
【0040】
防腐剤としては、ブチルパラベン、プロピルパラベン、エチルパラベン等のパラベン類、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、ソルビン酸カリウム等が挙げられる。
【0041】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及びこれら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができる。また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1%使用することが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.1〜2.0%使用することが好ましい。
【0042】
着色料としては、青色1号、青色4号、緑色3号等が例示される。なお、これら成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0043】
保存安定化剤としては、ビタミンC、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアリール等が挙げられる。
【0044】
各種有効成分としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化第1錫、フッ化ストロンチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、正リン酸のカリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性リン酸化合物、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ヒノキチオール、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、コエンザイムQ10、ジヒドロコレステロール、α−ビサボロール、クロルヘキシジン塩類、トリクロサン、ヒノキチオール、サンギナリン抽出物、アズレン、グリチルレチン、グリチルレチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、クロロフィル、グリセロホスフェートなどのキレート性リン酸化合物、グルコン酸銅等の銅化合物、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、ベルベリン、ヒドロキサム酸及びその誘導体、ゼオライト、メトキシエチレン、無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エピジヒドロコレステリン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ナトリウム、ジヒドロコレステロール、トリクロロカルバニリド、クエン酸亜鉛、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、プロテアーゼ等の酵素、トウキ軟エキス、オウバクエキス、カミツレ、チョウジ、ローズマリー、オウゴン、ベニバナ等の植物の抽出物などを、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。
【0045】
本発明の歯磨剤組成物を収容する容器の材質は特に制限されず、通常、口腔用組成物に使用される容器を使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のプラスチック容器等が使用できる。
【実施例】
【0046】
以下、実験例、実施例及び比較例、処方例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において%は特に記載のない限りいずれも質量%である。
【0047】
なお、表1〜4に示す組成の歯磨剤組成物は、下記製造法により調製した。
歯磨剤組成物の製造法:
(1)精製水中に水溶性成分(粘結剤、プロピレングリコールを除く)を常温で混合溶解させたA相を調製した。
(2)プロピレングリコール中に粘結剤を常温で分散させたB相を調製した。
(3)撹拌中のA相の中にB相を添加混合してC相を調製した。
(4)C相中に香料、研磨剤等の水溶性成分以外の成分を6Lニーダー(石山工作所製)を用い常温で混合し、減圧(4kPa)による脱泡を行い、歯磨剤組成物5kgを得た。
なお、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムは20%水溶液を調製し、歯磨剤組成物の25℃における初期pHが8.0〜9.3となるように加えた。表中の水酸化ナトリウム量は純分換算で示している。
【0048】
上記のように製造した歯磨剤組成物を、最内層が直鎖状低密度ポリエチレンからなる直径26mm、口径8mmのラミネートチューブ(LDPE55/PET12/LDPE20/白LDPE60/EMAA20/AL10/EMAA30/LDPE20/LLDPE30,厚み257μm(大日本印刷(株)製))に60g充填し、初期の25℃における3分後のpHを20mL容量のプラスチック容器に分注して測定した(測定機:メトラー・トレド(株)MP220、電極:メトラー・トレド(株)InLab 410)。
【0049】
使用したラミネートチューブの層構成における略号と名称は以下の通りであり、略号に続く数字は各層の厚み(μm)を示したものである。
LDPE:低密度ポリエチレン
白LDPE:白色低密度ポリエチレン
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン
AL:アルミニウム
PET:ポリエチレンテレフタレート
EMAA:エチレン・メタクリル酸の共重合体樹脂
【0050】
[実験例1] 40℃にて6ヶ月間保存した後の殺菌力評価
表1〜4に示した歯磨剤組成物(練歯磨)を調製した後、40℃の恒温槽中で6ヶ月間保存した。保存後、これを常温になるまで放置した後、各歯磨剤組成物10gを測り取り、人口唾液(30mL)を加え撹拌した後、遠心(10,000rpm、20min)し、得られた上清を試料原液とした。前もって培養した口腔細菌分散液(Fusobacterium nucleatumを人口唾液に分散し、波長660nmでの濁度(OD660)=1に調整したもの)2mLに対し、前記試料原液2mLを30秒間作用させた後、50μLを分取し、殺菌力評価サンプルとし、下記方法で殺菌力を評価した。
【0051】
殺菌力評価;
各殺菌力評価サンプル液(50μL)をTHB液体培地(4mL)に添加し、培養(37℃で8時間)した後、増殖した菌量を濁度(OD660)を指標に測定し、数値が小さいものがより高い殺菌力が得られたものとして評価した。
なお、人口唾液としては、3.73gの塩化カリウム、0.14gのリン酸2水素1カリウム、0.15gの塩化カルシウム・2水和物、0.02gの塩化マグネシウム・6水和物を精製水に溶解し、水酸化カリウムでpHを7に調整し、1,000mLとしたものを使用した。
評点;
◎:濁度(OD660) 1.0未満
○:濁度(OD660) 1.0以上〜2.0未満
×:濁度(OD660) 2.0以上
【0052】
[実験例2] 40℃にて6ヶ月間保存した後のアスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム(以下、APMと略す。)又はアスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム(以下、APSと略す。)、あるいはアスコルビン酸ナトリウムの保存安定性
表1〜4に示した歯磨剤組成物を調製後、−5℃及び40℃の恒温槽中で6ヶ月間保存した。−5℃の保存品は分解のない対照品とした。これを常温になるまで放置した後、APM又はAPS、あるいはアスコルビン酸ナトリウムの保存安定性の評価に用い、下記方法で評価した。試薬は全て関東化学社製を用いた。
【0053】
APM又はAPSの定量;
各歯磨剤組成物0.1gを測り取り、10mmol/Lのリン酸緩衝液(1.5mmol/Lリン酸二水素カリウム、23.5mmol/Lリン酸水素二カリウム、pH8.0)を加え、振とう機で20分間激しく撹拌した後、10mLにメスアップした。この液1mLを取り、前処理用フィルターで濾過した後、高速液体クロマトグラフィー(ポンプ:日本分光 PU1580、オートサンプラー:島津 SIL−10A、UV検出器:島津 SPD−6A、記録装置:島津 C−R4A)を用い、絶対検量線法にて定量を行った。移動相は25mmol/Lリン酸二水素カリウム+5mmol/Lテトラブチルアンモニウム/アセトニトリル=91/9混液(容量比)、カラムは直径約4.6mm、長さ約150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの(例:TSK−gel ODS−80Ts(東ソー(株)製))、カラム温度約40℃、検出波長240nm、流速は0.8mL/分としてAPM又はAPSの保持時間を約7分とした。40℃保存品中のAPM又はAPSを算出し、−5℃保存品中のAPMの含有量を100%とした場合の残存率を求めた。
【0054】
アスコルビン酸ナトリウムの定量;
表4に示した歯磨剤組成物10gを測り取り、10mmol/Lのリン酸緩衝液(pH7.2)を加え、20分間激しく撹拌した後、50mLにメスアップした。この液10mLを用い、化粧品原料基準のアスコルビン酸ナトリウム定量法に従って歯磨剤組成物中のアスコルビン酸ナトリウム含有量を測定し、−5℃保存品中のアスコルビン酸ナトリウムの含有量を100%とした場合の残存率を求めた。
(評点)
○:40℃にて6ヶ月保存した後のAPM又はAPS、あるいはアスコルビン酸ナトリ
ウムの残存率が90%以上
×:40℃にて6ヶ月保存した後のAPM又はAPS、あるいはアスコルビン酸ナトリ
ウムの残存率が90%未満
【0055】
[実験例3] 40℃にて6ヶ月間保存した後の歯肉炎予防効果
表1〜4に示した歯磨剤組成物を調製した後、40℃にて6ヶ月間保存した後の歯磨剤組成物を用いた10日間の使用テストを実施し、歯肉炎の予防効果を観察した。
即ち、健常人50人を10人ずつの5つのグループに分け、各々のグループが下記の〈1〉〜〈5〉のサンプル群のうち1つのサンプル群の歯磨剤組成物を1回当たり約1g、1週間使用し、その後3日間口腔清掃を中止した時の、前歯部上下顎の歯肉辺縁部の状態を観察し、下記のように評価した。なお、各歯磨剤組成物使用の間隔は歯肉炎が消失するよう1週間あけ、その間は歯肉炎予防効果のある成分を含まない比較例20の歯磨剤組成物を使用した。その後、残りのサンプルについても同様に試験した。なお、各群における歯磨剤組成物使用順序はランダムになるように調整した。
〈1〉実施例:1,2,3,4,5,6,7,8,9,10
比較例:1,2,3,4
〈2〉実施例:11,12,13,14,15,16,17,18,19,20
比較例:5,6,7,8
〈3〉実施例:21,22,23,24,25,26,27,28,29,30
比較例:9,10,11,12
〈4〉実施例:31,32,33,34,35,36,37,38,39,40
比較例:13,14,15,16
〈5〉実施例:41,42,43,44,45,46,47,48,49,50
比較例:17,18,19
【0056】
歯肉炎予防効果の評価基準;
歯肉炎が認められた :歯肉辺縁部が赤くなる、腫れるなどの炎症症状が認められた
歯肉炎が認められない:歯肉辺縁部に炎症症状が認められない
評点;
◎:歯肉炎が認められた被検者数が0〜1人
○:歯肉炎が認められた被検者数が2〜3人
△:歯肉炎が認められた被検者数が4〜5人
×:歯肉炎が認められた被検者数が6〜10人
【0057】
[実験例4] 40℃にて6ヶ月間保存した後の口臭予防効果
表1〜4に示した歯磨剤組成物を調製した後、40℃にて6ヶ月間保存した後の歯磨剤組成物を用いた口臭評価テストを実施した。
口臭の評価には、臭気識別判定の専門家(臭気判定士)1名によるUBC式官能評価法を採用した。歯磨きをしないで水洗口だけを行った1時間後の呼気が、下記の評価基準で2点以下の評点を受けた25名を被験者として、口臭の強さの平均値が等しくなるように、被験者を5人ずつの5つのグループに分けた。各々のグループが上記[実験例3]の〈1〉〜〈5〉のサンプル群のうち1つのサンプル群の歯磨剤組成物を1回当たり約1g使用して歯磨きをした後、口腔清掃や飲食を2時間停止したときの各被験者の口臭を判定した。その後、残りのサンプルについても同様に試験した。なお、各群における歯磨剤組成物使用順序はランダムになるように調整した。
呼気採取方法は、まず口呼吸を3回行った後に、1分間口を閉じて口腔内に留まった息のみを所定のビニールパイプを通して臭気判定士に吹きかけ、その臭いの強さに応じて下記のように評価した。
【0058】
口臭の評価基準;
4点:臭いを全く感じない
3点:臭いをあまり感じない
2点:臭いをやや感じる
1点:臭いをかなり感じる
評点;
◎:口臭の平均点 3.5点以上
○:口臭の平均点 3.0点以上〜3.5点未満
△:口臭の平均点 2.0点以上〜3.0点未満
×:口臭の平均点 2.0点未満
【0059】
[実験例5] 40℃にて6ヶ月間保存した後の歯磨剤組成物表面の滑らかさ評価
表1〜4に示した歯磨剤組成物について、紙の上に15cm押し出し、目視にて歯磨剤組成物の練り表面にしわ及び粒が認められるかを評価した。
評点;
◎:歯磨剤組成物の表面にしわ・粒が全く認められない
○:歯磨剤組成物の表面にしわ・粒がほとんど認められない
×:歯磨剤組成物の表面にしわ・粒が認められる
【0060】
[実験例6] 歯磨剤の異味のなさの評価
表1〜4に示した歯磨剤組成物について、25名の被験者を5人ずつの5つのグループに分け、各々のグループが上記[実験例3]の〈1〉〜〈5〉のサンプル群のうち1つのサンプル群の歯磨剤組成物を1回当たり約1g使用して歯磨きをした。歯磨き終了後、各被験者に歯磨中及び歯磨後の異味の程度について以下の基準で官能評価してもらった。その後、残りのサンプルについても同様に試験した。なお、各群における歯磨剤組成物の使用順序はランダムになるように調整した。
【0061】
異味のなさの評価基準;
4点:異味を全く感じない
3点:異味をあまり感じない
2点:異味をやや感じる
1点:異味をかなり感じる
評点;
◎:異味のなさの平均点 3.5点以上
○:異味のなさの平均点 3.0点以上〜3.5点未満
△:異味のなさの平均点 2.0点以上〜3.0点未満
×:異味のなさの平均点 2.0点未満
以下に結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4−1】

*:アスコルビン酸ナトリウム(比較品)の保存安定性
【0066】
【表4−2】

**:歯肉炎予防効果にかかわる成分を含まない歯磨剤組成物
【0067】
なお、上記各例で使用した成分は下記のとおりである。
1)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム:昭和電工社製(アスコルビン
酸PM)
2)アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム:DMSニュートリションジャパ
ン社製(ステイC50)
3)イソプロピルメチルフェノール:大阪化成(株)製(ビオゾール)
4)ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル:日本エマルジョン社製(EMAL
EX605)
5)ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル:日本エマルジョン社製(EMALE
X110)
6)ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油:日本ケミカルズ社製(NIKKOL
HCO−20)
7)ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油:日本ケミカルズ社製(NIKKOL
HCO−30)
8)クエン酸:扶桑化学工業社製
9)酒石酸:扶桑化学工業社製
10)コハク酸:扶桑化学工業社製
11)リンゴ酸:扶桑化学工業社製
12)グルコン酸ナトリウム:扶桑化学工業社製
13)ピロリン酸ナトリウム:太平化学産業社製
14)トリポリリン酸ナトリウム:太平化学産業社製
15)水酸化ナトリウム:小堺製薬社製
【0068】
表1〜3の結果から明らかなように、本発明にかかわる(A)〜(E)成分を配合し、(D)/(A)が0.10〜4.0であり、初期pHが8.0〜9.3である歯磨剤組成物(実施例1〜51)は、優れた殺菌効果及び歯肉炎予防効果を有しており、アスコルビン酸リン酸エステル塩とイソプロピルメチルフェノールを併用することで相乗的な口臭予防効果を有していた。また、本発明の歯磨剤組成物は、使用中及び使用後の異味がなく、表面の滑らかさにも優れ、使用感及び外観に優れていた。
一方、表4の結果からわかるように、本発明の必須要件のいずれかに欠ける歯磨剤組成物(比較例1〜19)では、殺菌効果、歯肉炎予防効果、口臭予防効果、更に歯磨剤使用中及び使用後の異味のなさ、歯磨剤組成物の表面の滑らかさの全てを満足するものは見られなかった。この場合、アスコルビン酸リン酸エステル塩の代わりにアスコルビン酸ナトリウムを配合してもアスコルビン酸ナトリウムは安定配合されず歯肉炎及び口臭予防効果に劣り(比較例1,2)、イソプロピルメチルフェノールの代わりに塩化セチルピリジニウムを配合しても殺菌力及び口臭予防効果に劣り(比較例4,5)、界面活性剤が不適切な場合も殺菌力及び口臭予防効果に劣っていた(比較例9〜12)。また、D/A比が不適切な場合はアスコルビン酸リン酸エステル塩の保存安定性を改善できず、満足な歯肉炎及び口臭予防効果が得られず、初期pHが不適切でも満足な歯肉炎及び口臭予防効果が得られず、いずれの場合も本発明の目的は達成できなかった。
【0069】
次に、以下の処方例1〜10の歯磨剤組成物を実施例と同様の方法で作製し、収容容器に充填し、同様に評価した。なお、下記例はいずれも初期pHは8.0〜9.3の範囲内であった。下記処方例の歯磨剤組成物は、長期保存後の殺菌力、アスコルビン酸リン酸エステル塩の保存安定性、歯肉炎予防効果及び口臭予防効果、更には使用中の及び使用後の口腔内刺激のなさ、歯磨剤表面の滑らかさのいずれにも優れたものであった。
【0070】
[処方例1] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.4%
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル 1.0%
クエン酸ナトリウム 0.1%
70%ソルビット液 45%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.4%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 18%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0071】
[処方例2] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.3%
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル 1.0%
クエン酸カリウム 0.2%
70%ソルビット液 45%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.4%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 20%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0072】
[処方例3] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.2%
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
ポリオキシエチレン(15)ミリスチルエーテル 1.0%
コハク酸ナトリウム 0.15%
70%ソルビット液 45%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0%
カラギーナン 0.4%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 18%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0073】
[処方例4] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5%
イソプロピルメチルフェノール 0.05%
トリクロサン 0.05%
ポリオキシエチレン(6)ステアリルエーテル 0.5%
ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油 1.0%
酒石酸ナトリウム 0.4%
ポリリン酸ナトリウム 0.05%
70%ソルビット液 45%
プロピレングリコール 3%
キサンタンガム 0.9%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.5%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 20%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0074】
[処方例5] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5%
イソプロピルメチルフェノール 0.05%
塩化セチルピリジニウム 0.05%
ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油 1.0%
酒石酸カリウム 0.25%
ポリリン酸カリウム 0.05%
70%ソルビット液 40%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.2%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.2%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 21%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0075】
[処方例6] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.4%
イソプロピルメチルフェノール 0.05%
トリクロサン 0.05%
塩化セチルピリジニウム 0.05%
ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル 0.6%
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 0.8%
リンゴ酸 0.1%
70%ソルビット液 43%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.9%
カラギーナン 0.5%
サッカリンナトリウム 0.17%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 22%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0076】
[処方例7] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム 0.4%
イソプロピルメチルフェノール 0.05%
ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル 0.5%
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 0.5%
グルコン酸ナトリウム 0.3%
ピロリン酸ナトリウム 0.1%
70%ソルビット液 50%
プロピレングリコール 3%
キサンタンガム 0.8%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.4%
カラギーナン 0.2%
サッカリンナトリウム 0.19%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 20%
香料 1.3%
精製水 バランス
計 100%
【0077】
[処方例8] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム 0.5%
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
ポリオキシエチレン(15)ミリスチルエーテル 0.6%
ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油 0.6%
クエン酸ナトリウム 0.05%
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム 0.1%
70%ソルビット液 40%
プロピレングリコール 4%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.2%
カラギーナン 0.2%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.1%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 20%
香料 1.2%
精製水 バランス
計 100%
【0078】
[処方例9] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム 0.3%
イソプロピルメチルフェノール 0.075%
トリクロサン 0.05%
ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル 0.6%
ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油 0.6%
ポリリン酸ナトリウム 0.1%
70%ソルビット液 42%
プロピレングリコール 3%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.8%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.2%
カラギーナン 0.4%
サッカリンナトリウム 0.18%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 18%
香料 1.2%
精製水 バランス
計 100%
【0079】
[処方例10] 練歯磨
アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.2%
アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム 0.2%
イソプロピルメチルフェノール 0.08%
ポリオキシエチレン(6)ステアリルエーテル 0.7%
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 0.7%
クエン酸 0.1%
ポリリン酸ナトリウム 0.05%
70%ソルビット液 42%
プロピレングリコール 4%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.4%
サッカリンナトリウム 0.17%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.73%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2%
水酸化ナトリウム 0.4%
無水ケイ酸 18%
香料 1.2%
精製水 バランス
計 100%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アスコルビン酸リン酸エステル又はその塩、(B)イソプロピルメチルフェノール、(C)アルキル基の炭素数が14〜18でエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜20モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜30モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、(D)キレート剤、(E)アルカリ剤を含有し、(D)/(A)の質量比が0.10〜4.0で、25℃における初期pHが8.0〜9.3であることを特徴とする歯磨剤組成物。
【請求項2】
キレート剤が、クエン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれることを特徴とする請求項1記載の歯磨剤組成物。
【請求項3】
(A)成分を0.2〜1質量%、(B)成分を0.03〜0.2質量%、(C)成分を0.5〜2質量%含有し、(D)/(A)の質量比が0.3〜3.5であることを特徴とする請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。

【公開番号】特開2011−6351(P2011−6351A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150949(P2009−150949)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】